ガンダムビルドファイターズ/ゼロ   作:ジャージ王子

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第2話 勧誘せよ、模型部!

「というわけで、模型部はまだ活動できそうにないって感じだな」

 

シュウはその日起きた事を従兄弟の少年に電話で話していた。

 

『そうなんだ、でもシュウ兄は凄いね。ガンプラバトルでヤンキー達を倒すなんて』

 

「まぁ、リアルファイトは負けそうだったけどな」

 

ボソッと相手に聞こえない大きさで呟く。

 

『えっ、何か言った?』

 

「あー、いやいやなんでもない。それよりお前は自分のガンプラ完成したのか?」

 

話をごまかす為に少し無理矢理ではあるが、別の話題を振ってみる。

 

『僕のももう少しで完成するよ!でも…』

 

「肝心のファイターがいない、か?」

 

『うん』

 

「そればっかりは気持ちの問題だからな、俺にどうこうできる事じゃないけど、拘るんだったらとことん拘れば良いんじゃないか?ガンプラみたいに」

 

『うん、ありがとうシュウ兄』

 

「おう」

 

『じゃあもう切るねおやすみ』

 

「おやすみ、“セイ”」

 

 

 

 

 

 

 

 

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「ほぉー、これがアキラのガンプラか」

 

「う、うん」

 

昨日、自称模型部のヤンキー達から取り返したアキラのガンプラ。バトルで少し壊れている部分があったと言うことなので修理の為に1日置いて遂にシュウの前に姿を現した。

 

「オリジナルとは違う白いボディに背中に追加されたマガノイクタチ…。これ〈ヴァンセイバー〉に改造してあるのか!完成度高いな!」

 

「そ、そうかな…」

 

ヴァンセイバー。機動戦士ガンダムSEED VS ASTRAYに登場する機体の1つで、オリジナルのセイバーとの最大の違いは背部にストライカーの装着が可能な点である。これにより作中ではマガノイクタチストライカーの能力であるミラージュコロイドで空力制御を行い操縦を安定化させるという描写があり、アキラの機体にも同じようにマガノイクタチストライカーが装備されている。

 

「でもマガノイクタチを付けても扱いきれなかったよ。というか可変機以前に僕はファイターとしては全然ダメだから…」

 

(ビルダーとしての腕は確かだけど、ファイターとしてはイマイチってどっかで聞いた事ある話だな…)

 

「シュウ君が羨ましいよ。インパルスゼロみたいに凄いガンプラ作れてバトルも上手いなんて」

 

「あははは…。と、所でアキラは誰かファイターと組むとかは考えてないのか?」

 

「ファイターか…」

 

そう呟いて考え込む。この様子だとその考えもありはするのだが、自分の理想のファイターとは巡り会えていないといった所だろうか。そんな部分もどこかの従兄弟を連想させるようだ。

 

「模型部で部員を集めてみれば意外と気の合う奴がいるかもしれないぞ?」

 

「そうだと良いけど。で、どうやって部員集めるの?」

 

「そりゃあ、ビラ配りとかビラ配りとか…あとはビラ配りとか?」

 

「考えてなかったんだね…」

 

「何の話をしてるの?」

 

そこで2人の話に入ってきたのはクラスの担任であるアマノ・ヒロミだ。

 

「僕達、新しく模型部を作ろうと思ってるんです」

 

「模型部って事はやっぱりガンプラとか作るの?」

 

「まぁ、はい」

 

肯定した瞬間、先生の目が輝いた。…気がした。

 

「いいじゃない模型部!もし顧問がいないんだったら私が顧問をやるわ!」

 

「ヒ、ヒロミ先生突然どーしたの?」

 

「はっ!ご、ごめんなさい、私ガンダムの話になるとつい…」

 

その様子に2人はある結論にたどり着く。

 

((もしかして、ガンヲタ…?))

 

何はともあれ、問題の1つであった顧問の件に、身近な先生がしかも自ら言ってきてくれたのは有り難い事だ。2人は部員が集まり正式に部として立ち上げる時にはヒロミにお願いをすると彼女に伝えて教室を出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

00000

 

「顧問は解決したとして、後はやっぱり部員だね。シュウ君は中学の知り合いとかいる?」

 

「んー、大体は運動部入るとかって言ってたから…あ」

 

自分達の教室と隣の教室の横を歩いていると、シュウは突然何か思い付いた様に中に入って行った。

 

「ちょっ、ちょっとシュウ君!?」

 

慌ててアキラもついて行く。

 

「おーい、ノミズいるかー?」

 

教室に入ってすぐにシュウは全体に聞こえる位の声量でそう言うと、1人の女生徒が急いでこちらに向かってくる。

 

「そんな大声で呼ばなくてもいいでしょ!」

 

「まぁまぁ」

 

「はぁ、まったく…。で、何か用?」

 

「えっとシュウ君、この人は?」

 

「あぁ、コイツはノミズ・アミ。中学が一緒だったんだ」

 

「更に言えば小学校も幼稚園も同じの腐れ縁ね」

 

「それはいいとしてノミズ、部活とかもう決めたか?」

 

「まだ…だけど」

 

何か嫌な予感がする、そんなニュアンスを含んだ様な声だ。

 

「よし!じゃあ模型部に入らないか?」

 

「模型部なんてあったっけ?」

 

「いや、これから作ろうと思ってるんだ」

 

「それでなんで私なの?」

 

そう聞かれてもちゃんとした理由があるわけではない。教室の中にいる彼女の事を見つけ思い付きで誘ったとはさすがに言えない。

 

「も、もしノミズがまだ部活決めてなかったら模型部なんてどうかなと思ってさ」

 

少し苦しいが、咄嗟に理由を作った。

 

「わ、私にだって考えてる部活の1つや2つ…」

 

「あるのか?」

 

「…ない…けど」

 

「じゃあ一緒にやろうぜ模型部。きっと楽しいからさ」

 

まるで子供の様な満面の笑みで最後の一押しとばかりに勧誘する。

 

「はぁ…わかった、入るわよ模型部。その代わり私プラモデルとか作れないわよ」

 

こうなればこちらが折れるしかないと思ったのか、それとも別に思う所があるのか、ノミズは入部を了承した。

 

「それは俺達が教えてやるよ」

 

(そこは“俺が”って言って欲しかったけど、このニブチンには期待するだけ無駄か…)

 

「やったねシュウ君!」

 

「おう、部員1人ゲットだ!」

 

目の前でワイワイ騒ぐ2人を見ながらノミズはもう一度溜め息をつくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

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ノミズと別れた2人は、とりあえず散らかり放題の部室を掃除する為に部室棟へ向かった。

 

「昨日は状況が状況だったからあんま見てなかったけどすげー汚かったよな…」

 

「間違いなく荒れてたね」

 

正直に言えば2人ともそんな荒れ放題な部室を掃除するのが面倒くさい。が、自分達で模型部をやると言った手前、そんな事を口に出すわけにもいかない。

 

「ふー、いくぞ…」

 

「う、うん」

 

意を決して2人は模型部の扉を開いた。

 

「「あれ?」」

 

なんということでしょう、あれほど散らかっていた部室が見違える位に綺麗になっているではありませんか。

 

「誰がこんな素敵な事を…!?」

 

シュウが呟くと、横からバタンと掃除用具入れの扉が閉まる音がした。音の方を向くと見覚えのある少年が立っていた。

 

「「ワイズミ(君)!?」」

 

「お前らか」

 

「どうしてワイズミ君がここの掃除を…?」

 

「昨日の条件だ。俺達が負けたらこの部室を綺麗にするっていうな」

 

「バトルしたアイツらの代わりにか?」

 

「いや、俺が勝手にやった事だ。あの人達はもうここには来ないだろうからな」

 

「わざわざ約束を守ってくれたってわけか。律儀なヤツだな~」

 

「…もう掃除は終わった。後はお前らで好きに使え」

 

そう言い残し部室から出ようとするワイズミ。

 

「待って!」

 

そんな彼を呼び止めたのはアキラだった。

 

「まだ何かあるのか」

 

「あ、えっとその…今僕達、模型部に入ってくれる人達を探してるんだ。もし良かったらワイズミ君も入らない?」

 

(まさか、アキラが先に誘うとは…)

 

アキラの意見にはシュウも賛成だった。昨日は確かにヤンキー達と一緒にいたが、これまでの行動で彼はあの3人と同じ種類の人間にはどうしても思えなかった。

 

「悪いが、子供のおもちゃ遊びには興味がない」

 

「本当にそうなの?」

 

「何だと…?」

 

「昨日のワイズミ君はシュウ君達のバトルを凄く真剣に見てた。そんな君が本当にガンプラバトルをおもちゃ遊びだと思ってるの?」

 

「……」

 

ワイズミ自身、ガンプラバトルに興味がないと言えばそれは嘘だ。アキラの言うとおり昨日のバトルを見て何か熱いモノを感じたのは間違いなかった。

 

「うだうだ考えるのは止めようぜ、そんな事してるより実際にやってみた方が分かりやすいだろ」

 

そう言ってシュウはホルスターからインパルスゼロを取り出した。

 

「俺はガンプラバトルをやった事はないし、ガンプラも持っていない」

 

「機体なら僕のを使っていいよ」

 

断ろうとしたワイズミをアキラが遮る。

アキラの目は真剣だ。昨日、一昨日の弱々しい彼とはまるで別人の様に。それは正面から見ているワイズミが一番よく分かる。

そしてアキラをここまで変えるガンプラバトル。その本質が一体何なのかを知りたいと思っている自分がいる。

 

「…操作の仕方を教えろ」

 

彼の答えは既に決まっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

00000

 

30分程、操作の説明と簡単なウォーミングアップを終えて、いよいよ2人のガンプラバトルが始まろうとしていた。

 

「負けたら模型部に入れなんてそんな野暮な事を言うつもりはない。お互い全力でやろうぜ」

 

「あぁ」

 

そう言って2人はそれぞれの機体をセットする。

 

「ヒビノ・シュウ、インパルスゼロ行きます!」

 

「ワイズミ・ユウト、ヴァンセイバー…出るぞ」

 

今回シュウは最初から合体した状態で出撃した。フィールド部に入ると重力に従い地上に降下していく。

 

(今回のフィールドは森…いや、向こうに海が見えるから沿岸って感じか)

 

早速フィールドを確かめるシュウ。重力があるという事は今回のフィールドは地球をベースにしている。インパルスゼロは飛行ユニットを装備していないので飛ぶ事は出来ないが相手のヴァンセイバーはMS、MA形態ともに飛行が可能なのだ。そうなると武装も少ないインパルスゼロは地形を利用して戦うのがベターな選択と言える。

 

「っ!」

 

辺りを見回していた途中、頭上からビームライフルが放たれた。

インパルスゼロも応戦するためにビームライフルを連射しながら森の深い方へと進んで行く。

 

(目隠しのつもりか、だったら…!)

 

森の中に隠れれば目視する事は出来ないがレーダーである程度の位地を割り出すことは可能だ。ヴァンセイバーは背部の巨大な砲身、アムフォルタスプラズマ収束ビーム砲を構え反応のある方向に撃つ。

ビームが地面にぶつかった事で激しい爆音とともに木々の破片や土煙が舞う。

 

(当たったか…?)

 

「残念だったな!」

 

「何!?」

 

高々と上がる土煙の中から、ゼロスプレンダーを含め3機のユニットが飛び出し、空中で合体。そのまま加速してヴァンセイバーへと突っ込む。

 

「インパルスレーザークロー!」

 

「くっ!」

 

ヴァンセイバーもそのスピードを活かしてそれを回避。が、全てを避けきったというわけではなく、マガノイクタチストライカーには攻撃が当たり破損させられてしまった。

 

「やってくれる!」

 

マガノイクタチをパージしてすぐさまビームライフルを構えるが、インパルスゼロはそのまま地上へ落下する事ですぐに離脱してしまった為、反撃をする事は出来なかった。

 

 

 

(アムフォルタスが地面に当たる直前に分離をして回避するなんて、やっぱりシュウ君は凄い…!けど、ワイズミ君も防御が間に合わないと判断して咄嗟に回避しようとするのはやろうと思っても簡単に出来る事じゃない…)

 

可変機の操縦が難しいと言われている由縁は、そのスピードの高さと最大の特徴であるMA形態の操縦感覚がMS形態と違うという点である。しかし、ワイズミは今もMA形態となったヴァンセイバーを駆りインパルスゼロを追撃している。初めてでありながらここまで可変機を使いこなしているのは正に天性の才能と言っても過言ではない。

 

 

 

 

 

「どうだ、楽しいだろガンプラバトル!」

 

「楽しいかどうかは別として、勝負である以上負けるつもりはない…!」

 

「ははっ、そうこなくっちゃな!」

 

お互いにビームを撃っては避け、撃っては避けの攻防を繰り返しながら2機はいつの間にか森を抜け海岸部へと出てきた。

 

「後ろは海、これで逃げ場はないぞヒビノ」

 

先程の攻防ではインパルスゼロは後ろ向きでの移動でかつ地上であったのに対し、ヴァンセイバーは正面を向いての移動で飛行していたので上空でマップを把握しながら攻撃していた。そのためこうしてインパルスゼロを海岸へとおびき出すことが出来たのだ。

 

「そいつは…どうかなっ!」

 

「なっ!?」

 

シュウは球体の操縦桿を握りしめると海に向かってフルスロットルで直進した。

スラスターを全開にする事でインパルスゼロは海上をホバーの要領で移動する。しかし、この移動法はエネルギーを大量に消費し、勢いを止めてしまえばそのまま海に沈んでしまう苦肉の策だ。

 

「往生際が悪いぞ!」

 

ヴァンセイバーもまたMA形態の全速力で後を追う。

 

(奴は今こちらに背を向けている状態。だからと言ってまたビーム砲を撃てば水柱に紛れて奇襲してくるだろう。ヒビノも恐らくそれが狙い…なら!)

 

ワイズミは機体をMS形態に変形させ、ビームサーベルを抜刀。後ろから切りかかる。

 

「もらった!」

 

「かかったな!インパルスレーザークロー!」

 

シュウもそれを見越していたのか、機体を反転させ正面からヴァンセイバーを迎える。

 

「リーチならこちらが上だ!」

 

インパルスレーザークローは確かに威力が高いが射程が極端に短いのが欠点である。それをカバーするのがインパルスゼロの運動性能なのだが、正面からビームサーベルと1対1でやり合うには厳しい。

 

「俺の狙いは…これだぁ!」

 

しかし、ワイズミの予想に反してインパルスゼロはヴァンセイバーを狙わず、その爪を海面へと振り下ろした。

 

「何…っ!?」

 

ワイズミが驚いた直後、レーザークローと衝突した海面はその衝撃により大きな水柱を立てる。インパルスゼロは当然の事、そのインパルスゼロのすぐ側にいたヴァンセイバーも勢いに巻き込まれる。

 

「いっけぇぇーっ!」

 

ヴァンセイバーが体勢を崩した瞬間、最後の余力を振り絞りインパルスゼロはまたもスラスターを最大出力にしてヴァンセイバーに体当たりをする。

 

「くっ!」

 

そのまま2機は砂浜に打ち上げられる。

 

「チェックメイトだ!」

 

ヴァンセイバーのモニターが回復し飛び込んできたのは、インパルスゼロがコクピット部に対装甲ナイフを突きつけている状況だった。

 

「……俺の負け…か」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

00000

 

「悪いな、コグラ。大事なガンプラを壊してしまって」

 

「そんなのまた直せばいいよ、それよりありがとう」

 

「何がだ?」

 

「僕の作った機体をちゃんと戦わせてくれて」

 

「勝負には勝てなかったけどな」

 

「それでもだよ。僕じゃあんな凄いバトルは出来ないから…。それで、なんだけどさ…ぼ、僕と組んでくれない、かな?」

 

「組む?」

 

「うん、僕が機体を作ってワイズミ君はその機体で戦う。ワイズミ君ならきっと僕が作った機体を限界以上に動かしてくれると思うんだ!」

 

「……」

 

「駄目…かな?」

 

先程までの彼だったら迷いながらも断っていたかもしれない。しかし、バトルを経験したワイズミ・ユウトの答えは違った。

 

「負けたまま止めるのは癪だ。でも俺1人じゃ勝つ事は出来ない…コグラ、機体の方はよろしく頼むぞ」

 

「う、うん!任せてよ!」

 

「というわけだ。次は勝たせてもらうぞ、ヒビノ」

 

「おう、いつでもかかってこい」

 

そう言い合い2人は不敵に笑い合う。

 

「シュウ君にノミズさん、ワイズミ君、僕…これで部員が4人揃ったね!」

 

「あぁ!模型部立ち上げだ!」

 

「おい、俺は別に模型部に入ると言った訳じゃ…」

 

訂正しようとするワイズミだが、嬉しさのあまり飛び跳ねている2人はそんな事に聞く耳を持たない。

 

(まぁ、こういうのも悪くないか…)

 

 

 

 

翌日、学校側に4人の名前と顧問のサインが入った書類が提出され、模型部は正式な部活動としてその活動が許可されたのだった。




オリキャラ達が段々と集まってきていよいよ模型部が結成となりました。
ヒロミ先生とノミズの出番はもっとあっても良かったかなとは思いますが…それは次回以降という事で。

引き続き、感想やご指摘、質問などお待ちしております。

以上、ジャージ王子でした。ではでは( ・_・)ノシ

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