銀の兄【修正版】※半分凍結中   作:泡泡

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閑話・女王との謁見と再会

 

 そろそろリベールに到着というところで、類例のないほどの異変に気づいたアドル。

 

 「フフッ、俺一人に対してここまでするかっ・・・?」

 

 「どうしたの、アドル兄さん?」

 

 俺の表情が曇ったことを覗き見たレンがそう尋ねてくる。

 

 「レンも気づいたかもしれないが、あれ見てよ・・・。リベール空港に尋常じゃないぐらいの王国軍親衛隊が結集してる。はぁ、どうやら俺にはゆっくり観光する暇はなさそうだな」

 

 「そのようね。お兄さんにレンも着いていったほうがいいかしら?」

 

 「嬉しいが、レンはエステルたちと一緒に後から来るといい。リベールも久しぶりなんだろ?」

 

 「ええ、そうね。そうするわ。気遣ってくれてありがとう。じゃあ、あとでね」

 

 レンの爽やかな声を聞きながら、これからどうするか最後まで足掻こうとしているアドルだった。しかし、その場所にいた人物を見て逃走することは止めた。それは数年前に嫌な別れをしたうちの一人だったからだ。

 

 飛空艇のタラップを降りて、すぐに王国軍親衛隊に囲まれたアドル。そしてその隊員らを掻きわけるようにして現れたのは紛れもないユリアだった。

 

 「・・・・・・アドル・マオでお間違いないですか?」

 

 「ああ、そうだ。間違いない」

 

 やや、緊張気味の声が向こう(ユリア)から聞こえてくる。少し大人びた声だ。そして目を見ると両目に涙を浮かべているのが見える。

 

 「・・・っ、ようこそ。リベール王都へ。到着してすぐの要請で申し訳ないが、すぐにでも女王に謁見してもらいたいのだが・・・。よろしいか?」

 

 ユリアはつぅーっと溢れてきた涙をさっと拭きその表情を隠し、取り繕って対応してきた。それを少し残念に思いながらも、こちらもそれ相応の対応を返す。

 

 「ああ、問題無いので早急に謁見したい。どうしてクロスベルにいた私が呼び出されるのか、疑問に思っていたのだよ」

 

 「それは私の口からはなんとも・・・。申し訳ありません」

 

 そう言うとアドルの前をユリアが歩き、左右と後方に親衛隊が囲むようにして歩き始めた。後ろでレンがニヤニヤし、おろおろするエステルの気配を感じながら・・・。

 

 数十分後、女王の謁見室の前にまで来ていた。少し待って欲しいとのユリアの声を聞いて今は一人で待っていた。

 

 「どうやら謁見室にはとんでもない人たちがいるみたいだ。この懐かしい気配はアリシア女王、クローディア姫、ユリア・・・それに強い気配。これは模擬戦で戦ったシードさん。あとは・・・確かリシャールさんだっけ?それにこのエステルと同じような気配はカシウス・ブライト?」

 

 なぜ自分が呼ばれたのか本当に謎が謎を呼ぶ状態で、混乱していた。自分が呼ばれたことにも気づかないぐらいに・・・・・・。

 

 『・・・ドル・マオ!・・・・・・アドル・マオ!謁見室に入室されよっ!』

 

 何度目か分からないが自分の耳に入ってきた大きめの声にハッと我に返り謁見室に入った。そこにはアドルを呼ぶ声に出し疲れたシードやリシャール、カシウス、ユリアが横に並び正面に女王とクローディアが座に座っていた。

 

 「ようこそ、リベール王国にいらっしゃいました。あなたの入国を心から歓迎します」

 

 「それはどうもありがとうございます。・・・それで私を早急に呼んだのには納得のできる理由がおありですか?」

 

 少し疲れていたのか女王の声にやや乱暴に返答してしまう。

 

 「貴様っ、女王の御前であるぞっ。(つつし)め!」

 

 リシャールの(とが)める声が響く。一瞬、その場は緊張に包まれたかのように静まり返る。

 

 「今は私と女王が話しているのだ。なぜ元犯罪者のリシャールが口出しするのだ?それに私は呼ばれた側ですよ?用事がないならそのまま帰りますが。よろしいんで?」

 

 イライラ感が否応なしに吹き出てしまった。苦笑いを浮かべるカシウス、ユリア、クローディア。

 

 「よろしいのですよ。アドルさんにも生活があったのに無理を言ってこちらに来ていただいたのですから・・・・・・」

 

 それに『脅し』があったと言うのは秘密にしておこう。

 

 「アリシア女王、話していただけますか?内容は私のことで呼んだのですか?」

 

 「ええ、それもあります」

 

 少し驚いた表情を浮かべながら女王はアドルに話す。

 

 「あなたの過去について知りたいのです。それと今現在就いている仕事についても・・・。私はあなたを咎めるつもりでここに招いたのではないことをまず最初に伝えます」

 

 「ふむ・・・。女王が言いたいことは分かりました。女王陛下の護衛任務を終了した時期から、今に至るまで人に誇れるだけの仕事をしたことはありません」

 

 その場が凍ったような感じに陥った。(おも)にユリアとクローディアの方向からだが。

 

 「そうですか・・・。今もですか?」

 

 「必要とあらば(あや)めることをしていますが」

 

 「それは困りましたわね」

 

 「どうしてです?陛下が何も思い悩むことなど無いではありませんか?」

 

 「それがね。もう少ししたらクロスベルのほうで西ゼムリア通商会議があるのよ。その護衛をアドルさんに頼めないかなと思っていまして」

 

 「昔のように私が護衛の職に就けるとお思いになっていますか?現実的に考えてそれは無理です」

 

 アリシア女王が言いたいことは、周辺諸国の重役らが一同に集まって介される会議での不安要素を少しでも取り除きたいために、アドルを雇いたいという訳だがアドルの行なってきた事に目を瞑るわけにもいかず苦闘しているといったところだ。

 

 「・・・ふぅ、今日はこの辺にしておきましょうか。アドルさんも疲れたでしょう。城の中に部屋を取りましたので、滞在中はそこでお過ごしください。あとどこかへ出かけるときには誰かに言ってからお出掛け下さい」

 

 「了解ですよ。アリシア女王。今も昔同然に、良くしてくださってありがとうございます」

 

 一礼して謁見室をあとにする。そのあと部屋からは、我慢できなかったのかリシャールやシードのいきり立った声が聞こえてくる。

 

 『私では不十分ですか?ユリアと以下親衛隊で事は纏まるのでは・・・?』

 

 『あいつはただの殺人狂ですよ!あんな奴に護衛を頼むんだったら、もっとマシな奴を雇うほうが良いに決まってます!』

 

 「聞こえてますよ。リシャールにシード。自分たちが過去に行なったことを忘れて、俺なんかにかまけていていいのですか?ここにいては精神的にダメになる可能性が高いので、どこか違うところに行きましょうか。庭園なんてどうでしょう・・・ねぇ、クローディア?」

 

 「っ・・・・・・」

 

 独り言のように呟きながら、しかし恐る恐る近づいてきた(クローディア)には気づいていたと言わんばかりに投げかける。

 

 「私は変わりました。昔のように戯れることができないぐらいに。私の両手は血にまみれています。あなたのような高貴な者に近づけないぐらいに・・・」

 

 「っ・・・。そ、そんなことない。あるはずがない。あなたが帰ってきてくれて私もユリアも感激しています。だ、だけど・・・」

 

 「だけど・・・なんですか?人というのは変わる存在ですよ。あなたと一緒にいた時と違って。私の両手は血で(けが)れてしまった。やはりこの話は無かった事として女王に上告しましょうか。って、クローディア・・・なんのつもりです?」

 

 話を切り上げて女王の元に戻ろうとしていると、クローディアがアドルの前に立ち塞がって両手で通せんぼをしている。

 

 「今日はまだ結論が出ないから一緒に時を過ごして欲しい・・・の」

 

 「それは(はた)から見ると愛の告白に思えますね?そんな気は更々ないのでしょうが・・・。一緒に来て頂けますか?クローディア姫。・・・それと、さっきからそこでモジモジしているユリアさんも一緒にどうですか?」

 

 「わ、私はモジモジなどしておらん!」

 

 「ユリアさん?どうしてここに・・・?」

 

 「ユリアも、クローディアに気づかれないように話を聞いていましたよ」

 

 「わ、私は殿下が心配で。そ、そうだ。見守りに来たのだっ・・・」

 

 「だけど、俺の話に一喜一憂してましたね?それについてはどう言い訳をするつもり?」

 

 グウの音も出ない正論にユリアはやっと呟きをやめた。そして・・・。

  

 「~~~~っ~~~」

 

 このすぐ後に見た、ユリアの赤面した顔は限定ものだった。そして、三人で手を繋ぎながら庭園まで行った。俺が二人の間に入ってクローゼ+俺+ユリアの順に手つなぎした。温かい二人の手がここに戻ってきたことを如実に物語っていた。

 

 二人の首元には、アドルが渡したネックレスが光っていたことをここに記しておこう。そのまま長い時間を思い出話を語り、話題が尽きるとただそこにいるだけに使った。話すのに疲れた様子だったのでそろそろお開きにしようと言うととんでもないことを提案しだした。

 

 「ねぇ。・・・ユリアと私からお、お願いがあるの」

 

 クローゼがそう切り出す。しかし、ユリアとクローゼはいつまで経っても話出そうとしない。

 

 「どうした。言いにくい事か?添い寝?お姫様抱っこ?口に出すことは、(はばか)られる事なのか?」

 

 アドルは茶化したように言う。そして、クローゼのわき腹をつつきながら促した。

 

 「う、うん。あのね・・・。アドルさんの膝に寝ても良い?」

 

 「はっ?そんなことでいいのか。焦って損したよ。ほらおいで二人とも」

 

 ポンポンと手で膝を叩き二人を()させる。二人は恐る恐る近づき、アドルの右膝にユリアが、左膝にクローゼがそれぞれ横になり静寂がその場を支配した。

 

 「ったく、いつまで経っても甘えん坊でどうするんだ?ユリアだって隠れファンが多いって聞くし、クローゼはクローゼで国民の上に立たなければならないのに・・・・・・」

 

 そう言いつつもアドルの口調は柔らかく優しいものだった。そしてそのまま二人は寝てしまう。

 

 「やれやれです。俺は、あなたたちが変わらず接してくれたことに感謝しているんですよ」

 

 風邪をひいては仕方ないので、アドルは着ていた服を脱いで二人の上に羽織らせた。そして様子を見に来た女王が、嬉しそうに微笑みながら写真を撮った時に二人が起きて騒動が起きたとか起きなかったとか。





 クローゼのことをクローディアと呼んでいるのは昔と違うクローゼにドギマギしているアドルの反応です。

 リシャールとシードの反応は過敏すぎるかもしれませんが、多分こうなるだろうなと想像しながら書いています。

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