ウルトラマンゼロ The Another Lyrical Story 第一章 作:フォレス・ノースウッド
地球に転生して八神家の一員となった闇の書の守り手、守護騎士ヴォルケンリッターと、主のはやて、義兄の八神紅蓮ことグレンファイヤー、騎士たちより兄妹との付き合いが長い妖弧の久遠たちによって始まった共同生活。
騎士や久遠の戸籍に関する諸々は、金銭援助をしてくれている海外の御親戚が手を回してくれたのでどうにかなり、はやての担当医である石田幸恵先生には遠縁の親戚の方々と説明した。
初見は流石に日本人どころか地球人離れした (紅蓮も該当するけど)シグナムたちを怪しげに見ていたが、前々から はやての支柱になってくれる人がもっといればと石田医師は考えていただけに、快く彼らの存在を受け入れてくれた。
日本の現代的な住宅に、異世界から来た巨人の人間体、人並の知性を持ち、人間たちに紡がれ創造された伝承、物語によくみられる妖術を駆使し、人にすら姿を変えられる小さな子狐、世界を渡り歩いてきた魔導書から生み出されし主を護る使命を帯びた魔法で編みあげられたプログラムの肉体を持つ騎士たち。
地球の常識範囲内で、〝人間〟と呼べるのが実質家内では一番の末っ子なはやてだけという、アメリカよりも多種に渡ったサラダボールな家族構成となった八神家。
そういうわけで、一般家庭では絶対見られないようなイベントが、この共同生活では度々起きることになる。
今回はそのイベントの数々を、オムニバス形式で紹介しよう。
たとえば、ある朝の、八神家の朝食。
「うっ…………」
「ぬぅ…………」
「くぅ…………」
その日の朝は、全員重くダンマリとどよ~~~んとした空気を発散しながら、朝下をとっていた。
いつもなら紅蓮にヴィータに久遠が勢いよく味わいながらおかわりを頼み、そこそこの大所帯でもあるので、こうして一同に会して食せば、かなり賑わいのある食卓の一風景になるはずなのだが……今日に限って言えば、正確には〝彼女〟が料理を作る日はほぼ毎回、みな黙秘権を最大限に活用して、味覚が刺激されたことで沸き上がる情を抑え込んでいた。
「みんな…今日のはどう? 自信はあったん……だけど」
この今朝の食卓のテンションのゲージが、異様に低くなっている食卓の沈黙の元凶―――風の癒し手、湖の騎士シャマル。
彼女は、自ら調理したお手製の料理の感想を黙秘を続けて一言も発さない一同に感想を求めてきた。
シャマルの言葉に、余計沈痛な面持ちになる一同、彼らのその表情には、正直に答えるべきか否か、凄絶で悲愴感さえ漂わせる苦悩と葛藤を刻ませていた。
このままでは悩みに悩む全員が、世界の救済を求めながら、最終的に世界の根源に至ろうとする概念と化してしまった台密の僧並に皺ができてしまいそうな勢いで老けそうだ。
「お願い! そんな顔して黙ってるくらいなら、いっそ本当のこと言ってぇぇぇぇぇーーーーーー!!!」
その空気に精神を摩耗させ、耐えられなくなったシャマルは悲痛の叫びを上げる。
その有様にいたたまれなくなり、どっちにしろ癒し手が傷つくマルチバッド
エンドになると痛感した一同は、事前に打ち合わせをしているわけでも無かったのに、絶妙なハモリ具合で。
「「「美味しく無いです」」」
シャマルの料理を一言で下した。
気を遣っているのか、表現が遠回し気味で、普段タメ口なメンツまで敬語を使っている。
それでも下された当人には手痛い精神的ダメージであったのか、シャマルは部屋の隅ですすり泣き、暗い波動を漂わせながら、体を丸くして蹲っていた。
はやての『お願い』によって、守護騎士たちは、今までは起動早々過去の主たちから強いられた蒐集行為をしない方針を取ることになった。
それは同時に、武器を取って戦うことはもう実質無いことを意味していた。
はやて自身に悪意は無いし、騎士たちも納得の上なのだが、これはある意味ではリストラにも等しい。
彼らは戦争ばかりやってきた、戦闘以外に取り柄が無い者たちだからだ。
しかも異世界から来たので、当然騎士達には日本国籍は無いし、不法入国もいいところ、そういう立ち位置なので前述のことを含め、外で働き口を見つけるのは中々困難であり……となるちまずは、せめて家事くらいはできるようになっておかなければならない。
タダ飯食らいは、とても騎士の誇りに賭けてあるまじき、許されない行為だったからだ。
よって、八神家では日ごとに掃除、炊事、洗濯、さらにはやての入浴同伴係の当番を割り決めることとなったのだが、その悪い方の結果が、シャマルの料理だった。
シャマルに限らず、ヴォルケンリッターに料理の経験はほぼ皆無。
まともに味覚を感じる料理を食したことさえ、はやての手料理を口にするまでは全く無かった。それだけに初めて食べた感動は忘れ難い。
シャマルとヴィータは余りのおいしさを前に感動し、シグナムも二人ほどでは無いが瞳を潤ませ、ザフィーラも表の顔こそポーカーフェイスのままだったが、まだ自分たちに味覚が残っていることを実感し、その事実に喜んでいた。
その為、心に火がつき、主とはいえ、今年で11歳の女の子に負けられないといわんばかりにシャマルははやてから手ほどきを受けながら、料理に挑戦してみたのだが、御覧の通り食卓の空気を破壊する散々な結果となった。
特に初日は酷いもので、見た目こそ、フィクションでよく見られるようなどす黒い毒性のオーラは発されず、それなりに見栄えは良かったのだが。
「すまないシャマル、一口で食欲が無くなった…」
「あたしらを毒殺する気なのか? シャマル」
「シャまっちさんよ、あんまりの不味さで吐き飛ばしそうになったじゃねえか…」
各々の表現で不満を口にするシグナム、ヴィータに紅蓮。
「…………………」
「く~~~~ん」
「あはは……」
久遠もザフィーラも、言葉にはしていないが、その様子から食欲が減退したことは容易だった。
はやても返す言葉が見つからないようで、ぎこちなく笑うことしかできなかった。
全員、シャマルの手料理を口にした瞬間、舌が不快感で不協和音を響かし奏でて、一気に体が拒絶反応を起こし、防衛本能が異物を体から出そうとし、思わず口から食べた物を吐きだすはしたない行為を危うく実行しそうになった。
理性をフル稼働させ、どうにか胃腸に放り込むことはできたが、これ以上皿に盛りつけられた料理を、とても口にできそうにない。
「みんな酷い! せっかく作ったのにぃぃぃぃぃぃーーーーーーー!!!」
「おい待てよシャマっち!」
人として正しく、生き物としても正常な反応だが、余りにも冷酷な一同のリアクションに耐えかねたシャマルはエプロン姿のまま、号泣しながら外に出ていってしまった。
「とりあえず、食べてしまおか…」
「はい」
「そだな…」
このまま残すのも、罪悪感に心が押しつぶされそうになるので、必死に不味さと格闘しながら、はやてたちはどうにか完食するのであった。
その日は夕方になるまで、シャマルは帰ってくることは無かった。
以来、めげずに修練を重ねて入るのだが、冒頭のように、結果に結び付かないのが現状。
多少不味さは軽減されたが、無味無臭という、却って貴重だが美味しいと言えない味となっていた。
そして、みんなから不評塗れの料理の感想を突きつけられる度、シャマルはショックで八神家宅から飛び出してしまうという流れが恒例となっていた。
「シャマルのやつ、料理作って挫折するたんびに飛び出していきやがって……」
「ヴィータ、今動かすのは体の方だぞ」
「わりい、ほら次のやつ」
空が快晴真っ只中な午前の八神家の庭にて、大人姿の久遠とヴィータは洗濯したての衣類を干す作業をしていた。
紅蓮は学校、シグナムは最近見つけたある仕事、はやては体躯を本来よりやや小型化させた狼形態のザフィーラ(それでも大型犬の大きさではある)と一緒に家出したシャマルを探している最中。
ヴィータが各衣服の皺を伸ばし、久遠がハンガーにかけつつ物干しざおに掛ける分担作業で取り組む二人。
流石に狐耳と尾と巫女服では目立つどころではないので、騎士たちの私服選びのついでに購入した衣服を、今久遠は着込んでいる。
あの巫女服は魔力製なので、その分魔力消費も嵩むのもあるからだ。
黒のタートルネックにジーパンと飾り気のない組み合わせだが、その地味さが――
「大きい」
――幼児体型へのコンプレックスが、平穏な日常ではやてに転生以前より大きくなっているヴィータが呟くほど、大人モードの久遠はスタイルの良い金髪美女さんだった。
バストだけ見ても、シグナムには譲るが、シャマルより上な大きな双丘。
「この姿は魔力で変身しているだけで、本当にこんな体格なわけではないぞ」
「それでもあたしには、その風体になれるだけで羨ましいんだよ」
「だがヴィータの幼い体駆も中々可愛げがあるぞ」
「ガキにも大人にもなれる久遠が言っても説得力がねえよ」
「うふふ……これは失敬したな」
朝のシャマルお手製料理の件や、久遠のスタイルのことなど、他愛ない会話をしながら進める二人を、見ている者がいた。
「あ、闇の書」
開いたガラス戸から、金の十字架のレリーフが印象的な魔導書が庭の敷地内に出てきた。
「あの書物本体を動かしているのは、例の『管制人格』殿であったな?」
「うん」
「本当に彼女固有の名は無いのか?」
「無えよ、あいつ自身も名前があったのか、そもそも初めから付けられてなかったのか…知らなかったみたいだし」
「名無しの権兵衛、ジョン・ドウというやつか……少し前の私と同じだな」
「え?」
「言わなかったか? 久遠という名ははやてと紅蓮に付けられたものだ」
「そういや…そうだったっけ、でも紅蓮から『くぉ~~ん』と鳴くからって単純さで付けられたもん、よく気にいったよな」
と言いながら彼女の横顔を見て、ヴィータは手を止めた。
昔をせつなそうに回想しているような……そんな顔だった。
「実は……偶然ではあるのだが、私の母と同じ名だったのだ……」
ぽつりと零したその一言。
「…………………」
ヴィータは彼女の表情と物言いから、『久遠』の名についての話題はここで切り上げることにした。
久遠は八神兄妹と会う以前のことは余り話さない。
口にしてくれたのはせいぜい、海鳴に腰を据えるまでは何十、何百年も日本全国を放浪していたことと、生みの親が現代から『江戸時代』と呼ばれた時代に亡くなったことだけ。
自分ら騎士たちも、明言するには憚れる過去を持つ身。
下手にずかずか入りこまない方が良い。
「しけた話をしてしまったな、すまない」
「いいよ、それよりとっととこの服の山全部干してシャマルを探しに行こうぜ、下手すると迷子になって、おまわりに保護されてるかもしれねえ」
「いくらドジっ子と評されそうな今の彼女でも、そこまでは――」
ヴィータは今の台詞はジョークのつもりで言ったつもりで、久遠も笑いつつさらっと流そうとした最中、リビングから電子音が流れてきた。
電話の受信音だ。
久遠は一旦物干しを中断し、リビングに駆けこみ、受話器を手に取り。
「はいもしもし八神です」
今は各々の用で外出している実質家主な八神兄妹の代わりに応対する。
しばしの間、電話越しに相手と何らかの話しをした後、受話器を置いた。
同時に溜め息を零す。
その様子が気になったヴィータは尋ねてみた。
「誰からだったんだ?」
「警察だ」
「な、何だって?」
「つまり、ヴィータのジョークが真になったということさ」
詳細を述べるなら、勢いと言うか感情任せに外を走り回った結果、迷子になってしまい、近くを通りかかったお巡りさんのお世話になってしまったのだった。
八神家での家事当番の項目には、一般的なものの他に八神家独自のものがある。
「さて、はやての入浴同伴の割り決めなのだが」
それが今久遠が口にしたはやての入浴同伴係。
知っての通り、はやては下半身不随の障害を患っている。
加えてまだ幼い上に、同年代の女の子より小柄な体格なので、とても一人で風呂に入るなどできるわけがなかった。
その為、久遠が来るまでは、紅蓮と一緒に流し合いっこをしていた。
久遠が二人に妖狐であることを明かして、八神家を出入りするようになってからは、はやて自身異性が気になるお年頃に近づきつつあったので、大人モードになった彼女が同伴するようになった。
そこに守護騎士たちも加わったことで、八神家の年長組な女性陣三人は日ごとに交代で、はやてと一緒に入ることとなる。
実はここに至るのに、そんなに深刻なことでもないのだが…………ちょっとした紆余曲折があった。
「ところで久遠、お前がこの家に出入りする前は、主はどうやって湯あみをなされていたのだ?」
「はやて本人によれば、紅蓮と一緒に入っていたそうだ」
「な、何……だと?」
「仕方あるまい、ヘルパーに頼めばその分金銭がかかってしまうからな」
からっとしたこの妖狐の言い方に反して、女性には驚愕させるに値する発言に部屋の大気が凝固する。
シグナムとシャマルは、前述の一言を元に脳内である映像を浮かびあげ、それによって頬を熱くさせていた。
その映像とは、混浴している八神兄妹の図。
「くうちゃんがはやてちゃんたちと会ったのは……2年くらい前だったよね」
「そうだが」
特に烈火の将は、自分の想像が火種となり、八重桜色の長髪より顔が赤く火照らせ。
「シグナム、どこへいくのだ!?」
いきなりその場から走り出した。
彼女の走り行く先は二階。
それも紅蓮の使っている個室。
その上尚且つ。
「レヴァンティン!」
キーホルダーと言われても違和感の無い、ペンダントとして首に掛けている待機モードの愛剣を彼女は起動させ。
「切り捨てぇぇぇぇぇ御免――――――――――――!!!」
「な、なんだ!?」
ノックもせず紅蓮の部屋に入りこむと同時に、頬を真っ赤っかにしたまま、学校の宿題で机と睨めっこしていた部屋の主―――紅蓮に斬りかかった。
紅蓮が上段からの斬撃を真剣白刃取りで何とか止める。
「いくら主はやての足が悪く―――兄君とは言え―――じょ……じょじょ女性である主と混浴とははしたないぞ紅蓮!」
「ちょちょちょちょ!ちょっタンマ!こんな狭えところでくそでけえ真剣なんか振り回すな!」
「その心配は無用――切らぬよう魔力で刀身をコーティングしている! 少し痛いが死ぬことはない!」
「それで『はいそうですか』と、のこのこ切られるバカがいるか!」
「貴様―――我が剣術と愛機を侮辱するというのかぁぁぁぁぁーーー!?」
「そんなわけあるかぁぁぁぁぁーーーーー!!」
どうも彼女は凛々しく色香溢れる外見とは対照的に、いやむしろ下手な男より男らしい気性が災いしてか、『性』に関しては、知識も経験も一般人未満のようで、心が過剰反応してしまったようだ。
ここが家内でなければ、反射的に紅蓮がファイヤースティックを取り出して応戦してしまうほどの剣幕だった。
会話にすらなってない、言葉と言葉の弾丸の撃ち合いの後、どうにかはやての説得によって落ち着きを取り戻し。
「今まで主を支えてくれた方に対し、お恥ずかしい姿をお見せした…」
と、シグナムは紅蓮に律義に頭を下げてくれた。
こうもはっきり謝られると、とても紅蓮は怒る気になれず、一応騒動は終結するのであった。
が、この時女性陣の騎士たちは知る由も無かった。
はやてには、ある特殊な嗜好を持っているという事に。
交代制が決まり、最初に経験者である久遠が、はやてと一緒に入ることが決まり、大人モードに変身した彼女は、はやてを抱えて浴室に繋がる洗面所に入って行った。
その前に久遠シグナムたちは、わざわざテレパシー、騎士たちには思念通話と称される念話で……
「(忠告しておく、浴室でのはやてには気を付けろ)」
と意味深な台詞を残していた。
一体何のことだろうか? 女性陣は頭を捻ざるを得なかった。
浴室が、実は危険が潜んでいる場所だということは分かる。
床は水でぬかるんで滑りやすいし、室内は狭い上に角が多いので、一度足を滑らせば大惨事になってしまう。
いくら家中にバリアフリーが行き届いていたとしても、足が不自由なはやてと入浴する以上は、より慎重にいかなければならない。
それに気をつけろと言う意味なら、まあ納得はできる。
しかし、久遠があの時自分たちに伝えようとした事柄は、それとは異なる感じがする。
判断材料が少ないので、それ以上久遠の発言の意図は掴めなかった。
逆に特に脈絡の無い冗談の類かもしれないし、これ以上真面目に考察するのも何だったので、そこで思考を打ち切ろうとしたその時―――突然、浴室からエコーのかかった久遠の声が響いてきた。
だが様子がおかしい。否、おかしいを通り越して異常、明らかに〝風呂場〟から出ていい声ではない。
特に幼子たちには、はっきりと明言できないものの類だ。
「一体何事だ紅蓮?」
「あ~~気にすんな、こんなのいつものことだからさ」
紅蓮はもう慣れたと言わんばかりの声色で返してきたが、気にしないほうが正直言って無理な話だ。
久遠が口から発しているのはいわば、体が敏感に反応する部分を愛撫され、そこから来る刺激に悶え、快感に酔いしれている状態の時の女性が呻く声。
男を理性ある人間から、知を徹底的にそぎ落とさせ、本能のままに行動する獣に変える魔性の言霊だった。
だが、一緒に入っているのは同姓であるはやてのはず、それはどうして今のような声を上げる状況に陥っているのだ?
居ても立ってもいられなくなり、女性陣は慌てて浴室へと向かった。
「お前らは来るんじゃねえぞ」
「へ~~い」
「分かっている…」
ヴィータは男性に釘を指すことも忘れずにだ。
そして女性陣は今でも、久遠の無駄に色気があるいやらしい声が響く浴室のドアに着き。
「何があった!?久遠!」
勢いよく戸を開けると。
「みんな、どないしたん?」
そこにはキョトンとした表情のはやてと、相対して気持ちよさそうに頬を染めて、だらしなく口を開けて息を荒げ、視線の焦点が定まっていない久遠がいた。
ついでに言えば、はやては久遠の後ろに回り、その手は両方とも彼女の脇をすり抜けて、そのシグナムたちに勝るとも劣らない豊満な二つの盛り上がる丘に手をかけていた。
「すまない、そなたたちにははしたない姿を晒してしまったな」
数十分後、さっきの痴態はどこへやら、大人モード特有の雅びさと凛々しさと慎ましさを取り戻した久遠が騎士たちに、浴室で起きていたことを説明していた。
「いや、あの声が主はやてが久遠の胸を揉んだことにより起きたというのは分かった」
聞くところによれば、はやてが久遠の胸を揉みに揉みまくる行為は、共に入浴するたび、ほぼ必ず起きていることだという。
最初の時は紅蓮も余りの官能さに鼻血を出して気絶することを頻繁に起こしていたが、おかげと言うか何と言うか、性への免疫がすっかり付き、今日の頃にはリアクション薄めでスルーし、『おっぱい星人』と揶揄できるまでに至った。
時刻は既に9時を過ぎているので、はやてはもうヴィータと一緒に夢の中に入っている。
よって心おきなくお子様には刺激が強い話をすることができた。
「しかし…なぜあの幼い主がかのようなことを…」
「あいつが4歳の時に、親父さんとお袋さんが事故で昇天しちまったことは話したよな」
「ああ、それが何か?」
「人間で4歳といえば、子が母乳を卒業してからそんなに経っていないし、まだまだ親に甘えたい盛りの年頃だ」
ザフィーラの質問に紅蓮が答え、久遠が補足を入れた。
両親が既にこの世にいないことも、動かなくなった足が治る見込みは現状全く無いことも、はやては幼いながらも、年相応より上の聡さで理解がしている。
だが久遠の言う通り、まだ親に甘えるだけ甘えたい歳に遭遇した永久の別れは、心の中にしこりとして残留している寂しさを抱えさせ、容赦なく重しとなる。
このことが影響となり、無意識の内にガス抜きとしての代償行為を行うことがある。
「それがあの他人の胸を揉む理由というわけか…」
「人の胸は、異性の本能を刺激する魔性だが、同時に母性の象徴でもある、それに触れる欲求があるということは、それだけ愛情に飢えていることだ」
そして生来の優しさからはやては普段、内に抱える〝飢え〟によって迷惑をかけまいと、心の奥底にしまいこんで、隠し通そうとしてしまう。
「だからお二人には、もしはやてから胸を触らせてほしいと言ってきたら、できるだけでいい、それを拒まないでほしい、今のはやてにはあれ以外に我を通して甘える術が無いからな」
「分かった…」
シグナムもシャマルも拒むつもりは無かった。
はやてのことは、最初は境遇にもめげずに生きる毅然とした少女だという印象を持っていたが、彼女もやはり人の子だ。
主を精神面で支えるのも自分たちの務めである、ならば久遠の頼みを断れるわけが無い。
「ただし一つだけ忠告がある」
「くうちゃん、その忠告って?」
「実は経験を積んだせいで、今のはやては胸揉みにかけては相当のテクニシャンだ、その…白状すると……私はその毒牙に、すっかり病みつきになってしまってな」
今までの落ち着きのある言動が嘘のように、頬を赤らめ、もじもじとした仕草で途切れ途切れに紡ぐ久遠。
誰もが見惚れてしまう超絶美人だけあって、そのギャップが放つ破壊力はとてつも無かった。
「ああ、気をつけておこう」
そんな主の友人の思わぬ一面に、微笑ましなるシグナムたちなのであった。
つづく
感想どしどし受け付けてま~~す!