ウルトラマンゼロ The Another Lyrical Story 第一章   作:フォレス・ノースウッド

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みなさんお待たせしました。
ようやく彼がウルトラマンに変身します。
本来の姿な為か、人間体の時より素に近い気がする。


EP07 - 光の巨人

 ここは海鳴市にある電波塔、海鳴タワーの展望台。

 大概は家族か友人連れで、海鳴市を一望するために来ているだろうが、一人だけ違う目的で来た例外がいた。

 この憩いの場において、物腰の穏やかそうな顔を真剣そうな表情に染め、市内を一望している少年―――高町光(リヒト)こと、ミラーナイトである。

 彼は今、広域探索と呼ばれる微量な魔力をソナーの要領で360度全方位に飛ばし、魔力を帯びた対象の物体を探し当てる魔法で、ジュエルシードを探知できないか試していた。

 結果は芳しくない。やはりデバイスが無い身での魔法行使は厳しいようだ。

 物語に出てくる魔法使いのほとんどが、効率良く魔法を運用するために〝杖〟を使用するように、魔導師もまたデバイスが無いと、どんな使い手でも使いこなすのは難しい。

 一応こちらが妥協する形で、なのはにも魔導士としてジュエルシードの収集にあたらせることを許したが、内心は複雑な思いを彼は抱えている。

 

 なのはは……昔からそうだった。

 一度決めたことは、どんなに行く先に障害が待ち構えていようとも、めげずにやり遂げようとする。

 どんなに止めようとしても、絶対に引き下がらない。

 今でこそ親友のアリサやすずかとだって、ぶつかりあって友情を築いた―――正確に表現をするなら、アリサがすずかを苛めていたところを鉄拳制裁込みで止めようとして喧嘩になり、それらの紆余曲折を経て親友になったくらいだ。

 義妹が今の人格を持つまでに至った理由には、心当たりがある。

 なのはがまだ物心を芽生えさせたばかりの頃、様々な要因があって、自分を含めた高町家の面々は、遅くまで家を空けることが多かった。

 まだ園児の時期だったので、夕方から夜まではきちんと言い付けを守って、じーっと家で自分たちが帰るのを待っている毎日を送っていた。

 なまじ同い年の子より聡かったゆえに、自分たちが汗水たらして疲れるまで体を動かしていたことを直感的に悟っていたのだろう。

 ほんとは思いっきり甘えたかったのに……それを我慢して、大変な思いをしている家族に何もしてやれない自身に無力さを毎日噛みしめていったなのは。

 あの日々の影響からか……当人は隠してるつもりだけれど、妹は誰かの助けになりたい自分と、自分にしかできないものへの強い渇望と、それが見つからず、今でも周りに助けられてばかりな己に対して、悔しさとジレンマを抱えるようになっていた。

 魔法との出会いは、そんななのはにとって待ちわびた好機だっただろう。

 なのはが求めてやまなかった『自分だけの取り柄』と『誰かを助けになれる力』が手に入ったのだから。

 でもまさか、あんな怖い目に遭っても尚、積極的に関わろうとするとは思わなかった。

 魔法には、『非殺傷設定』という相手に物理的損傷を与えないようにできるらしい。

 だが相手は、気前よく銃器で喩えるならゴム弾な〝非殺傷〟で戦ってくれるような、そんなご都合主義なんて一切通用しない、人の願いを貪り食って襲って来る怪物だ。

 怪我では済まない事態だってありえる。

 現に下手すればあの時、異相体の巨体に押しつぶされて、帰らぬ人になっていたかもしれない。

 もし頭にもたげた最悪の想像が、現実のものとなったら? 内容にも、イメージしてしまった自身に対しても、恐ろしさでゾッとした。

 しかし、それでも尚彼女は〝手伝う〟ことを頑として譲らなかった。

 それは彼女の強さでもあり、同時に危うさでもある。

 ユーノと同じよう気持ちを彼もまた抱えていた。 

 自分が、あの子の支えになってあげないと。

 そんな時だ。広域探査中に、反応が起きた。

 あれは! 光が見たのは、都市の真ん中に突然閃光を発した後に現れ、映像を早送りさせていると錯覚させるまでに、どんどん巨大化し、市街を呑みこもうろしていく樹木だった。

 そして…ジュエルシードの反応がもう一つ!?

 巨木の反対方向からも、ジュエルシードが発動されたことを感知する光。

 光の現在位置からは、それほど離れておらず、むしろ樹木より近い位置にあった。

 どうする? 二つ同時に現れた以上、二手に別れるしかない。

 だがそれは、魔導師としても戦いに臨む者としても〝ビギナー〟ななのはを、ユーノのサポートを含めたとしても、一人で戦わせなければならない、と言うことだ。

 選択と決断が猶予を与えないまま、光に向けて迫ってくるのであった。

 

 

 

 

 

 同時刻……海鳴私立図書館の出入り口。

 車椅子の少女、八神はやてと別れ、たった今ロビーから出てきたばかりの勇夜にも。

 

『ジュエルシードの反応を確認しました』

「ちっ…お出ましと来たか」

 

 はしたないのを承知で、舌を打ち鳴らした。

 よりによってこのタイミングからかよ。

 このエネルギーの規模からすると……〝人の願い〟に食いつきやがったな。

 勇夜がいる位置からも、例の肥大化していく樹木を確認できた。

 これ以上の被害の拡大は阻止しないと、どっち道超常現象として大騒ぎになり、当分マスメディアのネタにされるだろうが、背に腹は変えられない。

 

「リンク!封時結界だ!」

『了解』

 

 封時結界とは特殊な空間を生み出し、特定の物体や人物を現実世界から遮断する魔法である。

 勇夜の周囲から結界が構築され、まわりの光景はそのままに、現実とは異なる色合いをした空間が形成された。

 

『ターゲットを取りこむことには成功しましたが、一部の民間人が対象に捕縛され、取り残されているようです』

「しまった……」

 

 どうにか急激なスピードで成長を続け、街を覆う笠となりつつあった巨木を自らが作り上げた空間に閉じ込めたが、一部の市民が木に捕らえられたせいで、一緒に放りこまれてしまったようだ。

 

『民間人の避難補助の優先を提案します』

「そうだな、どの道このままじゃまともに戦えそうにない、行くぞ!」

『はい』

 

 勇夜は急いで、巨木に蹂躙された市街地へと向かう。

 魔法世界から撒かれちまった災厄の種なんかの為に、この星の人たちにとんだとばっちりを受けさせるような真似はさせない。

 市街を踏み荒らす異相体、ただその一点を見据えながら、彼は疾走した。

 

 

 

 

 

 

 一方なのはとユーノも、ジュエルシードが発動されたのを感知し現場へと向かっていた。

 疲れがないわけじゃないが、そんなこと言ってはいられない。

 身体強化の魔法で、走力を上げながら木々の下へと馳せる。

 その突如、巨大化が進行させていた巨木が、いきなり姿を消した。

 

「き、消えた?」

「多分、誰かが結界魔法を使ったんだと思う」

 

 なのはの肩に乗るユーノが今起きた現象を説明する。

 でも、そうだとすると誰が? 光かと思われたが、まだ彼も結界魔法をマスターしていない。

 他にジュエルシードを集める魔導師がいるとでも言うのだろうか?

 直後、別方角からの波動が二人の身にかかる。

 別のジュエルシードが、発動してしまったことを知らせるシグナル。

 

「もう一つ?」

「こんな時に…」

「(なのは!ユーノ!)」

「光兄!」

「光さん!」

「(別のポイントで起きたジュエルシードは僕がどうにかします、二人はそちらを!)」

「わかりました…なのは、これから結界の中に転移するから、入ったらレイジングハートを起動させて」

「うん」

 

 緑色の魔法陣が、なのはとユーノの足元に出現する。

 

「妙なる響き、光となりて、我らを彼方の地へと羽ばたかせ」

 

 二人は、魔法陣から吹き上がる光を受けながら、その場から消失した。

 

 

 

 

 

 

 突然現れた規格外の巨体の樹木を前に、通行人たちは常識外の災害によって、理性のタガが呆気なく崩壊させられていた。

 急成長を続ける異相体の巨木は、逃げ回る市民を、しなやかな枝木で捕縛していく。

 ジュエルシードは、本能のままに、取り込んだ宿り主の人間だけでは飽き足らず、さらなる生命体の欲求、願望を捕食しようとしていた。

 が、それを阻む者が現れる。

 諸星勇夜とその相棒リンク。

 

「フォトンバレット――フルオートシフト――ファイア!」

 

 右手に持つ拳銃の形をとったデバイス、『零牙』から魔力で生成した弾丸を連続発射して枝を破壊し、左手から発した〝念動力〟で市民を浮かせ。

 

『結界外へ転送』

 

 リンクが生成した魔法陣は、彼らをテレポートさせていく。

 勇夜には、二つの愛機を持ち合せていた。

 一つは零牙、勇夜自らが設計したストレージタイプのデバイスである。

 彼が本来の姿の時に使う〝多目的兵器〟を元に作られており、状況によって、用途の異なる、様々な武器に形状変化できるオールマイティーな性能を秘めた武器だ。

 そしてもう一つは、平常時は指輪サイズで彼の中指に嵌っているが、戦闘時はブレスレットになる意志を持ちし神秘のアイテム――リンク。

 レイジングハートのように、独自に魔法行使ができ、マスターと呼ぶ持ち主をサポートする役割を持つが、正確には〝デバイス〟ではなかった。

 彼女の正体に関する旨は、今は明言を避けさせて頂く。

 この二方による救出作業。

 勇夜が市民を捕縛する大振りで群れる枝たちを破壊し、リンクが記憶処理の魔法をかけつつ転移魔法で結界外へ移動させていった。

 

「あと何人だ?」

『救出は完了――――マスター、魔力反応を二つ確認、魔導師ですが、フェイトたちのものではありません、こちらから北東700メートル先のビルの屋上です」

「あれか?」

 

 市街地で周りより一際高いビルの屋上に人影を一つ、子どもだった。

 歳はフェイトと同じくらい、栗色の髪を彼女と同じツインテールで纏め、あ白を基調とし、青いラインが走ったセーラー服風のバリアジャケットを着た日本人の女の子であった。

 左手に持っている先端が金色の金属パーツと赤い球体が付いた杖は、彼女のデバイスであろう。

 

『あの少女から、槙原動物病院でのものと同様の魔力反応を確認しました』

 

 じゃあ……あの子がユーノの協力者、だけどどっかで見たことがあるような………疑問は尽きなかったが、答えを詮索する暇なんて異相体の野郎は与えてくれず、その魔導師である日本人の女の子に向けて、異相体の枝による触手が、さながら槍を思わせる鋭さで、今まさに迫りつつあった。

 

「リンク!」

『はい、マスター』

 

 間に合うか!?

 いや―――絶対間に合わせてみせる!

 勇夜は即決した。

 真の姿となりて、自分の〝力〟をここで使う決断を。

 彼は左手を前方に真っ直ぐ翳すと、腕輪形態のリンクから、光が発せられ、赤と青と銀に彩られ、黄色い半透明のレンズが付けられた、サングラスらしきアイテムが出現し、右の手で掴んだ。

 彼の持つ太陽(ひかり)の力を、最大限に発揮でき、彼にとって本来の姿と言うべき形態へと変身させるアイテム。

 

 ウルトラゼロアイ。

 

「デュワ!!」

 

 勇夜はそれを目に付けると、ゼロアイを中心に光が発せられる。

 光は繭となって勇夜の体を満遍なく包み、球体の中で彼の体は変貌を遂げていった。

 

 

 

 

 

「ひ……ひどい」

 

 ユーノの転送魔法によって、結界内に入ったなのはの第一発声がそれだった。

 巨木はビル群を覆い隠しつつ、枝は建物を貫き、アスファルトの道路には巨大な根で破壊された箇所は多数。

 まさに災害と呼べる惨状だった。

 

「たぶん、偶然拾った人間の願いに反応してしまったんだ」

 

 人の願い……やっぱりあの時、感じたのは。

 そう、なのはたちが翠屋で昼食をとっていた際、ほんの一瞬だが、ジュエルシードの波動を感じ取ったのである。

 あまりに些細で微弱だったので気のせいではと思ったこともあり、結局そのまま放っておいてしまったのである。

 もしあの時……ちゃんとしていたら、ジュエルシードを回収するべく、あの子から石を手放すようお願いして、封印させていたら……こんなことには………ならなかった。

 ちゃんと自分がやらなきゃいけないことをやっていれば、ここまで酷いことには……ならなかったのに。

 

〝お父さんだっていつも言ってるじゃない、『困ってる人がいて、助けてあげられる力があるなら、その時は迷っちゃいけない』って〟

 

 光兄やユーノ君に、あんな偉そうに言っておいて……肝心な時に………わたし………また何も………できないまま。

 

「なのは!」

「え?」

 

 そう自分を悔いて、攻めてしまっていたために気づくのに遅れた。

 自分に迫る、異相体からの枝の触手による、無慈悲な一撃に。

 

「いやっ!」

 

 触手がなのはを、捕らえようとしたその時。

 上空から緑色に発行した光線が、なのはを叩きつぶそうと企む触手を破壊する。爆音とともに粉々に散る触手。

 

「え……」

「何が!?」

 

 爆風と爆音が収まったあと、二人はてっきりミラーナイトが自分たちを助けたのかと思い、攻撃があった方角、上空へと目を向けた。

 

 最初は、夜空に煌めく星の如く、小さくて眩い一点の光だった。

 それがずんずんと大きくなり、物体は金色の視界を覆うまでの光をともしていた。

 空から降りてきた光輝く〝何か〟は、アスファルトの地へと降り立った。

 着地の衝撃で、地響きと粉塵が重力に逆らって舞う。

 大地に力強く降り立つ金色の光を放つそれは、いや―――巨大な人は、光が消えて行くとともにゆっくりと立ち上がる。

 上半身は青と、下半身は赤を中心に色付けされた体躯。

 胸にはプロテクターが散りばめられ、中央には蒼く光るドーム状の球体。

 銀色の厳つい顔と、黄色に光る鋭利に吊りあがる眼。

 頭部には、ナイフらしき銀の刃を二つ。

 そこに立っていたのは、三色――トリコロールの、光の巨人だった。

 

「あ…あの巨人って…」

「ユーノ君、あの巨人さんのこと知ってるの?」

「あ…ちょっとね…」

 

 なのははユーノのリアクションから、彼が巨人のことを知っていると漠然とながらも掴みとった。

 そしてかの巨人は、なのはたちの方に顔を向け、視線を投げかけてくる。

 敵意の類は感じられないし、どうやら自分たちを助けたのは彼らしいが、鉄面の顔からは、何を考えているのか全く掴めない。

 目じりが極端に上がった金色に輝く目が、巨体を相まって近寄りがたさをより強めている。もし地上から見下ろされていたら、眼光と巨躯で今頃震えあがっていたかもしれない。

 すると不意に巨人は―――

 

「バカヤロー!! 何ボォーーと突っ立ってんだ!!」

 

 ―――いきなり念話、テレパシーらしきもので、なのはたちに怒声を上げてきた。

 

「にゃあ!?」

 

 突然、声をあげられて驚く二人。

 なのはにいたっては、思わず素っ頓狂な奇声を上げていた。

 ただでさえ巨体かつ強面で威圧感があるのに、いきなりテレパシーで怒声が直接脳内で響いたら、こんなリアクションをとってしまうのは当然と言えば当然。

 ともかくこの怒声で、二人は巨人が自分たちに加勢する為にこの場に参上したことを理解した。

 

「俺が人質を救出するまで手を出すなよ、いいな!」

「「はい……」」

 

 ものの、いきなりのことだったので、思わず同時に頷いて了承するしかない二人であった。

 

 

 

 

 

 サングラス型のアイテム、ウルトラゼロアイから発する光に包まれた勇夜は、本来の姿へと変身した

 M78星雲光の国のウルトラ戦士―――ウルトラマンゼロ。

 彼は間一髪、額の緑色に輝く光体《ビームランプ》から発射する光線――《エメリウムスラッシュ》で枝の触手を破壊し、彼女たちを助けたのである。

 ゼロは改めて少女を凝視していると、思いだした

 ボート場に向かう道中通った河川敷で、サッカーの試合を観戦していた女の子の一人だ。

 よく見ると、彼女の肩にフェレットが乗っている。

 もう一つの魔力反応はそいつか……ってことはあのフェレットが〝ユーノ・スクライア〟か……他にも気になることは多々ある、けど今は詮索している場合じゃ無い。

 ゼロは、よく戦闘前に癖として行う鼻をこする動作をし。

 

「デェア!」

 

 異相体に向けて、片手を腰に据え、もう片方の掌を相手に向ける形で突き出す《宇宙拳法》の構えをとった。

 敵対行為と見なしたのか、複数の触手の枝による攻撃がゼロを襲う。

 ゼロは冷静に手と足で振り払って迎撃。

 しかし内心、〝結界の中とは言え、戦いにくい〟と愚痴ていた。

 それは相手が人質を取っているからだけではない。

 ゼロは不良時代から一目置かれていただけあって戦闘センスは高いが、実を言うと彼にとって、市街地の真っただ中での本格的な戦闘はこれが初めてであった。

 いたるところに密集した建物の中では、下手に動けば大惨事、一回歩くだけでも被害が出る。

 ウルトラマンが地球での戦闘でピンチに陥ることが多いのは、エネルギーの消耗が激しいこともあるが、50Mもある巨人にとって、人間サイズの環境下では余りに戦いにくい。

 結界内なので、多少周辺への配慮は無視したいところだが、ここには敵と自分しかいないわけではなかった

 ヘマすれば、あの子たちを巻きこんでしまう。

 

 

「しまった……」

 

 異相体の鞭がゼロの右腕を捉えた。

 さらに残りの四肢全てに鞭が絡みつき。そのまま為すがまま引っ張られ、態勢を崩すゼロ。

 その勢いのまま、異相体はゼロをビル群に次々と叩きつけられた。

 ビルの破片の山に埋もれるゼロ。

 反撃する時間を与えないとばかり、枝の触手が、投げ槍のように鋭く、破片の山々に襲いかかる

 だがそんなことでへこたれ、防戦を強いられる彼ではない。

 突然ゼロを縛り付けていた異相体の鞭にエネルギーが流れ、粉々になる。

 悲鳴の奇声を挙げながらも、触手はゼロに肉薄するが、ビルの破片から、粉と鞭を払いながら立ちあがったゼロは、両の手にエネルギーを込めた手刀技、《ハンドゼロスライサー》で迎撃した。

 彼は全身からエネルギーを放出する技、《ゼロボディスパーク》で、自分の体に絡みつく触手を破壊したのだ。

 

「シュア!」

 

 新たな鞭の猛攻がその身を捉える寸前に、ゼロは上空へと飛んだ。

 どこにいる? 異相体の宿主にされた人間は。

 

「(〝人質〟の位置はまだ分からねえか?)」

『(巨体な上、大量の魔力でカモフラージュされて、生体反応が特定できません)』

「(よし、だったら場所を搾り込んでやる)」

『(頼みます、マスター)』

 

 突破口を開くべく、ゼロは頭部に装着されていた二つの刃を手に取り、切っ先を接触させると、刃たちが発光し、形状が変わっていく。

 二振りの短刃は、銀色の弓へと変形した。

 弓は両端から、緑色の光でできた筋を伸ばして繋がって弦となり、ゼロはそれを右手で引いて構えると、弦と指が触れた地点から光の矢が現れた。

 

「バニシングスピア―――」

 

 引く力を強めるとともに光矢にエネルギーをチャージさせ、狙いを地上の異相体に定める。

 

『チャージ完了、撃てます』

「―――ファイア!」

 

 弓と矢を掴んでいた右手を離す。

 限界まで引き絞られた光矢は、斜線と描いて急速降下。

 異相体までの距離が半分に切ったところで、突如矢はバラバラに飛び散った。

 拡散したエネルギーは、無数の小さな針の雨に分裂し、巨木の面積に匹敵するほどの広範囲で降り注いでいった。

 対して異相体は、巨大な枝の触手たちを一か所に固めて盾を作り、攻撃の驟雨からその〝箇所〟を守った。

 呆気なく防がれた光矢、されどゼロの鉄面に落胆の色はない。

 むしろ最初から防御させるのが狙い。

 今披露した攻撃技――バニシングスピアは、ダメージを与えるのが目的ではなく、本体と宿主の位置を割り出す為の策として放ったのだ。

 

『(あの枝の障壁地点を中心に、エネルギー反応が増大)』

 

 彼の超能力の一つ、《透視》で反応が特に強まった地点を重点的に対象を探すゼロ。

 そして、枝の合間ある光を見つけると、中にジャージを着た少年と少女が、それこそ子宮内の胎児のように抱き合って眠っているのを発見。

 あれか! 人質を見定めたゼロは、弓を元の短刃に戻し。

 

「行け!」 

 

《ウルトラ念力》、すなわちテレキネシスで高速回転させて投擲した。

 普段頭部に収めている短刃――《スラッガー》は、万能武器である。

〝宇宙ブーメラン〟の異名の通り、手裏剣のように飛ばし。

 また直接手に持ってナイフとしても使える。

 さらに彼の宇宙ブーメラン《ゼロスラッガー》は、デバイスと同じく状況に応じて様々な武器に変形もできる機能があり、先程の弓型形態《アークスラッガー》はその一つだ。

 スラッガーに続いてゼロは、さらに両腕を横に重ねて広げると、三日月状の光の刃を飛ばす技《パーティクルサイクラー》を計4つ発射。

 彼のウルトラ念力で正確にコントロールされた刃の数々は異相体の触手たちを反撃も許さないまま正確に切り裂いていく。

 鞭が光刃に翻弄される隙を突き、ゼロは音速の速さで風を切り裂いて降下し突貫。

 

「その子たちを離せ!」

 

 右腕から、ロープのような光の帯を閉じ込められた宿主たちに向けて放った。

 ゼロは以前、とある〝ウルトラマン〟から、彼の分身とも言えるアイテムを授けられた際、彼の光も浴びたことでそのウルトラ戦士の不完全中間形態、〝ウルトラマンネクサス〟の技を一部使用できるようになった。

 これはその技の一つ、主に人質を救出する際に重宝する光の帯――《セービングビュート》

 帯は宿主二人を包むと、ゼロに手に戻ってくる。

 光の中を浮いている、ジャージを着た少年と少女。

 ジュエルシード本体も取って暴走を止めたかったが、そうはいかなかった………二人の願いに呼応して巨木を生みだした宝石は、今もあの異相体にエネルギーを送って巨体を維持させていた。

 

「しぶてえ野郎だ……」

 

 ともかくこの子たちを結界外に出さなければ、宿主を奪い返そうと異相体が襲いかかってくるかもしれない。

 予想通り、異相体から枝の槍たちが一斉にゼロに迫った。

 難なくそれらを回避したゼロは、異相体から大分離れた位置にある公園に降り、救出した二人を地面に降ろし、テレポートで結界外へとワープさせた。

 これで心おきなく戦えるのだが、封印する上、今の姿ではどうしようも無い。

 この姿の時は、自らの力を十全に発揮できると引き換えに、魔法がほとんど使えなくなってしまう。かと言ってこっそり人間体になろうとしたら、傍からは敵前逃亡した風に見えてしまうのが癪。

 仕方ない、あの白いバリアジャケットの女の子の手を借りるか。

 

「シュア!」

 

 ゼロは再び異相体へ向けて、その場から飛び立っていった。

 

 

 

 

 

「「すごい…」」

 

 また自然とハモってしまうくらい、一人と一匹(?)は、その巨体同士の戦闘に目が点になっていた。

 人間を取りこんでいたことは、二人も分かってはいたが、この短時間、ものの数十秒で、その人質たちの居所を突き止めて、無傷で助け出した巨人の勇壮な戦い振りに感嘆せざるを得ない。

 

「実は、僕の世界ではあれぐらいの異相体が出現したり、魔法生物が暴れたりした時にあの巨人がよく現れたんだ」

「そうなの?」

「僕たちはそれを『光の巨人』って呼んでた、事態を収拾させるとすぐどこかへ飛んで行くから、正体は分かってないけど」

「ユーノ君、ひょっとしてあの巨人さんが光兄が言ってたお仲間さんなんじゃ」

「そうかもしれない…」

「おい!そこの子とイタチ野郎」

 

 人質を助けた後、なのはたちの近くまで飛んで戻ってきた巨人は、着地と同時に二人を呼び掛ける。

 

「〝イタチ〟って……僕のこと……ですか?」

 

 以前動物形態時の自身のことを〝フェレットもどき〟と呼んだ光に続き、今度は巨人からも〝イタチ野郎〟と言われてしまったユーノ。

 フェレットもイタチの仲間に分類される動物なので間違ってはいないけど…なんか……複雑な気分にさせられるユーノである。

 

「お前以外に誰がいんだ?」

 

 巨人の表情は全く変わらないのに、ドヤ顔で言ったのが手に取る様に分かる気がした。

 

「ですよね………」

 

 この場にいる者が極端に限られる以上、該当するのは自分しかいないので、苦笑いで返すしかない。

 

「さっきので本体の位置は分かってるよな?」

「にゃ?」

『はい、あなたの攻撃のお陰で、本体の正確な位置が判明しました』

 

 放心のあまり、巨人からの質問の中身を読み取れなかったなのはに代わり、レイジングハートが肯定の意を示す。

 

「よし、先に撃つから、やつが俺の攻撃に気を取られてる間に封印してくれ!」

「は…はい!」

「シュア!」

 

 三度空へとび上がる巨人。

 とりあえず何者であれ、手を貸してくれる以上はありがたかった。

 

「なのは、でもこの距離からじゃ、あそこまで……」

「大丈夫!レイジングハート、お願い!」

『了解、キャノンモード』

 

 なのはは、レイジングハートを通常形態からキャノンモードへ変形させる。

 

『Devine buster』

 

 屋上と砲口に魔法陣がしかれ、チャージの為の桜色の魔力エネルギーが杖に集まっていった。

 

 

 

 

 

 その桜色の魔力光を、空から眺めるゼロ。

 バリアジャケットのデザインからそうではないかと勘繰っていたけど……やっぱりあの女の子、砲撃タイプの魔導師だったのか……なら大丈夫だな、あれほどの魔力量なら、あの距離からでも封印エネルギーは異相体に届く。

 それを阻む障害物を消し去るのは、今の自分の役目だ。

 ゼロは上空で静止すると、右手を腰に添え、左腕を横に広げた

 一瞬、スライドした左手が光り輝き、体内の太陽エネルギーを両手に集まる。

 そして、両手をL字の形に組むと。

 

「行けぇ!!」

 

 右腕の指先から関節まで範囲一杯から、無数の光の粒子が帯状に放たれた。

 ゼロの必殺光線の一つ、『ワイドゼロショット』である。

 異相体は再びを束にして盾を作り、降り注ぐ光粒子の群体から身(ほんたい)を守ろうとするが、枝の盾は光線によって容易く貫かれ、直撃。

 そのままゼロは体をスライドさせ、ジュエルシードに当てない様に心がけながら、光線を異相体の巨体へ満遍なく照射してぶつけると、各部から爆発が起き、炸裂音が響いた。

 異相体がダメージを受け、弱まったことを確認したなのはとユーノは。

 

「なのは!今のうちに」

『Target―――Lock on』

「ディバァァァイィィィンバスタァァァァァーーーー!」

 

 ユーノの指示を合図に、なのははトリガーを引いた。

 レイジングハートから桜色の光が放出され、その光の奔流は巨大な幹に埋め込まれたジュエルシード本体へ正確に命中。

 

『Sealing』

 

 着弾と同時に、レイジングハートによる封印処理がロストロギアに施され、異相体は眩い光に包まれた。

 本体が封印されたことで、巨体を維持するエネルギーの源(バックアップ)を失った巨木は、粉々に崩れ落ちながら……消えていった。

 

 

 

 

 

『Internalize No’10』

 

 封印が完了したジュエルシードを、レイジングハートの格納領域に取り込むなのは。

 

「ありがとう、レイジングハート」

 

 そのままレイジングハートを待機モードにし、バリアジャケットも解除して私服姿に戻る。

 同じくして、助けてくれたあの巨人が目の前に降りてきた。

 50メートルはあるだろうか、その大きさと容姿のせいで、どうしても圧迫感を感じてしまうが、同時に不思議と安心感も浮かび上がってくる。

 

「あなたも助けてくれて、ありがとうございます…私のせいでこんなことになったのに」

「なのは?」

「私……気づいてたんだ………あの子が持っていたこと…」

 

 翠屋で、お父さんのチームのキーパーから、確かに波動を感じたのに、見逃してしまった……放っておいてしまった。

 この〝魔法の力〟で……ちゃんとやり遂げるって…決めたのに……なのに………それなのに―――

 

「なのに…気のせいだと思って…」

「なのは…もとはと言えば僕がジュエルシードを」

「でもユーノ君は、みんなを迷惑かけないように頑張ってたじゃない!!」

 

 ユーノはフォローの言葉をかけようとするが、なのはの叫びに遮られる。

 気がつくと、なのはは身を震わせ、拳を力の限り握りしめながら、二つの眼(まなこ)に涙を溜まらせて、水玉が頬を伝って流れ出ていた。

 

「わたしのせいで…みんな…死んじゃうところだったんだよ…あの子たちを『人殺し』にするところだったんだよ…、止められたかも……しれないのに……」

 

 悔しかった……せっかく〝魔法使い〟になれたのに、結局何もできず、誰も助けられず、助けられるだけだった自分。

 許せなかった……自分にしかできないことを見つけたからって、いい気になって、周りに我儘を押し付けた自分に。

 一体自分は何をした?

 こんな災害を引き起こしておきながら、何をしていた?

 最後の攻撃以外は、ただ見ていただけじゃないか!

 結局自分は、やるべきことを放棄して、その落し前さえ目の前の巨人に無理強いさせて、迷惑かけてしまった。

 激情で流れる涙は、止まることを知らない。

 枯れ果てるまで、流しつくさんとする勢いであった。

 

「なのは……」

 

 ユーノは何も言えなかった。

 この結界を貼ったのは、目の前にいる巨人で間違いない。

 彼が手を施してくれなければ、あの成長を続ける巨木によって街は押しつぶされ、その場にいた人々を巻き込み、多数の死傷者を出し、原因を作った少年と少女に、災害を起こしてしまった重い罪を被せていたかもしれない。

 いや……実際そうだ。

 こればかりは誤魔化しもきかないし、揺るぎようが無い。

 紛れも無く、この状況は人の願いが生んだ〝人災〟であることは否定しようがないし、なのはたちは、それを事前に防げなかったのも事実だった。

 そんな二人の有様に、見かねたのか。

 

「おい」

 

 今まで聞き手に徹していた巨人が、テレパシーで二人に呼び掛けてきた。

 見上げるなのはとユーノ。

 

「二人ともな、責任を感じるなとは言わねえけど……あまり思い詰めるなよ、まあ結界で街に被害ほとんど出て無えから安心しろ、あと話の続きだが………………どっちも一理あるってことにしておけ、それとあと一つ―――」

 

 巨人は一拍置くと。

 

「半端に関わって、半端に悔やむなんてことは絶対すんじゃねえ………本気でやるって決めたんなら、最後までやり抜けよ」

 

 顔は無表情で強面で、口調はやや荒いながらも、二人を気にかけ、励ましていることはよくわかった。

 

「じゃあな」

「あ!あの!」

 

 飛び去ろうとした巨人を、反射的に呼びとめるなのは。

 

「私、高町なのは、この子はユーノ君と言います、あなたの名前は」

「………………」

 

 巨人はほんの一間、沈黙していたが、やがて。

 

「俺はゼロ―――――ウルトラマンゼロだ」

 

 彼の〝ウルトラ戦士〟としての〝名〟を告げた。

 

「え?」

 

 聞いたなのはたちは驚きを隠せない

 まさか光の友の名を、この瞬間に聞くとは思いもよらなかったのだ。

 

「シュア!」

「あ、待って!」

 

 疑問を確かめようする暇も与えないまま、ウルトラマンゼロと名乗った巨人はそのまま、飛び立って行ってしまった。

 その姿が見えなくなると同時に結界が解除され、夕陽が街を照らした。

 ゼロの言う通り、街は元の光景を取り戻していた。

 結界越しに、彼の超能力で、損壊を修復させていたのである。

 明日の新聞で、『謎の超常現象』とかもろもろの記事にはなるだろうが、国民の血税で直さなければならない事態になるよりは……良いだろう。

 友達が今地球にいること、兄に伝えた方が良いよね…そんなことを思いつつ、目に溜まった涙を拭いながら……自分を叱りつつ、励ましてくれた〝彼〟に対して―――

 

「ありがとう……」

 

 ―――の言葉を送るのであった。


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