マブラヴ・オルタジェネレーション   作:京橋

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 う~む…マブラヴ世界の戦術機は電力関係で動いてますから
 提供するならSEED系の機体が良いかな?っと思うこの頃・・・・


第四話 可能性の白き一角獣、その名はユニコーン

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ラナロウの駆るガーベラ・テトラ改は、BETAと日本帝国軍が戦っている戦場に介入し、【如月 佳織】率いる嵐山中隊の危機を何度も救いながらも共闘し、BETAの斥候部隊を撃破することが出来た。

 

 しかし、その直後に新手のBETA群が出現し、嵐山補給基地をも別ルートから侵攻してきたBETA群によって陥落してしまった。

 

 そんな状況も知らず、如月はCPに連絡を試みるも全く応答がない。その様子にラナロウは敵に退避ルートを潰される前にこの場から撤退したほうが良いと話し、補給もままならず、新兵ばかりの嵐山中隊のメンバーではいずれは全滅してしまうと如月は判断し、第八防衛ラインまで後退する事を決めた。

 

 撤退する嵐山中隊にラナロウも偶然とはいえ、一度は共闘した相手をそのまま行かす訳にもいかず、とりあえず安全地帯まで同行すると12機の瑞鶴の後方から追いかけるようにガーベラ・テトラ改を移動させた。

 

 だが、ラナロウが彼女らに同行する真の理由は、本来の目的である母艦であるネェル・アーガマ改の補給及び修理ができる軍事施設を見つけることと、ガンダムの存在しない世界である“この世界”の世界情勢などの情報を得るために同行したほうが良いと言うアプロディアからの提案だった。

 

 

 

 

 

 

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 ここで再び時を戻し……先行出撃したラナロウの駆るガーベラ・テトラ改に同行しているアプロディアニューロから送られてきたデータを母艦にいるアプロディア本体が整理し、ブリッジにいるゼノンや、ブリーフィングルームで待機しているマーク達に映像と共に説明していた。

 

「これは……」

 

「こんな生物……見たことが無いわ」

 

 ブリーフィングルームのモニターに表示されている日本を侵攻しているBETAの突撃級と要撃級の姿にマークやエリスは驚きを隠せず、マリアとレイチェルに関しては要撃級の気味の悪さに気分を害しているのか、表情が険しくなっていた。

 

 もしもこの場にカチュアがいたりしたら要撃級の姿に泣き出していたかもしれない……

 

『ラナロウと共にいる私のニューロから送られてきたデータによれば、この生物は旅団規模の大群で進軍し、対する日本はバルバトスとの戦いで出現した人型兵器に酷似した機体で応戦している状況です』

 

「だが、この映像を見る限り、完全に日本の部隊が劣勢に追い込まれているな」 

 

 立体映像で説明するアプロディアにマークは日本の軍隊が完全に劣勢に追い込まれていると話す。そんな時、モニターの映像が切り替わり、燃える夜空を一閃の閃光が何本も飛んでいく映像になった。

 

「これは…何かのビーム兵器か?」

 

『いえ、これはビーム兵器の類ではなく、レーザーカッターのようなものを高出力で照射しているものと思われます。現にこのレーザー攻撃により何体もの人型兵器が爆散するのを確認しました』

 

 光線級のレーザー攻撃で多くの戦術機が撃破されていく映像に、マーク達はアプロディアからの説明を聞きつつ、どう対処するべきかの内容を聞いた。

 

「ともかく、この生物の侵攻を阻止せねば本艦の満足な補給並び修理の出来る施設も確保できない。よって我々もこの戦闘に介入し、侵攻中の生物の群れを撃破しつつ、ラナロウとの合流を目指す」

 

 ゼノンの指示にマーク達はブリーフィングルームからすぐにMSデッキに駆け出していき、ネェル・アーガマ改は現在の高度より海面スレスレのところまで降下させた。

 

 これはアプロディアが話していた光線級のレーザー攻撃がある程度の高度を取ると攻撃してくることを考慮しての事だった。

 

 MSデッキにやってきたマーク達はそれぞれの搭乗する機体の確認をしているケイの元へとやってきた。その他にも“ダブルオーの世界”でソレスタルビーイングが人員不足を補う為に使用していたメンテナンスユニットと接続したハロ数機が忙しく働いていた。

 

「今回の出撃だけど、バルバトス戦で使っていた機体は殆ど修理が終っていない状態だから、マークには前に使っていたユニコーン、エリスはスタークジェガンで。エリフリーデとレイチェルは二人の長距離移動用にリゼルとデルタプラスで出てもらうよ」

 

 MSデッキで待っていたケイがマーク達の乗る機体の説明をしている時、突然エリフリーデが声を上げた。

 

「ちょっと待て!何故、騎士たる私がこのような機体に乗らなければならないのだ!!」

 

「しょうがないじゃないか。ここから日本に向かうにしても単独で移動できる推進剤にも限りがあるし、戦場では何があるか分からないんだよ。だったらS・F・S(サブ・フライト・システム)機能も兼ねているリゼルとデルタプラスしかいないんだよ」

 

 騎士としてのプライドの為か用意された機体にエリフリーデは文句を言うが、長距離で移動するための推進剤の関係上、MSを乗せて移動が出来る機体を用意する必要があるとケイは言う。

 

「それにリゼルならZガンダムが装備していたビームライフルと同じ規格だからロング・ビームサーベルも使えるから、いざという時の格闘戦も可能だよ」

 

「うっ……まあ、そのような理由があるなら潔く引くのも騎士たる者には必要か……致し方あるまい…」

 

 どうにかエリフリーデを納得させたケイは溜息をつくと、今度はエリスが手を上げた。

 

「ねぇ、ケイ。あの機体は使えないの?」

 

「えっ?ああ、バンシィかい?一応機体状態はバルバトス戦で手に入れたもう一機のユニコーンのパーツを使って使えるようにはしてあるし、ユニコーンみたいにバイオメトリクスみたいな装置は付いてないから問題ないけど……」

 

「だったら私がバンシィで出るわ。機体性能的にスタークジェガンより良いみたいだし、少しでも性能が良い機体で出た方がいいと思うの」

 

 エリスはバルバトス戦で自分のクローンが乗っていたユニコーンガンダムの二号機であるバンシィで出撃したいとケイに申し出た。エリスの申し出に、ケイはバンシィ自体には問題はなく、相手の戦力がアプロディアからの情報によれば相当な数らしい。

 

 故にケイはエリスの申し出を了承し、彼女のクローンの少女が着ていた特殊パイロットスーツを取りに行った。彼女のクローンが着ていたため、サイズ的には然程問題は無かったので、すぐにエリスに着させた。 

 

 マーク達が乗り込んだ四機のMSはネェル・アーガマ改のカタパルトデッキへと移動し、それぞれ出撃していく。

 

『皆さん、今からラナロウと共にいる私のニューロがいる地点をマップに表示します。ですが、この世界の地形データの情報が不足しているので、細かな部分は簡略的な表示になっていますので、気をつけてください』

 

「了解した」

 

 全機出撃した後、ブリッジにいるアプロディアからマーク達の乗る機体にデータが送られ、ラナロウとアプロディアニューロの乗るガーベラ・テトラ改のいる位置がマップに表示された。

 

 そしてMA形態に変形したレイチェルの乗るデルタプラスにはマークのユニコーンガンダムが乗り、エリフリーデの乗るリゼルにはエリスのバンシィが乗り、マップに表示されている地点に向かって飛翔していった。

 

 

 

 

 

 

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 BETAの侵攻を防ごうとしていた日本帝国軍の正規軍は撃震部隊で攻撃を続けていた。しかし帝国軍の撃震の装備ではBETAの先鋒である突撃級の猛進を止める事が敵わず、突撃砲の弾切れなどを起こす機体が増え始めていた。

 

 上空から飛来してくる補給コンテナが地上に降りると、補給が必要な小隊が次々と補給に向かった。

 

だが、補給中の戦術機は全くの無防備状態になってしまうと同時に、補給コンテナが着陸した地点が突撃級の進路上になってしまい、次々と突撃級に轢かれて爆散していった。

 

「これ以上…BETAの好きにさせるものかぁぁぁぁっ!!!」

 

「帝都には絶対入れさせないっ!!」

 

 帝国軍の衛士達は例え無駄であろうとも1200年もの歴史を持つ帝都・京都への侵攻を阻止してみせると叫びながら戦ったが、奮闘虚しく部隊は木っ端の如く蹴散らされていき、徐々に八藩防衛ラインは突破されようとしていた。

 

「くそっ!!このままでは防衛ラインが突破される……」

 

 多くの撃震の姿の中にいた94式戦術歩行戦闘機【不知火】の改修機である【不知火・壱型丙】に搭乗している【真田 晃蔵】大尉は機体の左腕を損失しながらも右腕と可動兵装担架システムにマウントされている突撃砲を駆使して要撃級に囲まれながらも奮闘していた。

 

 しかしBETAの圧倒的な数の前には“焼き石に水”の如く、とても防衛線を死守する事が出来ないでいた。だが、次々にBETAの餌食になっていく運命である衛士達の声が響く戦場に突如希望の光とも言える閃光がBETAの群れに降り注いだ。

 

「なっ、何だ!?」

 

 突然の眩い閃光に真田は右腕をカメラアイの前に持ってきて光が収まるのを待ち、暫くした後に周囲の状況を確認すると、目の前にいたBETAは無惨な姿でただの肉片と化していた。そして閃光が落ちた場所は線が出来るほど大きく地面が抉られていた。

 

 その光景に真田の不知火・壱型丙や生き残っていた他の撃震は唖然としていた。

 

「こっ、これは……一体…?米軍か何処かの新兵器か?」

 

 BETAを一瞬の内に肉片へと変えた謎の閃光に驚く真田に、何処からか航空機のエンジン音のような音が遠くから徐々に近づいてくるのに気づき空を見上げた。

 

 すると夜空を飛行する灰色の戦闘機らしき機体に乗った白い角のある白い戦術機と、ダークブルーの奇妙な形をした戦闘機らしき機体に乗った金の角のある黒い戦術機が通り過ぎていった。

 

 ところが灰色の戦闘機だけが途中で旋回し戻ってきた。そして乗っていた白い戦術機が飛び降りると、灰色の戦闘機が戦術機に変形して白い戦術機と共に地上に降りてきた。

 

「なっ!?戦闘機が戦術機になっただと!?」

 

『こちらマーク・ギルダー。そこの機体、まだ動けるか?』

 

 戦闘機が人型に変形するなど見た事の無い真田は驚いていると、真田機に音声のみでマークが通信を入れてきた。

 

「おっ、お前達は何者なんだ!?一体何処の所属だ!?」

 

『すまないが詳しく話している時間は無い。それより生き残っている連中を連れてここから逃げろっ!追っ手は俺達が食い止めてやるっ!!』

 

 得体の知れない戦術機二機に問い掛ける真田だったが、マークの言葉を聞いてレーダーを見ると、更なるBETAの増援がこちらに向かっているのを確認できた。

 

しかもレーダーを見る限り増援の数は軽く見ても数百単位規模のはBETAがいると思われた。

 

「無茶だっ!たった二機で数百体のBETAを相手にするなんてっ!!」

 

『大丈夫だ。そちらの撤退できるまでの時間くらいは稼いでみせる。だから早く撤退して生き延びろっ!!』

 

 無茶なことをしようとしているマークに真田は叫ぶが、生き残っている帝国軍の撃震の過半数はとても戦闘を継続できる状態では到底言えず、自分の乗っている不知火・壱型丙も元々は機体能力の強化はできた反面、機体稼働時間が通常機より格段に下回るという欠陥を残してしまっている機体である為、これ以上の戦闘は無理に近い……

 

「……全機に告ぐ。これより後方へと撤退せよ……」

 

 真田は八藩防衛線を死守できなかった事に悔やみながらも、“生き延びろ”と言うマークの言葉に感謝しつつ、他の撃震達と共に後方へと撤退していった。

 

 帝国軍の戦術機が撤退していったのを確認したマークは手にしていたビームマグナムをレーダーに映るBETAの群れの進行方向に向けると、トリガーを引いてビームマグナムを発射した。

 

 ビームマグナムは一般的なビームライフルの数倍に匹敵するエネルギーを発射することができ、普通のMSでも掠っただけで撃破することが可能な威力を有している。

 

 もの凄い爆音と共に発射された高エネルギーは一直線にBETAの群れに突っ込んでいき、高エネルギーの波に飲まれたBETAは消滅し、ビームの通った場所の周囲のBETAも、まるで切り刻まれたかのように力尽き、さらに発生した衝撃波で吹き飛ぶBETAもいた。

 

「さすがビームマグナム。レーダーに映っていた熱源反応が一気に消えちゃった」

 

「ああ。だが、カートリッジの残りがあと三発…ガンダムの世界じゃないこの世界では余り多用できないな……何処でカートリッジの補給が出来るか分からないからな」

 

 BETAを一掃するビームマグナムの威力にレイチェルは歓声を上げるが、マークはビームマグナムのカートリッジの補給がこの世界でもできるかどうか不安で、余り無駄撃ちは出来ないと判断し、ビームマグナムを背中にマウントした。

 

 そして腰のハイパーバズーカを右手に持ち、シールドの下に装備されたビームガドリングガンを構えてスラスターを噴かしてビームマグナムの砲撃から逃れた残存BETAに向かって行き、レイチェルのデルタプラスもビームライフルを構えてユニコーンガンダムの後を追い、BETAの撃退に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

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 マーク達がネェル・アーガマ改から出撃し、八藩防衛線にユニコーンガンダムがやってきた頃……嵐山中隊と共に第三ラインまで後退していた時、アプロディアからマーク達が出撃した事をラナロウは聞き、合流する為にこちらの位置を教えるようにとアプロディアに指示した。

 

 しかし嵐山中隊と共に後退したのはいいが、移動中に跳躍ユニットが破損してしまい、孤立してしまった戦術機を回収したり、BETAの猛攻の前に錯乱してしまった衛士を鎮めたりと時折足止めをくらってしまい、マーク達とは別ルートで侵攻してきた後続のBETAに徐々に追いつかれようとしていた。

 

 そんな状況にラナロウは、損傷の激しい瑞鶴…特に志摩子の瑞鶴や途中で拾った衛士連中を第一、第三小隊に任せて共に先行させ、ラナロウは比較的損傷の少ない第二小隊の唯依と和泉、第三小隊の上総の四人で殿を務めると如月に話した。

 

 如月は殿を務める唯依と和泉と上総の三人に「必ず生きて帰って来い」と言い、ラナロウに「三人をお願いします」と伝え、9機の瑞鶴は第八防衛ラインに向かって行った。

 

 殿を務めて時折出現するBETAにはガーベラ・テトラ改のビームマシンガンで一気に殲滅させ、唯依達はラナロウの援護に回って戦いながら進んでいると、離れた空に大量の砲弾が飛来し、後続のBETAに降り注ぎ大きな爆音が鳴り響いた。

 

「これは……艦砲射撃?」

 

「ラナロウさん!今の内ですわ!この隙に後退しましょう」

 

「そうだな。急いで下がるぞ!!」

 

 砲撃のおかげで接近中だったBETAの侵攻を少しは衰えると思った四機は跳躍ユニットを起動させて先行している如月達との合流を目指した。

 

 荒野から市街地に入ったガーベラ・テトラ改を殿に三機の瑞鶴は先行してビルとビルの合間を縫って飛行を続けていた。このまま順調に行けば生きて帰れると思っていた唯依達だったが、前方のビルが突然崩れ始め、そこから巨大な虫のような姿をしたBETAが出現した。

 

「要塞級!?」

 

「危ないっ!!」

 

 上総の声に和泉の瑞鶴が急停止しようとしたが、そのせいで上総機と衝突してしまい、さらに唯依機も回避しようとしたが要塞級の頭部にぶつかり、瑞鶴三機の内上総機と和泉機の二機はビルの中へと突っ込んでいき、唯依機はビルの屋上に墜落してしまった。

 

「ちっ!何てデカさだっ!!」

 

 約66メートルものある要塞級の大きさに驚くラナロウだったが、ガーベラ改に気づいた要塞級は衝角付き触手で鞭撃を仕掛けてきた。

 

 ラナロウは機体を急上昇させて要塞級の真上に移動し、ビームマシンガンと110mm機関砲を一斉射して要塞級の頭部と前足と胴体の繋ぎ目を狙って攻撃を仕掛け、要塞級は関節部分を傷つけられた事でバランスと保てなくなり血を噴出しながら倒れた。

 

 要塞級を倒したガーベラ改はすぐに屋上に墜落した唯依の瑞鶴の元へと向かい、山吹色の機体の傍に機体を寄せて着地させた。

 

アプロディアに唯依機の状態をスキャンさせて確認させると内部に生命反応があることが分かり、ラナロウはコクピットハッチを開いて外に出ると前方に開いた大穴を見た。

 

「あっちの機体は大丈夫として……残りの二機はあの穴の中か……」

 

『救出に向かう気ですか!?余りにも危険です!!』

 

「そうは言ってもな……何かほっとけねぇんだよな……アプロディア、何かあれば連絡をしてくれ」

 

 ラナロウはインカムを耳に付けるとガーベラ改に備え付けられている簡易救急セットとマシンガンを持って機体から降り、穴の開いたビル内へと走っていった。

 

 

 

 

 

 

 

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 要塞級との衝突を回避しようと急停止したのが悪かったのか、戦術機同士の衝突でビル内に落ちた瑞鶴のコクピットで気絶していた和泉は目を覚ました。

 

「うっ、ううん……」

 

 和泉の網膜投影システムに映る自機のステータスを確認すると、機体状態は全て赤色で表示され、既に動く事すら敵わない状態になってしまっていた。

 

「いっ……いや…唯依!?山城さん!?」

 

 静寂に包まれるコクピット内で和泉は唯依と上総に通信を入れてみるが、ノイズのみしか聞こえず、まさか一人取り残されたのではないかと勘違いして慌ててライト付きのハンドガンを手に機体のコクピットハッチを強制排除して外に出た。

 

 外は戦術機の墜落時に発生したのか小さな火災が薄暗い通路を辛うじて照らしてくれていた。しかし通路を歩く和泉の脳裏には座学で習った小型種のBETAの存在を思い出され、BETAは“人を喰う”という恐怖に体を震わせていた。

 

恐怖により荒い息をしながら移動していると、突然自分の口を何かが覆い被され物陰に引きずり込まれた。

 

「んっ!?んんぅぅぅぅぅっ!!!!!???」

 

「シィィィ……静かにしろ……」

 

 小型種に捕まったと思った和泉は必死に叫び声を上げながら暴れるが、耳元で囁かれた声のあった方に顔を向けると見知らぬ男がいた。男はゆっくりと左手の人差し指を和泉の前に出し、ある方向に向けると和泉も指に導かれるようにそちらを見る。

 

 そこにはモゾモゾと動いている小型種の中で対人探知能力の非常に高い【兵士級】の姿があった。

 

「っ!?」

 

 数体の兵士級の姿に和泉は目を見開いて動きを止め、必死に気づかれないように身を固めた。男は和泉の口を塞いでいた手を離すと無言でサインを送り、和泉を連れて移動していき、兵士級の姿が見えなくなったのを確認した男は溜息をついた。

 

「ふう…何とかなったか……それより大丈夫か?」

 

「あっ、あなたは……?」

 

「こうして直に会うのは初めてだったな。俺の名はラナロウ、お前らと一緒にいた赤い機体のパイロットだ。それより悪かったな、いきなり後ろから驚かせるようなことして……」

 

「いっ、いえ……おかげで助かりました……」

 

 和泉を救った男の正体はラナロウだった。ラナロウは一先ず突然和泉の口を塞いで物陰に引き込んだ事を謝り、和泉がそのまま歩いていったら兵士級に見つかってしまうと理由を話すと、和泉はラナロウが自分を見つけてくれなかったら兵士級の餌食になっていたのではないかという光景を想像してしまい、一気に血の気が引いていった。

 

 自分の命が彼のおかげで助かったのだと痛感する和泉は、謝罪するラナロウに助けてくれた事にお礼を言って頭を下げた。

 

「そういえば、もう一機一緒に落ちた筈だが、何処にいるか分かるか?」

 

「え~と……ちょっと待って下さい」

 

 ラナロウの問いに和泉は一緒に落ちた上総に通信で呼びかけてみるが、聞こえてくるのはノイズのみで何も聞こえず、首を横に振ってラナロウに分からないと伝えようとした時だった。ノイズ音の中に自分と唯依の名を途切れ途切れで呼ぶ上総の声が聞こえた。

 

「……能登…さん……篁……さん……」

 

「山城さん!?生きているの!?山城さん!!」

 

 上総が生きている事に安堵する和泉の様子に、ラナロウはライトを照らしながら和泉の瑞鶴のあった位置から上総機が墜落していった方向を予測してみると、MSサイズくらいの大きさが無理矢理通ったような崩れ方をしている外壁を見つけた。

 

「落下地点から予測すると……さらに奥に進む必要がありそうだな」

 

「じゃあ、あの奥に向かっていけば?」

 

「お仲間がいるってことだ…それよりお前は屋上に行け。そこに仲間がいるはずだ」

 

「いえ、私も行きます!」

 

 上総の瑞鶴がいるだろう地点にマシンガンを構えて歩き出したラナロウに和泉も後に続く。一度は戻れと言ったラナロウだったが、さすがにこの場に彼女一人置いて行く訳にもいかず、和泉に「自分の身は自分で護れよ」と言って二人はさらに奥に向かって歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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