ペルソナ4 Another Story,Another Hero   作:芳野木

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-003- 懐かしい家

 

 

 

「掃除しに来てくれるって今日だったんだ?」

 頭に巻いていたタオルを外した凛おばさんは、そのタオルを首にかけて頷く。

 

 いつ見ても今年で46歳の人には見えない。髪を一つくくりにしているとこも含め、何だか凛々しい人である。

 

「そ、慶介に聞いたら今日だって言われたから急いでバイクで飛ばして来たのよ」

 別に今日はオフで何もない日だったから好都合だったんよね、凛おばさんの職業は今は雑誌のライター…だった気がする。

 

 前はクリエイターでその前は新聞記者、その前は警察官、その前は……ま、とりあえず何でもこなせる人ってことで。

 

 

 

「仕事はどう?」

 リビングにバッグを置いて、出されたお茶を飲んだ。

「今は若い子が沢山入ってさ。色々と教えることが多いんよ。記事の書き方とかね」

「へぇ」

 やっぱ、今はライターか。声に出さずに呟いて、お茶を飲み干す。

 

「けども、本職の方も放っておけないんよね…」

 耳を疑う言葉にお茶を吹き出しそうになった。

 

 …ライター、本職じゃなかったのか。ってか、なら本職ってなんだ。

 

「本職って? 雑誌のライターじゃなかった?」

「あれ、日向に言ってなかった? 雑誌のライターは趣味みたいなものって、本職はバイクの整備士よ」

 …確かにバイクいじってる姿はよく見たことがあったけど、あっちが本職だったんだ。

 

 どちらか、バイクいじりは本職というより趣味だろ。

 

「で。話変わるけどバイクの免許とる予定ある?」

「一応、この春休みとるつもり」

 凛おばさんの顔が目に見えて一気に明るくなる。

 

「バイクの免許とるなら、はいっ参考資料渡しとくからさ」

 にこやかにバックから取り出した『免許取得するには』『バイクの心得 初心者』そんなタイトルが表紙を飾る本をどさりとテーブルの上に置く。

 

 付箋が貼られているから、たぶん重要な点とかチェックしてくれてるんだろう。凛おばさん、マメだし。

 

「バイクの免許とったなら、すぐ連絡しなさい。おばさんがオススメのバイク紹介するから」

「気が早いって」

 まだ免許さえもとってないのに。凛おばさんはマメでせっかちな人なんだ。

 

「こんなのは早い者勝ち。いい? いいバイクは早く売れちゃうんだかんね」

 いったいどんなバイクを紹介するつもりだろうか。

 せめて学生がアルバイトで貯めれるやつで。

 

 俺の至極当たり前な注文に不服そうに顔をしかめる凛おばさん。

 

「男はいいバイク買ってなんぼ。それか盗んだバイクで走りだすかね」

「いったい何を男に求めてんの…」

 俺はもう15じゃない。

 

 

 

 それに盗んだバイクは犯罪だ。結局、男のロマンとやらを俺は凛おばさんに求められていた。もちろん、却下で無理。そんな男前なこと出来ません。

 

 

 

 

 

「それにしても、また急な引っ越しだったんね。慶介も日向のこと考えてないというか……」

 休憩が終わり、一階の一室、書庫と呼んでいる場所で本を整理していた。

 

 書庫と呼んでいるだけあって、部屋中に並んでいる棚には本が端から端までぎっしり詰まっている。

 

「ま、父さんも母さんもあいつの病院で手一杯だからさ。しょうがないしょうがない」

 俺としても、是非とも病院を優先してほしいし。うっすら埃の被った床を雑巾で拭いて本棚を見上げる。

 

 ん?

 

 本と本の間に僅かな隙間を見つけ、首を傾げた。

 

「うーん。日向がそう言うのなら、おばさん何も文句言わないさね」

 そう言う凛おばさんに適当な返事を返しながら、上の段と隙間を見比べる。

 

 上はぎっしり、その下には少しの隙間……このぐらいの隙間なら薄い本でも入ってたのか。前からあったかな、こんな隙間。

 

 

 いや、別にそんな細かいとこまで覚えてるわけないけどさ。おじさんの性格からしてな。

 

 

「あ、そうそう。明日ぐらい堂島君とこに挨拶行きなさいね。前お世話になったわけだし、目付けられてるかもしれないさねぇ」

 堂島さんか……聞こえた名前に手をとめて息を吐いた。

 

 堂島という名前には苦い思い出が付いてくるんだな。あの人に二年前酷く叱られた過去がある。

 

 けど、あれは俺が全面的に悪かった話で。

 

 

「現役の刑事に目を付けられるって、あんまいい事じゃないな…」

 願わくば目を付けられてませんように。

 

 ……付けられてんだろうな…

 

 

 

 

 

 それから午後は、途中送られてきた俺の荷物を二階の部屋に移動させたり、ご近所に挨拶回りしたりと中々に多忙で──

 

 

 空を見れば薄暗く、時計を見ればそろそろ夕食時に近付いていた。

 

 凛おばさんは夕食頃に用事があったらしく、

「冷蔵庫の中、適当に食材入れといたから」

 と言い残し帰ってしまった。

 

 黒のデカいバイクにまたがって、意気揚々と。

 

 

 

 

 

 結局、今日も凛おばさんの口からおじさんの話題が出ることはなかった。

 俺に遠慮してるのか、おばさんがただ話したくなかったのか。

 

 そんなの知りたくもない。何より俺が知る必要もないのだ。

 

 

 

 でも、できれば前者ならなと、思いたい。

 

 

 




文中、凛おばさんの言っている「慶介」の説明です↓

・橘慶介
タチバナ ケイスケ

日向の父親で、おじさんと凛おばさんの弟。




本編には、まだ入らないのですが…ヒロインがまだ全然まったくもって決まらない…ええ、P4の少女達は全員魅力的です。
なんで、一瞬「全員と恋人も…」なんて不埒なことも考えてたりしてました。そんなの修羅場二次小説になるんで、もちろん却下ですよね。
誰が読みたいのか、書いてる方も罪悪感で一杯になります。

……やっぱり鳴上悠のようにジゴロキャラですかね

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