マブラヴ・オルタジェネレーション   作:京橋

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トータルアニメで作者の嫁を殺した戦車級を滅殺します!!







第五話 荒ぶる黒き獅子、その名はバンシィ

 

 

 

 

 

 

 

 

 BETAの侵攻に戦場で奮闘している帝国軍の前に突如降り注いだ閃光。歴史の残る帝都・京都を蹂躙しようとしている憎き化物たちを一瞬にして肉片へと変え、自分達を窮地の淵から救ってくれたのは、童話などに出てくる一角獣(ユニコーン)のような角を持った白き戦術機と、戦闘機から戦術機に変形する灰色の戦術機だった。

 

 その戦術機はネェル・アーガマ改からラナロウと合流する為に出撃したマーク・ギルダーの乗る【ユニコーンガンダム】と、レイチェル・ランサムの乗る【デルタプラス】だった。

 

 窮地を救ってくれた二機の謎の戦術機を目撃した不知火・壱型丙に乗っていた【真田 昇蔵】は戦闘機が戦術機に変形する様を目撃して驚きを隠せずに唖然としていた。

 

 彼は現在ラナロウと共に行動中である嵐山中隊の【篁 唯依】【甲斐 志摩子】【石見 安芸】【能登 和泉】【山城 上総】の五人が衛士訓練生の時の衛士養成学校の教官を務め、BETA侵攻に伴い帝国軍人に復帰した大尉だった。

 

 マークは真田に生き残った衛士と共に後方へ下がれと言い、真田は増援として出現した少なく見ても数百のBETAをたった二機で迎撃しようとしているマークに無茶だと反論するが、突撃級のせいで指揮系統がバラバラになり、損傷の激しい数体の撃震も戦闘継続が困難で、自分の機体も左腕を失い、突撃砲の残弾も心もとない状態になっていた。

 

 真田は不安を残しつつも、見るからに自分たちの戦術機とは違う技術で作られているのは一目瞭然、BETAの迎撃をマーク達にお願いすると生き残った撃震と共に後方の防衛ラインまで退却していった。

 

 その頃、ラナロウは唯依と和泉と上総の四人で別ルートから侵攻してきたBETAの追撃を防ぐ為に中隊長率いる先行部隊の殿として追っ手のBETAの相手をしながら戦っていたが、琵琶湖にいる日本帝国軍第二艦隊旗艦【尾張】の艦長である小沢司令は、指揮下の艦隊に京都への艦砲射撃を決行、京都に残る文化遺産ごとBETAを殲滅するという苦渋の選択をした。

 

 そのおかげもあってか、ラナロウ達に迫りつつあったBETAの群れを一掃する事ができ、その間に先行した嵐山中隊との合流を目指した。

 

ところが市街地を飛行中に艦砲射撃の雨を逃れた要塞級がビルを破壊しながら出現し、急停止しようとした和泉機と上総機が衝突し、唯依機も回避行動を取るが要塞級の頭部に機体をぶつけてしまい、向かいのビルに突っ込んでいってしまった。

 

 すぐさま要塞級を撃破したラナロウは、ガーベラ・テトラ改を三人が突っ込んでいったビルの屋上に着地させ、屋上に墜落していた唯依機の無事を確認した後、和泉と上総を探す為にビル内へと入っていった。

 

 

 

 

 

 

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 日本帝国軍のとある施設の執務室にて帝国陸軍技術廠所属の【巌谷 榮二】中佐は秘書から手渡された京都での帝国軍・国連軍・米軍の三軍の防衛線での戦力の損耗率の記した資料に目を通していた。

 

「損耗率が当初の予想より酷くは無いようだが、それでもBETAの侵攻を防ぎきれるかどうか、分からないな……」

 

「現在、琵琶湖運河に展開中の米空母から艦載戦術機を発艦させ、支援を続けてくれています」

 

 京都での戦闘状況の情報を眺めながら巌谷は秘書の報告に耳を傾ける。その頃、第二次世界大戦時に建設された琵琶湖運河に日米安保条約に基づいて停泊していた米軍の空母から米国海軍第二世代戦術歩行戦闘機【F-14 トムキャット】二機が長距離誘導大型クラスターミサイル【AIM-54 フェニックス】を装備してBETA撃退のため出撃していた。

 

「義理堅いな……だが、到底数が足りないだろう。防衛線を維持できるかどうか……」

 

「それなんですが、事実かどうか現在調査中なのですが、帝都防衛線にて所属不明の戦術機が数機確認されているそうです。その中でも数百のBETAを一掃するほどの光学兵器を使用している機体がいたようなのです」

 

「何!?BETAを一掃するほどの!?」

 

 秘書の話を聞いた巌谷は驚きの声を上げる。それもその筈、米国でも実用化されていない光学兵器…しかも大群で押し寄せてくるBETAを一掃するほどの高出力の光学兵器を戦術機が運用・使用しているという話を聞けば、誰もが驚く事だろう。

 

「それほどの武器を持つ戦術機……一体何処の所属なのだろうな…」

 

「そればかりは何も……一先ずその所属不明の戦術機によって八藩防衛ラインの被害は酷くは無いそうです。ですか……」

 

「それでも……直営隊は辛い決断を強いられる事になるやもしれん……」

 

 巌谷は椅子から立ち上がり、暗い夜空を見上げながら帝都を護っている部隊に辛い決断をしなければならないかもしれないと話す。そして親交の深かった親友の子であり、自分の娘のように想っている【篁 唯依】の安否を気にかけていた。

 

 

 

 

 

 

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 京都市街地のとあるビルの屋上……山吹色の瑞鶴F型のコクピット内で要塞級と衝突した際に気を失っていた唯依が目を覚ました。目を開けた唯依の視界には自機の機体ステータスが表示されており、機体全体が赤く表示され完全に機能停止に陥っていた。

 

「……よくもってくれたな…」

 

 瑞鶴のコクピットハッチを強制排除して管制ユニットから飛び降りた唯依は戦場を共に戦い抜いた戦術機という名の甲冑に感謝を述べる。その時、愛機の隣にいる自分達を幾多も救ってくれた真紅の戦術機が膝を付いて停止していたのに気付いた。

 

「これは…誰かいませんか!?ラナロウさん!?」

 

 コクピットハッチの開いているガーベラ・テトラ改のコクピットに向かって大声で叫ぶ唯依だったが、中には誰もいなかった。

 

『どうやらお気づきになられたようですね』

 

「えっ!?だっ、誰!?」

 

 突然のアプロディアの声に唯依は周囲を見渡してみるが誰もいない。

 

『落ちついて下さい、私の名前はアプロディア。今あなたの目の前にいるガーベラ・テトラ改のコクピット内の機能の一部になっている者です』

 

「えっ?どういうこと?」

 

 アプロディアの説明に唯依は一体どういうことなのかとただ混乱していた。だが、唯依の脳裏に和泉と上総が要塞級を回避しようとして衝突し、ビル内に墜落したのを思い出し、開いた穴のほうへ駆けだそうとした。

 

「はっ、そうだ!和泉、山城さん!!」

 

『あっ、お待ちください!そこへ行くのは大変危険です!!』

 

 和泉と上総の安否が気になった唯依はアプロディアの静止を聞かず、ビル内へと入っていってしまった。

 

 

 

 

 その頃、和泉と合流したラナロウは先程遭遇しそうになった兵士級に警戒しながらビル内の階段を下りていた。

 

「あっ、そうだ」

 

「どうしたんですか?」

 

「これ…お前のか?」

 

 突然足を止めたラナロウはポケットから金色のロケットを取り出すと和泉に手渡した。

 

「お前と合流する前に道に落ちていたのを拾ってな。蓋が開いていたから中身を見ちまったけど……」

 

「いえ……ありがとうございます」

 

 ロケットを受け取った和泉の様子に、ラナロウは「一緒に写っている男は大事な人か?」と尋ねてみると、彼女は自分の彼氏だと言い、九州へのBETA侵攻の際に亡くなったと話し出した。

 

「そうか…そりゃあ不味い話を聞いちまったな」

 

「いえ……それにBETAを、彼の仇を絶対に取るんだって誓ったんです!」

 

「仇を取る……か。その割にはかなりの怯えようだったが?」

 

 九州で亡くなった彼氏の仇を取ると和泉の言葉に、ラナロウは和泉と出会う前にビル内を怯えながら彷徨っているのを目撃していたと話すと途端に和泉の顔は真っ赤になった。

 

「それにしてもお前、歳は幾つだ?」

 

「……14です」

 

「14!?そんな歳で戦場に出たのか!?」

 

「今日が初陣だったんです……他の皆も同い年で同期なんです」

 

(おいおい、いくら何でも若すぎるだろ……そんなに切羽詰っているのか?あっ、でもウッソは13でMSに乗っていたっけな……)

 

 ラナロウの問いに顔を真っ赤にしながら答えた和泉の返答に驚くラナロウだったが、Vガンダムの世界で出会ったウッソ・エヴィンは13歳という最年少でパイロットになっていたなと思い出していた。

 

 しかし、それならBETAと戦っていた時の攻撃に躊躇をしたり、戦場で棒立ちするなどの暴挙に出た事が理解できた。

 

 恐らくまだ彼女達は満足な訓練を終えないで戦場に出てきたのだろう……しかも和泉のあの怯えようは戦場慣れをしていないからであろうと、そう考えたラナロウはこの世界の徴兵基準はどうなっているのだと疑問に思っていた。

 

 

 

 

 

 

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 ラナロウが和泉と合流して上総の瑞鶴を探していた頃……京都の市街地に侵攻していたBETA群に向かって一筋の閃光が放たれた。だが、その閃光はまるで蛇が獲物に飛び掛るが如く、数体の要撃級の肉体を次々と切り刻んでいく。

 

 その閃光を放ったのが、リゼルに乗ったバンシィであり、右腕の【アームド・アーマーBS】によるビーム攻撃であった。

 

アームド・アーマーBSは従来のビーム兵器より高出力のビームを任意に集束させることができ、よりピンポイント攻撃が可能にしている。

 

「くっ、数が多すぎる。ラナロウは無事かしら……」

 

「ラナロウなら大丈夫だ。アイツはどんな状況でも必ず生還するほどの悪運の強い男だからな」

 

「そう…よね」

 

 BETAを撃破しながらレーダーに目をやりながらラナロウのガーベラ・テトラ改と共にいるアプロディアニューロの反応を探していた。

 

 ラナロウは無事なのかと心配するエリスだったが、そんなエリスにエリフリーデはそう簡単に死ぬような奴ではないと励ます。

 

 エルフリーデの言葉にエリスは気持ちを切り替えてレーダーに目をやりながら再び地上を徘徊する突撃級や要撃級を攻撃しようとした時だった。

 

(……撃って…お願い…)

 

「えっ!?」

 

 ターゲットに狙いを定めてトリガーに手をかけた時、突然エリスの頭の中に痛々しい少女の声が聞こえ、急に頭痛に襲われた。

 

「あっ、ああぁぁぁぁっ!!」

 

「どうしたっ!?エリス!!」

 

 エリスの叫び声にエルフリーデは一体どうしたのか尋ねるが、エリスの叫び声しか返ってこない。

 

 バンシィのコクピット内でエリスは頭を抱えて頭の中に直接聞こえる声に悩まされていた。

 

その時、エリスの座っているコクピットシートの正面モニターが金色に染まり、【NT-D】という文字が現われると同時にシートの一部が切り替わった。

 

「おっ、おい!エリス、何処へ行くっ!!?」

 

「………」

 

「エリスッ!!」

 

 リゼルから突然バンシィが飛び降り、背中のスラスターから火を吹かせて何処かへ飛び去っていく姿に、エルフリーデはエリスに呼びかけるが返事は無く、慌ててMSに変形させ、バンシィが向かった方向へ向かって追いかけていった。

 

 この時、エリスの目は虚ろな瞳となっており、バンシィの全身の装甲の繋ぎ目が金色の光を放っていた。

 

 

 

 

 

 

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 場所を戻し、再びビル内で上総機が墜落したと思われる場所へと向かうラナロウと和泉の二人は、暫く階段を下りていくと随分と広い場所へと出た。

 

 そして多少暗がりだが正面に白い人型の物体が見え、その機体が白い瑞鶴であることが確認できた。

 

「あれは、山城さんの瑞鶴!」

 

「っ、待て!隠れろ!!」

 

 ようやく見つけた上総機に近寄ろうとする和泉をラナロウは和泉の腕を掴んで近くの柱に身を潜めた。和泉は何をするのかと思ったが、よく目を凝らしてみると瑞鶴に何か赤い物体がゴソゴソと蠢いているのが見え、その正体を知った和泉は目を見開いた。

 

「あれは……戦車級!!?」

 

「マジかよ……機体を喰ってやがるのか!?」

 

 和泉とラナロウが見たのは、瑞鶴の装甲を引き剥がしてお腹の口に放り込んで噛み砕いている複数の戦車級の姿だった。その姿には幾多の戦闘を経験してきたラナロウでも驚きを隠せないでいた。

 

「だが、あれほどのバケモンがいるのに中の奴が脱出していない様子を見る限り…ということは……」

 

「まさかっ!!」

 

 目の前の瑞鶴のコクピットハッチが開いていないのを確認したラナロウの予測に、和泉はヘッドセットの機能を使って上総の状態を急ぎチェックしてみた。

 

「バイタルリンク……ラナロウさん!山城さんはまだ生きてる…生きてますっ!!」

 

「……生きていて脱出していないと言う事は、フレームが歪んでハッチが開かないか、または中で何処か負傷して動けないかのどっちかか……」

 

 若干涙目になりつつも和泉の話を聞いたラナロウは「見えもしない相手のバイタルをチェックできるのか?」と疑問に思ったが、嘘は言っていない様子の和泉の言葉を信じ、彼女の機体の状況から脱出できない状態であると分析する。

 

『ラナロウ、聞こえますか?』

 

「んっ?……アプロディアか。どうした?」

 

 問題はどうやって助けるかと考えていたラナロウの右耳に付けていたインカムからガーベラ・テトラ改にいるアプロディアの声が聞こえ、インカムを指で押して通信に答えた。

 

『実は先程、山吹色の機体の搭乗者である少女が目を覚まされたのですが、私の静止を聞かずにビル内へと入って行ってしまいました』

 

「何だと!?」

 

「どうかしたんですか、ラナロウさん?」

 

 アプロディアの話にラナロウが驚いた表情をし、その表情にどうかしたのかと思った和泉は話を聞こうとした時だった。

 

『…和泉?…山城さん?…無事なの?』

 

「えっ!?唯依!?」

 

 和泉のヘッドセットの通信からノイズ交じりだったが唯依の声が聞こえ、和泉は唯依の姿を確認しようと周囲を見渡してみた。するとラナロウと一緒に来たルートとは別ルートでやってきた唯依の姿を見つけた。

 

「山城さん!!」

 

『……お願い…篁さん…』

 

 唯依は周囲が薄暗いせいで近くにいるラナロウと和泉の存在に気づかず、崩れた瓦礫に身を潜めながら上総機に向かって駆け出して行ってしまった。

 

「おいおい、バケモンに向かって行っちまったぞ!!」

 

「唯依!危ないよ!!」

 

 ラナロウと和泉は戦車級に駆け出して行ってしまった唯依に声を掛けようとしたが、大声を上げれば自分達の居場所もバレでしまい、瑞鶴に群がっている戦車級がもし一斉に襲い掛かってきたりしたら、手持ちの武器では約3mはあろう戦車級を倒すのは不可能だと判断し声を出すことができなかった。

 

「山城さんっ!」

 

『……篁さん……お願い……』

 

 瑞鶴を喰い尽くそうとしている戦車級は、遂に機体のコクピットハッチを引き剥がし、管制ユニットのハッチに手を掛け、徐々に引き剥がし始めた。

 

『おねがい…おねがい…』

 

 コクピットにいる上総の目の前には管制ユニットの開いた僅かの隙間から伸びてくる戦車級の手が見えていた。その手を見た上総にはゆっくりと確実に迫りつつある“死”への恐怖に体を震わせていた。

 

 そして「バゴン」という音と共にハッチが剥がされ、中には満身創痍の上総の姿が露になり銃を構えている唯依と目が合った。

 

「山城さんっ!!」

 

『撃って…おねがい…私を…早く…』

 

「くっ、やっ、山城さん…」

 

 彼女が何を求めているのか直感的に感じ取ってしまった唯依は、手にしたハンドガンを上総に向けて構えた。だが、訓練生だった頃に互いに競い合い、笑い合い、苦楽を共にした仲間をこの手で殺めなければならない…という現実を受け入れられず、唯依の手が震え構えている拳銃の狙いを鈍らせてしまう。

 

「ラナロウさん!このままじゃあ………」

 

「分かってる!……だが、今の状況じゃあ……」

 

 何度も助けてくれたラナロウに願いを乞う和泉だったが、状況が状況なだけにラナロウでもどうしようもないと諦めかけていた。

 

 そして上総は唯依の姿を見据えて覚悟を決めたのか、はたまた頭の中で何かが切れたのか大声で叫んだ。

 

「撃ってよぉぉぉぉっ!!コイツらに喰われる前にぃぃぃっ!!唯依ィィィィッ!!」

 

「くぅっ!!」

 

 声は裏返り半狂乱で叫ぶ上総に、唯依は手にしていた銃のトリガーに手を掛け、力を込め……ようとしたその時だった。

 

 突然、戦車級の動きが時を止めたように動かなくなり、コクピットにいた上総の頭を掴もうとしていた戦車級の腕も止まっており、瑞鶴に群がっていた全ての戦車級は何故かビルの天井を見上げていた。

 

「動きが…止まった?」

 

 動きを見せない戦車級に唯依は不思議そうにしていると、自分の頭上からジェット音が聞こえ、仲間の援軍か何かが来たのかと天井を見上げてみた。

 

 するとそこにいたのは黒い戦術機……だったのだが、唯依の知っている戦術機である撃震や不知火とは全くデザインが異なっている機体だった。

 

しかもゆっくりと降りてくる黒い戦術機は足から装甲が順番に展開されていき、スライド展開された装甲の繋ぎ目から黄金色の光を放ちながら唯依と白い瑞鶴の中間地点にNT-Dを発動した【デストロイモード】へと変身したバンシィが降りてきた。

 

 黄金色の輝くバンシィが地上に下りたと同時に、瑞鶴に群がっていた戦車級が一斉に動き始め、戦車級の接近に対してバンシィは赤い瞳を光らせると左腕の【アームド・アーマーVN】を振り被り、向かってくる数体の戦車級を巻き込みながら殴り飛ばした。

 

 バンシィの攻撃で発生した風圧に唯依は目を瞑って倒れそうになった時、ふと身体を抱き上げられたような浮遊感を感じ、目を開けると物陰に隠れたラナロウと和泉がいた。

 

「唯依!大丈夫ッ!?」

 

「和泉?和泉なのねっ!!」

 

「おい。再会を喜ぶのはいいが、もう一人の要救助者を助けて、ここから脱出した時にしなっ!!」

 

 物陰に逃げ込んで親友と無事に再会できた唯依と和泉が喜んでいる中、ラナロウは戦車級と戦っているバンシィの姿を確認しつつ、上総をどうやって助けるか考えながら右耳のインカムに手をやった。

 

「アプロディア、聞こえるか?」

 

『はい。聞こえています』

 

「今、目の前にあの黒いユニコーンがいるが、パイロットは誰だ?誰が動かしている?」

 

『バンシィですね。あの機体には今、エリス・クロードが搭乗しています』

 

 ラナロウはインカムでアプロディアに連絡を取り、バンシィに乗っているのがエリスだと聞くと、唯依と和泉に目の前にいる機体が味方である事を伝え、今の内に助けに行くぞと言うと、二人は真剣な表情になり、三人は飛び出すタイミングを見計らう。

 

「おいエリス、聞こえるか?」

 

『………』

 

(ちっ、ノイズしか聞こえねぇ……こりゃこっちのタイミングで行くしかねぇか)

 

 バンシィに乗っているエリスに突入のタイミングを合わせる為に連絡を入れてみたが、何故か音信不通で呼びかけにも応じない事にラナロウは気になったが、唯依の話によれば上総は負傷しており、長時間の放置は不味いと判断し、自分達のタイミングで突入するしかなかった。

 

「いいか?俺が行くぞと言ったら一気に駆け抜けるぞ?」

 

「はいっ!」

 

「でっ、でも、もし途中で戦車級に見つかったりしたら……」

 

「そうならないように祈りつつ全力で走れっ!いいなっ!」

 

「はっ、はいっ!」

 

 ラナロウの提案に唯依は真剣に返事をし、和泉も怯えながらも返事を返した。物陰から戦車級相手に60㍉バルカンを乱射して大暴れするバンシィを眺めながらラナロウは上総機へ向かう道が開けた瞬間、「行くぞっ!」と叫び、三人は白い瑞鶴に向かって駆け出した。

 

 息を切らしながら瑞鶴に向かう三人だったが、奇跡的に戦車級と出くわさずに上総機に近づく事ができ、急いで管制ユニットまでよじ登ると負傷した上総を見つけた。

 

「山城さん!大丈夫!?」

 

「…篁さん、能登さん…」

 

 唯依の声に目を開けた上総に二人は安堵しているとラナロウはすぐに持ってきた簡易救急セットを広げて上総の状態を見る。

 

「うぅっ!」

 

「これは足が折れてやがる……多分落ちた時の衝撃で折れたんだろうな。これじゃあ脱出は無理な筈だ」

 

 上総の状態を見たラナロウは即座に唯依と和泉に怪我をしている場所に治療を施すように指示をし、ラナロウは上総の顔半分血まみれの顔をガーゼを使って拭き取ってやり、頭部の出血場所を探す。

 

「いっ、痛っ……」

 

「痛いって事は生きてるって証拠だ。おい、包帯を寄越せっ!」

 

「あのっ、包帯が今使ったので無くなっちゃいましたんですけど……」

 

「何っ!?不味いな、自分で押さえさせるわけにもいかねぇし……仕方ねぇ」

 

 頭部の出血が酷いと判断したラナロウだったが、運悪く包帯を切らしてしまったことを和泉から聞き、代わりに自分の額に巻いているバンダナを包帯の代わりにして上総の怪我の部分に巻き付けた。

 

「そこの二人、コイツを抱き上げるから両足を持ってくれ」

 

「はっ、はい」

 

「足を骨折してるから、ゆっくり持ち上げるんだぞ」

 

 応急処置を終えたラナロウは唯依と和泉を手伝わせてコネクトシートから上総をお姫様抱っこして抱き上げると瑞鶴のコクピットから出る。

 

 するとそこには戦車級の最後の一体をアームド・アーマーVNを展開させた四つの爪で捕まえて立っている血まみれのバンシィがおり、「グシャッ!」と生々しい音を立てて握り潰した時だった。

 

 さらに足下を見てみると先程までいなかった複数の兵士級がバンシィに踏み潰されて無惨な姿になっており、中には原形を留めていないモノもあった。それにより大量のBETAから噴出した鮮血が池のように出来ており、さながら“地獄絵図に立っている黒い獅子”ともいえる光景が広がっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 








 作者は山城さんが大好きですwあの大和撫子って感じが良い!ぜひ嫁に欲しい。

 妹にするなら安芸かな。



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