ウルトラマンゼロ The Another Lyrical Story 第一章   作:フォレス・ノースウッド

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あらすじにも書いてるとおり、本作では独自の設定が結構あります。
その一つがイージスで、本作ではリミッターが掛けられて、ウルティメイトゼロにならずとも次元移動はできるけど、全ての力が使えるわけじゃなくなってます。
ザギの経験もあるから、リミッターぐらいノアは付け加えそうだと思ったので。




EP08 - 出会いの前夜

 異世界の地球にて、白い魔導師の少女とフェレットの二人を例外に、人知れず〝ウルトラマンゼロ〟として戦った諸星勇夜。

 あの戦闘の後、彼は関東地方で広くチェーン展開し、海鳴市でも複数店舗を置く大手スーパー〝関東スーパー〟で買い物をしていた。

 本日のフェイトたちに食べさせる夕飯の買い出しである。

 リンクの提案で、今夜は肉じゃがを主食としたラインナップにする予定。

 必要な材料を目利きし、買い物籠に入れながら、勇夜はついさっき――少女たちに発した言葉を反芻し、少しカッコつけてしまったなと一笑していた。

 昔はそれこそ、〝二万年早いぜ!〟とか、〝ビックバンは止められないぜ〟とか、勢い全開というか勢いだけのヘンテコでワケわかめな台詞を平気で吐いていたのに、今はそれを思い出すだけでちょっとこそばゆい。

 いつもなら、用が済めば何も言わずにさっさと空へ飛んで退散するのだが、あの時の二人の思い詰めた様子を見てると、どうしても何か言わなきゃ気が済まなかった。

 二人の会話から察するに、あのフェレットの正体は〝ユーノ・スクライア〟で間違いない。

 ボート場での戦闘を踏まえて、あの〝なのは〟と言う日本人の女の子がユーノに協力するに至る流れは――

 

『(輸送事故でこの地球にロストロギアが散らばってしまった事態に責任を感じたユーノ・スクライアは、独自に回収を試みるも、異相体との戦闘で〝適合不良〟を起こし、フェレットの姿で魔力の節制を行わなければならないほど消耗し、仕方なく魔力資質を有した地元民に呼び掛けた結果、あの子が応じたのでしょう)』

 

 ――リンクが整理して纏めてくれた。

 ちなみに、彼女の言葉の中に入っていた単語――適合不良とは、大気に漂う星そのもののエネルギーである魔力素をリンカーコアに取り込み、魔力に変える機能に支障を来してしまう症状

 似たようなのを上げるなら、〝時差ボケ〟。

 当人にとって、未知の世界な星に降り立った際、その星の魔力素の濃度とった環境に体が着いていけなくなり、上手く魔力運用ができなくなってしまうのだ。

 

『(いわゆる、〝自分で全て何とかしなければ病〟、生真面目な方によく見られる症状です、前準備も無しに地球に降りた辺り、無為無策も甚だしいですね)』

 

 そこに少し毒のあるコメントも付け加えて。

 この相棒は、言葉も態度も平静で丁寧な一方、時たま毒気のある物言いをする癖がある。

 その毒舌な彼女の言う通り、なのも事実だ。

 異世界を渡り歩く頻度が多く、適合不良のリスクには身に沁みて理解している筈のスクライア族でありながら、前準備も怠って〝一人〟で〝管理外世界〟に行き、あそこまで弱っているということは、それだけ焦燥で思考が冷静さを欠いていたと言わざるを得ない。

 

「(その辺にしろ、その生真面目君だって、もうとっくに戒めてるだろうからさ)」

 

 とは言え、相棒のきつい物言いは看過できないので、釘も差しておいた。

 

『(はい、すみません)』

 

 リンクは即座に詫びた。

 呆れるくらいの素早い対応。

 たく、どうして自分の言うことにはこうも素直なのやら、と苦笑してしまう。

 同時に、毒舌へのお仕置きも兼ねて、ちょいとからかってみたくなった。

 

「(俺に謝ってどうすんだよ)」

『(謝罪するべき当人がおられないので)』

「(おい、俺は代替え品か何かか?)」

 

 顔に出しては周りから変な目で見られるので、あくまでイメージの内で悪戯っ気のあるやや下種な笑みを浮かべて返す勇夜。

 

『(いえマスター! 滅相も…ありません、そのような意味で……申し上げたのでは………)』

 

 すると、さっきまで淡々と声を発していたのは嘘のように、急に慌てふためく口調に様変わりし、途中から何やらぶつぶつと呟き出した。

 おろおろした彼女に、勇夜はさらに追い打ちを掛ける。

 

「ふ~ん、じゃあどんな意味なんだ?」

『え?…その』

「ど・ん・な意味なのかな? 〝リンクちゃん〟」

『〝ちゃん〟を…付けるのは、やめて下さい……………マスッ…ター……恥ずか…しいです』

 

〝ちゃん〟付けされたのはよほど応えたのか、リンクは途切れ途切れな口振りで悶え、恥ずかしがっていた。

 普段の『できる秘書官』然としたクールな雰囲気とのギャップもあって、こう〝女の子〟らしい、言い方によっては〝ボロを出す〟とも表せる反応を見せる彼女も、これはこれで愛らしくて可愛いと思っている。

 正直もっと見たいという我ながら嫌らしい欲求に駆られるが、これ以上の相棒のお仕置きはやめておこう。

 ほどほどにしないと、さしもの彼女でも怒り心頭になるだろうから。

 とりあえず、ユーノが現状は判明した。

 多分今は、協力者である〝なのは〟の家に御世話になっているだろう。

 ただ……気になるのは、どうして成り行きで〝魔法使い〟になったあの子が、今もジュエルシードの収集に携わっているのか?

 ほんのちょっと見た程度でしかないが、ユーノは押しの強い人柄じゃない。

 なら、あの子が今も彼に協力しているのは、彼女自身がそうしたいからってことになる………から分からない。

 いくら素質が申し分のないにしても、普通の暮らしをしてた地球人の女の子が、自分から鉄火場の中に入り込むは思えないのだ。

 歳相応以上の責任感………いや違う。

 あの時の大粒の涙を流して己を攻める様子からして、責任感どころかむしろ強迫観念すら感じた

 何があの子をあそこまで掻きたてているのか……今は靄がかかって答えが見えない

 それよりも、深刻な問題がもう一つある。

 

「(あの子たちも収集を続けるとなると……)」

『(ジュエルシードを巡って、フェイトたちと戦闘を交えることは避けられないでしょうね)』

 

 なのはとユーノの二人は、ジュエルシードは全て集め次第、管理局に渡すだろう。

 となると、私的で違法に集めているフェイトたちとは、確実にロストロギアを巡る争奪戦になる。

 俺にもいきなり警告も無しに攻撃をしかけてきた辺り、一緒に協力して集めるという思考は、今のフェイトには持ち合せていない。

 たとえ相手が誰だろうと、魔導師としてはビギナーななのはでも、容赦無くバルディッシュの刃を突きつけるはずだ。

〝フェイト〟の名の通り、あの子たちの戦いは、避けられない〝運命〟だ。

 そうなった時、俺は―――

 

『(ややこしい選択をしてしまいましたね)』

 

 リンクからきつい一言が来た。

 ほんと…そうだな。

 ともかく今は、フェイトのお袋さんに会うまでは、争奪戦の煽りを海鳴市民に受けさせないようフォローしつつ、静観の立場に徹するしかない。

 そういう意味では、なのはにはもう煽りを受けさせてしまった。

 まったく…あの子にあんな偉そうなこと言っておいて、現状では一番自分が〝中途半端〟な立場、人のことが言えない。

 フェイトたちに加担なんてできないし……かと言って交わした〝約束〟の都合上、目的が近いとなのはたちともつるめなかった。

 だがずっと引きずっていられない。

 現状の枷がなんだ?

 どんな状況だろうと―――自分が〝今やれること〟をやるだけだ。

 

 

 

 

 

「ゼロに会ったですって?」

 

 高町光ことミラーナイトは、夕食後になのはたちから聞かされた話しに驚きを隠せなかった。

 なんせその日現れた異相体の一体を、11年来の離れ離れだった仲間と義妹(いもうと)が、共闘して一緒に倒したというのだから当然である。

 

「はい、すぐに飛び去ってしまったんですけど…」

「それで、そのゼロさん、ユーノ君の世界でも、ちょくちょく現れているらしくて」

 

 ユーノの話では、ここ数年、ロストロギアによって生まれた異相体や凶暴化した魔法生物など、それこそ怪獣クラスの災害が起き、魔導師の力を持ってしても対処しきれない絶望的な状況下に陥った際、どこからともなく現れ、収拾をつけるとどこへとも無く去っていくそうで。

 ユーノたちの世界の人々は、そのウルトラマンゼロのことを『光の巨人』と呼んでいた、それとは別にユーノの世界の治安を請け負う組織からはその巨大さから『マウンテンガリバー』とも呼称されているらしい。

 理由は山のように大きいから、なそうである。

 意外に単純な理由である。

 ウルトラの世界でも、単純明快なネーミングセンスで名づけられてしまった怪獣は、かなりの数で存在する。

 ある怪獣は、空=スカイからドーンと落ちてきたから『スカイドン』を呼称されてしまったし、ある宇宙怪獣がゴキブリと毒クモを合わせた容姿なだけで、当のウルトラマンご本人から『ゴキグモン』と名付けられた事例さえあった。

 

「どうしてそれを早く教えてくれなかったんですか!」

 

 思わぬ不意打ちという報せに、光はユーノを両手で鷲掴み、相手の襟もとを掴む要領で振り回した。

 

「すみません…まさか…あなたの仲間があれほどの巨人だと思わなかったので」

「あ…」

 

 目を回しながら弁解するユーノに、ようやく光は、自分がうっかりをかましていたことに気づく。

 そう言えば、二人に自分がこちらの世界の地球に来るまでの経緯は話したが、自分たちが50メートルクラスもある巨人だとはまだ一言も言っていなかった。

 初めてミラーナイトとして姿を現した時も、人間サイズであったし、ゼロと自分の繋がりにすぐ行きつけなかったのは無理無い。

 

「すみません…また取り乱してしまいました…」

「いいですよ、あとそれと…そのウルトラマンゼロかもしれない…モロボシ=ユウヤって人のことなんですけど」

 

 モロボシ=ユウヤ。

 光とほぼ同じ時期にミッドチルダという世界に迷い込んだ (向こうは次元漂流者と呼んでいるらしい)人物。

 

「僕は会ったこと無いんですけど、仲間の発掘調査に何度か彼が護衛として同行したことがあって」

 

 それから、そのユウヤの管理世界での経歴の話になった。

 9歳で嘱託魔導士と呼ばれる資格をとり、ここ数年は、実質フリーランスの立場で様々な世界を廻っている。

 一見当り障りは無いし、輝かしいとも言えない。

 しかし、彼は色んな面で異端だった。

 8歳の時、管理局員である保護責任者の連れで管理局を見学した際、局員との模擬戦を志願した。 

 子どもの遊びだろうと高を括り、軽い気持ちで局員の1人が相手になったがそれがいけなかった。

 彼は、あらかじめ借用された訓練用のデバイスを使わず、徒手空拳で相手を打ちのめしたのである。

 本人曰く手加減したと言い、相手をした局員も怪我はなかったが、大の大人が、子どもに腕っ節で負けたのである。

 その子どもは魔導師としての素質が充分にあると見なされたにも拘わらずだ。

 当時の管理世界にとっては天地もひっくりかえる出来事だった。

 が、異端の経歴はそれだけでは終わらなかった。

 嘱託魔導士の資格取得の為の試験。

 筆記も難なくクリアし、実技に移る。

 その実技試験は二つある。

 まずは特定のターゲットを破壊することだった。

 彼はそれを魔法による一撃で破壊した。

 それだけでもまだ凄いが、予想範囲内である。

 問題は次だった。

 最後は魔導師同士の試合だった。

 相手は、彼より年上で局内屈指の武道派であった。

 試合は互いに互角、どちらも譲らない、

 だが勝敗の決め手となったのは、ユウヤが魔力をこめずにデバイスの剣から振るわれた神速と呼ぶべき剣撃で相手のデバイスを切り刻んだことで決した。

 ここでも彼は (最後の止めのみとは言え)魔法を使わずに、相手に勝利したのである。

 そうして彼は、嘱託魔導師の資格を得た。

 その後もモロボシ=ユウヤという少年魔導師は、着実に成果を上げていった。

 状況によっては魔法を使いつつも、大概は己の肉体と刀とレアスキルらしき能力で、魔法を使わずに魔導師を駆逐する。

 常識外れな事象をやってのける時空漂流者。

 だが彼はそこまでの実力を持ちながら、資格は取る一方で頑なに嘱託以上の地位を拒み、出世コースに入ろうとしなかった。

 そうして彼は良い意味でも、悪い意味でもこう呼ばれるようになる―――『魔導殺し』―――と。

 

「その僕の仲間たちの護衛任務の時、発掘したロストロギアを輸送中、ある犯罪組織の襲撃にあったらしいんですが」

 

 中には管理世界では禁止されている質量兵器(銃などの実弾兵器)を使用する者もいたが、彼は物怖じすることなく、刀と拳と、ブーメランのように飛ばした短刀で、全員を殺さずに戦闘不能にした。

 無論無傷ではないし、デバイスと質量兵器も徹底的にジャンクヤードにされた………とのこと。

 

 その一連のを聞いた光の第一印象は…確かに〝ゼロ〟ならやりかねないな、だった。

 元々彼は、組織の厳しい規律に大人しく従う性格ではないし、ウルトラマンであることを隠しつつ、自分自身の能力を使うには、むしろフリーの立場の方が動きやすい。

 世界を回っているのも、自分たちを探していると考えれば納得が行く。

 これでモロボシ・ユウヤ=ウルトラマンゼロである確証は強くなった。

 

「で、そのモロボシ=ユウヤと今日会ったんですね」

「何故分かったんですか?」

「わざわざその人の経歴を詳細に述べているあたり、そうだと思いまして」

 

 どうやら彼は、たまたま今日のサッカー試合観戦に通りかかったらしい、

 選手が偶然自分に向って蹴り上げたボールを、蹴り返してシュートするという名プレーをしたそうである。

 ユウヤとゼロが同一人物かは置いといて、今この世界にゼロがいることもよく分かった。

 となるとジュエルシードが発動した時に、彼と接触できる可能性は高い。

 けれども、ユウヤ=ゼロであることをどう確かめたものか。

 一応、ゼロのミドルネームが同名という証拠があるのだが、これだけで断定するほど、彼は楽観的ではない。

 

「ところで…もう一つの異相体はどうしたんですか?」

 

 そうであった…まだもう一方のジュエルシードがどうなったかと、ユーノとゼロ以外にも、あれを探している者のことを話していなかったのを思い出し、その一部始終を打ち明けた。

 

 

 

 

 

 もう一つのジュエルシードはとある市民プールで起きた。

 すぐに現場へ向かった光だが、ここでも既に何者かが結界を貼っていた。

 だがゼロが張ったものと思われるのと違ってかなり厳重で、まだ魔法に慣れていないこともあり侵入できず。仕方が無く人気のない、かつ鏡面が存在するところを探し、ミラーナイトに変身。

 鏡面テレポートで内部に入りこんだが、その頃にはもうジュエルシードは封印されていた。

 

 〝黒衣にバリアジャケットを纏い、鎌のようなデバイス持った、死神を連想させる金髪の少女によって〟

 

「ユーノの言う〝時空管理局〟の人間でも無かったようですし、直ぐに転移魔法で消えてしまったんですが……」

「僕たちの他に……ジュエルシードを集めている人が」

 

 積極的に共闘してくれたゼロと違い、少なくともあの少女はユーノとは違う目的で、あの青い宝石を集めていることは間違いない。

 そうなれば、彼女と自分たちが戦闘になることも……ここに来て思わぬハードルである。

 勝敗云々よりも、一番の問題はあの金髪の少女がロストロギアを集めて何をするかだ、

 世界の一個や二個、簡単に消し飛べる基地外なアイテムである。

 彼女が『願うこと』で世界に風穴を上げることにならないことと、これ以上ジュエルシードに関連する事態が、そのハードルを上げることがないようを願うばかりであった。

 

 

 

 ところ変わって、ここはその金髪の魔導師=フェイト・テスタロッサが住むマンション。

 今この部屋のリビングでは、勇夜が調理した『にくじゃが』を中心とするラインナップな料理をフェイトとアルフと3人で食しているところだった。

 勇夜は積極的にフェイト達に力を貸せない代わりに、毎日飯を作るとも約束していた。

 当初フェイトはそこまでしなくても良いと言ったが、彼曰く『食事を返上してまで体を酷使して、お陀仏になりそうだから』との理由であっさり一蹴されてしまった。

 実際彼女は早くジュエルシードを探さなきゃ、時間が惜しいと焦るばかりで精神的に余裕が無く、食事も寝る間も惜しんで集めようとはしていたので、図星を指され、反論ができなかった。

 このところ、彼に一本を取られてばかりな気がする。

 ちなみにここでのアルフの普段の主食はドックフードなのだが、勇夜からの『人型形態でドッグフードを貪り食わないでくれ』との要望でフェイトと同じメニューにしていた。

 当初は不満たらたらだったアルフではあったが、勇夜の料理を口にしてからは一転、目を輝かせ、犬よろしく舌を出しながら毎日作ってほしいとすがってくる始末だった。

全く現金なのも甚だしい狼っ子である。

 

「あたしたちの他にもアレを集めてるやつがいるのかい?」

「ああ…内一人はアレを発掘した張本人、片っぽは地元の女の子だった

 

 今この食卓で話題となっているのは、例の地球人の魔道師のこと。

 何の目的で集めているのだどフェイトらは気になったが、勇夜の言葉から、一人はちゃんと回収して管理局に引き渡すが理由であることは分かった。

 なぜ魔法の無い世界に住むその女の子が、協力しているのかはフェイトたちも気にしていた。

 大方の人間にも、謎だと思われるかもである。

 

「私もね…今日妙な人を見たの」

「誰だ?」

「その……人と同じ体型なんだけど、人じゃないって言うか…」

 

 どうも相手は説明しづらい容姿をしているらしく、フェイトは上手く言葉で説明できないでいる。

 

「見た目は銀色と緑の体で、ガラスからいきなり出てきたの…その人」

 

 

 

 

 

 

 フェイトから切り出された話に、勇夜は動揺を隠せずにいた。

〝緑と銀色の体〟で〝ガラスから出てきた〟………だって?

 

「勇夜?」

「なんでもない…とりあえず、アレを探してる連中が複数いるってのは分かったぜ」

 

 どう考えても、あいつしかいない。

 その〝あいつ〟と同じことができる『二次元の民』は大勢存在するが、それを踏まえても勇夜――ゼロにとって、『鏡から鏡へ瞬時に移動する』などとという、そんな芸当を可能にする人物に心当たりがあるのは、一人しかいない。

 

 鏡の騎士、ミラーナイト―――リヒト・シュピーゲル。

 

 やっぱり、動物病院で感じた波動の持ち主は、リヒトのものだったのだ。

 本来なら、心から喜ぶべきことだ。

 まだ一人とは言え、やっと離れ離れになった仲間の所在が分かったのだから。

 けどその歓喜は後にとっておくべきだと、理性が自身を注意した。

 それに問題は、あいつが、なのはとユーノの二人と、繋がりがあるのかどうかだ。

 地球人として暮らしているのは、まず間違いない。

 ご先祖様が地球人の血を引いているお陰で、あいつも人間に変身できると前に本人から聞いたことがある。

 もしリヒトが、あの二人と共同戦線を組んで、ジュエルシードにあたっているなら、フェイトたちには不利だ。

 数の面でも、技量面でもだ。

 まだ魔導師なりたての高町なのはなら、フェイトは負けることは無いだろう、 

だけどリヒト相手ではそうはいかない。

あいつはあのべリアルの大軍団から、王宮とエメラナの家族と避難した市民を最後まで守り抜いた紛れもない〝勇者〟だ。

真っ向から闘えば、あの鏡を使った戦法で、フェイトが良いように遊ばされる様が、造作も無しに想像できた。

 案外、早く実行することになりそうだな……フェイトとの約束。

 

「勇夜、今日の献立ってさ、リンクの要望なんだよね?」

「そうだが、どうかしたか?」

「羨ましいよね、フェイトのバルディッシュなんてさ、こう事務的って言うの、無口で一言二言しか喋んなくてさ、同じ?インテリジェントデバイス?なのになんでこうも違うんだろう」

「そんなこと言わないのアルフ、作ってくれたリニスに失礼でしょ」

 

 正確にはリンクはインテリジェントデバイスとはちと違い、下手するとロストロギアと見なされかねないアイテムな〝相棒〟なんだけどな、と勇夜は内心そう訂正した。

 

 

 

 

 

 ここは、フェイトが隠れ住むマンションの屋上。

 かなりの高層で、この辺りのビル群の中ではトップクラスの高さだった。

 勇夜は夕飯のあと、アルフにここで話があると言われ、彼女を待ちながら星を眺めている。

 都市部での夜空は街の灯りで、あまり見えないんだが、地球人より俺は目が良いので、はっきり見える。

 

 さきほど自分が一番半端な立場と自虐した勇夜だが、なんの考えも無しにそうしている訳ではないし、彼女を助けたいという感情だけで今の立場にいるわけではない。

 初めて、フェイトに会った時から、彼女に危ない『お使い』をさせている黒幕がいると踏み、かつ『テスタロッサ』という名字に心当たりがあったので、該当する人物は、魔法世界でのインターネット探し始めて、すぐに見つかった。

 フェイトの母かもしれない、そいつの名は『プレシア・テスタロッサ』。

 かつては『アレクトロ社』というエネルギー開発専門の企業の技術開発チームを束ねる主任も務めていた、名の通った技術者であった。

 しかし20年以上前に、開発中だったとある試作段階の魔力エネルギーを生成する魔導炉『ヒュードラ』のテスト運行の際、暴走事故が起き、彼女はその責任の全てを負わされ、会社からも解雇され、以来行方知れずになっていた。

 勇夜がこの世界に来る前に起きた話だったが、その事故の被害の大きさと妙なきな臭さを感じて、今でもその事故の内容を覚えていた。

 本題は母がプレシアだとして、奴がどういう目的で、娘である彼女に、あんな物を探させているのか……だ。

 フェイト本人に聞いても、「研究に必要だから」としか言わない。

 自分にははぐらかして、話す気は無いとも言えるけども、フェイトの態度から見て、本当に母からはそれぐらいしか聞かされていないんだろう。

 実際、母親の話題を上げても、あまり彼女は答えてくれない。

 代わりに彼女の目から、寂しさと憂いの色が強くなることと、それを見たアルフが悔しそうな表情をするくらいだった。

 こんな調子で、今フェイトたちを捕らえても、母親の居場所は話さないだろうし、あちらさんだってロストロギアを違法に集めていることに自覚ぐらい持ってるはずだから、見つからないように細心の注意を払っているはずだ。

 次元航行艦クラスのレーダーでもなきゃ、アジトは探せないかもしれない。

 

 となりゃ、あいつのもとに行くには場所を知っている彼女に連れて行ってもらうほかない。

 そのため、ただでさえ、フェイトたち親子の間に由々しき事情が隠れているかもしれないのに、これ以上事態がややこしくなってハードルが上がるのは好ましくなかった。

 やはり当面のたんこぶはやはり……ミラーナイトだ。

 もしあのなのはとユーノと繋がりがあるなら、俺と会ったことは二人の言葉越しにもう知っていると踏んでいい。

 チャンスは、次のジュエルシードが現れる時。

 分の悪い賭けだが、今の頑ななフェイトよりは話は通じるはずだ。

 今後の方針が決まったことで、ようやく勇夜は無意識に、夜空のある一点を見つめていたことに気づいた。

 ここから、300万光年先にあるM78星雲がある位置へ。

 もちろんこの宇宙には光の国は無い、それにこの世界にもM78とついた星雲は実在するがこっちでは地球から1600光年先にあるのである。

 これだけでも今住む宇宙が、元の世界と似てはいるが、決定的に違うと言う事実を俺に突きつける。

 まだミラーナイトの行方しか分かってないのに、親父や先輩たちや仲間がいる光の国に帰れるのはいつごろになるか。

 時空を超える術は、実のところ持っている。

 次元を超えし力を秘めたあるウルトラマンから、この腕にはめしリンクを授かったことで、あいつが持っていた時空を自在に旅する力も、あの時から身に付けた。

 だがこの世界がいくつも存在する平行世界(パラレルワールド)のどこに位置するか、ここから光の国がある元の世界まで、どれぐらいの距離があるか、まだ判明していない。

 端的に言えば、帰るための船も燃料も食糧があっても、目的地までのルートが分からない、地図も無い状態なのだ

 それに、自分はまだ相棒の力を全て知っているわけじゃない。

 リンクには、彼女ですら解けないリミッターが掛けられており、あの〝鎧の姿〟に自力で変化させることはできず、本来の〝力〟がどれ程のものかはまだ未知数だ。

 不満は無い。〝あいつ〟のデタラメな能力を踏まえれば、むしろ枷を付けられた方が、むしろあり難くもあった。

 

「勇夜…」

 

 呼ばれたので振り返ると、アルフが屋上に突っ立っていた。

 どこか快活な彼女らしくない、神妙な表情をみせながら、そのまま勇夜の隣に座った。

 

「で、話ってなんだよ」

 

 こちらから話を切り出す勇夜。

 

「あたしに…稽古つけてほしいんだ」

 

 アルフが切り出したのは、思わぬ内容だった。

 

「おい、本気で言ってんのか?」

 

 アルフは真剣な面持ちでこちらを見据えてうなづいた。

 本気の本気らしい。

 打ちのめしておいてなんだが、勇夜から言わせれば、あの二人は充分に強い。

 あの時はほぼ一瞬で勝ったが、フェイトが体調管理もままならない状態で正面から攻撃をしかけたことと、アルフの激情にかられ、攻撃が単調になり、動きが読みやすかった為と、こっちにとっての好条件が重なってああ言った形になっただけである。

 特にフェイトの飛行スピードは、〝ウルトラマン〟の時はともかく、人間体の時の自分を遥かに上回る。

 そのアドバンテージのお陰で、彼女と互角に戦える魔導師はそういないだろう、多分大概の魔導師が相手では、気がつけば喉元にバルディッシュの刃が突きつけられてるってのがオチだ。

 とはいえ、真剣な〝その眼〟で見られると、無下にもできなかった。

 昔の自分も、そんな眼をしていたからだ。

強さを渇望していたその眼を。

 だからこそ、その前にどうしても確認しておきたいことがあった。

 

「それはフェイトを守りたいから、頼んでるんだよな…」

 

 再びはっきりと頷くアルフ。

 やはりそうか、そうだよな、こいつの主な行動原理はフェイトの為にだ。

 自分を通じて、無力さを突きつけられたことで、強くなりたい願望が強くなったのだ。

 なら、きっかけを作った自分は責任をとらなければならない。

 

「わかったよ、付き合ってやる」

「勇夜…」

「だがその前に忠告がある…」

 

 ただその前にもう一つ確認したいことと、言っておきたいこともあった。

 

「何だい?」

「力を得ることを、『目的』にするな」

「え?」

 

 己を高めようとする意志、それ自体に罪はない。

 だからこそ予め忠告しておかなきゃならない。

 

「つまり、フェイトを守るって言う目的の為の手段として力を求めて、使えってことだ、絶対に力を求めるためだけに強くなりたいなんて考えるなよ」

 

 

 

 

 

 

 

 アルフが勇夜に指南を求めたのは、ひとえに勇夜が言葉にしたことが理由だ。彼女との正式な契約をする際、アルフはフェイトの傍にいて支え、力となり、災厄から彼女を守ると言うことだった。

 が、実状は、その契約内容をまともに実行できていない上、勇夜との戦闘で心身ともに未熟であることを痛感させられた。

 勇夜は約束上、ジュエルシード収集に手出しはしないが、手助けもできないことも分かっている。

 無理かもしれないと思っていが、彼は了承してくれた。

 だけどその後の彼の発言が、アルフにはよく分からなかった。

 

「もし強くなることが《目的》になっちまったら、昔の俺みたいになる」

「それって?」

「俺は昔、ある大罪を犯して故郷から追放されたことがあんだよ、強くなることを、過剰に求め過ぎちまったためにな、お前にはそうなってほしくない」

「何を…やったんだい?」

 

 少しの間を置き、勇夜は――

 

「…………太陽を…独り占めにしようとした」

 

 ――と答えた。

 太陽を盗む? どういう意味だ?

アルフはますますわけが分からなくなった。

 そもそも彼が保護されたのは4歳の時らしいし、その後の経歴からも大罪と呼ばれるようなことはしていない。

 ひょっとして比喩表現ってやつなのか? とこの時彼女は勘繰っていた、

 

「それじゃ…」

 

 勇夜の言う『大罪』が気になるアルフをよそに、彼は立ちあがり、結界を張るとアルフに立つよう促し、初めて戦った時と同じ構えをとった。

 空気が変わった気がして、アルフは息を呑んだ。

 事実変化していた。

 彼の闘気という〝魔法〟によって、この場の空気は殺伐とした戦闘空間に変えられた。

 元から鋭い彼の目つきが、より鋭利さを増す。

 言うなればその目は……〝刃〟だ。

 

「遠慮はいらねえ、本気で来い」

 

 構えをとった彼の声音も、剣の切っ先を思わせるまでに、鋭敏に研ぎ澄まされていた。


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