ウルトラマンゼロ The Another Lyrical Story 第一章   作:フォレス・ノースウッド

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今回のサブタイの通り、爆発が起こるのですが……


STAGE44 - EXPLOSION

「デェア!」

「スティンガーレイ!」

 

 勇夜が投擲したナイフ型魔力刃――フォトンダガ―。

 クロノが指先から発射した魔力弾――スティンガーレイ。

 二人が発動した攻撃魔法は、群れなす木々によってより影の度合いが深まる闇へと直進していく。

 魔の光たちが、森の闇の奥へと消え、着弾音が鳴った直後―――さらに黒味が深い影一つが、木の身丈よりも高く跳び上がり、勇夜たちに目がけて降下してきた。

 

「下がれ!」

 

 影から溢れる殺気を感じ取った勇夜は、これから自分に降りかかるものから巻き添えを喰うのを防ぐためと周辺の配慮で結界を張ったと同時、咄嗟にクロノを突き飛ばした。

 影から伸びた何かが袈裟がけに勇夜の身に襲い来て、彼は鍛えられた持ち前の反射神経で背後に摺り足してその一撃を回避する。

 彼を襲う何かの正体は―――右の〝手〟だ。

 それは手ではあったが……人の物ではない。

 形状こそ人の物に近いのだが、皮膚の質感、濁り味のある緑の色合いから見て、むしろハ虫類のものであった。

 指先からは、湾曲された黒く鋭利な爪が伸びている。こんな凶器が人の急所を捉えれば…間違いなく命はない。

 黒いフード付きローブを羽織る影はさらに、右と同じ特徴をした左手を伸ばし、連続で爪先を突き出してきた。

 小気味よく左手からの突きの連打で牽制し、隙を見つければ右手で本命の一閃を振るってくる。

 影からの攻撃を後退しながら化勁でいなして防戦状態な勇夜を、クロノは援護したかったが、そうはいかなかった。

 クロノは今、宙に出現してくるモノたちと〝格闘〟している。

 モノとは―――バインド。立方体状、リング状、ロープ状と様々。

 大気中の魔力濃度からこれから現れるバインドたちを察知し、前転、後転、側転などの倒立、跳躍、飛行魔法も動員して魔の鞭を避けるクロノ、魔の拘束具たちを前に彼は絶えず動き回らなければならず、まるで四方八方から迫る槍の突きの連打を回避する光景にも見えた。

 少しでも一定の位置に止まり続ければ、網に捕えられてしまう。

 とはいえ、このバインドたちの役目は、彼と勇夜から距離を離す為。

 それにコアもまだ回復していない状態、身体強化魔法の効き目が切れるのも、時間の問題だった。

 

 

 

 

 とまあ……ここまで述べると、勇夜たちはピンチの渦中にいると考えてしまうだろう。

 しかし、まず結論を上げるなら、この戦闘はウルトラマンと魔導師の少年たちの勝利に終わる。

 最初は相手の良い様に攻められた彼らの反撃が、ここから始まった。

 

 

 上段からの左の爪の一閃を、勇夜は左足を軸に体を右回転させて躱す。

 そのままバレエダンサー顔負けの身がブレない回転を続け、一時クロノがいる方角に背を向ける格好となる。

 一方今の一撃を回避された影も、左足を軸にその場を半回転し、その勢いで横薙ぎに勇夜目がけ、右の爪が迫る。

 対して勇夜は、身を屈ませ、前へ摺り足しながら凶刃から逃れ、ほんの一瞬両者は背中合わせになった。

 実は影は、この瞬きを待っていた。影に背を向け、俯く彼は今視界に影の姿を捉えられていない。

 この隙を突き、〝計画〟に最も邪魔な障害たる〝人の皮を被った巨人〟の喉にこの爪で―――と、右回転の遠心力を乗せて五本の凶爪を相手の首に突き刺そうとしたその時、影の右ひざの裏に激痛が走った。

 

 

 

 

 

 

 影の膝に痛みを齎したのは、バインドに悪戦苦闘している筈のクロノが撃ち放った魔力弾――《スティンガーレイ》。

 魔弾を放ったクロノは今、指鉄砲にした右手を腰だめに構え、右足はリングタイプ、左肩と左の太腿は立方タイプのバインドに捕まっていた。

 だが正確に言えば、クロノはわざと魔の網に掛かったのである。

 彼は次々と現れるバインドにある法則性を見出していた。

 一つは、空間に現れるバインドの数は、一度に三つ。

 二つ目は、次にバインドが出現するまでタイムラグがあること、但し後者のラグは、回避している間に埋められてしまう。

 ならば、自身の現状の立ち位置の調整とバインド発生位置を予測しつつ、敢えて自分から網に掛かり、相手に動きを悟られない様に西部劇のガンマンを彷彿とさせる腰だめの構えから、タイムラグの瞬間を狙って援護射撃を敢行し、こうして成功に導いた。

 僅かな最中で放たれたスティンガーレイは威力は高くないものの、貫通力と弾速に優れた射撃魔法。光の弾道は影の体を覆う魔力フィールドを貫き、表皮を抉る。

 今のダメージで、影の身のこなしの勢いが減退、その間を勇夜が見逃す筈がなかった。

 まず勇夜は左手で自分に突き立ててきた相手の右手首を掴み上げ、凄まじい握力による圧迫と捻りで、付け根を中心に骨をへし折り、続いて鷲掴んだ影のものごと左腕を振り上げ、引きつけながら右肘という名のハンマーで右肩を打ちつけ破砕、左手を右の異形の手から離すと同時に遠心の勢いを相乗させたアッパーを鳩尾に、右手からの掌底を右胸に、左足からのミドルバックキックを肝臓にと、連撃をくらわせた。

 

「gaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa―――――――!!!」

 

 今の乱れ撃ちで獣特有の奇声な悲鳴を上げる影、その痛みを与えしポーカーフェイスな当人は、いつもの宇宙拳法の構えではなく、全身の力を抜き、〝無形の位〟とも呼ばれるノーガードな状態で一度は開いた相対距離を詰めていく。

 右腕が使い物にならなくなっている異形の影は、悠然と歩み寄る勇夜に対し、震えていた。

 外見は人そのもの姿をしながら、人間離れした戦闘力、全身から溢れる焦らしを促す効力と静かな威圧感を持った彼の佇まいから誘発される恐怖による震えだと断定できよう。

 

「guaaa!!!」

 

 恐れと焦燥に焦らされた影は、不快な奇声発して飛びかかってきた。

 だが対して勇夜は眉一つ変えないどころか、〝見事に術中に嵌ったな〟と、内心不敵に微笑んでいた。

 短期決戦で仕留めたかったんだろうが、攻撃に傾倒する余り、もう彼には影の動きは手に取るように把握している。

 

 右腕を潰された今、影……というよりこいつをどこかで操る何者かは、冷静な思考を削がれている。そしてこっちが敢えて傲然な姿勢を見せることで焦りと恐怖心をさらに煽りに煽らせ、撤退の選択肢を相手の頭から消し、死に物狂いの渾身の一撃を掛けてきたところを、さらなるカウンターで返り討ち。

 

 勇夜は鍛錬と実戦で磨いてきた戦術眼と洞察力で、影がどういう攻撃を仕掛けて来るのかはおろか、影の背丈、腕の長さ、姿勢、体捌きの速さ、走力といった特性とパターンを即座に見通し、今の攻撃さえ、具体的な軌道を空想の線でなぞれるまでに見切っていた。

 証拠として、下段から切り上げてきた爪を生やす左腕を、巧みにしなやかな手さばきによる化勁で、勢いを勇夜の視点から左側に流し、すかさず左手で影の左手を拘束、手に連なる肘周りを右手から振り下ろす裏拳と右脚の膝蹴りを同時に当て、すかさず右手を振り上げて対象の左肩へ袈裟がけに浸透頸の手刀を見舞わせた。

 

「(勇夜!)」

 

 その時クロノが念話で呼び掛け、今のが〝準備ができた合図〟だと悟った勇夜は相手の右肩を破壊したばかりの右手でローブ首筋付近を、左手で腹部を掴み上げ。

 

「そらぁぁぁよーーー!!」

 

 彼の方に向けて思いっきり背負い投げた。

 半円を描いて舞う影は、クロノが立つ場所へと落ちていく。

 バインドの網はもう解除済み、むしろ攻撃魔法の準備さえ整っている。

 

「ブレイク―――」

 

 魔法陣が敷かれた大地に立つクロノの右手は、振動する障壁の魔力エネルギー纏っており。

 

「―――インパルス!!」

 

 強震する光の拳で、落ちてきた影の肉体に向け、タイミングよく打ち上げた。

 触接した魔力光と異形の影が、小刻みに震えた後、光からリング状の閃光と共に発された衝撃に影は再び宙に突き飛ばされた。

 ブレイクインパルスとは、振動させた魔力エネルギーを拳、または杖といった得物で対象に撃ち込む近接打撃魔法。

 接触の際、攻撃対象たる物体の振動数を割り出し、それに見合わせた振動エネルギーを送りこんで文字通りブレイク――破壊する魔法で、接触時にほんの僅か時の隙間ができるがゆえ難度は高いが、魔力消費量は少なめであり、破壊力も折り紙付きだ。

 クロノがその強震なる鉄拳で打ち上げると、ほんの一刻置いて勇夜もその場から跳び上がり。

 

「デェア!」

 

 上空へと飛ぶ勢いが弱まり微かなに宙に静止した瞬間、彼からの止めたる見事な縦回転のムーンサルトキックが決まった。

 影は真っ直ぐ斜線を描いて、地面に激突。

 

「バインド!」

 

 お返しとばかり、クロノは石畳に生成した魔法陣からのチェーンタイプ、リングタイプ、立方タイプの種別にして3つ、数にして15もあるバインドを一瞬で形成して影を捕縛した。

 影を石畳に打ち付けた勇夜はというと、綺麗にブロックの大地に着地すると、リンクから彼のデバイス――零牙の弓形態アローモードを出現させ、海上に向けて魔力製の弦を引き絞ると、光の矢が生成される。

 

「フォトンスピア―――」

 

 ここから約3,8km、海面から65m。

 千里眼による透視である標的を視覚化させ、視界をズームアップして捉えると、瞬時に矢の狙う先を定め。

 

「―――ファイア!」

 

 光矢――フォトンスピアを打ち放った。

 大気を切り裂いて突き進む矢は、周囲の風景にカモフラージュされていたサーチャー型魔力スフィアを貫き、瞬きの間のフラッシュの後、消滅した。

 勇夜が今見せたフォトンスピアは、以前使用した射撃魔法――バニシングスピアの簡易版と言える技で、威力は当然下がるが、チャージ時間も魔力消費量も短縮できるメリットがある。

 そしてそのフォトンスピアで射抜いたサーチャーは、〝影の操り人〟が使っていたもの、勇夜を影で襲いながら、クロノを捕えようとバインドを張り続けられたカラクリの正体だ。

 Kmの域の距離なら心配ないと踏んだのだろうが、超能力の補助があるにしても、極太の魔力流や金色の稲妻の奔流よりも攻撃範囲の小さい光矢で強風が吹き荒れる悪天候な環境下の中、一矢でジュエルシードを二個も撃ち抜き封印させた勇夜の射撃スキルを前では、下策であると言わざるを得ない。

 

「お見事、だな」

 

 魔力の縄の強度を維持しながら、今回も戦闘センスの高さを如何なく発揮した勇夜にクロノは賛辞の言葉を送る。

 

「そいつはこっちの台詞だ、まだ本調子じゃねえのによくやるよ」

 

 勇夜も、まだコアが蒐集を受けた影響で縮小しているにも拘わらず、魔法を行使できた彼の技量に改めて感嘆していた。

 魔法や超能力、身体機能諸々を含めた総合的な戦闘技能はやはり勇夜――ウルトラマンゼロの方が勝るが、魔法そのものの運用技術に関しては、クロノの方が上手であると彼も認めているからだ。

 見事と言うべきは、むしろ二人のコンビネーション。

あの状況でマルチタスクを有効活用して連携プランを即座に編み上げて、息もピッタリ合わせて実行したのだから恐れ入る。

 

「〝これ〟が無ければ、流石にきつかったけどね、お陰で全部消費してしまったよ」

 

 勇夜から返された称賛を受けるクロノがポケットから取り出したのは、銀の色合いミッド式魔法陣のレリーフが刻まれた金属製のカード。

 待機モードのS2Uではない。

 簡易的なカートリッジと言える使い捨て式な魔力の電池で、名称は《バッテリーカード》。

 管理局が古代べルカのカートリッジシステムの研究過程で作り出したアイテムで、βカートリッジもこれをモデルの一つとして勇夜とリンクが設計した。

 使い方次第では魔導師のコアに溜めこまれた魔力をほとんど使わずに魔法行使できるのだが、βカートリッジと同様に、実用化への道のりは遠い。

 初期に造られたものは、魔力チャージに時間が掛かる反面、最大貯蔵量は少ないと実用性は皆無、ある程度問題が改善された現在も運用はシビアでβカートリッジ程ではないにしても、使える者は多くない。

現状はクロノのように技量が優れると判断された魔導師に試験的に配布されるに止まっている。

 

「それより、あの生物は………」

 

 二人の地点からおよそ15m先に縛られている異形のローブの下に見える顔は、ハ虫類を人間に近づけたような容貌であった。

 

「恐竜って生き物は知ってるか?」

 

 勇夜は警戒を怠らず、零牙をガンモードにして構えながら発問する。

 

「6500万年に絶滅したこの星のハ虫類生物の総称……だったな」

『この生命体は、異星人のバイオテクノロジーで人工進化された恐竜人類―――ディノサウロイドです』

 

 ディノサウロイドは、自らを《ナーガ》と自称し、後に《ナオフロンティアスペース》と呼称される世界の地球を侵略しようとした異星人に改造された恐竜で、元はトロオドンと名称を付けられた肉食恐竜だった。

 生みの親であるナーガを〝神〟と崇めていた彼らは、サイボーグ怪獣に改造され、中性子爆弾を埋め込まれた同類たちを操り、地球生命を死滅させようとしたが、ウルトラマンティガの活躍で阻止され、彼らも自らの過ちに気づき新天地を求めて宇宙の大海原へと旅立っいったとのことだ。

 

「その恐竜人類とやらを操っていた何者かに、さっきの会話を聞かれたなんてことは…」

『ご心配なく、念の為と結界を張りつつ、周囲を警戒していたので』

 

 この場に限った話ではないが、今回も影の功労者はリンクだと言える。

 夜天の書の主たるはやてが、実質対魔導書捜査チームの下で保護されている状況は、例の勢力にとっても看過できない事態。

 ならば勇夜たちに監視の目を光らされているのでは? と予測していたリンクは、用心の為と、ジョギングする二人に認識制限の結界を張り、会話も盗み聞きされるよう結界内の二人の声を遮断させる効果も付加し、読唇術で悟られる可能性も視野に入れて、結界の鏡面を細工して勇夜たちの口の動きが本来のものと違って見えるような措置もとっていた。

 そして案の定二人の牽制に相手が乗って始まった戦闘の際も、クロノに次のバインドの発生予測地点を、勇夜にディノサウロイドの詳細とサーチャーの所在の情報を伝え、こちらの勝利に一役以上買っている。

 勇夜が〝相棒〟と称して信頼しているのも頷ける働き振りだ。

 

「とりあえず、こいつもナオトに調べてもらうか」

 

 まだ生きているとはいえ、恐らくは連中の下っ端が功を焦った果てに自分らに捕えられた傀儡であるこのディノサウロイドを解析したところで、一味についての情報まで掴むのは難しいが…………こっちも時間が決して余裕がない………タイムリミットは確実に刻まれている。

 ナハトによる浸食で、はやての肉体の限界が迫る期限のタイムリミットと

〝八神一家〟の想いを利用しようとする思惑があるのも確かな以上、手掛かりは多面的に、かつ多く早めに集めた方がいい。

 勇夜はそう決め、念話でディノサウロイドを捕えたことをナオトに連絡しようとした……矢先、彼の第六感とも呼べる直感が、不吉な大気を感じ取る。

 不吉の正体をはっきりすべく、透視でディノサウロイドの体内を目にする勇夜……その目が捉えたものが何なのか気づいた彼は――

 

「息吸い込め!」

「え?」

「いいから! 飛びこむぞ!」

 

 ――端を折り過ぎな忠告をクロノに投げ、彼の背中側の襟元を掴むと、その場から跳躍してフェンスを飛び越える。

 ジャンプした先にあるのは―――――海。

 二人が海原へ降下した時、ディノサウロイドの肉体は、胸部から全身にかけて橙色に発光し出し、勇夜たちの体が、足から海中へと入り込み潜水しようとしたのと同時刻―――スパークが煌めき、瞬く間に………大爆発が起きた。

 

 

 

 

 

 

 

 耳の内部を乱れ切りさせかねない重くて、大地だけでなく大気すら震撼させかねない爆音を乗せて、焔の荒波は全方位に向けて広がっていき、うねりを上げて巨大化していく爆炎の規模は、爆心地から半径40m以上、火柱の高さはおよそ60mと、そこらのウルトラマンたちの背丈よりも天高く夜天へと昇っていった。

 火柱を超えて、小山ほどの大きさまで膨張した大火は、爆発の体力をそこで使い果たし、そこから火の勢いは急速に縮小化。

 その時、海中から断続的に閃光が迸ったかとおもうと、金色の光球が海面を突き破って飛び上がり、一旦石畳に降り立ち、光の中からクロノが出てきた。

 もう一度宙へと垂直に翔ける光球は20mの高度に静止すると、光は球状から人型に形状変化していき、輝きが消えるとウルトラマンゼロが姿を現した。

 彼の金色の目には、爆心地からのものと、爆炎で木々に燃え移った残り火たちがゆらめく様が映っている。

 

「ウルトラ―――」

 

 ゼロは両腕を真上に伸ばし、一度掌を重ねてから腕を扇状に広げると、右耳の横の位置で手を合掌。

 

「――フロスト!」

 

 火の上がる方向へ腕を向けると、手先から白い冷凍ガスが発射された。

 ガスのシャワーはまず森を焼く炎へと降り注ぎ、ゼロは手先を動かして隅々まで消していき、次に爆心地の石畳へと発射先を変え、完全に爆発の炎を消失させる。

 ウルトラフロストによって全ての火が消火されたと確認すると、ゼロはゆっくりと降下して着地し、全身に光を覆わせ、一瞬の発光の後、その身を人間体

――勇夜の姿に戻した。

 

「アクション映画みてえな真似させちまったな、ごめん」

「詫びる必要はないよ、あの状況下では妥当な判断だ」

 

 背後に立つクロノへ振り向き、歩みながら彼ごと海にダイビングした自らの行為を詫び、災難な目に遭ったと言える身ながら、クロノは理性的に返す。

 爆発の猛火から免れる手段として、ダイビングを選んだ勇夜の根拠を一つ一つ上げると。

 爆発までの時間が早い上範囲が広く、その場からの飛行も走行も、転移による退避さえ間にあわない。

 ゼロに変身して防護する手もあったが、ます変身し、そこからバリアを張るという二重のタイムロスが起きてしまう。

 さらに結界の特性として、形成した魔導師が一人な場合、空間維持の為術者は必ず結界内にいなければならない、もし術者が外に出ると結界が強制解除される。

 それと、結界内部で起きた固形物の破壊は現実に引き継がれないが、火の場合解除すると現実世界に飛び火してしまう。

 人間体時でもバリアは張れたが、水の中の方が自身もクロノも火竜の猛威から身を守れる。

 よって勇夜は、比較的リスクが小さく、確実に爆発の猛火から逃れる一手として、一旦水中潜行して避難する方を選んだわけだ。

 クロノは勇夜の機転の根拠が分かっていたから、びしょ濡れな状態ながら不満を口にしなかった。

 濡れネズミと化した体と服の対処も問題無い。

 二人は自分の手を服越しの肌に付けると、接触部に掌よりやや大きい魔法陣が現れると、両者の服から蒸気が上がった。

 クロノが先に使用したブレイクインパルスにも使われる振動エネルギーを応用し、付着した水分を蒸発させたのである。

 

「しかし一体、どうやったらあれ程の爆発を……」

 

 今の業火が、自分たちに情報を掴ませないように仕組んだ証拠隠滅なのははっきりしている。

 分からないのは………どういう原理であれだけの規模の火柱を上げられたのか?

 

「それは……な……」

『マスターが透視で捉えたディノサウロイドの体内を分析したところ―――』

 

 爆破の謎はリンクが解明してくれた。

 まず結界魔法で高圧縮された火炎を魔力障壁で球状に包み、その上に重ねる形で同様に高密度に凝縮された酸素を障壁で囲む。

 そして、二つの障壁を内郭から外郭の順で解除し、無理やり敷き詰められた炎と酸素を掻き合わせたことで、先の大爆発が起きた……とリンクのアナライズにより判明された。

 

「魔法を使った……生体爆弾……ということか?」

『……はい』

 

 爆発の謎解きを聞かされた二人は……何も言葉にできずに黙してしまう。

 なぜなら、あのディノサウロイドもまた、魔法世界の技術によって生み出されたクローン生物な筈であり、その命に引導を渡した大火は、かの世界では〝クリーンエネルギー〟と謳われてきた技術で作られた―――〝生体爆弾〟―――であるという事実を突きつけられたからだ。

 その苦味を噛みしめると同時に、二人の瞳に決意の眼力が高まる。

 夜天の魔導書と、正負含めた縁を持つ人たちの為にも……この事件の真の黒幕たる存在の思うようには、絶対にさせない―――という、彼らの意志が顕現した眼光であった。

 

 

 

 

 

「ごめんなのは、少し待たせちゃって」

「うんうん、じゃあ行こう」

 

 勇夜たちの夜天の戦闘から、数時間後。

 冬の寒空特有の晴天の下、海鳴での住まいであるマンションから出てきたフェイトは、表門で待ち合わせていたなのはと一緒に、通学に使う路線バスの停車場へと向かう。

 ちなみに、習慣になっているものの、この日に限って言えば二人が直に顔を合わせるのは二度目。

 一度目は無論、その毎朝の習慣となっている裏山での特訓、昨日までとは違う点も込みでだ。

 相違点は今日からは教官に相当する存在がおおとりゲンことウルトラマンレオから強化された彼女たちのインテリジェントデバイスである。

 こうした教える側の交代がされたのは、βカートリッジが搭載された愛機たちを十全に使えるようするというのが特訓の主な趣旨だったからだ。

 厳格なゲンの指導は、その主旨以上のものを結果として彼女らに齎したとも述べておこう。

 一方で今日からの訓練の詳細な模様だが、今回は控えさせて頂く。

 

「はやてちゃん、今朝はどうしてた?」

 

 なのはは昨日からフェイトたちの住まいに一時居候し、家出中のはやてについて話題を切り出した。

 前日、偶然に鉢合わせた勇夜たちに〝帰りたくない〟と縋ってきた彼女の心情も二人には気がかりとなっているのだが。

 

「あからさまに、落ちこんでる様子はみせなかったけど」

 

 一番彼女たちが心配しているのは、昨夜に勇夜と久遠の助力ではやての意識の内部に潜行して見た夜天の書の過去。

 途中ノンレム睡眠への移行の影響か、夢の中で眠ってしまったが、彼女もまた……その過去を間近で見てしまった。

 

「多分……あの夢のこと、覚えてるかもしれない」

 

 意識的に他人の夢に入り目の当たりにしたフェイトたちと違い、半ば無意識に覗き見たはやてなら、夢の内容を目覚めた時には忘れている可能性もあった。

 でもフェイトは、今朝一緒に朝食を食べた時に直感で……はっきり覚えているのかもしれないと考えていた。

 その時の彼女から、一種の既知感というものを感じ取ったからだ。

 姉の記憶にいた過去の〝優しい母〟を取り戻そうとする余り、自分を押し殺して、傷つけて………攻めてばかりで、誰にも助けを求められずにいた自分と似た感覚を。

 身近にいた家族にさえ頼れずにいる今のはやてに、何かしてやれることは無いだろうか?

 前にアリシアに言われた様に、自分たちができる何かがあるのだから。

 今はまだ、片鱗すら掴めぬ状況、だが以前の勇夜の言葉の通り、どうにか自分たちで見つけ出さなければ。

 数ある選択肢の一つでしかなかった〝戦うこと〟にばかり拘っていた少し前の自分よりは、その方法を見つけやすくなっている……とは思うし、それこそ勇夜たちは戦闘以外の手段で手掛かりを見つけ出したのだから、土台無理な話じゃない。

 

「あ、そうだ、折角だからアリサちゃんとすずかちゃんとで、フェイトちゃんの家に遊びに行ってもいい? はやてちゃんとも一緒で」

「いいね、私も賛成」

 

 なのはの笑みを浮かべての提案に、フェイトが微笑み返す。

 現になのはがその一つを提示してくれた。

 一時しのぎでしかないかもしれないけど、独りで耐えている時よりは、はやての心の負担を少しでも和らいであげることができる筈だ。

 となのはと談話して思案する内にバス亭に着いていた。

 丁度、聖祥大行きのバスも良いタイミングで来て停車し、二人は親友達が待つ車内へ乗車した。

 

 

 

 

 フェイトたちの通学風景から、さらに時が刻まれて日本時間なら午後に移行された時間帯にて。

 

 いきなり描写を高跳びして見せるのを了承してほしい。

 

 太陽系第4惑星―――火星。

 遠い未来の先では、地球の人類にとって新天地となるであろう惑星。

 その赤褐色の堅い岩石が星全体に広がる大地のある一端――人類からはアレス谷と呼ばれる地帯に、赤い火炎の球体が、地響きと噴煙を宙に舞い散らせて力強く降り立った。

 火炎球は消え、中から巨人が姿を現す。

 炎の戦士――グレンファイヤー。

 

 そして彼がここに来るのを待っている巨人もいた。

 グレンに背中を見せていた彼は、振り返って正面に相手を見据える。

 若きウルトラ戦士―――ウルトラマンゼロ。

 

 赤目の砂塵が、地球より薄い大気の波で飛び交う大地の上を舞台に、これで二度目となる、この次元での二人の再会のご対面であった。

 

つづく。


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