ウルトラマンゼロ The Another Lyrical Story 第一章   作:フォレス・ノースウッド

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ウルトラマンに変身して戦うのもそう頻繁にないリリゼロにおいて、珍しく最初から最後までアクションづくしの回です。

これの原作との一番の違いといえば、駆動炉制圧の流れを具体的に描きつつ、なのフェイの共同さ……もとい本格共同戦線をそこに織り込み、その場にはいたのに静観も同然だったアルフとユーノにも出番を盛り込んだってとこです。
とりあえず百聞は一見しかずなのでどうぞ。

感想もお待ちしています。


EP27 - 閃く一太刀、重なる心

 プレシアお手製のダークロプスをウルトラマンゼロに任せ、駆動炉に繋がるエレベーターに乗ったなのは、フェイト、ユーノ、アルフ一行。

 

「駆動炉にも見張りがいるはずだから、気をつけて」

「うん」

 

 目的の階に突き、ドアが開かれる。

 円錐状の巨大な部屋は薄暗く、上部に赤い光点が見える柱のような円錐がそびえたつ空間が広がっていた。

 そしてフェイトの忠告通り、駆動炉の前に、そいつは居た。

 

「大型だ……面倒なやつがいやがる」

 

 今までのロボット兵よりも巨大かつ屈強で、肩にはロボット兵の顔よりも大型の砲台を二つ抱えていた。

 当人曰くもうすぐ四十郎になる凄腕の浪人の表現を借りれば、さっきまで戦っていた相手は、数は多いがなのはたちから見れば一体一体は『猫』だった。

 だが、さっきのダークロプスとこの眼前の敵は、一体ではあるが『虎』だ。

 怪しく赤く光る単眼がなのはたちを捉えると、肩の砲台から光線が発射される。

 飛んで回避する4人。

 

『Devine Shooter』

『Photon Lancer』

「シュート!」

「ファイア!」

 

 なのはとフェイトは反撃の魔力弾をそれぞれ放出するが、ロボット兵に着弾する直前、半透明の障壁が機体を包み、弾道の進行を阻んだ。

 

「バリアが強い…」

 

 フェイトが毒づく、しかも巨体の似合わず機動性に恵まれ、攻撃に対する反応速度も恐ろしく速かった。

 庭園の心臓部を守護するだけあり、やはりかのマシンは『虎』と評しても誇張ではなかった。 

 

 

 

 

 

 

 螺旋階段はもう先程のオペラハウスのような様相では無くなっていた。

 ものの数十秒でこの空間は、あちらこちらに罅、亀裂、傷口のような破壊の跡でボロボロとなっていた。

 超音速で飛ぶ、光点と光点が何度も何度も交差、激突している。

 片や、光の国のウルトラ戦士。

 ウルトラマンゼロ。

 片やゼロの容姿と能力を模した一つ目のマシン。

 ダークロプス。

 燦々たる光景と化した円錐の内では、それを齎した者同士が、互いの宇宙ブーメランを逆手二刀流で打ち合っていた。

 20合ほど打ち合った後、一旦離れて距離をとり、出方を窺う態勢となる。

 どっかで見た動きだな……とゼロは内心呟く。今までのダークロプスの戦い振りに、ゼロは見覚えがあった。

 ふと、自分の構えと相手の構えを見比べてみる。

 鏡で写したかの如く、そっくりだった。

 まさか……俺か?

 

『(何者かがプレシアにダークロプスの設計データと、マスターの戦闘データをプレシアに渡したのでしょう)』

 

 リンクが補足説明してくれた。

 で、そのデータを元にプレシアはこの〝もどきのもどき〟を作ったと。

 データを提供した犯人は〝カイザーベリアル〟……では100パーセント無い。

 仮に〝彼〟の闇が生き延びて、この次元世界でくすぶっていたのなら、ナオやエメラナたちがいた世界の時と同じく、圧倒的な物量を持って、あちらこちらを破壊している筈だ。

 こんな回りくどい真似は、〝どっちのベリアル〟でも絶対しない。

 まあいずれにしろ、これはある意味では名誉でもあるのだろうが。

 

「(ふっ……今度そいつに会ったら締めてやる)」

 

 と、不敵に笑い、やや物騒な表現を心の中で発言した時だった。

 ダークロプスは手に持つスラッガーの切っ先同士を向き合わせる。

 短刃が紫の輝きを放ち、二つの光点は一つの三日月状の光と化していく。

 

「あれは?」

 

 三日月の大剣……ゼロスラッガーが変形した《ゼロツインソード》、奴が手にした剣は、それと酷似していた。

 どうやら、一つだけオリジナルを凌駕している点が、あのダークロプスにはあるようだ。

 宇宙ブーメランの変形機構、そいつはプロトタイプも量産型も持ちあわせてはいなかったからだ。

 驚愕は隠せないが、いつまでもその感情を味わっている暇も絶無、ダークロプスがツインソードを振り上げながら、ゼロに切りかかる。

 両手のゼロスラッガーで大剣の軌道をいなし、直撃を避け続けるゼロ。

 相手が振るう武器は、ゼロにとっても使い慣れた武器、だからこそ対処はしようがあった。それを踏まえても、偽物とは言えツインソードは脅威ではあった。かの三日月の大剣はゼロが強敵だと判断した相手に振るわれる切り札、それをモデルにしているだけあり、まともに斬撃を身に受ければウルトラマンとてタダではすまない。

 さらに、マシンだけありダークロプスの動きは速きこと風の如く、かつ正確無比でムラが見当たらない。

 斬撃をいなす隙間を突いて、蹴りに肘打ちなどの打撃を叩きこまれるゼロ。

 痛みに呻く彼をよそに、マシンは攻勢のペースを落とさず攻め続ける。これもまた、機械の体を持つ強み。

 さらにダークロプスは後退しつつ、スラッガーを投げつける。

 独立した軌道で襲い来る刃を、持ち前の研ぎ澄まされた反射神経と先読みでゼロスラッガーを振るい、弾き返すゼロ。

 回転飛行する刃の動きも、自分のものと同じだった。

 次はどう出てくる?そう思案していると、ダークロプスはバラバラに動いていた二振りのスラッガーを一か所に纏め、ヘリのプロペラのように回転させて飛ばして来た。

 あの、ゼロとウルトラセブン親子の宇宙ブーメランを使った連携技――《コンビネーション・ゼロ》、それを一人で再現したのである。

 

「ちっ!」

 

 ゼロはゼロスラッガーを持ったまま腕をクロス。交差した腕に防御フィールド纏って敵の攻撃を受け止めるゼロの防御技――《クロスゼロバリヤー》で、急接近する刃を防ごうとするが。

 

「おわっ!」

 

 その衝撃を受けて、ゼロは既に傷だらけの螺旋階段へと飛ばされ、内壁に叩きつけられてしまった。

 振動が螺旋階段を爆音とセットで轟いた。

 

 

 

 

 

 

 駆動炉でのなのはたちも、一体のロボット兵相手に攻めあぐねていた。

 砲台からは、ガトリングガン並の連射力で魔力弾が彼女たちを襲い。

 

『Arc Saber』

『Divine Shot』

 

 攻撃を加えても防御され、駆動炉に仕掛けてもその巨体に似合わない速さで反応し、阻まれ、大技の魔法を打とうとしても先手を撃ってきて、足を止める時間を与えてもくれない。

 アルフは苛立ちでささくれそうな心を静める。

 落ちつくんだ、勇夜だって稽古付けてくれた時に……〝こういうピンチ状況だからこそ、冷静に対処しないとど坪に嵌って突破口が開けなくなる〟って言ってたじゃないか。

 現にわたしは、頭に血がのぼって感情任せになった隙を突かれて、勇夜に打ち負かされたんだから。

 こんな時こそ平常心、平常心。

 邪念を静めるべく、深呼吸をし、敵の能力を自分なりに分析してみる。

 問題はやっぱり、あの半円錐状のバリア、どこから撃っても反応する機敏の良さ。

 多方向から撃っても切り込んでも、防がれて、即座に攻撃し返してくる。

 ん?まてよ……バリアを形成する出力装置は頭部にあることは分かった。

 問題はそこから……思い出せ、ロボット兵に攻撃が防御された瞬間を……その動作パターンを。

 できるかどうかは、分からない、結構タイミングはシビアだ。

 でも時間が無い、賭けるしかない!

 やれるかどうかじゃない、やるんだ!

 

「フェイト!なのは!」

「「アルフ(さん)!?」」

「何でも良いから、真正面からあいつの頭に向かって撃って! できるだけ強いのを」

「何か策があるの?」

「それがあるから言ってんだ、早く!」

 

 アルフの熱意に押され、二人は頷くと、ロボット兵から見て、正面の位置に立ち。

 アルフは急上昇する。

 そして二人から。

 

『Photon Lancer』

『Divine Shot』

 

 フォトンランサーとディバインショット、二人の各々の魔法が発射される。アルフに言われた通り、できるだけ威力を強めたのを頭部に集中攻撃する形で。

 例の如く、バリアを貼るロボット兵を優れた動体視力と高めた集中力で見据えた彼女は、背部に魔力を集め、使い魔としての優れ急上昇。

 魔力弾が障壁に着弾し、両肩の砲口にエネルギーの輝きが見えた、微妙なその瞬間を、瞳が捉える。

 そこだ!

 

 

「どぉぉぉぉぉりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーー!」

 

 

 背に集めた魔力を解放し、その推進力の恩恵で一時的にフェイトの飛行速度に匹敵するスピードを得たアルフは、僅かな〝隙間〟へ、バリアの死角へと急降下。

 何の因果か、その様相はウルトラ兄弟三兄がバリアを持つ怪獣に対抗するために編み出した《流星キック》とよく似ていた。

 膨大なオレンジ色の魔力を纏った右足で、オレンジ色の流星となったアルフは頭部の発生装置を破壊。

 ロボット兵は、衝撃で頭部あらスパークと煙を上げた。

 あのバリアは確かに堅牢で、ロボットの反応も素早い。

 ただしある程度威力の高い攻撃には、防御力を高める為にバリアの範囲が狭まる短所があり、またバリアにある程度衝撃が加わらないと、反撃の行動が取れない点もあった。

 アルフは、弱点を突いてきたフェイトたちにロボットが気を取られ、砲口の照準を合わせたそのタイミングという死角を突いたのだ。

 

 

 

 

「やった!」

「アルフ、凄い!」

「へへっ♪ どうよ!」

 

 感嘆を上げる一同に、アルフはVサインで返した。

 特にフェイトは、彼女の成長ぶりに驚嘆した。

 相手の特性を元に打開策を見い出す判断力もそうだが、その空中飛び蹴りだけを見ても、飛行スピード、魔力解放などの技量が格段に上昇していることで、威力も比例してアップしていた。

 アルフは以前、彼女自らの熱望で勇夜――ゼロから、厳しい特訓を受けていた。

 使い魔な上、狼が素体による恵まれた身体能力が高さの恵みもあって、この短期集中的な修練も功を奏していたのだ。

 

 

 

 

 

「バリアは破れた!二人とも、今の内に」

「うん、行こうなのは!」

「え?………………フェ…イト…ちゃん」

 

 この時、耳に入ってきたフェイトの声の中身を上手く読みとれず、整理できなかった。

 今……フェイトちゃん、何て言ったの?

 遅れてその意味を受け取る。

 確かに聞こえた、フェイトの声の中に……なのはの、自身の名前が。

 

 

「私たちなら、できるよ」

 

 

 名前を読んだ本人は彼女に顔を向け、頷きつつ、今まで自分には見せなかった温かさで微笑んだ。

 名前を……呼んでくれた。

 ちゃんと、なのはって……呼んでくれた。

 なのはも満面の笑みになる。

 

 

「はぁ……うん!うん!うん!」

 

 

 たったそれだけのことで、心に熱いものを感じられる。

 その言葉だけで、こんなにも嬉しい気持ちになる。

 

 

「行くよ!バルディッシュ!!!」

『GlaveForm,GET SET』

「こっちもだよ!レイジングハート!!!」

『ALL RIGHT, Canon mode』

 

 

 二人の熱意に、彼女たちの相棒も強く応じた。

 

 

 

 

 

 

 

 螺旋階段に叩きつけられたまま、動きを見せなくなったゼロ。

 噴煙で中が見えない穴をダークロプスは腕をL字に構え、ダークロプスショットを発射、閃光と噴煙が舞い上がった。

 

 ベリアルが作ったオリジナルは、プロトタイプも量産型もインテリジェントデバイスと同じく、AIが搭載され、会話も可能な思考能力が備わっていた。

 だがこのプレシア製は、火力、機動性、格闘能力などの性能は他のロボット兵よりも上だが、判断能力は他のタイプと同じく、淡白。

 命令の内容も、〝近づいてくる侵入者を撃退せよ〟と、単純だ。

 だから気づけなかった……ゼロがまだ健在なことに。

 煙の中から、突如稲妻の光球が飛び出し、ダークロプス直ぐ様反応、回避したが………別方向から、壁を突き破って現れた。

 かろうじて受け流す、ダークロプスの背部に、何かが命中する。

 それは避けた筈の稲妻の光球――《ビームゼロスパイク》。

 ゼロは魔法を学んだ経験を生かし、ビームゼロスパイクに誘導性能を付加し、本命をフェイントと思わせる二重フェイントでダメージを当てたのだ。

 反撃させまいと、ゼロの容赦ない拳と蹴りと手刀が奴を襲う。

 ゼロ譲りの防御の型で、防ぎ、躱すダークロプス。

 しかしゼロは、その防御の隙間から正拳を相手の左側の鎖骨に命中させた。

 亀裂が入るダークロプスのプロテクター。

 ここに来てゼロが圧倒し始めた。

 確かに、こいつはゼロの動きを上手くコピーしている。

 攻撃もキレがあるし、防御でも即対応する。

 感情に左右されずに戦闘ができる。

 それは、心を持たないマシンの利点。マッドサイエンティストに言わせれば、感情なんてのは不要な要素って言うんだろうな。

 まあ確かに度を超えた感情は、ムラができて隙も大きくしてしまうから、正論ではある。

 だがゼロに言わせれば、仲間である〝鋼鉄の武人〟のように心を持たぬマシンの無感情さは長所であり、同時に致命的な弱点であった。

 無駄が無さ過ぎる余り、逆に動きが、どんな状況下でも正確に、セオリー通りに動き過ぎる。

 その動作パターンを一度覚えてしまえば、見切ってしまうのもお手の物。

 ゼロが一度は苦杯を舐めたダークロプスゼロに、リターンマッチで勝利できたのは、奴が自立機能を持ちながらも、そのマシンとしての長所兼短所が仇になったこと。

 何よりゼロ自身が、《儚いもの》とダークロプスゼロが蔑んだ、命と心ある存在であったことだった。

 この一点が、人間と、或いは機械の体に心を宿した〝仲間〟とダークロプスの決定的な違い。

 心と命がある無いの差、その溝は想像以上に大きいのである。

 勿論、こんな芸当が可能なのは、ゼロの戦闘センス、経験、日頃の心身の鍛錬が実を結び、心ある者の弱点を知り、その強みを確固たるものにしているからである。

 

「はァァァァァァァァァーーー!!!!」

 

 ゼロは垂直降下して、ダークロプスに炎を纏ったかかと落とし―――《ゼロヒールハンマー》を炸裂。

 相手は腕を交差して受け止めるが、抑えきれず、右肩に被弾した。

 

「良い動きしてっけどな――」

 

 そしてこいつの動きは、俺のデータが組み込まれてこそいるが…正直、それをプレシアに送った野郎にこう言ってやりたかった。

 

「――生憎とデータが、〝古過ぎ〟んだよ!」

 

 自分だってこの11年、何もしてなかったわけじゃない。

 常に己をウルトラマンとして、人としてできることを為す為に、研鑽を積んで自身を高めてきた。

 だから分かる。こいつの動きは、ぐれた自分の性根を叩き直させた、あの修行が終わりたての頃の俺だってことが……あの頃の俺を弱いとも言わないし、否定もしない。あの時の自分から、今に繋がっているの事実。

 だからこそ言える……堂々と言ってやる。

 

〝過去(きのう)に負けるほど、柔じゃない〟――てな!

 

 ゼロは相手の右手を左手で掴んで引っ張り、同時に右手から連続で、重い拳をぶつけた。

 父ウルトラセブンから受け継いだ喧嘩屋パンチの連打に、頭突き。

 そして駄目押しにダークロプスの顎を蹴り上げた。

 相手が生命体なら、最低でも脳震盪は確実、ウルトラ戦士の一撃をに耐えられるなら、と付け加えたうえでだが。

 戦況の逆転を前に、相手は淡白な思考なりに不味いと判断したのか後退し、ダークロプススラッガーを手に持ち、一度はゼロを圧倒したツインソードそっくりな大剣へと変わった。

 

〝負けはしない!貴様などに…負けはしない〟

 

 少しシチュエーションが違うが、プロトタイプがその言葉を自分にぶつけた瞬間とダブった。

 

「やっと本気ってとこか?」

 

 ゼロもゼロスラッガーを手に持つと、それを合わせ変形させる。

 銀色で、鍔無しの日本刀型形態――ブレイドスラッガー。

 ただし、以前結界内の海鳴市街での戦闘で見せたのと違う点がある。

 それは、〝鞘〟が存在し、刀身がそこに納められているということであった。

 

 

 

 

 

 

 なのはとフェイトは大技を使うための準備に入る。

 

『Divine Buster』

『Thunder Smasher』

 

 フェイトは前方の魔法陣から、なのははレイジングハートの砲口から、それぞれの砲撃魔法のエネルギーをデバイスに集中させる。

 が、相手のロボット兵は、バリアを失いながらも二人の射程圏内に立ちはだかり、両肩の砲台にエネルギーを蓄積させていた。

 ユーノとアルフは同時に同様の結論に達する―――このままでは、先に撃たれるのはなのはたち――だと。

 

「二人をやらせは――」

 

 アルフは周辺に彼女の髪と同じ色の魔力弾―――フォトンランサーをいくつも作り。

 

「――しないよ!」

 

 魔力の槍たちを一斉掃射し、ロボット兵を牽制、さらに自身の身を相手の周辺を飛びまわらせ相手を攪乱させる。

 そして、アルフに気を取られている隙にユーノは―――

 

「チェーンバインド!」

 

 ―――鎖型のバインド、チェーンバインドと 輪状のリングバインドを同時行使して砲台を縛り上げる。

 強引に振りほどこうとするロボットの抵抗に対し、絶対に屈しまいとバインドの捕縛力を一気に上げ。

 

「バインドにはこういう使い方もある! ファング―――クラッシュ!!」

 

 ユーノは、渾身の力で魔力の鎖の捕縛力を一気に高め、同時に装甲と接着しているバインドの部位全てに、重い魔力波動を放出させプレスさせた。

 鎖そのものの圧力(きば)と、魔力による外圧(きば)による二重の攻めで極端に圧迫された砲台は、とうとう耐久の限界を超えて亀裂が全体に周りし潰された。

 ユーノのバインドの派生技――《ファングクラッシュ》で完全にその機能を失い、鉄くずなスクラップと化した砲台は、バラバラになってロボット本体からこぼれ落ちていく。

 

『『チャージ完了』』

 

 砲撃を放つ為の準備が終えたことを知らせるデバイスたちの声。

 大技を敢行する用意は、全て整われた。

 後は、心おきなく、全力全開で解き放つのみ。

 

「サンダァァァァァ―――」

「ディバァイィィィン―――」

 

 なのははレイジングハートのトリガーを引き。

 フェイトはバルディッシュの切っ先を、前方の魔法陣に叩きこむ。

 

「―――スマッシャァァァァーーーーー!!!!!」

「―――バスタァァァァァァーーーーー!!!!!!」

 

 桜色と砲撃――ディバインバスター。

 金色の雷光――サンダースマッシャー。

 同時に放たれる魔力の奔流が、駆動炉へと一気に突き進んでいく。

 満身創痍のロボット兵は身を呈して盾となるが、魔力流が直撃すると、その役目すら果たせずに貫通され、駆動炉に押し迫る。

 直撃寸前、魔力障壁がそれを阻んだ。駆動炉自体の防衛システムが編んだ障壁。

 だが、その程度の障害でへこたれる二人では無い。

 さらに二人は魔力光の威力を上げ―――

 

「「せぇぇぇぇーーーーのぉぉ!!!!!!!」」

 

 ―――同時にかけ声も威力の増幅させるタイミングも重なり。

 二つの極太の魔力流が最後の足掻きたる障壁を突き破って、駆動炉を呑みこんでいった。

 

 

 

 

 

 それぞれの得物を持って対峙するゼロとダークロプス。

 互いの距離は80メートル。

 ダークロプスは弓状の大剣。

 対してウルトラマンゼロは、鍔無しの日本刀であり、その刃は鞘に封じられた『ブレイドスラッガー』を腰に据え、〝居合腰〟に構えていた

 先程までの超高速の〝動〟の戦いから、〝静〟の領域へとシフトされ、張りつめた空気が、その場を支配する。

 どちらも頑として微動だにしない。

 片方はロボットではあるが、ゼロは生命体、生身の生き物、そんな彼が山のように動かずに静止している。それだけでもかなりの神技。

 ゼロはひたすらその時を待っている。

 そのための準備も怠らずに……待機の姿勢を維持する。

 どこまでも続きそうな…静寂。

 実際よりもゆっくりと時間が遅く流れているとさえ錯覚する。

 永遠を思わせる刹那………の後……そして…その静謐な空気が…破られた。

 先に動いたのはダークロプス。

 やつはエネルギーを纏ったツインソードで敵を両断するゼロ最大の必殺技――《プラズマスパークスラッシュ》を連想させる構えで、刀身を発光させながら急接近。

 対してゼロはまだ動かない。

 着実に近づいてくるダークロプスを、逸らさずに視線を固めたまま。

 居合の態勢のまま、ひたすら溜める。

 何を溜めるか?

 ある意味では、何もかも……この一撃に、全てを賭けて。

 60M。

 まだ動かない。

 30M。

 微動だにしない。

 20M。

 その様相、動かざること山の如し。

 そして10M………5間ほどの距離を切った瞬間。

 ゼロは動いた。

 それまでパワーを溜めに溜めこんだトリコロールの剣士は、その全てを解放。

 ダークロプスを上回る、風の如き速さで踏み込み。

 鞘の内部の刃を走らせ、左下段から抜き放ち―――一閃した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 互いの一撃が同時に炸裂し、切り抜けた写し鏡の二人。

 切り抜け、静止する。

 ダークロプスが先に踏み込んでから、二人が切り抜けるまで、僅か数秒の出来事だった。

 勝敗はどちらに上がったか?

 まだはっきりとしない。どちらも先程の静寂の続きをしているかのようにまた動かなく――――なったと思われた瞬間。冷たく重く響く金属音が、螺旋階段内に残響した。

 ダークロプスの胴体が、両腕が、ツインソードが、同時に真っ二つに切り裂かれた。

 やつの機械仕掛けの体躯を斬ったのは、鞘から抜かれたクリスタル状の片刃――《ブレイドスラッガー・クリスタルエッジ》

 この刃は、高密度に圧縮したディファレーターエネルギーを、日本刀の刀身状に押し固めた剣、半透明の実体の刃と、刃から放出されるエネルギーで敵を切り裂く武器。

 さらにゼロたちウルトラマンの、体から放出した反重力エネルギーのコントロールによる飛行原理を応用。

 彼は構えをとりながら、刀身にエネルギーを込め、反重力エネルギーも、空気を押さえつける要領溜めこみ、踏み込みからの抜刀と同時にそれらを一気に解放、その神速の一閃で〝写し身〟を両断したのだ。

 総合的な破壊力では、ツインソードによる《プラズマスパークスラッシュ》の方が上、しかし〝切れ味〟に関しては、《ブレイドスラッガー》の方が上手なのだ。

 彼の心技体が為せる、必殺の居合を受けたダークロプスのボディは、切断面から端を発した青白い光に浸食され、単純なプログラムしか持たぬマシンは呻きだした。

 実はこの時のブレイドスラッガーの刃には、物質を分子レベルで崩壊させる効力を秘めていた。この能力もまた、ノアの光により授かった彼の力に一つだ。

 分子分解の光の浸食が進むに比例して、ダークロプスは海にでも溺れたかの如く、苦しみもがく。

 対してゼロは剣術の残心を心がけながら、血を振り払う所作で刀を振り、ゆっくりと刃を鞘の内部へと納め、完全に納刀されたと報せる金属音がなったと同時に、全身に光が廻ったダークロプスが、閃光を煌めかせて粒子状に四散した。

 

「ふぅ~~」

 

 ゼロは溜めこんだ緊張感を発散し、心身くをリラックスするために、息を吐き、ブレイドスラッガーを握っていた手を放す。スラッガーは元の二振りの短刀に戻り、ゼロの頭部に装着された。

 程なくして、庭園内で突然大きな振動が起きる。緩んだ意識がまた張りつめ、一瞬次元振が強まったのかと思われたが、むしろ空間の揺れと、それを強めていたロストロギアの波動も弱まっていくのを感じた。

 

『駆動炉の制圧に成功したようです』

「そうだな…」

 

 もう一度、一息つかせる。

 これで一応は人為による次元災害の危機は防がれた。

 しかし、まだ残っていることがある。

 光達もフェイト達も今頃向かっているだろう、プレシアのところに。

 こっちにもある、彼女に問わなきゃならないことが―――

 

『急ぎましょう』

「ああ!シュア!」

 

 ゼロは最下層に向かって降下、その場を後にした。

 

 

 

 

 

 プレシアのいる最下層へと進む光とクロノ。

 眼前には、無限にいるのかと考えたくなるほど、多数のロボット兵が待ち構えている。

 

「ライト!リングエッジモード!」

『御意』

 

 光のシルバーライトは刃が魔力でできた小太刀、ビームセイバーモードから半円型のチャクラムに酷似する独特の形状をした実体剣になった。

 剣とは言ったが、実質拳銃として使用するシルバーライト唯一の遠距離戦専用のモードだ。

 

『Bullet knife』

 

 刀身が発光し、そこから、光でできた手裏剣状が弾丸――バレットナイフを連射、ロボット兵を牽制し、距離をとらせる。

 

「光!退避しろ!」

『Blaze Cannon』

 

 光の時間稼ぎで、難なくチャージを完了させたクロノのS2Uから、彼の砲撃魔法ブレイズキャノンが目標を捉える。

 火器なら、バズーカやグレネードランチャーに匹敵する魔力弾をクロノは苦も無く操りながら、相手を屠っていく。

 

『Short Saber Mode』

 

 そこに追い打ちと光の御神流の剣技が轟く。

《徹》が斬る衝撃を機械兵たちに通し、金属の骨格は断裂、内部破壊される。

 

「神速!」

 

 光の視界がモノクロになり、勇夜たちの強さで忘れがちだが、一般人には脅威以上なロボット兵の機動が、人間未満になる。

 そのモノクロな世界からの虎切で、一気に数十体を切り刻んだ。

 

「(影すら…見えなかった…)」

 

 彼からは、光が踏み込んだ次の瞬間には、敵は残骸の山と化していた。

 クロノは戦闘中であることを心がけながら、神速で消耗している光を援護しつつも、光の剣技と彼が会得している剣術の流派に改めて舌を巻く。 特にあの神速…その御神流を極めれば誰でも使えるという。

 消耗が激しいことに目に瞑れば、魔法の補助を借りずに、体が無意識にはっているリミッターを外すだけで、魔法以上のスピードを実現する。

 そんな勇夜とその仲間たちの戦闘能力を直に見させられると〝良い意味〟で実感させられる、魔法は力の一端でしかなく、それだけが全てでは無いのだと。

 

 

 

 

 

 二人はロボット兵を蹴散らしながら着実に進軍していたが、なのはたちの場合と同じく、次から次へと新手が現れていく。

 いくら若年ながらも執務官という高官についた魔道師の少年と、圧倒的に不利な物量差がある状況下の中で、王宮を最後まで守り抜いた鏡の騎士でも、この数の多さには手を焼かされた。

 鏡面テレポートで、一気にプレシアがいる部屋まで向かいたいが、今はまだそうもいかない。

 二人には陽動という役目もある。できるだけ派手に、かつ多くの敵機を狩り、一騎当千の奮戦をすることでこちらに戦力を集中させ、駆動炉制圧に向かったなのはたちの負担を抑える目的もあるのだから。

 

『クロノ君、光君』

 

 とそこへ、エイミィからの通信。

 

『なのはちゃんたちが駆動炉の制圧が完了したよ、みんな特に怪我はないから安心して』

 

 なのはらの目的が果たされたのなら、これで陽動の任は完了した。

 

「ミラー!スパーク!」

 

 光はミラーアイズの前で手をクロスさせ、ミラーナイトに変身。

 

「クロノ!僕の手を握ってください!」

「あ、ああ」

 

 ミラーナイトの要望通り、クロノは彼の手を握ると。

 

「ミラームーバー!」

 

 その叫び声と同時にミラーナイトの体が光り出し、壁へと消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 駆動炉の封印を完了され。

 なのはたちの愛機は、排気筒から、余熱を排出した。

 床に降り立つなのはたち、どこかバツの悪い様子だった先程の空気とは打って変わって、二人とも笑顔だ。

 

「フェイト!」

 

 そこにアルフが、涙を浮かばせ、喜びで尻尾を大きく振らせながら、眩しい笑顔でフェイトに抱きついた。

 

「アルフ、心配掛けてごめんね」

 

 フェイトは自然と笑顔で、燈色なアルフの髪を優しくなでてあげた。

 

「ユーノ君、さっきほんと凄かった……カッコよかったよ、いつあんな使い方を?」

「一応理論上は可能だったんだけど……ほぼぶっつけ本番だったね…」

 

 女の子らしい物腰の中にどこか〝男前〟な面が見え隠れするなのはでも驚嘆させられたユーノの勇ましい活躍は、かなりの大博打でもあった。

 魔力で生成された物体から、魔力を放出させるということは、一歩間違えば結合が崩壊してしまう恐れもある。

 なのにバインドを制御し続けるどころか、捕縛力まで強められたのは、補助系統の魔法に秀でたスクライア一族の端くれたる彼の面目躍如と言えよう。

 

「そうなの? 大丈夫?」

「さすがにちょっと体に響いたけど、もう平気、なのはと光さんと勇夜さんの〝熱さ〟が乗り移ったのかもね」

「にゃ?」

 

 ユーノの発言に、なのははいまいち納得できず、首を傾げたくなった。

 自分と光は、そんなに〝熱い〟と言えるのだろうか?

 勇夜――ウルトラマンゼロが熱血漢と表せるくらい熱いお人だと言われたら、それは同意できるのだけれど。

 いや、今はそんな寄り道するみたいなこと考えてる場合じゃない。

 駆動炉は止めたけど、まだ終わってはいないのだ……フェイトは。

 

「フェイトちゃん」

 

 まだこの女の子には、やり残していることがある。

 

「行くんだよね?お母さんのところに」

 

 フェイトは頷いた。

 

「わたしは……見ることぐらいしか、できないけど…」

 

 自分はまだ小さいが、これはフェイトという少女自身が解決しなければいけないことであるのは理解できる。

 だからせめて…なのははフェイトの手を握り。

 

「でも……一緒に……行ってあげるから」

「………ありがとう」

 

 フェイトも笑顔で返した。

 

「急ごうよ、勇夜たちもあの人のところに向かってるはずだからさ」

「「うん」」

 

 なのはたちもその足で、庭園の最下層の下へと急いだ。

 


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