ウルトラマンゼロ The Another Lyrical Story 第一章   作:フォレス・ノースウッド

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STAGE40 - 闇に覆われし夜天

 月面で停船させつつ、周囲の光景に擬態させたジャンバード。

 対闇の書捜査本部の一つに宛がわれ、ミーティングルームとして使われているブリッジでは、チームに加わる者たちが一同に会していた。

 勇夜、光、ナオトらウルティメイトフォースゼロ。

 フェイト、なのは、ユーノ、アルフ、そして久遠。

 クロノやエイミィら、アースラ組は、整備が最終段階へと移行し、本局の整備ドッグに停泊しているアースラのブリッジにおり、プレシアたち他の面々は地上のマンションで待機している恰好。

 そしてはやてと言えば、勇夜たちがジャンバードに移動した直後、急に睡魔に見舞われて、寝室の一つで眠りに着いたとのことである。

 

 

「集まってもらったのは、ご存じの通り、〝闇の書〟についてです、まず、ウルトラマンノアが勇夜さんへ提供した情報の通り、前述の名は俗称で、正式名称は〝夜天の魔導書〟」

「それが、あの本の本当の名前……なのだな?」

 

 夜天の魔導書、通称夜天の書。

 無限書庫での史料探索で見つけし、闇の書の本当の名。

 久遠の問いに、ナオトは頷いて肯定する。

 

「そうだ、元々は健全な用途で作られた〝旅道具〟と呼べる代物と言ってもいい」

「旅道具、というのは?」

「元々この魔導書は、あらゆる次元世界の魔法の知識、情報を集め研究する為に作られた、主のお供として旅する収集蓄積タイプの大型ストレージデバイスなんです」

「旅の相棒でもあり、次元の海を渡る船でもあり、航海日誌でもあるって、わけか」

「そして、この魔導書を開発したのが―――」

 

 3Dモニターに、壮年の男の肖像画が表示された。

 細長な馬顔寄りの風貌で、学者らしい知的さが感じられるが、親しみも持てる素朴さも垣間見えた。

 地球でいうとヨーロッパ系の顔つきでありながら、どことなく、白黒時代の黒澤映画の常連だった俳優と似通っている。

 彼の名は、クリストファー・ライゼンシュタイン。

 夜天の書の生みの親で、当時のべルカ王朝専属の科学者であったそうだ。

 ユーノが今説明した通り、彼が作り上げた夜天の書は様々な次元の魔法の情報を記録する厚めの帳面であり、本自体がリンクことウルティメイトイージスと同様、次元の壁を超える転移能力を備えている。

 ヴォルケンリッターたちは、そんな書と使い手たる主を守護し、時に長旅における話相手役も請け負うお供といった身であった。

 

「騎士たちの総称が、『ヴォルケンリッター』であることも、夜天の書と闇の書が同一のものと示す格好の材料ですね」

「光兄、それってどういう?」

「ドイツ語で『Wolken―ヴォルケン』は雲、『Ritter―リッター』はナイト、騎士という意味です」

 

 発音、単語に文法語法もドイツ語と似ているべルカ語も、同じ意味合いなので、《夜天を守りし雲の騎士》となる。書の本名も空に関連するものだと推測はされていたが、なるほど―――夜空という名の本と持ち主を守りし雲海たる騎士―――中々に凝った組み合わせとネーミングである。

 

「けどユーノ君、その『健全な本』が、どうして『闇の書』なんて良いイメージが浮かばない名前を付けられちゃったの?」

「記録によると、歴代の主たちの内誰かが、書のシステムに手を加えようとして、自己進化機能を備えた自動防衛プログラムを狂わせてしまったようなんだ」

 

 その自動防衛運用システムのプログラムの名は――《ナハトヴァール》

 

「他の者に渡ってしまった時の対策として付加させたのでしょうけど、無理やりな改変でシステムの根幹にバグを生み、魔導書のあらゆる機能を狂わせてしまったんです」

「その一つが、ノアの言ってた無限再生能力ってやつか…大方収集した魔法のデータを損失させない為のバックアップだったんだろうけどよ……」

「元々不測の事態への対処法であった再生機関と時空転移機能、そして防衛プログラム、ナハトヴァールは魔導書そのものを存続させる為なれば、担い手たる主の意志すら無視し、『防護』を大義名分に、主を捨て石同然に魔力を根こそぎ使って破壊を無差別に行い、次元転生を繰り返す今の『第一級危険指定ロストロギア』に変貌してしまった」

 

 最早〝改悪〟と称しても過言ではない多くの改変により生じた邪悪で多大なバグと、システムエラーを積み重ねたことで、元々魔導師或いは魔力を使う術の使い手の肉体をスキャンし、魔法の情報を読み取るものだった魔導の記録は、リンカーコアから直接魔力ごと搾取、簒奪する蒐集機能に変わり、さらに666ページ分の蒐集を完了させると、主の肉体と融合することで、想像を絶する力を齎す大量破壊兵器へと変貌を遂げた。

 ヴォルケンリッターたちも、主を心身ともに支える旅のお供から、蒐集過程の終了まで外敵を駆逐する時間稼ぎの役へと、なり果ててしまった。

 彼らの騎士としての矜持は、紛れも無く本物ではあった……が、それすらも汚されてしまったと言えよう。

 よって夜天の書は、最高で約10年の周期で次元干渉レベルの災害を引き起こす怪物と化し、繰り返される惨劇と悪行によって、『闇の書』という怨嗟の籠もった蔑称を付けられてしまった。

 

「改変の中で特に酷いのは主に対する性質の変化だ、蒐集行為を怠ったまま一定期間を過ぎると、ナハトヴァールは主のリンカーコアを浸食し、精神または肉体を蝕ませ、弱体化させることも判明した」

「精神? はやてには特に変わった様子はなかったが…」

「彼女自身の魔力資質で、精神への汚染はレジストされていたのかもしれません、だからナハトヴァールはその分彼女の肉体の浸食に重点を置いたのかと」

「具体的な症状は、〝肉体の神経系統の……麻痺〟、地球での通常の医療機器では原因の特定はできないので、カルテには〝不治の病〟だと記録するしかない」

 

 奇しくも、はやてが患っている足の病と全く同じ症状。

 敢えて今までとの違いを明記するなら、原因不明の症状から、ロストロギアによる外的要因によるものと今日判明したことだろう。

 ナオトは宙に、さらに3Dモニターを複数出現させた。

 彼はその内の、ドーム状な大型の光に呑みこまれていく都市を写した静止画に指差す。

 

「管理局のデータベースに保管されていた魔力サーチャーの記録画像で、これは蒐集が完成した直後を映したものだ」

「では、そちらの銀色の髪をした女性は?」

 

 光は別の画面に表示された画素の粗いデジタル写真に写されている、腰まで伸びた銀髪、血の色に似た鮮やかな瞳、投身から見て背は約170近くある女性について尋ねた。

 

「魔導書の管制を司るマスタープログラムとも言うべきプログラム生命体です、木に喩えると、ヴォルケンリッターが枝の一端なら、彼女は幹と根」

「この船に喩えるなら、私に相当する存在だ」

 

 全体像をかろうじて捉えた荒々しい一枚であったが、画の粗さ越しでも、写真の主が人間離れした美貌を持っているのは把握できた。

 

「どうだ久遠? シグナムたちからこいつについて聞いてないか?」

「騎士たちの話しから姿形を思い描いてみたのだが………特徴は一致している、この女子(おなご)が管制人格で相違ない、彼女でもそのナハトとやらは制御できないのか?」

「現在ではほぼ不可能となっている、封印が完全に解かれてから一定時間経過すると、書の全機能がナハトヴァールに掌握されてしまうのも明らかになった」

「悪辣な摂政によって実権を握られ、王家はお飾りとなった王制国家、とも言えますね」

「じゃあ、はやてちゃんより前に主に選ばれた人たちは、書が完成した後はみんな――」

「彼らの末路に関しては…………ここにいる各々のご想像にお任せする」

 

 と、普段以上に固いトーン答えたナオトの代わりに、噛み砕いて説明すると。

 蒐集を行わなければ、選抜した書の担い手自身を蝕み。

 完成してしまえば、書にかき集めた魔力と、担い手自身の魔力と命を貪りつくして、書を〝守る名目〟で生物無機物、星も次元も問わず周囲の存在を破壊していく。

 目的の為の手段の内の最悪の一手である筈なのに、ナハトヴァールは完全にそれを〝目的化〟してしまっている。

 そうして破壊の限りを尽くした後、次の主と言う名の生贄を求めて、また次の世界へと転生する。

 こうした悲劇が、過去に何度繰り返されてしまえば、本来の名は忘れ去られ、『闇の書』、『呪われた魔導書』などと俗称、蔑称ばかりが広く渡ってしまったのも頷けた。

 悲しいことに、その魔導書は、人の悪しき所業を身に受け呪いを蓄えながら、時と次元を駆け続けていたのである。

 生みの親にとっても、嘆きに心を染めさせる浮世の………現実。

 

『この上さらに厄介なのは、完成前の機能停止が、困難なことだ』

 

 通信モニター越しに、本日はリンディの指示でユーノたちのサポートに加わっていたクロノが苦虫を噛む面持ちで呟いた。

 

「一時的な活動停止の方法も見つかってねえのか?」

「ええ、今のところは……」

 

 ナハトヴァールを主とした改悪で構造が捻じれに捻じれてしまった現在の夜天の書は、魔導書自身が真の主たると認証した人間でなければ、システムの管理に操作、プログラムの再改変はできない仕様となっていた。

 外部からのハッキング作業による停止、封印もできない相談、無理にそんなことをすれば、眠っていたナハトヴァールが起動、過剰反応し、主を本体に捕り込み、転生して逃亡してしまうからだ。

 これが管理局から『完全封印』は困難と見なされるまでになってしまった原因であり、七年前の護送事故も、書を分析するべくアクセスを試みた際、猛獣たるナハトを覚醒させて起きてしまった惨劇であった。

 

 

「くう……ちゃん」

 

 なのはは、魔力製の現代服を着込む大人姿の久遠に目を向けながら名を呼ぶ。

 この場にいる者たちは何かしら、ある魔導書に秘められた真実に対し、心に影を指し込ませている。

この場が室内であるが故、空間を支配する沈鬱な空気は、ブリッジにいる一同に息苦しさまで錯覚させていた。

 特に、フェイトたち年少組には魔導書のバックに存在した重い事実に、貌を暗くさせてしまっている。

 幼い少女たちには、ショッキング過ぎる話だった。

 

「真実を知る心構えはしていたさ………その為に私は、この場にいるのだから………」

 

 それよりもさらに、久遠に落とし込まれた影が一番、巨大だと言ってもいい。

 なぜなら……はっきり示されてしまったからだ。

 真実が鋭利な刃となって、明確に残酷な一閃を振るったからだ。

 自分たちが愛する幼き家族を救おうと行ってきた行為が、むしろその家族により凶悪な運命を強いて、人間としての尊厳を完膚無きまで破壊する死を与える結果を齎そうとしていた罠であった事実に。

 前述の彼女の言葉は、その事実に対し、どうにか気を保とうとしてふと口から洩れた独白とも言えた。

 

「それに、私のようにまだこうしてどうにか受け止められるだけまだいい…………問題は―――」

「あいつらに………どう、伝えるか、だよな」

「あの様子でじゃ四人とも……ナハトヴァールのこと、忘れてるよね」

「そう考えた方が妥当でしょう……………でなければ彼らが、自ら進んで〝蔑称〟を使ったりはしない」

 

 久遠は提示しようとした問題の内容を、勇夜、フェイト、光の順番で代弁された。

 グレンファイヤーについては、どうにかなる。

 久遠はグレンに前もって、魔導書の真実を得る目的で勇夜たちと密かに接触する旨を伝えてある。チームでも屈指のムードメーカーな彼でも影を落としかねない重い真実だが、それを受容できるだけの落ち着きは持ち合せている筈だ。

 一番難儀となるのは、やはり当人とも言えるヴォルケンリッターたち。

 二度に渡って彼らと相まみえた勇夜たちは、汲み取っている……今の守護騎士たちは、今日判明した真実が、自らの記憶から抜け落ちていることを、それがナハトヴァールによる故意によるものか、強引な改変による副次的産物によるものかは別にして、〝忘れている〟のは確かなのだ。

 騎士たちが現界してからの生活において、〝ナハトヴァール〟はともかく、〝夜天〟なんて単語すらも、実を言えば後者は全くではないのだが、ほとんど彼らの口から発されていない。

 敢えて、災厄を重ねてきた我が身ゆえに、蔑称の方を使っている線もあり得たが、久遠がいくら記憶を辿って見ても、騎士たちが〝闇の書〟と呼ぶ時のニュアンスは、そういう呼び方で当然だという響きであった。

 なら、自分たちが改変され、書の真の名を消し去られているのを全く自覚していないのは間違いない。

 自身の実状を知っているなら、心を持っているなら、恩情を抱く主を破滅に誘う行為など、する筈がない。

 しかし記憶に穴がある彼らは、皮肉にも自らの性質で、蒐集を強いられる悪循環に陥っている。進む先は奈落の底、たとえ立ち止まっても、少しずつ踏みしめている大地は綻びていき、崩れてゆく、どっちにしろ今の彼らには地獄の諸行そのもの。

 いや……単に改変を覚えていないだけならまだ良いのだ。

 

「一度心を意固地にさせちゃうと、誰の言葉も入ってこなくなっちゃうんだよね………昔の私みたいに」

 

 フェイトが、かつての自身と、現状の守護騎士たちと重ね合わせて呟く。

 最も難儀なのは、今の騎士たちがPT事件時のフェイトと同等以上に他人からの言葉を聞き入れられるだけの余裕が無いということだ。

 リンカーコアから蒐集した魔力を全てのページに刻み、魔導書の封印の眠りを覚まさせば、自分たちによって蝕まれるはやての病は治癒できる――とそう信じて疑っておらず、〝人間は殺さない〟などの枷を設けつつも、行為を何かしら妨害し阻む者たちには徹底抗戦の構えで魔導の力を振るう。

 もしはやてが今どこにいるのかを知れば、悲壮なる覚悟で、勇夜なりの表現で言う〝殴り込み〟を敢行するは明白。

 そんな精神状態の彼らに書の実態を伝えようとしても、信じてくれる可能性の方が低いのが実状だった。

 

「ザフィーラなら聞き受ける余地は残っていよう、後の三人は……まだ望みが薄い」

「〝人間〟としちゃ、あいつらがアタシより年下だからかい? そういうアタシも人の子じゃないけど」

「ご名答、セキュリティプログラムでしかなかった彼女らが心を持ってから、まだ一年も経っておらんのだ」

 

 さらに騎士たちに感情が芽生え、魔導書が一種〝自身の肉体〟にも等しいことも彼らの頑なさを強めてしまっている。人間性、主観の会得と、それによるはやてへの親愛の情よって、皮肉にも客観的冷静な視点を持てずにいるのだ。

『自分の体は、自分がよく知っている』

 ドラマでよく耳にしそうな言葉が、彼らの口から出されるのもあり得ないとは………言い切れない。

 

「私とユーノ君に使ったみたいに、テレパシー……みたいな方法、できませんか?」

「ダメだ、あれはお相手さんが〝聞く耳〟を持ってねえと」

「念動波を込めた拳撃による交信も、ほぼ不可能ですね」

 

 彼女が提示したのは、以前勇夜が彼女たちにフェイトの出生を伝える際に使ったテレパシーの応用による情報伝達術――サイコトランスミット。

 瞬時に情報を相手に伝えられるので、ヴォルケンリッターと対面した時にこの術で聞く耳持たずな彼らに使えばよかったのでは? と考える者もいるかもしれないが、これも決して万能ではない。 

 自分が伝えたい情報と、相手が知りたい情報がある程度一致し、かつ相手が耳を傾ける意志を持たなければ為し得ない技なのだ。

 勇夜の言う〝聞く耳〟を持たなければ、テレパスを受信した相手は脳に不快で強いノイズしか響いてこない。

 それは、勇夜―ゼロと光―ミラーナイトが行った《肉体言語》も然り。

 たとえ守護騎士との二度目の戦闘の時点で、夜天の魔導書やナハトヴァールの詳細を掴めていたとしても、是が非でも蒐集を完遂させてようとしている彼らを前では、サイコトランスミッドでも言葉でも届かなかったろう。

 脳に直接情報を送る性質ゆえ、余りに強引にでも伝達させると、精神崩壊による廃人化させてしまう恐れもある。

 セブン――諸星弾譲りの超能力を使いこなす勇夜ら超人たちの経験とセンスあればこその技でもあるのだ。

 

「情報がさらに集まり次第、君には騎士の交渉役を担ってもらいたいのだが」

「勿論それは引き受けよう、私も災いの回避の努力を惜しむ気はない」

「ありがとな」

「私としても、根気よく夜天の書を調べてくれたそなたらには感謝している」

 

 久遠は前もって謝意を勇夜たちに示した上で――

 

「ただな……まだ、腑に落ちないところがある」

 

 ――今までも、ベールが解かれた今となっても、彼女の脳裏にこびり付く謎を投げかけた。

 その霧にも喩えられる謎は、ある程度魔導書の実態が明るみにされたことで、より濃くなったと言ってもいい。

 

「どの点がですか?」

「大量の魔力を蓄積できる魔導書の性能を、戦闘に利用できないかなどと思いついた何者かが用途と構造(カラクリ)を弄ったのは分かる、ならばなぜ……蒐集から完成まで、封印を解く過程をいくつも設けられたのだ?」

 

 提示された謎の概要に、一同は目を見開いてハッとする。

 

「そうだよな………なんでそんなしち面倒くさい仕様なんだ?」

 

 勇夜は右手の指を口元に添えながら疑念を呟いた。

 そもそもシステムの使い様を無理やり変えようとする時点で、改変者たちの思考など、たかがしれているものだが、それでも解せぬ疑問。

 ナハトヴァールの過剰かつ残虐さも極まる防護で守られているにも拘わらず、なぜ厳重に、幾重にも手順を踏む封印の措置が取られているのだろうか?

 改変後にしても、まして前にしても、必要性が疑われる機能である。

 特に改変前の資料本な《夜天の書》に対し、システムに制限を付けるメリットがどこにあると言うのだろう?

 ナハトにしても、ここまで凶暴化させる気は、このプログラムを組み込んで書を制御下に置きたい改変者たちにもなかった筈である。

 

『謎解きは手かがりをもう少し集めてからにして、今日は捜査の進展を踏まえて、今後の方針を纏めよう』

 

 謎の溝へとド坪に嵌るところを、クロノが上手く阻止し、彼の言う通り捜査チーム一同の方針の整斉を測る方へと題目を転換させる。

 ユーノとナオトは引き続き、夜天の書の記録が書かれた史料探索。

 アースラチームもコアを持つ生物が住む無人惑星の監視の続行。

 勇夜、光たちは、第三勢力の調査及び、怪獣出現の際の迎撃行動(ナオト、ゲン含む)。

 なのはたちは基本待機ながら、学業に差し障りの無い程度にスクライア一族のサポーターとともに史料探索の補助。

 と、ポジションが組み分けられた。

 

「アースラはいつ出られるんだ?」

『今日には最終メンテが終わる予定だったんだけど、〝追加兵装〟でもう数日延びちゃって、提督も今…その申請願を出してる最中なの』

「おい、それって…………まさか」

 

 どう聞いても曰くありげなエイミィの声音を前に、勇夜はその意味を気づいたらしく、女性に負けじと麗しい彼の顔が焦りに染まり。

 

『対艦反応消滅砲―――《アルカンシェル》』

 

 その兵装の固有名が彼女の口から発された途端。

 

「ちょっと待て! あんなもん地上に向けて撃てるわけねえだろ! 海鳴を地図から消してえのか!?」

『マスター、気をお静めになって下さい』

「そうだよ勇夜、何もそこまで………」

 

 切羽詰まった表情と口調で、彼は思わず問いただしていた。

《アルカンシェル》

 その兵器の子細を知っている者も知らぬ者も、平時のクールさと、根の気さくさから一変した勇夜の様子にうろたえるしかない。

 

「勇夜どの、まるで、戦略兵器のような物言いだが」

「戦略兵器そのものですよ、アルカンシェルは、勇夜さんが狼狽するのも無理ありません……最低でも海鳴市を都市はおろか、陸地ごと消し去ってしまう大型魔導兵器です」

「「「………………」」」

 

 ユーノの説明はオブラートに包んだものだったが、やはりこの場にいる者たちに大きな衝撃を与え、閉口させてしまう。

 周りへの配慮で彼は詳しいスペックこそ話さなかったものの、彼の言う通りアルカンシェルは勇夜があれ程の感情を荒げるのも頷ける次元艦船専用兵器である。

 高密度に圧縮された魔力の大型弾道を発射するのだが、着弾時に対象から約百数十キロメートルの範囲の〝空間そのもの〟を捻じ曲げ、消滅させてしまう破壊力を有しているからだ。

 核兵器の放射能汚染ように、二次的災害は起こさない性質も備えるが、それを踏まえても一次的被害は、地球の大量破壊兵器を凌いでいる代物。

 その強力さゆえ、使用は第一級ロストロギアに限られ、艦船を所有する提督以上の階級を持ち、専用のライセンスを取得した者しか取り扱いを許されず、船に搭載するにも申請書を提出して認可を受けるのが必須となっている。

 何よりこの兵器は、七年前の事故で、クライド・ハラオウンが艦長を務めていた次元航行船エスティアを葬った過去もある。

 ウルトラマンである勇夜も、戦略兵器クラス……どころかそれ以上の戦闘能力を有しているが…むしろ自身が強大な力の所有者であることと、前述のハラオウン親子と兵器との因縁もあって、あそこまで過敏に反応してしまったのだ。

 

『僕たちも使う事態にならぬよう事件を終息させたいが、上からの世知辛いお達しもあってね』

「〝プロパガンダ〟………って奴か」

『市民に本腰でこの事件に当たっていると証明する材料でもあるからね、その捉え方で間違いはないさ』

 

 さっきよりは落ち着いた勇夜だが、アルカンシェル搭載の裏にある事情を読み取った彼は眉に皺をよせて苦々しい思いを吐き出す。

 何しろ、今日クラナガンでは、『闇の書被害者の会』という名称の団体が会見を開き、早急に魔導書の封印、または破壊を求める声明も出し、その日のニュース番組のメインに取り上げられたくらいだ。

〝闇の書〟には、想像以上に暗く重いバックボーンが存在している証しの一つとも言えた。

 明らかになったその背景で、重々しい空気が流れ出した直後……ジャンバードのブリッジに緊急通信のアラームが鳴り響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 連絡をしてきたのはアリシアだった。

 慌てに慌てた様子で、〝とにかく戻って〟との報せに、勇夜たちはジャンバードの転送ポートで、マンションの屋内のリビングに転移する。

 

「師匠、何が?」

「それがな…」

 

 待っていたゲンの導きで、ある寝室へと続く扉に足を運ぶと、開いたドアから見えたのは、ベッドの両端でそれぞれ腰を下ろしているアリシアとプレシア、二人に見守られる形で、夢にうなされて横たわっているはやての姿であった。

 

 

つづく。

 


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