時間軸は支援課が要請で行なっている『演奏家の捜索』の裏・・・。
「久しぶりにシャーリィのあの顔を見れて良かったなぁ・・・・・・」
と、知らない人が見たらニヤニヤしているアドルに不気味さを感じたであろう。そして暇つぶしに郊外へと出かけようとしている時だった。駅から支援課が出てくるのが見えた。すれ違ってアドルも駅へと入る。そこには場違いな黒服に身を包む男性が立っていた。
「あ、怪しい・・・・・・」
上下のスーツを黒色で統一し、直立不動で立っている。そして目にはサングラスをかけて目元が見えないようにしている。どうみてもカタギとは思えない存在だったので、声をかけてみることにした。
「あのー・・・」
「むっ、君は・・・・・・。あぁ、いや何でも無い。私に何か用だろうか?」
驚いたような声色を出し、それから無関心を装って声を出す。
「あ、いや。ここで何をしているのかと思いましてね。通商会議の期間ですので、一応声をかけた訳ですよ」
「そうでしたか。私は音楽マネージャーをやっておりまして、少し目を離したすきに演奏家を見失ったので支援課に要請して捜索願を出したところだったんです」
「なるほどー。ちなみにその演奏家の名前は何と言うんです?」
「捜索の手は多いほうがいいかな。名前はオリビエ・レンハイム。20代金髪の男性で白いコートを羽織り、リュートを携えている」
「えっ・・・・・・」
「聞いたことがあるか?」
「オリビエ・・・?それってオリヴァルト・ライゼ・アルノール?」
「なっ!どうしてそれを?」
「私は情報屋を営んでおりまして・・・。それに昔、クローディアの政略結婚の相手だった人のことは知ってます」
「そうか。そこから知っていたか・・・・・・」
「それにオリビエとして来るのはこれが最後・・・でしょ?」
『あぁ』と感心して頷き肯定の意を表す。
「だったら、少しハメをはずしてもいいのでは?」
「私はアイツが心配だ。親友として、護衛対象として・・・・・・」
「羨ましいなぁ・・・・・・」
「キミもクローディアの護衛を引き受けたのだろう?どうしてそこまで
「ワケですか、あの二人と嫌な別れ方をしたんですよ。仕事を取るか、それとも私情を加えるかをずっと悩んでいるみたいですね。よく分かりませんが・・・・・・」
「ふむ・・・。まだ時間はある。十分に悩め。そしてしっかりと納得の行く答えを導き出せ!」
「はは。ミュラーさんは厳しくも優しい。あなたが傍にいるからオリビエさんも仕事と遊びを両立させてうまく自分を制御しているんですね・・・・・・」
「おだてても何も出んよ。それでもキミのまっすぐとした瞳に結論が出ることを願うだけさ」
駅の壁に二人並んで会話をしていたが、ミュラーは最後にアドルの肩を、ポンと叩き励ました。アドルは無言のお辞儀をして向き直る。
「さて、俺もオリビエを探してこようと思います。また後ほど会うとは思いますけれど・・・」
ミュラーと会話して、アドルの中でモヤモヤとくすぶっていた悩みの種が少なくなったのを感じ取ることができた。
さっきまでとは打って変わり、
「(変わってないんだ・・・。感慨深いもんがあるなぁ)」
一人で納得しているうちに演奏家と支援課はどこかに行ってしまい、そこにはアドルと港湾区の公園で一休みしている家族連れぐらいしかいなかった。
「って、どこに行った?」
やっと見つけた時には全てが終わっていた。オリビエはミュラーに捕まっており、支援課の要請は終了していた。支援課から離れたところで、ミュラーは形ばかりの説教をオリビエに施していた。
「全くお前というやつは・・・・・・いつもいつも好き勝手しおって。このクロスベルがどういった場所なのか知らないわけでもあるまい。少しは自分の立場というものを弁えてほしいものだが」
「ふっ、心配かけてしまったかな。ただ身動きが取れなくなる前に、どうしてもこの街を見てみたくなってね。おかげでここが魔都クロスベルと呼ばれる所以がなんとなくわかった気がする。何やら“彼”も水面下で動いているようだし」
「ふむ・・・・・・収穫はあったようだな」
「それにしても・・・・・・」
「ん、どうした?」
オリビエがミュラーの表情を伺うように覗き込む。
「ミュラー何か良い事あった?嬉しそうな顔をしているよ」
「フフ・・・・・・」
微笑を浮かべるだけで何も言わないミュラーに。
「内緒でカワイイ子と会ってたんじゃないの?ヒ、ヒドイ・・・。もう僕との愛は終わったのね」
と、ヨヨヨと地面に伏し泣き真似をしたので通行人からヒソヒソと噂話がなされた。
――あの黒服の人、金髪の男性を捨てたのね・・・・・・?――
――意外ね。人は見かけによらないというけれど・・・・・・――
―――ヒソヒソヒソヒソヒソ・・・・・・・・・―――
「オ・リ・ビ・エ??」
ドスの効いた声でオリビエの泣き真似を黙らせ引きずっていく。
「ス、スミマセン。ワルノリシスギマシタ。ダ、ダカラユルシテェェェェ・・・・・・」
ドップラー効果も相まって悲痛な声が東通り付近から聞こえてくる。
――あらあら、少し意地悪しすぎたかしら・・・?――
――まぁ、少し刺激がないと、ねぇ・・・フフフ――
どうやらミュラーはいっぱい食わされたみたいだ。悪ノリしたのはオリビエだけではなく、そこらへんにいた主婦連中もそうだったようだ。
――まっ、たまには面白いこともないとね――
そのまま何事も無かったかのように歩みを再開する女性たち。
「む、酷い。ミュラーさんに会ったら茶化そうか・・・?それとも誤解だって言っておこうか。まぁ面白い方向に進むことは間違いないね」
ピュイピュイ・・・・・・。上空から聞き慣れた鳥の声がする。太陽に気をつけながら上を見ると、ジークが舞い降りてくるのが見えた。ちゃんとユリアに手紙が渡ったようだ。それには明日の夕方、アルセイユに来て欲しいとの文面がジークの足首に巻かれた巻物に書いてあった。
「ありがとー。ジーク。ほらお肉だよ」
「ピュイピュイ(わー嬉しいなぁ。お肉ありがとー)」
アドルの少し上をグルグルと回りながら上昇し、空港方面へと飛んでいった。
この話を修正している時に作業用BGMで「スリーアミーゴス」がかかった時は笑いました。