ヘンリー市長からの要請で姿を見せなくてもいいから、アルカンシェルで行われる公演の護衛を頼まれた。捜査一課や特務支援課もいるのだから、心配いらないのでは・・・?と言ったが公演のプラチナチケットをちらつかされてあっさり要請に応じた。
「全く、ヘンリーさんも心配性なんだから・・・。ガイの弟のロイドがそこまで気付かないとは思わないけれど。こちらもちょっと気になる子はいるしね…。準主役のリーシャ・マオ・・・。妹という括りになるとは思うけども最後に会ったのは、まだ幼かったから俺の外見を見て分かりはしないとは思うが・・・」
アドルが席を取っているのは市長らが座っている場所の真下・・・。何かあればすぐに行くことが出来る位置になっていた。
物語は第二幕に差し掛かる。リーシャの登場だ。・・・深淵の中、月の蒼さが際立ちそのまま演技を続ける。
「ふむ・・・ここから見るに鍛錬は続けていた様子。あとはここでの練習の成果というわけ・・・か」
アドルは片時も不審人物がいないかどうか、気を配っている。これは文字どおりの意味で、本気を出せば市内全域に渡って誰がどこにいて何をしているか?と言うレベルまで人探しができる。が、それにも欠点があり頭をガンガンと叩くようなレベルの頭痛が半端なく押し寄せてくるので多用できない。
「ロイドとエリィが劇場内を捜索しているのか。あとは市長の周りにも怪しい人は見当たらないし大丈夫なのか?」
アドルが探っている間も、太陽の姫イリアと月の姫リーシャの演舞が続いている。
「っ、誰かの心が揺らいでいる。何か
と、事態は思ってた以上の速さで進展していたようだ。すぐ頭上から争うような音が頻繁に起きていた。漏れてくる声を頼りにして何が起こっているか確かめていた。
判明したことは市長の秘書が銀の名を語って脅迫状を送り自分に目が向かないようにしていた事。そして市長を盾にしそのまま逃走を図る秘書。
高笑いが聞こえ、段々と秘書の足音が遠ざかってゆく。ロイドともう一人の捜査一課の男性が秘書を追いかけて行ったのでこちらもそろそろ動こうかな。氣で強化した足でジャンプし、市長の
「よっ、ヘンリー市長大丈夫か?」
「えっ・・・・・・ア、アドルさん?どこから?てかいつの間に・・・?」
「フフフ、少しやられちゃったわい・・・・・・」
「無理に話さなくていい。少し体を見せてもらうぞ・・・・・・」
「でもどうしてここにいるの?」
「市長の頼みでね、裏方に徹したわけだが・・・。ふむ、どうやらロイドたちによって秘書は捕らえられたみたいだ。ヘンリーさん、体のほうは大丈夫なようだ。少しの切り傷と打撲はあるようだが・・・」
「うむ、大丈夫じゃよ。それにしてもアドルに助けられたのはこれで二度目じゃな・・・。」
応急処置を終えて、首だけこちらを向いてそうつぶやく。
「ああ、そうだったね。でも今は・・・・・・」
「ああ、大変なことが起こったが今はこのまま舞台を見届けよう。それがアルカンシェルの諸君に対する礼儀だからね」
「もったいないお言葉、ありがとうございます」
横に控えていたアルカンシェルの支配人が市長にお礼を告げた。
「さてと、一件落着かな」
アドルはこの事態の前後数回に渡って、視線を感じていたが場所が場所なのでと割り切っていた。しかし・・・一度目の邂逅は間近に迫っていた。
プレ公演も終わったので余韻に浸りつつも会場を後にしようとした時だった。先ほど市長の横に控えていた支配人から呼ばれたのは・・・。
「あのー少しの時間よろしいでしょうか?」
「ん?ああ、さっきの支配人さんですか。何の用事です?」
「あなたに会いたいという方がおりまして、会って欲しいんです」
「それは構わないですが・・・?」
「ほっ。そうですか!ではこちらへ」
九十度の角度で頼み込まれたら、嫌って言えない・・・。
「まぁ、大体の予想はつくけど・・・ね。リーシャ?君はどう出る?そしてどうしたい?」