ウルトラマンゼロ The Another Lyrical Story 第一章   作:フォレス・ノースウッド

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STAGE20 - 温泉に行こう 後篇

 ドジっ子お姉さん―――もとい風の癒し手シャマルのドジ列伝の頁が新たに刻まれたことが幸いとなり、本日オープンしたての『スーパー銭湯 なるみの湯』へ行くことなった八神家の面々。

 

『次は――中央公園前―――中央公園前、お降りのお客様は、バスが停車するまで、席をお立ちにならないでください』

「えーと、今は海鳴中央公園辺りなんやから、降りるとこまでは――」

「ここから4つ目の停留場ですね」

「ありがとなシグナム」

「(よかったよな、銭湯がバス停の前に建ってて、また暑苦しい中長いこと歩かずに済んだ)」

「(私ならみんなの体温調整くらい、簡単なんだけど)」

「(このような真夏日に、我らだけ汗を微量も流さずに外を出歩いていたのでは、通行人に怪しまれるぞ)」

「(それにわたしらだけ魔法で涼しい思いをするのも、何やズルイ気もするしな)」

 

 なるみの湯がある地区行きの海鳴地鉄バスの車内にて、一家一同は目的地に着くまで雑談をしながら、内心温泉の癒しを待ち遠く揺られていた。

 今回は一家総出ということで、ザフィーラも海鳴での生活に入ってからはお見えになるのが少なくなった人間体ではやてたちと同行している。

 当然、耳も尻尾も隠してある。

 服もはやてがこういう日の為にと、事前に買い揃えていた。

 この日はシンプルな白い生地のTシャツと、ジーパンの組み合わせ。

 派手さとは程遠い出で立ちだが、彼の寡黙で謙虚な人柄にはしっくりと来る。

 

「(何やら、他の乗客からの視線を感じるのだが……)」

「(無理ねえよ、ムキムキマッチョで真っ黒な体と真っ白けな髪してんじゃな)」

「(人間モードのザフィーラって、消耗品傭兵軍団にいそうな出で立ちやからね、目立つと言ったら、紅蓮兄ちゃんもどっこいどっこいやで)」

「(そう言われてもよ、この髪は地毛だからしゃあねえじゃん)」

 

 八神家の守護獣が他の乗客から視線を受けてしまうのは、彼のその風体にあった。

 背丈だけでも185cmほどと大柄であるのに、黒色人種ほどではないにせよ褐色の素肌に、振れなくとも鎧に喩えられるほどな固く太く、血管が浮き出ている筋肉。

 肌の色に反して、脱色を施されたかのように真っ白で逆立った髪。

 逞しい肉体に負けじと、容貌もシャープさが際立つ男前な顔つき。

 はやての言う通り、アクションスターが傭兵役で多数出演する某映画劇中で機関銃を乱射してても遜色も違和感もない風貌である。

 彼だけでも相当目立つのに、彼の隣に座る紅蓮も、整われた顔立ちだが、名の通り燃え上がる紅蓮の如くオレンジがかった髪に、ザフィーラより細身だが筋肉に覆られた二の腕に、いかにも不良というかガキ大将的な容姿。

 ここまで目を引く見てくれだと、視線を浴びさせてくれと、主張しているようなものだった。

 ところで、『あれ?』と感じられた方もいるだろう。

 ヴォルケンリッターたちと八神家に居候している、魔源種の妖狐は今どこにいるのだ?――と。

 実は彼女もちゃんとバスに乗車中である。

 どこかと言うと。

 

「くぅ~~~ん」

 

 只今の彼女は本来の姿と言える子狐形態の姿で、紅蓮の頭に乗っかっていた。

 八神家で本格的に住むようになってからは人間形態でいる方が多くなっていたので、久々に獣の姿での外出である。

 魔力を使った彼女特有の妖術により、周囲には紅蓮たち以外に認識はされないので、堂々とタダ乗りをやらかしていた。

 

「(重くはないのか? 紅蓮)」

「こん! くぅんくぅん!」

 

 テレビのバラエティ番組等で『ビシッバシッ』と効果音が付いてきそう感じで、ペシペシと小さな手でザフィーラの頭を何度もはたく久遠、どうも彼の『重い』という発言が、彼女の女の子としてのプライドに刺激を与えてしまったようだ。

 

「(不用意な発言だったな、すまない久遠、ただそんな長いこと乗って、紅蓮に何の重みも伝わらないわけではあるまい)」

「(俺は全然平気だぞ、むしろこいつの毛並みに滅茶苦茶気持ちいいんだよ、なあ? 久遠)」

「こぉんこぉん♪」

 

 言葉を発することができない子狐モードでも、嬉しそうなのは明白な頷きようだった。

 彼女の現在の感情を示す代弁役とも言えるふさふさとしたさつまいも状の尻尾も、喜怒哀楽なら『喜』と『楽』に相当する意味合いな、円月を描く360度フル回転。

 完全に紅蓮の頭は彼女の特等席と化していた。

 

「(あ~~~もう一回はくうちゃんに頭乗ってもらいたい)」

 

 お互い最良の形で、頭に乗る、乗られる関係を築いているそんな二人に、はやては指をくわえながら羨望の眼差しを送っていた。

 紅蓮の頭部が久遠の特等席になり、肩車ならぬ頭車となったのは、彼女が八神家に出入りするようになった時期、はやてが小学生なら三年時の頃に遡る。

 

 

 

 八神家の義兄さんは、毎朝近所の河川敷をコースにジョギングを行い、度々家に向かう久遠が彼と鉢合わせて並走することが多かったのだが、ある日のこと、久遠が子狐時の自分の体が丁度紅蓮の頭に乗っかれることに気づき。

 

「こんこん、こん」

「俺の頭がどうかしたか?」

「こぉん!」

 

 まず彼の頭を指差し、ジャンプして飛びのるジェスチャーをして要望を伝える。

 

「ああ、乗りたいってか?」

「こぉん♪」

 

 既に久遠が人間に変身できることは互いに了解していたが、彼女は敢えて喋れない姿でどこまで気持ちを相手に伝えられるかと試し、ちゃんと伝わったことの喜びを、体をぴょんぴょんと跳ねて表現する。

 で、紅蓮の承認を得て、ひょいっとジャンプしてオレンジ色に染まった後頭部に飛び乗った。

 

「くぉ~~ん……」

 

 その時、いくらなんでも誇張しすぎじゃ……と呆れるかもしれないが、久遠当人にとっては、中々言葉で表現できないまでに、舞い上がるかのような快爽たる乗り心地を感じたそうだ。

 以来、闇の書の起動と同時に本格的に八神家に居候し、人間形態にいることが多くなってからは減ってはいたが、子狐の姿でいる時はちょくちょく紅蓮の頭に乗っかるようになった。

 他の八神家の面々はと言うと、一回だけお互いの了承のもと乗ったことがあったが、久遠曰く。

 

「やっぱり……紅蓮の頭が、一番」

 

 と―――不評とまでは言わずとも、イマイチだったようである。

 子狐姿の久遠は、それはそれは一目見ただけで老若男女問わず魅力に憑りつかれてしまう愛らしさと魔性を秘めているのもあって、彼女を頭に乗せる行為が半ば紅蓮の特権と化していることが、はやてにとっては羨ましい限りであったわけである。

 

 

 

 

「(あたしらにも一度だけ乗ってもらったけど、やっぱ紅蓮の頭(てっぺん)が一番の乗り心地だって言ってたな)」

「(主、久遠とは日頃からじゃれあう仲ではありませんか、彼女の整われた毛並みをいつも撫でて堪能なさってますし……………その……尻尾や……胸にも、マッサージという形で……)」

「(そうなんやけど…やっぱりお兄ちゃんばっかり堪能して、ずるいわ)」

「(だからその分久遠の乳揉みが一番力入るわけね)」

「(あはは…当たりや)」

「(今日は控えるよう善処願います、さすがに同姓相手でも、大勢を前に……喘ぎ声は、はしたなく映るでしょうから)」

「(は~い、気付けますわ、ところでシグナム、顔が赤いよ)」

「(気の…せいです)」

 

 そしてはやての場合、その代償行為として、一緒に入浴する時は胸を揉んではその感触をすみずみまで堪能してたりする。

 さすがに今回は公共の場での湯あみであるため、今回は胸揉みは実質〝封印〟と言うことになっている。

 

『次は――』

「あ、次のとこで降りるんやった、シャマル、降車ボタン押して」

「はい」

 

 そうしてバスは、ようやく目的地のなるみの湯のすぐ傍に立っている停留所へと辿り着いた。

 

 

 

 

 

「「「おぉ~~~」」」

 

 ほぼ全員が、感嘆の声を上げる。それほどになるみの湯は、彼らを圧倒させる規模の施設だった。

 建物は江戸時代頃の武家屋敷風で、目側だけでも、寝殿造りの貴族屋敷並の敷地面積を誇っており、塀に屋敷門まで作られている有り様。

 中に入ってからも驚きは続く。靴箱に各々の履物を入れて受付ロビーに入ると、開店当日で特別料金で入浴料は安くなってるとあって大勢の人だかりができていた。

 今日は休日なので、家族連れが大半。

 

「それじゃ入り終わったらロビーに集合な」

「おう」

「分かりました」

 

 当然ながら男女別に別れ、はやてたちは温泉と脱衣所に繋がる暖簾をくぐっていった。

 

 

 

 

 

「えーと、私とはやてちゃんと久遠ちゃんのロッカーは、537、ここね」

「541番は、これか」

 

 縦長で二段重ねの木製ロッカーを、受付で手渡された鍵で解錠。

 念のためと、財布と言った貴重品は別の専用ロッカーに保管させている。

 施設内はスロープに車椅子置き場など、バリアフリーも完備されていた。

 できれば詳細に描写したいところだが、これ以上脱衣所内の場景は各々の想像にお任せする。

 ゆえにここから暫くはほぼ台詞のみの状態が続くが容赦願いたい。

 むしろ〝紳士〟なら、これくらい脳内に浮かばせるなど余裕だろうからな。

 

「へっへ♪ は~やくはいろ~~」

「こら、ここは家では無いのだぞ、床に脱ぎ散らかすな、他の客に迷惑がかかる」

「ちゃんと片付けんだからいいじゃんかよ」

「ここは公共の場だ、守るべきマナーがあるのだぞ」

「ぐっ……うだうだいちいちうっせーなうちのリーダーさんは」

「口うるさいと感じるなら、追及されるようなことをしなかればいいだろう、この生活に入ってから常々思っていたが、お前は少々ガサツが過ぎる」

「がぁーーーたくよ! バカでかいおっぱい抱えてるからって偉そうな口叩いて良い気になるなよ!」

「なっ!? なぜいきなり胸の話しになるのだ!!?」

 

 ヴィータからのセクハラ発言に顔を赤くしながら、ヴィータ曰く『バカでかいおっぱい』を腕で隠すシグナム。

 

「やたら胸にばっ~~~かり栄養送ってっから、心のスペースが狭くなってガミガミと口うるさくなるんだよこの爆乳魔人ナイト!!」

「ばっ…………ばっばっばっ――ばく……ばくにゅう……」

 

 シグナムの顔の肌色が、ほぼマゼンダ味がかかった赤に変色。

 その変化の時間は、一秒にも満たなかった。

 一瞬で鮮やかに顔全体の色合いが変化したのである。

 鉄騎からの追い打ちの口撃に、しばし烈火の将の口は体と一緒にあわあわと揺れていたが、怒の導火線に火が点いたのか。

 

「貴様そこになおれ! レヴァンティンの錆びにしてくれる!!」

「へっ! 上等じゃんか! そっちこそアイゼンの頑固な汚れになりてえか!」

 

 この場の流れを短い文で表現するとすれば、ミイラ取りがミイラとなった瞬間であった。

 待機状態のデバイスまで取り出し、額から稲妻を迸らせんとする勢いで睨みあうお二方。

 無駄に剣幕も規模も大きいが、その実スケールの小さい低レベルの極みな喧嘩があわや『公共の場』で起こりそうになったが――

 

「喧嘩はそこまで」

「いたっ」

 

 まず大人モードの久遠がシグナムの頭をポカンと叩き。

 

「そや、悪い子にはおしおきやで」

「んがぁぁぁ~~~~ふぁ、ふぁやてぇ~~~ふぅるしぃい――――」

 

 室内に置かれた藁椅子に腰かけるはやてはヴィータの鼻を指で強めにぐい~~と挟みこむ。呼吸の妨げと鼻孔の痛みで喧嘩を吹っ掛けた大人げない者の一人は呻き声を上げさせられた。

 

「うちの者が騒ぎを起こして申し訳ありません、申し訳ありません」

 

 シャマルはと言うと、周囲のお客たちに頭を下げながら、当人たちに代わって詫びを入れているところだ。

 

「(公共の場で何を取り出そうとしている、銃刀法違反で御用になるぞ、そなたらにとっては誇りの象徴でも、警察にとっては法を犯す凶器でしかないのだ)」

「(それにそんな格好で、二人ともはしたないわよ、シグナムの下着姿もそうだけど、ヴィータちゃんなんて丸○じゃない)」

「「…………」」

 

 久遠とシャマルの正論に、二人は落ちつかせるしかなかった。

 デバイスは当然ながら武器で凶器、おまけに地球では知られてないエネルギーで超常の技を使えるのだから物騒極まりない。

 それに、脱衣中に起きたアクシデントなので、彼女らは男が見たら確実に女性陣から破廉恥に変態呼ばわりされるあられもない姿である。

 大人げないにも程がある二人の喧嘩騒ぎは、大火になる前に少々の荒療治込みで鎮火された。

 ただし、まだ一度振り上げた拳が引っ込められずに小火が残ってるのか、シグナムもヴィータも未だ黙然と睨みあいの冷戦を続けている。

 

「いつまでもガン飛ばすのはやめやで、シグナムの注意に逆ギレしたヴィータも悪いし、リーダーやのに喧嘩買って煽り返したシグナムもシグナムや、喧嘩両成敗、二人ともちゃんと謝り」

 

 頭ごなしの激情任せではなく、かといって穏和過ぎない、静かさと適度に厳しさが入ったはやての諌めの言葉。

 

「リーダーをこ馬鹿にするような発言をして、すみませんでした」

「私も些細なことで熱くなりすぎた………すまない」

 

 これには二人も冷静となり、自らの大人げさなを内心反芻しながら、謝るのであった。

 さっきまで売り言葉に買い言葉といがみあってた両者は、はやてよりもずっと年上の筈なのだが、見た目を除けばはやてが保護者のように映ってしまう。

 純然たる地球人がはやて一人だけな事情もあり、八神家では普通の年功序列は通じない様であった。

 こんな一騒ぎが起きながらも、女性陣は女湯へと入室。

 まず体を洗浄させた後、まずは色々と効能があるというラドン温泉に入る一同、湯船がひのき製な多面体と少し変わった形をした風呂だった。

 

「なんてゆーか…怪獣みたいな名前」

「そやね」

「そうだな」

 

 まあ実際、同名の怪獣が映画の世界にいたりする。

 

「あ~~ええ湯加減や…」

「気持ち良いです~~~」

「生き返る気分なとこ水さしてわりいけどいいか」

「いかがしたヴィータ?」

「今までスルーしてきたけどよ、久遠……何だってこんな時に限って大人モードで入ってんだよてめえ!」

 

 今まで温泉だけにあっさり流してはきたが、ヴィータの言う通り、今の久遠は見た目二十歳前後な成人女性の姿、尾と耳は引っ込めているので、一見金髪の白人女性な容姿だ。

 肌は陶磁器のように白く、髪は宝石のように煌びやか、プロポーションもふくよかさと細さの調和がとれ、バストはシャマル以上、シグナム未満のサイズな、形の整ったスライム乳で、同姓も羨み、当然男性にもたまらない体つき。

 彼女がこんな絶世な成人女性の姿で浴してるのは、特に理由はなく、気まぐれというやつだ。

 実をいうと、久遠が子狐モードに認識阻害の術でバスにただ乗りをしてたのは、彼女が成人になった分嵩む金銭的負担――今日だと入浴料などの費用を抑える目的があった。

 

「何か問題でも?」

「大ありだよ! うちには無駄にスタイルのいい奴がいるってのに、お前までそっちのグループに入ったんじゃ、こっちは余計に肩身が狭くなるんだよ!」

「と申されてもだな、たまにはこの姿でいたい時もあるのだ、それに私のこの体を見て、他の女性客たちの美意識が育くまれることさ」

「育つとしたらな、あたしの場合は心の傷だけだよ、せめてもうちょっとスタイルの良さ落としてもいいじゃんか」

「そうしたいのだが、なぜか成人に近づくほどこうなってしまうのだ、そこは容赦願いたい」

「ぐぅ……男を誑かす悪魔な体つきしやがって………女狐め…」

「(私相手では文句にもならないぞ今の言葉は、なにせわっちはヴィータの言う通り―――人をあやかす〝女狐〟で、西洋では悪魔の化身な身でありんす―――うふふ)」 

 

 ヴィータの目じりは温泉と汗以外の液体で濡れ、ぼやきが口からこぼれ落ち、対して久遠は瞳を細め、妖艶なる小悪魔な笑みと視線と、とろける甘味の声に乗せられたおいらん口調で打ち返した。

 昔から容姿体型な自身にコンプレックスを抱いていた紅の鉄騎であったが、特に海鳴での生活に入ってからは、人間味が育まれたのも後押しとなり、他の女性陣の裕福なプロポーションを前に日々嫉妬と劣等感が蓄積されているヴィータである。

 

「は~や~て~~」

「分かるよ、ヴィータの気持ち、思いっきり泣きや」

 

 泣きどころを突かれて泣きついてきたヴィータを、はやてはハグして優しくあやした。

 この時ヴィータは、抱きとめてくれたはやてが聖母の如く眩いと感じたと言う。

 

「私も時々ぷるんぷるん実ったシグナムたちのおっぱい見ると、羨ましくなるねん」

「なぁ!? ひ…悲観することはないですよ、あなたには、その…将来…性が、ありますから」

「あたしにはその将来性すら絶望的なんだぞ…」

「私だって…」

「そう言うシャマルも充分ナイスなバディやんか」

「お褒めの言葉は嬉しいのですけど、この街で暮らすようになってから、シグナムと大人モードの久遠ちゃんには……微妙な敗北感とコンプレックスが…」

「シャっ…シャマル! お前まで…………それに大きければいいということでもないのだぞ、街に出れば嫌でも胸(ここ)に視線が集まるし、剣道教室の生徒の一部からは時に『デカパイ先生』と呼ばれるし、何らかの拘束力がなければ走ることすらきつい……」

「そんなの贅沢な悩みと一蹴しちまえ、はやてから大評判のおっぱいなのによ」

「なっ! それは――」

「なあどんな感触なんだ? うちのリーダーのギガっぱい」

「そやな、くうちゃんの柔らこくてもっちもちなんやけど、シグナムのはゴムボールみたいにぷにっぷにやねん、そこに触られて恥ずかしゅうなってがちがちに固まって赤うなるのがもう最高でな、ちなみにシャマルのは中間くらい」

「じゃああいつだとどんな触り心地になっかな?」

「〝あいつ〟とは…管制人格殿のことか?」

「ああ」

「思わぬ伏兵がいたことを忘れてた……」

「そら興味あるな、銀髪の美人さんとは前から聞いとったけど、どないや?」

「ええ、バストサイズではシグナムや久遠ちゃんに負けず劣らずですよ」

「ほ~~~~それだけでも実に触り甲斐がありそうや」

「はやて、手つきは軟体動物のようだぞ、このおっぱい星人め」

「あ、しもうた~~~今日だけはそう言われんよう心がけるつもりやったのに…」

「全女性の胸を侵略しようとするよこしまなおっぱい星人め、お前にはこれだ!」

 

 と、久遠ははやての歳相応より小柄な全身をくすぐりだした。

 この妖狐のやたら巧みな手つきによる快楽地獄で、大笑いを誘発されるはやてである。

 

「にゅひゃひゃひゃ――――、やめてwwwくうちゃんくすぐったいwwww!」

「今日は私が気持ちよくさせる番どすえ、心おきなく味わいなんし」

「ひゃ! その辺はいかんねんwww気持ち良過ぎてイクぅ――――イってまうーーーーーーーーwwwwwwwー!!!」

「シグナム、鼻を抑えてるけど大丈夫?」

「案ずるな……問題無い」

「ようには見えねえけどな」

 

 裸一貫ということもあり、今日は一段と色々オープンになる女性陣、その後も色々とはっちゃけたガールズトークは女性同士の長電話並に途切れずに続いたと言う。

 

 

 

 

 一方その頃男湯では、一通り体を洗い終えた男性陣がサウナで大量の汗を体から流す真っ最中。

 我慢比べの苦行とも言えるか、彼らの場合。

 もう何十分は熱風の利いた室内から出るつもりはない。

 異なる点として、紅蓮はサウナ内に設置されたテレビで番組鑑賞中。

 ちなみに今テレビ画面からは――

「『こいよベ○ット! 銃なんか捨てて、かかってこい! 楽に殺しちゃつまらんだろう? ナイフを突き立て、俺が苦しみもがいて……死んでいく様を見るのが望みだったんだろう? そうじゃないのかベ○ット!? 』」

 

――80年代のアクション洋画を牽引していた一人である筋肉もりもりマッチョメンなアクション俳優主演の《筋肉バカアクション》洋画が流れていた。このチャンネルはこの時間帯に映画を放送する事が多い。

 性分的にこの手の頭からっぽにして見られる娯楽作品が大好物な紅蓮は、案の定劇中の台詞丸覚えしているくらいこの映画に入れ込み。

 

『もう一度コマンドー部隊を編成したい、君さえ戻ってくれれば――』

「『今日が最後です』」

 

 今日の放送でもキャラと一緒に台詞を吐くくらい釘付けになって鑑賞していた。

 

 対してザフィーラは、腕を組んで目を覆い、いつもの寡黙さをキープしながら座していた。

 こんな二人の共通項は、やはり溢れる汗で灯りに反射されたことでてかり、その屈強さを際立たせている逞しき筋肉に恵まれた体躯。

 それこそ映画でしか滅多にお目にかかれないマッスルボディから発されるプレッシャーを前に、他の男性客はいすくまり、実質サウナは二人の貸し切り状態と化していた。

 

「(ん?)」

「(どした?)」

「(何やらシグナム達が何やら一悶着起こした気がしたのでな、恐らく発端は我らのリーダーと年少者だろう)」

「(あ~~あいつらならやらかしそうだよな、シグっちは最近自分の無駄にバカデカイ爆乳をどうにかしたい言ってやがったし、ヴィータはデフォなおこちゃま体型に前々からコンプレックスだったみてえだしな、絶対おっぱい絡みで喧嘩してっぞ……それに久遠もボインな大人モードだし、トークのネタに上げられてんだろうな、二ヒヒ)」

 

 全く以て二人の予想通りである。実際前述の脱衣所での一騒動を良い歳したどころでない二人がやらかし、歳下の女の子に諭されている有様となっていた。

 そして紅蓮の口からも『爆乳』などという単語が出るあたり、やっぱり守護騎士最年少少女とは似た者同士と言えた。

 

「(私ととしては、一人家で留守番役を全うしていても構わなかったのだが……)」

「(んな固いこと言わない言わない、気が利く守護獣さまにはみんないっつもお世話になってんだからよ)」

 

 

 

 

 ヴォルケンリッターのメンバーでは黒一点な唯一の男性であるザフィーラ。

 八神家での生活に入ってからは、主に車椅子な身のはやての介助を生業をしてきたが、彼の気が利くサポートには、一家全員助けられていた。

 例えば――

 

「雨だ~~! 洗濯物が濡れちゃうーーーーって、あれ?」

 

 突然降り出した雨に慌てて庭に干した洗濯物を取り込もうとしたシャマルだったが、雨に晒されている筈の肝心の洗濯物が庭からぽつりと消えていた。

 この現象を前にポカ~んとしていたシャマルに、洗濯用籠を抱えていた人間形態のザフィーラが話しかけてきた。

 

「シャマル」

「ザフィーラ……それって」

「午後から一雨降ると予報が出ていたからな、丁度乾いてもいたし、取りこんでおいた」

「よかった~~~助かったよザフィーラ」

 

 さらにもう一例――

 

「あれ? 家の鍵どこやっちまったかな?」

 

 自身の部屋にて所在不明の家の鍵を探す紅蓮。

 そこにザフィーラが入室してきた。

 

「紅蓮、探してる鍵はこれではないのか?」

 

 鋭い犬歯が生えた下あごにぶら下げていたのは、たったいま紅蓮が探していた代物であった。

 

「お、それそれ、あんがとよ、ところでどこで見つけたんだ?」

「制服の内ポケットに入れたままだったぞ」

「あ~~そうか、入れっぱだったのか」

 

 そのまたさらにもう一ケース――

 数品程度の買い物を頼まれた大人モード時の久遠に。

 

「最近この近くでドラックストアができてな、コンビニよりも割安な値段で商品も揃っているそうだ、これは家からストアまでの地図で、最短ルートもマークしておいたぞ」

「忝いな、恩に着るぞ」

 

 とまあ、これらの事例以外にも、彼の手際の良い気遣いに色々とはやてたちは助けられていたわけである。

 

 

 

 

「(だからはやてもあいつらも一緒に行こうぜって誘ったんだぜ)」

 

 その為、今日は自宅警備の一環で謙虚に一人留守番をしようとした彼は、全員からの勧めで同行したわけである。

 

「(ああも毎日助けてもらってんだ、羽伸ばしさせてえくらいみんな感謝してんだぜ)」

「(感謝か……いい機会かもしれんな)」

「(なに一人だけ納得してんだよ?)」

「(いや、この際伝えておこうと思ったのだよ、私もお前たちには感謝している)」

「(へ?)」

 

 思ってもみなかった発言だったので、紅蓮の目ん玉は点となって表情ごと固まってしまった。

 

「(話が逸れるがな、私の二つ名と言える『盾の守護獣』、どういう経緯で付けられたかまでは覚えていないのだが……)」

「(そら、誰だって生まれ時の記憶なんて頭に残ってはねえわな)」

「(一方で由来は漠然としたものではあるが、今でも心に刻まれている、『主だけでなく、共に主を守護する友たち全ての盾となり守り抜け』)」

「(すんげえご大層な由来だな)」

「(だが、この二つ名も由来も、実質名ばかり同然であった……積み重ねたことと言えば、守ることから程遠い、主からの命を大義名分として…戦場で無名同然の兵士たちの惨殺、それどころか、一蓮托生の間柄なシグナムたちの……『人としての尊厳』すら……長きに亘って守り通せなかったからな)」

「(気負い過ぎじゃねーか、だって……お前らが殺しを大勢やらかしてたのって、お前らに選ばれたのを調子こいて黒い欲っ気働かせてバカやらかそうとした主さまの自業自得なとこだってあんじゃねえの?)」

「(お前の言うことも一理はある、だが惰性的に力を振りかざし、死体の山を築いてきたのも、『守護』という言葉から、最も遠き存在であったのも事実、目を逸らすつもりはない)」

「(…………)」

 

 紅蓮は言葉に詰まった。

 はやてが今の主になる、それよりずっと昔の騎士たちのことは、余り当人たちには聞かないようにしていた紅蓮たち。

 なぜなら、それがどれだけ苦くて、生き地獄そのものな凄惨極まることか、聞かなくても容易に想像できたからである。

 辺り一面荒野な地平線の真っただ中で、屍と化した兵士たちに囲まれて佇むヴォルケンリッターの姿がだ。

 確かに、こんなこいつらを見て、こいつらが『守護』なんて肩書き持ってると説明されちゃあ……嘲笑のネタに扱われるのがオチ。

 それどころか、自分の意志を全うするどころか、意志すら持つことも許されなかった。

 こいつらの人生は、自分の本懐を果たせず、挫折ばっかりの不本意な経験に埋め尽くされている。

 絵に描いた無口無愛想なこの守護獣も、内心二つ名とは程遠い自分が悔しくてたまらなかっただろう。

 

「(だから嬉しくはあるのだ、シグナム、ヴィータにシャマル、あやつらは一介の人として過ごしている今に、それに私も…〝戦う〟以外の方法で主はやてを守る身となった、心から感謝する)」

 

 さっきとは別の理由で、紅蓮は返答できずにいた。

 ちきしょう、こうまではっきりと気持ち伝えられたんじゃ、どう返していいか分からなくなる。

 それに、どうも照れくさいのか、体のあちこちがムズかゆかった。

 だ~~~もう、〝ありがとう〟なんてこっちからも正直言ってやりたかったのに、先越されたんじゃ恥ずかしくて口に出せねえじゃねえか。

 何にありがとうって?

 ゼロにミラーナイトに、焼き鳥…もといジャンボットと宇宙のあちこちを旅してた頃のように、退屈と縁の無い、楽しくてしょうがないこいつらと暮らしてる今ってのもあるが、やっぱり何よりなことと言えば、義妹のはやてだ。

 八神の親父さんとおふくろさんが死んで、歩けなくなる宣告を受けた頃は、まだ小さいのに無理して我慢して、作り笑いするのが多かった。

 周りの大人は、『強い子』だとほざいてたけど、紅蓮はそう思わない。

 流れずに溜まった水が時間が経つうちに腐っちまうように、押し込め過ぎたら、その内心が壊れてしまうからだ。

 気持ちってのは、たまには素直に吐露して流さねえといけねえ、でないと……自分の場合だったら―――それこそゼロたちに船長たちと会わなかったら、誰ともつるめずに独り寂しく死んでたかもしれない。

 だから…久遠にヴォルケンの連中と会えたのは幸運だ。そうとしか言いようがない。

 特に大勢屋根の下でがやがやとにぎやかな毎日になってからは、一段とはやてが心の底から笑うことが多くなったし、より素直になった気がする。

今日の銭湯での湯浴みだって、はやてが言いだしっぺだ。

胸揉みの癖とか……若干アレな方向に目覚めつつあんだけど、それは時たま『おっぱい星人』とか言ってからかって自覚させとこ。

 ほんと、感謝を送りたいのは、こっちも同じ。

 なんだけど………やっぱちと恥ずかしい、口にするどころか、その気持ちを自覚するだけで、何か……体がサウナの熱気以外の熱に、晒された。

 照れ隠しの変化球でも打って、どうにか下げよう。

 

「(ありがたく受け取ってやるよ、しかし、今日はやけに弁舌じゃんかザッフィーちゃんよ、いつもの寡黙な守護獣さまはどこ行きやがったんだ?)」

「(さあ、今日だけはおしゃべりな守護獣ということにしておいてくれ)」

 

 その彼からの変化球を、ザフィーラは普段の堅物さからは想像もできないユーモア返しの球で投げ返してきた。

 自分の目を疑う紅蓮。

 この場合は〝耳〟ではないのかって?

 それもそうなのだが、その時紅蓮の目に入ったものが、それ以上の衝撃であったからだ。

 一度目を擦って、ザフィーラを見返してみる。

 うん…いつものクールな無骨顔だ。

 気のせいか? はたまた幻覚だったのか?

 ちょっと気にし過ぎか。

 

「ほかの温泉に行ってるわ」

「ああ」

 

 サウナから出る紅蓮、次は湯の温度がこの銭湯で一番高い『溶岩風呂』に入るつもりだ。

 

 さて、ここで紅蓮が何を見たかお教えしよう。

 それは―――――ザフィーラのほんの微かなで慎ましやかな……微笑み。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一通り館内の多種多様な風呂たちを堪能した八神家一行は、この一家では相当珍しい……どころか、今日が初めてと言える外食を体験していた。

 なるみの湯の中には、お食事処もある。

 座敷スペースにて彼らは、この店で評判の焼き肉セットを注文して食していた。

 

「はやてのレベルが高すぎるから、不安があったけど、結構美味しいぞこれ」

「そんな…大げさやって」

「うむ、リーズナブルな価格でこの味は破格だ、人気メニューとなるのも頷けるな」

「脂もタレもくどすぎ無くて、丁度いいし」

「あまり腹の中に入れ過ぎると、また体重計に乗った時悲鳴上げるぞ」

「久遠ちゃん……気にしてるんだから水を差さないでよ」

「失礼した」

「兄ちゃんもヴィータも、ちゃんと野菜もとるんやで」

「「は~~い」」

 

 はやてのプロ並み以上な腕で振るわれた料理で舌が肥えていた紅蓮たちでも、団欒しながら美味しく頂ける看板メニューであった。

 途中、ある意味恒例というか……紅蓮とヴィータの箸が同じ肉を捉えて一瞬触発の状況になりかけたが。

 

「半分こにしとくか」

「だな」

 

 と上手く丸く収まった。これには自称『家の抑止力』な妖狐からのおしおき…もとい影響も強い。

 

「そや、さっきも話題に出た闇の書の中に居る管制人格さんのことなんやけど…」

 

 はやては足元に置いていた、騎士たちが現界する以前から外出する時はいつも持ち歩いてた魔導書を取り出す。

 

「やっぱり、名前が無いのはちょっと可哀そうやと思うんよ、みんなにはちゃんと名前があるのに、この子だけ『あいつ』とか『彼女』とか『管制人格』とか、不公平や」

「だよな、お前らと違って、蒐集をしねえと本から出てきて一緒に暮らすこともできねんだ、せめてこいつだけのネームくらい付けたっていいだろ? な?」

「ああ」

「うん」

「はい」

 

 はやての代になるより昔、生きるのは殺し合うに方法がなく、そもそも人らしい営みなど望めなかった身の上ゆえ、当時の彼らには固有の名など無価値同然、あっても無くとも、大差の壁は存在しなかった。

 けどこうして〝人間〟として生きる日々を得て、名を持つということがどれだけ重要か、日々痛感させられている。

 彼女の考えには全員全面的に賛同だった。

 

「良い名前を考えてあげてください、魔導書の内にいるあやつも喜ぶでしょうから」

「そない言われたら、責任重大やな………まず帰りに本屋でもよろうかな?」

「こないだの甲冑みたいにネタ探しか、この辺りに書店はあったっけ?」

「心配はない、この浴場から五分歩いた先にジ○ンク堂がある、案内しよう」

「今日もさえてるわね、ザフィーラのアシスト」

 

 こうして、帰りは寄り道確定となった八神家である。

 

 

 

 

 

 そんな彼らの夕食の団欒を、見守っている者が一人。

 

「まだ……泣けたのだな………私も」

 

 できることなら、あの光景の向うに、行きたかった。

 だがそれは叶わない。

 儚い自身の願望――ユメだ。

 自分が、現世に現れるということは、大勢の命ある者に痛みを強いらせることになり、そして……それ以上の数え切れない生ける者の屍を、生み落とすことになる。

 これでいい……自分はこうしてただ見ているだけでいいのだ。

 ただ彼らが享受する幸福が、長く続くよう願うだけでいいのだ。

 少女たちの想いを前に、目頭を熱くさせながらも、今はまだ〝名無し〟な彼女は、そう自分に言い聞かせるのであった。

 

つづく


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