ペルソナ4 Another Story,Another Hero   作:芳野木

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学生の仕事は勉強。
ってなわけで、テスト勉強および答案が返ってくるまでパソコン禁止だった芳野木です。

はい、今回も更新が遅れてすみません。
新年来るまでに、あと二つぐらいは書きたいのですが……補講がなぁ…はぁ。


-011- 不完全の象徴

 

「おや……ふふ、これはこれは……興味深い」

 ベルベットルームに入った俺に、向けられたのは二つの視線。

 

 一つは目を細め、言葉通り興味深そうな視線。

 

 もう一つは冷たく、それでいて激しい怒りを感じているかのような視線。

 

 

 何で来て早々にマーガレットさんの怒りを買ってるんだろう、俺。

 

 

「俺、何かしました?」

 愛想笑いで尋ねた俺に、マーガレットさんは目を閉じてかぶりを振った。

 目を閉じてくれたおかげで怒気は収まる。

 

 

「貴方は、何もしていないわ」

「ただ、不快なものを思い出してしまっただけよ」

 不快なものって何のことだろう。

 

 気にはなったけど、すすんで地雷を踏みに行くほど俺は愚かじゃない。

 

 

 

「今日は俺のペルソナ能力について詳しく訊きにきたんです」

 青いソファに座り用件を伝える。ふわっと体が少し沈んだ。

 

「愚者と女帝。二つのアルカナのペルソナを既に召喚したことは、マーガレットから聞いております」

 

「どうでしょう? 召喚時に違和感はありましたかな?」

「いや、特には」

 あの召喚した一瞬だけ力が抜ける感覚は慣れるしかないかな。

 

「それならば結構」

 イゴールさんが頷く度に鼻が揺れる。

 

「ただし、貴方の力は未だ不完全な状態」

 

 不完全か……マーガレットさんにも言われた。

 

「何が不完全なんです?」

 何がというより、どこが、だ。

 ペルソナを召喚できた。それで十分じゃないか。それ以上に何があるんだ。

 

「そもそも貴方の持つワイルドとは、数字のゼロのようなもの。からっぽに過ぎないが、無限の可能性も使い方によっては宿る」

 

 ゼロ。からっぽ。

 

 最初から何もないということだ。俺らしい力、なのかもしれない。

 

 

「そして、通常ならば一体しか持ちえないペルソナを複数使い分ける事が可能です」

 そう言うとイゴールさんはテーブルに手を翳す。

 

 

 まるで手品のようにテーブルにタロットカードが次々と現れた。

 

 

「しかし、貴方のその力には制限がかかっているようだ」

 掌がサッとタロットカードの表面を通り過ぎると、全てのカードが表を見せた。

 

 

 カードの絵柄を見て、改めて不完全の意味を理解する。

 

 

 

 全ての絵柄が、薄く消えかかっていた。

 

 

 

「制限って具体的には?」

 最後はテーブルに溶けるかのように消えたカードを一瞥し、質問を続ける。

 

「各アルカナに付き、召喚できるペルソナは一体だけ。ワイルドとしては致命的な制限ね」

 

 答えたのはマーガレットさんだった。

 怒りは収まったらしく、今は何も余計なプレッシャーは感じない。

 

「致命的って、別にペルソナは一体で十分なんじゃ……」

 マーガレットさんは短く息を吐く。

 

 もしや、呆れられてしまったか。

 

「必要だから能力は目覚めるのよ。ワイルドは貴方にとって必要な力となる。必ずね」

 必ずと断言されてしまった。

 

 

 

 ──貴方の欠けた記憶はいずれは必要になる力。

 イゴールさんに言われた言葉を自然と思い出す。その力がワイルドのことだったのだろうか。

 

 

 

 訊いてみるか?

 

 俺は一度開いた口をすぐに閉じる。

 

 いや、訊いても答えてはくれなさそうだな。

 自分で答えを見つけろ、だ。

 

 

「普通の日常を過ごすだけなら、必要ないと思うんですけどね」

 代わりに肩をすくめ、軽口を言う。

 

「普通の日常というものを貴方が過ごせるならね。自信はあるのかしら?」

 答えなんてわかってるくせに。

 

「ありませんよ。過ごせたらいいなって、希望だけです」

 

 ベルベットルームに入った瞬間から、その希望もカードのように消えかかってる。

 

 カードと違って、もう戻ることはないものだ。カードが元通りになると、希望は残ってないからな。

 

 

 あぁ、泥沼だ。進むごとに深みにはまる。

 

 底はあるはずだと信じよう。底無しだと、きりがないだろ。

 

 

 

 

 

 

 ◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

「自分を犠牲にして何か大切なものが助かるならさ、千枝はどうする?」

 そんな質問をすると、千枝は向かい合っていたビーフステーキから顔を上げた。

 

 きょとんとしている。

 質問するには、いきなりすぎたか。質問の内容も内容なだけに。

 

「崖に落ちそうな人が二人いるとして、その二人を助けると自分が落ちてしまう。それなら、助けるか助けないか」

 簡単な心理テストみたいなものだと思う。俺も詳しくは知らないけども……霧野さんに質問されたのをそのまま聞いてるだけだ。

 

「うーん、難しいことはよくわかんないけど。ビフテキをとるか、肉串をとるか、だよね?」

 ビフテキが千枝の口へと消える。

 

「……いっきに美味しい話になったな。ま、それでいいや」

「それなら、二つともいただいちゃうね。目の前に肉があるのに食べないなんてあり得ない!」

 やっぱ、肉で例えたのは失敗だっただろうか。心理テストからかけ離れてしまった。

 

 

 

 

「でも、二人ともかな」

 一瞬、何の話かと思い、自分がした質問に対する答えだと気付く。

 

「二人助けて、その二人に崖から落ちそうになってるのを助けてもらったらいいじゃん」

 当たり前のように言われた考え。

 

 確かに、考えようによってはセーフか。いや、根本的なとこからアウトか。

 

 そもそも、質問自体が、ただの心理テストのようなものだ。

 

 ようは、人それぞれに答えがあるわけであり……もう簡単に俺の感想を言っちゃうと…

 

「それも、ありかもな。いい考えだし」

 

 俺なんか、最初の質問の時点で

「自分が犠牲になる」

 なんて嫌な選択を答えてしまったのに。

 

 

 

 

 

 千枝との待ち合わせに指定されたのは、大型スーパーのジュネス。

 その屋上にあるフードコートに、俺たちはいる。

 

 なるほど、商店街が少し寂れた雰囲気になってたわけだ。

 親子連れで賑わうフードコートの様子を見て、納得した。

 

 商店街と比べれば、そりゃ便利だろうよ。

 

「雪子、遅いね」

 ケータイを開き、千枝は天城からの連絡を確認する。

 

 千枝は俺がジュネスに着いた後、すぐに来たのだが一緒に来る予定だった天城は家の用事で遅れて来ることになっているのだ。

 

 天城屋旅館の次期女将なんて言われてるけど、本人は実際どう思ってんだろうな。

 

 

「天城っていつも手伝いしてるのか?」

「うん。まぁ、雪子はさ…しょうがないじゃん」

 旅館の跡取り娘なんだもんね、呟いた千枝の表情は寂しげだ。

 

 一番の親友だから、千枝には天城のことがよくわかる。

 俺はそんな関係が羨ましいんだ。ずっと昔から。

 

 

「あっ、そうだ!」

 何かを思い出した千枝がポケットを探る。

 

 まさか……昨日のアレか……

 

「今日はちゃんと持って来たんだ」

 忘れずにいてくれたことを喜ぶべきか、悲しむべきか。

 

「これが昨日言ってた‘肉ガム’だよ!」

 ジャーン。掲げた千枝の手には黄色いパッケージが握られていた。

 

「昔さ……肉アイスってあったよな…」

 受け取った一枚のガムを見つめると、昔の思い出が蘇ってきた。

 

 

 トラウマという名の思い出。あの時も千枝があまりにも嬉しそうな顔だったから、断るに断れなかったんだな。

 

 

 そして、それは今も昔も変わらない。おずおずとガムの包装紙を捲る。

 

 あれ、おかしいな。手が震えて上手く捲れない。

 

 

 

 

「おー、何だ何だぁ? 里中が男と二人でいるなんて珍しいな」

 急に飛び込んできた声に手が止まった。

 

「うわっ」

 千枝はその声の主を見て顔をしかめる。

 俺もガムから、声の方向へ視線を移した。

 

 

 

 別に……これ幸いとか、思ってないからな。

 

 




今回はベルベットと千枝さん。最後らへんにあの「がっかり」も登場してますね。

中途半端な切りかたで申し訳ないです。



15話までに何とか色々と終わらせたい。

予定では16話から本編へ。
それまでに書きたいことは…マリーとかマリーとかマリーとか。
今、絶賛出会いの場面を書いている最中です。
春休み辺りに会わせる予定。

あと、オリキャラも学校関連で登場します。


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