ウルトラマンゼロ The Another Lyrical Story 第一章   作:フォレス・ノースウッド

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リンクの人間体のイメージCVが甲斐田さんでアイスクリーム。
マリーダさんを思い浮かべた方もいるでしょう。

はい、思いっきり狙いました。


STAGE37 – 恋の好敵手

 海鳴市、中心に位置する鳴宮町(なりみやちょう)のデパート内、女性用化粧品がメインに置かれているフロアにて。

 

「すみません、ちょっとお尋ねしたいことがございまして、少しお時間を頂けますか?」

「は…はい」

「この子の家族を探しているのです、姉二人と来ていたそうですがはぐれてしまったらしくて、一人は背は170近くで、長髪でポニーテール、こう横から後ろに掛けて髪の一部を三つ編みにしてて、丁度あの化粧品のポスターの芸能人のような吊り目の美人で、もう一人の方は淡い金髪のボブカットで少しタレ目、幼稚園の保母さんみたいらしいのですが、この辺りでそれらしい人は見かけませんでしたか?」

「そうねえ……ごめんなさい、覚えはないわ」

「お時間を取らせて申し訳ありません」

「迷子センターに寄って、ご家族さんを呼んでみたらどうかしら?」

「そうしたいのは山々なのですが、本人が恥ずかしがって嫌がるんです……ほら、そうあんまり抱きつかないで、不安なのは分かるから」

 

 金髪な白人系の女の子を連れた見た目10代半ばで、前髪をサブカル用語のいわゆる姫カットで切り揃えた黒髪ロングのクールビューティ系な美少女が、この通り通行人にものを尋ねていた。

 

「(外はどうですか? アルフ)」

「(今のとこあいつらの姿形は見ないし、匂いも感じないね、そんな余裕ないんだろうけど)」

「(念の為です)」

 

 彼女たちがどこの誰かは直ぐにお分かりになった筈。

 黒髪の少女の方は、女の子な自我が芽生えたウルトラマンゼロの相棒、普段は彼の左手に付いている腕輪、リンクことウルティメイトイージス。

 一応ゼロの体を借りて女体化したこの姿の名として彼女は、《菱海ユリヤ》と自ら名付けていた。

 金髪の女の子の方も、正体は勿論フェイト……であるのだが、彼女も魔法で若干姿を変身させている。体格はほぼそのままに、髪型も前髪の分け目から髪質、色の濃さまで変えて、一目でフェイトだと悟られない様変装している格好だ。

 こうまでして二人がやっているのは、勇夜たちも毎日市内でやっている聞き込み調査の一環である。

 

 

 

「お釣り70円のお返しです」

「ありがとうございます」

 

 で、今はその調査の小休止。

 デパートの敷地内にある地面が石畳なオープンテラスの広場、そこで営業している移動販売車型のスイーツ店からユリヤは注文したスイーツをお釣り金と一緒に受け取り、フェイトと子犬フォームが待っているテーブルへ行き。

 

「はい」

「ありがとリン……じゃなかったユリヤ」

 

 フェイトご希望の、そのスイーツ店ではやや値段高めだが看板メニューな焼きプディングクレープを手渡した。焼き目が付いたプリンをクレープ生地が逆円錐状に巻かれ包まれている。

 一瞬フェイトが〝リンク〟と言いそうになったのはご愛嬌。彼女の本名ではあるが、如何せん日本人的風貌な今の彼女でこの名では、ネットスラングの〝DQNネーム〟な感じが拭えない。

 そのユリヤは、抹茶味のジェラートアイスだ。

 

「(いいな~~~)」

「(ごめんね、今度来た時に買ってあげるから)」

「(どうにかそれまでには我慢するよ、子犬設定な今のあたしにゃお菓子厳禁だからさ)」

 

 アルフのおっしゃる通り、犬は雑食性なのだが、糖分が多いお菓子はお勧めしない、特にチョコはご法度、最悪心不全を起こして死んでしまう。

 肉食獣な狼の使い魔なアルフにはそんな心配はないのだが、人間体や狼形態はともかく子犬フォームな今の姿では、下手に人前で犬に禁物な食物は食べさせない方が良い、事情を知らない愛犬家な通行人から口うるさく言われる恐れもあるからだ。

 狼とか狼としての誇りとか言ってるけど、勇夜に会うまではドッグフードを躊躇いなく食べてたそうじゃんか、なんてツッコミが来そうだが、そこは置いといてくれ。

 

 子犬フォームなアルフに断りを入れ、フェイトはクレープを頬張った。

 お……美味しい。

 翠屋と並んでタウン雑誌のスイーツを扱ったランキングの上位に入るほどの人気店らしいが、その看板メニューはフェイトの舌に甘味の快感を押し寄せ唸らせる。

 翠屋で初めて食べたパフェもフェイトには感動モノの体験を味あわせてくれたが、それと同様の域だった。

 初めて………翠屋で、それが切っ掛けであの日のことを思い出した彼女の顔が火照り出し、動悸が強くなり出す。

 ああもう、と己が身に言いたくなる。勇夜と二人きりで街を歩いたって記憶だけでどうしてここまで体が反応しちゃうのか、未だ恋への免疫も抗体も中々できない自身が少し恨めしかった。とは言ったが、朝方のように過剰に症状が出なければ、この感覚も悪くは無いとも思っている。

 けど人前でこの体たらくは余計に恥ずかしく、少しでも気を逸らそうと目線を移動させる。

 デパートの出入り口から出たり入ったりする人々。

 広場で休憩する家族連れ、はかのスイーツ店の商品を食している人たちも多くいた。

 その中に―――

 

「(何か見つけたのかい?)」

「今……勇夜の義妹(いもうと)にそっくりな女の子がいたの、ショートカットな下の子の方」

「(へ? どこどこ? どこだい?)」

「(見えなくなっちゃった、気のせい…だったのかな?)」

「(とは言い切れません、ミッドチルダにマスターの実母と容姿がそっくりで同じ名も持つクイント様がおられるくらいです、こちらでもパラレルの同位にして異なるそっくりな方がいないことはないでしょう)」

 

 喧騒の中に消えた女の子は、二組の家族と一緒に居たのだが、その中には彼女と親友らしきオレンジ髪の同い年の子も実は居た……のだが、この話はもうお開きにしよう。

 代わりに、ユリヤことリンクたちが今行っている調査の説明に入る。

 今まで勇夜たちは、主に中心市街から比較的離れた地域をまず見回っていた。

 関東スーパーが市内に複数バラバラに点在している事情もあったのだが、市街地に行くほど、人も多くなる一方で、居住型の建築物が少なくなる為、いくら騎士たちの目撃証言があったとしても、主たる地球人の住居の断定はおろか、地区の特定さえ簡単ではない。

 今日わざわざ市街地の喧騒の中に身を置いていたのは、まず騎士たちの〝日常〟での動向の確認が目的。

 ただでさえ、守護騎士たちは日本の社会では目立ち過ぎる容姿、一度でも目にしていれば、道端で擦れ違う程度でも暫く記憶には残る。なのに通行人たちの反応を見るに、魔法を伴わない〝日常〟における遠出はここ最近なさそうだ。

 書の主と御近所な人に巡り合える可能性もあったが、残念ながらその幸運は微笑んではくれなかった。

 でもそうなったらその近所の人間に怪しまれるのでは? なんて問題も出てくるが――

 

「(今日は助かりました、警察官でもない私たちが彼らの真似事をするのは結構目立ちますから)」

 

 件の問題をある程度解消させたのが、フェイトが提案した《迷子作戦》。

 わざわざフェイトが変身魔法を使ったのは、できるだけ外見を少女姿の久遠に近づける為であり、『はぐれてしまった家族を一緒に探す』振りをして聞き込み調査をしようとしたのだ。

 フェイトが一晩と、朝の訓練中マルチタスクを応用して考えて思いついたアイディアは効果的だった。

 フェイトの熱演もあって、勇夜たちが聞き込みの際、探している人物たちから――ヴォルケンリッターとの関連性を逆に質問された際も上手く誤魔化すことができていた。

 

「(ど……どうも)」

 

 彼らに代わり笑みを浮かべて礼を述べるユリヤに、フェイトはというと少しよそよそしい態度で返した。

 どうしてなのか分からない。〝菱海ユリヤ〟の姿で現れてから、妙にもやもやとした気持ちと一緒にリンクを妙に意識してしまう。胸を押しつける気持ちの中には、不安すら混じっていた。

 確かにリンクは、勇夜といつも一緒にいるけど。

 

〝いつも一緒……………いつも………一緒……………いつも、いつも、いつも二人きり〟

 

 もやもやとした心情が、より強い圧迫感となって現れる。

 

〝嫉妬……これは嫉妬なの? この気持ちの正体は嫉妬? 私はこの人に妬いているの?〟

 

「(フェイト? 何か胸がこうもやもやするんだけど)」

「(何でもない……何でもないよ)」

 

 自分は、いつも勇夜と一緒にいるリンクに妬いているの? 自分が勇夜に対して抱える彼絡みの願望、求めてやまないものを、持ちあわしている〝相棒〟への妬みなの?

 自分と勇夜が会う前から、いつも彼の腕の中に嵌り、どんな時でも彼の傍に居て彼を支えて………勇夜にとってはずっと一緒に戦い、過ごしてきた大事な相棒であるというのに、その人にこんな気持ち抱くなんて薄情者と自虐しても、彼女がどんな存在か言い聞かせようとする度に、もやもやは膨らんでいく。

ユリヤの姿な彼女に目を向けると、そのわだかまりの濃度がより濃くなった。

 リンクは今、購入した抹茶アイスを食べているのだが、何と言うか……とても美味しそうに嬉々として舌でアイスを舐めている。

 大人びた見た目と反対に、食す姿が無邪気な子どものようで、女子なフェイトでも眩いと感じる美貌と相まってそのギャップがカワイイ、とフェイトは見てそう思ってしまった。

 ズルイ……僻みな気持ちへに嫌悪もありつつ、どうしてもこの言葉がこびり付いて離れない。

 嫌らしい子だ………と、フェイトは自身の悪癖で己を僻ませた。

 

「どうなさいました? そんなどんよりとした顔して」

 

 と、ユリヤが聞いてくる。まさか彼女に妬いていたなんて言える筈もなく、数刻ほどどう返答するか困るフェイト。

 

「そう簡単に……騎士の居所なんて見つからないよねって思ってたの」

 

 咄嗟にそれらしい返答してはぐらかし、上手く会話の内容を別方向へと。

 

「ところで、美味しそうにアイス食べてるよね、好物なの?」

 

 どうにも無理くりな感じでもあるが、話題はどうにかフェイトの思惑通りシフトする。

 

「はい、マスターが外見年齢で小学校低学年くらいだった頃、クイント様と買い物にいった際、アイスを購入なさってもらって」

 

 当時、リンクは〝味わう〟という概念に興味を持っており、勇夜の了承を得た上で、彼の味覚を一時共有してもらったのだ。

 その時初めて味見を体験したのが、アイスであったわけである。

 初というだけあり、舌が知覚する冷たさと甘味の二重奏に惚れ惚れし、以来彼女の好きな食べ物となった―――との経緯を聞いている内に、他の話題にすればよかったと、フェイトの口が若干の悔いの味で一杯となる。

 話してるリンクは、無意識であろうが顔も声色も、身振り手振りといった仕草から何まで、とても生き生きとしていたから。

 きっと……アイスの経験以外の話でも、勇夜に関連するものはこうまで水を得た魚と化すだろう。

 ほんと……ズルイ人だ。

 けれど、一転して彼女の心中のもやは、段々と霧散していく。

 清々しいまでに、リンクの勇夜への気持ちを見てしまったからだろうか?こうまではっきり示されれば、嫉妬なんて気持ちが払わされて受け入れられる踏ん切りが、意外にあっさりついてしまった。

 やっぱり……この人も、私と一緒なんだと、逆に安心してしまってる。

 だから次の言葉が、自然とフェイトの口から流れ出た。

 

「好きなんだね、勇夜――ゼロのこと」

「へ?」

 

 フェイトの一言で、リンクの顔が素っ頓狂な形に固まり、続けて相手の発言の意図を理解した彼女の顔はみるみる赤くなる。

 

「あのフェイト……あなたのいう〝好き〟という意味は、もしかして」

「ん? 〝そういう意味〟だけど♪ 何?」

 

 なんて明言を避けて返したフェイトの顔は満面の笑顔、とてもついさっきまで妬いていたとは信じがたい晴れやかさ。

 

「弁解するようですけど、確かに私はマスターを慕ってします、でもそれはフェイトがおっしゃる意味では―――」

「気を遣わなくてもいいから、きっと誰だってどうしようもなく誰かを好きになっちゃうんだよ?」

「あ……ですから……私………私は……」

「勇夜は今あなたの中にいて聞いていないから、お願い、私たちに正直に見せて、リンクが〝女の子〟なところ、良い機会だと思うから」

「…………」

 

 聖母にも似た慈愛と微笑みに満ちた顔つきなフェイトの〝お話〟に、もう無理に否認して引き延ばし続けるのも限界だと即断したのか、火照りに火照って赤くなった顔を掌で半分覆わせたリンクは。

 

「はい……好き………です」

 

 ずっと胸の内に秘め続けていた自らの思いを、さらけ出した。

 体をもぞもぞと動かして、ウイルスへの抵抗によるものとは異なる全身を覆う恋慕の熱にうなされそうになる身を悶えさせて……それを見た二人は、内に留めてはいたが、相手と同じ女子ながらその姿が愛らしいと感じていた。

 なんと恐ろしい子だろうか……同姓でさえこうもときめかせるのだ、この場に男が一人でもいたらどうなっていただろう?

 さてと、こうしてリンクは乙女振りをカミングアウトしたが、こういうのは自分では隠し通せていると思っていても、実状は当人の思い込みで、意外に他者には丸分かりであったりする、なぜなら――

 

「(やっぱりそうだと思ったよ)」

「(気づいて……おられたのですか?)」

「(普段のあんたは、お堅くてクールで、バリバリの秘書官って感じのオーラを出してんだけどさ、さっきみたいなあからさまってほどじゃないけど、前々から勇夜絡みとなると、素直ってかほっこりというかさ、色々柔らかくなるんだよね)」

「(アルフ! あ…あれは……)」

 

 ここまで見抜かれていたのでは、弁解の余地がない。

 そんなもので、片やフェイトの慈愛一杯、片やアルフの二ヤけとからかい半分な発言に、リンクは全く言い返せず仕舞いだった。

 

「続きは、アイスを食べてからにしてもらえますか?」

「うん」

 

 時間を掛けると溶けてしまうアイスを食べている最中な上、一度落ち着かせる時間も兼ねて一旦話を置き、各々スイーツを食べ終えた後、内容も内容なので認識阻害の結界も展開させて再開。

 

「いつごろからなの? 自分の気持ちに気づいたのは」

「はい……」

 

 何度も今までやってきたが、改めてリンクは無意識に黒い長髪をくるくると弄らせて反芻する。

 なぜ、勇夜ことウルトラマンゼロが単に自らの担い手たる我が主、なだけでない……それ以上の熱い感情を持つに至ったのか、その理由を探ろうとする……が、今またそれを見つけようと潜っても。

 

「分からないのです、何度記憶を探ってみても……具体的に何が切っ掛けであの人にこのような慕情を抱くようになったのか」

 

 逆に考えるほど、勇夜がリンクに対して口にした一言一言が、彼女にとっての〝殺し文句〟と化して行く。

 フェイトに負けじと、リンクもかなり重めな恋煩いを発症していた。

 

「ただ……」

「〝ただ〟?」

「その気持ちに私自身の性質が絡んでいるのは、はっきりしてまして……」

「(リンクの……せい…しつ?)」

「(私には、鎧となってマスターに力を与える、大量の情報を記録、インテリジェントデバイスの代行、次元転移といった能力の他に、パンドラの箱とも言えるある特質を持っているのです)」

 

 パンドラの箱。

 フェイトとアルフは異世界のミッド生まれだが、リンクの使ったこの言葉が何を意味するか一応知っている。

 ギリシャ神話に登場する絶対に開けてはならない禁忌の箱を喩えに使うまでに、彼女自身が持つ特質とは?

 

「私は、マスターだけでなく……あらゆる知的生命体の感情、いわば意志を…………エネルギーに変える力を持っているのです」

「「………………」」

 

 最初は、意味を測りかねたがゆえの沈黙であった。

 が、それはほんの少しの間を経て、理解したがゆえの呆然の黙秘へと変わった。

 意志、それは人どころかあらゆる生命にとって切っても切り離せない概念。

 余りに近すぎて、身近にあるものと意識が向かないくらいに近しく、生物が生物たる重要な存在。

 リンクはそれを、〝エネルギー〟に変換できると言ったのだ。

 魔法にも、その意志によって効果を強める性質があるが、この場合、せいぜい〝意志〟は魔力を燃やして発動させる魔法という名の火を強くする為に必要な可燃物、火種となる魔力が必須。

 対して、生み出されるものの中身や量のことは別として、魔法ですらせいぜい補助止まりなものが、彼女にかかれば多大な力を生む源泉となる。

 

「ある程度、強いものでなければ……変換できませんし、マスターが充分にお強いもので、今のところ、使う機会はなかった、のでは…あるのですけど」

「(勇夜は……このこと知ってるの?)」

「(無論、マスターにもお伝えしています)」

 

 カミングアウトした本人はこう付け加えたが、それでもなお天地をひっくり返し、彼女がパンドラの箱と表するだけの衝撃はあった。

 まだ数えられる程度の年数しか生きていないフェイトたちでも、世界のバランスを壊しかねないと考えるに至れたからだ。

 

「こんな物騒な身の上でしたから、実を言うと、内心自分が怖くてたまらなかったです……ただでさえ、生命体とも……ジャンボットのような心ある機械とも言えない身というのに」

 

 乾きのある笑みと一緒に、独白めいた調子でリンクは腕にある〝自身〟を見つめながら呟いた。

 本人が言うように、彼女はどの特定のカテゴリーにも当てはまらない曖昧な存在だ。

 有機生命体とは当然言えず、普段腕輪の姿、真の姿も鎧に弓矢になる複合武器であるので、一般常識なら無機物……であるのだが、誕生経緯を踏まえると、モノとして見るにも怪しい。

 まさにブラックボックスの塊、ウルトラマンノアの力と人々の希望が集まって生まれた時点で、そもそも人の常識で図れるものではないのだろうが。

 

「でも、勇夜はそんなの、気にしなさそう…だよね」

 

 勇夜――ゼロの 交流関係をざっと洗ってみても。

 ともにイージスを探す冒険をしたのは、開拓民族なランとナオ兄弟と、王家の姫君なエメラナ。

 自身が創設したチームにスカウトしたのは、二次元世界の騎士、炎の海賊用心棒、AI搭載の宇宙船兼ロボット。

 彼からはどちらも異世界人なユーノになのは。

当人はいけ好かないと言いつつも、その組織に属するハラオウン親子らアースラチームに、おやっさんことゲンヤ・ナカジマ率いる陸士部隊らには頼りにし。

 家族関係にしても血縁なら父はウルトラ族、母は地球人、ミッドでの義理の方でも妹たちはサイボーグ。

 そして使い魔なアルフ、クローンなフェイト。

 人種がバラバラで、中には出自に訳ありな人々がこんなにも多い。

 

「ええ、マスターは基本、出自、種別、立場、境遇などと言ったしがらみに拘らず、左右されないお人で、誰に対しても対等に接します、昔は目上の人にもタメ口上等でしたし………私の能力を知っても、特に気負いせず接してくれました………」

 

 そう口にする内、ああ……だからかとリンクは気づく。

 特定の存在に定義し難い自分が、勇夜に思い慕うようになった切っ掛け………彼と一緒に居る日々そのものだったのだと。

 どうりで記憶を小粒に探していても、これと呼べるものが見つからなかったわけだ。

 ほんと、我がマスターは罪作りでセブンの息子なウルトラマンです。

 

「でも……いいの? その気持ち……勇夜に伝えなくて」

「ふふ、よくそんな質問ができますね、私は言わばあなたの〝恋敵(ライバル)〟でもあるのですよ」

「あ…」

 

 思わず投げた質問の球の意味を返されて、フェイトは返球に詰まってしまう。

 そう、リンクはフェイトにとっては恋のライバル同然、それにさっきまで彼女はそのライバルに妬いてもいた。

 フェイトの生来の人の良さを顧みれば、前述の投球も納得だが、これではリンクに皮肉な返しをされるのも無理ない。

 

「でも……ライバルだから、はっきりさせたいの」

 

 そしてフェイトの中にある負けず嫌いな気質から振りしぼった言葉を、負けじとどうにかさらに投げ返す。

 どうしても聞いておきたい、リンクから直に打ち明けてほしいのだ――フェイトの偽りはない気持ちを受け取ったリンクは。

 

 

「そう…ですね、私は――――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 実はこの時、一種のニアミスが起きていた。

 三人からそれほど離れていない喧騒の中を、〝彼女〟が走り去っていたからだ。

 しかし、フェイトたちは勿論、〝彼女〟もある事情と状況で、お互いの存在に気づくことはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時間と場所は移り……冬至は迫っているのもあって、日の出る時間が短くなっていくのを感知させられる気の早い日没へのカウントを告げるオレンジの空が現れる夕方。

 義妹のなのはとバトンタッチする形で、午後を翠屋での接客業の手伝いをしていた光は、お客が軽食に使った皿たちを洗浄していた。

 マメな光の人柄によるのか、彼に洗われた食器は擦ると良い音が鳴りそうな テカり様である。

 

「(光、今時間がとれるか?)」

「(仕事中ですが、どうぞ)」

 

 従事中の彼の脳内に、テレパシーでナオトの声が伝達された。

 ナオトことジャンも、生命体、マシン問わずテレパシーによるコミュニケーションができる機能を持っている。

 繰り返すようだが、空気のない真空での会話にはテレパシーが絶対欠かせないからだ。

 

「(無限書庫のユーノから朗報があった、〝闇の書となってしまった魔導書〟の詳細が記された史料が見つかったそうだ)」

「(その言い草を見ると、ウルトラマンノアの言う蔑称の話に信憑性がとれたようですね)」

「(詳細は海鳴に戻ってからのことだ、仕事が終わったら臨時本部のマンションに来てくれ)」

「(分かりました、そちらの張り込みの状況は?)」

「(衛星カメラを通じて、市内全ての大型病院施設を見張っているのだが、グレンや騎士らしき人影は確認できてない……私が気づいていないだけでカモフラージュされている可能性もあるが)」

「(結界が使われている形跡は?)」

「(そちらも発見できていない、湖の騎士ならそれぐらい造作もなさそうではあるが………それはそれとして光、インペライザーたちへの対策は考えているのか?)」

『(ご心配なく、我が主は対抗策のプラン自体は、既に考案しています)』

 

 本人に代わって、光の右腕に嵌められている二次元人の紋章が形作られた腕型待機形態の彼のデバイス、シルバーライトが答える。

 しかし、どうしてこうも声優役者に酷似した声の持ち主たちが集まるのか?

 ゼロたちウルティメイトフォースゼロ然り、フェイトたち然り、シルバーライトも天の道を行く仮面戦士を演じた俳優主演で実写化もされる〝あくまで執事〟な執事を演じたこともある男性声優にそっくりな声持ちである。

 

「(確実に成功させる為の訓練は、必須ですがね)」

 

 あくまで執事の声にエコーを上乗せした愛機の一言に付け加える形で、光が応答した矢先に……その声が響いた。

 

 

 

 

 

 

〝頼む! 聞こえるのなら返事をしてくれ! 今頼れるのはそなたらしかいないのだ!〟

 

 

 

 

 

 

 声色からして泣きそうなのが分かる、悲痛さに染まった……縋るような〝彼女〟の声が―――

 

 

 

 

 

 

つづく

 


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