「あぁ~!やっと見つけたぁ!」
第3クォーター開始前に笠松と宍戸が客席に戻っている最中に、黄瀬が人差し指を突き出して駆け寄って来た。
「何処行ってたんスか!いつの間にか置いていくとかヒドいっス!」
「はぁ?試合を見られりゃ、別に一緒でいる必要なんかないだろ」
「何でそういう事言うんスか!?急に置いてけぼりなんて心細いんスよ!寂しくて死んじゃうかと思ったっスよ!」
「ウサギか、お前は」
笠松に不満を全身で表し、最終的には構ってアピールをしていた。笠松の通行を妨げ視界の正面に移るたびに、笠松のストレスゲージは増していく。
「ぱしり?」
「違ぇよ。一応、こんなんでも後輩」
「ぱしり!?こんなん!?いきなりひどくないっスか!」
宍戸はそんな様子に、自宅に帰った主人にまとわり付く犬を思い出していた。同じ学校の制服を着ているので、良く考えれば直ぐ分かるものだが、笠松は少々嫌そうに宍戸の質問を否定した。
「って、先輩の知り合いっスか?黄瀬涼太っス」
「黄瀬?ああ、あの」
「おい。始まっちまうぞ」
噂では何度か耳にしていたが、実際に目にするのは初めてだった宍戸。この機会に色々と聞いて見たい事もあったが、笠松の声に従ってコートへと足を進めた。
「じゃあ、俺こっちだから」
「ああ。またどっかでな」
宍戸は応援席へ、笠松は別の見易い場所に向かう為、ここで分かれる。
「後半、俺抜きでやれ」
「マジで!?よっしゃ!!」
後半が開始される直前に、花宮がベンチに座ると宣言した。対するリアクションが、このチームのズレ具合を示している。
花宮の意図はよく分かっていない。それでも食い気味で顔が綻んでいた。隠すつもりのないガッツポーズは、花宮の眉間をピクリと動かせる。
「灰崎、てめぇ」
「おっと、失言失言」
試合で勝った時よりも喜ぶとは何事だ。
この後にまつ面倒な展開を考え、灰崎はフェードアウトを試みる。
「まぁまぁ」
「...っち。後で覚えとけ」
順調とは言え、相模高校にとって緒戦を大事に消化したい。
後半開始間際に揉める時間も無いので、いつもと違って英雄が止める。
「とりあえず、英雄がPGをやれ」
「オーケー」
代役の指名に親指を立てて応える英雄。特別気負いも無く、お気楽モードは変わらない。
そして、花宮と入れ替わる人物は1人しかいない。
「おっ、じゃあイノッチのデビューじゃん」
「あ、ああ」
荻原が目を移すと、明らかに緊張した面持ちで、少し不安を抱く。
「...そうだ。シゲシゲ」
「ん、どした?」
花宮のプランとしては、充分な点差を作って投入する事で、気持ち楽にプレーさせたかったのだろう。
しかし、どうにも思ったよりも井上の緊張感は高まっていた。
そんな時、いつも通りに英雄が妙な思い付きを口にする。
「ボール運びは1回交代ね」
「いやいや、俺PGやった事ないんだけど」
「だから言ってるんだけど」
「んん?」
そして、いつも通りイマイチ伝わってこない。
登録ではSGになっているが、中学時代も現在の役割もフォワードでしかない。
そんな荻原に何を求めているのだろうか。
「英雄。言っとくが、インサイド中心だぞ」
「分かってる分かってる。貯金は使う為にあるんだよね」
「本当に分かってんのかよ」
第3クォーターを井上中心にして、細かなところを確認したい花宮は、念のため釘を刺すが、まともな返事が返ってこない。
「(オプションが増えるのは、ありだな)ま、いーだろ」
点差は作ってあるのだ。多少しくじっても第4クォーターで挽回できる。
花宮が許可した以上、英雄の提案は決定事項となった。
「マジかよー」
「大丈夫だって。じっくりボール運んで、中に放り込めばいいんだから」
隠し切れないテキトー感に少々引っかかるが、英雄なりの気配りと解釈する花宮。そうでなければ、試合中の雑談など許せるものか。
「そんな訳で、メーワク掛けるんでよろしくです」
「ははは。ああ、こちらこそ」
こんなやり取りを傍から見ていると、不思議なくらい緊張感が和らぐ。
その横で灰崎と鳴海が後半の修正点を真面目に話し合っていた。コミカルとシリアスの切り替えの速さに井上は付いていけない。
「なぁ真ちゃん」
「なんだ高尾」
第3クォーター開始に合わせて客席を確保していた2人。
高尾は今まで触れなかった疑問を打ち明ける。
「相模、人数増えてない?」
「何を今更。始まる前から気付け」
口にするタイミングが無かっただけなのだが、緑間の反応は辛らつだった。こういう事があるから普段冷やかしたくなる。
「...そうかい」
「(ずっと考えていた。彼はもしや)」
緑間も6人目のプレイヤーについて考えていた。最中に、青峰と桃井が客席を彷徨って横に来て、その後に黄瀬達が現れた。今思い出しても意味の無い時間だったと思う。
分かれた後、不意に思い出した。
対戦経験はあるが、マッチアップした事はない。当時、ある人物にとっての契機となった試合。
「花宮の野郎、下がりやがった」
やや根に持っている高尾の声で意識をコートに戻した。
IN 井上 OUT 花宮
「......っ!」
青峰もまた、緑間や黄瀬との再開でうやむやになっていたが、はっきりとその存在を目にした。
一瞬のフラッシュバックに襲われ、動きを止めた青峰を桃井が心配そうに見つめている。
「...何だよ」
言わば悪夢の始まりだった。
今でこそバスケットと真っ直ぐに向き合っているが、当時は辞めようと思ったことすらある。
「バスケ...続けてたのかよ」
「え?」
青峰が荒れた大きな切っ掛けと認識していた桃井は、青峰の反応に困惑していた。
「てっきり、もう辞めちまったんじゃないかと」
「...大ちゃん」
桃井の予想と反し、どこか嬉しそうな青峰の姿。俯く横顔から小さな笑みが覗いている。
青峰としても、あの試合は良い思いでと言い難い。井上に対して、悪意を感じた事もある。
それでも、誰かのバスケットを辞める理由に自らがなると言うのは、中々にキツイものがある。特に、1度は競い合えるライバルと認めた相手となると。
柄ではないが、言葉の後に『よかった』と言ってしまいそうなくらいに、感慨があった。
「しかも、よりによってアイツ等んとこかよ」
「よかったね」
「何が、良いんだよ」
「んふふ~」
加えて、着ているユニフォームが相模高校。どうやら縁は切れていないらしい。
桃井が横から満面の笑みを向けてくるので、恥しそうにそっぽを向いた。
「ま、楽しみが増えたってだけだ」
桃井の保護者目線を受けたまま強がりを言ってみる。
嘘ではないが、言葉が弱くなってしまうのも仕方が無いのだろう。
「先ずはDFだ。井上はPF、灰崎はSF、英雄がSG、荻原がPGの奴をマークしろ」
ベンチを後にするメンバーにマッチアップ変更の指示を出した花宮。鳴海と井上をインサイドに固定し、残りはそのままスライドさせた。
コートに灰崎を残し、点差も確保している。OFよりもDFをしっかりと構築したい。
態々ベンチに下がったのだから、徹底的に劇を飛ばす。
「あれ?これって、トラッシュトーク全開パターン?」
コートに入ってから気が付いた。
今まではプレーしながらの発言だったが、ここからそのバランスは傾く、英雄達にとってよくない方向に。
「やめろ。テンション下がる」
ここ最近、やたらとキツめに言われている鳴海の眉間に皺がよっていた。
聞き流す事は自然に身に付いたものの、トレーニングルームの時の様に、型にはめ込まれると逃げ切れない。
「...そんなにキツいのか?」
知らぬが仏。
素朴な疑問を抱くのも良いが、知らなくても良い事もある。
「まぁ、その内分かるんじゃね?」
時間の問題であっても、一応とめておく灰崎であった。
第3クォーターが開始した。
相手チームは前半と変わらず、2IN 3OUTのフォーメーションで組み立ててきた。
緊張で硬くなっている井上を除いた面々は、直ぐに井上投入の効果を感じていた。
「(おー、悪くねーな)」
「(だが、やっぱり不安定だな)」
直ぐ近くの鳴海は素直に良いDFだと認め、大きく広く眺めている花宮には、鳴海と合わせて今1歩に見えていた。
「(それでも、祥吾をゴール下から解放できるのはデカイな)」
鳴海と井上のコンビに期待はできそうなのだが、現状で言えば連携も甘く不安が残る。
その一方で灰崎を平面でプレーさせられると言う特大のメリットが生まれる。
チーム事情でインサイド寄りでプレーする事が多いが、本来のポジションはSFである。
「(分かってんよ)シゲっ。気後れしてんじゃねーぞ!」
「おおっ!」
英雄のアイコンタクトを理解し、荻原に激励を送る。
声に反応した荻原は積極的にプレスを掛けてボールに迫った。
「インサイド2人!マークに吊られ過ぎるなよ!」
ミスをする前から花宮の駄目出しが光る。
マンツーマンDFだからと言って、ずっと競り合い続けてはいない。
全体を見て、相手の動きを読み、先回りをしてゆく手を阻み、ディナイをする。これが継続できれば文句なし。
逆に出来ない限り、花宮は止められない。公式戦の為に、あまり酷い言葉を使ったりはしないが、チクチクとつついてくるのも精神的に疲れるのだ。
「スクリーン注意!」
鳴海のマークがゴール下から離れて、スクリーンを使って揺さぶりを掛けてきた。
英雄のコーチングに反応し、井上がヘルプポジションにつく。
「おりゃっ!」
井上の本来のマークが空き、パスを送られたが、逆に灰崎が狙ってスティール。
「速攻ー!」
カウンターに切り替え、走り出す英雄と荻原に灰崎がロングパス。英雄が受けて、更に深く切り込む荻原にバウンドパスを通した。
「よっ」
ターンオーバーのチャンスをきっちりとレイアップで決めて、後半の先制を相模が取る。
花宮がいない状況でも、カウンター速攻が成功し、それなりに手応えを感じた。
「(...けど、全体の機動力が落ちるな)」
秀徳との試合の様な、花宮と明洸トリオが生み出すスピードをこのメンバーで再現出来ない。
灰崎のスティールから始まった速攻も、英雄と荻原の切り替えの早さに追いつけていなかった。
判断能力も含めて、インサイド2名に関しては、準備不足が目立つ。灰崎のスティールは良かったが、言ってしまえばそれだけなのだ。
「判断遅いぞ、インサイド2人!つーか、何でお前も不安げにやってんだよ、鳴海!」
井上はある程度仕方ないとしても、一緒になってマゴマゴしていた鳴海は問題あり。その体格で恐る恐るのプレーは見ていて腹が立つ。
「うぉ、鳴海ロックオンされてる」
「今日までイノッチとコミュニケーション取ってなかった鳴海ちゃんが悪いから、フォローしてあげない」
鳴海は暁大カップから個人の能力向上をメインでやってきた。井上が加入してから、3対3などの練習が出来る様になっていたが、井上との意識のすり合わせを全くしていなかった。
自分の事で精一杯になっていたなんて、花宮の前では言い訳でしかない。
「花宮タイム確定かよ」
前半の出来が良かった為に、試合後の駄目出しが確定すると、テンションが萎える。
練習後、自宅に帰ってしまう井上と話す機会が少なかった為なのだが、花宮には関係ない。
「あっ」
そのことに気を取られ、ポストにボールを入れられてあっさりと失点。
駄目出しがダメ押し。下手をすると長丁場になり、英雄らも巻き添えをくらう。
「死ね」
審判にみつからない様に、静かに毒を吐く花宮の姿があった。
今のは仕方ない失点ではなく、防げた失点。見逃すはずがない。
「もう諦めようぜ。無傷ではいられない」
開き直った荻原が鳴海からのスローインを受けた。
「元々、今の俺らに完璧な内容なんて無理だし」
「確かにな」
英雄と灰崎も同意し、コートの外の事に目を向けるべきじゃないという。
「セットOFでじっくり経験値溜めよ。鳴海ちゃんがロー、イノッチがハイ、場合によって入れ替わって」
寧ろ、失点して頭の切り替えが出来て良かった。試行錯誤をしながらでは、粗もあって当然なのだ。
目先を変えて、試したかったセットOFに集中する。
「(えーと。あんまり抜きに行ったら不味いんだよな)」
相手チームもポジションに合わせてマークを変更している。荻原にも相手チームのPGが前を塞いでいた。
いつもはウィングとして左右45度から始まるが、現在中央ど真ん中。ボールを奪われればフォローが利かない。その為、ドライブよりもリズムを作るパスを優先される。
ボールを奪われないように、半身に構え低いドリブルをする。そして、花宮の注文通り、素直に井上へとパスを入れた。
「(これでいいのかな)」
「いや、正直過ぎんだろ」
確かに、インサイド中心と言った。英雄も放り込めばよいと言ったが、アイデアがなさ過ぎる。
崩しも無く、プレッシャーを受けている井上のポストにパスを入れて、そこから何をすると言うのか。
花宮の独断的採点で減点をつけた。
「へい!」
灰崎がカットインで切り込んで、バックドアを狙う。流石の流動性が荻原の凡パスからチャンスに繋げる。
「鳴海ちゃん!」
「うるせぇ!分かってる!!」
灰崎が切り込んでも中に充分なスペースが無ければ、効果は半減する。状況に合わせて外へと開き、マークをつり出す。
動くよりも英雄の声が早かったが、一応理解はしていた。
「(灰崎!)」
井上が合わせてパスを出す。しかし、灰崎のスピードに会わせきれず、パスターゲットから後ろにずれた。
「(あーもう!ここはバウンドパスだろ!)」
技術以前に試合勘が戻っていない。咄嗟に腕を伸ばしてボールを受け、無理やり胸元まで引き込んだが、中途半端な位置で足を止めてしまった。
荻原も慣れない役割によって迷い、フォローのポジションに移っておらず、DFが迫ってきた。
「しょーごー!」
無理やり決めてやろうかと考えていると、外から反時計回りに走る英雄の声が耳に届いた。
「(あいよ!)」
直ぐさまパスフェイクからドリブルを仕掛け、ステップバックで距離を空ける。シュートを警戒したDFのブロックを両手で送ったパスが超えていく。
タイミングはバッチリ。外を回っていた英雄が急激に進路を変え、リングの向かってきた。自身のマークを荻原をスクリーンに使って引き剥がし、フリー同然となってボールにあわせた。
「どんぴしゃ!」
ワンハンドのアリウープを叩き込み、微妙な雰囲気を吹き飛ばした。
『うぉっ!すげぇ!』
『アリウープも凄かったけど、見たかよあの切り替えし!』
残念ながら、相模の持ち得る武器の中でも、この2人のコンビプレーを超えるものはない。
無茶振りを受けた荻原はともかく、鳴海と井上の動き出した1歩遅いのだ。
「(これが使えるのは分かってんだよ)見てて、イラつくわ」
花宮の考えとして、英雄と灰崎は保険に過ぎない。2人のごり押しで勝っても意味は無く、他の武器を探さなくてはならないのだ。
自分の代役として出ている荻原にも、もたつく井上にも、何故か一緒にバタつく鳴海にも、正直フラストレーションを溜めていた。
「悪い」
「いいけどよ。ボール離したらいつも通り動けば?」
素直に非を認める荻原に一言アドバイスを送る灰崎。花宮の役割をこなそうと頑張っているが、無理なものは無理なのだから、やることを細かく整理した方が良い。
「鳴海ちゃんは気を使うとかしなくていいから。てか、しないで」
「っう」
今まではゴール下に実質鳴海1人でやってきたが、井上が加入した事により、ポジションを無意識に譲ろうとしていた。
花宮は厳しく扱っているものの、井上は年上の先輩なのだ。他のメンバーの様に、フランクに接する事が出来ない。つまり、原因はやはりコミュニケーション不足。
「先にいたのは鳴海ちゃんでしょ。自己主張をして、イノッチを引っ張らなきゃ」
「何か期待値高くねぇ!?」
「高くないっ!」
先日行われた灰崎との1対1を見る限り、井上よりも優れているとは思えなかった。
鳴海自身には良く分からないが、井上よりもハードルの設定が高いらしい。
急に真面目モードになる英雄の雰囲気に負けて、反論が出来ない。
「先ずはイノッチて呼ぶところから。いいね?」
「...おーけー」
言いたい事を言って、さっさとDFに戻る英雄の背中を見ながら、鳴海は自陣へ走りながら井上に近づく。
「...あの、イノッチ」
「不慣れ感半端ないな」
とりあえず呼んでみたが、冷静に返される。
「アイツ等、試合ん時は練習よりも速いから、1歩前にパス出さないと」
「みたいだな。そこは修正するよ」
井上の中学での実績は鳴海の上。当たり前の事を言っても意味が無い。全力で空回る鳴海は言葉を見失った。
「あ~」
「悪いな。何とかチームについていくから、気にせずプレーしてくれ」
逆に気を使われた鳴海。まともな会話は初めてで、試合中の簡単な言葉もあり、上手くコミュニケーションが取れない。
他のメンバーと違って、物腰静かな井上とはどうしても探り探りになってしまう。
「(うーん。インサイドがしっかりするまで、もう少し時間が必要かな。なんかこう、外カリ中フワ?)...ぷっぷ」
相模の状態を例えてると、自身の思いつきが笑いのツボに嵌り、噴出す始末。ついでに鼻水が飛び出し、とんでもない顔になっていた。
「って、おーい!何やってんだっ!!」
こんな時に全開の馬鹿面を見せ付けられ、灰崎の精神面が揺さぶられた。
「い、いやさ。外カリが、中フワで」
「鼻水拭けよ」
言いたい事は沢山あるが、鼻からぶら下がっている物からつっこむ事にした。
「頭足りてねーんだよお前ら。もっと考えて動け」
イマイチ上手くいかないチームをフォローする為に、英雄と灰崎が走り回る時間が多くなった。
TOを取っても、花宮から一方的に悪口を言われ、中々修正が進まない。
「DFも中を警戒し始めてるから、1回外から仕掛けろ。仕切りなおしだ」
最後に1度だけ、的確な指示が出るから油断出来ない。
花宮の指示に従い、英雄がボールを運んでリズムを作り直に掛かる。
灰崎が囮に走り、英雄がパスを捌く。荻原を本来の役割に戻して、勢いを作っていった。
「パァース!」
鳴海もこの5人に慣れ始めたのか、積極的にパスを要求が増えていく。
そして---
「おっ待たせしましたー!」
平面でかく乱し、チェックが甘くなっていた井上に英雄からのパスが通った。
「(落ち着いて、落ち着いて)打つっ」
ゴール下とアウトサイドを攻め、空いたミドルレンジでジャンプシュート。
効率的なゲームメイクと、あえてジャンプシュートで初得点をさせ、花宮好みのご機嫌伺いをする英雄。試合後の反省会の時間を短くしたい一心だった。
「(でも、いい感じ~)シゲ、こっから全部任せるよ」
「よし!やってみる」
気持ちがノった状態でボールを預け、再び荻原のボール運びを試みた。
今度は無理にインサイドを選択せず、灰崎や英雄にパスを回して、じっくりチャンスを窺う。
DFに関しても徐々に噛み合い始め、ディナイやカバーリングも効果を出す。
「やっべ!」
勢いに乗った時には、案外凡ミスが起き易い。
鳴海がヘルプポジションへの移行に遅れ、失点のピンチが訪れた。
「(これは、間に合わないぞ)」
灰崎が既に走り出しているが、ブロックは難しい。強引に行ってもファウルになる可能性が高い。
「(っく)このっ...!」
仕方が無いが、この失点は見送ろうかと思った時。井上の右手がボールを弾いた。
咄嗟の判断でもその手は真っ直ぐにボール目がけて伸ばされており、ラインの外まで弾き飛ばした。
「ひゅう!やる!」
「ナイスブロック」
少なくとも初得点を奪うまでは、イマイチと評価せざるを得なかった。
1つ段階を超えた為か、今のブロックは中々に冴えていた。
「(そういや、俺とやった時も良いブロックしてたな。バレー部で磨いたからってか)やっとマシなプレーが見られたな」
英雄と荻原が褒めている中、灰崎はようやく納得出来るプレーが見れたと溜めたフラストレーションを解消していた。
1対1で直接技量を体感した灰崎には、これくらいは出来るだろうと思っていたのだから、今までのちんたら具合にも腹がたつ。
「(本当に面倒臭い奴。つーか鳴海の野郎、本気で追い詰めないとポカ減らないのか)」
花宮も同じ事を考えていた。だが、1つ段階を踏んだ井上よりも鳴海に問題がある。1度、本気で言葉攻めをしようか思案していた。
「(あーあ。鳴海ちゃん、お大事に)ま、こっからこっから!」
第3クォーターを丸々チーム全体の修正に使った為に、点差が大分減ってしまったが、手ごたえはあった。
第4クォーターからは荻原にボール運びを任せて、花宮は課題探しに努めていた。
相変わらず至らないところだらけ。細かいミスの連発で、数えればキリがない。ノートに書きながら、舌打ちも増える。
結局、挽回しきれず、反省会は長々と行われる事となるが、しっかりと得るものは得ていた。
「ひっでぇな、見れたもんじゃねぇ」
「その割には真剣だよね」
横でぶつくさ言っている青峰に、微笑みながらの桃井。
「もういい。大体分かった」
「会ってかないでいいの?」
試合も途中であるが、青峰はコートに背を向けた。しばらく会う機会は無いのだからと桃井は言う。
「別に。いずれコートで会うだろ。勝ち続ければな」
しかし、雑談が目的ではない。コートで見え、戦い、勝つ事。
既に宣言はしておいた。相模のバスケの方向性も確認した。この場には、これ以上用事がないのだ。
「それに。試合に出てない分、練習しねーとな」
相模の評価を口にしたが、桐皇が仕上がっているとも言えない。早めに合流し、反省会くらいは参加するべきだろう。
そして、都大会を勝ち抜く為に、準備をするべきだ。
今日、緑間と顔を合わせて、その必要性を確信した。見たところ、少し肩周りが大きくなっている気がする。
「先ずは秀徳。相当根性入れねーとヤバいかもな」
本編の暗い感じが続いているので、1度明るい話題づくりを。
ヒーローメインで、こっちは月1のペースを目指そうかと思っています。