完全オリジナルな話です。通商会議の前夜、アルカンシェルでアドルが護衛した時の話となっております。
通商会議の前夜、アルカンシェルにより特別公演が開催されていた。そしてこの場所にアドルも護衛として見守っていた。ただし、影としてだが・・・。クローディアとユリアには
『アドルさん。聞こえていますか?』
『聞こえております、クローディア殿下。どうかアドルとお呼びください』
久しぶりに再会した時のような少女の声が聞こえてくるが、それを一喝して毅然と答えるアドル。
『それは・・・出来ません!それよりもあなたはどこにおられるのですか?私の横で護衛してくださればよろしいのに・・・・・・』
『いいえ、私が姿を現すと動揺する方がおられますゆえ、察してください』
『・・・・・・誰、ですか?』
少し焦ったような口調が聞こえてきた。
『キリカとリーシャです。多分、彼女たちは私と深い縁の持ち主ですので動揺すると思います。リーシャに関しては憶測ですがキリカは100%決まってます』
『関係は・・・・・・?』
『姫殿下、公演を見たほうがよろしいのではないでしょうか?』
泥沼化しようとしていた話を断ち切ったのは、二人の話を聞いておりなおかつ今まで黙っていたもう一人の護衛人物ユリアだった。
『っ、そ、そうでしたわね。アドルさん、逃げないでください。後ほどしっかりと教えてもらいますから』
『御意・・・』
ユリアの指摘もありそのまま公演に見入るクローディアとユリア。しかし心の
「(どういう事?キリカさんとリーシャさんの事がここで出てくるとは思いもしませんでした。キリカさんは元・遊撃士。それ以外に何かありましたか?それにリーシャさんとはいったい・・・。アルカンシェルの二大主役の一人以外に何か隠されたものが・・・?そう言えば・・・・・・)」
『姫殿下、何をお考えですか?』
横で護衛しているゆえにこそ、見えてくるものもある。百面相をしているクローディアの様子を見ているユリアは、先ほどアドルが言っていたことがクローディアの思考の大半を占めていることにすぐ気づいた。
『ふえっ?な、なんでもないわ。・・・少しボーッとしていただけよ』
『そうですか・・・?』
『クスッ・・・・・・』
アドルが漏らした微笑に気づいた二人はそろって顔を赤くする。少しずつではあるが、昔に戻ってきたのだろうかと思って・・・。
公演はあっという間に終わり、招待された者と役者との少しの時間会話があった。
「素晴らしい公演でした。時間が経つのもあっという間でしたわ」
「そう言ってもらえるとこちらも嬉しいです。ねぇリーシャ?」
「ええ、イリアさん。それにしても・・・・・・」
「どうかされましたか?」
まるで不思議なものを見たかのようなイリアとリーシャの表情を見て、クローディアとユリアは首を傾げる。
「失礼ですが、お二人とも公演の途中で誰かとお話していませんでしたか?」
「っ、どうしてそうお思いになったのですか?」
「・・・勘でしょうか。いいえ、私も過去にそう言う雰囲気にあったからかもしれません」
「リーシャさん・・・・・・」
『アドルさん。今おられますか?リーシャさんとイリアさんが私たち二人の様子を敏感に察しした様子です』
クローディアが考え、ユリアがアドルに念話を送る。
『二人の勘の良さを見くびっていたか・・・。はぁ、結果がどうなろうとも知らないからな。それでいいなら姿を表そう』
『構いません』
クローディアが念話で答える。
「ご指摘の通り、私たちはもう一人の護衛して下さっている方とお話していました。お話という形ではありませんが、気を悪くされたなら謝ります」
「いいえ、ただ・・・・・・」
「ただ、なんですか?」
リーシャの『ただ』と言う言葉に引っ掛かりを感じて聞きただす。
「その時のお二人が年相応の女性に見えたので、それで意識の中にはっきりと残ったのです」
「「っ~~~」」
指摘に再び顔を赤く染めて恥ずかしがる二人。ここが個室でなければそうはならなかっただろう。ここにいるのは、リベール王国代表二人とアルカンシェルの二大主役の4人だけなのだから。
「そう苛めてくれるな」
静寂の中、聞き覚えがあるが今はここにいないはずの男性の声がした。
「っ、誰ですか?」
クローディアの影から登場したのはアドルだった。
「アドルさん、突拍子もない登場は体に毒です。なので止めてください」
「ん・・・善処しよう」
「もぅ・・・・・・。あっ、失礼しました。この方が私の護衛です」
クローディアから紹介される時ぐらいには、すでに体は全部部屋の中に入っていた。
「ご存知かもしれませんが、この
「・・・・・・フ、フルネームは何と言うんですか?」
「(・・・やっぱりきたか)アドル・マオと言います。そう言えばリーシャさんのフルネームもマオと付きますね?偶然でしょうか?」
「どうでしょうか。多分、アドルさんも東方人街の出身でしょうし、遠縁かもしれないですね」
「っ・・・。何はともあれよろしくお願いします。通商会議中は身を粉にして働く所存ですしどこかでまた会うこともあるでしょうね」
「え、ええ。そうですね・・・」
強張った表情になるリーシャにクローディアとユリアは首を傾げる。けれどアドルには直感というか親しんできた予感というものだろうか、近いうちに会うと予想していた。一言二言会話してアドルはその場を後にした。次はミシュラムで夕食会が開かれるようだ。アドルは自宅に戻ろうとしたのだがそこで想像もしなかった展開が待っていた。
「では、私はこれで・・・。ユリア、あとのことは頼みましたよ?」
「ええ、アドルさん」
「お待ちになって・・・」
颯爽と歩いてきたのは金髪のツインテールのマリアベルだ。あれ以来距離を取ってきたわけだが、何の用だろうか。少し身構えてしまう。
「マリアベルさん・・・一体何の用だ?」
「あら、そんなに身構えなくてもよろしいのに・・・。アドルさんがクローディア殿下の護衛をしているとお聞きしまして、今晩はミシュラムの迎賓館には宿泊できませんがホテルには特別に泊まることができます。如何でしょうか、そのほうが何か起きた時に対応を即座に出来ると思いましたの」
「・・・・・・」
「あなたなら顔パスですので来た事を告げるだけでよろしいですの。では失礼します。それといつものようにベルと呼んでくれて構わないのですよ。フフフ・・・」
そしてすれ違いざまに・・・・・・。
「(どういう事だ!何を企んでいる?)」
「(私は何も企んでおりません。クローディア殿下に対して負になる事は一切考えておりません。アドルさんの本気に付き合うことなどできませんしね)」
「(・・・信じられないからな。形だけ了解した)」
「(それでいいんですの。・・・ところで私が言うのも何ですが、これからお二人の誤解を解くほうが大変なことなのでは?)」
「はっ?」
そう言われて気がつくと頬を膨らませて、こちらを睨んでいる二人の姿があった。睨まれても可愛いだけなのだが、それに気づくのはいつの事なのだろう。
「ア、アドルさん。IBCの総裁の娘さんと一体どういう関係なんですかっ?」
「『ベル』だなんて、親しすぎます。どこで知り合ったんですか?」
クローゼ、ユリアの二人からの尋問は夕食会の知らせを伝えに来た係りの人が来るまで続いた。
「い、いやぁ・・・・・・IBCに口座のことで呼ばれた時にそう呼んで貰っても構わないと言われただけだ。お、おい・・・ベr・・・マリアベルもそこでクスクス笑ってないで弁解しなさいっ」
いつものようにベルと呼びそうになって、マリアベルと言い直したがそれも遅かったようだ。呼び方一つでどうこう言う神経が分からなくなっていた。
因みにマリアベル嬢は、したたかな女性ゆえにリベール代表二人がアドルに恋心を抱いていることに気づいていたので、アドルにイタズラしようと思ってわざと言った。
「アドルさん?この間はお楽しみでしたね?」
――だからこんなことを言ってその場を更にかき乱そうとするのもベルの本心からである。
「「ア、アドルさん~~?ふ、不潔ですっ」」
魔具【
指にはめるタイプの魔具。効果は対になっている魔具を付けている者と密かに会話ができる。特定者との念話が出来るもの。