ウルトラマンゼロ The Another Lyrical Story 第一章   作:フォレス・ノースウッド

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サッカーパンチとは『不意打ち』と言う意味。


STAGE38 - サッカーパンチ

 水面へと下りていく夕陽の光で、オレンジの光沢を反射させる太平洋の水平線、それ陸との境界な海岸線に沿って伸びる道路を、一台のバイクが走る。

 諸星勇夜が移動手段の一つとして重宝している改造が施されたヤマハ製VMAXのカスタムバイク。

 フロントにツインライト付きカウルを付けているだけでなく、傍目で確認できる以上に人間体でもずば抜けた身体能力を持つ彼に合わせた大改造を施されているので、はっきり言うとこれを地球で使うのは色々と不味い。

 なので後部にはちゃんとナンバープレートを付け、今は勇夜からバイクはおろか彼の肉体まで借りている菱海ユリヤことリンクは、この道路での法定速度をしっかり守って運転している。

 元から日本の技術者のクレイジーで暴走特急レベルな情熱が詰まったものを、さらに魔改造されたモンスターバイクの性能を持て余しているのもいいとこだが、背に腹は変えられない。

 同行している二人、フェイトの方は後部座席に座り、アルフはというとリンクの羽織る黒のレディース用コートの内側に入りこんで、ファスナーの上がった袖口から顔を出している格好だ。

 

「マスターに経過を報告しておきたいので、臨海公園で停車致します」

「うん」

「タイムアウト! バイクを停めて! ちょっとタイムアウト!」

「またター○ネーター2ネタですか?」

「ごめん♪ 前に乗ってるとこがジョンと一緒だったからさ、それにちょっとデザインも似てるだろ?」

「ですが厳密に言うとVMAXはクルーザーではないですよ、よく似た何かです」

 

 なんてアルフがジョークをかまし、リンクがツッコミを入れている裏で、『タイムアウト』の単語を切っ掛けに―――

 

 

 

 

 

『Start Up』

 

 ゴォンゴォンゴォン! ブオォォォォォォ――――ン!

 

「終わらせなきゃ始まらねえ! 加速装置!」

 

 ディィィィィ――――――――ン!

 

『Exceed charge』

 

「デェェェリィアァァァァァーーーーーーー!!!」

 

『3―――2―――1―――Time Out―――Reformation』

 

 

 

 

 

 想像なのを良いことに、色々ごっちゃなツッコミどこだらけな妄想をする輩がいた。

 

『(サー…いくら似ているからといって、勇夜殿と彼の声を使って何をイメージなさっているのですか?)』

「(えへへ…なんかついね……はぁ~~~)」

 

 その輩は溜め息を最後に付け加えた。

 なぜ吐いたかと言うと―――

 

「(今日が絶好のチャンスだったのに、髪留め忘れてくるなんて………私の馬鹿)」

『(気を落としすぎないで下さい、サーよ、機会はまだございます)』

「(バルディッシュ………うん、めげていられないよね)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 フェイトにとって、なのはと半年前に〝魔法の言葉〟を掛け合い、再会を願ってリボンを交換した別れと思い出の地たる海鳴臨海公園。

 時折大小も種類も様々な船舶が通り、太陽光で煌めく海と、敷地内に植えられた木々たちに挟まれる格好な、各辺がギザギザ状になった石畳の通りのフェンスの傍に置かれたベンチにフェイトは座り、その横をアルフはうつ伏せに寝ころんでいた。

 

「待たせたな」

 

 その二人の下に、黒のデニムジャケにタートルネックのセーター、深青のジーパンを着た黒髪ポニーテールの少年が歩み寄ってくる。

 つい先程、相棒のリンクから肉体を返してもらった諸星勇夜である。

 

「勇夜」

「ほらよ、ご希望通りのコーンスープだ」

 

 木々に身を隠して勇夜の姿に戻るついでに、予め二人からご注文を受けた指定の飲料を公園内の自動販売機から購入してたった今帰ってきたところだ。

 その勇夜から、中にコーンもちゃんと入ってる温まったコーンスープをフェイトは受け取る。

 

「ありがと」

 

 早速缶を開け、手袋越しに熱を感じながら口にした。

 コートで対策をしているとはいえ、寒気に晒された体、そこにとろみの利いたスープの暖気が心地よく体内に染み渡る。

 

「アルフはポ○リでよかったよな?」

「うん♪」

 

 アルフにはHOTなミディサイズのペッドボトルな某清涼印象水を手渡す。

 

「プハァ♪」

 

 人間の姿より指が短い両手でボトルを器用に挟み、嬉々としてごくごくと飲み、お酒でも一服したかのように、アルフは息を吐いた。

 

「そんなにお前ポ○リ好きだったか?」

「おうさ♪」

「勇夜から格闘の指南受けてた時に、初めて飲んでからやみつきになったんだって」

「さ、左様で」

 

 微苦笑を浮かべる勇夜は、ベンチの端に腰かけるフェイトのすぐ横の海と通りを隔てたフェンスに背中を寄せた。

 

「すまねえな、こんな地味で味気ない捜査もどきに付き合わせちまって」

「ううん、気にしないで、我がままを言いだして通したのは私だから」

「まあ、フェイトの駄々っ子癖は今に始まったことじゃねえけど」

「むっ………勇夜のいじわる………………駄々っ子なのは自覚してるもん」

「拗ねんなよ、フェイトでじゃ逆効果だぞっと」

 

 と、悪戯っ気を含んだ笑みを見せて、人差し指で夕焼けに映えるフェイトの金髪を拒否感を与えない微力でつついた。

 

「ひゃっ………もう、勇夜ってば」

 

 つつかれた方は前述の一言を返したが、その顔は綻び、陽の光でカモフラージュされていたが、頬も夕陽に負けじと赤味であった。

 この現況を、はっきりとは明言しない。

 ストレートに言った際、何が起きるか分からないからだ。

 

「(あちゃ……やっぱアタシ付いてかない方が良かったかも、せっかくのムードなのに)」

 

 それにアルフの今の独白で大体把握できるだろう。

 

「体の調子はどう?」

「そんな柔な鍛え方はしてねえから、半日ご無沙汰だった程度どうってことねえよ、昨日の怪我もジャンのカプセルベッドのお陰で治ってるしな」

 

 勇夜はこう答えながら、自分の分の飲料缶の蓋をカチャっと開けて飲む。

 ちなみに彼のは缶の色も真っ黒な無糖ブラックのホットコーヒー、子ども舌では旨味が感じられない苦味全開だが、さっきの会話を聞くとブラックでも大甘になってしまう気がしないまでもない。

 

「ところで、体貸してた相棒が毒のあるトークでもして困らせなかったか?」

「ううん、アイスを美味しそうに食べてた以外は特に何も」

 

 逆にリンクの方がフェイトによって困らされたのが真相、本人から内緒にするよう催促を受けているので詳細は避けている。

 

「アイスか……そういや感覚共有で初めて味わせたのがアイスだったっけ、あの時は『これが味覚というものですか』って子どもみたいにはしゃいで感動してたよな? リンク」

『え?…………はい』

「どうした? 何か言い方にキレが無いぞ」

『そう……ですか?』

「なあ、本当に今日は何も無かったのか?」

「うんうん、本当に困るようなことはなかったよ、ねえアルフ?」

「そうそう、フェイトのおっしゃる通りだからさ」

 

 どう見てもいわくありげに、何かを隠そうとはぐらかす女性陣の姿。

 

『(マスターのナチュラルたらし………そんな自分のことみたいに嬉しそうに話されては、照れるではないですか……)』

 

 女性陣が何を明かさぬようにしているかは、乙女の熱が上昇中の彼女の独白が示してくれる。

 その詳細まで把握できずとも、〝何もなかった〟のは絶対嘘だなとこの場ではただ一人男子な彼はフェイトたちの態度からそう確信したが、この様子ではいくら尋ねてもその〝何か〟に中身に対しては黙秘を貫かれてキリがなくなりそうだ、とも判断して真相の追究は取り止めることにした。

 

「分かったよ、その代わり今日の結果報告してくれないか」

『それでしたら、マスターのタブレットPCにデータを送ってあります』

「流石だな、相棒」

『いえ……(もう、これは普通の賛辞の言葉であるのに、何動揺しているのですか…私)』

「ナオトの病院の張り込みはどうだった?」

『今日の時点では、騎士やグレンらしき人影は捉えられなかったようです、無人惑星の観察チームからも今日の時点では騎士及び怪獣の活動は観測はされていません』

 

 勇夜の言う通り、内心〝女の子〟な心内でも公私をきっちり切り分けて自身の努めをこなせるリンクには、流石だと賞賛を送りたくなる。

 

「空き缶預かってくれ」

『了解』

 

 この場の女性陣の好意のターゲット……もとい対象な彼は、飲みほしたコーヒー缶を後でちゃんとゴミ箱に入れる為に一旦リンクに預けると、ジャケットの内ポケットからスティック状な待機モードのタブレットPCを取り出し、展開して起動させる。

 手中に現れたタッチ操作可能な3Dモニターに指を付け、リンクから送信された調査結果の一つを表示させた。

 画面にあるのは、海鳴市を真俯瞰から捉えたCGの地図。地区ごとの境界線や地名が表示され、数にして3つほどだが、ゆっくりと赤く明滅している地域が一部あった。

 点滅する地区は、例の魔導書の主に選ばれたと者と思わしき市民が住んでいる地域を表している。

 今日のリンクとフェイトたちの『迷子の金髪少女と、彼女と一緒に家族を探す黒髪ロングの美女』という設定による聞き込みと外回りの調査によって、その候補は3つにまで減っていた。

 フェイトは、その地図が記されたモニターを見つめる彼の横顔を見て気づく。

 さっきまで表情は明るめであった彼が画面のある一点を目に止めたままで視線が動いていないことを、その一点を見ている彼の目が、憂いを帯びているということに。

 多分……なのはと初めて会った時の自分も、今の勇夜と同じ〝悲しい貌〟をしていたのかもしれない。

 

〝物体の動きには、川の流れの様な線が隠れている、日頃からその流れをなぞるよう心掛けろ、そうすれば相手の打つ手が読み易くなる〟

 

 想い人の表情の意味を読みとろうと、ゲンご指導による特訓のある時に彼から教わった動きの見方を思い出し、それを参考に、フェイトは勇夜の視線をマーカーで描く要領で彼の視線を瞳からPC画面へとなぞり。

 

「な、か…おか…ちょう………さっきからこの辺りしか見てないけど、何かあるの?」

 

『中丘町』と表示されていた区画を指差す。

 直後、質問を返球しない代わりに、彼の普段から刺々しさがあり、戦闘時にもなれば大人でも屈服させる眼力を持つ目に帯びる翳りの深みが増した。

 問いかける前から、フェイトには勇夜の今の表情にさせるものが何か、漠然とだが感じていたが、質問の反応から確信が強まり。

 

「その町に住んでるんだね、闇の書の主かもしれない可能性が、一番高い人が………」

 

 さらにぐっと踏み込んだ問いを投げかける。

 しばし唇を強く締めたまま黙り込む勇夜であったが、一旦目を閉じ、一呼吸して自身を落ち着かせると。

 

「ああ…………見てくれ、この子はそうだ」

 

 フェイトからの問いを肯定し、指でPC画面を海鳴の地図から、その人物の詳細と顔写真が記されたデータに変え、彼女に見せた。

 

「嘘……」

 

 赤く大きな双眸を見開かせると同時に、フェイトは思わずそう呟いていた。

 何かの間違いでは…自分の目が見間違いで誤認しているだけでは? と一度目を閉じ、開いて再び画面を注視する。

 しかし、映る光景は一度目と何も変わらなかった。

 茶色がかって、肩に掛かるか掛からないかの長さなショートカット。

 対面からは右側の横髪には、一つはバッテン印、もう一つは道路でよく見るラインに似た二本線な、計二つの髪留め付き、目じりはタレ目寄りで、いかにもほんわかで温厚そうな雰囲気が漂う日本人の女の子…………間違いなく、その子は―――

 

「八神……はやて」

 

 さっきと同じく、フェイトは無意識の内に画面に記された少女の名を口にしていた。

 

「知ってるのか? この子のこと」

 

 彼女の反応から、明らかに写真の子を知っていると踏んだ勇夜が問いかける。

 

「うん、まだ直接会ってないけどすずかから紹介されたの、前の月に海鳴私立図書館で知り合った子で、放課後よく図書館で会ってるんだって、近い内にみんなでその子と会う約束もしてた……勇夜はいつはやてと会ったの?」

 

 対してフェイトも、勇夜の口振りから以前会った経験があると察して聞いてみた。

 

「半年前の海鳴(ここ)でのすったもんだの時に二回だ、一度目はすずかと一緒でこっちの地球のこと調べようと図書館に寄った時に会って」

「二回目はアタシの怪我のリハビリで散歩してた時にばったり、転んでトラックに轢かれそうになってっところを、間一髪勇夜が助けたんだよ」

 

 横断歩道を渡る途中車椅子から転倒し、あわやトラックの巨体で命を散らすところをヒーローよろしく(本当にスーパーヒーローなウルトラマンではあるが)勇夜が彼女を傷つけぬよう抱え身を横転して事なきを得て、行き先の病院まで同行し、家まで送り届けた―――という経緯を当事者的立場な二人はフェイトに話した。

 

「そう…だったんだ……」

 

 この時表には出さずよう堪えてはいたが、内心勇夜からいわゆる『お姫様抱っこ』をされたのは自分だけではなかった事実に若干の妬み込みでショックだったフェイト。だが自分の場合、初めて会いジュエルシードを巡って戦闘した時、母からの宣告で意識喪失していた時、そして先月末の騎士たちとの戦闘時で三回も経験していることを思い出して気分を持ち直させるのであった。

 

「まずこれを見てくれ、リンクが記録してたはやての魔力データだ」

 

 さらにPCの画面を切り替えて、勇夜はフェイトに見せる。

 表示されている彼女の魔力数値にもフェイトは驚かされた。

 自分やなのはよりも遥かに多い……Sクラス、母でさえ外部からの供給を受けてようやく超えられる高みの域を、はやては生まれながらに持ち合せていた。

 守護騎士一人に付き、肉体の維持にどれくらい魔力量が必要なのかは分からないが、もしアルフ……或いはリニスと同程度だとしたら、四人全員を賄わせられる上にお釣りも付いてくる。

 

「それと、はやてが麻痺で足が不自由で、ちょくちょく病院通いしてるのをすずかから聞いてるか?」

「うん」

「ナオトに、ここ最近の通院回数を調べてもらったんだが……」

 

 今度は通院した日にマークが付けられたカレンダーを表示させる。

 今年の初めを皮切りに、勇夜の指で現在まで時間をスライドさせていく。

 最初は一~二週間に一回ある程度だったのだが、九月に入った頃から週一、十一月の中ごろからは二、三回と通う回数が今に近づくにつれ急激に増えていった。

 

「そういえばさ、その足が麻痺しだしたってのも、七年くらい前だったって……担当のお医者さんが言ってたんだった……よね?」

「ああ…」

「クロノのお父さんが亡くなった護送事故も―――」

 

 今から七年前の出来事、偶然の一致にしては出来過ぎな感がある。

 通院の頻度にしても、急に増えた九月を過ぎたあたりから、騎士たちの仕業と思われる襲撃事件が起き始めている。

 もし……はやてが魔導書の主だと仮定し、ヴォルケンリッターが一度は禁じた筈の蒐集行為を始めてた切っ掛けが、彼女の足の病だとしたら。

 

「確かに……はやてが主なら………」

 

 すずかによれば、血縁はなく養子で引き取られた義兄が一人いて、今年の中ごろからは『遠縁の親戚さんたち』に、大型犬一匹も、一緒に家で暮らしているという…………それを反芻したことで、フェイトは自身の至らなさを恥じた。

 その義兄がはやての両親の養子となったのは11年前、勇夜がミッドに、光が地球に飛ばされた時期と重なるし、すずか越しに聞いた人物像も、『お調子者なムードメーカーだが義理堅い江戸っ子風なお兄さん』………勇夜が言っていたグレンファイヤーの人となりとも合致するではないか。

 今年に同居し始めたという〝遠縁の親戚〟も、年上のお姉さん二人と歳下の子が二人、内三人は守護騎士で、残った一人は昨日勇夜たちと接触してきた『久遠』って名前の魔源種な狐の耳と尾を生やした巫女姿の女の子、大型犬は盾の守護獣の獣形態であろう。

 有力候補がはやてであったこと自体は、直に面識が無くとも驚愕したフェイトであったが、ふと冷静に考えてみれば、主がはやてである可能性を匂わす判断材料が、彼のPCが見せたデータ以外にも多いことに気づかされる。

 どうして…今この時まで、直接会ってないにしても八神家の家族構成とヴォルケンリッターたちの共通点に気がつかなかったのか?

 

「ごめん、私たちがもっと早く気付いていたら、主が誰で海鳴のどこに住んでるのか早目に掴めたかもしれないのに…」

「いいさ、俺だって昨日まで眼中になかったんだぜ、それに…はやてとグレンたちの繋がりをはっきりさせる証拠は……まだないしな」

 

 改めて説明すると、『思い込み』、『先入観』、『結論を先走る』といったものは捜査活動に限らず、探る行為そのものに於いて非常に厄介なトラップだ。

 一度その罠に嵌ってしまうと、探りを入れている物事の実態、真実、本質を見逃し、時として致命的なミスへと繋がってしまう。

 例えば警察の場合、それは誤認逮捕による無実の者に罪の汚名を着せる汚名、たとえ冤罪だと明るみに出ても、した側もされた側も、双方に簡単に消えない染みとして残留する苦い結果となる。

 特に勇夜たちは尻尾すら掴ませない謎の集団と、次元そのものを危機に陥れるロストロギアが相手なので、彼らも当事者の特定には慎重な姿勢で臨まなければならず、だから昨日はやてが有力候補に上がっても、今日ならばリンクたちの聞き込みやジャンバードの衛星カメラを使った市内の病院施設の張り込みなどで、急かさず他の可能性の芽を摘み取っていったわけである。

 

「でも………」

 

 自分でもびっくりしている……はやてと、ヴォルケンリッターたちの組み合わせが、とてもしっくり来ているということに。

 フェイトには簡単に想像できたのだ―――彼女たちが一つ屋根の下で一緒に暮らしている姿―――を、あくまで自分の脳内の産物だというのに、実際にそれを目にしたかのようにイメージははっきりしていた。

 車椅子必須な身ながらも朝食の支度をするはやて、それを手伝う風の癒し手シャマル、ソファーで朝刊を読む烈火の将シグナム、狼の姿でうつ伏せに脚を崩す盾の守護獣ザフィーラ、寝ぼけながらもどうにか起きてきた紅の鉄騎ヴィータに久遠に、そしてグレンファイヤー(人間体の姿は髪がオレンジな如何にも不良っぽそうなヤンチャ小僧をフェイトはイメージした)。

 他にも彼らの団欒のシチュエーションが、いくつもフェイトの脳内で閃いてく。全て自身の妄想の産物でしかないのに、余りにイメージが具体的で強烈過ぎて、頭が『闇の書の主ははやて』と勝手に確定しそうになり、理性で必死に先走るなとストップを掛ける有様だった。

 だけど、もしこの想像が現実にあったものだったとしたら……管理局からは『心を持たぬ、主に選ばれた人間の傀儡』としか認識されていなかった騎士たちと戦って感じた、彼女らが〝人そのものな心を持つ〟存在に生まれ変わった事実に説得力が補強される。

 

「………不思議と、納得できちゃうんだよね、主がはやてだって」

「アタシも……えらくぴったりと来ちゃうのが怖くなるくらいさ」

「俺もだよ、やけにはっきりと暮らし様をイメージできちまうからさ………余計に、外れてほしいって………願ってる自分がいる」

 

 鮮やかな夕焼けの光景に反して、その日の光を受ける者たちの顔は暗い。

 

「フェイトやあの子くらいの歳の俺は、もう色々荒れててさ、イライラ体ん中に溜めこんでは、誰これ構わずに不満撒き散らして迷惑掛けてばかりだった、挙句に馬鹿やって国外追放………………一方ではやてなんて、親御さんがいなけりゃ、足もまともに動かないから学校もいけねえ、いけねえから友達ができる機会も恵まれねえし、治って歩ける見込みもないってのに…………………………………なんでそんな子が、宇宙を丸ごと消し飛ぶ火薬庫(ロストロギア)を抱えなきゃならないんだよ」

 

 彼らしい表現で、勇夜は一同の顔を暗くさせる感情の中身を吐露した。

 異世界の巨人たるグレンや妖怪と呼べる魔源種久遠が〝地球人〟として生活している。

 魔力とプログラムが人、または人に近い形に構成しているに過ぎなかったヴォルケンリッターが、〝人間〟として生きている。

 そんな彼らと、一緒に日常を送っているのが―――八神はやて。

 その可能性がどんどん強まるにつれて、そうであってほしくない感情もまた秒ごとに強みを増していった。

 まだ彼女とは、面識が多いと言えない……いやむしろ少ないからこその、切実な―――願い。

 

『マスター、フェイト、お気もちを沈んでいるところ、申し訳ないのですが…』

「あっち、見て」

 

 海に背を向ける格好だった勇夜とフェイトは、リンクとアルフが示した舞台でいうところの上手側の方向に目を向ける。

 

「おい……冗談だろ?」

 

 驚きと戸惑いで、二人はその不意打ちを前に体が硬直してしまった。

 これは神様のきまぐれか? 

 それとも悪魔の純然たる悪意に満ちた悪戯なのか?

 噂をすれば、何とやら……な状況下であった。

 こちらから大体三十メートル先に、彼らの談話の中心にいた八神はやてが、そこにいて、勇夜たちと視線を合わせていたから。

 彼らの心情に応じているのか、海から吹く潮風が少し強くなる、その大気の波にはどこか、不吉さが入り混じっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だんだんと空がオレンジから紺色へと変色し始めていく時間にて歩く二人連れがいた。

 

「無理やり付いてきちゃって、ごめんね光兄」

「いえ、お気になさらず、今レイジングハートもおりますからね、『私がいれば御神の剣を存分に使えるでしょ』と言ってきた時は策士だと唸らされましたけど」

「にゃはは」

「ですが、暗くはなってきているので、一応手は握らせてもらいますよ」

 

 予め前置きをして、義兄(あに)は義妹(いもうと)の手を握った。

 

「あ……」

 

握られた妹の方は、すんなりと受け入れたものの、両の頬に赤味を宿らせる。

 

「なのは?」

「ちょっと、冷えてるだけなの……さあ、行こう」

「はい……」

 

 と、軽い(?) やり取りを交わしながら、高町兄妹はある場所へ向かっていた。

 やがてその目的地に辿りつく。

 

「ここの並木道だったよね? 待ち合わせ場所」

「ええ」

 

 目的の場所は高町家から近い距離にある大型公園、藤見北公園、彼らも朝のジョギングコースとしてよく使っている公共施設だ。

 敷地内には、イチョウの木たちが植えられた幅が約十メートルある並木道が敷かれている。冬なので通りは枝から落ちたイチョウの葉でびっしりだ。

 二人がその道を進んでいくと。

 

「お待たせしました」

 

 木々の間に設置された脚部は曲線と金属でできた木製のベンチに、女性が一人座っているのを目に止め、光は彼女に声を掛ける。

 金色の髪をした女性は、高町兄妹に目を向けながら立ち上がった。

 

「すまない、急な呼び出しをして、迷惑をかけた」

「いえ、こちらこそ狼狽が鎮まったところお詫びしますが、用件の前に一つ聞いていいですか? 恐らく関係あることなので」

「相分かった」

「先程、私の友人がたった一人でいた小学生の女の子を保護したのです、その子は足が悪く車椅子で、関東暮らしながら京言葉に近いニュアンスの関西弁を使う子でした」

 

 光からの言葉に、女性――久遠ははっとした表情を浮かばせた。

 

「単刀直入に言います、その子の名前は八神はやて…………あなたとグレンたちのご家族で、闇の書に選ばれた、現行の主…………ですね?」

 

 

 

 

つづく。




最後に出てきた並木道のモデルは、平成ライダー一期のロケ地がモデルです。
特に剣最終回で、始が剣崎の幻を見てしまう場面と言えば、思い出す人もいるでしょう。

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