ウルトラマンゼロ The Another Lyrical Story 第一章   作:フォレス・ノースウッド

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今回のサブタイはダブルネーミングってやつです。

そんでこの話は、フェイトのいわゆるライジング回なのですが、同時に銀河帝国のハイライトでもあります。
なんのこっちゃいと思われるでしょうが、読んでみればわかります。


EP26 – 運命の雫

 その場所は……《無》であった。

 夜にしても、宇宙にしても、光は必ずどこかにある。

 だがここには本当に何も無く、あるのはどこまでも広がる暗闇と…そこに俯く少女だけ……最果ての見えない底知れぬ闇にて、彼女の心は地に堕ちていた。

 

〝私はずっと、あなたのことが―――――大嫌いだったのよ〟

 

 彼女の脳裏(いしき)には、何度も母から宣告された呪いが渦巻いている。

 

「わたし……生まれてきちゃ……いけなかったのかな……」

 

 自分がずっと知らなかった、自分の真実に打ちひしがれて……誰にも聞こえない心中の闇の中で、フェイトは一人呟いた。

 

 

 

 

 

 母さんは……わたしのことなんか……一度たりとも、〝わたし〟として見てはくれなかった。

 母さんが会いたかったのは、笑ってくれたのは、愛していたのはアリシアで……わたしは、ただ見た目と遺伝子が瓜二つで、記憶を植えられただけの、〝アリシア〟になれなかった出来損ないの失敗作。

 そんなフィルター越しでしか、母は自分を見ることしかしなかった。

 なのに、自分は母の本音なんて知らずに、縋り付いてばかりだった。

 そんな自身の様は、母にとってはさぞ滑稽だったろう。

 蔑んでいる〝紛い者の人形〟が、自分に愛情を求めていたのだから。

 憎悪はない、あるのは無力感だけ。

 これから、どうしたらいいの?

 唯一つの拠り所が壊れた今、何の力も沸かない。

 その母は、最後まで自分を知ろうとしてくれなかった……というのに。

 ふと、彼女はここで引っかかりを感じた。

 見て……くれなかった?

 知らなかった?

 見ようと………しなかった?

 アリシアというフィルターを掛けて、目を逸らし続けた?

 

〝何も分からないまま戦うのは、嫌なの!〟

 

 次に過ぎったのは……あの女の子、〝なのは〟の言葉。

 分からないまま……理解しない…まま、この言葉から、彼女は…察した。

 そうだよ、わたしだって………わたしだって同じだ。

 自分の頭に植え付けられた〝アリシア〟の記憶の中の母に縋るばかりで、今の母さんを一度たりとも知ろうとはしなかった。

 現在の母が、胸の奥にずっと抱えていた苦しみも悲しみも、憎悪も、何もかも…気づいてあげられなかった。

 自分は〝フェイト〟だと、人形という烙印を打ち消すくらいに、自分は自分なんだと主張しなかった、言ってあげられなかった。

 ただ言われるまま〝お使い〟をすれば良いんだと、悪いのは自分なんだと、言い訳を重ねて考えることを捨て続けて、向き合おうことも、どうにかしようと踏み出すことさえ、ずっと放棄し続けた。

 戻らない〝思い出〟に縋って、〝今〟から逃げていたのは………自分も同じじゃないか。

 母さんを堕ちるところまで突き落として、見ない振りをして、止めを刺したのは………むしろ自分じゃないか。

 母があんな風に狂ってしまったのは、自分だ。

 一番近くにいた私が、先に見捨てて………壊してしまったんだ。

 

「最低だ……わたし……」

 

 涙が、後悔の涙が……止めどなく流れてくる。

 その時…瞼越しに外が明るくなってきた。

 フェイト涙で濡れた顔を上げる。

 光が、近付いてくる。

 自分の許へと、光の明度はどんどん上昇していき、余りの眩さで反射的に目を覆った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 光が治まって目を開けると、私は半球型の透明のケースにいた。

 何故か、体が勝手に動き、視線も右に左に行ったり来たりと周りを見渡している。

 広い部屋だ。それこそ、ゼロたちウルトラマン並の巨人のサイズに合わせて作ったような。壁と床は黒味がかった赤と黒で覆われ、怪しげなモニターがいくつも飾られて、一方向にだけ大きな窓があり、緑と海に覆われた惑星が眼前にあった。

 ここは、宇宙船の中なの?

 

「ナオ…エメラナ…」

 

 視線の主が誰かの名を呼んだ。

 ここまで来れば、自分でも分かる。

 これは……誰かの記憶。

 

『やっと会えたな』

 

 低く、重くて、無情で、怪しげなエコーが掛かって、地の底から響くような不気味な声が響いた。

 フェイトと目を共有する主が、声のした方に目を向ける。

 

『ダークロプスを送り込んだ甲斐があったぜ』

 

 階段の上にある玉座に座っている声の主は、部屋と同じ怪しい赤に染められたマントを着て、黒いボディに赤いラインに、鋭利で堅そうな爪を生やしていた。

 

『疼く……疼くぜこの傷が…』

 

 サメのようなするどい顔つきに、片方には亀裂が付いたオレンジ色の発光する瞳、そして、胸には紫色に光ドーム状の発光体……あれはまさか、カラータイマー? と言うことは……黒い巨人は一気に目の前へと近づく。

 

『見ろ、これはお前が付けられた傷だ、ウルトラマンゼロ』

「ベリアルぅ………」

 

 やっぱり、これは勇夜…ウルトラマンゼロの記憶なんだ。

 そしてこの巨人が、リンクから聞いた、あの悪に堕ちてしまったウルトラマン、カイザー……べリアル。

 

「俺と戦え!」

 

 ゼロは、人と昆虫並の体格差にも動じずべリアルに意気揚々と叫ぶが。

 

『ふっハァハァハァハァハァハァハァ!何言ってやがる?そんな虫けらみてえにちっぽけになっちまって』

 

 べリアルはゼロへの禍々しい憎悪を隠しもせず、優位な状況にいるという優越感が混じった邪悪な笑みで返す。

 

『こいつが欲しいか?』

 

 べリアルの指に特殊なフィールドで浮かしていた物体は紛れも無く。ゼロがウルトラマンに戻る為のアイテム、《ウルトラゼロアイ》が握られていた。

 

『お前はそこで見物していろ』

「何をする気だ!?」

『見ろ…』

 

 べリアルは、室内に掲示された数あるモニターの一つを指さした。

 

『今ので丁度100万体目だ、光の国をぶっ潰してやるぜ』

 

 その一つには、ゼロにそっくりな姿をした一つ目の巨人が、輸送機らしき物体に収納され、緑色のエネルギーを纏って飛ばされる様子が映っていた。

 

『挨拶状はとっくに送ってやったぜ』

「だがあっちは親父がいる、仲間もいる、お前の軍隊に負けはしない!」

『はぁ! どんだけダークロプス軍団を作ったと思ってるんだ?…これからが見ものだぜ』

 

 ゼロも私も、立体モニターに映る光景に固まってしまった。

 

『いくらウルトラ戦士でも、この数は無理だな』

 

 モニターの向こうでは、何千、何万ものダークロプスが輸送船に収納され、一斉にゼロの故郷へとワープしていったのである。

 もう100万体も送られているのに……これ以上あんな数を相手にされたら、それが際限なく続くととしたら、それだけで戦意喪失してしまう。

 ベリアルの言う通り、いくらウルトラマンでもこれだけの物量を相手に消耗戦を強いられたら、敗北は必至だった。

 

「やめろォォォォォォ!」

『お前にはもう何も無い…絶望の恐怖を味わうが良い』

 

 同じだ……今の自分と同じだ……無力さを思い知らされながら、絶望に追い落とされる現実。

 もうやめて…これ以上ゼロを…そんなに痛めつけて何が楽しいの?

 どうしてそんなに笑っていられるの?

 どうして?

 

「カイザーべリアル陛下」

 

 そんな時、べリアルの部下らしき無機的な異形の怪物が現れた。

 

『ああ?』

「あれを…」

 

 部下が指したモニターには、鳥のような形状をした赤と白に彩られた船が現れ、光の国に送られようとするダークロプスの輸送船を破壊していた。

 

「ジャンバード!みんな無事だったのか!?」

「我々の侵略部隊の邪魔をしています」

『ふん…撃ち落とせ』

「逃げろ!逃げるんだ!バラージの盾はまだ見つかってないんだぞ!」

 

 バラージの盾…確か、リンクは自分のことをそうとも言っていた。

 それはともかく、今のゼロの気持ちも分かる。

 明らかに多勢に無勢、圧倒的に不利だ。

 感情を挟まずに考えれば、彼らの行為は無謀と言っても差し支えが無かった。

 

「兄貴!聞こえる!?べリアルの思い通りにはさせないよ!今助けるからね!」

「ゼロ!気をしっかり、必ず助けますから!」

 

 ジャンバードからわたしと同じくらいの男の子の声と、少し年上の女の子の声が聞こえた。

 何故か、その声の主の名前と顔が浮かんだ。

 男の子はナオ。

 惑星アヌーの開拓民族の子。

 女の子はエメラナ。

 惑星エスメラルダの王族の第二王女。

 

「ナオ…エメラナ…」

 

 そして声の主はラン。

 ナオの兄で、べリアルの侵略に立ち向かって大ケガをして、ゼロが救う為に一体化した青年。

 感じる…助けて上げられない今の自分の無力さを、かみしめる一方で…命がけで助けに来てくれたことに嬉しいと感じるゼロの気持ちに。

 

「必ず助けるからね!」

「助けますから!」

 

 そして、一筋のしずくが流れ落ちた。

 その雫は、光を発してドームのガラスを破り、光から今はゼロのかけがえの無い中まであり、友達と彼が言った、鏡の騎士ミラーナイトが彼を救いだした。

 

「ミラーナイト」

「随分探しましたよ…」

「兄貴ーーーー!」

「ゼローーーー!」

 

 互いの名を、思いのたけをこめて叫ぶ。

 

「ナオ!エメラナ!」

 

 そしてジャンバードは、べリアルの右手を攻撃。

 ウルトラゼロアイは宙に飛ばされた。

 

「ミラーナイト!俺を投げてくれ!」

 

 ゼロの希望に応え、ミラーナイトはゼロアイに向けて投げた。

 その勢いのまま、ゼロアイを手に取り、目に翳し、眩い光となって………本来の姿やるウルトラマンゼロに変身。

 

 

 

 

 

 

 そしてゼロとその仲間。

 べリアルとその部下たちの死闘が始まる。

 激戦の末、ミラーナイトとジャンバードが人型ロボットに変形したジャンボットは幹部である部下を倒すが、べリアルは想像以上の強さでゼロを圧倒…

 さらに内部に保管された膨大なエネルギーを含んだ鉱石の山からエネルギーを吸い取り。

 怪獣の呼べるほどのおぞましい姿にパワーアップ。

 そこにもう一人仲間の巨人。

 グレンファイヤーと対べリアル軍連合艦隊がかけつける。

 だがべリアルはエスメラルダごと破壊しようと口から光線を放ち。

 ゼロとミラーナイトは海でみせたのと同じバリアを張って、グレンとジャンのサポートも借りて防ごうとするが…その前の戦闘でべリアルにエネルギーを吸い取られたゼロには余力が無かった。

 ジュエルシードを封じようとした時よりもさらに早くカラータイマーの点滅が早まっていく。

 対べリアル艦隊もべリアル軍に阻まれ、彼らを援護できない。

 でもここでバリアを止めてしまったら、エスメラルダも…この世界も…

 わたしは見ることしかできない…たとえこれが過去のものであっても…胸が痛かった。

 そして。

 

 

 

「俺たちは…絶対ィ……負け…なぃ……」

 

 

 

 ゼロの金色に輝く目から……光が失われた。

 もう……終わりだ。

 世界はあの悪魔の手に堕ちる。

 あの世界だけじゃない、存在する全ての次元世界は奴に食いつぶされて、絶望の奈落の底に落とされる……〝過去〟のものだと忘れて打ちひしがれそうになった時。

 

 

「ゼロが『夢も希望』もあるって教えてくれたんだ!負けられねえんだよ!」

 

 

「闇に沈むばかりだった私を、ゼロは救ってくれた! 今度こそ守り抜く」

 

 

「ゼロもナオも姫様も、微かな〝希望(ひかり)〟を頼りにここまで来た! 絶対に、ここを引く訳にはいかない!」

 

 

「負けないよ!絶対負けない!負けるもんかァァァァァァ!」

 

 

 それでもここにいる人たちは希望を捨てずに、諦めずに立ち向かう。

 滅びが秒読みに入り、それを享受するしかなかった世界に…差し込んだ光明によって…ゼロも光を失っても尚、まるで死後も主を守り続けたある僧兵の如くバリアを張って、佇み続けている。

 

「兄貴、聞こえる?…………僕にはあの時聞こえたんだ…僕らみんなが、バラージの欠片なんだって……僕らみんなが助け合って、支え合って、バラージの盾は生まれるんだ」

 

 助け合って……支え合って……ナオの言葉を反芻しているフェイトに、彼が〝伝説の巨人〟からのメッセージを受け取った、その時のビジョンが彼女の脳裏に浮かぶ。

 

「僕らみんなの心に光(ちから)はあるんだ、ねえ?そうだよね…父さん!!!」

 

 この場に臨む者たちの想いが、最高潮に達した瞬間………光が彼らの体から溢れた。

 ナオ、ジャンボット、グレンファイヤー、ミラーナイト、立場の垣根を越えて…宇宙海賊、二次元人、エスメラルダ人、様々な人たちの想いが光になっていく。

 なんて………眩くて……綺麗で……温かいんだろう。

 眩さも温もりも直に、体にも……心にも感じる。

 これが……〝人の心〟が生んだ光?

 悲しみとは違うものの涙が止まらない……光が、ずっと凍てついていたフェイト心に沁み込んで行く。

 その光の群れは一つとなり、ゼロに降り注いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 どこかの空間で目を覚ますゼロ。

 最初は何も無い漆黒の〝無〟だった。

 死んだのか? 俺…だが、ここが〝あの世〟だって実感が沸かず、反対に自分の魂はまだ体に宿っている実感だけはあった。

 

「ゼロ……」

 

 現状と距離感が掴めない静寂さと闇が広がる空間に声が響き、ゼロは響いた方に目を向けると。

 

「ウルトラマン……なのか?」

 

 そこには、少し厳つさのあるシルバー族のウルトラマンが立っている。

 

「〝元〟な……」

「え?」

 

 どうして……だって…その姿は……途端、相手が『元』を付け加えた理由を知ってしまった。

 シルバー族特有の、銀色のボディに彩る赤色のライン、それは確かに…紛れもなく。

 

「ベリ…アル……?」

「ああ……正確には〝奴〟に残された……闇に堕ちる前の自分の欠片……残留思念ってとこだ…」

「それがどうして俺を…………っ!!!」

「助けるまでもなかったさ、お前があんまりにしぶとく生きようとしてたんでな」

 

 と、ベリアルは言いはしたが、何かしらの延命措置を、ある程度行ってはいたと見える。

 

「お前の前に姿を見せたのは少し用があったからだ」

 

 ベリアルはゼロに手を向けると、突然彼の頭に頭痛が響く。

 

「な……何を――――っ!」

「少し手荒だが、この方が伝えやすい」

「荒っぽ過ぎるだろ……俺も人のこと言えねえけど」

 

 ベリアルはテレパシーで自分の記憶を、直接ゼロに送り込んだのである。

 ウルトラ戦士のゼロには頭痛程度に済んだが、人間なら、ショック死確実な荒技だった。

 何万年の時間が刻まれた記憶と言う名のデータだ、人の脳のスペックでは、一欠片も積み込められない。

 ゼロの脳内には時間的には一瞬だが、ベリアルが闇に堕ちる過程を追体験させられていた。

 かつて光の国を震撼させたエンペラ星人の恐怖と、幼馴染で……親友であったウルトラの父と、母への愛憎混じった感情に揺れ、プラズマスパークの光に手を出し、いもずる式に暗黒に染まっていった記憶。

 ずっと、自分はこいつを根っから腐った大悪党と思っていた。

 でも違う、この人は俺と同じだ……がむしゃらに力ばっかり追いかけたせいで……壊れちまった、自分のなれの果てだ、分身みたいなもんだ。

 

「ご到着のようだな」

「あっ?」

 

 何が? と疑問をよぎったが、彼らのの前に……一筋の光が向かってくる。

 

「受け取ってやれ……〝バラージの盾〟を」

「ベリアル……あんたはどうするんだ?」

「どうするって、お前たちに倒されるまでさ……」

「そ―――それで良いのかよ!? あんたはそれで!」

 

 知ってしまった……この人の人となりを知ってしまった今……このまま……『悪魔』と呼ばれたまま……彼を殺さなきゃならないなんて。

 納得いかない……いけるわけない……同じ罪を犯したのに……自分だけ……ウルトラマンとして生きて……この人は憎まれ役になって死ぬ運命だなんて、納得できるわけない。

 どうにかして救えないのか? 助けやれないのか?

 

「俺にはもう……あの光の向こうには戻れない……言っただろ? 今の俺は残留思念……過去の遺物だ」

 

 ベリアルの言葉は、こっちからすれば屁理屈でしかなかった。

 これじゃ……浮かばれねえじゃねえか……犯してしまった罪は消えず、ずっと背負って生きていかなきゃいけないことは分かっている。

 でも死んだら……それまでじゃねえか。

 償うこともできないじゃいか。

 贖えぬまま、生前の悪名が、ずっと残り続けてしまうじゃないか。

〝彼〟に会うまでの自分が持っていた〝悪名〟が、死んでも尚ずっと生き続けてしまうじゃないか。

 そんなの……不条理だ……こんなの……理不尽だ。

 

「ありがとう…」

「え?」

「こんな俺のことで、悲しんでくれてな……」

 

 彼の体は半透明になり、消えかかっていた。

 

「掴んでくれ……俺には掴めなかった」

 

 ゼロに語りかける声もくぐもっていく。

 

「待ってくれ!!!」

 

「光を……」

「ベリアル!!!」

 

 手を伸ばそうとした瞬間ベリアルは消え去った。

 

 

 

〝ありがとう〟

 

 

 

 感謝の言葉から、彼から自分に送られるべきものじゃない。

 本当なら、その言葉は、俺が…彼に言ってあげなきゃならなかったのに……

結局俺は、伝えることが……できなかった。

 

 

 

 

 

 

 ベリアルが漂っていた空間に、鳥の羽ばたく姿にも似た赤い光体が現れ、そこを起点に巨大な人型が形作られていく。

白銀の体躯、背中から天に向かって伸びる一対の突起、胸に一際目立つ発光体を持つ、銀色の巨人。

 

「ウルトラマン……ノア」

 

 光の国の民が今の姿になる遥か昔から存在し、父たちとも共闘したという、あの〝伝説の巨人〟が姿を現した。

 ウルトラマンノアは、光の雫たちを集めると。

 

〝光は…絆だ〟

 

 ゼロの脳裏に、直接そう一言送りながら……光をゼロに差しのべた。

 

〝修行の日々を思い出せ!〟

 

〝信じるよ、僕も信じる〟

 

〝仲間ってのは…良いもんだよな〟

 

〝別の宇宙から来たゼロが、命がけで戦っているのです〟

 

〝共に戦おう〟

 

〝もう大丈夫、彼のお陰です〟

 

〝忘れるな…わたしもみんなも、いつでもお前のことを思っている〟

 

 そしてゼロの脳裏に彼が今まで巡り合った人たちの〝言葉(おもい)〟と、世界を守るために集まった人々の〝思念〟が流れていく。

 

〝お前は、一人じゃない〟

 

 その光を受けて、ゼロに新たな力が湧き上がっていった。

 

 

 

 

 

『何!?』

 

 怪獣化したベリアルは、自ら発射した光線が、自分に跳ね返されたことに驚愕した。

 直撃は避けられたが、爆煙と爆風が吹き荒れる中、ゼロたちがいる方を見上げる。

 その光線を反射させた金色の光の中からは……鳥が翼を広げたような形状をし、背中から二つ突起が見受けられ、中央にはカラータイマーに酷似した光沢が見受けられる白銀の鎧――《ウルティメイトイージス》を身に付けたウルトラマンゼロ。

 否………ウルトラマンを超越した戦士―――《ウルティメイトゼロ》が……そこにいた。

 

『ふん! どんな手品か知らねえが……なぶり殺しに変更だ!』

 

 ベリアルの手を模した巨大要塞から、次々と現れるのは。

 彼が作り上げた侵略ロボット――レギオノイド。

 ゼロの姿と能力を模したマシン――ダークロプス。

 ベリアル軍の戦艦――ブリガンデ。

 それらによって編成された大群が一斉にゼロたちに襲いかかろうと迫る。

 

「まだあんだけいたのかよ」

「だがなゼロ、むしろ暴れがいがあるぜ」

「ここで引くわけにはいきませんからね」

「みんなも必死に戦っている、私たちも共に戦おう!」

 

 四人の巨人が、並び立つ。

 今ここに集った巨人たちは、あの圧倒的物量を前にしても怖気づいていない。

 

「よーし、お前ら、行こうぜ!!!」

「ああ!」

「はい!」

「おう!」

 

 後にチームを結成することになる若き戦士たちは、この世界を守るべく、宙を舞った。

 

 

 

 

 

 先手はグレンファイヤー、彼は首元をマッチに火を付けるように擦り。

 

「焼き鳥どころの火力じゃね!黒こげにしてやるよ!」

 

 その所作を発火点に、グレンの体は炎で真っ赤に燃え上がる。

 

「ファイヤァァァァァァァァァァーーーー!!!!」

 

 空気のない真空内ながら、熱を感じられると錯覚するほどの炎を身にまとい。

 

「行くぜぇぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーー!!!!!」

 

 ベリアル軍に高速で突貫。

 流星を纏う炎を受けたベリアル軍は、一斉に火柱を上げた。

 その余波さえ、必殺の一撃。

 

「バァァァァァ―――ニング!」

 

 グレンは静止し、身にまとっていた炎を火球を作り上げ。

 

「ボンバァァァァァァァ――――!!!!」

 

 発射。

 大型の火球が、着弾と同時に拡散し、次々と相手を呑みこんだ。

 

「ミラーエッジ」

 

 第二手はミラーナイト。

彼は手甲から、光の剣を作り出し、その刃を以てして、ベリアル軍に切り込む。流麗な太刀捌きで、次々とレギオノイドとダークロプスはスクラップとなっていく。

 

「ミラーセイバー」

 

 光刃から、直角状の刃がいくつも放たれる。

 ミラーナイトはそれを正確にコントロールしながら、同時にミラーエッジで切り込む、二つの行動を同時進行で行う匠技で圧倒。

 さらにミラーナイトは、ミラーエッジを持ちながら、自らを高速回転。

 

「トルネードセイバークロス!!!」

 

 回転しながらのシルバークロスの乱れ撃ち。

 放たれた刃は、ほぼ全て相手に直撃した。

 

「行くぞナオ!!」

「うん!!!」

 

「モードチェンジ、ジャンガトリング!」

 

 ジャンボットの右腕に装着された小手状のメカが、緑の光を発し、彼の身の丈近くあるガトリングガンになった。

 

「ファイア!」

 

 銃口から、ビームの雨がベリアル軍を襲う。

 残弾の管理などなんて鼻から考えていないような連射振りに、蜂の巣の如く穴をあけられたマシンは、閃光を上げていく。

 

「ターゲット!マルチロック!」

 

 さらにジャンボットは、自身の視界(センサー)に、無数のターゲットマーカーが表示させ、機体の各所からミサイルポッドを展開。

 

「ジャンミサイル!ファイア!!」

「行っけぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーー!!!!!」

 

 それを一斉掃射。

 緑色の光の弧を描いたミサイルが着弾し、火を噴くマシンたち。

 

 

 

 

 

 だが、まだまだ数が残っていた。

 

「残りは俺に任せろ!」

 

 ゼロが纏うイージスの背部についている突起――《ゼロイージス》から稲妻が走り。

 

 

「くらえぇぇぇぇぇぇーーー!!!!!」

 

 青い雷撃、《ライトニングゼロバースト》を放つ。

 漆黒の宇宙に、花火にも見える光点が輝いては消えた。

 ゼロはさらに、両腕にオレンジ色のエネルギーが集める。

 

 

「ブレイズ!!スパァァァァァーーーーーーーク!!!」

 

 

 両手から、無数の光線――《ブレイズスパーク》が発射され、それらは標的に着弾すると、花火の如く拡散爆発を起こし、周辺の敵の友軍機を巻き込む。

 三人が撃墜した数以上の機体と戦艦が、一気に炎上を起こした。

 

「こしゃくな!!」

 

 残りの艦隊とベリアルの熱線が、同時にゼロを襲うが…バラージの盾の中央部分がゼロの左腕に装着され、そこから発生したバリア、《ウルティメイトディフェンサー》で、艦隊の一斉掃射を全て受け止めた。

 

「何!」

 

 さらにバリアが受けたエネルギーが彼の左手に吸収されていく。

 敵と自分のエネルギーを相乗、右腕のウルティメイトソードに上段に構えながら集中させると、惑星の直径を超える長さの光の刃が出現。

 

 

 

「ウルティメイトシュトローム―――ソォォォォォォォォ―――――――――ド!!!!!」

 

 

 振り下ろされた巨大な光刃――《ウルティメイトシュトロームソード》は、残りの艦隊を全て飲み込み、要塞ごと切裂く。

 

「おのれ……ふざけやがって!!」

 

 爆発の余波を受けたベリアルは毒づく。

 

「今度こそ!ケリを着けてやるぜ!!!!」

 

 ゼロは身に着けていたバラージの盾を一度バラバラに切り離し、弓状の形態に合体させた。

 ウルティメイトゼロ、最大最強の技を使うための超弓最終形態――《ファイナルウルティメイトゼロモード》。

 超弓となったイージスを手に取り、光でできた弓の弦を引きながら、チャージを開始するゼロ。

 ベリアルも両肩のクリスタルを点滅させ、エネルギーを口内に集める。

 バラージの盾に埋め込まれた光沢の一つが光る。

 それらが全て発光し、チャージ完了とならないと、今から放つ大技は使えない。

 そのため――

 

「まずい!」

「先に撃たれる!」

 

 ――このままでは先手を撃たれると悟ったグレンとジャンはベリアルに向かって飛んだ。

 

 

「燃えるマグマのファイヤー―――――フラッァァァァァァシュ!!!」

「どこを見ている!こっちだ!!」

 

 2人はベリアルの周りをハエみたいに飛びまわりながら、ベリアルを牽制し光線の発射を阻止しつつ、ゼロがチャージを完了させるまでの時間を稼ごうとする。

 

「邪魔だぁぁぁ!!」

 

 が、ベリアルは身長300Mもある体躯から繰り出す剛腕を二人に叩きつけた。

 態勢を崩し、要塞の表面に叩きつけられるグレンとジャン。

 邪魔者は消えたとばかり、口から真紅の熱光線、『アークデスシウム光線』を発射。

 まだ光点が二つしか点灯せず、チャージが完了していないゼロに正確に命中。

 その高熱は、ゼロの肉体を跡形も無く蒸発させてしまった……と思われたが。

 

「何だと?」

 

 ベリアルが破壊したのは、ゼロの姿を映す、鏡面の〝破片〟だった。

 

「鏡を作るのは得意でね」

 

 破片の正体は、ミラーナイトが生成した鏡。自身または味方の姿を映し、周囲の風景に擬態した鏡(おとり)で敵を惑わす技《ミラーデコイ》だった。

 

「知らなかったかい?」

「引っかかりやがった!」

「攪乱成功!」

 

 全ては、この三人による陽動作戦だった。

 誰が言い出したわけでもなく、それぞれの能力を生かしたプレーが自然と生んだコンビネーションだった。

 

 

 

「ベリアル!!受けてみろ!!!!」

 

 

 

 そして、本物は既にエネルギーの集束を済ませ、発射態勢をとっていた。

 射線上から退避するグレンとジャン。

 準備は全て、整った。

 

 

「これが―――俺たちの――――」

 

 

 全体像が見えなくなるほどの光に包まれた超弓――ウルティメイトイージスから――

 

 

 

 

 

「―――希望(ひかり)だ!!!!」

 

 

 

 

 

 邪悪を滅する光の矢―――ファイナルウルティメイトゼロが解き放たれた。

 光矢は巨大化、怪獣化してもなお残っていたベリアルのカラータイマーに突き刺さり、痛みに呻くベリアルをよそに高速回転しながら、刺し貫いた。

 粉々に砕け散る、ベリアルのカラータイマー。

 そこを起点に、巨体が青い光に侵食されるていくベリアルは。

 

 

 

 

「ゼェェェェェェェロォォォォォォォォォォォ―――――――!!!」

 

 

 

 

 断末魔をあげながら、要塞ごと爆発し、光となって跡形もなく消えた。

 

 『バラージの盾』は、一度光ったかと思うと、予備エネルギーを使い果たして光が消えていたウルトラブレスレットに集束し、後に自我が目覚め、リンクと命名される《ウルティメイトブレスレット》へとに変貌。

 

「みんな……」

 

 彼には言えなかった……告げやれなかった……ならせめて。

 〝光は……絆……〟

 それを教えてくれた人たちに――

 

 

「ありがとう…」

 

 

 ―――暖かく……慈しみ溢れる音色で、ゼロはそう想いを口にするのであった。

 

 

 

 

 

 

 そうか、今分かった。

 ゼロが……彼があんなに強いのは…ただ、力があっただけじゃない。

 色んな人から助けられ、支えられて生まれた光(キズナ)があったからなんだ。

 だから、まったく別の次元世界に迷い込んでも、挫けずに戦ってこられたんだ。

 わたしにも……あったのかな?

 ゼロが、みんなから授けられたような光が……今を生きる力になってくれる〝思い出〟が、遺伝子を分けた姉妹とはいえ他人のモノでしかなかった自分にも。

 

 

 

〝あるさ〟

 

 

 

「え?」

 

 あたしは顔を上げた。最初の暗闇から戻ったと思うと、目の前から光が溢れ…それはゆっくりと巨大な人を形作った。

 

 

「ゼロ……」

 

 

 ウルトラマンゼロ。

 そして、自分とゼロの横に、映像が現れ、そこに映っていたのは―――

 姉妹も同然な狼のアルフ……何度もわがままを通して、悲しませたのに…それでも傍にいてくれた。

 白い魔導師の子――なのは……敵だったのに…何度も戦って…傷つけて…酷いことをしたのに……友達になりたいっていってくれた。

 そして、目の前にいる巨人、勇夜…ウルトラマンゼロ……わたしがいけないことをしてるのに………本当しなきゃいけなかったことから逃げ続けていたのに、それでも……心配してくれて……想ってくれて………何度も何度も…守ってくれた。

 彼らのことを思い返している内に、気づいた。

 世界にはあんなにたくさんの人がいるのに…なんで…自分と母しかいないって思ったんだろ?

 ゼロの言う通り、自分にもちゃんといたじゃないか…

 『フェイト』と言う、一人の人間として…自分がどう生まれたのかを、知ってしまって、それでも自分を『フェイト』だと、そう名前を呼んでくれた人たちが。

 ゼロは察したのか、そっと頷き、両手で輪を形作ると、金色のゼロからも手を差し伸ると、そこから発された光が私へと流れていく。

 私は手を伸ばすと、その光に包まれていった。

 

 

 

 

 

 

 光でホワイトアウトした後…次に私が見たのは…管理局の次元航行船内の医務室の天井と。

 

「フェイト…」

 

 ゼロが地球人の姿になった少年、諸星勇夜がそこにいた。

 さっきまで消えていたフェイトの瞳の生気(ひかり)は、光沢を取り戻している。

 

「忘れもんだ」

 

 彼は起き上がったフェイトの掌に何かを手渡す。

 

「バル…ディッシュ」

 

 ボロボロになりながらも、それでも輝きを止めない、寡黙だけど大事な愛機。

 彼は光点を光らせながら。

 

『Get set』

 

 と、たった一言だけ発した。

 その行為に思わず彼を抱きしめるフェイト。

 この子も、バルディッシュもそうだ……ずっと一緒にいてくれた、大事な存在。

 

「リニスが精魂込めて作ってくれた、大事な相棒だろ?」

 

 そしてバルディッシュを通じて、フェイトは相棒の作り主を思い出す。

 先生でもあり、家族でもあったリニスのことを。

リニスも大事な人の一人だ……ずっと傍にいられないことを分かってたのに、それでも……私のことを愛情一杯に育ててくれた。

 

「勇夜……」

 

 夢の中でもずっと流れたままだったのに…また瞼に熱いものが込め上げて、瞼が赤くなるのも構わずに、フェイトは勇夜の見据えると、自然と…彼の腕の中へ身を預けて。

 

「ごめん…なさい……ごめぇん…なぁさい…」

 

 今まで堪えてきた分を一気に解き放つように、自身のしずくを様々な思いと一緒にあらいざらい流していった。

 勇夜は黙って……言葉にする代わりに固く逞しい腕で、優しく彼女を包みながら、彼女の溢れる想いを受け止める。

 みんな…ずっとずっと…わたしをわたしとして、助けようとして、呼び掛けて、向き合ってくれたのに……わたしはそれを拒み続けて…自分には何も無いと、一人だと思い続けて……知らなかったとはいえ、地球を…世界を消してしまうこんな事態を引き起こしてしまった。

ごめんなさい……ごめんなさい……ごめんなさい。

 フェイトは愛機を握りしめ、光を力にする巨人に相応しい彼の暖かな体温を感じる腕の中で雫を流せるだけ、流し続けた。

 ロストロギアなんかに、頼らなくても良いんだ。

〝光〟はわたしにも、あるんだ。

 ずっと直ぐ傍にいたんだ。

 私も、一人じゃなかったんだ。

 一人だと思ってただけで、〝独り〟じゃ無かったんだ。

 

「ありがとう…もう、大丈夫だから…」

 

 溜めこんだものを流しつくした後、フェイトは勇夜の腕から離れる。

 

「フェイト…」

 

 勇夜は真っ直ぐフェイトを見つめ、名前を呼ぶと。

 

「これから………あの庭園に行くとこなんだけど……付き合ってくれるか?」

「勇夜…」

『みんなは今、あなたの母を止める為に戦い、私たちも地球とこの次元世界を守る為に庭園へと乗りこむつもりです、ですが、わたしたちにはそれしかできないのです、世界を守ることと、プレシアを止めることしか…』

「それしか…できない…」

「フェイト、お前はどうしたい?」

 

 今まで血の繋がりと過去の記憶に甘んじて、それらに縋ったまま、背を向け会って向き合えなかったわたし。

そして母も、まだ昔に囚われたまま〝独り〟……ならやるべきことは明白。

 今度こそ、わたしがちゃんと母さんと向き合って、呼び掛けて、助けてあげなきゃいけないんだ。

 このままベリアルのように、母さんを憎まれ役にさせて良いわけが無い。

 ずっと過去の牢獄に囚われたままの母さんを……このまま見捨てて良いわけがない。

 たとえ一度で果たせなかったとしても………頑なな自分を呼び掛けてくれた勇夜たちの様に、何度でも挫けず立ち上がって、〝今の母〟と向き合って、今度こそちゃんと、救ってあげなきゃいけないんだ。

 

「私も、一緒に行きます!」

 

 涙を拭いながら、フェイトは静かながら、力強さが満ちた響きで、自分の決意を述べた。

 

「よし、なら決まりだ」

 

 彼女の決意に彼は笑顔で応えた。

 

「バルディッシュ」

『Yes, sir.』

 

 デバイスフォームになるバルディッシュは……あちこち損傷が酷く、とても戦える状態から程遠かった。

 なのはとの戦闘で、スターライトブレイカ―を受けた際、バルディッシュはフェイトへのダメージを少しでも軽減させようと、身を盾にしていた。

 さらに、フェイトがあの宣告の時に落した時の衝撃が傷口を抉る塩となって、戦闘で身に受けた傷をさらに深くしていた。

 勇夜の〝ウルトラマン〟の力で、体力も魔力も回復しているが、リカバリーできるか、かなり難しい。

 そんな時、フェイトの手の上に重ねる形で、勇夜の手がバルディッシュに触れた。

 

「あ…」

「手伝うぜ」

 

 でも、勇夜と一緒なら……きっと大丈夫。

彼の手の温もりで一度は緩んだ顔を引き締めながら、フェイトは勇夜と自分たちの魔力を、バルディッシュに注ぎ込む。

 その魔力を糧に、フェイトの愛機は自己修復を進めていき…

 

『Recovery complete!』

 

 力強い響きと閃光ともに、愛機も復活を遂げた。

 フェイトは生成したバリアジャケットを着込み、マントを羽織る。

 

〝私たちの全ては、まだ始まってもいない〟

 

〝最初で最後の一騎打ち〟の前に、あの子が投げ掛けた言葉が浮かぶ。

 その通り、〝わたしたちの全て〟は、まだ始まってもいなかった………出発点にすら辿り着いていなかった。

 ずっと遠回りをしてきたけど、色んな人たちのお陰で、やっと自分は、今スタートラインに立っている。

 だから……〝フェイト・テスタロッサ〟として……ちゃんと自分の意志で、自分の翼(いし)で、スタートを切って飛び立つ為に………〝思い出に囚われた日々〟を―――終わらせよう。

 

「行くぞ、フェイト」

 

 私は強く頷き、差しのべてきた勇夜の左手をしっかり握った。

 そして勇夜は、ウルトラマンとなる為のアイテム――ウルトラゼロアイを顔の前に構え。

 

「掴まってろよ! デュア!」

 

 額に装着、光が溢れだす。

 あの温かい……人の想いの結晶たる光が……二人を包んだ。

 

 

 

 

 

 

 駆動炉を目指すなのはとユーノと助太刀に来たアルフは、ロボット兵を倒しながら、最上階を目指している。

 今彼女たちはそこへと繋がるオペラハウスを彷彿とさせる螺旋階段にいる。

 だが、目の前にゴールがあるにも拘らず、多数のロボット兵に道を阻まれ、立ち往生を余儀なくされていた。

 

「たく次から次へと! 数が多すぎる!」

 

 この三人にかかれば、一体程度どうってことはない。

 とは言え、それも群れれば厄介だ。

 

「多いだけなら良いんだけど……この!」

 

 ユーノはバインドで動きを封じ、それをなのはの砲撃とアルフの鉄拳で破壊と、分担して応戦しているが、徐々に押され気味になっていく。

 やがて。

 

「しまった!」

 

 4体のロボット兵が、ユーノのバインドを破った。

 その内の一体が、なのはに向けて突進。

 

「なのは!」

「はあ!」

 

 その手に持った馬上槍がなのはを捉えようとした時…

 

 

 

〝諦めるな!〟

 

 

 

 上から、緑色の光線が、ロボット兵の右腕ごと破壊し、さらに間をおかず、ほぼ一瞬で、人型の機械は切り刻まれ、鉄屑と化す。

 もしかしてと思った………なのはの予想した通り、声の正体は。

 

「ディィィィィアァァァァァァァァァァァァーーーー!」

 

 ウルトラマンゼロ。

 今は人間と同じほどの体格な彼の額から放たれる光線――《エメリウムスラッシュ》と、飛び廻る《ゼロスラッガー》は、間一髪なのはを救い、同時に螺旋階段上部から垂直降下、ウルトラゼロキックで、ロボット兵数体をスクラップにする。

 

「!………ゼロさん!」

 

 さらに。

 

『Thunder Rage』

 

「フェイト!?」

 

 アルフが螺旋階段を見上げると、グレイヴフォームの愛機を持って魔法陣を敷いたフェイトが雷を轟かせ、残るロボット兵を稲妻のバインドで拘束。

 

「下がってろ!」

 

 一方ゼロはゼロスラッガーを手に取り合わせると、二振りのナイフは光に包まれ、刀身の長さが異なる三日月型の大剣、《ゼロツインソード》となり、刀身が青緑色の光が纏われる。

 

『準備完了』

 

 バルディッシュのエコーがかかった声を皮切りにゼロとフェイトは。

 

 

「サンダァァァァーーー!レイィィジ!」

 

 

 バルディッシュの黒い刃からサンダーレイジが。

 

 

「プラズマスパァァァーーークウェェェーーーブ!」

 

 

 横薙ぎに振るわれたゼロツインソードから、光の衝撃波――《プラズマスパークウェーブ》が放たれた。

 光線と雷撃が残ったロボット兵を襲い、螺旋階段にいたものは全て閃光を放って爆発四散した。

 それを見止めた後、ゼロとフェイトはなのはたちの許へ飛び寄る。

 

「フェイトちゃん…」

「………………」

 

 二人は互いの視線の糸を繋げる。

 お互い、言葉にしたいことが多くて言葉にできない。

 静寂が続き、なのはとフェイトは暫く互いを見つめ合っていた。

 しかし、それを破る闖入者がいた。

 

「あれは!?」

 

 階段と壁を強引に破って、そいつは現れた。

 

「ゼ…ゼロさんが、もう一人?」

 

 なのはとユーノは驚愕していた。

 なぜなら、そいつは〝ウルトラマンゼロ〟とよく似た外見をしていたのだから。

 

 

 

 

 あのゼロにそっくりな〝ロボット〟にフェイトは覚えがあった。

 ゼロにそっくりで、でも色合いは鈍い橙色に黒色に灰色に近い銀色と、全く違う姿と、赤く禍々しく光る単眼。

 この目で見るのは初めてだけど、間違いない。以前リンクから話は聞いていて、さっきのゼロが見せてくれた彼の記憶の世界で直に見てもいる一つ目の人型マシン。

 

「ダークロプス…」

「フェイトちゃん……知ってるの?」

「ベリアルって言う悪党になっちまったウルトラマンが、ゼロへの逆恨みから作ったロボットさ」

 

 フェイトが名前を呼び、アルフが補足する。

 今はゼロと同じ人間サイズのダークロプスが手を顔面に翳すと、光が集まり。

 

「来るぞ!」

 

 モノアイから、真紅のレーザー、《ダークロプスメイザー》が発射。

 全員何とか回避するが、ビームが当たった内壁は大きく抉られていた。

まもとに受ければ、ひとたまりも無い破壊力。

 さらに、ダークロプスは頭に手を翳し、ゼロスラッガーに酷似する宇宙ブーメラン、ダークロプススラッガーを飛ばす。

 

「シェア!」

 

 ゼロも通常形態に戻したゼロスラッガーを投げ迎撃、刃はなのはたちには視認できないほどのスピードで打ち合い。

 ほぼ同じタイミングで、スラッガーを頭部に戻すゼロとダークロプス。

 

「こいつは俺が食い止める、みんなは駆動炉に!」

「ゼロさん…」

「ゼロ……でも」

『次元振の発生まで時間がありません! 早く行って下さい!』

 

 普段は冷静なリンクも声を荒げる。

 彼女の言う通り、これ以上、道草をくっている時間は無い。

 一刻も早く時の庭園を動かし、母が次元振を生む為にわざと暴走させている駆動炉を止めなければ、地球は消え失せてしまう。

 けれど、優先順位は分かっていても……フェイトの表情が曇る。

 相手をするダークロプスは、大きさこそそこらのロボット兵より小型だが、少なくとも目の前の相手は、今までの比ではない強敵であることは明らかだったから。

 

「頼む、行ってくれ」

 

 ゼロは表情こそ変えずとも、フェイトたちに微笑みを向ける。

〝心配してくれるのは嬉しい、でも行ってくれと〟―――笑みにはそう書かれていた。

 

「フェイトちゃん、行こう!」

 

 大丈夫……ゼロなら大丈夫。

ゼロも私たちなら、駆動炉を止めてくれると信じているのだ。

 なら、自分も信じるまで。

 

「気をつけてね……ゼロ」

「ああ…」

 

 私たちは、駆動炉に繋がるエレベーターへと向かって、飛んでいった。

 

 

 

 

 

 

 ゼロを残し、なのはたちは駆動炉へと繋がるエレベーターへと飛んで行く。

 それを阻止するとばかり、ダークロプスは彼女たちに照準を向けるか。

 

「させるかよ!」

 

 ゼロが立ちはだかり、手から発射する稲妻状のビーム、シューティングゼロでダークロプスメイザーを相殺、さらに音速を超えたスピードで急接近し。

 

「デェア!」

 

 その勢いを付けた上段回し蹴りを叩きつける。

 ダークロプスはとっさに両腕でガードするが、その衝撃に20Mほど吹っ飛ばされる。

 

「お前の相手は―――」

 

ゼロは鼻をこすりながら写し身を見据え、裂帛の気迫を発すると同時に構え。

 

「―――この俺だ!」

 

 啖呵の雄叫びを切った。

 




やっぱ制作の事情とはいえ、直ぐにファイナルウルティメイトゼロモードになったのが物足りなかった初執筆当時の私は、これはチャンスとばかりにウルティメイトゼロとUFZメンバーの無双シーンをノリノリで入れこみました。
00劇場版公開からもそれほど経ってない時期だったので、若干どころじゃないレベルでガンダムマイスターっぽいです(汗

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