ウルトラマンゼロ The Another Lyrical Story 第一章   作:フォレス・ノースウッド

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端的に言うと今回はなのはが彼女の出生を知ってしまう話。
あの子の人柄なら、あの子が○○だった程度気にはしないだろうけど、でも無印での衝撃の事実になのはがどう感じていたか描かれてないんですよね……実を言うと。


EP18 - 問われる覚悟

「光兄!」

 

 なんちゃって和室もといアースラ応接室から出てきた勇夜と光。

 とそこへ、いきなりなのはが光の身に抱きついて来た。

 

「なのは?」

「(何も……悪いこと……されてないよね?)」

 

 光の腰を巻き付けた腕の力を強めながら、兄の安否を気遣うなのは。

 彼女のことだから、ハラオウン親子を信じていないわけではなかったろうが、もし…異星人で巨人な兄たちが何かよくないことをされたら……少女の齢なりにネガティブな想像が掻き立てられてしまって、それで今の行為に至ったのようだ。

 

「(大丈夫ですよ、現にこうして無事なのですから)」

 

 栗色の髪を優しく撫でながら、なのはを安心させようと接する光。

 

「よかった……」

 

 その彼の態度に、ようやくなのはの心は落ち着きを取り戻し……たのだが。

 

「兄貴にゾッコンなのは分かるが、もう少し周りを見てくれねぇか」

 

 勇夜のからかい気分が多数を占める発言をきっかけに、落ちついたら落ちついたで今度は兄に抱きついた自分の行為と、少数とはいえ衆目に晒されていた状況を自覚され、恥ずかしさで頬の熱が急上昇して赤く染まっていく。

 ユーノも、どう切り出したらいいか測りかねる様子で苦笑いを浮かべていた。

 

「もう、余り義妹(いもうと)をからかわないでもらえますか」

 

 棘のあるものにならぬよう留意して、光は勇夜に忠言する。

 そう言えば、仲間たるこのウルトラ戦士は、4人で真空の海を旅していた頃から結構相手をおちょくる癖を持っていたのを思い出す。

 戦闘では勇壮さと苛烈さが目立ち、今ではクールさも磨きがかかった彼だけど、ジョークを飛ばすくらい根はきさくで砕けた一面も、良い意味で相変わらずないようだ。

 

「悪かったよ、俺にもなのはと同じくらいの義妹がいるから、つい調子乗っちまった」

「例の、ご先祖様が日本人の方のですか」

「ああ、特に下の子はかなりのやんちゃ坊主で帰ってくる度に、ミサイル見てぇな体当たりで抱きついてくんだけどな」

 

 ミサイルとは何とも物騒な表現ではあるが、実際彼にはミサイルなんて人間態でも『へ』でもないのだから性質(たち)が悪い。

 けれど、言い方とは裏腹に微笑ましい勇夜の表情から、彼もまた妹を溺愛し、兄妹間の関係はとても良好なものであると容易に窺えた。

 ひょっとして勇夜、ゼロは天性の兄貴気質があるのでは?

 根拠はある。彼は二次元世界とエスメラルダのある宇宙――エメロードスペース、勇夜―ゼロが初めて訪れた別世界ということで通称アナザースペースとも言う宇宙に来た際、惑星アヌーでべリアル軍の侵攻で重傷を負った青年ランと一時的に一体化したことがある。

 そのラン青年には、ナオという当時はなのはくらいの歳の弟がいた。

 最初こそベリアル軍の侵略ロボット、ダークロプス (モデルがゼロなのだから当然だが)にそっくりな得体の知れない巨人に、兄を乗っ取られたとも言えたので戸惑ってはいたが、彼の一見荒い口ぶりに隠れた真摯な人柄に触れ、すぐに彼を『ゼロ兄貴』と呼んで慕うようにまでなった。

 案外、彼の人柄は特に小さい子に惹かれるのかもしれない―――などと考えていると。

 

「いいじゃない、兄妹仲が良いのは」

 

 婦人警官を彷彿とさせるスカートタイプの制服を着込む、ショートカットな茶髪の跳ね具合と、年中顔をニコニコさせてそうな佇まいが特徴的な女の子がやってきた。

 見た目ではクロノと歳の差がありそうだが、彼が小柄なだけで実際は同い年と見ていい。

 

「勇夜、この人は?」

「ああ、この船の通信主任で、クロノとは同僚であり執務官補佐役でもある」

「エイミィ・リミエッタ、エイミィと呼んで下さい」

「高町光です、この子は妹のなのはです」

「よろしく、なのはちゃん」

「はい、よろしくお願いします」

 

 勇夜が『鉄頭』と評するのも納得な堅物君の趣がある執務官殿と違い、気前の良い、社交性豊かな補佐官、それが光から見た第一印象だった。

 生真面目な上司のサポートには、これくらいの陽気さが適任なのだろう。

 

「勇夜君も久しぶり、二年ぶりだよね」

「お前もあの鉄頭も相変わらずで安心したぜ、今でも隙ありゃあいつをからかってんだろ?」

「当たり、クロノ君ほどからかい甲斐のある子はそうそういないからね」

 

 しかし、趣味が同僚でもあるとはいえ上司へのちょっかいとは、なんだか仲間の炎の用心棒と鋼鉄の武人のやり取りに似ていたさっきの勇夜に弄られる執務官を見るに、彼はかなりからかい甲斐のある方らしい、正直に言えば同感ではある。

 ああいう真面目君な手合いは、特に年上の女性たちには愛くるしいとさえ感じてしまうでしょうから。

 なので、実状はさておき、彼が異性関係で苦労している様が容易に想像できてしまった。

 

「俺も同感だが、上官への態度としてはどうかと思うけどな」

「彼には私みたいのが一人くらいいた方がいいの、でないと無愛想で付き合いにくい堅物君になっちゃう」

「そいつは確かに言えてる、ポーカーフェイスのつもりでももろに顔にでちゃうからな、アイツって」

「そうそう♪」

 

 根はきさくな勇夜と、社交性溢れるエイミィは相性が良いのか、執務官君を弄り倒しながら和気あいあいと談笑していた。

 

「いけねえ、無駄話が過ぎたな」

 

 勇夜はデニムジャケットの内ポケットから、USB状の物体を取り出してエイミィに手渡した。

 

「あの黒いの魔導師たちに関する捜査資料だ、アレックスたちにも回してくれ、こいつに書かれてることはさっき口でリンディたちに伝えてあるからな」

「ありがとう、それじゃね♪」

 

 仕事中でなければ、絶えずお喋りしてそうなくらいお喋り好きな補佐官は、艦内の廊下の向こうに消えていった。

 

「なんと言いますか……〝柔軟〟という概念を人型で具現化したような方ですね」

「だからクロスケのサポーターが務まんだよ、あいつくらいじゃなきゃ長くは続かねえ」

「亀吉さんが来るまでの特命係じゃないんですから」

 

 と突っ込む一方で、確かに言えてる、とも頷かされる光なのであった。

 

 

 

 

 

 4人は、行きにも使用したアースラ船内に備えられている転送ポートから、海鳴市の臨海公園の敷地内へとワープして戻ってきた。

 空と太陽が既にオレンジ色となった時刻であったが、空が夜に染まるほど日は沈んではいない。

 ふと、勇夜は視線を感じ、その見えない線の発信原であるなのはの方を見た。

 

「どうした?」

「あ…あの」

 

 ところどころこっちを見て、何か言いたげのようなのだが、どうしても止(とど)まってしまう……そんなご様子。

 話題が分かっている。

 

「フェイトちゃんの……ことなんですけど」

 

 当然ながら、フェイトのことだった。

〝勇夜と同じ………〝寂しい〟目をしていると〟

 先日に光から聞いた、なのはのフェイトに関しての印象の言葉を思い出す。

 そう言えば、この子も自分と似たような理由………自分でも分からない程なフェイトへので、あれだけ彼女の〝想い〟を知りたいと思い、話し合うことを求めていたのだっけ。

 

「フェイトちゃんから聞いてませんか? その…ジュエルシードを集めてる理由とか」

 

 フェイトとは一度交戦した後、表向き停戦協定みたいなものを結んでいた―――ってことは光にはもう話しているから、その光から聞いたのだろう。

 それぐらいは許容の内だ。彼が明かさなければ、自分からちゃんと話すつもりであった。

 だが……この子に〝真実〟を伝えるその前に、聞いておかなきゃならないことがある。

 

「で……あんたはフェイトのことを知って、どうしたいだ?」

「そ…その……」

 

 フェイトとは、ある程度付き合いを重ねていったことで、勇夜が痛感していた。

 あの子には、対等に付き合える同い歳の友達が必要だと。

 外見年齢相応より少ない彼女の人生では、今まで年上か年下しか、付き合いが無い。

 自分なんて、ぶっちぎりの最年長の5900歳、母のプレシアより年上だ。

 やっぱり、彼女には同じ高さに立つ関係な〝友達〟が必要なのだ。

 たとえわけあって敵対する間柄でも、ちゃんと自身の気持ちを伝え、相手を理解しようとする気持ちを持っている、それこそなのはみたいな子が。

 

「ジュエルシードは渡したくない、でも彼女をどうにかしたい、でもどうしたいのか、まだ分かんない―――だろ? 高町なのは」

 

 だからと言って、この間まで普通に学生をやってた小学5年生の女の子に安易にお願いするつもりはない。

 そのために、勇夜は敢えて、静かに淡々しつつも厳しさが含まれた声色で、問いかける。

 

「はい…」

「中途半端に関わって、中途半端に後悔するなって前にも言ったよな」

「はい…」

 

 単に知りたい気持ちだけでは、フェイトと、フェイトが〝抱えているモノ〟に関わってほしく無い。

 それだけではきっと、この小さな女の子の心は耐えられず押し潰されてしまうだろう。

 なまじ、他人(ひと)の痛みを感じ取れてしまう感受性を持つゆえに。

 

「あの子の境遇は、はっきり言って重すぎるぞ」

 

 フェイトが背負わされているのは……彼女の境遇、彼女の家族が抱える咎、あの子自身も知らない出生、それに……この事件が終わる頃には、あの子は自分の支えにしているものを失うことになる。

 一生抱えなければならない罪と過去と痛みはずっと足枷のまま、生きていかなきゃならないのに、きっと独りでは抱えきれず、下手すれば〝楽になる〟道を選んでしまうかもしれない。

 それだけの重みが、フェイトと言う少女には確かに在るのだ。

 

「それでも知りたいなら……………………腹、括れるか? 高町なのは」

 

 誰だろうと、他人の背負っているモノを完全に代わりには背負えない。

 人によっては、自分の痛みなんて他者には理解できないなんて言う奴もいるだろう。

 現に……かつての勇夜―ゼロはそうだった。

 自分の苦しみなんて、誰にも解るわけないと、周りに牙を向くことしかできない大馬鹿野郎だった。

 それでも自分を救ってくれた人たちのように、その人を心から、なんとかしてあげたい、助けたい、少しでも胸の痛みを一緒に受けて支える、その心意気と覚悟があるのなら。

 それは、目の前の少女への問いかけでもあり、同時に自分自身への問い。

 気がつくと、日は水平線に半分浸り、空には星がいくつか光を発し、街灯も灯りをともし始めていた。

 

「なのは…」

 

 なのはは暫く、俯いて黙ったままだった。

 ユーノが心配そうに彼女を呼び掛け、光は黙して見守る。

 だがやがて下を向いていた視線を勇夜に向け、真っ直ぐこちらに見据えた。

 

「はい」

 

 さっきとは違う、決意に心身を固めた佇まいで勇夜を見上げていた。

 彼女の姿を前に、心の内で微笑む勇夜。

 光の言う通りだ……ホントにこの子もとんだ頑固ちゃんだよ。

 フェイトと〝似た者同士〟だってのも、全く頷ける。

 真実を知ってしまえば、今固められた決心が揺らぐかもしれないけれど………確かに想いは受け取った。

 ならば、ちゃんと応えてあげなければならない。

 

「分かった」

 

 勇夜は目を閉じ、右手の人差し指と中指を立て、側頭部に付けると、それをなのはたちに向けた。

 指先から放たれた〝思念〟の波動が、彼女らの脳へと送られる。

 光はともかくとして、なのはとユーノは何をしようとしたのか良く分からなかったが、指を向けられた瞬間、知りたかった事柄が一気に脳内を駆け巡った。

 

「フェイトちゃんが………クローン」

「まさか、親から虐待を………」

 

 今彼が何をしたのかと言うと、テレパシー能力の応用でフェイトに関する情報を、直接なのはたちの脳に送信したのだ。

 思念伝達術――サイコトランスミット。

 父であるウルトラセブン譲りのテレパスだからこそできる能力だ。

 便利そうな能力だが、デメリットもある。

 相手がちゃんと〝聞く耳〟を持っていないと、送っても不快なノイズが脳内で響くだけ。

 無理に聞かせようとすれば、受信者の精神(こころ)を壊してしまう恐れもある。

 またこの能力はあくまで、無機的に〝情報〟を伝えるだけ。

 言葉を発する際、その時に込める〝気持ち〟ってやつまでは、送ることができない。

 

「次に会う時までは、君の答えを聞かせてくれ、俺からの『宿題』だ、あと光」

「はい」

「俺は暫く地球を離れることになるから、その間頼むな、注文のデバイスも必ず持って帰るからさ」

「了解、任せて下さい」

 

 二人は挨拶代わりに互いの拳を打ち付けた。

 直後勇夜は、左手の指を鳴らして結界を発生させ、そして光たちから離れて、距離をとると。

 

「リンク」

『はい、マスター』

 

 リンクから出現したウルトラゼロアイを手に取り。

 

「デュワ!」

 

 装着し変身。

 眩い光とともに、勇夜の体は瞬く間に巨大化していき、ウルトラマンゼロへと姿を変えた。

 ゼロはなのはたちを見据え、頷くと。

 

「シュア!」

 

 その場を飛び立ち、海原付近を境にして、燈(あかり)と深青(みさお)に染まる空の彼方へと飛んでいった。

 その雄姿を、三人は見えなくなるまでずっと見送っていた。

 同時に周辺の結界も解除される。

 その頃には、既に海鳴は夜の時刻となっていた。

 

「さあ、帰りましょう」

「うん」

「はい」

 

 光のその一声を皮切りに、三人は臨海公園を後にした。

 

 

 

 

 

 

「駄目だよ……管理局まで出てきたんじゃ、もうどうにもならないよ」

 

 隠れ家として住んでいるマンションで、クロノの攻撃で負傷したフェイトの手当てをしつつ、アルフはそう切り出した。

 

「大丈夫……だよ……」

「〝大丈夫〟じゃないよ! だって雑魚クラスならともかく、あいつは一流の魔導師だ…あの時は、勇夜と光って言う勇夜の友達が助けてくれたけど」

 

 その勇夜は嘱託魔導師で、その友はあの白い魔導師の身内、彼らは今後管理局と協力体制をとらざるを得ない。続けるのなら自分たちは今まで以上に、厳しい条件下での綱渡りを要求されることになる。

 

「本気であいつらに捜査されたら、ここだっていつまでバレずにいられるか…」

 

 少なくとも、勇夜がこの場所を管理局に教えることは無いだろう、それならあの場で捕まえればいいこと、なんせ絶好のチャンスだったからだ。

 わざわざ逃がしておいて隠れ家を教える、そんな遠回りなことをするメリットは無い。

 が……それでも焼け石に水、どの道隠れ家であるこのマンションの一室を特定されるのは、時間の問題だった。

 

「あんたの母さんだって、酷いことばっかりするし……ねえ、二人で逃げよう、もうあんな奴のためにこれ以上…」

 

 逃げたところで、いつかは不法収集の罪で局に拘束されてしまうだろう。

 だが虐待を受け、無理やりロストロギアを集めていたが耐えきれなくなって逃げたと供述すれば……刑罰はある程度軽く済むかもしれない。

 勇夜もそれを攻めはしないし、できるだけ罪を軽減できるよう奔走してくれるだろう。

 良くも悪くもフェイトのことが優先上位のアルフだが、そんな彼女でも彼を信頼し、慕うようになっていた。

 彼がもし家族であったなら……いや、勇夜だけじゃない。

 フェイトには魔法の先生兼親代わりをしてくれた人がいた。

 名前は、リニス。

 山猫を素体としたプレシアの使い魔だった女性。

 研究室に籠りきりな実の母の代わりに、フェイトと自分を自分の娘のように育ててくれた……アルフにとっては母と言ってもいい存在。

 昨日勇夜が言った、単に血が繋がってるだけでは親子とは言えない、アルフはそれに同感だった。

 だってフェイトが、勇夜またはリニス一緒にいるところを見ると本当の家族のように見えたから。

 勇夜はどちらかと言えば兄と言えるかもしれないけど、彼とリニスの二人みたいな人が、フェイトの実の家族であったなら、どれだけ良かったか。

 そう思えば思うほど、対して実の母への憤りは大きくなるばかりだった。

 フェイトの出生諸々の〝真実〟を知ってからは益々。

 けれど……いくら自分がそう思っていようと。

 

「だめだよアルフ、母さんにそんな酷いことを言ったら」

 

 それでも彼女の主は、『実の母親』を庇った。

 あの時のように、パニックを起こして取り乱すとまではいかないまでも、頑なにプレシアが〝母〟なのだと貫き通そうとした。

 

「言うよ!だって私、フェイトが心配だ…! フェイトは、私のご主人様で、私にとっては世界でだれより一番大切な子なんだよ」

 

 虐待を受けてる子は、苦痛を与えし親が悪いなんて、微塵も思わない。

 理不尽を受ける原因は全て……自分のせいなんだと、自分を攻めて、傷つけていく。

 なんて不条理なんだろう……全ては、あの〝魔女〟の理不尽なエゴだというのに、しわ寄せを受けるのはフェイトばかり。

 そのフェイトすらも知らない真実を口に出してしまいそうな心境を、必死に抑えながら、アルフは思いのたけをぶつけた。

 

 

「群れから捨てられた私を拾ってくれて…使い魔にしてくれて…ずーっと優しくしてくれた!」

 

 本当は……分かっている。この体に宿っている自分の命は、病にかかり群れに見捨てられた狼の子のモノではないことぐらい。

 あの小さな狼は、間違いなくあの時……死んだのだ。

 狼としての記憶も、あくまで頭の中に残っているだけで、実際に自分が体験したものではない。

 まさかフェイトも、それが姉とも言える人物のものとは言え、他人の記憶を持っているとは思わなかったけど。

 それでも自分を繋ぎとめてくれたのは、一生一緒に生きると言ってくれたのは、紛れも無いフェイトという女の子なんだ。 

 

「そんな優しいフェイトが泣くのも悲しむのも…私、嫌なんだよ!!」

 

 なのになんでこんな辛くて、悲しい目に遭わなければならないの?

 どうしてそれに耐えながら生きなきゃならないの? 

 使い魔と主人は魔力だけでなく、精神でも繋がりを持っている。

 これは、魔力が持つとある性質による偶発的な効果、念話もこの性質を生かして形となった魔法だ。

 この精神リンクでどんなに感情を表に出さなくても、主が内に押し込めた苦しみは、いやでも使い魔に伝わってしまう。

 今までは……フェイトの為を思って、あの女の頼みごとを聞いてきたが、アルフもう我慢の限界が来ていた。

 

「ごめんね、アルフ、だけど、それでも……私は母さんの願いを、叶えてあげたいだ」

 

 それでもフェイトは、折れようとはしない。

 寂しさと悲しさと、自分を攻める気持ちを押し込めたまま、戦い続けようとする。

 なら、自分にできることは、そんな彼女を支えてあげること。

 それは変わらない。

 でも……でも……でもやっぱり……祈らずには、願わずにはいられなかった。

 お願い、誰か、この優しい女の子を助けて下さい。

 心からの……笑顔を取り戻して下さい、と。

 そう思い切り叫びたい衝動を、アルフは必死に留めさせるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

「すごいやみんな、これだけの実力者が一同に会するなんてそうそうないよ」

 

 次元航行船アースラのモニタールームでエイミィは感嘆の声を上げた。

 今ここでは、クロノとエイミィが先程の勇夜たちと異相体との戦闘分析を行っていた。

 エイミィが興奮するのも無理は無い。

 相手の異相体は本体を除いて全て分身なのだが、それこそ小隊以上の数なのだ。

 それを相手に4人とも、獅子奮迅の戦い振りを披露しているのである。

 

「特になのはちゃんと金髪の女の子は、魔力値平均100万を超えてて、最大発揮時に3倍以上に出力が上がってる、単純な魔力の量なら、クロノ君を上回っちゃってるね」

「エイミィ……魔法は魔力値の大きさだけじゃない」

 

 実際、魔力量は多いに越したことはないのだが、それだけでは強さに繋がらない。

 

「状況に合わせた応用力と、的確に使用できる判断力だろ」

 

 まあ結局のところは彼の言う通り、使い手次第ってことなのだ。

 使い手のセンスがボンクラ未満なら、高い魔力量も宝の持ち腐れにしかならない。

 一応補足するが、クロノは決して魔力量が少ないわけではない、むしろ多い方、なのはたちが余りに出鱈目過ぎて霞んでいるだけだ。

 執務官の肩書を持つだけにクロノも伊達ではない。この役職に課せられた任は事件の捜査の現場指揮だけでなく、さらには法律執行の役目を負った警察官でもあり、検事にして弁護人でもある役職。

 戦闘面での実技は勿論、法に関する知識や、冷静な思考で事件にも戦闘にも裁判にも対応できる判断力が求められるので、日本なら国家試験レベルに難度が高い管理職である。

 

「僕から見れば、魔力運用も含めた戦闘に関しては、勇夜と高町光の方が上手だ」

「でも、それならクロノ君だってその上手の一人でしょ、なんてったってこのアースラの切り札なんだから」

「…………」

 

 エイミィのおだてを前に、クロノはそのまま黙りこんだ。

 そう言われるだけの自負はあるし、そのための努力は怠ってはいないが、いざこう口にされるとどうも気恥ずかしい。

 相手が真面目君なクロノを弄りまわすのに定評のあるエイミィとなれば、尚更だ。

 

「でも、カッコよさなら二人に軍配が上がるかな、背も高いし」

「エ、エイミィ!」

「何ぃ? 私クロノ君が〝ちっちゃい〟なんて一言も言ってないよ」

「…………」

 

 小柄な体躯のことは、少なからず気にしている執務官の狼狽振りに対し、執務官補佐は悪戯げな笑みを同僚な小さな上司に返してきた。

 言うまでもなく、確信犯ってやつだ。

 公務中でも、二人の間で度々起きる光景が今行われている最中、突然背後からオートドアの開閉音が響く。

 

「あ、艦長」

 

 リンディが入室してきたのだ。

 

「ああ、あの子たちの戦闘データを見ていたのね、確かに凄い子たちよね、なのはさんたちもそうだけど、光君もだし、こうして改めてみると、勇夜君の戦闘能力も凄まじいわ」

 

 まずこの二人、身体強化系の補助魔法はまったく使っていない。

 光にはデバイスが無いというハンデがあるが、勇夜の場合、デバイスを実質二つ持っているにも関わらず、魔力フィールドの鎧を纏わずに戦闘を行っている。

 実は勇夜はリンクにより体が攻撃が着弾する寸前、その瞬間だけ魔力バリアを張る様にさせているのだが、それを知らぬ管理世界の住人から見れば、自殺願望でもあるのか?と疑りたくもなる。

 だが彼と光の二人は、常人を遥かに超えた超人であり巨人だ。

 そして二人とも、恵まれた自身の肉体に驕ることなく、この世界に流れ着いてからも己の研讃を続けて、人間態でも魔力補助を使わずとも (もっと端的に言えばわざわざ使う必要が無い)、驚異的と言える戦闘能力を獲得しているので、その分魔力消費を抑えられている。

 その上で使う際は、無駄弾を出すこと無く確実に相手を仕留めていた。

 特に勇夜は、集束魔法で戦闘区域に散らばった残留魔力を再利用して、魔力の矢の雨を形成した。

 言うのは簡単だが、魔法に限らず、体内で作られたエネルギーの運用は、例えるなら陶芸のように繊細なコントロールが必要となる。

 特に集束魔法は、高等の中の高等技術。

 クロノが上手と評するのも、決して過剰評価ではないのである。

 ただ、彼らの無双振りは魔法に限ったことではない、例えば勇夜がダガ―モードの零牙を空中に自在に飛ばしているのは、彼のウルトラ念力の賜物だし、光の鏡から鏡へのワープは二次元人の特殊能力、神速などは御神流の剣技だ。

 魔導師と違い、彼らにとって魔法は、自身が戦闘で使えるスキルの一つでしか無い。

 管理世界、特に管理局の人間が魔法に拘り過ぎている事情を考慮してもだ。

 

「総合的な戦闘力なら、二人はSクラスにいくかもしれないわね…」

 

 リンディから見ても、二人の戦闘能力はずば抜けていた。

 もし、彼らの本来の姿である巨人に戻れば、エネルギー相殺現象による魔法使用がほぼできなくなるというデメリットを差し引いても……管理世界に彼らに並ぶ猛者はそうそういないだろう。

 それだけに、勇夜がその強大な力を持つ自身に〝恐怖〟を抱いているのは、至極当然なのかもしれない。

 強い力は時に争いを生む要因になりかねないのは、紛れも無い事実。

 現に人間には、新たなエネルギーや技術が出現する度、争いの道具に利用してしまう悪しき慣習があるのだから。

 

「けど…一番の問題はこの子たちよね」

 

 なのはにしろ、ユーノにしろ、光にしろ、勇夜にしろ、ジュエルシードによる災害を防ぐ、あるいは最小限に留めるために収集を行っている。

 だが、あの黒衣の魔導師と使い魔は―――と言うと。

 

「虐待を受けても尚、母親の願いに応えようとする女の子…」

 

 愛娘を失った母が、禁断の技術に手を出したことで生まれた娘の生き写しでありながら、その技術名と同じ名を冠し、自分の出生も母の内面もその使用目的も知らぬまま、暴力を受けつづけながらロストロギアを集め続ける少女。

 

 

 フェイト・テスタロッサ。

 

 

 その母でありながら、彼女を娘と認めず、道具としてしか見ていない魔導師。

 

 

 プレシア・テスタロッサ。

 

 

「ですが、本当なのでしょうか? プレシア・テスタロッサの目的がアルハザードへの道を開くというのは」

「今のところ、勇夜くんの憶測でしか無いけれど、可能性が無いとは…言い切れないわ」

 

 彼女には何かしら収集を駆り立てる強い目的があるとは思っていたが、勇夜からもたらされた背景は余りに重かった。

 彼女を救えなければ、この事件は解決しない。

 勇夜の言葉は、実に的を得ていると、思わざるを得なかった。

 

「まだあんなに小さい子なのに……辛いでしょうね……」

 

 リンディたちの目からも、モニター内のフェイトの瞳は、とても悲しそうに映っていた。

 


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