黒バス ~HERO~   作:k-son

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外伝:灰色の思い出

---補照英雄という男。

どうやら他の奴は、あの4人とはまた違う特別な見方をしているはずだ。

そして俺も...。

 

【お前、はぐれメタルって感じじゃね?】

 

それは、出会った直後に掛けられた言葉。

いままでも、これからも、そんなことを他で言われる事などないだろう。

強者として妬まれ、疎まれてきた。

強者は他にもいるのに、この悪意の対象はいつだって灰崎であった。

 

【ああ!なんだてめえは!?】

 

言葉と同時に拳を突き出す。

 

【ひょーい。両手ぶらりガード...なんつって。】

 

【くっそ!あたらねえ!!】

 

でも、この男はどこか違っていた。

最初の頃、実力試験に遅刻して失格になり、3軍で雑魚どもに格の違いを分からせてやってた時も---。

 

【俺も俺も!】

 

英雄は陽気に近づき勝負を挑んだ。

しかし、実力差は圧倒的で、勝敗はあっさりとついた。

灰崎は、相手の技を奪ってしまう。

技の微妙なタイミングや打点を我流に変えてしまい、それを見て相手は自分を見失ってしまうのだ。

 

【あ?大した事ねぇな。どいつもこいつも、このままじゃあっという間に1軍昇格だな。】

 

今までの相手はその差に絶望し、顔面蒼白だった。

 

【やるなぁ、たまげたよ。】

 

陽気さは変わらず、肩を叩きながら賞賛していた。

 

【馴れ馴れしいぞ!調子にのんな!!】

 

【ちょーと待っててよ。すぐに追いつくからな。】

 

【はぁ?無理に決まってんだろ。いつまでもショボイバスケでもやってろ!】

 

灰崎はその手を振り払う。

 

【お前友達いないだろ?なんか分かるわぁ。なんか、そう!はぐれメタルって感じじゃね?倒せたらスゲー経験値くれそうだし。】

 

体育館内にクスクスと笑い声が響きだした。

直ぐに灰崎の怒声に変わるのだが。

 

---なんとなく、覚えている。今でも。

 

その後、1軍へ昇格が決まるまでの間、短かったが英雄は毎日毎日俺に挑んできた。

1度も負けたりしなかった。でも...

日に日に上手くなっていることも実感した。

何度奪っても次の日には復活して...いや、奪えなくなっていた。

 

【もう直ぐだ。楽しみにしてろよ。】

 

そして俺は2軍になり、結果を出し続けた。

でも、周りからゴチャゴチャと言われる様にもなった。ストレスが溜まる一方で、イライラが募る。

だから初めて、人を殴った。あの時は流石に退部かと思ったが、バスケの結果を見て、ほぼ不問になった。

そして、学校の外でストレスを発散させる事も覚えた。

コートの外で暇つぶしに奪い続けた。アクセサリ、金、女...挙げればきりが無いほどに。

いつの間にか、サボり癖もついたがそれでも関係なかった。

現状、俺がポジションを奪われる事はない。なぜなら、俺が強者だからだ。絶対的な。

帝光バスケ部の理念『勝利』。勝てば良い。

実際、全国は優勝した。

 

当然、3年生は引退した。

新キャプテンに虹村さん。副キャプテンになんと同学年の赤司が就任した。

確かに実力は認めるが、これには驚いた。

そんな時、1軍にアイツが来た。

 

【補照英雄でーす。仲良くしてね~。1番から4番までできまーす。】

 

その日の練習終了後に久しぶりの勝負を挑んできた。

 

【よう!へへっ追いついたーっと。】

 

始めは油断していた。俺も俺で成長している為、差はスライドするだけ。そう思っていた。

そして前回同様に負けなかった。でも、...勝てなかった。

たった半年で、本当に直ぐそこまで、追いつかれてしまった。

練習不足といっても、全ての練習をサボっている訳でもないし、それでもあの4人以外には全て勝ってスタメンにもなった俺が。

...ただ、そのドヤ顔がムカついたので、ケツを思いっきり蹴ってやった。

 

 

そして、日常が徐々に変わっていった。

 

【よお、はぐれメタル。部活行こ。】

 

【そのあだ名やめろ!つか、だりぃから今日はサボるし。大体、お前に言われる筋合いは無いだろ。】

 

【いいから!メタル。行くよ、はぐれ。】

 

【てめ!!離しやがれ!!つか略すなら統一しろや!】

 

その日から、英雄の顔を見なかった日は無い。

何故か俺が逃げ回る日常が定着していた。しつこいったらない。

 

気付けば、外へ繰り出す日々はなくなっていた。

あの感情の昂ぶりは体から消えていた。

 

【じゃあ、モノマネやりまーす。】

 

【急になんだよ?まあ、いい。やってみろ。】

 

【スピード違反で捕まったコーチ。....すいません、今日は特別な日なんで勘弁してくれませんか?いいえ嘘じゃないです!ああ!キップ切らないで~。】

 

【ぎゃはっはっは!くっだらねぇ!いっくら、なんでも流石にねえよ。】

 

【いや、意外とそんなことあるかも知れないじゃん。】

 

【...あるかもな。ちょっと見て見たい気もする。】

 

【でしょ!?】

 

という様に学校生活に変化が訪れ

 

【今のプレーもうちょっと、外に意識できないの?】

 

【うるせえな。決まったからいいじゃねえか。】

 

【そんなつまんないこと言うなっつの!それだけでもっと楽になんよ。】

 

【っち。聞くだけ聞いてやる。】

 

【おぉ、素直じゃん。はぐれメタルの癖に...。】

 

【...気分が変わった。】

 

【嘘嘘嘘!!すんませんした!!どうか少しだけお耳をお貸しください!】

 

部活中にも、普通に笑うようになった。

 

ちなみに英雄の当時の実力はもう1軍でも上位になっていた。

俺も本気で相手をしなければ、やられるだろう。

英雄は認練習後にどこかで自主練をしているようだし、あの4人を相手にしても1歩も引かない。

紫原には特に言われていたが、とうとう実力で黙らせた。

ただ、コーチに嫌われていた。俺以上に。

ふざけているところを見つかり、降格。

直ぐに戻ってきたが。

 

そして、黒子という影の薄い見るからにショボイ奴が新しい風を運んできた。

赤司が黒子の1軍昇格に絡んでいるらしいが、正直理解できなかった。

だからつい、言ってしまった。

 

【お前、もう無理って分かってないのか?さっさと...!!?痛っ!!誰だ!?..英雄?】

 

急に殴られて振り向いた先に、無表情の英雄が立っていた。

 

【やあ、オヒサ黒子君。ごめんね、ちょっとコイツ借りていくよ。】

 

【っくっそ。離せ!!引きずるんじゃねー!】

 

【僕は構いませんが...。】

 

【虹村さ~ん、赤司様~。ちょっといい?】

 

【5分だけだぞ。】

 

あっさり、赤司は了承してしまった。

そしてどれだけ暴れても英雄は逃がさなかった。

 

【んだよ!!最近、相手してやってるからって調子にのんなよ!】

 

【...調子に乗ってんのは、俺?それとも...お前?】

 

【は?】

 

【クソみたいなことすんじゃねー、だからはぐれメタルっつーんだよ。だいたいお前が黒子君にどうこう言える立場かよ。もう少し尊敬されてから言えよ。】

 

【んだよ...お前うぜぇんだよ。】

 

思い切り殴りかかるが、掌で受け止められる。

 

【お前もな。いいから、後で謝っとけ。】

 

【嫌に決まってんだろ。】

 

その状態で睨みあう。互いに引かない。

 

【...あの。口挟んで申し訳ないですが、僕は気にしてませんよ。】

 

【【うわぁああ!!】】

 

急に現れた黒子に大声を上げ、雰囲気をぶち壊された。

 

【なんなんだコイツ...。まあいい、コイツが良いつってんだからこの話は終わりだろ?】

 

【....それで?】

 

【っち。】

 

---英雄と初めて喧嘩をした。

こんなに怒った顔は見たことがない。

この時、また昔のように戻るのだと思っていた。

 

その日の夕方。

 

【灰崎、何してんの?帰るよ。】

 

【....大概にしろ!本当に殺すぞ...。】

 

【いいよ、そーゆーのは。お前にあんなダッサイ事は似合わないからつい体がうごいちゃたんだよ。まじごめん。】

 

灰崎がいくら凄んでも英雄には効果が無い。

 

【あーもう!お前といると調子狂う...。】

 

結果的に濁され、灰崎は頭を抱える。

 

【俺には分かってんよ。...ちゃんと離せばお前は分かってくれる、良い奴だってことは。】

 

【.....い。いつの青春ドラマだよ...。漫画の読みすぎだ。】

 

【照れるなって!】

 

【やっぱお前、うざいわ。】

 

バシバシと叩いてくる英雄の腕を払いながら、逃げるように帰宅していった。

それからはまたいつも通りの日常を迎えた。

校外の知り合いに会う機会も減り、体の気だるさも消えていった。

この直後、コーチの采配に異議を立て、口論になり、またもや降格していた。

 

毎年恒例の交流戦の時期がやって来た。

 

英雄と黒子と灰崎は初出場の為、離す事が多くなった。

黒子に対して、以前のように離す事も無く、仲良くという訳でもないが、それなりに普通に接していた。

 

---別に英雄が言ったからじゃねえ。ダセエことはしたくないからだ。

 

と、心の中で言い訳をしながら。

黒子がすっ転んで鼻血を出したのは思い出深い。

本人は相当凹んでいたが。

それよりも英雄と灰崎が初めて一緒にコートに立った事は、当事者である灰崎にも周りにも衝撃を与えた。

 

【(なんだ?...DFってこんなに楽だったっけ?こいつらがショボイのか?..いや違う。)】

 

DFしながらちらりと英雄の姿を追う。

 

【(これは英雄が言ってた...。)】

 

以前からしつこく英雄が灰崎に教えていた事。

灰崎もなんとなく覚えていただけだったのだが、ここまで変わるものなのかと驚く。

英雄と灰崎のDFの受け渡し等の連携である。ただ、他と比べてスムーズなのだ。

自然とそこから奪い速攻に繋げるシーンは増える。

 

【速攻!!】

 

灰崎はスペースを見つけた為、走りながらボールを要求しようとした。

が、思い直し外へと1度出る振りをして、ゴール下へと回り込む。

 

【(やっぱりか...)ははっ!!】

 

走りこみ要求する前にボールが飛んできた。

これも以前英雄が言っていたことである。

灰崎は笑みを浮かべながらダンクを決めた。

 

その試合の総得点の4割を叩き出した。

これにはコーチも驚いていた。

得点の事もそうだが、他と比べて灰崎の疲労が低かった為である。

まだできていない体の為、体力面での不安はあった。

それを押しのけての結果を出し、みんなの視線を集めた瞬間は気持ちよかったと灰崎は感じた。

今までで1番楽しいと思ったのは、灰崎の秘密だった。

 

【(偶にはパス...してやるか。)】

 

灰崎はもう既に次の試合を楽しみにしていた。

そして事件は起きた。

 

2軍の試合への同行した日の事。同行したのは灰崎と英雄、そしてスコアリング係りの桃井。

相手チームの選手が灰崎の足に躓き転んだのだ。

その選手は怒り、灰崎に詰め寄った。

灰崎は見に覚えが無い為、振り払う。

しかし偶然相手の顔面を捉え、悪質なファールと取られて即退場になってしまった。

 

【ふざけんな!こいつ相手にわざわざそんなことするかよ!!】

 

コーチは審判に対して、反論はせず

 

【灰崎戻れ。】

 

【...くっそ!!】

 

【ショーゴ君、落ち着いて。】

 

試合自体は勝利したが、どうにも不穏な空気が漂っていた。

爆発したのは帰ってからのミーティングの時。

 

【灰崎。試合には勝ったが、1軍の者として疑わざるを得ない。】

 

【俺はやってねえ!】

 

【だったら普段の素行から改めるべきだな。学校の外でも随分好き勝手やっているそうじゃないか...。】

 

コーチは明らかに灰崎を疑っている。

周りの人間も何も言えない。

 

【なんだよ...。なんで信じてくれねぇんだ...。くそ。こんなんだったら。こんなつまんねぇなら...俺は!!】

 

【ふざけんな!!】

 

英雄が遂にキレた。机を蹴り飛ばし、コーチに詰め寄る。

 

【コイツやってないっつってんだろ!信じてやれよ!お前らも!何で何も言わない!!】

 

【英雄...】

 

【ヒデりん...】

 

【あの場面で、そんなダサいことする訳ないだろ!!俺は信じる!】

 

【補照。いつもつるんでるお前が言っても、全てを信じる事はできない。】

 

【あんただって見たろ!?交流戦で1番頑張ってたじゃねーか!そっから練習さぼったりしてないだろ!?お前こそコーチを辞めちまえ!そんな堅い頭じゃ勝てるモンも勝てねえ!】

 

【補照。こちらに歯向かう意味を分かっているのだろうな...。】

 

【うるせえ!..灰崎!】

 

【あ、ああ...】

 

【お前は謝らなくていい!!】

 

【英雄.......。】

 

灰崎はかなり泣きそうになっていた。

英雄は庇おうとしているじゃなく、本気で灰崎のことを信じて正そうとしているだけなのだ。

そんなことされたのは、

 

【(初めてだ...。)】

 

【もういい。補照と灰崎はこう...】

 

【待て。】

 

そこに帝光バスケ部・監督が入ってきた。

 

【話は聞いた。今回の件、見送ろう。】

 

【監督!しかし...。】

 

【実際、勝っているのだろう?それに、練習を真面目に取り組み出していることは虹村の報告で聞いている。今までの貢献を鑑みて、もう少し様子をみても良いだろう。】

 

【...分かりました。】

 

【そして、補照。発言は認めるが、目上のしかもコーチに歯向かう態度は見逃せない。しばらく、謹慎を命じる。そのメニューは私が組む。楽に1軍に変えれると思わないことだ。】

 

【上等。いや、上等です。とびきりな奴を期待しています。】

 

【はっはっはっは!そんなこと言った奴はお前が初めてだ。まあ、若いうちは多少の無茶がきく、期待していろ。】

 

【...今日はもう解散だ。】

 

そして、翌日から英雄は隔離された。

体育館内が少し静かになった。

 

ある日、灰崎は別練習を行っている英雄のところへこっそり足を運んでいた。

 

【よう。】

 

【よう...。】

 

ガラにも無く灰崎は引き摺っているのか、声に元気は無い。

 

【どうしちゃったの灰崎?また、サボったの?】

 

【ちげぇよ。終わってきたんだよ。つか、お前もまだやってんのか?】

 

【えぇーと。監督に一矢むいてやろうと思って、メニューに駄目出ししてやったらこんなことに...。いやぁ、何か監督イキイキとした顔してたなぁ。】

 

【...ははっ!変わらねぇな。】

 

【え?何?】

 

【何でもねぇよ。後、灰崎って呼び方はやめろ。お前から呼ばれるとなんか違和感があんだよ。】

 

【はぐれメタルが気に入ったの?】

 

【それもやめろっつんだよ!...祥吾でいい。】

 

【普通だな。まあいいか。】

 

 

 

2年になっても変わらない。部活以外では会っているが。

2つ変わった事が起きた。

1つは、そこについ最近入部したばかりで、スピード昇格した黄瀬とういう男がやって来た事。

2つ目は、英雄の起用方法が変更された。

黒子がいる以上、シックスマンとしては起用されない。当然出場回数は減る。

ただ、出場した場合。自由にプレーする権利を与えられる。

これは監督直々に決定された事らしい。

つまり、コーチの采配を無視できるという事。

ただし、その試合で負けたら責任を被り、何かしらのペナルティーを追わなくてはいけないとのこと。

 

 

そんな中、灰崎はイラ立っていた。

黄瀬が調子にのり、灰崎に挑戦してきたからではない。

灰崎にはよく分からなかった。

ただ、交流戦以降、でスカっとしたことは無い。

どれだけシュートを決めても、あの感覚は味わえなかった。

 

そして英雄が謹慎から戻ってきた。

また、あのプレーができると思っていた。

それでも灰崎の機嫌は悪かった。

 

「補照っち。勝負っス!!」

 

「え?今日は俺だっけ?青峰んとこ行ってよ。」

 

「昨日と一昨日、とっくに苛められたっスよ!!」

 

「えぇー!そんな愛人みたいな扱いはやだー!イケメンだからって尻軽で許されると思ってるの!?」

 

「ちょ!!何言ってんスか!?何で女口調なんスか!?」

 

最近、黄瀬が英雄の認識を改めたのか、週に1度勝負を挑んでいた。

ちなみに現状でも、黄瀬は英雄に勝った事はない。黄瀬の成長スピードでも、英雄の練習量は追い抜くことを許さない。

偶に灰崎のとこにも来るが、相手にせず冷たくあしらっていた。

 

「(っち。やっぱ気に入らねぇ。)」

 

黄瀬と英雄は性格でも合うのか、部活以外でもつるんでいる事が増えていった。

比例するように、灰崎の不満も募る。

灰崎と英雄が2軍の練習試合に同行することも2年になってから、一切ない。

そして、周りも将来的に黄瀬がスタメンと取るという評価をしている。

つまり、灰崎をその内抜くと思われているのだ。

 

 

「...最近、ミョーに機嫌悪くない?」

 

「うるせぇな!!寄ってくんじゃねーよ!」

 

昼休みの際、感情が表に出てしまう。

 

「お前もアイツの方が上だと思ってんだろ!どうせその内、あっちに行くなら!!...最初からこっちにくんじゃねぇよ。」

 

「アイツ?何言って...おい!どこいくんだ?」

 

「帰る!部活も休む。」

 

今までと違い、灰崎自身の存在が掛かった問題であり、常に勝者であった灰崎のプライドが許さない。

午後の授業もほったらかし、感情に従い帰宅してしまう。

そして、街中で出会った他校生と喧嘩をしてしまった。

全国大会の地区予選を前のトラブルは流石に見逃せない。重大なペナルティーは確実である。

 

そして、灰崎は赤司に呼び出された。

 

 

 

灰崎は自分のバッシュを持って、学校の裏庭に向かっていた。

 

『バスケ部を辞めろ。近い将来、お前は黄瀬にスタメンを奪われる。』

 

『お前のプライドはそれに耐えられない。今辞めなくても同じ事だ。』

 

赤司からの戦力外通告。

 

「(くそ...。どいつもこいつも。はっ!こんなつまんねーモン)辞めてやるよ。こっちから願い下げだ。」

 

栄光を失う前に捨てる為、焼却炉の前に立つ。

 

「灰崎君!!...本当に辞めてしまうんですか?そんなに上手いのに。」

 

「うるせぇな、なんだ黒子か。別に俺はバスケなんか最初からなんとも思ってねぇよ。」

 

焼却炉の中に放り投げた。

 

「どけー!!」

 

そこにバケツを持った英雄が走ってきており、中の水をぶっ掛けた。

 

「っくそ。...熱っ...これか、っこっちか!?」

 

すかさず焼却炉に手を入れて、バッシュを手探りで探す。

 

「英雄!止めろ!何やってんだ!!」

 

「うるせぇ!!どけっつってんだろ!!」

 

「英雄君...。」

 

灰崎が止めるも、英雄は既にマジギレしており、振り払う。

 

「...あった。っくそが、少し焦げてる...。」

 

英雄は大事そうにバッシュを抱える。

 

「お前...何してんだよ!手が...火傷してんじゃねーか!!」

 

灰崎は英雄の胸倉を掴み挙げ、問い詰める。

 

「お前!もう直ぐ地区大会だぞ!!何の為に練習してきたんだ!?」

 

「そうだな...。流石に間に合わないよな。」

 

「俺はバスケなんか好きじゃねーし!お、俺なんかの為に...こんなとこでリタイヤして良い訳ねぇだろ!!!」

 

「嘘付け!お前交流戦の時、笑ってたじゃねーか!あれでバスケが嫌いなんて言わせない!!」

 

「っく....それに俺は試合に出れなくなる。お前も黄瀬が俺を抜くって思ってるんだろ!?」

 

「そんなもん関係あるかぁ!!!」

 

英雄も灰崎の胸倉を掴み引き寄せる。灰崎のシャツに英雄の血が滲み、赤く染まっていく。

 

「やる前から諦めてどうすんだ!そういう姿勢が駄目なんだよ!!誰に言われたかはしらねーよ、負けたくないなら必死にやれ!!!」

 

「2人共!!落ち着いて下さい!!英雄君!早く保健室に行かないと!」

 

話に熱が入り過ぎた為、黒子は止めに入った。

 

「...逃げてんじゃねーよ。試合に出れないだぁ?俺もだよ!コーチには嫌われるし、赤司には使いにくいって言われるし、何なんだよ!?」

 

「俺に言うなよ。」

 

「でも、俺は諦めないぞ。周りがなんと言おうとも、認めさせればいいだけだろ。」

 

「うるせぇ、うるせぇよ!何なんだお前は!!」

 

灰崎の腕から力が抜けていく。

 

「お前の友人だよ。まだ辞めんな。本当につまんないなら、俺が楽しいと思わせてやるから。やり方が分かんないなら俺が手伝ってやるから!!」

 

足の力も抜けていき、地面に座り込む。

 

「俺の話を少し聞いてくれ、テツ君も。」

 

「...はい。」

 

「俺の夢はNBAだ。その為にはまず日本を制覇するしかない。だからここに来た。」

 

「..NBA。」

 

「ああ、誰もが馬鹿だと思うかもしれない。でも俺はやる。中学ではこのまま試合に出る事も少ないかもしれない。だったらその後に掛ければいいのさ。」

 

黒子は立ったまま聞き、灰崎は黙ったまま。

 

「同じ高校に全員進学する訳はない。今はそれを見越した修行中なんだよ。...だから、今試合に出れなくても問題ない。」

 

「でも、試合に出なければ声が掛からないと思います。」

 

「大丈夫、来年があるからね。アピールするには充分だよ。祥吾もな。」

 

「俺?」

 

灰崎は呆けていたところに名指しされ驚く。

 

「そうそう。俺と祥吾の相性は少なくとも部内でもかなり良い。だからもし、3年になっても進路に迷ってたら思い出して欲しい。」

 

灰崎の感情はボロボロで、もう限界だった。

 

「俺はお前とバスケがしたい。もっと凄い景色を見よう。俺とお前なら出来るって思うんだ。」

 

「お前...2年になったばっかりだぜ?気が早すぎんだろ...。」

 

感情は涙となり、頬から流れ落ちる。

 

「(奪っても奪っても、飢えを満たす事ができなかった。何故か?そんなのとっくに分かってたんだ。...地位や物は奪えても、

 

友達は奪えないって得る事はできない。)」

 

今まで寄って来るのは、擦り寄ってくる者でそれ以外は唯の敵。

残るのはいつだって悪意だけ。

でも、この男だけは違った。ぶつかる事もあるが、嘘や建前はない。

いつからか、灰崎は信頼していた。この強い信念を持つ男を。

 

「..英雄ぉ...ごめんなぁ..。」

 

「..お前はこうやって本気で行かなくちゃ分かってくれないんだから。流石に腕が痛い...。」

 

「そ、そうだ!保健室!!」

 

「急ぎましょう!!」

 

こうして灰崎は退部を撤回した。

ペナルティーとして、降格は否めなかったが、素直に受け入れた。

その姿は今までと違い、強い芯が通っており、堂々としていた。

更に、誰に言われた訳でもなく、自ら脱色していた髪を切り、黒に染め直し一言。

 

「迷惑かけてすいませんでした!もう1回チャンスを下さい!アイツの分も俺がやります。」

 

これには部の全員が驚いていた。

恐らく、灰崎なりのケジメなのだろう。

英雄は火傷は重く、地区大会の出場が不可能になった。

しかし、全国ならば間に合うかもしれないと考えた灰崎は決意した。

例え、黄瀬がスタメンだろうが関係ない、と。

 

「俺はアイツと一緒に、すげぇ景色を見るんだからな!」




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