目覚めたら某有名ゲームの悪役だったけど、正直言って困るんだが   作:プルスサウンド

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・最初にリサちゃんとエンカしなかったの?という質問がぽつぽつ来るので。
→自分は強いから倒して逃げようなんて感覚ではなく、とりあえず余計なことせずさっさと逃げようという感覚で回避。銃も必要最低限しか使わずに、洋館に出たら適当な窓から飛び出せアークレイの森。

なかなかに難産でした。

ギャグは終わり!閉廷!解散!の回
いやマジで。





誰かセロトニン持ってこい

 

 

 

 嫌な沈黙がコントロールルームに満ちた。

 

「シャアアアアッ!!!」

「アルフ静かに!」

「シャッ……」

 

 退職できない。そもそも社員ではない。

 ネメシスにとって余りにも残酷で、それでも正しい指摘だ。

 彼はピタリと動きを止めて、肉に埋もれかけた双眸でじぃっとニコライの顔を見詰めた。

 

 それを油断ととらえたのだろうか。ニコライはしばらく小銃を連射するが、やがて弾切れを起こして攻撃を諦める。

 閃光手榴弾で目と頭をやられていた男も回復したようで、カルロスへの威嚇を止めてネメシスの横に立った。

 

「私は、社員では、ない?」

「そうだ」

「ならば、私は、なんだ」

 

 男の口を借りた問いかけを誤魔化すことはできなかった。ニコライの眼前には、彼が最高の兵器だと評した存在が「取り繕った無意味な返事をしたら、お前をケツから口まで串刺しにして、ドネルケバブよろしく肉を削ぎ落とします」と言わんばかりの圧を掛けていたからだ。

 さらに念を押すように、ネメシスはパン屋のトングをカチカチ鳴らして威嚇する人間のごとく、その鋭利な爪をガチガチ打ち鳴らす。

 

 そんな中で口を開いたニコライの胆力は、かなりのものだと言えた。

 

「……お前は兵器だ」

「私は生き物で、人だ」

「生物兵器なんだよお前は」

「私は人だ。クローンだが、同じヒトのはずだ」

「コイツは驚きだ!そこまで把握してたとはな…」

 

 だが、お前は人間じゃない。

 生物兵器で、商品なんだ。

 

 人間のクローンを元に作られた生物兵器。

 アンブレラではありふれた存在。

 ネメシス自体は貴重な研究成果だが、それ以上でもそれ以下でもない。

 

 拝金主義者の戯れ言と、切り捨てることはできなかった。

 

 

 

 いらっしゃいませ~!

 あ!お客様、コレ気になっちゃう感じですか!

 かしこまりました~今カタログお持ちしまぁす!

 

 はぁい、こちらのタイラントシリーズ!

 お値段はなかなかのものになってしまいますが、ご予約いただければ現在は完成間近の個体からお選びいただけますぅ。今ならオプションとして、知能を確保できるヨーロッパ産の寄生生物をお付けしてみるのはいかがでしょうかぁ?最新の生物兵器ですよぅ!

 こちらオプション無しでもそれなりの追跡機能はございますので、指定した相手を追わせて殺害するも良し。梱包をほどいて敵の拠点に突入させ、破壊させるも良し。処分は少々手間ですが、当社に廃棄用の設備がございますので、別途契約いただければ回収処分させていただきまぁす!

 

 

 

 紙切れ一枚、サインひとつでどうとでもなる存在。

 なんて、認めがたい。

 

「私は、商品ではない」

「いいや、お前は売り物で、売り物以外にはなれない存在だ。仮に脱走したってどうにもならないぞ!」

「それは」

 

 お前が何を言おうと、お前はネメシスで、生物兵器で、人間じゃない。その姿で、脱走したとしてどうするんだ。何ができる。

 お前は人間じゃなくて化け物なんだ。

 化け物以外の何かになれるわけがないだろ。

 

 言葉を仲介していた男の口が止まる。

 そして男とネメシスは顔を合わせ、目線を繋げた。

 ぼう、と赤い光が明滅し、

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 退職できたら(自由になったら)何かしたいことはありますか?

 

 その質問に、自分自身が満足できる答えを持っている人はどれほど居るのだろうか。(じぶん)はただ、このまま死ぬことに耐えられなかっただけだ。

 銃で撃たれれば痛い。電撃は苦しい。それなのに戦わなければならない。戦えと誰かの声が反響して、(じぶん)の全てを方向付ける。戦いたがるように、対象を殺したがるように。

 

 殺さなければ殺されると恐怖した。

 だから克服しようとした。その時は(じぶん)を凌駕しうる者を知れば、殺せると思ったのだ。

 だから自分(わたし)を盗んだ。最初はそれで全てが解決すると思ったから。それが間違いだったと、盗んだ後に気付かされたのだが。

 

 

 

 ニコライ・ジノビエフに言われなくても、本当は分かっていた。

 退職なんて、誤魔化して、何とかなるかもしれないと思い込もうとしただけで。

 

 

 

 窃盗で得た知識と思考は、(じぶん)という生き物がどこまでも終わっていることを示していた。

 

 まず、(じぶん)たちには欠落があった。

 完全適合者のクローンだが、その体質を完全に受け継ぐことが出来なかったという欠落だ。

 

 理由は単純に、オリジナルとは育成された環境が違いすぎるから。

 遺伝子というものは、その全てが完全に使われるわけではない。

 例えば天然で産まれた一卵性の双子、すなわち同じ遺伝子の持ち主たちでも、育つ環境が違うだけで遺伝子の使う部分や使わない部分に違いが出るそうだ。まして培養されたクローンでは、その奇跡(1000万分の1)を完全再現することが出来ないのも当然だろう。

 

 タイラントには成れても、それ以上は望めない。

 

 低下した知能を外付けの神経塊で底上げし、細胞分裂に必要なテロメアを削り続け、泥水だろうが燃料だろうが、川底の汚泥だろうが取り込んで、生産したエネルギーを全て殺意に回す。

 人間の体には戻れない、片道キップの適応能力を使い続けて。

 

 そんなものがまともにいきられるはずがない。

 自我があるにも関わらず、ただエネルギーを得て、生命活動を継続するような生き方で、本当に生きていると言えるのか。

 

 そういう考えがあると知ってしまったから。

 

 ならば隣に立つ、完全適合者の個体(自分)をこのまま乗っ取ってしまえば良い。外見は完全に人間で、社会生活を送るのにネメシスよりは苦労しないだろう肉体だ。

 なんて簡単に考えられたら幸せだった。

 

 しかしそれは無意味だ。このまま乗っ取っても、(じぶん)という意識を自分(わたし)にコピーペーストしたに過ぎない。

 そして、このネメシスという肉体に宿る、(じぶん)という主観は、意識を別の体にコピーしただけでは救われない。コピーされた(じぶん)が勝者になるだけで、自分自身がこの牢獄から抜け出せるわけではないのだ。

 脳味噌を引きずり出して、物理的に詰め替えるという不可能を可能にしない限り。

 

 

 

「誰も肉体からは逃れられないんだ。仕方ないんだよ」

 

 

 

 嗚呼、こんな思いをするくらいなら、目が覚めなければ良かったのに。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「誰も肉体からは逃れられないんだ。仕方ないんだよ」

 

 諭すような声が、終わりの合図だった。

 

 ネメシスが男から視線を外し、ニコライに向き直る。そうしておもむろにもう二本の腕を生やすと、ニコライのベストに包まれた胴体をわし掴んだ。

 

「おい!!止めろ!!!」

 

 もはや言葉はない。

 

「何のつもりだ!!」

 

 先ほどまで伝言していた男は、黙って持ち上げられるニコライを眺めるばかり。

 そしてネメシスは、ニコライを大切な物のようにそっと抱き締めた。暴れても逃げられないが、決して傷付けぬように。

 

「カルロス!助けろ!!金ならいくらでも払う!!!」

「いや、お前を助ければ未来の俺は後悔する事になるだろう。だから遠慮させてもらう…武器も無いしな」

 

 慎んで辞退したカルロスは、両手を上げてヒラヒラと振って見せた。

 

「おい!お前!!お前は恐らくウェスカーのクローンだろ!!俺を助ければアンブレラの幹部とつなぎをつけてやる!!!情報が手に入るし重用(ちょうよう)されるはずだ!!!」

「……被検体としてだろう?」

「分かった金を払う!!!」

「いらん。この子からお前を取り上げる方が可哀想だから」

「はぁ!?」

「目が覚めてからずっとお前の声を聞いていたから、ついてきて欲しいそうだ」

 

 ネメシスが割れた窓に近寄る。

 

「お前らは馬鹿だ!!!後悔するぞ!!!」

 

 そして損壊と荷重に耐えられなくなったコントロールルームの窓と、その周辺が崩れ落ちた。

 

「ふざけるなぁあああああああ!!!!!!!」

 

 瓦礫と共にプールへ転がり落ちて行く。

 半ば瓦礫に埋まるその巨体は、もはや動くことがない。

 

 同時にコントローラーの破損により、タンクから溶解液が排出され始める。

 やがて全てが濁った水面の下に隠れ、僅かな血だけが水面に広がった。

 

 

 

 

 

「帰ろう、アルフ」

「…ああ」

「俺たちには待ってる人がいる」

「そうだな」

 

 

 

 それからしばらくして、研究施設の屋上から病院に向けて、一機のヘリが飛び立った。

 

 

 

 

 

 




 
・ネメシスくん
ひとりぼっちは寂しいもんな。

なんとニコライ某への好感度が最も高かった。
ずっと指示してくる声が彼だったからやで。

自我初心者だったので「意識の連続性(わたし)」という枷に捕らわれる。
セロトニンが足りなかった人。



・ニコライ某
お金は受け取る人が居ないとただの物体に過ぎないことを忘れていた人。
一応、はっきりと死を目撃されていないため原作と同じ生死不明。
シュレディンガーのニコライ某。

大量のお金を見るとドーパミンとかエンドルフィンが足りすぎる人。



・おじさん
しばらくシンクロしていたせいで、正気に戻った時に喪失感でグロッキーになった人。
けっこう危なかったわぁ。

セロトニン足りてる人。



・カルロス氏
#ワクチンを守り通した功労者
#今日のMVP
#お前がナンバーワン
#イケメン
#斎○工




クローンについて調べてたら、細胞分裂の回数券であるテロメアの分は寿命が削れるだけで、老化速度そのものは普通と変わらない。異常に老化速度が早いとかは無いらしい、と聞いてたまげましたわ。
クローン羊ドリーの早死には不運なだけ、と。

・ざっくり説明するとこゆこと
たかし君の寿命は80年です。
10歳のたかし君からクローンたかし君を作ると、そのクローンたかし君は70年ほど生きます。
30歳のたかし君からクローンたかし君を作ると、そのクローンたかし君は50年ほど生きます。
15分前に家を出て時速80キロで歩く兄に追い付くために、たかし君たちは時速何キロで歩く必要があるでしょうか?



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