ウルトラマンゼロ The Another Lyrical Story 第一章 作:フォレス・ノースウッド
同級生からの質問タイムにあわあわおどおどしながらも、ひょんなことから大熱唱する羽目に(2828
フェイトちゃんはテンパリ型弄られ系純情少女であり、そこがカワイイと思っているファンにとっては最高のご褒美ですが。
↓ちなみにフェイトちゃんが劇中歌っていた曲
https://www.youtube.com/watch?v=MIi5RgBPDXk
最近ある用件で引っ越してきた、神奈川県海鳴市、市内では名の知れた喫茶店、翠屋がある風見(かざみ)町のとある高級マンション。それも大きなベランダのある、10人近くは住める最上階の部屋を借りた、ある種のルームシェア的な共同生活をおくる全員地球外の異世界出身の人たちの、とある朝のリビングにおける光景。
「あの、母さん」
「何フェイト?」
「似合ってる…かな?」
白を基調としたセーラータイプの制服を着込む娘を見た母は、微笑んだ。
「そうね、お似合いよ、学校のマドンナ……いえアイドルね、そうなるのもそう遠く無いわ」
「そんな、大げさだよ母さん」
「謙遜しないの、ほ~~んと可愛いよフェイト、さすが私の妹」
と、姉は大きく胸を張った。
「姉さんまで、からかわないでよ」
「ごめんごめん、そんなつもりは無かったから」
「でもフェイトさん、リボンの結び目少し緩くない?」
「明日の朝から修行なのだぞ、ここで弛んでいてどうする?」
「すみません……今直します」
「フェイト、それは私がやるわ」
「か、母さん」
制服の胸元の赤いリボンを結び直す母――プレシア。
「あ………ありがとう」
娘――フェイトにとっては憧れながらも、慣れないことであったので、頬を赤くし、少々ぎこちない様子で感謝を述べた。
「勇夜にも見せたかったな…」
「しょうがないじゃん、勇夜は午前仕事で、午後はナオトと交代で翠屋のバイトなんだし」
「そう…なんだけどね」
「フェイト、そろそろなのはちゃんたちと待ち合わせの時間じゃない?」
「ああ、もうこんな時間!?」
準備はOK、今日の時間割分の教材はカバンに入っている。
勇夜が……勇夜が作ってくれた弁当もあ………と。
「じゃあ、行ってきます」
「「「行ってらっしゃい」」」
この朝のやり取りも、IF―かのうせいの一つな光景であった。
転校。それは学生が、他の学校に移ってその学校の生徒になること、ただそれだけだ。
だが、学生諸君にとってはトップを争う、大いなる学校生活における重大な行事の一つであったりする。
運動会や学芸会と違って、いつ起きるかすらも分からない。ひょっとしたら一回も経験しないまま卒業、などということもある。
それだけに自分のクラスに転校生がくるというイベントは、学生たちを夢中にさせてやまない。
「さて皆さん、実は先週急に決まったんですが、今日から新しいお友達がこのクラスにやって来ます、海外からの留学生さんです」
かくいう、聖祥大学付属小学校の、なのはたちのクラス、5年B組の少年少女たちもしかりだ。
先日、12月に入りたてなこの時期に、しかも海外からの留学生として、女の子が一人、このクラスの仲間入りを果たすという話題で、クラス内はすっかり持ちきりであった。
「フェイトさん、どうぞ」
「し…失礼します」
先生の呼びかけを合図に、その海外からの転校生こと、フェイト・テスタロッサは入室してきた。
フェイトが入ってきた途端、教室は生徒たちの声が絶えずに響いてくる。
転校生が外国の女の子ってだけでも注目に値するのに、その子がクラスの期待値を大幅に超えた金髪の美少女ともなれば、テンションは止まることを知らずうなぎ登りとなる。
「あ…あの、フェふぃふぉ!」
第一声を盛大に噛んでしまうフェイト、緊張のし過ぎで滑舌がまともに機能してくれていない
「……コホンっ……フェイト…テスタロッサと言います/////////よろしくお願いします」
噛んだ自分への羞恥で、余計おろおろたどたどしながらも、自己紹介をしながら頭を下げるフェイト。
これでも裁判を受けたりと波乱万丈な半生を送っていたりするので、転校初日ぐらいどおってことない気もするが、そもそもこんな大勢の同年代の子どもたちと顔を合わせる機会に恵まれなかったフェイトには、なのはたちが見ていることもあって、現状生涯最高レベルの緊張感に支配されていた。
すると、一度静まり返っていた教室内に拍手の群れが押し寄せてきた。
おじぎで下げていた顔を上げると、そこには、なのはとアリサとすずかを含めたクラスメイトとなる少年少女たちの温かなお出迎えであった。
クラスの子たちにどんな反応をされるか、戦々恐々な心境だったフェイトは、強張ってがちがちになった自分の肩が、ようやくほぐれていくのをまじまじと感じた。
が、転校イベント自体はこれで終わったわけでは無い。
まだ序盤の前哨戦。
次の難関は授業、一時間目は理数、二時間目は理科。
これに関しては、フェイトは難なくクリア。ミットチルダら管理世界の魔法は、地球のファンタジー系列の物語に出てくる魔法とは違う。特定の効果を発動させる術式のことをプログラムとも呼ばれるが、使いこなすには数学、物理など理系の知識と応用力が必要となる。
当然フェイトも、母プレシアの使い魔で、乳母兼家庭教師だったリニスから魔法の制御に欠かせない理系の勉強を徹底的に教え込まれた。
算数と数学なら、大学生レベルの学力をフェイトは持っているわけで、理系続きな一時間目も二時間目でも、先生から問題を問われても難なく答えられた。
で、問題はこの一、二限目が終わって、午前にある二〇分の休憩時間に入った時から始まりを告げる。
「ねぇ、向こうの学校ってどんな感じ?」
「わ、私、学校にはちょっと…」
ずばりと言えば、クラスメイトからの連続してたたみかけてくる質問タイムであった。
「すっげぇー急な転入だよね、なんで?」
「その、色々あって…」
人が一生の内に、人見知り以上の関係になれる人の数などたかが知れている。
学生も例外じゃない。
中高で、部活をやっている者はともかく、帰宅部や小学生が、自分が通う学校外から来た同年代の子らと付き合える機会なんて滅多に無い。
「日本語上手だよね、どこで覚えたの?」
「前に住んでたのってどんなとこ?」
「えと……あの…その…」
よって転校生なフェイトが良い例なように、自分たちのコミュニティに新たに入ってくる子に対しては積極的に関わりたくなるもので、フェイトのように見た目が海外から来た白色人種系の美形ともなれば余計興味津々とにもなり、よってたかっての質問攻めになってしまう。
フェイトが普通に海外から来た留学生なら、クラスメイトからの一連の質問に難なく答えられただろうが、彼女が異国どころか異世界から来た人間。
相手が小学生とは言え、現実とフィクションの境界ははっきり理解できるお年頃、下手に馬鹿正直に本当のことだが地球では空想の域を出ないことをうっかり答えてしまえば、《電波キャラ》と受け取られかねない。
よって相手方の質問に対し、一つもまともに答えられずじまいだった。
「(フェイト)」
「(あ、姉さん)」
「(その調子じゃ、クラスメイトに悪戦苦闘のようね)」
「(うん……全然ダメ)」
様子を窺うつもりで念話してきたらしいアリシアに、フェイトは自分の有様を伝える。
〝どうしよう……前からバルディッシュの翻訳機能を使わなくても日本語が喋れるように勉強して、勇夜からもこういう時のためのシミュレーションまで受けてもらってたのに、全然生かせない…………ウルトラマンって、ほんとすごいよ……他の星に来てもすぐに馴染めちゃうから〟
想い人のM78星雲人から、日本の学校での転校はこうなると予め聞き、対策とし予想される質問事項にそつなく答える練習までさせてもらい、わざわざ自身の地球での経歴まで設定させてもらっていた。
しかし知己以上の間柄な年上一人相手での練習と、初対面な同い年数人囲まれての実践とでは勝手が違ってくる。
特に後者は、初めての同い年の友人が半年前に会ったなのはで、交友関係が常人と離れすぎているフェイトにとって慣れないシチュエーション。
まあフェイトに限らず同時に内容の違う質問のつるべ撃ちを受けて、真っ当に答えられる人間など聖徳太子ぐらいしかいない、と一応フォローを入れておこう。
「はいはい!転校初日の留学生をみんなでわちゃくちゃにしないの」
「アリサ…」
自分の四方を囲むクラスメイトたちに右往左往、四苦八苦して対応が後手に回っていたフェイトに、アリサが助け舟を出してくれた。
生来の勝気さと面倒見のよさから、今のようにクラスのまとめ役をかってでることが多いアリサ。
「それに質問は順番に、フェイトが困っているでしょ」
アリサがこの場を仕切り、リーダーシップを如何なく無く発揮くれたことで、無秩序とした質問タイムな状況下が整理整頓、改善され、秩序が形成されていく。
「はい、じゃあ俺から」
「どうぞ」
「向うの学校って、どんな感じ?」
「(落ち着いて、お姉ちゃんがサポートしてあげるから)」
「(うん、お願いします)」
「(まっかせなさい♪)」
声のみでも胸を張っていることが分かるアリシアの返しである。
とにかく、質問を投げかける人数が大勢から一人に限定されたことと、アリサとアリシアからのアシストもあり。さっきまで収拾つかずあたふたしていたフェイトも落ち着きを取り戻した。
よかった……事前に勇夜と練習しておいて、最初の質問は勇夜が提示してくれた質問事項の一つだったので、ほっとする私。えっと………こういう時は本当のことを少し茶化しながら答える……だったよね?
「私、かなりの田舎の方に住んでたから、普通の学校には行ってなかったんだ、家庭教師というか、そんな感じの人に教わってて」
「へ~~そうなんだ、そこってN○Kで再放送やってる大草原の小さな○みたいなところ?」
「…………?」
「(そこはイエスでいいよ)」
「た……たぶん」
嘘は言ってないからセーフだよね?
アルトセイムは、ミッドチルダでは辺境の場所だから、田舎と言えば田舎だし、リニスが自分の家庭教師だったことに間違いはないし。
でも…『大草原の○さな家』って?
テレビのドラマだってことぐらいは、最近までテレビの番組を見る機会が無かった私でも分かるけど……はぁ~~~こんなことなら正直に知らないと言えば良かった。
でも後から姉さんに聞いたのですが、そのドラマはアメリカで放送されてた人気番組で、一応地球での私はイタリア系のアメリカ人って設定なので(地球では私たちの名字はイタリア語らしいので)、むしろ知ってないと色々不味く、こういうのを勇夜から聞いた中国の故事で『塞翁が馬』なんだなと勉強になりました。
または終わりよければ全てよし? 災い転じて福となす?
ちょっと……違うかな。
その後も、姉さんのサポートを受けつつ、みんなからの質問は続きました。
勇夜からの指導の通り、本当のことと、作り話を五分と五分で混ぜながら答えていきました。
でも…あの人のアドバイスを思い出しながら質問に答えていくうちに…ふと気づいてしまいました。
私……勇夜ことウルトラマンゼロにお世話になりっ放しであることに……母さんや姉さんを助けてくれて、なのはと友達になったきっかけを作ってくれて、ピンチの時には何度も助けてくれたし。
嘱託魔導師として、あの人たちを探す捜査の仕事もあるのに、今日のために色々手を打ってくれたし、リニスに比べたら鬼教官そのものな個人授業だったけど、もし受けてなかったら日本語にてこずって得意科目な理数から付いていけずにこけていたかもしれないし。
ウルトラマンに頼ってばかりじゃダメだ!ってあんなに意気込んでたのに、これじゃ先が重いです。
今日の朝だって、朝食食べ終わったら直ぐに聞き込み調査に出ちゃったし…翠屋の臨時店員に選ばれちゃったのに合間を縫って……………昼食の弁当まで……作ってもらっちゃったし…また髪留め返しそこなったし……これじゃ面目なんて立ちようがないよ………とほほ。
「次の質問いい?」
「ふぇ? あ、うん、いいよ」
勝手に思考を進めて、勝手に落ち込むという自己完結な無間地獄に嵌りそうになりつつもどうにか抜け出すフェイト。彼女に限った話では無いものの、どうも彼女は悩みを押し込めるタイプなので、思考の深みにずぶずぶと埋まりそうになるにが偶にキズである。
「最近聞いた日本の歌で、好きなのある?」
好きな歌?
あ、あったあった、最近お気にいりな一曲。
少し昔、地球の暦で1990年代の歌だけど、今は季節が丁度冬でタイムリーだし、良いよね。
少しの思案の後、フェイトの出したお気に入りの一曲は、かつて90年代の邦楽界を一世風靡した某アイドルグループの代表曲であるウインターソングであった。
予想の斜め上で意外なフェイトのチョイスに対し、良い意味で教室中がざわめく。
「フェイトちゃん、一度歌ってみたら」
「なのは?」
「わたしももう一回聞きたいな」
「す、すずか?」
「(思い切って歌っちゃえば♪ フェイト歌上手でしょ?)」
「(あう……姉さんまで煽らないでよ)」
そのなのはの一言をきっかけに、クラスメイトの期待のメーターが上がり出していく。
周りは状況を煽る者しかおらず、誰も急加速する場の流れを止める輩は誰一人としていなかった。
「え、聞きたい聞きたい♪」
「一曲お願いします」
「さあ、マイクをどうぞ」
クラスの一人が差し出したのは、マイクはマイクでもエアマイクだ。
どんどんテンションを上げて走り出していくクラス一同にフェイトは困惑しながらも、歌うだけなんだから別に問題無いと結論付ける。
なのはたちや、リニスからも上手って言われてたし、見苦しいほどの音痴じゃない筈だから、赤っ恥の心配はいらないよね。
「………………うん……じゃあサビのところから」
先日ふとその歌を口ずさんでいる時に、たまたま聞いたなのはたちから大絶賛の太鼓判を受けたフェイト。
歌は好きだったし、そんなに下手じゃないから、羞恥なことにはならないと頬が火照り出している己の心に言い聞かせ、1パート目のBメロの旋律を脳内で再生しながら、リズムをとり。
そして深呼吸の後。
………………………………………………………………………………………
………………………………………………………………………………………
………………………………………………………………………………………
………………………………………………………………………………………
歌い終わった時、フェイトはしまったと思った。
1パートのサビのつもりが、最後のパートのサビを全部歌いあげてしまった。
しかも、軽めにいってもよかったのに、うっかり全力全開で歌ってしまい、廊下にいた生徒まで何事かと立ち止まって、じろじろと見つめてきている。
極めつけとして、先程まであんなにがやがやとフェイトに話しかけていたクラスメイトが、沈黙を維持したまま一言も声を上げようとしていない。
あれ?やっぱり不味かったかな……なのは、アリサ、すずかからは評判がよくても、人それぞれ好みが違うんだから、他の子たちにはそうはいかないだろうし。
失敗しちゃったかな、せっかくの学校デビューなのにこれでは未来の自分に《黒歴史》認定されるかも。
そんな不安がよぎった次に起きたのは―――――フェイトの歌声を聴いて思考がフリーズするほど見惚れてしまっていた全員からの拍手だった。
え?……え?………え?
心の声すら、詰まりに詰まって出てこないフェイトをよそに上がる歓声、スタンディングオベーション。
今日の、後の聖祥大付属小の歴史において、伝説級、神話級の出来事として歴史の1ページに刻まれることになったとか、ならなかったとか。
フェイトが質問が質問攻めを受けていたその頃。
「(フェイトの様子はどうだ?)」
「(質問タイムには苦戦してましたけど、クラスのみんなとは直ぐ馴染めましたよ)」
「(そうか)」
よかったとほっとした矢先。
「へっ……へっくしゅん!」
諸星勇夜ことウルトラマンゼロ、ゼロ=ユウヤ・ヴェアリィスターは脈絡も無くいきなりくしゃみを発した。
「かぜですか?」
「いえ、お気になさらずに…」
「季節が季節ですから、気をつけて下さいね」
「はい、ありがとうございます」
なのはとの念話を平行して、物腰が穏やかなご老体殿から、海鳴周辺に居を構えていると思われる守護騎士達とグレンと主の手掛かり探しの聞き込み調査をしていた勇夜。
くしゃみはその最中に突如として起きた。
「(ウィルスでも入りやがったか?)」
ウルトラマンも生き物なので、体調を崩してしまう可能性は皆無じゃない。
管理は怠っていないつもりだが、もしやと勇夜の脳裏に何らかのウイルスによる感染の可能性がよぎる。
『(マスターの身体をスキャンしましたが、病状を発生させるような病原体の存在は見受けられません、恐らく、誰かの噂にマスターの体が反応したのでしょう)』
その可能性をリンクは否定した。
彼女の言う通り、正確に言うとフェイトが内心彼のことを考えていたことが、くしゃみと言う形で表出されたのである。
「(根拠は?)」
『(何と言いましょうか………デバイスの勘です)』
「(正確にはデバイスじゃないだろ、お前)」
どちらかと言えば無機物な身の彼女が『勘』などという非合理的な概念を使うことがまあ何ともだ。
実は勇夜からの影響は相当受けている。たまに吐く毒舌もしかりだ。
『(なら…女の子の勘です)』
「(ああ、何かそっちの方がしっくりくるぜ、相棒)」
彼女の茶目っ気を受けた勇夜は、その相棒が予想だにしなかった返しを投げた。
『(……………)』
「(おい、リンク?)」
『(い…いえ、行きましょうマスター)』
バディでありマスターである勇夜の思わぬ返しに、盛大に自分の言葉で自爆して何も言えなくなるこの人間味あふれる彼女のその一面も、その影響の一つ。
そうした他愛の無い会話、ボケと突っ込みの応酬の後に、聞き込み調査再開と入る勇夜とリンクの二人。
『(冗談のつもりで口にしたのに…マスターはずるい人です////////////マスターにはフェイトという方がおられるのに、私をこんな気持ちにさせるなんて///……穴があるなら入りたい///…)』
この時内心、照れ(?)ながら、こんなことを独白する〝女の子〟なリンクことウルティメイトブレスレット。
諸星勇夜、彼もまたある意味〝罪つくりな男〟の一人であった。
つづく