ウルトラマンゼロ The Another Lyrical Story 第一章 作:フォレス・ノースウッド
リリゼロ最新話です。
なのは、アリサ、すずかの〝聖祥っ子〟(この学校の学生の通称らしい)親友三人組の昼食は、天候が良い日は決まって屋上のベンチで弁当を食べるのは日課で、今日からは私ことフェイト・テスタロッサもその仲間入りだ。
季節は冬で外の空気は冷たいけれど、天候は快晴、青く澄んだ色が空いっぱいに広がり、お日さまの光が地上をあまなく照らして外の寒さを和らがせて、風もほとんど拭いてないこともあって、今日の昼の屋上も食事時には絶好タイムでした。
「フェイトの弁当、ちょっと渋いわね」
「そう?勇夜が作ってくれたんだけど」
私の膝に置かれた弁当は、海苔って緑っぽさのある黒いシート状の食べ物を一面に被せた白ご飯に、おかずはシャケって魚を塩で焼いたのとにブロッコリーにニンジンの野菜類と卵焼きのラインナップです。
初めて会った日から料理上手であることは知ってたけど、今日も食欲をそそられる美味しそうな出来栄えでした。
私も彼くらい上手くなりたいけど………ちょっと自信がないです。
「勇夜さんが?」
「うん、昔は義理のお義父さんもお義母さんも働いてて、妹さん二人の面倒はほとんど勇夜がみてたそうだから」
「それでこんなにお上手なんだね」
「凄いと思うけど……でもそこまで家事スキルあると女の出る幕なしな気もするわ、〝彼氏〟にするには違う意味で苦労するかもよフェイト」
「ふぇ!? いやそんな………彼氏……だなんて」
「にゃはは、フェイトちゃん顔が赤いよ」
私の顔は一時真っ赤になりました………勿論原因は寒さによるもの以上に………ごめんなさい! 恥ずかしくて言えない~~。
「授業にはついてこれた?」
「どうにかね」
今のところは、どうにか日本の、特にレベルの高いこの学校の授業には着いて来ている。
「でも次の国語は自信が無い…」
けど午後には〝日本語〟そのものを勉強する〝国語〟が待っている。勇夜のあの時の鬼指導を通じて一番苦労し、一番〝苦手〟なものになってしまった科目………現代日本語はともかく……日本人ですら難関な〝古文〟なんて、未だにさっぱり分からない。
とても自力のみで着いていく自信が無かったもので、実はなのはと―――
「無いからって、なのはにその念話とか言うテレパシーでカンニングさせないでよ」
「「ドキッ」」
―――アリサから日本の言葉で〝図星を突かれた〟私となのはは、おでこから冷や汗が流れ出しました。
「ほらやっぱり、言っておくけどズルは無しよ、向うの学校だって、授業中勝手に魔法使うのは禁止の規則とかあるんでしょ、それこそテスト中にやったらその時点で0点とか、でどうなの?」
「はい…そうです」
はい、こうなっては白状するしかありません。
彼女の言う通り、まだ本格的に受ける前から苦手科目になった国語の授業では、なのはが念話でフォローするつもりでした。
なのはも決して国語は得意なわけじゃないらしいのですが、私の不安を感じ取った彼女から助け舟を出して来たので、つい甘えてしまったのです。
当然、これは〝カンニング〟なので、ミッドら魔法世界での全ての学校では、魔法の実技を除いて授業中またはテスト中の念話含めた魔法の私的使用は禁止されています。
教室の天井には、魔法の使用を感知する特殊センサーまで付けられているくらい対策も徹底されています。
テストの最中にやれば失格、進学する為の受験なら即不合格ものです。
「フェイトちゃん酷い!何も知らない私に悪者の汚名を着せるなんて!!」
「ご、ごめんねなのは……黙ってたのはほんと悪かったから」
そしてそれを知らなかったなのはを騙してしまった同然であり、これには何度自分に拒絶されても〝対話〟と歩み寄ろうとする姿勢をやめなかったさしものなのはも、ぷんすかに怒ってしまいました。
「む~~~ん」
「お、お願いだから機嫌直して…ね…ね」
私はおろおろと冷や汗を流しまくりながら、なのはの機嫌を直そうと四苦八苦させられま、たとえ苦手でも自力で少しでも克服しなければならないと学ばされました。
で、本題はここから―――実はこの時、何気ないようで後々響いてくる出来事が起きていた。
「でね、みんなには紹介したい子がいるの」
「どんな子なの?すずかちゃん」
「この前図書館で知り合ってね、茶髪のおかっぱで、京都弁を喋る子で、名前は八神はやてちゃん」
「キョウト…ベンって?」
「訛りのことよ、フェイトの星でもないの?」
「あるよ、南部訛りとか」
「案外変わりないのね、あたしたちの星と」
「でね、うちの学校の子なんだけど、足が不自由で今休学してるんだって」
「じゃあ昼間の平日は何してるの?」
そうしたはやてという少女に関する質疑応答の後、近いうちにその子の家に遊びに行くと言う算段になった。
何気なく、どこにでもありそうな日常にも、思わぬ影が潜んで待ち構えている。その日の昼食はその一つであった。勿論、この時のなのはとフェイトにとってはやては、足が悪い以外は普通の女の子、という認識でしか無い。
彼女らが、はやての背景を知るのは、まだ少し先の未来まで待つ事になる。
勇夜たちの、地球での今の住まいでもあり、闇の書の特別捜査本部でもあるマンションの最上階の一室は、部屋そのものに手を加えない様配慮しながら、地球基準では超高度の科学技術を織り込まれた機能がある。
たとえば、リビングでリンディとプレシアとゲンことレオが、大型3Dホログラムモニターで、先日の海鳴市街での戦闘と、P.T.事件での戦闘の映像を見ているのも、その機能の一端なわけである。
三人の中でもゲンは、静かながら、覇気と厳格さが溢れる真剣な眼差しでモニターを見つめている。
他の住人は何をしているかというと、アリシアとアルフはテレビゲーム、クロノとエイミィは別室でのサーチ魔法による現地調査だ。
「以上がなのはさんとフェイトさんの戦闘記録です、どうでしたか?」
「魔法に関して私は門外漢の身ですからな、専門的なことはどうとも言えませんが……」
ゲンは一旦溜めを作りながら、武人の貫禄溢れる眉間の皺をさらによせる。
素人目から見ても、彼がベテランクラスの戦士であることを一目で理解させ、同時に彼が波乱に満ちた人生を送ってきたと漠然とながらも感じさせられる眼差しであった。
「失礼な言い方になりますが、魔導師はほぼ総じて、魔法の行使以外の技術には無頓着だと感じられました」
前置きをしつつ、ゲンなりに柔らかめなオブラートに包んで口にしたつもりだったが、それでも痛烈な一言となってしまった。
「なのはちゃんもフェイトちゃんも、弟子やリヒト君といった良いお手本が身近にいたお陰か大分改善されていますが、如何せん動きにムラがあり過ぎます、ゼロからも聞きましたが、魔導師は魔力の制御には力を入れているが、それ以外は手抜き同然と言っていました………あくまで弟子の主観ではありますが」
「勇夜君らしい捉え方ですね…」
「この映像を見るからに、あながち的外れではないでしょう、それにカートリッジシステムを今の彼女たちのデバイスに搭載することも渋るのも頷けます、〝騎士〟たちの戦いを見る限り、年頃の少女には重すぎる力です」
自身の肉体の地力が高いからなどといって怠惰に陥りず、魔力制御以外の精進も怠らない有言実行を続けている勇夜や師であるゲンの前では、自分たちが『手抜き』と称されても反論できない。
実際魔導師は魔法以外の攻撃には反応が送れるし、多くの世の魔導師が、勇夜にその弱点を突かれ、彼に魔法を使わせることもなく地に伏せられている。
「むしろ弟子から手ほどきを受けたアルフ君の方が、体捌きに無駄がありません、昔やつに教え込んだ『体の流れ』も身につけてましたし、その点なら娘さんが優秀な魔導師であるのには違いありませんよ」
「いえ、フェイトをここまで育て上げたのは、使い魔のリニスです、その時の私は、自分に向けるフェイトの愛情も……リニスの献身も、利用することしか考えていなかったので」
苦笑いでゲンの感想を返すリンディたち。
プレシアは少し違う気がするが、これ以上はやめておこう。
「すみません、少しものをきつく言い過ぎましたな」
「いいんです、私もあなたのお弟子さんから、優れた魔導師が優れた兵士、戦士であると限らないことを、この身で教えられましたから」
ゲンと一緒に映像を鑑賞していた子を持つ母でもあるこの女性陣は、彼の持論を、弟子である勇夜――ウルトラマンゼロの行動という形で直に目にしていた。
リンディはP.T.事件以前にも依頼の形で何度か彼と同伴しての任務で、プレシアに至っては、一度相見える形で、自分が娘のフェイトに行ってきた虐待に対して憤怒に駆られた彼と直に殺し合いを経験し、もし自分が病魔に侵されていない本調子の状態であったなら、勝敗はまた違った形になっていたであろうが、勇夜のこの世界での異名である『魔導殺し』の意味をその身に刻まされていた。
だからゲンのこの一言には、胸が染み入る思いであった。
それに彼の戦闘キャリアを聞いていただけに、身に受ける説得力も半端ではない。
「勇夜君の父に代わって地球を守っていた当初は、勇夜君の星のウルトラマンなら、誰もが使えていた光線技を使えなかったのですよね?」
光の国のプラズマスパークや、恒星から発される光エネルギーを生命源にしているウルトラマンたちは、そのエネルギーを光線に転化して額や腕、カラータイマーなどから発射できる能力を持っている。
しかし、光の国とは姉妹国な間柄だったL77星生まれのレオは、故郷の滅亡、地球へ亡命、ウルトラマンとしての戦いの日々の当初は全くそれらの技が使えなかった。
唯一、L77星の王子だった頃から嗜んでいた総合武術、宇宙拳法には秀でていたが、せいぜいスポーツなら負けなしな位で、実戦も訓練も経験に乏しかった当時は、癖の強い怪獣、異星人の戦法に完敗を強いられ続けた。
ミッドチルダら管理世界なら、魔法が使えないに等しい、手痛いハンデ。
「はい、あの頃は様々な意味で未熟でした、何度も苦杯を舐めさせられ、師であったセブンからはとことん扱かれましたよ、時に〝殺意〟が沸き、いわゆる〝逆ギレ〟寸前に陥ることも少なくはなかったな」
「ぎゃ、逆ギレですか…」
「はい、ただ師の厳格な指導は、私が至らなさ過ぎたのが原因なので、攻めるのは筋違いです、なのでどうにか自分を抑えられましたがね」
本人はそれも良い思い出だと言わんばかりに懐かしんではいるが、『殺意』だったり『逆ギレ』だったりと、物騒にもほどがある表現の数々に、少々どころではない戸惑いが沸いてくるおふた方。
実は本当の話だったりする。
余りにセブンの有無を言わせぬ、厳しいを通り越して、苛烈で過激な訓練に、理性に反して殺意を沸かせてしまうケースは何度かあった。
我慢してても、その時のゲンの目は血走り、殺気立ち、いつ逆上してダン―――セブンに喧嘩を吹っ掛けるかも分からない精神状態。
滝の水を切れだったり、ブーメランの乱れ撃ちだったり、かのジープで引き殺し未遂だったり。
レオからそのことを聞いた、今よりまだやんちゃ盛りだった当時のゼロからも。
『親父……やり過ぎだろ…それでレオが死んじまったり、嫌になって地球から逃げたりしちまったらどうする気だったんだ?』
とドン引きてしまう始末。
そんなレオも、MACとスポーツセンターの同僚、恋人を奪った円盤生物たちと、それを率いるブラック指令との戦いの頃には、光線技を取得、弟アストラとの連携技もものにし、彼単体の光線の破壊力も、惑星一個を粉々にできるまでになった。
これを聞いた年長組女性陣、特にリンディは、魔力持ちが優遇されがちな自分たちの世界で似たようなハンデを持ちながらミッドチルダ地上本部トップまで上り詰めたレジアス中将を畏敬込みで尊敬したくなった。
主戦力が魔法なので、どうしてもリンカーコアを宿す人間にばかり、仕事が回り、出世の階段を登っていくし、訓練にしても魔法制御にばかり傾いてしまう。
なのでそれ以外………それこそ、肉体そのものの鍛錬などは二の次になってしまう傾向があった。
筋肉の質を比べるだけでも、地球の兵士とかなり差がでるのは明白。
己の身一つでも戦えるよう修練を重ねたこの師弟たちの言葉は、辛辣でもあるが正確、なのでリンディは頭が上がらなかった。
「弟子のお得意さんも彼女たちのデバイスの改造は了承してくれましたし、訓練の指針も固まりました、プレシアさん、フェイトちゃんにはなのはさんともども、きつくご指導するつもりです、生半可な甘えはいたしましせんし、弱音も何度か吐くことになるでしょう、それでもよろしいですね」
「はい、元よりそのつもりです、こちらからもお願いいたします」
まだ本格的な訓練は明日からだが、やはり勇夜の師である彼に二人の指導を頼んだのは正解だ。幼い今の内に粗は改善させた方が良い。
この先、彼女たちがどんな道を選ぶかにしても、今は自分の身を守れる術を身につけなければならない。
先刻勇夜たちからの報告で守護騎士が日本にいるのは日を見るより明らかとなり、またなのはたちが戦闘に巻き込まれる可能性も全くないわけではない。
「艦長、レティ提督からの通信です」
「レティから?繋いで」
その時、彼女の同僚レティ・ロウランから、ある報せが届く、その内容とは―――
「この和風きなこパフェと、翠屋特製生クリームショートを下さい」
「ご注文、承りました」
肩まで伸ばした髪を縛り上げ、眼光鋭い目つきに、漢女(おとこおんな)な顔つきをして、ジーパンと黒のトレーナーの組み合わせによるシンプルな私服の上に、店専用のエプロンを纏った少年。
諸星勇夜ことウルトラマンゼロは、二人の若い女性の注文を受け、厨房のマスターたちに報告をした。
知っての通りここは、高町家が運営する喫茶店。
喫茶翠屋。
勇夜は今、この店のアルバイト店員として、ウェイターの仕事に就いている。
実はかのお引っ越しと、店のど真ん中でフェイトが伸びてしまった事件が起きたあの日。マスターの高町士郎の奥さんであり、なのはと光――リヒトの母である高町桃子から、ナオトことジャンボットともども、翠屋でバイトでもいいから働かないかと言われた。
闇の書の捜査活動があるので、勇夜もナオトも最初は丁重にお断りしようとしたが。
「働いた分の給料はちゃんと出すし、シフトを半日で分け合えば仕事もこなせるでしょ」
と言ってきた。
内容はともかく、その時の桃子の様子は、とても説明し難い。
決して、強引に押して来るわけではない。むしろ温和で落ちつきがある、笑顔だって子持には見えない、若々しくて晴れやかなものであった。
なのに、なぜか―――〝ここで断ったら後が怖いことになる〟―――と本能が二人に警告を発してきた。
同時に二人は悟る。この人のからの〝お願い〟を無下にしてはいけない、あしらってはいけないと。
その時光―――ミラーナイトからも、わざわざ念話を使って。
『(母さんの押しを断れる人間は、この世にいませんよ)』
と、忠告らしき一言を伝えられた。
これは、自らの本能と光の言うう通りにした方が良いと判断した勇夜とナオトは、半日交代勤務の形で、翠屋の店員となった。
地球で無職の扱いを受けるよりは、まだマシだし、働くこと自体に文句は無かったので、一日も経てば、二人ともウェイターとして過ごす時間に直ぐに適応できた。
「(勇夜、光、今話ができる状況か?)」
「(問題ねえよ)」
「(マルチタスクによる作業同時進行が可能となってますから、いつでもどうぞ)」
お客から注文を受ける作業を繰り返す勇夜に、ナオトが今学校で授業を受けている最中の光どもども、念話で話しかけてきた。
魔導師には、魔法によって思考を分割し、特定の作業を同時行使することができる。
それがマルチタスク――並列思考だ。
例えば机に向かって勉強しながら、デバイスによる脳内仮想シミュレータを行えるなど、二足のわらじを可能にし、これを使いこなせば、効果の異なる魔法を同時に発動でき、勇夜たちのように仕事や授業を受けながら念話で会話することが可能であった。
「(藤島町の聞き込みに行ってきたのだが、騎士たちの手掛かりは特に掴めなかった)」
「(そうか…)」
「(まだ二日目なので、めぼしい成果はでないとは思っていましたが)」
勇夜ことゼロの師匠、おおとりゲンことウルトラマンレオが、守護騎士ヴォルケンリッターのメンバーの一人と接触したことで、彼らと紅蓮と妖弧とマスターたる人間が日本に住んでいることは分かった。
で、捜査の基本は足からということで、昨日からまず海鳴市内、ゲンが見た『関東スーパー』と書かれたスーパーのレジ袋から、そのスーパー周辺の町々を重点的に聞き込みを行っているとうわけである。
「(だが収穫自体は少なからずある、リヒト、君が戦った鉄槌の少女、確かうさぎの人形を着けた帽子を被っていたそうだな)」
「(はい、お世辞にも子どもが喜びそうなデザインでは無かったですが…)」
鉄槌の少女が着込んでいたバリアジャケットには、ある特徴があった。
彼女は赤味のベレー帽を頭に被っていたのだが、その帽子に、うさぎがモチーフらしき顔人形が二つ、張り付いていた。
「(それと同型の人形を、大型玩具店、トイ○ラスで発見した)」
「(何だって?)」
「(本当なのですか?)」
「(ああ、『のろいうさぎ』という名称で、人形売り場に置かれていた、販売記録を確認してみたのだが、この人形が販売されている大小含めた玩具店は関東地域ではここだけだ)」
ナオトは特に掴めなかったと言っていたが、充分に手掛かりとしては上等な情報を仕入れていた。
これにより、少なくともグレンたちは、海鳴市、或いは海鳴に隣接する都市に住居を構えている線が大きくなった。
捜査の出だしとしては上々の成果である。捜索範囲の広さが、一気に縮まったのだから。
「(こちらは引き続き、捜査を続行する)」
「(了解)」
「(了解しました)」
ナオトからの調査報告は終わり、勇夜はウェイター業一本に従事し始める。
マルチタスクによって、先程から一連の会話を行いながら業務は行っていたけれどもだ。
さらに時間は進み、時刻は午後18時間近、翠屋の閉店時間も間近。
「助かったよ、前からアルバイトの子が欲しかったからね」
「そいつはどうも、リヒトやナオトほどこなしてる自信が無いですけど」
ナオトは休日に翠屋で手伝っているリヒトと同じく王家に仕える身だから、こういうかしこまった仕事には向いているかもしれないが、昔は特に型にはまった行為に窮屈さを感じてた自分としては、店に貢献できていると胸を張って言えなかった。
「そんなことは無いぞ、二人のお陰で、客足がぐんと増えたからね」
「へ? てっきり今日みたいのがいつものことと…」
士郎さんの話によると、俺たち二人を目当てに、客足が倍増したらしい。
さらに、それ以前から光目当てに来ている客もいたそうだ。
勇夜はまさかと思った。
そりゃリヒトが温和なイケメンだし、ナオトも眼鏡が似合う知的で整った顔つきはしてっけど、さすがに俺は無いだろ、目つきがきついとか何度言われたことか、どうも容姿を褒められても、ピンとこない。
父から言われても同様だった。
「(マスターは自身の〝美貌〟をもっと自覚するべきです)」
「(それ……どういう意味だよ? 美貌と言われるような顔なんてしてねえぞ)」
「(なんでも)」
なんかリンクが変なことを抜かしやがったが、まあ置いておこう。
いつもやってるボケみたいなもんだ。これと言った意味は、無いよな? まあ無いに決まってるさ、どうせ自分に突っ込ませる魂胆以外に意味はないと勇夜は結論付けた。
もうフェイトたちも帰っている頃だし、寄り道せずに帰ることにする。
「(勇夜君、今は話せるかしら?)」
「(ああ、どうした?)」
翠屋を出て、ここから目と鼻の先にあるマンションに向かおうとした際、いきなりリンディが念話で連絡を入れてきた。
念話を使う時点で、急用であることは直ぐに理解できたが、その内容を聞いた瞬間、勇夜の目つきが変わった。
それは―――彼が戦いに臨む時の戦士、もののふの瞳。
修羅場と死線をいくつも越えてきたもののみが見せ、持ち合せている眼光。
彼はそれを発しながら、太平洋の海方面へと走っていく。
オリンピック選手さえ、大きく差をつけてしまうまでのスピードで市街を疾走する勇夜。
リンディが勇夜に連絡してきたのは、レティから齎され、自分たちにも関わることだが、一部の者を除き、地球からでは対応できない緊急の情報。
その情報が、勇夜たちの現地調査で、主が海鳴市周辺に潜伏している線が大きくなった矢先の不確定要素だとしてもだ。
あくまで一応の報告、本人の意思によっては、現地の局員に任せる手もあった。
けど万が一〝本物〟だったら? やつらは並の魔道師では敵わぬ相手、ならば自分が相手にするしかない。
「(今からミッドチルダに向かうことはできるかしら?)」
「問題ない、30分で着く」
今は起きた事態を冷静に対処する戦士となっている彼が簡潔に答え念話を切った。
それだけの短時間で異世界へと向かえる、だからこそ手が届かない場所で起きた事態に、彼女は手が届く身である彼に委ねたのだ。
勇夜は市街を疾走しながら、自らの周りに人除けを結界を張り、歩を進めるごとに範囲を拡大。
海鳴臨海公園に着く頃には、勇夜以外人気が無い様相になっていた。
「相棒、封時結界とゼロアイを」
『了解しました』
これで心おきなく変身できる。
彼は警戒を続けながら人除けの解除と同時に封時結界を張り、リンクからウルトラゼロアイを射出、念力でその場に浮遊させたまま。
「デュア!」
自身の額に装着し、変身を敢行した。
ちなみに、その情報というのは――
〝ミットチルダ、クラナガン市街上空に、守護騎士の一人が現れた〟
―――という内容だった。
つづく