ペルソナ4 Another Story,Another Hero   作:芳野木

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アイヤー。
テスト終わったネ。
色んな意味で終わったネ。
物理嫌いアルよ。


-009- 声をかけたら責任を

 

 

 

――わたしは誰?

 

 

 

 声が聞こえる。

 

 

 

――ここはどこ?

 

 

 

 耳を澄まさなければ聞こえない微かな声。

 

 

 

――どこにも行けない。行くところなんてない。

 

 

 

 迷子の子供のようだと俺は思った。心細い、寂しい、そんな感情が言葉になっている。

 

 

 

――いったい、わたしはなに?

 

 

 

「俺は……何だ?」

 

 

 

 声が被る。

 俺の声は自然と出た。

 

 

 

――何も覚えてない。

 

 

「大切なことを忘れてる気がする……」

 

 

 

 大切なことだったはずだ。なのに、俺は忘れてしまっている。

 

 

 

――…………

 

 

 

 声の主は黙った。蹲った人影が見えた気がする。

 この話したことさえ忘れてしまうのだろうか。

 それはイヤだと思った。なぜかこのまま忘れてしまうのが怖い。

 

 

 

「……なぁ」

 

 

 

 人影に手を伸ばす。

 

 

 

「行くとこないならさ」

 

 

 

 影に手首が沈む。

 

 

 

「こっちに来いよ」

 

 

 

 指先が何かに触れた。

 

 

 

 

 

 

 ◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 最初は酔っ払いかと思っていた。

 

 

 ほら、よく駅のベンチで寝そべってるサラリーマンみたいな感じの。

 こっちでも見れる光景なのかと驚きながら、俺は壁に背を預けて座り込んでる人に近づいた。肩ぐらいまで届くかどうかの黒髪。華奢な体。黒いスーツを着た女性だ。

 

 

 ここの商店街がいくら廃れていても、人がいないわけではない。何人かはこの人に気付いたはずだ。

 

 たぶん、スルーしたんだろうな。どちらかと言えば酔っ払いにいい思い出がない俺も、通り過ぎようかと思ったんだけど。

 

 一度見てしまったなら、どうも放っておけない。

 

 それに、その壁にはベルベットルームへの扉がある。この商店街に来た理由がイゴールさんに話を聞く為だったんで、その人を起こさないかぎりはベルベットルームに入ることはできない。契約者以外にはその壁はただの壁でしかなく、せっかく綺麗な装飾が施されてるのに、一部の人だけが見れるなんて勿体ない話だ。

 

 

 とか思いつつもその人に近づいた。

 

 面倒に巻き込まれるかもと一瞬思いもしたが、これが俺の性分なんで。

 こればかりはどうしようもないよな。

 

 

「大丈夫ですか?」

 しゃがみこんで俺は女性の肩を揺する。

 

 さらさらと黒髪が顔を隠すように動いた。

 

「すいません。起きてください」

 こうして近付いて、アルコールの匂いがしないことと規則的な寝息が聞こえてきたことで女性はただ寝ているだけだと判断する。

 

 どんな経緯で寝るという選択に至ったのか。できれば考えたくない。

 

「…ぅっ……んぅ……?」

 がくがくと何度か首が揺さ振られること数秒。うめき声が洩れ、顔がゆっくりと上げられた。

 

 

 ぼんやりとした目に俺の顔が映る。

 

 

「起きました?」

 ぼーっと俺を見上げたその女性は、目をしばたたかせた。

 

「うー? んー…………ぐぅ…」

 いやいや、寝ないでください。そのまま起きると思っていたのに、またも目が閉じられる。

 

「んー…?……あと半日……寝かして……」

 せめて五分にしてくれ。半日なんてスケールがでかい。

 

 

 

 その後、何度目かの挑戦の末に彼女はやっと起きた。

 

 朝起きない子供に困り果てる母親の気持ちがよくわかったな。こんなにも諦めない心が大切だとは。

 

 いやはや、いい勉強になりました。

 

 その寝坊助こと、謎の黒ずくめの女性はというと目を擦りながら欠伸を一つ。どうもこの人、隙あらば寝ちゃいそうな予感がするんで目が離せない。

 

 起きたのだから放っておけばいいだろう? いやいや、もうここまで関わったのなら最後まで、彼女が自分の足で立ち、この商店街を後にするまでは見ておかないと。

 もう義務みたいな気がしてね。

 

 

 くいくいっと服が引っ張られ顔を上げる。最初よりかはすっきりした表情の彼女は、

 

「せなか。……背中向けて……」

 俺に対して妙な注文をしてきた。

 

「背中? こうですか?」

 まさか蹴られることはないだろうと、俺は言われたとおりに背を向ける。

 

 その時、なぜ少しは考えなかったのだろうか。

 

 

「おぅ……っ」

 背中に何かが覆い被さった。

 

「……お腹……減った」

「あー…っと……」

 ぐでっと弛緩した体はまごうことなき彼女の体。何にが起こったのかは一瞬で理解できた。

 

 

 ってか、おんぶお化けか。この人は。

 

 

「……zzz」

 首をひねって後ろを見ると、思ったよりもすぐ近くに寝顔があり慌てて前を向く。

 

 

 これは……どこかに運べと?

 

 

 問いかけても寝ている彼女に届くことなどないだろう。

 

 

 

 

 これも声をかけた者の義務。こんな状況って、毒を食らわば皿までと言うんだったかな。

 

 




やっとpixivの全部投稿完了。


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