ウルトラマンゼロ The Another Lyrical Story 第一章   作:フォレス・ノースウッド

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後半フェイトちゃんがある意味で大変な目に。
血は争えないってことです。

特に後半のフェイトちゃんに絡んだ話は、キートン山田さんの声で読んでみて下さい。
多分、爆笑するでしょう。


STAGE06 - 少女は白く染まる

 フェイトが勇夜たちと、自身の保護観察官となるグレアム提督との面談を行っているのと同時刻。

 

「どうぞ」

 

 アースラ艦内に割り当てられた応接室では、リンディ・ハラオウンと僧侶姿のおおとりゲンが対談していた。

 提督兼艦長である女性が淹れた緑茶を快く受け取るゲンではあったが……リンディ自身の湯のみに注がれる物体と液体と緑茶が混ざり合う光景には、白状すると結構引いていた。

 

「ハラオウン提督……」

「お名前でお呼びして頂いても構いません、おおとりさん」

「そうですか、ならリンディさん、そのテーブルに置かれた砂糖やシロップは一体?」

「すみません、甘いものに目がない体質なものですから」

 

 なるほど、これが〝弟子〟の言っていた提督殿の甘党趣味か……と納得する。

 この世界に来る前、ゲンことレオは勇夜ことゼロから、目の前にいるこのミントグリーンの女性が、本来苦みを味わう筈の緑茶に大量の糖分を放り込んで飲むのを習慣にしていることを予め聞いていた。

 自分は彼女たちから見たら異世界人でもあるし、極端でなければそういう嗜好を持っていても何も問題無い………と言いたいものの、ゲンでさえ、かなり丈夫な方だと自負している胃腸が、度を越した量の糖分でジェル状になった緑茶だったものを前に、胃もたれを起こしそうな勢いで悲鳴を上がる寸前にまでいった。

 こればかりはウルトラマンでも、どうしようも無い。そもそも彼女のこの甘党さ加減の前には、腕っ節の強さなどで通用できる代物じゃない気もする。

 

「ところで、こちらの世界には如何様な用件で来られたのですか?」

「弟子の報告から、私たちの世界の怪獣がこちらに現れたと言うことで調査任務として派遣されたのですよ、まさか来て早々戦闘になるとは思いませんでしたが…」

 

 実は、その派遣任務を誰に回すかで、一悶着あった。

 否、一悶着という表現は適切では無いかもしれない。端的で言うと、遅咲きの子煩悩病にかかったウルトラセブンが、ゼロと同行するのは〝わたしだ〟とばかり主張し聞かなかった。既に別件の仕事がセブンに回っていたにも拘わらず、である。

 11年もの間、息子と音信不通だったのが、親馬鹿レベルメーターをさらに加速させたようである。

 結局選抜された弟子のレオとゼロに説得され、渋々引き下がった。

 ゼロ自身、セブンの子煩悩病がずっと父としてふるまえなかった反動であることを察してはいたが、帰還早々のハグ騒動と言い、自重してほしいと内心呟いていたという。

 子どもが可愛いと思う余り、愛の度が過ぎてしまうのは、どこの世界でも共通要素だった。

 

「ところで、こちらでの弟子の方はどうでしたか? 何分あいつは聞かん坊なところがあるので、リンディさんらに迷惑をかけているではと…」

「迷惑だなんてそんな、むしろ私たちの世界から起きた闇の後始末を押し付けばかりです……」

 

 職種上、任意に局の案件、任務に関われる嘱託魔導師の資格を得た後の諸星勇夜は、仲間を探すと言う名目もあったが、積極的に嘱託の仕事をこなしていた。

 時には、独力で〝次元災害〟に対し、正体は伏せようと心掛けつつウルトラマンに変身してことにあたることもあった。

 

「私たちが他の世界に顔を出してしまったことで、起きてしまった事件も少なくありませんし、彼の手が及ばなければ手遅れになっていたことだって…」

 

 世界と世界が繋がりを持ってしまった以上、その枠を超えた犯罪が起きることは避けられないし、それに対応する組織の存在も必要となってくる。

 現に、べルカ式魔法の発祥の次元世界、『べルカ』によって端を発した戦乱は多くの異世界を巻き込み、次元世界そのものがいくつも消滅すると言う大惨事を起こし、生き残った世界と人々にも多大な爪跡を残して終結した。

 その後多世界に渡る犯罪の防止や、ロストロギアの確保のために、ミッドチルダを中心に創設されたのが時空管理局だが、冷静に考えれば、日に日に存在が明白になる次元世界の数が積み重なっていくにも拘わらず、対応する戦力が、使い手が限られる魔法一本で賄うには、やはり無理があり過ぎるというもの。

 日頃から騒がれている人手不足もしかり。なのだが、管理局発足当時に、『質量兵器の廃止』をスローガンに各世界の政府の反対がありながらも、大衆から支持を得てしまった事実が、なかなか局の組織改革に踏み込めない一因だった。

 それによって、どうしても時に対応に遅れが生じてしまう。

 ゼロはそんな世界の〝歪さ〟が起こしてしまう〝悲劇〟を起こさせまいと奮闘するフォロワーともなっていた。

 

「多分……今回の闇の書の担当が私たちに回ったことにも、内心怒っているかと…」

「なぜ………ゼロがお怒りだと?」

「私の夫は…………闇の書の捕獲任務で殉職しているのです、7年前に」

 

 その七年前、管理局はやっと、闇の書の確保に成功した。

 だがそれを本局に護送中、書は暴走を起こして搬入していた次元航行艦を掌握、これ以上の被害の進行を防ぐべく、その航行艦は撃沈された。

 その時、艦内に残り殉職した艦長は、リンディの夫でクロノの父―――クライド・ハラオウンである。

 

「そうでありながらなぜあなた方ご遺族に、上層部は担当を回したのですか?」

 

 穏やかな物腰から一転して厳しい表情になるゲン、これには現在の彼でさえ局の〝決定〟に首をかしげざるを得なかった。

 家族を奪った存在の確保など、任を受けた遺族から見ればトラウマを再発させる地獄だ。

 感情的になって、組織のルールを破って独断に走るデメリットだってあるのに。

 

「やはり、例のP.T.事件の功績でしょうね、近年地球とその周辺の次元で起きた事件に関わったのは、私たちだけですから」

 

 が、それすらも勇夜やユーノが独自に収集に入り、なのはや光が協力してくれなければ、最悪アルハザードへの道を無理に開こうとして起きた次元振を回避できず。

 テスタロッサ親子を救うことすらできなかったかもしれない。

 結局手をこまねいている内に、救えなかった命を数えることにもなりかねなかった。

 こうして〝遠間〟から見ると、自分たちの組織は埃がたち過ぎだ………とリンディは愚痴ていた。反感を抱く人々が多いことにも頷ける。

 

「ですが、一部の存在もにばかり任せきりではいけない、そう考えられるだけまだ救いがあると思いますよリンディさん」

「そうでしょうか?」

「我々ウルトラマンがもっとも恐れていることは、人々に対し、私たちに守られていることが当たり前で、たとえ私たちより非力でも、それでも困難に立ち向かおうとする強さを、奪ってしまうことなのです」

 

 ウルトラ一族を知っている者ならご存知の方もあられるだろうが、彼らはウルトラマンの力を使うことに対しては慎重になる。

 平和の維持の為なら、他の星系はもちろん、異世界へと飛び命を賭けることも辞さない。

 けどだからと言って、自分たちがでしゃばり過ぎて、彼らに守られた助けられた側の者たちが、自立心や自分の身は自分で守る意志を損なわせることは避けなければならなかった。

《ウルトラマンは神では無い》

 彼らはそれを戒めとしつつ、何万年も前から戦っている。

 

「ゼロがこの世界に戻ってきたのも、あなた方のような人がいるから、自身の支えとして諦めないでいてくれているでしょうからね」

「そんな、勿体無いお言葉です」

 

 ひょっとしたら自分たちは、その困難に立ち向かう強さを、奪っている側なのかもしれないのに……こんなことを言われて正直に喜ぶことはむしろ、おこがましいと感じてしまう。

 

「私もできる限り、あなた方には協力するつもりです、理由はどうあれ、怪獣の寄越してきた何者かの目的は、闇の書の魔力で相違ないでしょうから」

「ありがとうございます」

 

 また彼ら――ウルトラマンたちに甘えてしまうことに、罪悪感を覚えてしまうリンディではあるものの、怪獣への対抗策がこちらには少ない以上、貸してくれる手を逃さない手は無い。

 今は素直に、彼らのご厚意を受け取ってあげよう。

 

「少し話が変わるのですが、なのはちゃんとフェイトちゃんのことで」

「何でしょう?」

「恐らく、ヴォルケンリッターは彼女たちの魔力を目当てに、また襲撃を行うでしょう、あの子たちも、まだ小さいですが強い責任感をお持ちです、ゼロたちと同じく協力する選択を選ぶはずですから――」

「また……今日のような戦闘になるのは、確実ですね、かと言ってあの子たちの手を取ってあげることを拒めば、それはそれで傷つけてしまいますし…」

 

 罪悪感と言えば、なのはとフェイトたち、それとクロノにもそうだ。

 元々、自分たち大人が起こし、解決しなければ事態であるのに、子どもにそれを押しつけてしまっている。

 現在の魔法世界の〝水準〟を踏まえれば、本来ならもう少し〝猶予〟を与えなければならないのに………能力さえあれば、これが日本なら義務教育の受けている年代の少年少女でも職につけてしまう今の体質がその代表だ。

 それにフェイトはようやく裁判を終えて家族と〝リスタート〟したばかりだし、なのはなど管理外世界の人間だ。これらがリンディの〝罪悪感〟を助長させてもいた。

 できれば、気持ちだけは受け取っておくというが最善の手ではある……が、魔力を身に宿している限り、また今日のようなことが起きてしまうだろう。 

 

「それでですねリンディさん、一度あの子たちを修行の一環として、私に預けてもらえないでしょうか?」

「修行……ですか」

「そんな大層なことではありません、いわゆる備えとうものです」

 

 虚をつかれる提案だったが、思案してみればそれも有りだと言える提案であった。

 守護騎士たちが魔力を求めて再びフェイトたちを襲撃する可能性は高い、でもだからと言って四六時中彼女たちを監視するわけにもいかない。

 ならば、せめて〝自分の身は自分で守る〟力だけでも、向上させておいた方がいい。

 それに彼の指導下ならば、二人の〝責任感〟の強さがあらぬ方向に飛んでしまうことはないだろう。

 何よりこの人は、あのウルトラマンゼロを鍛え上げた人物なのだ。

 彼の指導を通じて得られるものは、多々あると見ていい。

 

「まずお二人と保護者に相談して、意志を確認することになりますが、もし承諾された時は、お願いしてよろしいでしょうか?」

「勿論です、責任をもって、お二人を鍛えさせてみせますよ」

 

 彼の獅子の瞳と表現できる力強さを持った彼の眼光に、安心感すら覚えてしまうリンディであった。

 

 

 

 

 

 

 グレアム提督との面接を終え、ユーノ・アルフたちがデバイス用メンテナンスルームに居ると聞き、なのはとフェイトの相棒のコンディションの確認も兼ねて入室した勇夜たちが最初に目に入ったのは――

 

「確かに一回ロードするだけで今までの3倍の出力は得られるわ、でも!――――」

 

 ――魔力フィールドに浮かされているレイジングイハート、バルディッシュと口論しているアリシアと、この状況にどうすればいいのか困っているユーノとアルフ、ナオトであった。

 事情を知らないものから見れば、アリシアが手のひらサイズの物体と言い合っているという彼女がいわゆる『電波』なキャラと見なされるかもしれない光景であった。

 

「姉さん…」

「フェイト」

「何があったのか分からないけど落ち着いて…」

「ごめん、この子たちが付けてほしいって聞かなくて……」

 

 フェイトの言葉で、ようやく瓜二つだが彼女より幼い容姿の姉は、平常に切り替わる。

 

「何があったのですか?」

「レイジングハートとバルディッシュが、自らにカートリッジシステムを搭載してほしいと言ってきた」

「何だって?」

『二人とも、正気なのですか?』

 

 ナオトから概要を聞いた勇夜たちは驚きで動揺し、リンクも困った様子で二機に訪ねていた。

 

「あいつらと同じものを付けるのが、そんなに危険なものなのかい?リンク」

『そうです、現在ベルカ式を使う魔導師がほとんどいないのは、そのカートリッジシステムが原因と言っても過言ではありません』

 

 さながらビデオテープのVHSとベータ、ブルーレイとHDDVDを彷彿とさせる規格競争をミッド式が勝ち抜き、ベルカ式魔法とその術式に準じたアームドデバイスが、現代では僅かながら需要はあるものの実質廃れてしまったのは、ただでさえ使える人材が多いと言えない魔法であるのに、その特性上使い手がより限られてしまったからだ。

 原因はメインとなる近接戦闘が、敵の懐に飛び込んで攻撃する必要があるので、ある程度戦闘技量が高くなければ務まらないこと、個人戦に特化されるため、あらゆる戦況に適応できる汎用性にはどうしてもミッド式に譲ってしまうこともあるが、最大の要因は、やはりカートリッジシステム。

 

『術者によりますが、弾丸一発に付き、なのはのディバインバスター一発分の魔力を瞬時に得ることができます』

「そ、そんなにすんだ…」

「前から危険な機構とは、聞いていたけど…」

 

 リンクの説明に目を丸くするなのはたち。特になのはの魔法の威力を、それぞれ敵味方の立場から間近で見てきたフェイトとアルフとユーノは、あいた口が塞がらない。

 

「さながら、比較的安全な平常速度で走っていた車が、いきなり最高速まで加速をするようなものだ、誰も使いたがらないのも納得できる」

「彼らの戦い振りを見た後では、ナオトのその例えに納得できますね」

 

 魔法にも兵器にも限らず、道具というのは一種の使いやすさが要求される。

 急激に供給される魔力を前に、挫折する魔導師は後を絶たず、結果魔力さえ持っていれば比較的誰でも扱えるミッド式が普及されというわけだ。

 それだけベルカ式を扱える魔導師は、高ランクに位置していると逆に言うこともできる。

 

「一応、最近はそのシステムをミッドにも取り入れる研究が進んでるから、組み込もうと思えばできるわ…」

「しかし、弾丸の装填と排出機能が付加させる都合上、構造がさらに複雑になってしまうからな、ただでさえAIの搭載で脆弱さのあるインテリジェントデバイスな彼らが耐えられるか……」

 

 非情ともとれるアリシアとナオトとの宣告だが、正論でもあり、デバイスとその使い手を案じているがゆえの発言だった。

 高度なAIを積んでいる都合上、インテリジェントタイプが他のデバイスより作りが複雑で脆弱だ。今の技術力では、安全性よりも不安と危険性の方が上回っているのが実情であり、手痛い現実であった。

 

「ごめんね……レイジングハート」

「バルディッシュ、元々私が至らなかっただけなのに…」

『いえ、私たちはマスターの能力を最大限に生かすのが役目です、それが及ばず、敗北した以上、至らなかったのは私たちです』

『我々は敗北の一因をsirたちに押しつけたくはない、危険なシステムであることは承知している、覚悟の上でだ』

 

 機械に対してもその優しさを向けられる心を持つなのはとフェイトにとって、愛機を傷つけ、そんな無茶をさせてしまったことに心を痛めていた。

 それは、ある意味ではデバイスも同じ……担い手をサポートするだけでなく、その〝強み〟をより強くさせる身でありながら、一方的に負け、勇夜たちの助太刀がなければそのまま魔力を蒐集された事態にもなりかねなかったから。

 

「たく……お前らも自分のマスターさんに似て、頑固なやつらだぜ」

『その自覚はあります』

『右に同じ…』

 

 危険なのは変わりないが、彼らも思案しを吟味した上で、今後の対策のための提案として言いだしたことだ。

 守護騎士の目的が魔力なら、また二人が狙われる可能性が高い。

 なのはもフェイトも、AAAクラスの魔力を体内に秘めている。

 蒐集のための魔力が欲しい彼らにとってのどから手が出る魔力量だ。

 またやりあうことになるのは必須で、対応策はどの道必要………ならば。

 

「ならしょうがねえな……リンク、あれを出してくれ」

『了解』

 

 指輪形態リンクから、光の粒の群れが飛び出し、やがてそれは一つの物体となる。

 

「何だか、USBみたいですね」

 

 それを見たなのはの最初の一言がそれだった。

 長方形を形作ったそれは、確かに地球性の記録装置に酷似していた。

 

「こいつは、俺と相棒が考案した新型のカートリッジ」

『正式名称、カートリッジシステムβ(ベータ)です』

 

 二人が切り出した対応策のカード。

 それがこの魔力を蓄電させた、USB型のバッテリーであった。

 

 

 

 

 

 

 フェイトたちとの面談を終えた後も、ギル・グレアム提督はマルチバースの見える部屋で、灯りも付けないまま、じっと佇んでいた。

 

 その貌は無表情というわけではないが、にこやかな態度で接していた先程の彼と比べると淡々とし、そうでありながらどこか憂いに沈んだようにも見受けられる。

 しかしその表情から、彼の心中を察することは、とても把握できそうにない。

 

「(お父さま)」

「入れ…」

 

 念話で語りかけてきた何者かに答えるグレアム。

 すると室内に魔法陣は出現し、人一人が転移して現れた。

 魔法陣の光で、一瞬女性らしきシルエットが映ったが、直ぐに暗闇に紛れて見えなくなる。

 

「マンジョウメ博士からの報告です、デュランダルの調整が最終段階に入ったと」

「そうか、ところで■■■の方はどうした?」

「実は……ヴォルケンリッターの一人が、諸星勇夜の関係者の男と接触し、■■■は逃亡の手助けのためにやつと戦闘になり、手傷を負わされました」

「怪我の具合はどうなんだ?」

「重傷という程でもないのですが、一日療養は必要です」

「彼の師だけあるという訳か……」

「お父さま…口答えをするようで恐縮ですが、『彼ら』の存在は危険です、博士が怪獣を差し向けてくれなければ、危うく騎士たちは囚われるところだった、お父さまの計画だって!」

「■■■、そう焦るな、『窮地の時こそ冷静さが最大の友』……であろう」

「はい…」

 

 グレアムのその一言で、強硬策を提案した『彼女』は落ち着きを取り戻した。

 

「■■■は引き続き、書の主である彼女と、その兄と騎士たちの動向を探ってくれ、今日はもう蒐集はしないだろうから、自宅を見張るだけで良い」

「了解しました」

 

 グレアムの指令を受けた彼女は、そのまま転移魔法で姿を消した。

 

 

 もし、自分らが今為そうとすることを〝彼ら〟が知ってしまえば、絶対に自分を許しはしないだろう。

 それだけ、我らは非道で下劣な大罪を犯そうとしているのだから。

 それでも、これで最後にしてみせる。

 

 悲劇も、哀しみも、慟哭と憎悪の連鎖も………私が罪を全て背負うことで……それは、誰よりも固く結ばれた、誰よりも強固で、誰よりも悲痛で、残酷で、沈痛で、余りにも重くて哀しい決意だった。

 

 

 

 

 

 時空管理局本局ステーション兼コロニー内に置かれた、大型モニターとそれに対面して席がしきられる構造なブリーフィングルームの数ある一室。

 

「さて、私達アースラスタッフは今回、ロストロギア闇の書の捕獲、及び魔導師襲撃事件の捜査を担当することになりました」

 

 そこではアースラスタッフと勇夜ら協力者一同が、捜査方針を決めるブリーフィングを行っている最中。

 予想通り、勇夜、光、ナオトのウルティメイトフォースゼロの面々、勇夜の師であるおおとりゲンは勿論のこと、なのは、フェイトたちも協力を申し出てきた。

 怪獣を戦力に抱える第3勢力がいる以上勇夜たちの力は必要となり、彼らの正体を秘匿する以上、下手に巨人であることを知るクルー以外の人員を寄せるわけにもいかず、彼女たちも強く求めてきたこともあり、結果、民間人の協力者が多いという異例の構成となった。

 

「ただ、肝心のアースラがしばらく使えない都合上、事件発生時の近隣に臨時作戦本部を置くことになります」

 

 ただ今アースラはメンテナンス中で出航できないため、地球近辺に停泊という手段は使えない。

 ナオトことジャンバードが代わりとなれば良かったのだが、宇宙船としては小型の部類に入るこのスターコルベットでは、クルー全員を乗せて生活することはできなかった。

 闇の書の主が日本にいることは、ほぼ確定なのが幸い。

 捜査範囲を限定できるからである。

 管理世界と違い、惑星内で何百ものの国家が存在しているため、もし日本と断定されなかったら、《国境という名の壁》を前に捜査の進行が遅れてしまっていただろう。

 

「分割は、観測スタッフのアレックスとランディ、ギャレットをリーダーとした捜査スタッフ一同、司令部は、私とクロノ執務官、エイミィ執務官補佐、以上三組に別れて駐屯します」

「すみません、一つ質問があるのですが」

「何でしょう光君?」

「闇の書の主は、管理外世界の住人で日本人です、守護騎士とグレン、巫女の少女はともかく、主を管理世界の法律で確保するのは問題があるのではと思いまして」

「あ、ごめんなさいね、光さんとなのはさんには説明してなかったけど、実は事前に管理外世界の政府関係者と交渉して、次元犯罪がその世界で起きた場合、よほどの例外がなければ逮捕権はこちらに譲渡される条約を密かに結んでいるの、これぐらいの礼儀が無いと、あちら側の方々にも失礼ですし、魔法を使った犯罪なんて、管理外世界ではほぼ立証できませんもの」

「なるほど…」

 

 実のところ、フィクション、特に漫画アニメで出てくる必殺技や武器は、仮に現実で使えると仮定して、それで殺害行為を起こしてしまっても、法で罰せられる罪状に該当されないので、罪に問うことは極めて困難。

 名前を書くと死ぬノート、突かれると「ヒデブ!」となる部位を突く暗殺拳。

 気を集めて発射する波動、その他諸々がそうだ。ベルカ式アームドデバイスの守護騎士たちなら、剣での殺傷、ハンマーでの殴打などで地球の法でも対応できるが、魔法を使うためのエネルギーを生成する人体の器官から魔力を吸い取られたとなると、地球では完全にお手上げとなってしまう。

 やはり彼らを止めるには、この場にいる者たちに委ねるしかない。

 ちなみにその管理外世界との交渉を行う部門は、『外世界調停部』と呼ばれているそうな。

 なんと、ごくたまにテレビでは政府が異星人と交渉しているなんてことがバラエティとかで捉えられるが、それに近いことが実際起きていたとは…………現実はフィクションより奇なり、その奇の側にいる高町兄妹も開いた口が塞がらない。

 それだけでも驚きなのに、思わぬ不意打ちはさらに。

 

「ちなみに司令部は、なのはさんの保護を兼ねて、なのはさんのお家のすぐ近所になります」

 

 連続して繰り出された。

 

「は?」

「はい~?」

「にゃ?」

「なんと?」

「「ふぇ?」」

「え?」

「はあ?」

 

 各々の言いまわしで『?』を表現しながら?顔になる民間協力者一同。

 初めから――勇夜、光、なのは、ナオト、フェイトとアリシア、ユーノ、アルフ――の順である。

 ゲンは既に概要を聞いていたのか冷静だったが、リンディから聞くまで全く知らなかった勇夜たちはと言うと。

 

 

 

「「「「「「ええええええええええええええええええーーーーーーーーーーーーーーー!!!」」」」」」

 

 

 

 その瞬間否が応にも心(うち)から湧きあがってくる感情を、絶叫と言う形で表現するのであった。

 

 

 

 

 

 二日後……日本では日曜の日。

 海鳴市では名の知れた高町家が経営する喫茶店。

 喫茶翠屋、から歩いて5分先にあるマンションの最上階の一室。

 二階付きの超高級で、賃貸費用は管理局からの経費で落としているとのこと。

 

「エイミィ、テレビはこの辺りの壁で良いのか?」

「うん、そこに張っておいて勇夜君、後ゲンさん、その冷蔵庫は―――」

 

 では、この部屋を対闇の書臨時作戦本部兼用の生活空間にすべく、引越作業が行われている。

 余り人が多過ぎると近所に目立つので、作業を行っているのは、勇夜とエイミィ、ナオトとクロノ、ゲンの5人。

 

「モニター出力正常稼働――――」

 

 大型家電なども大荷物の運搬は勇夜とゲン師弟、小物類はエイミィ、結界魔法でスペースを拡張させた一室を臨時オペレートルームにする役目はクロノとナオトが担当している。

 リンディは高町家の方々の事態の説明と、ご近所周りに、光は翠屋の当番で手伝いに行けず。

 フェイトはなのはとアリサ、すずかと待ち合わせだ。

 

「しっかし、本局の中央病院が、よくプレシアの一時退院を許してくれたよな」

「提督がフェイトちゃんにアリシアちゃんと親子水入らずでいられるよう尽力したんだって」

 

 リンディが臨時本部を海鳴に置くことを聞いた時はそれはもう驚いたが、一番の驚きは、娘と同様、保護観察付きだが裁判を終えたプレシアも暫くこの海鳴臨時本部でフェイトたちと生活するということになったこと。

 もうお察しの方もいるだろうが、昨日晴れて再会したテスタロッサ親子は、それはもう真っ赤に腫れるほど大泣きして再会を喜んでいた。

 長い子と待ちわびた念願が叶った瞬間。ようやく3人は家族としてのスタートを切ったのである。

 今日の夜には、ナオトがジャンバードで二人を向かいに行くことになっている。

 

「良いじゃないか、家族水入らずで過ごせることは、実はとても貴重なことなんだぞ、ゼロも何度か経験があるだろ?」

「それなら、師匠もそうじゃねえか、下手すりゃ……俺以上に……」

「そうだったな」

 

 ゼロの場合は無論ウルトラセブンのこと。

 そしてレオもそうだった、いやそれ以上とも言えるかもしれない。

 王制国家だった獅子座L77星の王子であったレオは、マグマ星人の侵攻で全てを失った。

 この時弟のアストラとも生き別れとなり、再会するまではそれなりの期間を要した。

 これだけでも心折れそうな半生だが、地球に来てからもレオの受難は続いた。

 師セブンの修行の成果で、敗北を喫する機会が減り、当時の地球防衛チームMACのチームメイトとも溶け込め、アストラとも再会し、恋人もいたりと順風満帆な時間を送っていた時、地球侵略とレオ抹殺を目的に惑星ブラックスターからやってきたブラック司令の手駒である円盤生物と呼称される巨大生物の一体、シルバーブルーメによってMACは壊滅、隊長であったダン(当時消息不明だったが、ウルトラの母に助けられる)とレオ以外の隊員は全員殉職し、さらに街を襲撃して、MACに入隊以前から勤めていたスポーツセンター以来の付き合いであるゲンの恋人、友人たちすらも殺されてしまった。

 地球に来たウルトラマンの中で、最も壮絶な人生を送ってきたレオ。

 磁気嵐が吹き荒れるK76星での修行当初は『クソオヤジ』と呼び、彼に反抗心を剥き出しにしていたゼロだったが、その苦難を知った今では実の父親と並んで、深く尊敬している人物である。

 

「あのさ師匠、ちょっと……頼みたいことが」

「フェイトちゃんとなのはちゃんを、鍛えてほしいのだろ?」

「っ!……………なんでそれを?」

「何年お前の師匠をやっていると思っているのだ?それぐらい察しはつく、彼女たちも、パートナーたちもパワーアップを所望している以上、相応の強化が必要だ」

「悪いな、昔の師匠を鍛えてた時の父さんみたいな憎まれ役を押しつけちまって……」

「気にするな、お前はお前のやるべきことやれ、友であるグレンを重罪人にするわけにはいかないからな、ひょっとしたら、蒐集は主が預かりしらない、騎士たちの独断であるかもしれん……騎士の一人と会ったあの時、私にはとても彼らが悪意をもって他人の魔力を奪っているようには見えなかったからな…」

 

 独断………まだ確証があるわけでもないのに、師の仮説には妙な納得感を感じる勇夜。

 グレンは口の悪さなら俺といい勝負だが、義侠心と義理人情に厚い男だ。もし今の主が、過去の主だった人のように、書の力目当てに蒐集を強いているろくでなしな野郎なら、あいつはむしろ、騎士たちを止める立場を取る……はずなんだ。

 まあ今は推測でしかないから、本人に会ってとっちめてやらないと、実際の事情は分からないのだけれど。

 

 

 

 

 師匠とさっきみたいなやり取りを挟みつつ進めているるうちに、作業があらかた完了して、段ボールだらけだった部屋は、引越したて特有のモデルルームの様な流麗さを醸し出していた。

 

「勇夜くん、ちょっとお使いに行ってもらえる?」

「ああ、いいぜ」

 

 引越しが一段落した時、エイミィから渡されたものは、いわゆるリストが書かれたメモと、インターネットの検索サイトの地図検索から印刷された地図であった。

 

「○×呉服店、海鳴支店?」

 

 地図にマーキングされた店の名をついに口にしてしまう。

 何やら〝着物〟と言った類の服を売ってそうな店名だったからだ。

 

「提督の代理で来たと言えば分かるから、そのお店で受け取った制服をフェイトちゃんに渡してきてくれない」

 

 制服? 確か日本の小学校の大半は基本自由服、海鳴(ここら)で制服着用を義務付けられている小学校と言ったら………なのはが通っているあそこしかない。

 つまり今まで同い年の女の子とは気色の違った複雑な人生を送ってきたフェイトが、なのはたちの通う聖称で晴れて学生デビューということに。

 まったく、リンディも粋なことをしてくれるぜ、思わず俺の口から笑みを零れた。

 

「分かった、ちょっくら行ってくるよ」

 

 

 

 

 

 喫茶翠屋のラウンジでは、フェイトにとってビデオメールでは何度か顔を合わせているが、こうして直に会うのは初めてな、なのはの親友であるアリサとすずかと、そしてなのはと4人、それにユーノとアルフを交えながら談笑している。

 

「ユーノ君も久しぶり(人間の男の子って聞いた時はびっくりしたけどやっぱり可愛い♪)」

「きゅ……きゅう」

 

 ユーノはと言うと、再びフェレットの姿となり(人間の姿だと学校に行かねばならず、捜査の都合上、外にはこの姿でいなければならなかった)。

 森で助けた小動物が、実は人間の男の子であった事実には、二人も驚愕を受けた。

 ユーノの人柄の良さも有り、さすがに光の時のような一騒動は起きずに済んでいる。

 一方でその実、アリサは内心『温泉に行った時、光さんが無理やり男湯に入れてよかった……なのはのことだから、ユーノが男の子だと知ってても一緒に入ったかもしれないし』とほっとしていた。

 実際、平行世界のなのはは、ユーノの正体を知ってても風呂に連れ込み、健全な男の子であるユーノは必死に理性を抑えることを強いられていたりする。

 

「アルフの毛、ふさふさで気持ちいい」

「わん♪(えっへん、可愛いだろ?)」

 

 アルフはリンクの助言を切っ掛けにして取得した子犬フォームとなっている。

 狼なのになんで子犬なの?って方もいるだろうが、お気になさらずに。

 自分で可愛いなどと言っているが、実際愛らしさ全開のルックスである。

 一応、アリサもすずかも魔法の事や2人の正体は既知済みでだ。

 

「でも2人とも災難よね、魔法使いしか狙ってないんでしょ?その通り魔」

「にゃはは、まあね」

「今度もし街中で会ったら、とっちめてやろうかしら」

「アリサ、相手は結構強いからやめておいた方が…」

「でも昼間の人がたくさんいるところなら魔法はつかえないでしょ、ボキャブラリーには自信はあるから、言葉攻めで問い詰めてやれば……」

「ふふ、アリサちゃんらしいね」

 

 少し物騒な物言いだが、それだけ彼女が友情に篤い性格であると言えよう。

 

「へえ、仲良くやってるじゃねえか」

「あ、勇夜さん」

「勇夜」

 

 そこに諸星勇夜が、綺麗に包装された箱を持って現れた。

 

「お久しぶりです勇夜さん」

「あなたが2人と知り合ってたって聞いた時はびっくりしました、まあ…あなたのお陰で折り合いはつけられましたし、ありがとうございます」

 

 丁度なのはとフェイトがジュエルシード争奪戦をしていた頃、フェイト絡みで悩んでいたなのはに苛立ったアリサは一時期彼女と疎遠状態になってしまった。

 偶然喧嘩帰りにばったり会った勇夜から助言を受けなければ、『本人が話してくれるまで待つ』と結論付けられず、そのまま疎遠な関係が続いていたかもしれない。

 

「何だよ、そのツンデレヒロインみてえな物言いは」

「あ、あなたに言われたくはありません!」

 

 あえて言おう。二人とも、どっちもどっちなツンデレキャラである。

 この時アリサの彼への態度が、どこかつんけんどんで、且つよそよそしいのは、彼女が勇夜から自分と似た《匂い》を感じ取り、戸惑っていたからだった。

 2人のやりとりに、思わず笑いがこみ上げる一同。

 と言うかゼロ、サブカル関連の知識も持っているとは……ウルトラの知識欲、恐るべしである。

 もっとも『ツンデレ』というサブカル単語は、余りその手の分野との関わりが薄い層の人々にも、それなりに知れ渡ってたりもしているが。

 

 

 

 

 

「勇夜、その小包って?」

 

 笑いが一段落したところで、私は勇夜の腕の中にある、綺麗に包装された小包のことを聞いた。

 何だか衣服が入ってそうなのだけれど……何なのだろう? そもそも誰に宛てられたものなのだろう?

 

「まあ、フェイト宛てのプレゼントってやつだ」

「ふぇぇ!!?//////」

 

 プレゼント?……勇夜からの……プレゼント……プレゼントプレゼントプレゼントプレゼントプレゼントプレゼントプレゼントプレゼントプレゼント。

 

 

 

 

 

〝プレゼント〟

 その一言がフェイトの頭の中で、何度も何度もエコーがかかってリピート再生されていく。

 言葉の発信先が、想い人の勇夜――ウルトラマンゼロということもあって、フェイトの頬は一秒も経たずに紅く染まるのであった。

 分かっている人もいるかもしれんが、エイミィがこのシチュエーションを狙って、あえて勇夜にその買い物を頼ませたのは言うまでも無い。

 

 

 

 

 

 その頃翠屋店内で、はリンディが高町家への挨拶を兼ね。

 

「申し訳ありません、私たちの世界のいざこざで、またなのはさんを巻き込んでしまって」

「いえ、こちらこそなのはを助けていただきありがとうございます」

 

 一昨日起きた一連の出来事の説明と釈明をしていた。

 以前訪問した時は、上手いこと嘘八百で誤魔化していたが、今回はウルトラマンと怪獣のことなど、ある程度の情報は伏せつつもほぼ本当のことを話している。

 愛娘が襲われたことに関しては由々しき事態だと高町夫妻は思ってはいるが、かと言ってそのことでリンディを攻めるほど狭量な心は持ちあわせてはいない。

 

「それになのはが襲われた原因は魔法の力なんでしょう? ならなのはが魔法使いになろうがなるまいが、襲われる状況になることに変わりなかったはずですから」

 

 さすが高町家、異世界の巨人を養子にとったり、娘が魔法使いになったことを信じて受け入れたり、順応力の高さは異常を通り越したレベルである。

 士郎の言う通り、なのはは魔法と出会う前から多大な魔力を体の内に秘めており、蒐集の格好の獲物になることは、どの道避けらそうになかった筈だ。

 

「そういう訳で、これからしばらくご近所になります」

「どうぞ、ごひいきに」

 

 店の中で『魔法』だの『世界』だのといった単語を飛びかわして大丈夫なのか? 電波で痛い人とか思われない?

 とか思っている人に補足として、今リンディは周囲に、周囲のお客に自分たちの会話の内容を気にさせない特殊な結界を張っているので無問題である。

 その時店のドアが開き、戸にかけられた鈴が店内に響く。

 

「いらっしゃい、ってあらみんなどうしたの?」

 

 例の小包を抱えたフェイトと、彼女に続いて勇夜たちが入店してきた。

 

「あの……リンディ…さん……これ」

 

 フェイトの持つ小包は包装が解かれ、カバーが開かれた包みには、新品のなのはたちが通う聖称大付属小の女子用の制服が見えた。

 

「転校手続きはもうすんであるわ、週明けから、なのはさんたちのクラスメイトね」

 

 なのはたちと同じ学校に通って………しかもクラスメイト!?

 嘘…みたい。

 天にも舞い上がる気持ちとは、今みたいな心境のことを言うのだろうか?

 まるで、夢の…ようだ。

 毎日…なのはと一緒、姉さんと母さんと一緒、そして……勇夜とも一緒に、会える日々。

 さらに交換日記ならぬ交換ビデオメールを通じて、日頃から学び舎での生活に憧れを募らせていたフェイトにとって願ってもないこと。

 昼はなのはたちと勉強+遊び、夜は母さんとアリシアとみんなで過ごす。

 これだけでも大層なご褒美であったが、これが何より勇夜からの贈り物であることが、フェイトの喜の感情のメーターを急上昇し。限界以上に振り切ってしまった結果。 

 パタリ。

 

「ふぇ、フェイト!?」

「フェイトちゃんしっかり!」

 

 感極まったことによる自身の精神の容量を超えた喜びの余り、頭に血と熱が上った影響で喫茶店のど真ん中で仰向けに倒れ、のびてしまったフェイト。

 願ったり叶ったりなのは分かるのだが、少しは場所を弁えてほしいものである。

 こうはん………もとい、まだ続く。

 

 

 

 

 

 

 数時間後。

 

「たくよ、なのはと同じ学校に通えることになって嬉しいのは分かるけどさ、店ん中で倒れるなよな」

「ご、ごめん」

ようやく意識を取り戻したフェイトに、叱責とまではいかないが苦言を呈す勇夜。

 実はこうしてしゅんと謝るフェイトは、気絶する前、とんだ問題(?)行動をやらかしてしまっていた。

 

 

(言えない……勇夜から制服をもらった時、実はこっそり勇夜のにおい嗅いでドキドキしていたなんて、恥ずかしくて言えない//////)

 

 恥ずかしさをちゃんと感じつつも、思いっきしフェイト爆弾発言をかました。

 喜びで舞い上がり過ぎた上での行為だったので、さすがに頭が冷えた今となっては反省しているものの、もし勇夜が知ったら、いくら彼でもドン引きは免れないだろう。

 

「さて、転校初日は明後日だ、その前に」

『封時結界』

 

 リンディたちと共同で住まうことになる部屋のリビングに結界が張られた、 

 しかも、結界の外と中で時間の進行がずれる効果付き。

 勇夜は何をしようと言うのか?

 

「リンク、例のアレを」

『了解』

 

 バン!

 続いてリンクから取り出され、勢いよくテーブルに叩きつけられたのは、各教科の教科書とノートの束。フェイトが幸福感で倒れている間に購入しておいた、聖称大付属小で採用されている教材群。

 それらと、外の一時間が結界内では半日になる魔法の組み合わせ。

 となれば、彼がこれからやろうとしていることは唯一つ。

 

「あの……勇夜?もしかして」

「ああ、これからみっちりと、地球での勉強をしごかせてもらう」

「ええ~~~~!?」

「『え』じゃない!!!!」

「はい!」

「まさかフェイト……何の予習も無しに学校通うつもりだったのか?」

「そ、そんなことありません」

 

 劇画調な顔つきとドスの利いた勇夜の剣幕に、もう既に涙目で震える子犬なフェイト。

 確かに、これから学校に通う以上、予習は必要不可欠だ。

 特に日本語の文字は早急に覚えておかなければならない。いくらフェイトが学力を持とうと、それなりの準備を怠れば、授業で赤っ恥をかくことは必須。

 しかし、それにしても勇夜のテンションがおかしい。師匠のレオを特訓と称してしごいていた〝父〟と、明らかに同じ目をしていた。

 どうもその辺りの鬼畜さまで、ちゃっかり父から受け継がれたようである。

 彼の一段と鋭くなったその眼力を前に、フェイトの冷や汗が止まらない。

 

「覚悟は、良いな」

「(か―――覚悟って、何ぃ~~~~~~~~~~~!!!?)」

 

 

 

 

 

 さらに、数時間後。

 

「「フェイト!?」」

 

 ジャンバードに乗って海鳴に来たアリシアとプレシアを待っていたのは、勇夜のスパルタ指導によって精魂尽き果て、全身が真っ白になり、教材たちが置かれたテーブルにうつ伏せになっているフェイトであった。

 どことなく、『カ~~~~~~~~ン』と効果音が鳴りそうな赴きある様相をしている。

 

「一体どうしたの!?フェイト!」

 

 心底心配そうにフェイトを抱えるプレシア、本当に、つい半年前までは考えられなかった夢のような、でも現実にそこにある光景である。

 

「母さん………姉さん」

 

 灰色に染まって生気の抜けた体と心に鞭打ちながら、フェイトはプレシアの言葉に対し、振り絞った一言を。

 

「日本語って……難しいね」

 

 どうにか言葉にして出し、パタリと疲労で眠りについた。

 

「アリシア、どういう意味かしら?」

「さあ…私にも」

 

 何が起きたのか知らない姉と母には、ちんぷんかんぷんである。

 原因は無論、鬼教師となったゼロの鬼畜指導。

 さらにプラスとして、今まで日本に関わった外人たち共通の壁を、フェイトはこの数時間思い知らされたことで、この有様となったのだ。

 しかれども、このスパルタ教導のお陰で、フェイトは初日からすんなり授業に付いていけることになるのだが、それはまた今後の回にて。

 

 付け加えとして、なぜ急遽決まったことながら、引越や転校手続きが滞りなく進んだと言うと、実は裁判を終え次第、リンディは長期休暇をとってテスタロッサ親子と海鳴で暮らす準備を前々から計画していたからであった。

 

つづく


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