銀の兄【修正版】※半分凍結中   作:泡泡

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 アドル視点です。


すれ違い・表

 

 結局、待たされた部屋で誰かと会う事は無かった。と言うか用事が出来たと言うのが結果だ。依頼主から殲滅業務を頼まれ、ほんの二千人の小さな組織を壊滅させるお仕事を待っててもらったのだから。

 

 再三、連絡が入りもう待っててもらうのも限界だったので、支配人には丁寧な断りの返事を伝えてもらって劇場を後にした。未練があると言えば未練があるのかもしれない。何度か振り返りながら歓楽街を立ち去った。

 

 会いたいと願った相手が、その部屋に来たのはほんの数分後だったと聞いている。すれ違ったわけだ。それでも俺は黒月(ヘイユエ)の仕事を受けたのだから果たさねばならない。

 

 「待ちくたびれたよ。来ないかと思った。おや・・・?少し不機嫌気味かね?」

 

 「すまないな。会いたいと言われて待たされたのに会えなかったものだから少し不機嫌だったかもしれない。それにしてもよくわかったね?」

 

 俺は仕事(暗殺)をする時には、手作りの狐のお面をかぶって仕事をしている。恨まれて逆襲にあったりしないための措置と言えよう。

 

 「それはそうさ。(イン)も同じような面を被っていてね。微妙な表情の変化には手間取らなくなってきたかもしれないよ・・・」

 

 冗談交じりに答えるのは黒月(ヘイユエ)の実質上の上司ツァオ氏だ。頭脳派と言われてきているが鍛えられている肉体は隠せない。多分、相当な武道派でもあるだろう。

 

 「それで・・・今日の仕事の内容を復習させてもらってもいいだろうか?」

 

 気分を変えるためにそう話を切り上げる。

 

 「そうだったね。最近、ルバーチェの様子が慌ただしいものになってきている。そこで、偵察任務とこちらにとって不利益を晒す組織だったら暗殺してもらえないだろうか?」

 

 「フム、偵察兼暗殺ってところか・・・?」

 

 「ああ、そうだね。君の評判は聞いているよ。何でも敵さんから≪狂喜乱舞≫と言う異名を与えられたそうじゃないか。その二つ名に恥じないように動いてくれればほかには何も言わないさ」

 

 「あんまり好きじゃねぇさ。だが、頼まれたからにゃあ殺るさね」

 

 その言葉を残して消え去るアドル。

 

 「・・・ふぅ、やれやれ。(イン)より手懐けられるかと思いきや難しいですね。それに私が闘っても勝てるかどうか。と言うかやられますね。先行きが地獄だというのは恐ろしいですね」

 

 『ツァオらしくない。弱気な発言だな』

 

 「おや、(イン)殿。遅かったじゃありませんか」

 

 「っ、そんなことはどうでもいい。私に仕事は無いのか?」

 

 「ええ、今日あなたに頼もうと思っていた仕事はありませんよ。来てもらってなんですが、帰ってもらって結構です」

 

 「・・・そうか。で、先ほどツァオと話をしていた人は誰だ?」

 

 「気になりますか?あの人は最近、黒月に協力している≪狂喜≫と名乗る人ですよ。まぁ、本当の名前なんてわかりませんが。そう言えば共和国東方人街の出身と聞いていますよ。(イン)殿と一緒の出身ですね?」

 

 「っ・・・・・・」

 

 「おやぁ?様子が優れないようですが、帰って休んだほうが良いのではないですか?」

 

 「そ、そうする。邪魔したな」

 

 少しふらつきながらも、銀は符を使ってツァオのもとから立ち去る。ツァオは一人ほくそ笑んでいたことを誰も知らない。

 

 

 ところ変わってアドルの眼前には数千人規模のルバーチェの末端構成員が並んでいるのが見える。

 

 「ここか?・・・・・・・・・・・・憂さ晴らしに丁度いい。――世のため人のため俺のため死んで貰おう――」

 

 石造りの建物の中には重機関銃、絵画、壺、その他の物品が所狭しと並んでいた。この先始まるオークションに出品するのだろうか。

 

 「まぁこれから無用のものになるのだし別にいっか。今日の気分はこれ。鋼糸(こうし)ー!面倒くさいから、バラバラでいいよねー」

 

 ちょっとハイになっているアドルだった。そして声を出していれば気づかれるのも当たり前と言えよう。

 

 「な、なんなんだ。貴様は?どこから入った?がはっ・・・」

 

 「う、うわぁぁぁぁ・・・ぎゃあああ」

 

 二人同時に四肢バラバラに切断されて、そこらの地面に散らかされる。

 

 「はぁはぁ、落ち着くぅ。・・・・・・ちゃっちゃと終わらせてミラ貰いに行きましょうか!」

 

 数刻後、生きているものは末端組織を統括している少し武芸に秀でた人物だけが残っていた。

 

 「な、何だよ。お前はっ!どうして機関銃を喰らっても無傷なんだよ!?」

 

 「ん~?見えないの。ほら、これだよ。俺の周りをキラキラしている糸、これでぶつ切りにしていったのさ」

 

 「そ、そうか。お前が≪狂喜乱舞≫かっ!」

 

 「それ、キ・ラ・イ♪」

 

 『か』の声がするかしないかで鋼糸で真っ二つにしたアドル。

 

 「少し気は紛れたかなぁ。ツァオに終わったって報告しないと。・・・・・・あ、ツァオ?終わったよ。報酬は明日取りに行くから・・・うん、うん。ではでは~」

 

 「さてと、今日やることは終わったし寝床に戻って祝杯でもあげようかなぁ~?」

 

 少し補足情報として挙げておくと、アドルは旧市街にある古いアパートに住んでいる。それが何を意味しているかと言うと、ばったり近隣の住民と出会う可能性もあるということである。

 

 やっと帰ってきたアドルの住居・・・・・・。そこには紙片と果物が置かれていた。

 

 

 ――こんにちは。私は二つ隣に引っ越してきた者です。お留守のようでしたので働き先で大量にもらった物を添えておきます。今後ともよろしくお願いします。  リーシャ・マオ――

 

 

 「はぁ~~。この広いクロスベル市でどうしてこんなに会う機会が増えるのかね?誰かの陰謀としか思えないんだけれど・・・。まぁ、いただきます」

 

 





 

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