ウルトラマンゼロ The Another Lyrical Story 第一章   作:フォレス・ノースウッド

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クライマックスに入った第二部の話しを書くのに忙し過ぎて、こっちでの更新がストップしてしまいすみません。

今回のいわゆる新作パートはK76星での師弟の話。
本来は好漢なレオ師匠なので、ちょっと茶目っ気を入れてみました。


腐れ縁とのはじまり

 M78星雲惑星アルトラ、ウルトラの星または光の国と言った異名のある星の人々からは〝K76星〟と呼ばれ、星の皮膚とも言える地表が赤味がかった惑星。

 ここは毎日強烈な磁気嵐が吹き荒れ、並の生物ではとても生命活動を全うできない過酷な星であった。

 

「デェア!」

「イェアァァ!」

 

 ごつごつとした岩肌な地上の一画にて、二人のウルトラマンが肉弾戦を繰り広げていた。

 一人はウルトラマンゼロ。

 もう一人は彼の師、ウルトラマンレオだ。

 50メートルものの巨体であることを一瞬忘れてしまうスピーディな身のこなしと、そこから繰り出される重々しい打撃の数々は、もし観戦する者がいるとすれば、その者たちに言葉を失わせ、我を忘れさせるほどの、実戦さながらで熾烈な組み手であった。

 互いの攻撃がぶつかり合う度、磁気嵐の暴風よりも遥かに強力な衝撃波が何度も迸っている。

 ゼロが右足から並大抵の動体視力ではまともに捉えられない速度からのキック連続で蹴り付けた。対してレオは両腕を軽やかさすら連想させる手つきで、弟子の猛攻を捌いていく。

 腹部に見舞おうとした一際強力な正面蹴りを両の手で受け止めた。そのままゼロを投げ飛ばそうとするレオだったが――

 

「行っけぇぇ!」

 

 ――その前にゼロは左足のみで飛び上がろうすると同時に反重力エネルギーを放出し、右足の力でレオを投げ飛ばした。

 宙を舞うレオは直ぐに態勢を立て直して着地すると、直ぐ様こちらへと疾駆するゼロを見据え跳び上がった。

 ゼロも疾走の勢いを相乗させて跳躍。

 

「デェリァァァァァーーーー!!」

「ドオラァァァァーーーー!」

 

 レオの必殺技――レオキック。

 ゼロの必殺技――ウルトラゼロキック。

 ディファレターエネルギーによる炎で燃え上がる二人の右足が激しくぶつかり合い、惑星内の赤い空よりも鮮やかな爆炎が舞い上がった。

 今の爆発で後方に飛ばされた師弟。

 レオは見事に着地にしたものの、ゼロは横合いに地面へと衝突して7回ほど転がり回った。

 

「あぶね!」

 

 そこへレオが上段からの手刀を振り下ろし、それを察したゼロは跳躍でどうにか回避した。

 

「よし、ここらで休憩にしよう」

「ありがとうございました」

 

 不良っぽいルックスに反し、ゼロは綺麗な姿勢で師に一礼した。

 

 

 

 

 

「今の対応の早さには感心させられたが、受身の取り方がまだまだ甘いぞ」

「だよな……訓練校の奴らにひよッ子とは言えねえぜ」

 

 さすが師匠、これでも11年前よりは強くなってはいるものの、師の貫禄溢れる戦闘能力には一切の衰えがない。むしろなまじ実力を上げたせいで、師匠の強さがより際立った気がした。

 

「しかし、なぜまた修練の場にここを選んだ?」

「そりゃ勿論、〝初心忘れるべからず〟ってやつだよ」

 

 この星は単に更生も兼ねた自分の修行の場だけでなく、ウルトラマンとしての原点の一つでもある。初心に帰って鍛えるには格好の場所だ。

 

「それは良い心掛けだ、調子乗ってばかりだった昔とは随分様変わりしたな」

「…………」

「ん? どうしたゼロ?」

「いや……師匠に褒められるの慣れてねえもんだから、ちょっとこそばゆくなっちまって」

 

 かつての自分が余りに生意気盛りの反抗児だったこともあるとは言え、師匠は余り自分を褒めたことはない。自身を思ってのこととは言え、大抵は厳しい叱責ばかりだった。

 

「人がせっかく称賛していると言うのに、なんて薄情な態度だ」

 

 ご機嫌を損ねてしまったようで、レオ師匠は腕を組んでこちらを睨みつけてくる。

 確かに今の返しはダメだ。せっかく称賛の言葉を送ってきたのだから、ありがたく頂戴しておくべきだった。

 

「悪かったよ、だってあんま喜び過ぎると舞い上がるなとか言ってきそうだったら………」

「ふっ、冗談だ」

「へっ?」

 

 師の少しおちゃらけた笑みを見て、俺は一杯喰わされた事実を嫌って程突きつけられた。

 

「この程度の冗談を見抜けられないようでは、まだまだ未熟だぞ」

「この狸親父ぃ……」

 

 俺からの恨みのこもったガン飛ばしを、笑みでさらっと受け流す師匠。

 ちきしょう………この貫禄に満ちた獅子は、一見手厳しく堅物なようで、時々ジョークとかかましてからかってくる茶目っ気もあんだよな。

 車の件のそうだった……〝どこまでも追いかけて容赦なく引き殺そうとする危険なものだ、気をつけろ〟って冗談をつい真に受けちまって、クイント母さんとおやっさんに言われるまで完全に信じ切っていた俺はとんだ赤っ恥をかかされたっけ。

 

「向こうのナカジマ夫妻には感謝しなくてはならんなゼロ」

「まあな、でないと学校で友達相手に大恥掛いてたよ」

「ほう、そう言えばゼロ、二度目の学校生活はどうだったのだ」

 

 休憩がてらの雑談の話題は、ミッドチルダでの学校生活関連に移った。

 勉学に関しては、半分〝事実〟を上手く隠した上で話した。

 なんでかと言えば………まだ全然若造とは言え、次元振の影響で体が歳相応より幼児退行し、見た目と精神の年齢がギャップがあったことが原因。

 そんな奴が、小学校レベルの授業を受けたらどうなるかと言うと、退屈……ひたすらに退屈だった。

 そのため入学当初から、俺は居眠りの常習犯だった。

 真面目に授業を受けるより、寝ている時間の方が圧倒的に多く、できるだけ起きようと努力していたんだけど、気がつくと睡魔に負けていることが度々だった。

 魔法の授業も、もう基本以上のことは、相棒兼デバイス兼家庭教師であるリンクことウルティメイトイージスに入学前から教えられているので実技を除けば、夢の中。

 こんなこと師匠に話せば、事情を理解してくれた上で大目玉をくらわすに決まってる………とても話せたもんじゃなかった。

 とは言え、勉学そのものをおろそかにもできず、授業中居眠りした分、できた穴は残さず埋めようと心掛けた。

〝自由〟を満喫したいのなら、せめてやることはちゃんとやらなきゃならない。めんどくさがっていたら、余計に面倒なものをしょいこむことになる。そんなのは自由では無く、放縦と怠惰だ。

 宿題は必ず提出させていたし、予習復習もちゃんとやっていた。

 遅刻も欠席もゼロで、一応成績も上位の方を維持させていた。

 まあ、居眠り常習犯のくせに勉強は怠らないアベコベな学校生活を送っていたせいで、先生らには〝不良インテリ〟なんてあだ名をつけられてしまった。

 それを自覚しているので、言われることに抵抗感はもっていない。

 居眠り癖も、学年を進むごとに改善はされていった。それでも完全に0となるのは、最終学年の歳だったけど。

 勉強関連ばかりなのも味気なく、俺は話題を学友関係に移した。

 

「特に一緒につるんでたのは、ヴァイスとディーダの二人だ」

 

 今でも時々連絡を取り合っている二人とは、地球の日本なら小学校に相当する〝初等学校〟の一年からの付き合いだった。

 不思議と最初から、お互い意気投合したのだ。

 ヴァイスは乗り物に関する知識が豊富な野郎で、車だの飛行機だのその範囲は広々としていたが、特にヘリコプターがお気に入りだった。人柄の方を評するなら、それこそムードメーカーな炎の用心棒の〝あいつ〟とエイミィを掛け合わせたような、気さくな上に気配りもできるヤツ。

 ディーダの方は、オレンジ色の髪が印象的な、幼い頃から妙に知的でしっかりとした男子で、一方ではガンマニア、と言っても実際に撃ってみたいなんて衝動はなく、どちらかと言えば銃そのもののデザインに〝美〟を見い出して嗜好している一面もあり、ヴァイスを銃器マニアにもしてしまったヤツである。

 俺も少なからず影響を受けた身、零牙にガンモードがあるのもその為だった。

 

「あ………あいつもまあその頃から友達だったよな」

 

 その〝あいつ〟とは、クロノ・ハラオウン。あの超堅物な執務官様だった。

 さっき紹介した二人と対照的に、最初はこれと言った繋がりのない同級生でしかなかった。

 ただ、全く関心がなかったわけじゃない。

 当時のあいつは〝家庭環境〟の影響で今以上に無愛想な野郎で、優等生ではあったけど、周りに分厚い壁を作っていた。

 その姿は、俺にかつての自分を反芻させるのは充分だった。

 それでもある〝転機〟を経るまでは、ただの同級生でしかなかった。

 

 

 

――――――

 

 

 

 5年前。

 

「ユウヤ・モロボシ」

 

 地球からはいかにも近未来的に洗練されたデザインの廊下。

 第一管理世界、惑星ミットチルダ首都クラナガンにあるとある初等学校の廊下にて、その日もヴァイスとティーダの三人で教室に向かっていた勇夜は、そのクロノに声を掛けられた。

 周囲の生徒は声をかけた方と、かけられた方に注目。

 勇夜と談笑していた二人の友人も戸惑い気味。

 

「君に話がある、『放課後4時、屋上に来てくれ』」

 

 この頃から髪を肩まで伸ばして一纏めにしていた勇夜と言えば、斜に構えてクロノに視線を送っている。

 そしてクロノは用件を伝えると、さっさと去って行った。

 廊下は、小学生の日常とは思えない緊張感に支配されていたが、すぐに学校特有の喧騒を取り戻して言った。

 

「クロノに呼び出されるなんて、何かしたのか?」

 

 ディータが問いかけてくる。

 

「いや…」

 

 勇夜はこの時こう答えたが、薄々心当りはあった。

 

「あんなの小学生の目つきじゃねえよ、ヒーローの悪役より怖かった」

「お前も小学生だろ」

 

 ヴァイスのお陰で、三人の空気も朗らかになるのであった。

 

 

 

――――――

 

 

 

「一体お前は彼に何をやらかしたのだ?」

 

 まるで悪者は俺と言わんばかりの師匠の口振りだった。

 否定はできない、実際原因作ったのは自分の方だったからだ。

 

「前に話した魔法に関係してんだけど……」

 

 その頃の俺は、今以上に〝魔法〟に対する受け取られ方にいけ好かなさを感じていた。

 過度に力を求め過ぎたせいで、危うく取り返しのつかない罪を犯すところだった俺は、その経験から〝力〟そのものに〝善悪〟はなく、使う者次第で簡単に変色してしまう無色で、だからこそ怖い存在だと見なしていた。

 そんな俺からしてみたら………あの世界は〝魔法〟を神聖視しているようにしか見えなかった……〝クリーンエネルギー〟なんてお題目は戯言にしか聞こえなかった。

 いつかそれがとんでもない〝過ち〟に繋がってしまうんじゃないかと、気が気でならなかった。

 体が子どもだったから、迂闊にそんなこと言えず、不満は少なからず溜まっていき、とうとうある日思いっきし吐き出してしまった。

 10歳の時、管理局嘱託魔導師の資格取得の試験日のこと。

 どうしてその試験を受けたかと言えば、おやっさんとクイント義母さんから、仲間を探して次元を旅するのなら、せめて嘱託の資格は持っておいた方がいいと勧められたからだった。

 試験は見事、筆記も実技も一発合格、特に実技の一つだった局員との模擬戦では、魔法に頼らず一本を取ってやった。

 そして……その日の試験の担当官こそ、クロノの母リンディだった。

 俺に合格の通知をした直後、リンディは本格的に局員にならないかのスカウトをしてきた。

 彼女なりに表現には気を遣っただろうけど………それでも当時の俺の耳には………〝力〟を甘く見ているようにしか聞こえなくて。

 

「断る……」

 

 思い出せば自分でも戦慄を覚えるくらいの冷たい響きで一蹴し。

 

「正直言うと俺はおたくらのことはあんま信用してない、次元をまたにかけた犯罪が多い世界だから管理局のような組織は必要だとは思ってけどよ、はっきり言ってあんたらの謳い文句には辟易してんだ、そもそも魔法に対するとらえ方が気に入らない、何がクリーンだ? 安全だ? そんな〝神話〟ちょっとでも悪知恵働かせば簡単にぶっ壊れちまうんだよ―――」

 

 とまあ、こんな感じで長々と持論を述べたてて、と言うか八つ当たりをしてしまった。

 

「確かにお前の考え方は正しい、確かに〝善悪〟のない力そのものに委ね過ぎてしまうのは危険だ、お前が自力でそれを見い出せたことは誉れだと私も思っている、しかしどう考えても、クロノ君の母君にしてしまったことは大人げない〝八つ当たり〟だぞ」

「面目次第もございません」

 

 深々とわが師に頭を下げた。

 一連の話しを聞いた師匠からも、静かながらきついお灸を据えられてしまった。もし当時の自分に会える機会があるなら、『やり過ぎだ』とゲンコツ一発やるくらい反省してる。

 

「なるほど、それならクロノ君もお前を呼びだすわけだ、彼にとっては憧れの対象を侮辱されたにも同然だっただろう」

「ああ、確かにあいつにとって管理局は憧れの仕事だったし……そこに勤めてた両親はまさしくヒーローだったからな」

 

 

 

――――――

 

 時刻はPM16:00

 勇夜は校内の屋上に顔を出し、クロノは彼が来るのを待っていた。

 そして定刻通り、クロノは姿を現した。

 

「君を呼んだ理由は解ってるよな…」

「……………………」

 

 さすがに殺し合い特有の殺伐とした空気が流れていないが、とても小学生が発せられる雰囲気じゃない。

 

「先週……君は嘱託魔導師の認定試験を受けた、その時の試験担当官は僕の母だったんだ……」

 

 怒気の混じった言葉から、やっぱり呼びだしたのはリンディ・ハラオウンに八つ当たってしまった一件だと察した。

 

「お前のお袋さんたちへの侮辱を取り消せってか?」

「そうだ……」

「そのことについては謝るよ、俺もあの時はどうかしてた、けどな――――局に不満があることに変わりはねえ」

「なんだと!」

 

 とうとうクロノが声を荒げた。この辺りはまだ歳相応だろう。

 クロノにとって管理局は『憧れのヒーロー』であった。どんな子でも憧憬の念を抱くヒーローのことを悪く言われたらこういうリアクションをとる。

 さらに彼はポケット忍ばせているものに、手を取りそうになった―――

 

「待てぇ!!」

 

 が、その前に勇夜が常人離れした身体能力で一気に相対距離を詰め、ポケットに突っ込んでいた手を取り出した。

 カード型の物体……待機モードのデバイスだった。

 模擬戦にでもこぎ着けて、もし勝ったら母に投げた言葉を取り消してくれでも約束させる気だったのだろう。

 

「軽々しくそんなもん使うんじゃね!!」

 

 今度は勇夜が声を荒げ、両手でクロノの両肩を掴みあげた。

 幼い姿からは想像もできない迫力に、クロノは完全に気圧されていた。

 当然、この世界の学校では生徒が私的に魔法を使用することは禁じられている。下手をすれば……初等からでも退学されるくらい厳しい。

 勇夜はそのことも込みで荒げたのだが、それ以上に衝動のまま魔法を使おうした彼に対して〝怒って〟いた。

 

「前々から言いたかったがな、魔導師は魔法を当てにし過ぎなんだよ……お前が考えてる以上に、それを使えるこの武器は怖いもんなんだぞ!」

「だが、管理局は質量兵器の撤廃と魔法の推奨を理念に掲げているんだ、魔法が使えなきゃ、父みたいな……」

「だったらせめて魔法が『クリーンで安全』だなんて思うな! 非殺傷設定なんて便利なもんのせいで忘れがちだけどな、魔法だって人をたくさん殺せる代物なんだぞ! 絶対に安全な力もエネルギーもこの世には存在しない、どんだけ危ねえものか分かった上で、気をつけて使うしかないんだよ………親父さんを尊敬してんだったら、せめてそれだけは覚えておけ」

 

 言葉を積み重ねる度、熱くなった頭は段々と冷えていって勇夜は落ち着きを取り戻す。

 さすがに熱くなりすぎたと自嘲する。

 もしこいつが、かつての自分のように過ちを犯しそうになり、その時の自分のように、止めてくれる存在がいなかったら………一時はその恐れで頭が一杯になっていた。

 

「まあ…お袋さんに八つ当たりしたのは悪かった、ごめん」

 

 クロノの肩から手を離した勇夜は、真っすぐに頭を下げた後、屋上から出ようとした。

 

「待ってくれ!」

 

 そんな彼を、クロノは反射的に呼び止めていた。

 彼とて、彼の発言は正しいと幼いなりに認識していた。それでもせめてもと、言い返さずにはいられなかった。

 

「確かに、君の考えは間違ってない、でも……それでも守りたいんだ! この手で、この魔法で、全ての世界と人々を守りたいんだ!いや、絶対守ってみせる! もっと強くなって………父さんみたいな局員になって見せる!」

 

 と、宣言した。その力強い言葉に、勇夜は少々驚いていたが……ふと笑った。

 

「何がおかしい?」

 

 勇夜もなぜかは分からなかったが、妙に彼の真面目さに愛嬌を感じていたのだ。

 

「いや、お前のその真面目君なとこが可愛いと思ってな、期待してるぜ、『鉄頭君』」

「どういう意味だ?」

「石頭よりお堅くて融通が利かない野郎ってっことさ」

 

 顔を赤くしながら、クロノは勇夜に対して。

 

「ぼ……僕を―――からかうんじゃない!」

 

 思いっきり叫んでしまったのだった。

 

 

 

――――――

 

 

 

 それ以来、腐れ縁として何だかんだ今でもクロノとの付き合いは続いている。

 エイミィとの出会いもあって、昔に比べれば大分あいつは明るくなった。

 そして………どうしてあの頃のあいつが、他人をよせつけない奴だったかと言えば―――

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 ウルトラマンゼロが師にクロノのことを話していたその頃、本人もまた当時を思い出していた。

 

 

 

 

 

〝この魔法で、全ての全ての世界と人々を守りたいんだ!〟

 

 友にそう宣言してから5年たって、執務官の地位に就いたのが今の自分。

 次元犯罪と災害に立ち向かう一方で、上には何度も、ある程度の魔法以外戦力の解禁を打診しているけど、中々通らない

 今なら当時以上に、勇夜が抱えていた〝不満〟の正体もよく分かる。

 冷静に考えれば、使い手が限られる魔法で、日々存在が確認されて増えていく次元世界群を守ろうなんて、無理があり過ぎた。 

 発足当時はともかくだ。あの頃は、管理世界も少なく、戦乱で多くの死傷者を出して、アルハザードら次元世界のいくつかも消滅する事態になった。

 それだけに、管理局の掲げる『質量兵器の廃止』は願ってもない光明で、いくら各世界の現地政府が反対受けても、支持する大衆たちの後押しを得てどうにかできた。

 でももう、あの頃とは違う。一時的な支持で、一時的に成り立っていたあの時代のシステムでは限界が来ているし、昔より〝世界〟の数も増えたものだから、魔法とそれを使える魔導師だけではとても賄えない。

 いくら本局が人材を引き抜いても全く足りず、引き抜かれた各世界の地上本部はもっと悲惨らしいし、組織同士の確執も大きくなっている。

 内部がこの有様なのに管理世界が登録される度反対勢力が台頭、質量兵器が禁止規制されているのを良いことに密輸で荒稼ぎする悪党も後を絶たない、局員がそんな不正に手を染めている事例もあったし、魔法に対抗する兵器がいつ出てもおかしくなかった。

 次元をまたにかけた犯罪が起きる以上、対応できる組織は必要だけど、ここまで埃がたっている今となっては確実に変革が必要な時期に来ている……と言うのに、中々上手く行かない。

 歳と見た目に似合わない溜息を、何度吐かされたことか……同じ想いを抱く人たちが少なくないことが、せめてものの救いだ。

 

「フェイト」

 

 インターフォンを押すて呼ぶと、部屋の主が出てきた。

 

「何クロノ?」

「来週の聴取内容の資料を持ってきたから、当日まで目を通しておいてくれ」

「分かった」

「それより、今日もあの映画を見てたのか?」

「良いでしょ、面白いし、体も鍛えておきたいからから参考にもなるし」

 

 その映画は勇夜のお勧めで、ロ○ート・ラドラムという地球人の作家が書いた小説を映画化した作品で、記憶を失ったスパイが、自分を暗殺者にしたてあげた組織の陰謀に立ち向かうものストーリーだった。

 話にも力が入っているし、面白いとは思うが、仮にも女の子なフェイトには合わない気もする。

 僕も違う意味にで気になった作品だ。劇中では、主人公を狙う暗殺者との戦闘が何度かあるのだが、彼はよく身の回りのものを即席の武器にして戦っていた。ある時は、雑誌、ある時は本のカバー、ペンだって彼にかかればナイフになる。

 それらで自分より殺傷力のある武器を持っている相手を倒してしまうのだ。

 人間その気になれば、日常品でさえ武器に仕立てあげてしまう。

〝道具〟そのものに対し、過剰に〝クリーン〟だと見なすのがどれだけ危ないか、勇夜の持論がより強まり、僕も同意できるだけに複雑だ。

 でも、その〝現実〟たちに負けていられない。

 父だって、こんなところで折れるなと叱咤するだろう。

 自分たちは、魔法の威を借りた〝人〟でしかないが、それでもできることはあるのだから。

 

 

 

 

 

 それから半年の後、僕はずっと〝心の内〟に押し込めていたものと、直面することになる。

 

 

第二部につづく。


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