ウルトラマンゼロ The Another Lyrical Story 第一章   作:フォレス・ノースウッド

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※リア充爆発しろ注意報
今回の話はウルトラ戦士に『爆発しろ』と言いたくなる回です。
まあこれはジョークなのでお気になさらず。


STAGE02 – RETURN

「あれって、光兄の……」

 

 レイジングハートから迸った、輝く〝紋章〟。

 間違いない……兄が、鏡から鏡へ伝ってきたワープの光。

 一拍置いてなのはは、自分がまた魔導師として最初の戦闘の時のように、ミラーナイトとしての兄に助けられたことを悟った。

 

「なのは」

「っ………ユーノ君」

 

 目を向けると、ユーノが心配そうになのはを見つめている。

 

「待って、今治癒魔法をかけるから」

 

 そう言いながら、なのはに手を翳すと、ユーノの足元に魔法陣が出現、ほのかに暖かいそよ風が吹き、なのはの全身に走る痛みが引いていく。

 ユーノからの話しでは、今日フェイトたちの裁判が終わり、その事を連絡しようとしたが、通信が繋がらず、調べてみたら海鳴で結界が張られていることが判明し、丁度ミットチルダから地球に帰るところだったミラーナイト――光と一緒に、フェイト、ユーノ、アルフが急いで現場に駆け付けてきた、というわけである。

 クロノ、エイミィらアースラクルーも、艦の整備を一旦取りやめて、サポートに入っているとのこと。

 

「ユーノ君、あの女の子って……」

「分からない、ただ……似たような事件が、最近色んな世界で起きてるんだ…」

 

 

 

 

 

 その頃ビルの外では、なのはを襲撃した〝通り魔〟な鉄槌の少女と、ミラーナイト、フェイトが対峙していた。

 

「民間人に一方的な魔法攻撃、軽犯罪では済まないよ……君」

「なんだてめえら、管理局の魔導師か?」

「答える義務は無いと言いました」

「ちっ…」

 

 警戒心を剥き出した、少し舌足らずな口調で問うてくる少女の言葉を、光――ミラーナイトはその一言で下し、斬り伏せた。

 淡々と答えているが、フェイトはその奥にある彼の怒りを感じ取っていた。

 彼の気持には同感だ。

 対峙する6,7歳ほどの少女は、有無を言わせず民間人を攻撃した。その相手が愛する妹となれば尚更、怒りが沸くのは必然。

 自分も、正直少女の理不尽に憤慨したくなる。

 けど、抑えなければ――とフェイトは律し。

 

「間違ってない…わたしは時空管理局嘱託魔導師、フェイト・テスタロッサ」

 

 彼が、現在ミラーナイトの姿をし、少女の問いに答えないのは、ちゃんとした理由があるらしいが、フェイトの場合は立場上、名乗っておかないといけない。

 一応、前に勇夜からは相手がよほど意気消沈してないと効果は無いと言っていた『局の常套文句』を言っておくことにした。

 彼女の意志を確認するには、もってこいな言葉でもある。

 

「投降すれば、君には弁護の機会は与えられる、まず武器を下して―――」

「誰がするかよ!」

 

 速攻の即答によって、即刻拒否された。

 

「(やっぱり…駄目か…)」

「(罪を犯してることを自覚はしているようですが、だからと言って素直に応じてくれませんよ、前のあなたと同じです)」

「(うん…そうだね…)」

 

 フェイトは光の発言に同意する。自分も少し前は、あちら側の立場だった………言い方は違えど、この少女と同じ対応をとり、なのはに敵意の刃を向けていたのだから。

 真紅の少女は、予想通りの返答とともに、その手に鉄球を出現させた。

 

『Schwalbe fliegen』

 

 魔力を球体に圧縮させ、本物の鉄でできた球と区別がつかないほどそっくりな球体を作り出して、打ち飛ばす、それがなのはに最初に襲ってきたこの誘導魔力弾の正体だった。

 合計8つ鉄球を召喚して、それらを打ちつけて二人に向けて飛ばした。

 飛んでくる鉄球を旋回してかわすミラーナイトとフェイトだが、誘導機能を持つ鉄球が二手に別れ、向かってきた。

 

『(主、フェイト殿、お気をつけを、やつのデバイスはカートリッジシステムを搭載したべルカ式です)』

 

 追いすがる鉄球とドッグファイトをする2人に、今は右腕の上腕に装着されているシルバーライトが忠告してくる。

 

「(なんですって?)」

『(主はともかく、フェイト殿は接近戦を避けて下さい、ミット式とインテリジェントデバイスでは分が悪すぎる)』

「(分かった…)」

 

 得意手は封じられるが、相手はなのはと、愛機のレイジングハートをあれだけボロボロにした強敵、贅沢は言えない。

 それにフェイトは接近戦がメインだが、距離を問わずに戦えるよう、母の使い魔で乳母兼家庭教師だったリニスから戦闘スキルを身に着けられている。

 

「ミラーエッジ!」

『Scythe Slash』

 

 ミラーナイトは手甲から出現した剣で、フェイトはバルディッシュの魔力刃で鉄球を迎撃し。

 

「シルバァァァァーランサー!!」

 

 ミラーライトは光り輝くクリスタル状の槍、『シルバーランサー』を4発周囲に形成し発射。

 

『Arc saber』

「アーーークセェイバァァァァァーーーーー!!」

 

 フェイトは三日月型の魔力刃を投擲する斬撃魔法、『アークセイバー』を放った。

 闇夜を翔ける光の槍と光の刃が、鉄槌の少女に迫る。

 

「ちっ!アイゼン!!」

『Tödlich schlag』

 

 少女はアイゼンと呼んだデバイスのハンマーで、先陣を切る光の槍、シルバーランサーを叩き落とし。

 

「障壁!」

『Panzer schild』

 

 三角状の魔力障壁で、光の刃であるアークセイバーを受け止めた。

 よし、思惑通りかかってくれた―――今だ!

 

「(バルディッシュ)」

『Saber Expload』

 

 なのはとの初戦でも使った魔力刃の暴発『セイバーエクスプロード』を敢行。

 三日月の魔力刃が暴発し、物理的衝撃を内包する閃光を放つ。

 決定打にこそならなかったが、爆風で怯む少女。

 

「はぁァァァァァァ―――――――――――!!!」

 

 態勢を立て直させまいと、ミラーナイトが上空から踏み込み、手甲の光剣を袈裟がけに振り下ろす。

 それに対し少女は、ミラーエッジをハンマーの柄で受け止めた。

 スパークする剣と鉄槌。得物を押し合う両者、ほぼ拮抗していたが。

 

「こぉぉぉぉのぉぉぉぉぉーーーーーーー!!」

 

 少女は、得物越しにミラーナイトを力任せに押し返そうとする。

 

『photon lancer multi shot』

「ファイア!」

 

 が、稲妻を有したフェイトの射撃魔法、フォトンランサーの連弾が少女を襲う。

 直射タイプの魔力弾なので、少女はどうにか回避し、彼らと距離がとって離れるが、途端体に力が入らなくなる。

 何かに挟まれて、体の自由がきかない。少女は体の周りを見下ろすと、自分の四肢が捕縛魔法のリングバインドで拘束されたことに気づいた。

 少女は毒づいた表情を浮かべた。

 周りを見回すと、下方に、燈色の髪と狼の耳と尻尾を持った女性、アルフがいた。

 

 

 

 

「(アルフ、御苦労さま)」

「(お手柄ですね)」

「(はは……できればさ、もう少し一暴れしたかったけど)」

「(贅沢は禁物ですよ)」

 

 三人のとった戦法はこうだ。

 ミラーナイト、フェイトが彼女の意識をこちらに向けさせ、気を取られている隙に、アルフがバインドで捕える、であった。

 少女は強引に振りほどこうとするが、当分は動けない。

 が、念のためにとミラーナイトは逃がさぬよう。

 

「もう暫くじっとして下さい、ミラーウェイト!」

 

 重力波で動きを封じる光の十字架、ミラーウェイトを少女の周囲に漂わせた。

 技の特性上、動き回る敵には向かないが、一度発動すれば、十字架に蓄えられたエネルギーがつきるか、十字架が破壊されるまでは身動きがとれなくなる。

 

「荒いやり方で申し訳ないけど、君の名前と出身世界、目的を教えてもらうよ」

「くそ…」

 

 少々手荒な真似をしたが、改めて事情聴取を行うフェイト。

 一方、ミラーナイトは、どこか違和感を覚えざるを得なかった。

 手ごたえが……無さ過ぎる。あの少女は見た目はなのはとフェイトより幼いが、あのタイプの魔法とデバイスの使い手なら、相当の実力を持った魔導師で相違ないだろう。

 なのに、いくら3対1とは言え、余りにも呆気ない。

 それに、あの時、得物を交わしたあの瞬間、明らかに彼女は手加減していた。  

 抵抗している以上、彼女は捕まる気などさらさら無かったはずなのに。

 もしこの少女が、噂の襲撃犯だとすれば、まあ下手に本気を出せない理由も分かる。

 それでも尚、奥歯が引っかかる感覚は途絶えない。

 何なのだ? この違和感。

 引っかかりが取れずに戸惑うミラーナイト。

 刹那、背後に突如押し寄せる寒波、冬の大気の仕業ではとは異なるもの、この背筋が凍る独特の冷たい感覚。

 紛れもない、この感覚の正体は―――殺気。

 そして彼は〝違和感〟の正体がそれであると、察した。

 

「2人とも!その場から離れて!!」

「「え?」」

 

 彼がフェイトたちに警告を放ったと同時に、フェイトの前に片刃の実体剣を持った女性が現れ切りかかる。

 

「ディフェンスミラー」

 

 ミラーナイトがすんでのところでフェイトの前にバリアを張って、奇襲を掛けた剣士の斬撃を防いだ。

 

『(主、真上から来ます!)』

 

 何? 上空を見上げると、雲から轟音と一緒に雷撃が落ちてきた。

 それをも、ディフェンスミラーで受け止める。

 しかし、何て威力だ……プレシアのサンダーレイジに匹敵する規模の雷撃。

 すんでで、雷光の射線上から離れる。

 ミラーナイトを捉えるはずの雷は地面に突き刺さり、スパークとクレーターを起こした。

 

「フェイト!ミラーナイト!」

 

 たった今夜襲を受けた2人の元へ、アルフは掛けようとするが、それを阻む者が現れる。

 

「(耳と牙!?まさかこいつ)」

 

 いきなり視界に出現した屈強な大男に、回し蹴りをくらわされる、アルフは腕を盾にガードするが、衝撃で吹っ飛ばされた。

 突然の奇襲。闇討ちとは、まさにこのことであった。

 

 

 

 

 

 

「みんな!」

 

 ビルの屋上にいるなのはとユーノからでも、その光景ははっきり見えた。

 ピンクの髪を勇夜と今のフェイトより高めの位置で、ポニーテールに縛った女性がフェイトを切りつけ。

 その攻撃をバリアで防御したミラーナイトに雷撃が降り注ぎ。

 アルフには、褐色の肌と白い髪、髪と同じ色をした耳と尻尾を持つ男に攻撃を受けた。

 そして上空からは、ミラーナイトに雷撃を放った張本人と思われる、フェイトと同じぐらいの歳で、同じ金髪な、だが狐を連想させる耳と尻尾を生やし、西洋騎士の防具を身体に身につけている他の襲撃者と対照的に、巫女服らしき服を身に着けていた。

 

「ごめんなのは、僕も行く」

「ユーノ君……」

「なのははここでじっとしてて」

「でも…」

 

 今自分と愛機がボロボロなのは、分かっている。

 頭では理解できても、攻撃を受けている光たちを見ていると、思わず体が、彼らのもとに飛びそうになる。

 

「大丈夫、勝てはしないけど、負けるつもりもないから、この結界の分析が完了するまでは持ってみせるよ」

 

 そう言うと、ユーノは彼の魔力光と同じ色の光沢が埋められた腕輪をはめた右腕をなのはに向け。

 

「癒しの円のその内に、鋼の守りを与えたまえ、ラウンドガーダー・エクステンド」

 

 詠唱を終えると、なのはの周りにドーム状の結界が張られた。

 対象を攻撃から守るだけでなく、回復効果が付加された結界魔法。

 結界魔導師なユーノならではの高位魔法だ。

 そして、ユーノはその場から戦場へと飛び去って行った。

 

『マスター』

「レイジングハート?」

『申し訳ありません……私が不甲斐無いばかりに』

「良いよ……不甲斐無いのは……私の方だから」

『気を落とさないでください、見てあげることしかできないのは、私も同じです』

「うん、ありがと」

 

 自分のためにみんなが駆け付けて、戦っている。

 嬉しいけれど無力感を感じる現状に、内罰的になりかけたなのはを愛機は励まし、彼女も重い気持ちが少し和らいだ気がした。

 

 

 

 

 

 

「どうしたヴィータ?油断でもしたか」

「うるせえよシグナム!これから逆転するところだったんだ!」

「そうか、邪魔して悪かった」

 

 右手に持つ片刃の直剣でフェイトに斬りかかり、凛々しさの中にシニカルさを交えた口調で話しかけてくるシグナムと言う名の女性に、ヴィータと呼ばれた少女は強がって答えた。

 

「ヴィータ……強がり、直じゃない」

「く、久遠まで……くそ」

「じっとして、今……捕縛、解く」

 

 見た目より言動が茫洋で、巫女服を着た金髪で狐耳を生やす幼い少女―――久遠は手から発した稲妻でミラーウェイトを破壊し、アルフのバインドもシグナムによって解除された。

 

「ありがとな……2人とも」

 

 さっきは強がって見せたが、正直危なかったのは事実だ。

 あの金髪で黒衣の魔導師とそいつ使い魔らしき狼女はともかく、あの銀色の戦士は手加減こそしていたがかなりの手だれで、殺さずに倒せる自信が無かった。なので、実は助けられたこと自体にはまんざらでもなかった。 けど、その『素直じゃない』ヴィータは、少し照れ気味に二人に感謝の言葉を述べるのだった。

 

 

 

 

 

 その頃、アースラ艦内においては。

 

「アレックス、結界の解析、まだできない?」

『完了までまだ掛かります』

 

 クルーらが全力で現況の情報収集に勤しんでいたが、海鳴にかけられた結界のせいで、現地の様子がモニターに映らず、解析しようにも。

 

「術式が違う……」

 

 この有様だった。管理世界の魔法は、全容の分からないファンタジックな代物では無く、高度にプログラム化された科学的なもの、例えるなら一種の精密機械。

 

「ミットチルダ式のとは全然違う、どこの魔法なんだろ? これ…」

 

 オペレータールームにいるアースラの通信主任兼クロノの副官であるエイミィとブリッジのクルーたちは、その〝精密機械〟の配列を調べているのだが……御覧の通り、一般に普及されているミットチルダ式と違うシステムのもので、解析作業が進まないのが実状であった。

 

「当然だ、あれはベルカ式、それも古代べルカ時代に使われたという古い術式だ」

「!………誰だ!?」

 

 突然、後ろから見知らぬ男性の声が響き、振り抜くと2人はその場で固まった。

 

 少年と少女がそこにいる。

 少年の方は、男性にしては長めで女性には短めな青紫がかったショートカットに、当人の真面目さを体現させる眼鏡を掛けている。

 で少女の方は、今海鳴の結界内にいるはずの―――

 

「フェイト……ちゃん?」

 

 ―――少女、フェイトと同じ髪、瞳、顔つきをした女の子だった。

 

「妹のフェイトとそっくりなのは自覚してますけど、一応一度会ってるんですから、間違えないで下さい」

 

 声も、口調はフェイトより明るめで快活だが、その姿は彼女と瓜二つ。

 だがよく見れば、容姿は彼女より幼く5,6歳ほど、それでいて本人はフェイトの姉と自称した。 

 と言うことは……後は該当する人物はただ一人。

 

「で、この人は―――」

「ナオト・J・フライト、諸星勇夜と高町光のとは、彼らがこの世界に来る以前からの付き合いだ」

「ということは、君は……」

「詳しい説明は後だ、すまないがそちらの端末を貸してもらおう」

 

 2人は、オペレーター席に寄り、キーボードを高速で叩きながら、解析のバックアップを始めた。

 

「エイミィさん、ブリッジの人にもべルカ式のことを伝えておいて下さい」

「あ……はい、ブリッジへ―――」

 

 真剣な眼差しで作業する2人に、エイミィの手が止まっていたが、アリシアの真剣味を帯びた言葉をきっかけに、艦橋へ通信を繋いで伝達した。

 

「その、ナオトさん、解析と解呪にどれぐらいかかる?」

「かなり頑強で複雑な術式だが、通信とモニターの回復は早急に終わらせる」

 

 本来、この2人は不法に艦内に侵入し、勝手に機器を扱っているのだが、助っ人になってくれる以上、今それを問い詰めるのは野暮だった。

 

「ねえ、アリシアちゃんもいるってことは勇夜君も、こっちに来てるの?」

「ああ、今海鳴とやらの都市に向かっている、まあ正確に言うと、『彼も』――だがな」

 

 

 

 

 

 

 結界内部の海鳴中心市街では、乱戦と言うべき戦況だった。

 ミラーナイトはヴィータと、アルフは久遠と呼ばれた巫女服を着た狐の少女と、ユーノは銀髪の狼男。

 そしてフェイトは、髪型とか雰囲気とかが、どこか彼と重なる桃色の髪をした剣士の女性、シグナムとの戦闘を余儀なくされていた。

 さっきの女の子の仲間であろうから、あのデバイスも同タイプのはず。

 シルバーライトの忠告通り、接近戦はできるだけ避けなければならない。

 それでも何回か、打ち合っては余儀なくされていた。

 

「(ユーノ、全員を結界外に転送できる?)」

「(アルフと一緒ならどうにか…)」

「(聞いた?アルフ)」

「(やり合いながらはきついけど、なんとかやってみるよ)」

 

 元々なのはの救助がメインだったし、こうなった以上、無理に勝ちに行こうとうとするより、この場から退散した方が良い。

 が、相手はそんな逃げの姿勢では、とても振り切れそうにない。

 相手から放たれている気迫、あれは本物だ。

 多分、局の魔導師が経験してないことを経験している。

 いわゆる―――〝命のやり取り〟とも呼べるものを。

 

『Photon lanser』

「撃ち抜けファイア!」

 

 剣士に向け、合計6発のフォトンランサーを放つフェイト。

 剣士シグナムは、何故か身に迫る閃光を前に微動だにしない。 

 

『Panzer geist』

 

 彼女のデバイスから、やたらテンションが高い声で『パンツァーガイスト』と単語が発せられると、周囲に魔力フィールドが張られ、フォトンランサーは全弾命中こそしたが、そのフィールドを前に全て無効化された。

 

「そ、そんな…」

 

 まさか、ランサーを全て受けながら無傷で済むとは思ってもみなかったフェイトは、心根にて焦燥の情が増していく様を自覚する。

 

「魔導師にしては悪くないセンスだが、我らベルカの騎士に1対1を挑むにはまだ足りん、レヴァンティン!」

『了解!』

「カートリッジロード!」

 

 刀身のつけ根がスライドして開き、弾丸の薬莢が飛び出すと、刀身が炎に染まった。

 

「紫電―――」

 

 炎に包まれた剣を振り上げ、剣士が踏み込む。

 

「―――一閃!」

 

 一瞬、相手が瞳から消えた。

 辺りを見回すが、眼前にいきなり現れ、炎を纏った剣を振り下ろした。

 

『Defencer』

 

 バルディッシュが障壁を張るが、その斬撃に容易く破られ、砕け散る。

 

「叩き切れ!レヴァンティン!」

『Explosion』

 

 続けて、右胴の一閃が襲う。

 止むおえず、バルディッシュの斧の刃で受け止めるが、驚異的な破壊力で、漆黒の刃はおろか、中心部のコアにまで損傷の亀裂が走る。

 一連の攻撃に態勢が崩れ、衝撃でフェイトは下方に撃ち落とされた。

 

 

 

 

 

 飛びそうになる意識をどうにか繋ぎとめるが、体中に走る痛みで、飛行に持ち込めない。

 このままじゃアスファルトの地面に真っ逆さまだ。

 魔力フィールドで死にはしないが、怪我そのものは避けられない。

 多分…立てないまま、あの剣士にやられる。

 強い……戦闘の経験からして、自分と違いすぎる。〝殺し合い〟、本物の〝戦い〟をこの人たちは経験している猛者なのだと分かった。

 加減を抑えているのに、圧倒された……それが分かってても、自分が情けなくなる。

 ずっと……〝あの人〟の力になりたくて……〝光〟になってあげたくて。

 今度は自分が助けると、初めての友達に約束だってしたのに。

 時間が許す限り、本当は〝怖いもの〟だって忘れずに、修練はかかさなかったのに。

 肝心な時に、何もできずに翻弄されるばかり、なんて……ダメな子。

 彼女の生来のネガティブ思考が、自身を支配しそうになった。

 その時。

 

〝諦めるな!〟

 

 頭の中に、言葉が響いた。

 誰のものかは判別できない。エコーが強過ぎて、男の人って以外は全く分からなかった。

 でも、その言葉を何度も心の中で言い返す内に、思い出す。

 諦めるな……そうだ……みんな諦めなかった。

 どんなに私が〝過去〟に捕らわれて……誰の言葉にも耳を貸さず、何度も拒絶されても、

それでも諦めなかった。

 だから、私は救われた……ようやく〝一人の人間〟としてスタートを切れた。

 それだけじゃない。 

 あの…あの人を含めた光の巨人たちは、何万年も人の光(きぼう)を信じて守り続けている。

 いつ終わりが来るか、その先が見えないはずなのに、それでも世界とそこに住む人々を守ろうと、助けようと頑張ってきた。

 自分が想像できる以上、気の遠くなる永い時の流れに、埋もれそうになっても、〝あの人〟の先輩たちは、それでもと。

 終わっちゃ……駄目だ。たかだか5年ちょっとしか生きてない私が、こんなところで、この程度で、挫けてちゃいられない!

 痛みに耐えながら、魔力を放出し、少しづつ落下速度を抑えながら、身をその場を滞空させて態勢を立て直そうとする。

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーー!!」

 

 そこに剣士が、頭上から唐竹に剣を振りおろしてきた。

 落下スピードを相乗させているのか、速さは自分の飛行速度に匹敵していた。

 まだ体の痛みが抜けないせいで、かわすことも、防御さえ間に合わない。

 

〝ゼロ!〟

 

 思わず、あの人の名を、心の内で叫んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 来ない。いつまで経っても、感じない。

 自分に降りかかるはずの斬撃が……痛みが、身体に刻まれることはなかった。

 代わりに、体の感覚が捉えたのは、ゆったりとした温かさと、とても優しく包み込む光。

 自分の体を、誰かが抱きかかえている。極限まで鍛え上げ、鋼のように固いけど、確かな暖かさ、熱が伝わってくる両手と両腕と、胸の温もり。

 光の熱と体の熱、そのどちらも、私はかつて経験したことがあった。

 忘れもしない、見間違えようがない。

 自分の心に刻まれ、絶対に色あせることにないあの〝光〟と〝熱〟。

 そうか、来てくれたんだ―――彼が、助けに来きてくれたのだ。

 

 ほんと……ずるい。

 

 私は、ゆっくりと目を開いた。

 そこには眩く光る人がいた。私は今、彼に抱えられている格好だ。

 輝きと言うベールに包まれて、彼の全体像が掴めない。

 やがて光は消え、その姿が露わになる。

 赤と青のボディに、銀色の鉄面、最初は怖いけど、頼もしさすら感じさせる釣り上った金色に光る瞳―――その勇姿がはっきりフェイトの目に焼きつけられる。

 

「悪い、待たせたな―――フェイト」

 

 やっぱり、こんなのずるい……と思った。

 悔しさからじゃない、むしろ、喜んでしまう。だって、こんなタイミングで来てくれるなんて、嬉しくて………堪らなくなっちゃうから。

 見間違えようのない、その勇壮なる姿。

 私を救ってくれた恩人の一人な男の子――諸星勇夜の本来の姿。

 M78星雲光の国からやってきた、私にとっての、最高のヒーロー。

 平行世界の宇宙の、M78星雲から来た光の戦士。

 

 ウルトラマンゼロ。

 

 今まさに、彼は〝この世界〟の地球に―――帰ってきた。

 

 

 

 

 

「おかえりなさい……ゼロ」

 

 フェイトはゼロに、帰還を祝福する言葉を送る。

 彼の名を口にする彼女の顔は、とても晴れやかで眩い笑顔だった。

 

つづく。


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