ペルソナ4 Another Story,Another Hero   作:芳野木

7 / 21
四月に入りたい、入りたいと思いながら書いている今日この頃。

だって、P4の醍醐味は四月からですよね。うん。


-007- それぞれは動き出す

 

 ◆◇◆◇◆◇◆

 

 薄暗い部屋。その部屋に生活臭は全くせず、部屋の中央に白色のソファーが置かれているだけだ。他の家具は一切ない。

 

 

 そのソファーには今一人の少女が腰掛けている。

 

「ああ、楽しみ」

 少女はゆったりと微笑み、待ちきれないと体を揺らした。少女の持つ黒髪も揺れる。

 

「もう少しでまた会える」

 目を閉じ、彼の姿を思い浮かべた。

 

 

 

 彼のことを考えるだけで、胸が一杯になる。頬が緩む。なにせ彼とはもう何年も会っていない。

 早く、早くと急かそうとする気持ちを落ち着けて、ずっと少女はこの部屋で待っていた。

 

 

 

 

 彼が今、何を思っているのか、どんな表情をしているのか。

 

 ああ、今度は全て、自分の物に出来るのか。

 

 今度こそ、誰にも邪魔はさせない。

 

 

 

 

「たぶん、お前に会ったら消しにかかると思うぜ」

 突然聞こえてきた無遠慮な言葉に少女は顔をしかめた。

 

 せっかく、彼のことだけを思っていたのに。

 

「切り離された奴は黙って」

 睨みつけた方向には少年が薄ら笑いを浮かべ立っていた。背中を部屋の壁に預け、くっくっと笑い声をこぼした少年はあざけるように言葉を続ける。

 

「お前も同じだろうがよ」

 少年の言葉に少女は顔を憎悪で歪めた。

 

「あたしはあいつによって離されたの、別にあの子の意思でってわけじゃない」

「あっ、そう」

 

 至極、どうでもよさそうに少年は答えた。少女の怒りや憎しみなど、少年にとってはどうでもいいものだ。

 

「で。そっちの準備は整ったの?」

 気分を変えるように少女は違う話題を出した。少年はその様子に、おかしそうに口元を曲げるも 

 

「ああ、準備は上々。あと空いてる枠は一人だけだな」

 少女の問いに答える。

 

「‘希望’ね。ふふっ、いい言葉」

 うっとりと少女は‘希望’その言葉を口にした。

 

 

 けれど‘希望’は、二人にとっての始まりにすぎない。

 

 

「ねぇ、もし始まったら。あなたはどうするの?」

 少年は少女の問いに、軽く鼻で笑って

 

「そんなの決まってんじゃねぇか。今度こそ自由にやらせてもらう」

 ただ、自分の拳を握りしめる。

 

「一度負けた相手に、また挑むんだ?」

 少女の言葉にピクッと頬がひきつった。   

 

「ま、どうせまた彼が勝つと思うけどね。無駄な努力よ」

「……うるせぇよ」

 

 今度は少年が顔を歪める番だった。

 

 

 クスクスと少女の笑い声が部屋に響きわたる。

 

 その不快な音に舌打ちをし、少年は部屋から姿を消した。

 

 

 後に残るのは、少女だけ。

 

 

 

 ◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

2011年、3月8日   夕方

――八十稲羽駅前にて

 

 人気のない駅前に一人の女性が佇んでいる。いや、女性と呼ぶには幼いだろうか。

 現在、高校を卒業したばかりで後少しで大学生となるのに少女とも呼びにくい。

 なら、彼女と。そう呼ぶべきか。

 

 

「ねえ、本当にここであってるの?」

 

 田舎特有の何もない風景を見渡して、彼女は電話の相手に問いかける。彼女が首を傾げると、彼女の持つ明るい茶髪は夕焼けの光を浴びて輝いた。

 

『あってるよ。ここが反応のあった場所だ』

 

 電話の相手の答えを聞き、もう一度見渡してみた。

 一言でいえば「何もない」。都会ならば駅を出ると、高層ビルや色とりどりの店に迎えられるのだが、ここにはそんな物はなかった。

 

 

 この町に、喧噪は似合わない。

 二年前に思ったことを、再度認識する。

 

 

「で、今日は反応先を探すだけ、と」

 夕日に目を細め、彼女は手元の機械を操作した。画面上に赤いピーコン反応がでる。ちょうど、町の中央を示している。

 

『出しゃばらなくていいからな』

「ラジャー。出しゃばりダメ、絶対だね!」

 念を押す声に少しふざけて返しながら、動きやすいよう髪を一つくくりに変える。

 

『そう。絶対ダメ、だ。俺も出来れば一緒に行きたかったんだけど…』

「絶対ダメ。どうしてもってなら、部屋の外にいる二人を説得してから来てよ」

『いや、三人に増えた』

 ため息をつく相手の姿が簡単に想像でき、彼女の口角が上がる。そして頼もしい見張り役がいるから、大丈夫だとも安堵もした。

 

 

 もし逃げ出したりしたら、実力行使で止められてしまうだろうから。

 

 

「この、ハーレム星人」 

『その言い方はやめてくれ』

 不機嫌そうな声に、事実なのにと口を尖らせる。   

 

 

 それから二言、三言、言葉を交わした彼女は腕時計に目を落とす。時間は相手にとってはギリギリな時間帯だ。

 

 

「じゃ、そろそろ寝ないとダメなんじゃないの?」

『ああ、電話は…』

「他の人にだね」

『そうしてくれると助かるな』

 寝る時間が多くなったのは二年前の後遺症だ。滅びと闘った後遺症にしては軽い方で。

 

 

 彼女にとっては、ただ生きてくれるだけで奇跡。

 

 

「じゃ、おやすみね。彼方」

 電話の相手の名を呼ぶ。

 たった一人の家族。双子の兄。 

 

『おやすみ。朱音』

 彼方のゆったりとした優しい声に、朱音は微笑みを浮かべ携帯から耳を離す。

 

 

 

 3月8日、有里朱音。八十稲羽市来訪。

 

 

 

 

 

 

「なんとなく予想はしてるんだけどね」

 携帯を閉じて、ピーコン反応を再度眺めると朱音はそう呟いた。

 

 朱音が思い当たるのは二年前の夏に出会った少年のこと。シャドウに襲われ、召喚器でペルソナを召喚した自分たちと同じ力を持つ少年。

 

 

 

 でも、彼のペルソナは

 

 

 トンッ…

 

 

 考える朱音の体が前から来た少女と軽くぶつかり、二人はそろって地面に尻餅をついた。 

 

「あ、ごめんね。大丈夫?」

 

 朱音は慌てて目の前の少女の無事を確かめる。

 

「別に……大丈夫」

 

 そう素っ気なく言った少女を見て、朱音はただ可愛らしい子だと思った。

 

 

 自分の交友関係にいる少女達とは少し違った可愛らしさをその少女持っている。

 ショートカットの黒髪に、目鼻立ちの整った顔。澄んだ色の瞳。服装は今時の子みたいにおしゃれで、自分の格好と見比べ苦笑いしてしまう。

 

 

 慣れないスーツよりも、少女の格好の方が動きやすそうだ。

 形からとスーツを選んだのは間違いだったかもしれない。まだ、かろうじて高校生と呼べるのだから。

 

「なら良かったよ。はい、手」

「……?」

 

 手を差し出した朱音を不思議そうに見上げる少女。朱音はじれったくなり、

 

「よいしょっ」

 

 そのまま少女の手を取り立ち上がらせる。

 

「うん、大丈夫そうだね」

 

 上から下。少女の体には傷はない。

 居心地が悪そうに立っている少女に、朱音は安心させるために笑顔を浮かべた。

 

 仲良くなる為にはまず笑顔。

 

 

 結局、少女は笑顔を浮かべてくれなかったけれど。

 

「また縁があったら会おうね」

 

 朱音はにこやかに手を振って、その場を後にした。

 

 

 

 

 もしもと、バスに乗り込んだ朱音は考える。

 

 

 あの少女が銀髪だったなら。あの後、すぐに電話をかけ直しこの町を離れただろう。あたしたちが手を出すのは野暮だ。

 イゴールさんが今どこで何をしているのかは分からないけれど。もしもこの件に関わっていたら…

 

 

「そんな偶然ありそうにないかな」

 

 自分の考えに苦笑を浮かべる。

 さっき出会った少女が、不思議な雰囲気だったからって柄にもなく深く考えてしまった。

 

「今日は様子見だけ」

 

 朱音は自分に言い聞かせるように呟くと、ポケットから愛用の音楽プレイヤーを出して赤いイヤホンを耳にかける。

 

 

 何気なく見た窓の外は、いつのまにか雨が降っていた。

 

 

 

 

 

 

 バスから降りる。ほんの少し小雨と呼べるほどの感じで雨が降る商店街。

 傘なんてもちろん持ってるわけなく、朱音は顔にかかる滴をハンカチで拭った。イヤホンはバスから降りる前に外した。

 

 

「ねぇ…」 

 突然呼ばれた声。朱音は何の気なしに後ろを振り返る。

 

 朱音の視線の先に男の子が立っていた。一瞬、囚人服を着た男の子と姿が被ってしまう。

 

「こんにちは、お姉さん」

 傘をささずに佇む男の子は、にっこりと笑って挨拶をした。

 

 

 

 

 

 ……あれ?

 

 

 何かが変だ、と思った時にはもうすでに周りの景色が変わっていた。

 朱音はすぐにスーツの裏ポケットから出した召喚器を手にする。

 

 雨が降っていた商店街。それが、ついさっきまでいた場所だった。

 

 

 ここはどこ?

 

 

 素早く周囲に目をやる。朱音が今いるのは商店街。しかし、どうも様子がおかしい。空は歪み、地面にはひびがはいっている。

 

 

 それ以前に――

 

 この商店街は霧で満たされていた。体にまとわりつく不快な感覚、まるであの‘塔’のようだ。

 

 

 

 落ち着け、冷静になれと、朱音は深呼吸を繰り返す。

 

 

「ここから先は関係者以外立ち入り禁止なんだよね」

 

 男の子の声が聞こえるが、姿は見えない。霧で隠されているのか、ここにいないのかもわからない。

 

「あぁ、でもこのまま追い出すもの面白くないか」

 

 召喚器をこめかみに当てて引き金を引くが、ペルソナは出なかった。

 

 やっぱり何かに干渉されている。

 

「じゃあ、お姉さんも役者になってみる?」

 

 楽しそうな声だった。

 けれど、人を不安にさせる声でもある。朱音は眉をしかめ目を凝らした。

 

 うすらぼんやりと影が浮かび上がる。さらに目を凝らすと、やっとはっきり姿が見えた。

 

 影の正体は、声をかけてきた男の子。表情も顔立ちも、顔に表情のない仮面を付けていることで分からない。

 

 まるで、シャドウのようで趣味が悪い。

 

「お姉さんはこの物語に本来は登場すべき人間じゃない。けどさ…何においてもイレギュラーって必要じゃないかな?」

 

 男の子が言っている意味は、朱音には理解できない。

 イレギュラーとは一体何なのか。

 

 

 他の…ペルソナ使いという意味…?

 

 

「いや、もう…イレギュラーは存在してるんだけどね。もう一人ぐらいいてもいいよね」

 

 

 男の子の手が伸びてくるのがわかる。後ろに下がろうにも、霧にまとわりつかれた両足は動かない。

 

 ゆっくりと、手が朱音の額に触れた。

 

 

 途端に眠気が体を支配する。

 

 

「ようこそ、八十稲羽へ。歓迎するよ」

 

 

 

 

 ごめん、彼方。これじゃ、様子見だけは無理かも。

 

 

 意識が薄れていく中、朱音はポケットの通信機を握り潰した。

 

 

 

 

 

 

 

 

------有里朱音------

月光館学園を今年の三月に卒業。

稲羽市には‘とある反応’を捜すためにやってきた。

 

高校二年の時にペルソナ能力に覚醒し、その一年間を主にシャドウ討伐で過ごす。

両親は十年前の事故で亡くなっており、現在は双子の兄である有里彼方がただ一人の家族。

なお、彼方もペルソナ能力に覚醒している。

召喚器を使ってのペルソナを召喚する。

 

性格は、明るく騒がしく。非常にポジティブ。

シャドウとの闘いのおかげで人並み以上の身体能力と感覚を得たが、恋愛面に関しては結構な鈍感っぷり。

 

 

 




本編について。
今回はP3Pの女主人公を登場しました。双子の兄妹の朱音と彼方です。
実を言うと、投稿する為に色々と訂正部分を変えていたのですが…致命的なミスに出会ってしまいました。

三月って、まだ大学生じゃないよ。

P4Uで風花(P3の登場人物)が大学生だったんで混乱してたんですね。正確には、高校三年以上大学生以下みたいな。

じゃ、朱音は卒業式後すぐに稲羽市来たんか、と。

 ……ええ。そうですよ。卒業後すぐに来ちゃったんです。そういうことにしときます。 

これ知ったときはホント焦りました。脳内設定では大学生だったのにね。



気付いた人はいるかもしれませんが。朱音が駅前でぶつかってしまう少女はマリーです。

オリ主とはまた別の場所で会います。どこかは今考えてるとこですね。


四月には、鳴上悠君も転校してくる予定で色々と練っているのでお楽しみに。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。