千雨は凡人(ただ)の女子中学生です   作:おーり

13 / 20
遂に『彼』が登場
お久しぶりです


薬味坊主、運命と邂逅する

 

 

 「………………」

 「………………」

 

 

 …………。

 互いにこうしてテーブルに付き、無言で俯く薬味教師を眺める作業が延々と終わらない。

 反省しているのか、はたまたいじけて居るだけなのか。

 周囲はこんなに活気と歓声に溢れているというのに、このテーブルには閑静しか佇んでいなかった。

 

 それもまたこの坊主からしたら、居心地のいい静けさとはまた違うカテゴリなんだろうなぁ、とも予測できるが。

 

 こんなになっているのは、当然のことながら目の前の薬味坊主の勝手な行動と判断に起因する。

 そもそもアタシらは魔法界に一ヶ月も拘束される謂れも無い。

 強行軍に見えても、6号、要するに完全なる世界(コズモエンテレケイア)に話をつけて貰えればすぐにでも帰れたはずだ。

 6号に話をつけて貰う時点でかなり反則臭いのは言うまでも無いけど、かと言っても時間をかけて金を稼ぎ、拳闘の選手として登録し、予選を通過するために試合を熟して、ようやく本戦会場のオスティアへと辿り着いた、……遠回り過ぎるだろう。

 原作みたいに『奴隷解放』っつう目的が無い以上、拳闘の大会で優勝する、っていう目的を達成するのは要するに『引率教師の個人的理由』……学校行事だとしたら完全にアウトな原因だ。

 しかも、その結果として提示された『ナギの情報』をラカンから得られるのはネギ先生だけ。

 そんでもって、その結末がネギVSラカンで降参による試合放棄。しかも素手のが強いおっさんに剣で負けるってことは、完全に手加減されてた、ってことにもなる。

 ……おい、舐めてんの?

 

 

 「……ハァ」

 「……ッ!」

 

 

 思わず溜め息が出ると、怯えたような貌でビクッと身を竦ませるネギ坊主。

 ……そもそも、コイツはなんでアタシが同行しているのか理解しているのかね。

 

 忘れているかもしれないが、少年Ver.のネギ坊主は思いっきり指名手配犯だ。

 ゲート破壊は冤罪だとしても、密入国って言うバカをやらかした本物のバカ……もとい逃亡犯だ。

 ハルハラヤクミの格好は既に知れ渡っているし、大人Ver.も同じ理由でアウトだし、かといって認識阻害ローブと言う原作みたいな恰好の子供が独りで出歩いてるのも逆の意味で目立つ。

 この世界で漫画みたいなご都合主義は通用せず、捜索する側の警備兵だって無能じゃねぇ。そういう『人ごみの中の空白』みたいな奴に目星を付ける意識程度は備わっていると見て間違いない筈だ。

 そこで用意したのが、アタシの手にあるスマホガールの変身魔法。

 最初は魔女っ子系コスプレ、等と口ずさまれたせいでネギ坊主が過剰に拒否反応を示したが、アタシとしても自分のパソコンの中身を曝け出されているみたいだったし普通に却下。

 メイドやナースにコスプレさせるだけじゃなくて、髪の色を変えたり体型や顔つきを変える程度の、所謂『現実的な変身魔法』がリストにあってマジで助かったぜ……。

 

 赤毛から銀髪に変更され、なんだか二次創作のオリ主みたいになったなぁ、と胡乱な感想を抱かせる外見と言うには、顔の下がガチムチのマッチョとなった爆肉鋼体系薬味坊主。

 さて、北斗の拳みたいな画風になったコイツとなんでこうして街中に居るのかと言うと、単に現在逃亡中だったりする。

 ……そりゃあ、トサカさんらの前に姿見せるわけにもいかねぇからな。ギルドの代表として目を掛けて貰ったにも拘らず、正体を隠して最終的に無様な負けを晒したわけなんだし。

 お蔭で芋づる式にアタシらも逃亡犯だ。

 桜咲は神楽坂の護衛で、朝倉には龍宮、そしてアタシに付いた護衛が薬味坊主、というペア。

 ……あのな? 戦える奴が魔法生徒や魔法先生、っていう考え方は判るけど、此処は神楽坂が適任の筈じゃねえの? せめて組み合わせを先取りするんじゃなくて、籤とかで決定に扱ぎ付けないか?

 アレか? 魔法界参入してから散々好き勝手やっているから愛想が尽いたとか、そんな理由か?

 アタシだってそんなんとっくに尽いてるわ。

 

 ……でもなぁ、多分、まだイベント残ってるよなぁ……。

 原作知識参照すると、神楽坂が真っ先に狙われても可笑しくないんだし、護衛を付けるのは間違っちゃいない。

 原作じゃ龍宮っつう護衛が就いた時には、既に入れ替わっていたからな。

 此処までで入れ替わりが成されていたら目も当てられないけど、……6号が普通に同行している以上は、まだ、平気か……?

 それを除いたとしても、クルト総督に見つかる可能性だってまだ捨てきれてない。

 とにかく、まだ気を抜けない以上は6号が向こうに話をつけてくれるまではこうやって隠密行動をする必要性がある。

 確か、墓守り人の宮殿にあるゲートが麻帆良の世界樹の真下にあるゲートと繋がっている、だったっけ?

 実は、一番目立つから、って言う理由で街中で囮役を務めるのがネギ坊主の今回の役割だが、隠ぺいを見破られる前に綾瀬とか高音さんとかに話を付けに行った奴らには、早くに戻ってきてもらいたい。

 ……いい加減にこの羅王葱にひそひそと視線が集まってくるのも、少しだけ耐え難いものがあるからな……。

 

 

 「――失礼、相席良いかな」

 

 

 何度目かの溜め息が出そうになったところで、そう口にしながらネギ坊主の向かい側、つまりアタシの隣へ腰かけてくる何者かの声が届く。

 問題ないことを返そうとそちらに顔を向けたところで、アタシの意識は見事に固まった。

 

 

 「……ッ、その、声は……!」

 

 

 今は面を向けれないので確認できないが、恐らくは驚愕の表情で、アタシと同じように絶句するネギ坊主。

 そんなアタシらに構わず、声の主は悠々と言葉を紡ぐ。

 

 

 「試合、見させてもらったけれど、随分とお粗末な結果に収まったモノだね。ラカン(アレ)を下せないようでは、キミはどうやらまだまだサウザンドマスターには届かないようだ」

 

 

 何処かに呆れを含ませるその物言いだが、明らかなる挑発。

 そして沸点も低いのか、恐らくはこれまでにもやられっぱなしだと思われるネギ坊主が、勢いよく椅子から立ち上がり、アタシとの間に割って入っていた。

 

 

 「そ、そんなことより! その声! 独特の口調! もしや貴方は、」

 

 

 ……ん? なんかネギの興奮のベクトルが絶妙に違くね?

 そう感じて、こちらも意識を面を、ネギ坊主へと向けると其処には、

 

 

 「石●彰さん……ッ!?」

 「誰だい」

 

 

 ――やたらキラキラとした表情で、相席の白髪少年を見つめるマッチョが居た。

 ……あれぇ? 反応可笑しくね?

 

 

 「うわぁ……! その癖になる様な変態ヴォイス……! 本物だぁ……! さ、サインくださいッ!」

 「――え、えぇー……」

 「あ、ネギ・スプリングフィールド君へ、ってお願いできますかっ?」

 「あ、うん」

 

 

 ……アタシが呆れた顔で遣り取りを見てる間にも、着々とそんな会話は進んでゆく。

 っていうか、公共の場で名乗るなよ馬鹿か。……バカなのか(納得)。

 

 ……そういえば今更だけど、うちらの副担任って微妙にサブカルチャーに染まってるよなぁ。

 文化祭の時だって、メイド喫茶を最終的に推し進めたのはコイツだし。

 授業の後とか、会話の中に微細だけどネタとかが混じってるときあるし。

 ……烏丸と同室だっていう話だし、仕込んだのは奴なのか? って勘繰るアタシは間違ってないだろ……。

 

 結局、少年2人の会話は白髪少年が色紙にサインを書くことで集束してゆく。

 キラキラとした顔で受け取ったそれを、アタシは後ろ側から覗きこむ。

 そこには――フェイト・アーウェルンクスより。ネギ・スプリングフィールドくん江――と、キレイな書体で書かれた彼の名が、

 

 

 「――誰ですかッ!?」

 「それはこっちが聞きたいよ」

 

 

 ……書いてあったのだが、ネギ坊主にとっては見事に別人認定であるらしい。

 完全に人違いされたアーウェルンクス少年が、やや疲れたような顔で嘆息したのは錯覚じゃないと思われる。

 

 

 

     ×     ×     ×     ×     ×

 

 

 

 ……見事に出鼻を挫かれた感があるが、こちらの優位が覆されたわけじゃない。

 一先ず、カードは小刻みに出しても問題は無いだろう。

 

 

 「……とりあえず、初めまして、だねネギ・スプリングフィールド。キミのことは、噂だけなら聞いてるよ。なんでも、拳闘ではコスプレが趣味だとか」

 「アハハー、所詮ウワサデスヨ、ウワサー。ボクハこすぷれナンテ全然興味ナイデスカラー」

 

 

 虚ろな目で壊れた人形のように返す彼を見乍ら、そんなことを思う。

 セクストゥムが未だ同行しているのだし、協力者の同郷である彼らにもある程度の事情は伝わっている、と普通ならば思うべきだ。

 だが、相手はあのサウザンドマスターの息子。

 こちらのやろうとしている『魔法世界の完全封印』を阻止しようと働くのは間違いない。

 

 ……はずなのだが。

 魔法界で観察させてもらった彼の人物評価は、京都でこちらの目的である『鬼神の確保』を阻止した人物とは到底思えない、実に粗末な出来上がりであった。

 

 ゲート破壊の犯人として指名手配を采配したのは間違いなく目の前のボクとその一派だと理解できるだろうに、彼はもちろんその従者らも此処に至るこの一ヶ月の間一切その件については触れようとしていなかった。

 憶測を立てることもしないでいたのは、多分色々と状況に流されるままになっていることに慣れきっていた麻帆良での生活の弊害もあるのだろうが、そもそも情報が無い状態で放り込まれた状況であったことにも端を発するのだろう。

 しかし、こうして目前にして顔を突き合わせてみても『彼は本当に何も知らない』ということしか伝わって来ない。

 情報を得る機会は幾らでもあったはずだ。

 セクスティウム然り、ジャック・ラカン然り。

 それなのに、まるで相手にされていないのは、まだ認められていないからなのか……?

 

 協力者のカラスマにも、彼については幾つか尋ねてみた。

 だが、返ってきた答えは会って話してみれば? という当てにならない返事しかない。

 カラスマ自身は実に有能だし、こちらにとっても有益なアーティファクトを幾つか用意して貰えたので文句は無いが、協力者だからと言って完全に情報を預けるほどの信用は得ていないのだろう。そう思って納得していた。

 ……此れは完全にボクの思い違いだったようだ。

 試しとはいえ、指名手配はやり過ぎだったかもしれない。

 

 

 「さて、キミの正体を僕が知っていることは既に納得の上で、キミたちを麻帆良へと送り届ける手筈を整える役割でもある、ということを理解してもらいたい。此処まではいいかな?」

 

 「……まあ、名乗ったしな」

 

 

 と、彼の従者の少女・ハセガワチサメが、今は二十歳そこそこに見える女性だが、彼女が疲れたように溜め息を吐く。

 驚かないのは別に構わないが、やはり彼にはボクらの正体を明かしていないのか?

 彼はというと、帰宅の手筈を誰かが用意する、と言う点は既に納得していたのか頷くだけだ。

 ……どうでもいいが、その幻影はいい加減に解いてもらいたい。違和感しかない。

 

 

 「その上で、ネギ・スプリングフィールド。キミにはしっかりとした契約を結んでもらう。なに、金銭の遣り取りをしようと言うわけじゃない。この紙にサインをする、それだけで構わない」

 

 

 そうして彼の前へと契約書を差し出すと、同じように彼の従者が書面を覗きこむ。

 其処には以下の事が書かれているはずだ。

 

 

 一つ、ボクらと敵対しない。または、不利益となる行動を取ろうとしない。

 一つ、ボクらの情報を他者に漏らさない。しかしこちらの同意があれば可能とする。

 一つ、この契約は契約者同士が離別したとしても有効とする。

 

 

 精々この三つだが、これだけでも充分な内容だ。

 彼の中身はともかく、実力よりも身に附けたその術式は何より厄介だ。

 下手に敵対若しくは邪魔されるよりは、事前に最低限の約定を取り付けておいた方が安心できる。

 

 言葉だけで相手を縛る『鵬法璽(エンノモス・アエトスフラーギス)』というアーティファクトもあるにはあるが、そういう“騙し討ち”をやってしまっては誠意に欠けるだろう。

 用意はしておくが、書類として証拠を残しておくことで相手側の不備を事前に封じろ、というのがカラスマの託だ。

 案外彼は、ボクらみたいな『悪の秘密結社』よりも、ずっと腹黒いのかもしれない。

 

 

 「……少し、締め付けすぎじゃねーか?」

 「そうかい? 同行の間、魔法や抵抗を封印してもらう、というわけじゃないのだから充分良心的だと自負するけど」

 「ぐ……、そう云われると……」

 

 

 ハセガワチサメはこちらの意図も読み取れるらしい。

 能転気揃いの麻帆良の女子中学生とはとても思えない警戒心だ。

 これで魔法生徒ならば納得なのだが、カラスマ曰く彼女は一般人らしい。

 この辺りは彼女自身の資質によるところかもしれないな。

 

 

 「わかりました、僕のサインで済むのなら……。此処に書けば良いんですよね?」

 「ああ、それで頼む」

 「……ハイ、じゃあ、これで僕らを麻帆良まで――「お待ちいただけますかな? 其処な少年たち」……えっ?」

 

 

 と、彼が言葉を紡いだところで、背後の方から口を挟まれる。

 彼の書付の合間に先に注文していた珈琲を飲もうと手にしていたので、思わず邪魔をされたことに嫌気を感じつつ背後を振り返る。

 果たして其処へ我が目に付いたのは――メガロメセンブリアの正規兵団を大勢従えた、オスティア新総督のクルト・ゲーデルの姿であった。

 

 

 「ふむ、少々出遅れた感は有りますが、まあ範囲の内と割り切りましょう。

  ――『完全なる世界(コズモエンテレケイア)』残党のフェイト・アーウェルンクスとお見受けします。お話をお聞きしたいので、ご同道願えますかな?」

 

 

 ……やれやれ、珈琲を飲む暇(ブレイクタイム)も無いとは、実に急かしてくれる。

 それとも、これもキミの策だとでも言うつもりかな、ネギ・スプリングフィールド?

 

 

 





~鵬法璽
 皆様ご存知、鷲のマークのアーティファクト
 原作読むとこの手のアイテムが意外と普通に市場を出回っているようにも見受けられるのだが、相手に強制力を働かせても魔力さえあれば振り切れるっぽい誓約力だと思えてくるのは最終巻で葱型アーティファクトから抵抗した薬味の所為
 奴隷の首輪だって、雷速瞬動あればラッキーマンみたいな回避方法で無理矢理外せた感が否めないのはどういうことなのか
 約定破ったとしてもペナルティがあるようにも見えないから、多分指切り程度の強制力しか働かないんだろうなぁ、と憶測
 ちなみに、江戸時代の指切りは本当に指を切ったらしいよ?


無論、ネギには何の意図もございません
フェイトの勘違い、未だ解消されず

ちなみに、予約ですが連続投稿です

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。