ガンダムビルドファイターズ/ゼロ   作:ジャージ王子

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第3話 本格始動

──模型部部室。

部室棟の最上階、さらにその階で1番階段から遠い端の部屋。若干不便なその部室では記念すべき第1回目のミーティングが行われていた。

 

「えー、まずは始めて顔を会わせる人もいるようなので自己紹介から始めましょう」

 

司会進行は顧問であり、教師生活1ヶ月目のアマノ・ハルカ教諭が行っている。

 

「まずは俺から。まぁ皆知ってると思うけどヒビノ・シュウだ。ガンプラ作りもバトルもどっちもイケるぜ」

 

最初にパイプ椅子から立ち上がったシュウがほとんどドヤ顔に近い自信満々の表情で自己紹介をする。聞いている全員にとってはうん、知ってるといった所だろう。

 

「じゃあ次は部長だな!」

 

そう言ってシュウが次に指名したのは向かいに座っていたアキラだ。

 

「…え?部長!?僕が!?シュウ君じゃなくて!?」

 

アキラも突然そんな事を言われて狼狽える。

 

「おう、だって俺を模型部に誘ってくれたのはアキラだろ?」

 

理由になっているのかいないのか分かりにくい言い訳にアキラが頭を抱えていると更に追撃がやってくる。

 

「ヒビノが部長というのはアレだし、まぁコグラがやるのが妥当だろう」

 

「同じく」

 

「おいアレってなんだ、同じくってなんだ」

 

ワイズミ、ノミズとシュウのやり取りをやれやれと見やりながらヒロミもコグラを後押しする。

 

「まぁ3人ともこう言ってるし、性格や知識も含めて私もコグラ君が部長に向いてると思うわ」

 

「じゃ、じゃあやらせてもらいます…」

 

本意ではないがといった感じではあるがアキラもそれを了承した。

 

「というわけで、部長になりましたコグラ・アキラです。バトル自体は得意ではないけど、僕もシュウ君と同じで作るのもバトルもどっちも好きです。よろしくお願いします」

 

パチパチパチと少人数らしい高い音の拍手を受けながらアキラは安堵の息を吐いて席についた。

 

「じゃあ次はワイズミ君」

 

ヒロミに言われ、はいと返事をしてコグラの横に座っていたワイズミが立つ。

 

「ワイズミ・ユウト。ガンプラは一度も作った事はないし、バトルも最近始めたばかりだ。よろしく頼む」

 

少し取っつきにくい言い方が気になったのかヒロミの指摘が入った。

 

「ワイズミ君、皆はこれから一緒に付き合っていく仲間なんだからもっと笑って笑って」

 

「努力はします…」

 

(ワイズミの奴、ヒロミ先生には素直だな)

 

「最後は私ね」

 

そう言ってシュウの隣に座っていたノミズが立ち上がる。

 

「ノミズ・アミよ。ガンプラバトルっていうのはした事ないから自信ないけど、模型なら多分作れると思う。これからよろしくね」

 

「ノミズさん、女同士仲良くしてくださいね」

 

「はい、是非!」

 

こうして女性同士の親睦を深め合っている中、アキラはシュウがなにやら神妙な顔つきになっているのに気が付いた。

 

「どうしたの、シュウ君」

 

「え!?あぁ、いや!何でもない何でもない…」

 

とても焦っているように見えるがシュウ自身が考えていた事は

 

(ノミズって作るより壊す方が多かったような気が…)

 

などという大した事なさそうで模型部部員としては問題がありそうな事だったりする。

 

「というわけで皆の自己紹介も終わったので、次はこれからの活動についてです」

 

「活動って模型作るだけじゃないんですか?」

 

ヒロミの言葉にノミズが挙手をして質問をする。

 

「それは勿論なんだけど、学校側としては他にも部活として実績を残してほしいらしいの」

 

「「「実績?」」」

 

生徒一同、話が漠然としすぎていてイマイチ意図が読み取れない。

 

「去年まではね、模型部の名を騙った生徒達が色々と問題を起こしていたから他の先生達は模型部に不安があるらしいの。勿論、私はそんな事は思ってないけど」

 

(((………)))

 

模型部の名を騙った生徒達に関して思い当たる節がある3人は急に押し黙る。

 

「どうしたのヒビノ?凄い汗だけど」

 

「あら、コグラ君とワイズミ君も」

 

ノミズとヒロミが男子達の顔を不思議そうに覗き込む。

 

「い、いやー!なんか今日暑いなー!な、なぁワイズミ!?」

 

「そ、そうだな!これは地球温暖化が深刻なヤツだな!」

 

「ぼ、僕!窓開けてこようかなー!」

 

「「?」」

 

突然焦り出す男子達を怪しく思うが、彼女達はこの3人が問題を起こしていた生徒達と関わりがあるとは知らないので何に焦っているのかが分からない。

 

「で、ヒロミ先生!実績ってさ、具体的にはどうすればいいの!?」

 

誤魔化すようにシュウがヒロミに話題を振った。

 

「えぇ、地域貢献活動なんかもあるのだけれど、私個人としてはこういうのが良いんじゃないかと思うの」

 

そう言ってヒロミは鞄から一枚のプリントを取り出した。何かを印刷してきてものなのだろう、その紙面にはカラフルな見出しでこう書かれていた。

 

「「「ガンプラトライバトル大会?」」」

 

「そう!この大会で優勝すれば模型部を認めてくれる事間違いナシ!」

 

ヒロミの突拍子のない発言に生徒一同ポカンとした状態だ。

 

「アレ?なんか駄目だった?」

 

「いや、良いと思いますよ。というわけで頑張りなさいよねヒビノ。しっかり応援してあげるから」

 

「何を言っているの?ノミズさん」

 

「へ?」

 

「この大会はトライバトル。つまり3対3のチーム戦よ」

 

「いやいやいや、だとしても男子が3人いるじゃないですか」

 

ノミズがそう言うとアキラが申し訳なさそうに手を挙げた。

 

「ごめん、ノミズさん…僕、バトルは苦手で。それにワイズミ君のガンプラのセッティングもしなくちゃいけないから…」

 

「…え?」

 

「ということは、俺とワイズミ、それにノミズで3人チームだな」

 

「ちょっとちょっと私ガンプラバトルなんてした事ないわよ!?」

 

トントン拍子で話が進んでいき、ノミズの意見は通らない。

 

「この紙を見るかぎり日程はGW中。だったら後1ヶ月は練習できるじゃねーか」

 

「そういう問題!?」

 

「それにノミズだったら結構バトルのセンスあると思うぞ?」

 

シュウお得意の根拠のない、けれどなんか本当にそうかもしれないと思わせる言葉が出る。これが出たら後はいつものパターンだ。ノミズはため息を吐きながらそれを了承する。

 

「分かった…こうなったヤケよ!やってやるわ!」

 

おー、と周りからは賞賛の拍手があがった。

 

「後は皆のガンプラだね。シュウ君とワイズミ君は大丈夫だとして、ノミズさんの分は…」

 

「あぁ、それについては俺から提案がある」

 

アキラが疑問に思った事を口にすると、シュウがある進言をしてきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

00000

 

翌日の土曜日。

本来なら休日であるが模型部メンバーは学校の校門前に集合していた。

 

「はい、皆集まっているようなのでこれから出発しましょう」

 

シュウの提案、それは単純にガンプラを買おうという事であった。ガンプラがなければバトルは出来ない、というか模型がなければ模型部は活動できないのだ。勿論、誰一人としてその意見に反対する者はなく、こうして休日に集まったのである。

 

「シュウ君の知ってる店ってここからどれ位かかるの?」

 

「1時間ってとこかな」

 

「だったら近くのデパートでも良いじゃない」

 

「いや、デパートなんかじゃ品揃えが少ないからな。あの店に行った方が確実だ」

 

そんな話をしながら一行は改札を通る。彼らの通う学校、湘山高校は駅の目の前にある。因みにシュウが初日に遅刻を免れたのもこの近さのお陰だったりする。

 

 

 

 

 

 

 

そうしてシュウの言うとおり電車に乗ること1時間弱。目的地の最寄り駅まで到着した。

 

「ここまでくれば後は歩いてくだけだ」

 

他の4人は今いる場所には詳しくはないので、そう言って歩いていくシュウについて行くしかない。

 

(だんだんと住宅街に入っているんだけど大丈夫かしら…)

 

ヒロミの不安ももっともで、シュウは様々な店がある駅前からどんどん遠ざかっていき、いよいよ店と呼べる建物が見当たらない住宅街に進んでいる。

 

「あの、ヒビノ君?「ここだ、ここ。着いたぞ」へ?」

 

そう言うシュウの目の前には住宅と店が一緒になっている建物が1件。その看板にはこう書かれていた。

 

「「「イオリ模型店?」」」

 

アキラ、ノミズ、ヒロミが看板を口に出して読んでいる間にシュウはそのまま入り口のドアまで進んでおり、ワイズミもそれに続いていた。

 

「こんちわー」

 

「ちょっ、待って!」

 

3人が焦って中に入ると、そこには自分達の身長を優に越える高さの棚が並んでおり、中には様々な模型の箱が詰まっていた。

 

「「「……」」」

 

初見だからかもしれないが、その迫力に絶句してしまう。

 

「あり?リンちゃーん?」

 

店内を見回しても人が見当たらないのでシュウが大声である名前を呼ぶ。

 

(リンちゃん?娘さんかしら?)

 

「はいはーい…って、シュウちゃんじゃない。いらっしゃーい」

 

シュウの声を聞いて中から出てきたのはヒロミの予想とは全く違う成人女性だった。

 

「久しぶりね~。そっちの子達はお友達?」

 

「あぁ、高校の模型部の友達だ。で、こっちが顧問のヒロミ先生」

 

後ろで少し置いていかれ気味の4人を紹介していく。

 

「どうもはじめまして。シュウちゃんの伯母のイオリ・リンコです」

 

((((伯母!?え、若っ!?))))

 

先程から終始ポカンとしていた彼らはリンコの発言でさらに衝撃を受けた。

 

「そういえばセイは?」

 

「土曜だけど学校に行ってるの。たしか美術室で何かを借りるって言ってたわね」

 

「あらま、そりゃ残念」

 

シュウとセイは偶に電話でやり取りをしているので、会えないと言ってもあまり落ち込むようなことはない。リンコもそれを分かっているので話を進める。

 

「何にしても、シュウちゃんの友達だったらサービスしちゃうからゆっくり見て回ってね」

 

「は、はい」

 

「あ、ありがとうございます」

 

初めて会う大人という事もあるが、見た目で感じる年齢と伯母という立場での予想年齢のギャップに戸惑い一行の返事は少しぎこちなかった。

 

「じゃ、じゃあ僕も見て回ってみようかな…。シュウ君、ちょっと聞きたいんだけど…」

 

「おー、あったあった!これ探してたんだよな~」

 

「動き出すの早っ!」

 

いざ見て回るとすればまず向かうのは自分の好きなシリーズ。イオリ模型店が初めてのアキラはどの棚に何があるかを把握していないのでシュウに尋ねようとした所、これまた予想外の早さで彼は行動を起こしていた。

 

「それってコレクションシリーズのブラストインパルス?」

 

シュウの下へ向かったアキラは彼の手にある小さめの箱を見てそう尋ねた。

 

「おう、ブラストの1/144ってこれしかないからさ。ずっと探してたんだ」

 

コレクションシリーズとはHGシリーズと同じ1/144スケールでありながら作り易さを重視したもので、簡易化の為に関節部が稼働しないといった特徴がある低年齢層・初心者向けのキットである。

 

「確かにそれならHGとも互換性があるからブラストシルエットをインパルスゼロにも付けられるね」

 

「甘いぜアキラ。ただ付けるだけじゃ面白くない!コイツを元にゼロだけのシルエットを作るのさ!」

 

「そ、そうなんだ…」

 

シュウのあまりの熱弁にアキラがたじろぐ。シュウも自身が熱くなりすぎている事に気づいたのか少し呼吸を落ち着かせた。

 

「ふー…。で、アキラは何を探してるんだ?」

 

「僕は武装系をちょっとね」

 

「武装だけていいのか?」

 

「うん。ワイズミ君と話したら最初に使ったセイバーをベースにした機体だと使い易いって言ってたからさ」

 

「なるほどね~。…お、そうだ!」

 

話を聞きながら頷いていたシュウは何か思い付いたとばかりに棚の中から何かを探しに行った。

 

「シュウ君?」

 

「コイツの武装なんかどうだ?俺はコイツのブースターとかだけを使おうと思ってるから武装は余ると思うぞ」

 

「ブルーフレームセカンドか…」

 

アストレイブルーフレームセカンドL。ガンダムSEED ASTRAYに登場する機体で、背中に装備した大剣とガトリング砲に変形するタクティカルアームズが特徴である。

 

「じゃあお言葉に甘えて使わせてもらおうかな」

 

「んじゃ決定だな。俺はもうちょっと見てくるわ」

 

話がまとまった所でシュウは箱を2つ抱えて奥へと進んでいった。

 

(僕も他に何かないか探してみようかな…あれ?)

 

アキラが歩き出そうとすると、棚の前で直立不動になっているワイズミが目に入った。

 

(箱を見てもサッパリ分からない…一体どれが良いんだ?)

 

アキラとコンビを組んだとはいえ、ワイズミも一応は模型部だ。少しくらいは自分でガンプラを作ってみたいと思いこうして見てはいるが、その量に圧倒され何にすればいいかいっこうに決まらない。

 

「どうしたの?ワイズミ君」

 

「…っ!コグラか」

 

思考の海に潜りすぎていた為か、突然の呼びかけにもビクリと反応してしまった。

 

「ワイズミ君も自分で作るガンプラを探しているの?」

 

「あ、あぁ。ガンプラがどういうものか知っておきたくてな」

 

「だったらこれなんてどうかな」

 

そう言ってアキラが差し出してきたのはガンダムAGE2だ。

 

「この機体もセイバーと同じ可変機だし、普通に作っただけでも完成度は高いと思うよ」

 

「なるほど」

 

「セイバーを改造している間はワイズミ君の機体はないからこれで練習してみたらどうかな」

 

「…そうさせてもらうか」

 

少し考えた後、ワイズミはアキラからAGE2の箱を受け取った。

 

 

 

 

 

 

「む~…」

 

一方こちらは女性チーム。ノミズのガンプラが中々決まらず絶賛苦戦中である。

 

「ノミズさんはどんな機体が良いとか希望はあるの?」

 

「どんなって言われても…私にはさっぱりで」

 

「んー、あっ!これはどうかしら」

 

悩みながら棚を見回したヒロミはとあるガンプラを見つけこれぞとばかりにノミズに示した。

 

「ザク…ウォーリア…?ザクっていう名前は聞いたことありますけど、たしか敵役なんですよね?」

 

「そうね。ザク系のMSは大抵が敵として出てくるけどこのザクウォーリアは味方側の機体なの」

 

「へー…色んな種類があるんですね」

 

ヒロミが知識を披露するとノミズもそれに感心したように聞き入る。それで少し得意気になったヒロミは更に話を続ける。

 

「それにこの機体はヒビノ君のインパルス、コグラ君とワイズミ君のセイバーと同じ部隊の機体だったの。これから3人でチームを組むんだったらこれ以上の機体はないと思うわ!」

 

「そ、そうなんですかね…」

 

なんとなく無理矢理感のある理屈にノミズが少し不信な素振りを見せる。

 

「それにこの機体のパイロットは物語が進んでいくとインパルスのパイロットと恋仲に…」

 

「これにします!」

 

が、しかし。ヒロミが何気なく呟いた言葉が決定打となりノミズはルナマリア専用のガナーザクウォーリアの購入を決めた。ヒロミ曰わく、その早さは常時の3倍だったという。

 

 

 

最終的にシュウがガンプラ3個、ノミズとワイズミはそれぞれ1個、アキラは武器セットなるものを2個。更にヒロミもノミズに便乗しレイ専用のブレイズザクファントムを購入したのだった。




今回はこの先に向けての準備回という事でバトル無しなので少し物足りない感が否めません…(汗)

ちなみにこの話は4月の上旬なのでレイジはまだ登場しません(彼の登場は中旬か下旬なんだろうと思ったので)。その代わり、セイは原作の彫刻刀を借りに美術室に行き委員長と初めて会話を…という妄想、もとい設定があったりします。

引き続き感想やご指摘、質問をお待ちしております。

以上、ジャージ王子でした。ではでは( ・_・)ノシ

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