ウルトラマンゼロ The Another Lyrical Story 第一章   作:フォレス・ノースウッド

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EP28 - 一つの終わり

 洞窟のような黒い岩肌の瓦礫の地面と壁面と、様々な暗い色々が混在する空がある庭園内のとある空間。

 その空間の中央には、ジュエルシード9個が円を描きながら漂っているアリシアを乗せたカプセルと、それに寄りそるプレシアがいた。

 ここは次元振の震源地の一つだけあり、揺れは一際強い。

 もしプレシアがもう一押しすれば、この〝次元の狭間〟は次元断層によって、亀裂どころか巨大な風穴を生み出していたことだろう。

 しかし、庭園を揺らしていた揺れの上昇はそこで止まり、それどころか急激にその勢いを弱めたのである。

 原因は、もう一つの震源地の揺れが停止されたかだと、プレシアは把握していた。

 状況は、ほぼ彼女が編んだ〝流れ〟の通りに進んでいる。

 

「(プレシア・テスタロッサ)」

 

 大気を伝う肉声ではない自分を呼ぶ声がして、反射的に振り向くプレシア。

 だが周囲にはその声の持ち主に相当する影も形もない。

 なぜなら、呼び掛けた本人はこことは違う場所から呼び掛けていたのだから。

 

「(終わりですよ、次元振は私が抑えています、駆動炉も既に封印済み、あなたの許には執務官が向かっています)」

 

 念話の声の主はリンディ、彼女も自ら時の庭園に乗りこんでいたのだ。

 リンディはアースラを稼働させている魔導炉で生成される魔力のバックアップを受け、時の庭園を球体で覆う形で、特殊広域結界――《ディスト―ションシールド》を張り巡らせていた。

 この大規模魔法は、空間の隙間にわざと特殊な歪みを生じさせることで、敵からの攻撃は勿論、次元振動といった空間そのものに干渉する力、現象に対しても軽減、無効化させるフィールドである。

 

「(忘却の都、《アルハザード》…かの地に眠る秘術、そんなものは………もうとっくの昔に失われているはずよ)」

 

 虚しさと物悲しさを入り混じった響きが籠もらせて、リンディはプレシアを諭そうとしている―――そんな〝幻想〟に縋っていても、報われはしないのだと。

 

「違うわ」

 

 対して淡々として、けれどはっきりとしたプレシアの返し。

 

「アルハザードは今もある……失われた道も、次元の狭間に存在する」

 

 狂気の底に墜ちた〝悪女〟の仮面を付けたまま、真っ向から反論する。

 自分が〝最後の希望〟としていた地は、次元の狭間のどこかで、今も確かに在るのだと。

 

「(仮にその道があったとして……あなたはそこに行って、何をするの?)」

 

 演技の技法の一つに、メソッド演技というものがある。

 これは言ってしまえば、自らの過去の記憶、経験を掘り上げ追体験することで、演じる役が、ある瞬間の場面で込みあげたであろう〝心情〟をリアルに表現する演技法。

 演劇理論に関する知識は一般人並みで、そんな技法など知る由も無いプレシアは今、されどこの時それに近いことを行っていた。

 

「取り返すわ……わたしたちの過去と未来を取り戻すの」

 

 失われたものを取り戻す戦いにのめり込んでいった過程で、心を狂わせていった自分の記憶を反芻し、自身に〝戻ってきた理性〟を維持させながらも、かつて味わった〝絶望〟の味を思い返し、その瞬間に形作られたのとほぼ同じ、美貌を酷く歪ませ狂いの絶頂へと至った容貌を再現し。

 

「こんなはずじゃなかった――――――世界の全てを!」

 

 自らの内にでき、自らを蝕んでいた〝呪い〟を言葉に換え、口から力の限り号叫を迸らせた。

 その叫びと同じ時……宙を漂うジュエルシードの一個が、突然光を発し、あの『紋章』が現れるとともに、光から人が二人飛びだした。

 二次元人のワープ能力でここまで転移した、ミラーナイトとクロノだった。

 同時に瓦礫の一つから、光線の粒子が飛びだし、そこから『ワイドゼロショット』で道を開けたウルトラマンゼロも現れる。

 

「世界はいつも、こんなはずじゃないことばかりだ!いつの時代でも!誰だって!」

「誰もがみんな…描いてた未来と現実の狭間で、もがきながら今を生きてるんです、あなただけが特別ではないのですよ!」

 

 二人はそれぞれの想いの丈を、プレシアにぶつけた。

 

 

 

 

 

「(プレシア……)」

 

 そしてゼロも、どうしても直に聞きたかった事柄を、プレシアに投げつける。

 

「(あんたは本気なのか?)」

「(何のことかしら?)」

 

 フェイトへの宣告の直後、プレシアがとった行為……彼に送った〝一言〟について。

 

「(とぼけんな!)」

 

 あくまで白を切るプレシアに対し、語気が強まった。

 以前初めて対面した時も、彼はこうして啖呵を切った。

 ただし、以前と異なるのは、心の内に〝憎しみ〟を宿していないこと。〝彼女〟の日記を読み、そのプレシアからの伝言を受けた今となっては……そんなものがこみ上げてくるわけがなかった。

 

「(俺にわざわざ遺言じみたことぬかしやがって!)」

 

 あの時、この〝母親〟は唇の動きだけでゼロにこう伝えたのだ。

 

〝フェイトを、お願い〟―――と。

 

 さっきの呪いの言葉には、嘘偽りはない。

 後に〝フェイト〟って女の子になるF計画の落とし子が、アリシアと似て非なる存在だと思い知った時に、心には〝憎しみ〟と呼ぶ〝癌細胞〟がこびり付き、ずっとプレシアを蝕み続けたのは事実。

 でも……いつどこでかは分からずとも、あの〝言葉〟一つで、今のプレシアそのこびり付いていた腫瘍から解放されているのは明らか。

 なのに、今でも〝悪女〟の仮面を被っているってことは―――

 

「(こんなやり方で、あの子に報いれるとでも思ってんのか! たった一回の自己犠牲で消える程、〝罪〟ってのは柔じゃねんだよ!)」

 

 我が子を痛めつけ、その純粋さを弄んできた彼女の罪は重くて、一人では背負いきれなくて……その重しを下ろすには、気の遠くなる時間が掛かる。

 だからって、これがせめてもの償いだとでも?

 ふざけるのも大概にしろ!

 こんなのがあの親子の結末だなんて……余りに惨過ぎる……悲し過ぎる。

 

「いい加減その煩わしい〝仮面〟を外せ!」

 

 激情の強さの余り、思わず肉声で迸る想いをプレシアに投げつけていた。

 それでも尚……プレシアは〝悪女の仮面〟を被ったまま、無言で『答える気がは無い』と、突き返してくる。

 

〝少し前のあの子といい、この人といい……なんでそんな廻りくどくて、極端な方を選んじまうんだよ〟

 

 人間体であったなら、どうにもできないもどかしさで額の皺を寄せて、強く歯ぎしりししてしまうほど、悔しかった。

 やっぱり、せいぜい自分ができることと言えば、これぐらいか。

 根負けするようで歯がゆくもあるけど、絶望から這い上がってきたフェイトに、託そう。

 ゼロの視線には、この場に辿り着いた少女たちの姿を捉えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 庭園の回廊の中、先導する形でなのはとアルフとユーノと共に飛ぶフェイト。

 できれば転移魔法で一気に母のいる最下層まで行きたい気に駆られるが、そうはいかない。庭園内部全てにはそれを阻害する術式が組まれ、魔法による〝瞬間移動〟を行おうとすれば自分が行きたい地点とはまったく違うに飛ばされてしまう。

 面倒でも、地道に目的地へ進むしかない。内部の構造は大体頭に入っているから、迷子の心配はないけど、余り変わり映えのしない景観は、同じ道をぐるぐる回っていると錯覚させた。

 やがて回廊の果てを抜けて、鈍い暗色色の荒々しい大地がいくつも浮上し、周囲のガラス越しに次元の狭間の流動する紋様に囲まれた最下層に辿り着いた。

 そこからさらに進むと、〝アリシア〟を閉じ込めた円筒状の生体ポッドの傍らで佇むプレシアと、彼女に対峙する漆黒の執務官に鏡の騎士。

 そして―――

 

「ゼロ……」

 

 ―――ウルトラマンゼロが先に来ていた。

 ほっとする……あの禍々しい彼の生き写しなロボットに勝ち抜き、無事でいたことに。

 自分の視線に気づいたのか、ゼロも金色に光る瞳をこちらに向けて、ゆっくりと優しく頷いた。

 表情はいかついままなのに、何だか彼の頷きに不思議と安心を覚え。

 

〝伝えてやれ、自分の想いを〟

 

 瞳からは、そんなことを言っているような気がした。

 

「(フェイトちゃん……)」

 

 背後からも、ここまで一緒に来てくれたなのはの瞳が、そっと背中を押す。

 彼らの温かみを噛みしめながら、フェイトは我が母を見据え………少しずつ歩み寄ろうとした直後、プレシアは突然手を口に添えて咳込んだ。

 口からは赤い液が吐き出され、手にはその血がべっとりとこびり付いた。

 

「母さん!」

 

 母の急変に、フェイトは駆け出そうとするも。

 

「何を……しに来たの?」

 

 プレシアの強い怨嗟と拒絶の意志の籠もった目を突き立てられて、途中で立ち止まってしまう。

 居竦んだ体は震え、せっかく前進したというのに、右足が意図せず一歩後退し、恐怖によるストレスで、フェイトの息が乱れて瞼が閉ざされた。。

 

「消えなさい………もう用はないわ、〝アリシア〟のなりぞこ無いのあなたに」

 

 冷血、酷薄と表するに相応しい母の無慈悲な眼差しを前に、フェイトの脳は反射的に過去(むかし)の母の姿を映し出した。

 それは、少女が自らの心を維持する為に無意識に身に付けた防衛の術………だがフェイトは、瞼と一緒に瞳の上に覆われたイメージを振り払い、一度下がった右足を踏み出し、真っ直ぐ相手を見据える。

 ここで踏みとどまってはいけない………諦めてはいけない。

 

「あなたに、言いたいことがあってきました」

 

 ずっと今まで、都合よく〝彼女〟の記憶の中の母に縋ってばかりいた。

 今度は、ちゃんと〝自分〟の目で、現在(いま)の母と向き合わなきゃいけない。

 

「私は………確かに私は、アリシアと同じ姿と、遺伝子をしているだけの別人です………………でも、あなたに生んでもらったのも確かです………なのに、私は〝自分〟を母さんに伝えてこなかった………母さんがずっと抱えてきたものを、知ろうともしなかった…………今まで気づいてあげられなくて………ごめんなさい」

 

 独りだと思ってきた、独りなんだと思い込んできた。

 自分には、〝母〟以外には何もないと、決めつけてきた。

 だけどそれは違うんだって、今ここにいる人たちに教えてもらった。

 だからこそ、孤独に浸っていた自分が腹ただしい。

 本当に〝独り〟だったのは………母の方だった。失われた大切な人との〝時間〟を取り戻したくて、ひたすらもがき続けて、誰からの手も拒んで………一人ぼっちになってしまったのが今の母だ。

 

〝血が繋がってるだけじゃ家族って言わねえんだよ!〟

 

 あの時……勇夜が言っていたように、自分は〝血の繋がり〟に甘えて。

 

〝何も分からないまま戦うのは嫌なの!〟

 

 母に認められたいと願っていながら……なのはの様に、相手を分かろうとする努力をしてこなかった。

 ほんの少しでも勇気を振り絞って、踏み出せなかった結果が………母のあの姿だ。

 こんな悲しい姿のまま、姉も同然なアリシアに会わせて良い筈が無い。

 きっと、記憶の中で母に見せていた……〝姉さん〟のあの眩しい笑顔は、永遠に失われてしまう。

 

「だから何? 今さらあなたを〝娘〟とでも思えば良いの」

「どう思ってもらっても、構いません」

 

 嘲笑って切り捨てたプレシアにめげず、フェイトは言葉を紡いだ。

 

「あなたをここまで落としてしまったのは、私でもあります…………だけど、生み出してもらってから今までずっと、今も、母さんには笑ってほしい、幸せになってほしい………そう願っています」

 

 フェイトはそっと手を母に差し伸べる。

 昔を取り戻すのではない、新たな今を築く為に。

 

「私の、フェイト・テスタロッサの―――本当の気持ちです」

 

 

 

 

 

 

 一瞬、その姿を見止めたプレシアは、怜悧な顔つきから、どこか安心した表情を浮かべた……が。

 

「………くだらないわ」

 

 黒い嘲笑でフェイトの手と想いを振り払い、杖を地面に突いた。

 魔法陣が敷かれ、ジュエルシードの輝きが一気に激しくなる。

 同時に、一度はなりを潜めていた揺れがまた強くなった。

 地割れと崩壊を起こす庭園。

 ディスト―ションフィールドを張って振動を抑えていたリンディも、地割れから逃れるために、魔法の持続をストップしてしまう。

 

『だめです艦長! 庭園が崩れます!! クロノ君達も脱出して! 崩壊まで、もう時間が無いよ!!』

 

 切羽詰まった声で、状況を報告するエイミィ。

 

「了解した、フェイト・テスタロッサ……フェイト!!」

 

 クロノがフェイトを呼び掛けるが、母から目が離せない彼女には届いていない。

 

 

 

 

 

 

「わたしは行くわ…フェイト…」

「母さん…」

 

 プレシアとアリシアが眠るポッドの足元が、地響きを立てて崩れゆく。

 

「母さん!アリシア!」

 

 フェイトはひび割れた地面を走り抜け、落ちていく自分の肉親たちに駆け寄ろうとするが、魔導師の翼を剥がす空間の前にはどうにもならなかった。

 今すぐ、あそこへと飛びたい。

 このまま、笑顔を失った母を奈落に落としたくない。

 けれど、眼下の黒く淀む空間が、彼女の気持ちと裏腹に逡巡させた。

 生き物としての生存本能か、足がそれ以上進まない。

 そんな、立ち止まる彼女を横目に虚数空間に飛び降りる光を帯びたヒトガタが、一つ。

 

「ゼ……ロ」

 

 ウルトラマンゼロ。

 光の正体が、彼によるものと察した時。

 

「駄目!待ってゼロォォ!!ゼロォォォォォォォォォォォォォォォォーーーーーーーーーー!!!」

 

 フェイトの頭の中は真っ白に変貌し、今まで理性で必死に閉じ込めてたものが濁流となって、溢れだし。

 理性がふっ切れそうになり、喉が渇きで干からび、声が枯れてしまいそうな絶叫でゼロとプレシアがいる空間に身を落としそうになるフェイトを、なのはとアルフが必死で引きとめた。

 

「フェイトォ!!」

「フェイトちゃん!駄目ぇぇぇぇぇぇぇ!」

「離してぇぇ! 離ぁしてよ!!!!なのは!アルフ!!ゼロが!ゼロが!!ゼロがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーー!!!!!」

 

 かつて彼が自分を庇って倒れた経験が、油となってフェイトの激情の炎に降り注ぎ、細身な彼女からは考えられないパワーで二人の制止を振り解きそうになる。

 

「ゼロさんは魔法使いじゃない!ウルトラマンなんだよ!」

 

 そのなのはの一言ではっとした。燃えたぎっていた感情の炎が、一気に鎮火されていく。

 

「大丈夫です」

 

 フェイトの髪に、温もりが置かれる。

 ゼロの仲間、ミラーナイトの手。

 

「あの〝闇〟は魔力こそ霧散させますが、彼の力にはさして脅威にはなりません、それに何の確証もなく飛びこむ程、今のゼロは無鉄砲ではありません」

 

 そうだ……ゼロは、魔法と違う力を持ったウルトラ戦士。

 魔法が使えなくなることを除けば、虚数空間の重力は大したものじゃない。

〝今のゼロ〟には相棒(リンク)もいるから、虚数空間内でも飛行も込みで活動できると把握もした上で飛びこんだと見ていい。

 

「信じて上げて…」

 

 なのはたちの言う通り、今は、待ってあげよう。

 ゼロが、母さんと姉さんを連れて帰ってくるって……フェイトはそう自分に言い聞かし、律した。

 

「脱出する!エイミィ、ルートを!」

『了解』

 

 一同の足下に転移魔法陣が敷かれ、彼女らの姿は庭園から消える。

 ギリギリのタイミングで、庭園は閃光を眩かせながら、崩壊していった。

 

 

 

 

 

 

 これでいいの……家族を失い、過去を取り戻そうとする余り、狂いに狂って、子を道具として弄んでしまった次元犯罪者として、この上ない相応しい最後だから。

 魔法使いの翼を、容赦無く奪う漆黒の空間へと落ちながら、プレシアは一人独白した。

 あの時、最後にフェイトに掛けてしまった言葉。

 以前は混じり気の無い本音であった。

 アリシアとして生まれてくれなかったあの子に…あの子をアリシアとして生んでくれなかった運命に………そしてアリシアを奪った運命に。

 気づけば、自分はこの世の全てに憎悪を抱き……フェイトことを、ただ自分の言葉に従順なだけの人形だと思っていた。

 そんな自分は、とんでもなく醜くて酷い存在だ。

 一日たりとも、アリシアを、アリシアとの思い出も、忘れたことは無い、忘れる筈が無い………筈だったのに、肝心のあの子と交わした大事な約束をわたしは忘れてしまっていた。

 そう、いつだってわたしは、気づくのが………遅すぎる。

 アリシアとのあの〝約束〟も……あの時〝彼〟に殺されそうになって、初めて思い出した。

 彼はフェイトに強いられた理不尽への怒りで越えそうになった一線を、寸前で踏み止まれたけど………わたしは踏み外したまま、戻ろうともせず、聞く耳も持たず、ここまで来てしまった。

 そして、本当は嬉しかった。

 自分の言葉(のろい)で、どん底に落とされながらも、それでも、立ちあがって、這い上がって、自分を見捨てずに……自分を母だと言ってくれた。

 でも、もう駄目なの……もう母さんは、フェイトの足枷にしかなれないから、フェイトを不幸にしかできない身だから。

 最後まで……微笑んであげなくて……ごめんなさい。

 目の前に光が迫ってくる。 

 天からのお出迎えかしらね。

 現実主義の科学者にしては、らしくない表現だった。

 不思議と怖くは、無い。

 でも……最後にもう一度『彼』に伝えたい言葉がある。

 異世界からの来訪者。

 あの子の光となってくれた……光の巨人――ウルトラマンゼロ……フェイトを……お願い。

 光がプレシアを捉える直前、彼女の意識は虚無の彼方へと落ちていった。

 

 

 

 

 

 

 転移魔法陣が視界をホワイトアウトする程の光をほんの瞬き迸らせたかと思うと、足が踏みしめている場が、時の庭園からアースラの転送ポートに移っていた。

 光は周りを見渡し、ゼロとプレシアたちを除いた全員がちゃんといることを確認、エイミィの技量を疑ってはいないが、念の為だ。

 幸い取りこぼしはいない、なのは及びみんなポートにいる。

 本来はゼロが帰ってくるまで取っておくべきだろうが、一度はほっと息を吐こうとしたところへ―――艦内のけたたましいサイレンが響く。

 同時に、艦の外からエネルギーの出力が増していく感覚が過ぎった。

 

「(何事です、ライト)」

『(次元要塞内に遺されたジュエルシードの活動が活発化している模様)』

『大変です! 虚数空間内の次元振動反応が増大』

 

 シルバーライトの分析の直後、エイミィのアナウンスが異常事態を告げる。

 ここにいた一同は、真っ先にブリッジに向かって走り出した。

 特にフェイトは、まだゼロの安否が完全に定かじゃないのもあって、一番顔に焦燥を浮かばせていた。

 一人ポートに残される形になる光。

 彼は服の内からミラージュアイズを取り出した。

〝寄り代〟がいなくなった次は〝次元〟に八つ当たり……あの宝石は最後まで災いを振りまく様だ。

 だが……そんな蛮行は、絶対にさせはしない。

 

「ミラー―――スパーク」

 

 

 

 

 

 ブリッジに着いたフェイトたち。

 立体モニターには、稲妻と振動を蠢かしている虚数空間が映っている。

 

「何があった?エイミィ」

「ジュエルシードが要塞内に残ってた動力エネルギーを吸収したせいで次元振が強まって

いるの、このままじゃ……虚数空間内で次元断層が」

 

 エイミィの口から発せられた最悪の事態。

 それを聞いたフェイトは、両手を抱き合わせ、握りしめた。

 母たちを連れている筈のゼロは、まだあの闇の近くにいる。

 帰ってくると信じてはいるけど、どうしても不安は消えてくれない。

 せめてもと……愛する家族とウルトラマンの帰還を祈っていると。

 

「(待たせたな)」

 

 あの声が、あの人の声が、頭の中で聞こえてきた。

 目の先をモニターに移し、注意深く見つめると……暗黒色な虚数空間の奥から、星に似た一点の光。段々とそれは大きくなって―――こっちに近づいてきて、宙で静止したかと思うと光は球の形から人の形になり。

 

「はぁ……」

 

 フェイトの顔に笑みが浮かぶ。

 紛れも無くウルトラマンゼロが、その勇姿を見せた。

 

「(〝二人〟とも無事だ)」

『(今は私の内部で眠っています)』

 

 家族も無事だと分かり、心から安心したいところだけど、まだジュエルシードの暴走という危険は残っている。

 その暴走の切っ掛けを生んだ以上、どうにかして止めたい気持ちに駆られるが………状況はそれを許してくれない。

 虚数空間が一種のフィールド系の障壁の役目を果たして、あらゆる魔法から暴れるロストロギアを守ってしまうのだ。

 だけど―――希望も潰えてはいなかった。

 ゼロの横に、もう一つの光球が飛んでくる。

 

「光兄」

 

 光の正体は、鏡の騎士――ミラーナイトだった。

 

 

 

 

 

 二人の巨人、彼らこそ、次元の危機を打ち砕く〝希望〟。

 

 

 

 

 

「(ゼロ君、リヒト君、ジュエルシードの破壊、お願いします)」

 

 念話でリンディが、怒りを撒き散らしているみたいに暴れ狂う宝石どもの破壊を依頼してきた。

 虚数空間は魔導師による魔法だけじゃない、魔導兵器すら無効化してしまう、だからアースラには全く打つ手がない。

 

「(ああ)」

 

 言われるまでもない。〝傍迷惑な願望器〟の災厄は、ここで根こそぎ叩きつぶす。

 

「(ユーノもよろしいですね?)」

「(はい、遠慮なく撃って下さい)」

 

 一応にと、リヒトは発掘主の了承をとった。

 封印する必要上、魔法以外の方法は迂闊に取れなかった………が、壊すとなれば別。

 

「よし、行くぜ!」

「はい!」

 

 二人は、手を握りこぶしにして両腕をクロスし、それぞれの体内のエネルギーを腕に集中させると、腕を真横に広げながら、縦状に並び立つ。

 前に立ったミラーナイトは真上に、彼の後ろに立つゼロは前方に両腕を伸ばして、お互いの掌を重ね合わせると、互いのエネルギーがその手に集束。

 

「「ダブル―――」」

 

 ウルトラマンゼロの師匠たるウルトラマンと、その弟たる戦士から受け継いだ合体光線。

 

「「フラッシャァァァァァーーーーー!」」

 

 その名も――《ミラーゼロダブルフラッシャー》が放たれた。

 

 次元の狭間で木霊する二人の喚声を乗せ、稲妻状の光線は、虚数空間内のジュエルシード9個すべてに命中。

 ノア譲りの力の一つである分子レベルで対象を分解する効果が含まれた光線が、ロストロギアを呑みこんでいく。

 度々災いを起こしてきた呪いの宝石たちは、分子崩壊の光を全身に受けた直後、微小な青い粒子へと四散して、消滅。

 奴らの最後の足掻きは、呆気なくウルトラマンたちによって打ち砕かれたのであった。

 

 

 

 

 

 ジュエルシードが完全破壊されたのを目に留めたフェイトとなのはは、ゼロたちを迎えるべくブリッジを飛び出し、艦内の廊下を走り抜ける。

 

「ゼロっ……勇夜!」

「光兄!」

 

 フェイトたちの向かいから、人間態に戻った光と、彼と同じく人間の姿でプレシアを抱える勇夜が歩いてきた。

 

「クロノ、プレシアを医務室に」

「分かった、医療班」

 

 遅れる形でクロノと医療スタッフが駆け付ける。

 ストレッチャーに移されたプレシアは、即座にメディカルルームに運ばれていった。

 ふとフェイトは、この場に一人足りないことに気づく。

 

「ゼロ……アリシアは?姉さんは?」

 

 母と一緒に落ちていったアリシアがいない。

 まだ生命維持ポットごと、リンクの中にいるのだろうか?

 

「待て、驚くだろうからさ……落ちついてくれよ」

「う……うん」

 

 妙にバツの悪そうな顔をする勇夜は、入念に前置きをすると、自らの肉体を光らせる。

 眩しさに目を覆うフェイトたち。

 光が収まると……彼女らはその光景に目を疑った。

 

「勇夜さ……え?」

 

 そこには、本来居る筈の諸星勇夜では無く。彼のバリアジャケットによく似た色合いとデザインの、限りなく黒なこげ茶色のジャケットと黒のインナー、半ズボンのジーパンを着て、金色の髪をポニーテールに縛った5、6歳ほどなフェイトに瓜二つの女の子。 

 

「アリ…シア?」

 

 つまり……アリシアであったのだ。

 なぜゼロが、アリシアの姿でいるのだ?

 まさか。

 

「光兄、勇夜さんとフェイトちゃんのお姉さんって……もしかして」

「はい……今は〝一心同体となっている〟状態です」

「悪いな……フェイトの姉貴を無事に連れて帰るには、これしかなくて…」

 

 女の子の愛らしい容姿と声にそぐわない口調と、頭を掻く仕草で、アリシアと一体化しているゼロは、苦笑いしながら詫びを入れた。

 

 …………………………

 

 …………………………

 

 …………………………

 

 呆然と中身は〝ウルトラマンゼロ〟なアリシアを見つめ、一拍遅れて二人は状況を理解した瞬間、なのはとフェイトは――

 

「「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」」

 

 ―――見事にシンクロさせた絶叫を口から飛ばし、アースラの艦内で盛大に轟かせるのであった。

 

 




前読んだことがある方なら、あり? ここからさらに続きなかったかと思うでしょう。
実は読み直した時、いくらなんでも詰め込み過ぎたなと痛感。
さらに、フェイトの対話場面は、せっかくの場面だからもう少し心理描写入れようということでほぼ書き直しました。
リリゼロ最初から通すと、流れではどう考えてもテレビ版のも映画版(結局映画の一部のが入ってますが)の台詞では合わねえな……この場面のフェイトの台詞をもう一度構成すんのにああでもない、こうでもないの繰り返しな数日でした。
間違いなくこれで原稿で書いてたら、ゴミ箱はくず玉で溢れかえってたくらい……一場面じゃないです、台詞一個の為にこの始末。

さらにハーメルンでは比較的原作よりな第一部最大の改変は次に持ちこして、ここではそれまでのシリアスを吹き飛ばすオチを強調させる方にシフトさせました。

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