ウルトラマンゼロ The Another Lyrical Story 第一章   作:フォレス・ノースウッド

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多分公式世界線含めた他の世界のセブンとレオが見たら驚くと思います。
どちらかといえば感情的になって諭される方なゼロが逆に相手を諭しているのですから。


STAGE03 - 思いがけない再会

 危ないところだった。

 久々に海鳴市へ足を踏み入れて、市街地のど真ん中に生成された結界を目にした時―――フェイトが〝危機〟に瀕していると言う直感が過ぎった。

 それに従い、内部へと進入すると、今まさに鮮やかな桜の色の髪をした剣士に斬りかけられるフェイトを目にし、間一髪どうにか助け出すことができた。

 結界に入っちまったが、後悔はしてない。たとえ〝来る者は拒まず、出ようとする者は絶対逃がさない〟仕様だとしても。

 フェイトを抱きあげたまま、近くにそびえ立っていたビルに一旦降り立ち、彼女を下ろしてあげる。

 

「………」

 

 本当ならば、元気な姿を目にして再会を喜び、感慨深く色々を話したいところだったのだが……そんな場合じゃなかった。

 背中が感じる。あの剣士が発する〝気〟を、業火のように猛々しくも澄んだ、真っ直ぐな闘気だ。

 本来なら正々堂々とタイマンによる勝負を好むタイプな〝武人〟と見た。そういう奴は嫌いじゃない。

 けど、ここ最近起きていたらしい魔道師と魔法生物襲撃事件と、この結界が現れたと同時に〝なのは〟の魔力反応が消えたことを踏まえると、あの剣士たちの内誰かがなのはに不意打ちを仕掛けたのは確かだ。

 他にも仲間がいると留意し警戒は怠らず、全方位に感覚の網を張りながら、剣士にこっちの闘気を放って牽制していた。

 

「フェイト、バルディッシュの調子はどうだ?」

 

 ここは戦場であることを頭に入れて、自分なりに厳かな調子でフェイトの愛機の状態を確認する。

 

「リカバリーすれば……まだどうにか」

 

 フェイトはそう答えたけど、どうにか原型は保っているものの、相当ダメージが酷い。AIも積んだコアのにも痛々しく罅が入っていた。

 確かに応急処置(リカバリー)はできるだろう………だが応急は応急、とても接近して斬り込めそうにない。

 フェイトに〝戦力外通告〟をするようで、気が引けるが……仕方ない。

 

「そうか……あの剣士の相手は俺がする、フェイトは結界の解析中なユーノのサポートに回ってくれ」

 

 予想はしてたけど、案の定………フェイトの顔に〝せつなさ〟が張り付いた。

 

「でも……」

『この結界は防御力も、プロテクトも頑丈です、市街にほんの僅かな被害も与えずに脱出するには、全員同時に結界外へ転移するしかありません』

「リンク……」

 

 リンクが冷静に、けれど棘を抑えた口調でフェイトを諭した。

 

「色々と面倒なんだよ、この結界……」

 

 後悔はしてないが、この結界が厄介な仕様なのは事実だ。

 内部に進入するのは簡単だけど出るのは困難な、相手を誘いこみ閉じ込めるタイプの結界で、おまけに外壁と内壁の強度もかなり頑丈、リンクの分析によればたとえ穴を開けたとしても直ぐに塞がってしまうとのこと。

 そうなると、一番手っ取り早いのは完全に破壊する方法なのだが、それにはゼロツインシュートクラスの火力が必要になる………とても市街地に一欠片の被害も出さずに済ませそうにない。

 上空から撃ては光線は勢い余って地上に着弾しちまうし、地上から撃っても被害は避けられず、外からの攻撃はできなかった。

 かと言って内部からだと、チャージ中に剣士たちの邪魔をされてそれどころじゃなくなる。

 昔の自分なら〝面倒くさい〟と思ってしまう方法だが、プロテクトを解除と同時に一斉に外へ転移するのが一番の方法だった。

 プロテクトの解除作業に入っているにはユーノだけではないけど、さすがにそれをやりながら戦闘するにはきつい、せめて一人は付いてあげて負担を軽くさせないと。

 

「大丈夫だ、さすがに光線は使えねえが、その程度で遅れを取るほど柔じゃねえよ」

 

 フェイトの顔にここまで影を指しているのは………やっぱり一緒に戦えない自身への無力さだ。

 半年前、別れの時に彼女が放った言葉。

 

〝ゼロ一人では戦わせない〟

 

 俺一人に、戦いの重みを背負わせたくない……助けになりたい。

 前より上がった魔力量から見ても、その想いで修練に励んでいたのは俺でも分かる。

 できることなら、一緒に戦って、俺を支えてやりたかった筈だ。

 

「フェイト……悪いが今のフェイトに、そんな無茶はさせられない」

 

 それを噛みしめつつも、同じ目線になるようしゃがみ、静かに、かつ厳しい態度でフェイト語りかけ、綺麗な金色の髪の上に、そっと手を置いた。

 

「頼むぜ、シェア!」

 

 フェイトに背を向けて、俺は剣士へと見据えると、その場飛び立った。

 

 

 

 

 

 騎士、シグナムは突然目の前に起きた出来事に、驚きを隠せなかった。

 あの瞬間、間違いなく我が剣レヴァンティンの刃は黒衣の魔導師の少女を捉えるはずだった。

 殺さぬように留意し、刀身を魔力でコーティングして殺傷力は抑えてあるので死にはしないが、魔力ダメージで意識を失うことは確実、その間に彼女の魔力を『蒐集』する算段だった。

 なのに、横からいきなり現れた光が、彼女を連れ去り、止めの一撃は空振りとなる。

 光は近場のビルの屋上に降り立つと、人らしき人型になり、抱えていた少女を下ろした。

 シグナムからはその人型は背中しか見えないが、とても人間と言うには、容姿が違いすぎる。

 騎士甲冑、バリアジャケット、それとも何らかの強化スーツの類かとも思ったが、あれからは未知なる強大なエネルギーこそ感じるられるが、魔力反応は伝わってこない。

 それに、スーツか何かにしては質感が生々しい。

どう見てもあの青と赤と銀色に染まる体は、その者の表皮としか思えない。

 あの白い魔道師のデバイスから現れたと言う銀色の戦士と言い、あのような輩は拝見した経験は皆無で一度も無い。

 少女の態度から見て、彼女とは旧知の仲かそれ以上の関係であるとしか、分からなかった。

 このまま不意を討つこともできるが、背中越しだと言うのに、発される気配が尋常じゃない。

 見た目も、守護騎士では黒一点の守護獣ザフィーラより細身だが、余計な肉をそぎ落とし、バランスのとれた、実戦的に鍛え上げられた体躯をしている。

 正体は分からずとも、小手先のやり方では、恐らく通用しない。そう思わせるには、十分な相手なのは確かだった。

 戦士が振り返って、こちらに目を向ける。直接眼差しを向けられたことで、こちらに押し寄せる〝気〟がさらに増した。

 良いだろう―――受けてたつ!

 戦士が飛翔したと同時に、シグナムも彼の方へと降下していった。

 

 

 

 

 

「ゼロ……」

 

 ゼロは、剣士のいる上空に飛んで行った。見上げる私の目は、彼の後姿から一向に離れてくれない。

 助けてくれることは嬉しいし、さっきの言葉だって、少しでも私を落ちこませまいと、ゼロなりに言葉を選んでくれていた。

 無茶をさせまいと、気遣ってくれていた。

 だけど、それでも口の中が、とても苦い味で一杯になっていた。

 ゼロ独りだけ戦わせたくなくて、せめて少しでも力になりたくて、嘱託魔導師の試験と裁判の合間を縫ってまで、毎日訓練を重ねて続けてきたのに………まだ、自分とゼロの間には遠い隔たりがある。

 もどかしかった………無力な自分が悔しかった。

 気が思い詰まり、傷だらけの愛機に、思わず力を入れてしまう。

 

『sir』

「バルディッシュ……」

『お気持ちは分かりまが、そのためにsirが今やるべきことを放棄しないでください、何もできないわけではない、ゼロも、sirも』

 

 いつになく饒舌な愛機の言葉に、自分の意識が引き締められた。

 莫迦だね……私……本当に今現状を見ていることしかできないのは、むしろなのはの方なのに、レイジングハートとなのは自身が受けたあのダメージでは、この戦線には立てそうにない。

 あの子は、人の助けになりたい優しい子だから、辛い思いの棘は、は自分よりずっと鋭い。

 ダメだよね。今の自分じゃ、ゼロの背中に立てないからって、何もできないわけじゃないし、何もしない言い訳にしちゃいけないよね……フェイトはバルディッシュに魔力を流し込み、愛機はそれを糧にして修復作業を行う。

 

『Recovery complete』

 

 コアにまで罅の入ったバルディッシュは一応、戦闘できるまでに修復させた。

 一応と付けたのは、これが一時しのぎな応急処置だから、AIを積むがゆえに、他のデバイスより構造が複雑で脆い弱点がある。

 愛機の負担を抑えるには、もう近距離戦――クロスシフトは行えない。

 でも、それでも―――私たちができることを。

 

「行くよ、バルディッシュ!」

『Yes,sir』

 

 気持ちを切り替えながら、フェイトは結界に覆われた魔天楼の中を飛翔した。

 

 

 

 

 

 群れるビルとビルの隙間を通る、今は誰もいない道路で、アルフと巫女服狐耳の少女の戦闘が行われている。

 

 久遠と言う名の半獣半人な巫女の少女の手から、青白い稲妻が放たれる。

 一目見ただけで、常人を感電死させる威力を感じさせる轟音と雷鳴だ。 

 繰り出されるのは、稲妻だけではない。

時に、空気を集束し編み込んだ風の刃も飛ばしてくる。

 使い魔でも、正面から受けてしまえば、痛手になると容易に推測でき、事実アスファルトの大地やビルなどの建物は、巫女の少女の攻撃によって何とも呆気なく破壊しつくされていく。

 その撃の数々を、上手く体を反らせて回避するアルフ。

 だが久遠は、初撃と同等の破壊力の電光を連続して発射した。

一撃一撃が、フェイトのサンダーレイジに迫る威力であるのに、それを魔法陣も詠唱も無しに放ってくる。 

 なんてデタラメな! どこの天候を操るミュー○ントな白髪黒人ヒーローだよ!

 前に、なのはの親友お勧めの映画に出てきたキャラクターと、その少女は全く同じ能力を有していた。

 舌打ちしつつも、それらの雷撃の群れを回避できているのは、以前ゼロから手ほどきを受けた成果だった。

 アルフは、相手の動きをよく見つつ、感覚を研いで大気の微かな変化を読み、体捌きも水の如く流れを意識させることで、雷撃と風刃の軌道を読んで直撃を避けていた。

 ゼロのスパルタ指導が功を奏した。内心彼に感謝しつつ、このままじゃ膠着状態を打破できないと悟ったアルフは、両手を握り。

 

「あんたが〝ストーム〟なら!―――」

 

 指の合間から、魔力で編んだ刃を三つ伸ばした。

 魔法の刃――フォトンダガ―。

 

「――――あたしは〝ウルヴァリン〟だよ!」

 

 自分と相手を、とあるアメコミヒーローたちに例えながら、意気陽々とアスファルトが抉られるほどの脚力を以てして走り出す。

 

「っ!」

 

 少女はアルフのセリフに、少しびっくりしたようだが、狼らしい瞬速で走ってくるアルフを、電撃で攻撃。

 

「このぉ!」

 

 その雷撃を、魔力の爪で迎撃した。

 爪と雷撃がぶつかり眩くスパークする。サイズフォームのバルディッシュ専用の斬撃魔法、サイズスラッシュは、切りつける瞬間、刃の魔力濃度を高めて切れ味を上げるものだが、今アルフが会使用したのは、勇夜直伝のフォトンダガ―から派生する『ダガ―スラッシュ』、サイズスラッシュ同様の効果を持つ斬撃魔法。

 こっちに向かってくる、稲妻のみの雷雨を次々その爪で切り裂き、刃のリーチ内寸前にまで接近。

 飛び上がり、爪を振り下ろす。

 アルフの一連の反撃に見習ったのか、久遠も指先から魔力を結合させ、その爪で受け止めた。

 刹那的に光が溢れ、魔力同士の反発で爪と爪が弾かれる。両者とも、この程度では戦意は削がれず、お互いへ切りかかり、その後も爪と爪の撃ち合いは続く。

 閃光が迸る、獣同士の荒々しい剣閃であった。

 

 

 

 

 

 半獣半人の少女2人が激闘を行う大地の真上での上空では、ミラーナイトとヴィータの三次元戦闘が行われている。

 性格的に似ている一面があるが、獣性と冷静の合間で戦っているアルフに対し、ヴィータは苛立ちが隠せなかった。

 実を言えば、彼女はいつも何かに苛立ちながら戦っていた。

 それが、おぞましい戦いに否応なく踏み込まざるを得ない実状か、それとも戦いしかできない己自身か、当人すらはっきりとは分からない。それが余計イラつかせる。

 ここ数カ月は、それらとは無縁な生活を送っていたが、『蒐集』を端に発して精神状態がその数カ月以前に戻りつつあった。

 いや…戻るどころか、反動でより大きくなっている。

 

「こぉぉぉぉのやぁぁぁぁぁぁろぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーー!!!」

 

 怒り任せに振るわれた一撃は難なく避けられ、空を掠めた。

 空振りになるのが、これで何度目になる?

 くそ! なんでこうなるんだよ!?

 たった一人の魔力を蒐集する。

 それだけ、たったそれだけだったんだ。

 なのに相手が魔導師で、カートリッジを使う羽目になって、気がついたらあたしらと久遠総動員で管理局の関係者らしき連中と戦闘する羽目になってる。

 たった『一人』が、高くついた。

 進行速度はともかく、蒐集自体は今まで滞りなく進んでいた。

 それだけに、この状況そのものが、イラつきを倍加させる。

 それと……

 

「アイゼン!カートリッジ―――」

「ロードはさせません!」

 

 銀の戦士の右腕から伸びた光剣を回避するために、カートリッジロードは断念させられる。

 ハンマーの剛腕と流麗な剣が何度もぶつかり合う。

 こいつだ…こんな人なのか人外なのか判別がつかない野郎。

〝魔力は感じない〟のにそれとは違う力を発し…表情は見えないのに、殺気だけは突き刺せるほど鋭い。

 明らかに加減しているのに、自分とやり合ってる。突然、ビルのガラスに消えたと思ったら、違うビルから、いきなり現れる。

 未知の恐怖、と言ったものが彼女を染め上げようとする。

 それが余計苛立ちに変換された。

 

 なんでだよ…あたしは…あたしたちがただ………■■■に生きてほしい、ただそれだけだってのに。

 

 相手の連続キックを、デバイスで受け、勢いで後退したところを今だと突っ込むヴィータ。

 その右からの切り上げでハンマーが、銀の戦士に炸裂する。

 否、したはずだった。

 破壊したのは、銀の戦士でなく、それに擬態した鏡だった。

 

 どうして……どうしてこうなるんだよ!!

 

 心の中の叫びも、空しく虚空に響くばかりだった。

 

 

 

 

 

 

 まずいな……■よりは少し歳が上ほどのスクライア一族の民族衣装を着た少年、先程までシグナムと戦い、今は少年の加勢に来た漆黒のジャケットを着た金髪の少女と戦闘を行っている、シグナムからはザフィーラと呼ばれた半獣半人の屈強な青年は冷静に状況を見ていた。

 まさかここで一気に局の関係者と接触して戦闘することになるとは。

 シャマルはまだ相手側に存在を悟られてはいない。

 シグナムとヴィータと久遠の方はやられはしない―――と言いたいところだが、あの燈色の狼の使い魔もかなりの手練れだが、あの2人の戦士は厄介極まる存在だ。

 特にヴィータは、あの銀色の戦士に冷静さを失っている。今まで、多少感情的になっても勝ち続けていたことが仇となったか。

 シグナムは……戦闘狂な一面が表出しなければ良いが……あの三色――トリコロールの戦士、拳士としてはとんでもない猛者だ。

 そのうえで。力を温存させている。

 戦況は五分五分か……その上さらに相手方に援軍が来れば……こちらとしては、〝彼〟の助太刀を望みたいが、そうも言っていられない………元々彼にも秘密にして行っていること、久遠も彼に戦わせたくないから、我々に協力している。

 自分たちで切り抜ける……しかあるまい。

 

 

 

 

 

「行け!バインドウィップ!」

 

 ユーノは、鎖型のバインド、チェーンバインドを鞭のようにしならせ振り回し、ザフィーラを牽制する。

 鞭に当たったアスファルトは、粉々に抉れ、粉塵が彼の視界を遮った

 

『Arc blade』

「セット、ファイア!」

 

 金髪の少女の死神の鎌なデバイスから、三日月状の魔力刃――アークブレードが3発飛ばされる。

 ヴィータに対して使ったアークセイバーと違い、回転しない直進タイプ。

 

 ユーノの二振りの鞭(バインド)からの連撃を前にその場から動けないザフィーラに向かって光刃が迫り。

 

「クロスウィップ!」

 

 同時に左右二方向から、鎖が迫るが。

 

「防人の鋼!」

 

 彼はそう叫ぶと、全身を覆わせたフィールドが発生。

 フェイトとユーノの同時攻撃は全て彼に命中、爆煙で姿が見えなくなる。

 2人は宙に蔓延る煙を注視していたが、その煙幕の合間から、今だ健在のザフィーラがそこにいた。

 

 まったく効いていない!?

 

 彼は魔力フィールドで強化された堅牢な肉体をもって、一連の攻撃を防ぎきってしまった。

 

「我は盾の守護獣………その程度の攻撃で崩せると思うな!」

 

 自ら名乗ったその異名の通り、彼の防御力は常軌を逸していた。

 ザフィーラは、その図太い二の腕を振り上げると。

 

「鋼の軛!」

 

 ハンマーを振り下ろすかの如く、地面に叩きつけた。彼の拳で、破砕されたアスファルトから、白く光る刃が飛び出し、ユーノに肉薄する。

 

「ユーノ!!」

 

 間一髪、スピードに長けるフェイトに抱えられてユーノは事なきを得た。

 

「(ありがとう、フェイト)」

「(転送の準備は?)」

「(できてるけど、空間結界が破れない………ゼロさんの仲間も手伝ってくれてるけど、もう少し時間が……)」

「この中からは出させん!烈鋼牙!」

 

 突き出したザフィーラの右腕から、光線が発射される。

 直進する光をユーノが障壁で受け止める。

 衝撃と手に走る痛みに耐えながら、ユーノはどうにか防ぎきった。

 今自分たちがやるべきこと、それは勝てなくても、絶対負けないことだった。

 

 

 

 

 

 

 空中戦を行うシグナムは、対峙する相手の力量にも驚きを隠せなかった。

 相手をしているトリコロール――三色の戦士は、得物を持たず、己の肉体のみを武器にして自分と戦っている。

 それは良い。ザフィーラのように、徒手空拳で戦う者だっている。

 それを極めた達人だっている。事実、只今戦っている相手がそうだ。

 

『explosion』

「紫電―――一閃!」

 

 紅蓮に染まる刃となった片刃の大剣――レヴァンティンを上段に構え、戦士に向けて振るう。

 唐竹の一閃を戦士は体を右に逸らしてかわすが、それは予想の範疇だ。

 刀身の炎を維持させつつ、タイムラグ短めに返す剣で横なぎに切りつけた。

 が、それすらも空振りに終わった。

 戦士は瞬時に体を急上昇させ、体を縦に一回転させながらの両足からの蹴りが繰り出された。

 それを一時レヴァンティン本体に格納させていた鞘を召喚し、受け止め、右手に持つ本体で反撃の突きを放つ。

 戦士は両腕をクロスさせながら受け止め、体をずらし、衝撃を緩和させながら後退した。

 構えなおしたシグナムは、今度こそ当てるとばかり、急加速して剣先を突きつけた。

 常人なら軌道の一筋も捕えられない連続の突き。

 それらの連撃も戦士は避け、突きを手で逸らしつつ、相手の運動を利用し後ろに回り込みながらひじ打ちを当てようとする。

 

「(ちっ!)」

 

 背に鞘を回してどうにかガードする。

 この戦士の腕前、想像以上だ。

 そのトリコロールの体色と、銀色の厳つい鉄面がどういう作りをしているのかはさておき………身体能力も反応速度も高く、それを十全に扱えるだけの修練も欠かしていないことがはっきりと分かる。

 空戦での技量は、おそらく相手の方が上だ。水を得た魚のごとく、自在に飛び回っている。

 ここにいるのは不味いと悟るシグナム、〝空〟は相手にとって有利、こちらには不利なフィールドだ。

 テリトリーからは、離れるに限るな。

 

「穿空牙!」

 

 刀身から衝撃波をいくつも発し、接近させぬようにしながら身を降下させ、アスファルトに降り立つが、戦士は降下速度を緩めぬまま衝撃波を避け、シグナムが降り立った瞬間、鉄槌と化した踵が振り落とされた。

 剣の峰と鞘で受け止めるシグナム、アスファルトが隕石が落ちたかのようにクレーター状に凹み、破片が宙を舞った。周りの建物のガラスも一斉に吹き飛ぶ。

 攻撃する側だった戦士は、飛び上がり弧を描きながら、降り立った。

 シグナムは二つの魔法で、脚の鉄槌を耐えきったのだ。

 一つはフェイトのフォトンランサーを全弾受け切った防御バリア――『Panzer geist――パンツァーガイスト』

 

 もう一つは、筋肉、骨、血管、体のありとあらゆる細胞に魔力を付加させて肉体を強化する一種のドーピングな身体強化魔法―――『Körperver stärkung――ケルパースタークオン』

 これらを駆使して戦士の踵落しから身を守り抜いた。

 逆に言えばこの二つの魔法を同時行使しつつ愛機で受け止めなければ、防ぎきれなかったわけではあるがだ。

 何よりもシグナムが驚ろかされたのは、踵落しを含めた体技のほとんどは魔力的付加を行わずしてあれだけの威力を発揮したことだった。

 今のところ、彼は空を飛ぶ以外に、体内に宿るエネルギーをほとんど使用していない。

 ほぼ己の肉体のみで、剣と魔法を駆使する自分とやりあっていた。

 やはり厄介だ。

 相手は、体力の消費を抑えながら戦っている。

 対して自分は、奥の手はみせていないが、騎士甲冑、レヴァンティンの維持、さらに魔法の行使。

 全体的なエネルギーの消費量なら、こちらが上。こんな強かなつわものが相手だと、下手に手を打ち、戦闘中の判断を間違えれば、即……敗者の道を辿る。

 長いこと、邂逅することが叶わなかった―――強敵。

 シグナムの体が震えあがる。相手への恐怖からでは無い。

 むしろ悦び、戦士にしか持ちえない歓喜の武者震いだった。

 顔は凛とした表情を崩さずにいるが、内心、この状況下に、彼女は心を躍らせていた。

 

 もう……このような気持には巡り会えないと思っていた。

 二度と味わえないと、諦めていた。

 現代……今の時代では、自分と対等以上に戦える武者はおらず。また自分たちは、平穏と言う日常を与えられて、剣を握って戦うことすらも無いと思っていた。

 それは喜ばしいこととは思うし、平穏の尊さも噛みしめている。

 我らが〝主〟選択したのは、血なまぐさい戦いよりも、ただ我らと共に生きることだった。

 それを己の体質(ほんしょう)のせいで台無しにするわけにはいかない。

 それらを頭では理解はしていたが、同時に奥底では、寂しさ、もどかしさが出口を見つけられずに渦巻いていた。

 それがどうだ? いるではないか……目の前に………………自分と全身全霊を以て〝戦う〟に値する〝猛者〟が、ここに、確かに存在していた。

 なんと、僥倖な巡り合わせか、こうなるとより望みは増大していく。

 

 もっと、この男の力が見たい。

 

 彼の、本気が見たい。

 

 できることなら、剣閃を競い合いたい。

 

 今のやつの得物は己そのものだが、体捌きで分かった……〝この男は、剣の腕も相当な使い手だ〟と。

 その上で、本気の、全力での、全てを賭けた真剣なる勝負を所望したい。

 体の芯まで血がたぎってくるのを、まざまざと感じる。

 強者と存分に死合いたいケダモノの血が………圧倒的な熱量を帯び、湧き上がる。

 

 

「(シグナム落ちついて、わたしたち本来の目的を忘れちゃだめよ)」

 

 危うく、一気に沸点まで湧きあがった闘争心が、その女性の声で抑えられていく、熱も急速に引き、体中を巡った真紅の悦びも、鳴りを細めていった。

 いかん、自分がどうしようも無く闘争に飢えた獣であることは自覚しているが、今は抑え時か。

 

「よもや拳のみで私とここまでやり合えるとは、賞賛に値するぞ」

 

 だが……せめてこれぐらいはさせてもらわなければ、我慢できそうにない。

 

「私はベルカの騎士、ヴォルケンリッターが将シグナム、そして我が剣レヴァンティン、戦士よ、不躾がましいことを承知で尋ねるが、名は何と言う?」

 

 堂々と己の名を相手に上げたその様相は、正に騎士だった。

 

「悪いが人のダチに喧嘩吹っ掛けた〝通り魔〟に、名乗ってやれる名前なんてねえ」

 

 シグナムの口上に、戦士は顔を横に振らせそっぽを向きつつ、怜悧な物言いで、拒絶の返答を口にした。

 戦士の対応に、残念だと思う一方、納得もするシグナム。

 当然か……今の我らは、騎士の風上にも置けぬ落ちた存在、名前を聞こうなんぞ、愚の骨頂だ。

 通り魔と呼ばれた方が、むしろ性に合ってるだろう。

 

「と―――言いてえがな、ゼロだ」

 

 だが、戦士は一度は逸らした目先を彼女に向けると、自身の名を上げる。

 

「何?」

「ウルトラマン……ゼロ、それが今名乗れる俺の名だ」

「ゼロ、ゼロか……」

 

 彼が、名前を口にしてくれた。

 我の言葉に応えてくれた。

 その上で戦うことを了承してくれた。

 これ以上の悦びは無い。

 思わず口が、不敵な笑みで崩れていく。

 一度は収まった闘士の血が、渇望が再び、身体を埋め尽くしていく。

 ウルトラマンゼロが、左手を腰に右手を真っ直ぐ突き出した独特の構えを取る。

 やはり、とても抑えきれそうにない、我らが結界を外さない限り、やつは戦うことを止めないだろう。

 本来の目的の逸脱も、それを余儀なくされるぐらいの強敵だったとシャマルたちに言えば言い訳は立つ。

 ゼロは、左手を腰に据え、右手を突きだし構えをとる。

 どうやら、まだ拳のみで自分との戦いを続ける気らしい。

 その上で、続きを始めよう、という訳か、良いだろう。

 ならば…………その力………極限まで引き出すまでだ。 

 私も全身全霊をもって向かい討とう!

 ゼロの金色に光る瞳と、シグナムの水色の瞳から放たれる殺気が真っ向からぶつかり。

 ほぼ同時に地面を蹴り上げ、低空ジャンプを披露しながら、互いの距離を縮めていく。

 互いの武器が相手に届く、その寸前。横のビルが、いきなり爆発を起こし、そこから飛び出した火の玉がゼロをさらい、進行先のビルへと突っ込んでいった。

 火の玉につき破られたビルたちは、支柱を失い、巨体を立たせることを維持できずに崩れ落ちていく。

 その光景をシグナムは呆然と見送ることしかできなかった。

 

 

 

 

 

 まさか、彼が来てるの?

 ビルの群れの一つの屋上に、金髪のショートボブと緑を基調とした色々に染め上げられたドレスらしき服を着た20はじめほどのおっとりとした雰囲気を感じさせる女性。

 彼らの仲間の一人、シャマルだ。ポジション的には、回復補助のサポート役で、見た目の通り、正面からどんぱちやり合うには向いていない。

 前々から、あの子の兄である彼が、ただの人間で無く、本来の姿のことも含め、知ってはていたが、まさか火の玉になって結界を蹴破ってくるなんて。

 ただでさえ、管理局の者らしき何者かから結界のプログラムをハッキングされて、どうにか抵抗して現状を維持していたが、今の一撃で劣勢に立たされて始めた。

 下手すると、結界が無力化されてしまうだろう。

 でも、彼に文句を言うのは筋違いだ。

 たとえ彼から一発殴られることになっても、当然の報い。

 それだけのことを、自分たちはしているのだから。

 

 シャリン。

 

「買い物帰りの寄り道にしては、偉く物騒なところに迷いましたな、お姉さん」

「っ!?」

 

 高い金属音と、低音の人の声を耳が捉えた。

 シャマルは焦燥と驚愕で、ぞっとした。

 誰もいないはずの屋上に、自分の後ろに人がいる。声からして、恐らく中年ほどの男性……その男の言う通り、彼女はその日買い出しに出て、帰宅途中にその足で結界内に入りこんでバックアップに入っていた。

 だが、それよりもこの男から放たれる〝覇気〟。

 押し寄せる強圧を前に、心臓を手で掴みあげられた錯覚に見舞われた。

 とても視線など合わせられないが、このまま背を向けるよりは……と、恐る恐る…背後へと振り返って見る。

 

「何でしたら、ご自宅まで送って行きましょうか? 御覧の通り、今夜は酷く物騒な夜ですから」

 

 その男は、確か仏教と呼ばれる宗教の僧侶、それも托鉢僧の恰好をし、右手には、僧が各地を渡り歩く際、不運災厄から僧の身を守り、かつ煩悩を払う効果を持つ音を鳴らす杖、錫杖を持ち、左手の指には和装と不釣り合いにも見える獅子の彫刻が彫られた指輪を嵌め、顔は笠で覆われよく見えないが、その隙間から、そのまま瞳の先の対象を射殺せそうな気迫と圧迫力を秘めし―――〝獅子の眼光〟―――が煌めいていた。

 

「あなたは……一体?」

 

 猛獣に睨まれたように涙目なシャマルは、恐る恐る尋ねる。

 

 

 

「ご覧の通り、通りすがりの僧侶ですよ」

 

 

 

 無論、〝彼〟の師であるこの男が、ただ者な訳が無い。

 

 

 

 

 

 

 

 いきなり現れた火の玉に鷲掴みされて、ビルからビルへと突っ切られたゼロは、体を回しながら相手の腹に蹴りを入れ、巴投げの要領で投げ飛ばした。

 普通なら焼け死ぬ火力の炎から解放され、地面に降り立つゼロ。

 ゼロは信じられなかった。

 まさかと鼻で笑いたかった。

 そんなわけないと断じたかった。

 確かに、自分は〝あいつ〟との再会を望んでいた。その為に……何年のもこの次元世界を渡り歩き、手掛かりを探していたと言うのに。

 なのに、こんな形で………出会ってしまうなんて。

 身に纏った炎を振り払い、姿を現したのは……真っ赤で筋肉質なボディ、胸の上部には太陽を連想させる丸型の光、ファイヤーコア。

 そして、ミラーナイトと同じく表情を作るパーツが無く、代わりに炎がそのまま形になったかのような顔。

 彼こそ、かつては宇宙海賊の用心棒で、ウルティメイトフォースゼロのメンバーたる炎の戦士―――《グレンファイヤー》―――その人であった。

 

 

つづく。


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