ペルソナ4 Another Story,Another Hero   作:芳野木

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やっと出せた……やっと出たよ主人公その2。
名前はアニメと同じく鳴上君にしました。
性格は……アニメの天然要素も入れつつ、漫画でのクールさも入れれたらなぁと。


-016- こうして彼らは出会う

──それでは、二人の少年の話をしようか。

 

 

 その少年は幼い頃から孤独だった。孤独を嫌った少年は考えた。幼い頭で考えた。

 そうして考えついたのは、孤独ゆえの稚拙で愚かな考え。自分自身が変わればいいのだと。

 

 ある時、それが間違った考えだと少年に教えてくれた人がいた。少年はまた変わった。今度は正しく変われた。

 けれど、今は正しさを教えてくれた人はいない。

 

 さて、今の彼はどう変われているのだろうか。

 

 少年の役割は──変革。

 

 

 その少年は両親の都合で転校ばかりを繰り返していた。

 仲良くなってもすぐに離れてしまう友達。仕事が忙しく休日すらも一緒に外出できない両親。

 

「しょうがない」

 

 いつしか少年は、自分の気持ちを押し込めて、ただ現状をその一言で受け入れるしかなかった。

 けれど、心の中では人との繋がりを求めている。

 ただの‘友達’ではない‘親友’と呼べる存在を欲している。

 

 少年の役割は──希望。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

4月11日(月)

 

 

「ん……?」

 

 誰かに呼ばれた気がして、少年は閉じていた瞼を開ける。薄く灰色がかった髪と瞳を持ち、さらに整った容姿の彼の名は鳴上悠。

 

 両親の都合でこの春から、都会から引っ越すことになった彼は、今まさに引っ越し先の八十稲羽へと向かっているところだった。

 

 窓から差し込む日の光に目を細め、悠はぐっと伸びをする。

 八十稲羽。その場所について悠はよく知らない。

 母親の出身地、田舎町。それぐらいだ。

 

 

 これから一年を過ごす場所に、多少の興味はあったのだが同時に

「一年だけの付き合いだ」

 と感じている自分がいる。

 

 これまで親の都合で引っ越しをした回数が、両手で数えても足りないぐらいだ。その都度、できた友達と別れて「親友」と呼べる関係になったことは一度もない。

 

 

 ついこの前、別れの挨拶を済ませた時のことを自然と思い出してしまう。

 

 担任が転校することを伝えた途端に教室は騒つく。

 けれど、そこにある感情は好奇心だけだった。自分を見るどの視線も、別れを惜しんではいない。

 

「短い間だったけど、お世話になりました」

 俯き、軽く頭を下げる。

 

──ああ、またか。

 そんな諦めだけが悠の心を満たしていた。

 

 

 

「はぁ……」

 嫌な記憶を体から出すように息を吐いた。

 

 慣れているはずなのに、淡い期待を必ず抱いてしまう。

 今度こそ「親友」ができるんじゃないかと。

 そんな、今の悠にとって叶いにくい願いを。

 

 

 

 

 予定の時間よりも早く着いてしまった。電車から降りた悠は、これから一年間お世話になる母の弟──自分にとっては叔父となる人が送ってきたメールを確認する。

 

 

 駅まで迎えに行く、

 八十稲羽駅

 改札口に16時。

 

 

 今は15時30分過ぎ。どこかで時間でもつぶしておこうか、とは思ったものの……悠は再度辺りを見渡した。

 

「何もないとこだな」

 この八十稲羽駅に降り立って、自分が今まで住んでいた場所と違うことを実感する。人もいない、あの賑やかな音も聞こえない。

 

 地面にバッグを置き、悠はゆっくりと息を吸い込んだ。

 思っていた以上に新鮮な空気が体に入り込む。それと同時に妙な安堵感にも包まれた。

 

 記憶にはないけど、こういう雰囲気は体で覚えているのかもしれない。

 

 幼い頃に一度だけこの場所を訪れたこと。母から聞いた話を思い出し、自分の感じた安堵感や懐かしさに納得する。

 

 

 何かの気配に気付いたのも、そう悠が納得している最中のことだった。納得するのをやめて、気配の方向へ視線を向ける。

 

 いつからいたのだろう。悠が記憶する限り、つい数分前までは確かにいなかった。

 

 この田舎町の風景に不釣り合いなパンク風の格好をした黒髪の少女。いや、不釣り合いなのは格好だけではなかった。

 悠にもよく表現ができないが、少女の姿がやけに神秘的に見えたのだ。

 

 少女の顔が上がり、悠と目が合った。戸惑う悠から彼女はすぐ目を逸らす。その姿が落胆しているように見えて、さらに悠を困惑させた。

 

「──じゃない」

 悠の耳に少女の呟きが聞こえてくる。よく聞き取れることはできなかったが、最後の言葉だけははっきりと聞き取れた。

 

「え……?」

 気のせいか、少女の体が透けてきているように見える。悠は少女のいる方へ一歩踏み出した。

 やっぱり透けている。近付くにつれ、目の錯覚でないことがわかってきた。俯く少女の姿が、まるで景色に溶け込むように徐々に薄れていく。

 

 戸惑いながらも悠は一歩ずつ距離を縮めていった。近付いて何ができるわけでもない。

 自分に何もできないことを知りながらなお、そうすることが悠には正しいことのように感じるのだ。

 

 

 

 

 

 

「マリー!!」

 突然の声にビクッと少女の体が動く。俯いていた顔を上げ、声がどこから聞こえてきたのかと探している。

 悠はその声に驚き、足を止めた。そして少女と同じように辺りを見渡した。

 

 一人の少年が少女へ向かって駆けてくる。その駆けてくる音に気付いた少女は振り返った。悠からは背中だけしか見えないが、少女が安堵したのはわかる。

 

 透けていたように見えたのはやっぱり気のせいだったようだ。今ははっきりと見える少女の姿。長旅で疲れたのだろうと、悠はこめかみを押さえる。

 

 

 

「やっと、見つけた……」

 息も切れ切れにそう言った少年の体がゆらりと傾くのが見える。

 

 駆け寄る暇もなかった。スローモーションのようにゆっくりと少年は崩れ落ちていく。

 

──そのまま、悠と少女の目の前で少年は地面へと倒れてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

──約20分前

 

 最初は聞き間違えかと思った。

 

 何も返答がない俺へ電話の相手は

『マリーがいなくなったわ』

 もう一度同じことを繰り返す。携帯に突然かかってきた見知らぬ電話番号、いきなり聞こえてきた聞き覚えのある声。

 それだけでも十分に驚いているのに。

 

「いなくなった? ベルベットルームから?」

『ええ』

 マリーがあの部屋からいなくなった。そのことがさらに俺を困惑させる。

 

 

「勝手に外に出たってことですか?」

『違うわ』

 マーガレットさんの声を聞きながら、外にいつでも出れる状態にする為に玄関で靴を履く。

 

『消えていなくなったのよ。私と主の目の前で』

 思わず携帯が滑り落ちそうになった。

 

 消えた。その言葉の意味に、一瞬目の前が真っ暗になった気がする。

 

『日向?』

 電話越しでも俺の変化にマーガレットさんは気付いた。流石、マーガレットさんだ。

 

 俺のことをわかっている。わかりすぎている。

 

 それ以上は悟られないように、俺はすぐに自分を立て直すことにした。

 

「八十稲羽周辺にいるんですか?」

『ええ。必ずどこかにいるはずよ。あの子がこの地から離れることは不可能だから』

 何事もなかったかのような俺にマーガレットさんも同じように接する。

 

「それじゃ、地道に探していくしか手段はないですね」

『いえ、一つだけ。確実な手段があるわ』

 

 

 

 

 

 

 確実な手段としてマーガレットさんが提案したことは『ペルソナを召喚しての捜索』だった。

 失敗するとも成功するとも言われてはいない。ただ、無理はするなとだけ言われている。

 

 現実世界でのペルソナ召喚を成功させ、尚且つ八十稲羽からたった一人を捜し出せるように操作しなければならない。繋がりを辿って捜すため、ペルソナが必要だとも言っていたな。

 

 人目につかない場所へと俺はガレージに移動していた。シャッターを閉めて、バイクを端に動す。これで十分なスペースは確保できた。

 

 握りしめたままの右手を開くと、汗をかいている。顔色が悪いのは確認しなくてもわかる。

 

──いなくなられるのは、もう嫌だ。

 

「イザナミ」

 名前を呟いただけで、イザナミはあっさりと姿を現した。俺の傍らに寄り添うように存在している。

 

「捜してくれ」

 イザナミが矛を地面へと突き入れた。ゆっくり矛が沈んでいくと地面に波紋が広がる。

 呼吸を落ち着けてから目を閉じる。数秒後イザナミと感覚が繋がったのがわかった。

 

 嫌な感じはしない。いや、むしろ妙にしっくりときていた。

 

 

──どこだ?

 

 この八十稲羽から一人を捜し出す。途方もない作業だと思うが、今はそれをやるしかない。

 意識や感覚を近所から商店街へ、更に外へと移す。

 

──ここじゃないな。

 

 鮫川、ジュネス周辺、学校。マリーの姿は見当たらない。

 

──もっと広い範囲で。

 

 徐々に地上から離れていく。気がつけば、空から町全体を見下ろしていた。そこからマリーの気配を捜す。

 

──いた。

 

 八十稲羽駅。微かにマリーの気配がする。

 

 

 イザナミを消して俺はシャッターを開けた。そのまま勢いで、おじさんが使っていたバイクに跨る。

 

 なぜ駅にいるのかはわからない。なぜ突然消えたのかもわからない。

 

 

 けど、それは全て本人に直接会ってから聞くべきだ。

 ヘルメットを被り、バイクのエンジンをかける。蹴りだすように発進させた。

 

 

 

 

「マリー!!」

 捜していた姿を見かけた途端、俺は自分の体がふらついているのに気付いた。安堵した拍子に、現実世界で召喚した疲れが一気に押し寄せてくる。

 それでも俺は走った。

 

 

「やっと、見つけた……」

 息が切れている。視界もぼやけている。立っているという感覚がない。

 

 あぁ、これはヤバいかもな。

 

 今残っている力を振り絞って伸ばした手が、マリーの手と触れ合ったことを確認して俺は意識を手放した。

 

 

 

 

 

 ◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

「大丈夫か?」

 目を開けて最初に見たのは知らない顔だった。心配げに俺は見下ろされている。薄く灰色がかった瞳と髪を持つ少年に。

 

 自分のおかれている状況を理解してすぐ俺はベンチから飛び起きた。辺りを見てその姿を確認し、ようやく安堵する。

 

 ちゃんと存在している。俺は間に合ったんだ。

 

「大丈夫、そうだな」

「あっ、すまん。見ての通りもう大丈夫だ。見ず知らずの他人なのに心配かけて悪かったな」

 まだ気だるさは残っているが、この程度なら直に治まる。

 

「俺は橘日向。ま、わかると思うけど八十稲羽に住んでる。で、そっちは……見たところ引っ越して来たのか?」

 地面に置かれたバッグとベンチに置かれたお土産袋。それらから予想してみた。

 

「よくわかったな」

「ん、まぁな」

 目を丸くする少年に俺は笑顔を返す。

 

「鳴上悠だ。よろしく」

「よろしくな」

 俺は鳴上に手を差し出した。いつかの店員みたいだと自分でも思う。

 そういえば、あれから彼を見たことがない。

 

 

──で、だ。

 

 簡単な挨拶を終えた俺は鳴上から視線を外す。その先には、ベンチの隅で膝を抱えて座っているマリーがいた。

 

「マリー」

 呼ぶとぴくりと肩が動いた。だが、それだけで他は反応がない。

 

 

 怒られることに怯える子供のようだと思った。別に俺は怒る気はないんだけどな。

 

 結局、俺がした行動は、ただの自己満足でしかないのだから。

 

「今度からはちゃんと行き先を伝えろよ」

 帽子もポーチも何も持っていないマリー。最初に出会った姿だ。

 

「迷子になるんだったらな」

 ぽんぽんとマリーの頭に手を置く。「迷子」という言葉に反応したのか、やっと顔を見せてくれた。

 

 むっと不機嫌そうな表情。いつものマリーだ。悲しそうな顔をされるよりもこっちのほうがずっといい。

 

「迷子じゃないよ」

「帰り方がわからないのは立派な迷子だ」

「むぅ……」

 無言でそっぽを向かれた。これでいいんだと俺は思う。

 

 

「あれでいいのか?」

「あぁ。あれぐらいが俺たちには丁度いいからな」

 はたから見ても拗ねた様子のマリーと俺を見比べ、鳴上は怪訝そうな顔をしていた。

 

「心配だったんだろ?」

「そりゃ、もちろん」

 こっちに来てはじめての感覚だった。人が何も言わずに自分の前から消える恐怖は、何度味わっても心臓に悪いもんだ。

 

「でも、心配していたからってそれ相応の見返りは求めちゃいない。無事に見つかった。それで十分なんだ」

 バッグから飴を二つ取り出す。一つを自分の口へ放り込み、もう一つは鳴上へと投げた。

 

 飴玉は簡単に鳴上へと渡った。手元の飴玉をじっと鳴上は見つめる。そのまま無言で俺に戸惑った表情だけを向けてきた。

 鳴上に渡したのは正真正銘の飴である。飴だと思わせて実は肉ガムでしたなんてことはない。そんなフェイントはかけない。

 

 

「…………でかいな」

 ぽつりと鳴上が率直な感想を述べた。

 

 

 そうただ少しばかり──でかいのだ。

 

 

 商品名『メガアミノドロップ』。メガと名前についている通り、その飴はでかかった。ゴルフボールとほぼ同じサイズで、一体これをどう口に頬張れと言うのだろうか。

 俺の中では肉ガムと同じくらい「何のために作られたのかわからない商品」である。

 

 

「これを食べるのか?」

「や、さすがに冗談だ」

 握り締めていた拳を鳴上に突き出した。開くと鳴上の手のひらに今俺が食べているのと同じ飴が落ちる。

 

「それ食べるなら金槌で叩いて小さく砕かないと」

 

 

 

 

 不貞腐れたマリー。ゴルフボールサイズの飴を持ちながら飴を口に入れる鳴上。二人を見つつ、俺はその場にいる誰にも聞かれない音量で呟いた。

 

「ま、本当のことを言うと……俺が本気で心配してたなんて知られるのが気恥ずかしいだけ、かもな」

 

 

 

 

 

──そう思ってしまうのも俺にしては、割と珍しいことなのだが。

 

 

 

 


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