ウルトラマンゼロ The Another Lyrical Story 第一章   作:フォレス・ノースウッド

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原作ではカービィに出てきそうな大木の異相体でしたが、それだと無印3話とダブるんで本作はオリジナルの異相体を登場させました。

今回の話のイメージBGM:戦士(クウガBGM)

他のウルトラ二次と違い、あんま変身しない本作のゼロたち。
でもシリーズが『ヒーローに頼り過ぎてはダメだぞ』と描いているのだから、ヒーロー自身も自らの力に頼りきりではいかないでしょう。
その分人間体での戦闘が多く、もう魔戒騎士とタメ張れるレベル(冷や汗

ハーメルンで再投稿するにあたり、ちょっとアクションシークエンスを変えてます。
特にゼロ辺りが洋画チックなのに時代劇チックというごった煮アクション。
前はもう少し先に出てくる勇夜が乗るVMAXカスタムをここで初登場させました。
VMAXは雨宮版ハカイダー、クウガのトライ&ビートゴウラム、ゴーストライダー2作目にも出てきたモンスターバイクです。


EP16 - 乱戦

 それまで毎週テレビで放送される特撮モノでしか見ない存在だった《怪獣》が現れて、ジュエルシードがなのはたちの接触で次元振を起こし、愛機のレイジングハートとバルディッシュが傷つき。

 前に自分ことなのはを励ましてくれたウルトラマンゼロも、あの『フェイト』と呼ばれた女の子の代わりにジュエルシードを止めようとして、怪我を負ったあの夜から、3日の時間が経った。

 

 

 

 光兄に聞いたけど、怪獣たちのことはゼロさんのいた世界から無理やり連れてこられた以外は分からないらしい。

 何にしても、光兄ことミラーナイトとウルトラマンゼロがいなかったら、為す術も無かった。

 塗りつぶしようの無い事実。

 だって、本当に何もできなかったのだから。

 この身には魔法があって、この手には共に戦う愛機がいてくれたのに、あの巨体を前にして、ただ震えて佇むことしかできなかった。

 実際あんなことが起きれば、ああいった反応をとってしまうことは無理もないと言われても、苦すぎる味が口の中に広がらせる経験だった。

 それだけではない。

〝なにもできなかった〟のは、あの女の子……〝フェイト〟の件も同様。

 あの子の目的を聞くことも、話をしようとさえできないまま。結局、戦うことになってしまった。

 でも…光に実際言われるまで気が付かなかったけど、自分は一体、あの子と話をして、想いを聞いて、どうしたいのだろう?

 解らない……答えは一向に見えないのに、あの子の想いを知りたい、その一点だけが頑なに心を占めている。

 そういう頑ななところはあの子と似ていると、あのあと兄に言われた。

 自分でも心当たりはある。

 最近は特に顕著だ。

 今封印に必要なレイジングハートを使えるのはなのはだけとは言え、ジュエルシード集めには、ユーノ君や光兄にかなり無理を言った。

 説得する相手が〝自分〟だと思えば、それがどれだけ難しいことかよく分かる。

 あの光の巨人――ウルトラマンゼロですら、手こずる頑固な子なのだから。

 兄、光から聞いた。

 以前あの日の河川敷で会った少年――諸星勇夜はやはりウルトラマンゼロであること。

 ゼロと、あの女の子――フェイトとの関係性。

 どうにも、フェイトがジュエルシードに賭けるものが大き過ぎて、本当はゼロも彼女を止めてあげたいのだが、今はあの夜のようなことが起きないようフォローしつつ様子見のポジションにいるらしい。

 いわゆる、停戦協定というものだ。

 一度、彼と彼女はジュエルシードを巡って相争ったそうである。

 結果は完敗だった自分と正反対に、ゼロ――それもウルトラマンの姿にならずに勝ってしまったそうだ。

 でも、勝ててもフェイトの心を完全に解きほぐすことはできなかった。

〝暫く手を出さない〟約束が、何よりの証拠。

 しかしながら、一定以上の影響をフェイトはゼロから受けているのはなのはでもよく分かった。

 でなければ、自分にはポーカーフェイスに徹してきた貌を、あんなに涙で濡らす筈はないからだ。

 それだけ彼女から慕われているウルトラマンでさえ、手間取ってしまうほど……頑なな女の子。

 なのにまだ、彼女と向き合いたいというを望むことを、諦めたくない。

 その後はどうしたいかは……まだ解らないけど。

 

「(なのは)」

 

 そう考えこみながら下校していると、念話でユーノ君が呼び掛けてきた。

 電柱の隅からフェレットが出てきた。

 勿論ユーノ君だ。

 前に、どうして人間の姿にならないのと聞いたことがある。

 地球に来て消費してしまった魔力の回復と。

 その魔力を減りにくくさせること。

 見た目とは裏腹に、フェレットの時の方が怪我の治りが早い、とのことだった。

 実際、初めて魔法を使ったあの夜の後には、その前に異相体と戦った時に受けた怪我は、ほとんど治っていた。

 そして、ユーノ君の首には赤いビー玉。

 前はユーノ君が持っていて、今は私の魔法の杖であり、パートナーとなり、あの夜のダメージで修理中であった。

 インテリジェントデバイス―――レイジングハート。

 

「直ったんだね、レイジングハート」

「うん…見回りついでに届けようと思って」

「にゃはは、ありがとう」

 

 なのはは愛機を受け取り、首にかけた。

 

「また、一緒に頑張ってくれる?」

『All right, my master』

 

 そう改めて、愛機に語りかけ、意気込もうとした時だ。

 脳裏と皮膚に、ジュエルシードが発動したことを示す波動が過ぎり。

 

「行こうなのは」

「うん!」

 

 ユーノ君を肩に乗せて、発動した場所へと急いだ。

 

 

 

 

 

 

 そのジュエルシードは今、海鳴臨海公園のどこかにある。

 今はそれしか分からない。

 やはり反応は微弱で、確たる位置を特定できない。

 

「レイジングハート……解る」

『申し訳ありません、生物を取り込んだことまでは判明しているのですが、それ以上は』

 

 来てみたのはいいけど、肝心のジュエルシードがどこにあるか、ユーノでもレイジングハートでも見つからない。

 あのフェイトって子が前にやったみたいに、強制発動を思い切ってやる手もあったが、すでに異相体になっているかもしれないので、それは却下となった。

 光さんはまだ学校にいる時間なので、無闇に学業を疎かにさせてまで甘えるわけにはいかない。

 

 でも……どこなんだ?

 対策としてもう結界はこの公園の敷地内に貼ってあるし、対象もこの中にいることは分かっている。

 異相体か本体が出てくるまで待つしかないの?

 そうこうしていると、結界に微かな揺らぎが生じた。

 結界内に侵入者?

 空を見上げると。

 金色の魔法陣から、あの金髪で黒衣の魔導師が現れて降り立った。

 

『GET SET』

 

 彼女はこちらに自分のデバイスを向け構えた。

 

「あの…フェイト…ちゃん」

「っ…………フェイト…テスタロッサ」

 

 少し間をおいて、彼女は名乗り上げた。

 自分からの問いに、魔法の攻撃では無くちゃんと言葉で応えた辺り、何かしら心情の変化があったようだ。

 それでも構えを解かないあたり、ジュエルシードを巡って戦う意思は変わらないらしい。

 異相体がまだ見つからないのに、この場はどうするべきか?

 現状の一計を講じようとしたが、それは新たな結界の揺らぎによって妨げられた。

 

 

 

 

 

「なのは!」

『Protection』

 

 上空から、突然光弾の雨が降ってきた。

 なのはもあの子も自分も、光弾を障壁で防御して無事ではある。

 同時に、今攻撃をくわてきた犯人であろうその『異相体たち』は現れた。

 

 人間に近い体格と大きさで、手の代わりに羽を持ち、この地球に存在するカラスと呼ばれる鳥のような顔と黒い体色をした怪人たちが、複数で出現した。

 二、三体ってレベルじゃない。

 なのはたちの周りを、数十体ものの数で囲んできた。

 その様はさながら忍者、あるいはカラス天狗とも比喩できる。

 そして…有無を言わさず、一斉に彼女らを標的に襲いかかってきた。

 

「なのは! 空へ!」

『Flier FIN』

 

 空にいても危険なことに代わりない。

 だが移動と回避なら、飛んだ方が速く対応も迅速に行えた。

 

「接近戦はできるだけ避けて、遠距離攻撃で仕留めて」

 

 なのはの肩に乗るユーノは彼女に指示を出しつつ、彼女の背後に迫る光弾を、障壁の魔法陣を張って食い止めた。

 

「防御は僕がなんとかするから!」

「うん、分かった」

 

 ユーノもこんな数を相手にするのは初めてではあったが、現状で把握できたのは、あの群れが異相体が作りだした実体にほぼ近い幻影で、本体はその中に紛れているといことだった。

 でもなのはのサポートをしつつ、どこまで本体を探し当てられるか………でもやるしかないと、ユーノは気を引き締めた。

 

 

 

 

 

 

 反応があった結界内に入り込むと、すでにあの白い魔導師の少女と、一見すると彼女の使い魔みたいなフェレットがいた。

 彼女から〝フェイトちゃん〟と彼女から呼ばれた時、なんとなくちゃんと言わなきゃいけない気がして自分の名前を言いつつも戦おうとしたら、異相体が何十体も現れそれどころでは無くなった。

 当面の相手はこの黒い鳥人間たち。

 

『Photon lancer multi shot 』

 

 稲妻の魔力スフィア――フォトンランサー・マルチショットをいくつか形成し。

 

『FIRE』

 

 それを放つ。

 一撃でいくつかの異相体の分身が消えた。

 これだけ数がある以上は、まずある程度減らして、本体を探しやすくする状況を作るしかない。

 

『Scythe Form』

 

 できれば大技で一気に叩きたいが相手は素早く、光弾やら爪やらくちばしやらで果断無く攻めてくるので立ち止まっていられない。

 けど速さなら、こっちの方が上、持ち前のスピードを生かして、フェイトは金色の刃で次々と異相体の群れを切り裂いてゆく。

 

『Arc Saber』

 

 魔力刃を飛ばし、ブーメランのように飛ぶ三日月の刃は対象を切り裂き。

 

『Explosion』

 

 以前なのはとの初戦に使用して、有効打となった魔力刃の爆発を敢行する。

 爆風とともに発散された小さいが凶悪な針の群体と化した魔力を受けて消滅していく影たち。

 

 

 

 

 

 その一方でなのははユーノ指示通り、烏人間たちと適度に距離を取りながら。

 

『Devine shooter』

 

 誘導効果のある魔力弾を形成、発射しつつ。

 

「ディバインショット!シュート」

 

 キャノンモードになったレイジングハートから、銃弾を発射する要領で魔力弾をいくつも発射した。

 

『Devine shot』

 

 ディバインショット、ディバインバスターの威力を抑えると引き換えに、連射性を向上させた魔法だ。

 それでも、敵の数は中々減らない。

 

「ユーノ君!」

「ごめん…まだ本体が見つからない…」

「それなら!」

 

 なのははユーノにそういうと空中で静止し、レイジングハートに光の翼が生えると、砲口に魔力光をチャージし始めた。

 

「サークルプロテクション!」

 

 まわりが敵だらけな、この状態では格好の的だが、結界魔法が得意なユーノが張った球体型の全方位バリアによって直撃は免れている。

 

「ディバァイィィン」

『チャージ完了』

「バスタァァァーーーー!!!」

 

 斜め下方に向け、ディバインバスターを発射。

 桜色の光の奔流が、異相体たちを飲み込んだ。

 さらになのはは魔力流を発射したまま、砲口を縦向きにスライドし、次々と相手を光に呑み込ませいき。

 

「もう一っぃぃぃ発!」

 

 続けて第二破の魔力流を横薙ぎに払って次々と異相体の群れを落としていった。

 もしこの中に本体がいたら良かったのだが、異相体も簡単にはやられてくれない。

 かなり数も削られたのに、数が減る気配がまったく無い。

 なのはたちは焦りを隠せなかった。

 どうすれば、ジュエルシードがとり付いた本物を封印できるのか?――と。

 そして、フェイトもまたしかり。

 

 

 

 

 

 相手は相当隠れるのが上手いようだと、心が焦りで揺れ出す。

 いくら倒しても、いまだに本物を見つけられない。

 アルフは別行動をとっていたから、こっちに来るまではまだ時間がかかる。

 そして……あの人は、もう来てはくれない。

 

『なら、もう勝手にしろ』

 

 あの時の彼の声が耳から離れない。

 昨夜突きつけられた言葉の数々が、ちくりと胸を差してきた。

 これでもまだ良くなった方。

 今まで母さんの躾を、いくら受けても耐えられたのに、勇夜に言い捨てられて出ていった直後の私は、 あの人から冷たい言葉を吐かれたことがどうしようなく悲しくなって、一昨日のように、我慢できてたはずの気持ちが我慢できなくなって……朝までずっと涙が止まらなかった。

 目の前が真っ黒になる様って、こういうことなんだって実感さえした。

 朝日が出たばかりの時にはすっかり、アルフがびっくりするくらい、瞳も瞼も真紅に腫れあがっていた。

 

『今日を以て約束は………〝終わり〟だ』

 

 尾を引く憂いを、どうにかして払おうとする。

 あの時の勇夜の言う通り……元々そういう約束だった……あの人とはその契りを前提とした関係だった。

 母さんに会わせるまではジュエルシードの収集には手は出さないが、手伝いもしない。

 でも自分にもしもの時があれば、全力で助ける……その約束通り、何度も自分を助けてくれて。

 食事だって、毎日作ってくれて。

 アルフの希望通り、稽古にも付き合ってくれて。

 あの時は、無鉄砲で愚かな私の代わりに、命だってかけてくれた。

 でも……それはあくまで、『約束の範囲内』だったんだ。

 もう全部、終わってしまった。

 もう……あの人と、一緒にいることは……ない。

 その心の揺れが、一瞬の致命的なる隙を生んだ。

 

『サー!右です!』

 

 いつもの冷静さから考えられないほど、彼にしては切羽詰まった声色でバルディッシュが警告したが、間に会わない。

 異相体の一体からの爪による一撃が、フェイトに致命傷を与えようとしたその時。

 突然、異相体が血を噴き出した。

 

 状況が読めないフェイト。

 気がつくと、まわりの異相体が次々と切裂かれて消えていく。

 何もない……いやあった。

 回転する〝ナニカ〟が、異相体を攻撃している。

 だが余りの速さに、その異相体を切り裂く何かを視認できない。

 何が? 物体の正体も分からないまま、今度は耳に、重い音が響いてきた。

 猛獣の唸り声にも聞こえる、何らかのマシンの駆動音。

 どんどんその轟音が、こっちに近づいて来て、発せられる方角へと目を向けた。

 

 

 

 

 

 重々しい咆哮を上げて、舗装された大地を駆けていたのは、一台のバイク。

 ネイキッドタイプか? それともクルーザーか?

 どちらにも似ていて、されど似ていなく、300kgは確実に超えていそうな図太く、黒い車体。

 最も近い車種を上げるなら……ヤマハ社のクレイジーな技術者たちが作り上げたモンスターバイク―――VMAXの二代目。

 だが地球で市販されているものと、現在走るコイツとでは違う点も見られた。

 猛禽の横顔にも見えなくはないツインアイのライトを積んだカウル。

 伝説の初代のものに近くなったダミーインテーク。

 全体的な形状も、武骨さを残しつつ、シャープさが際立っていた。

 そんな、見るからにカスタマイズされた荒馬たるVMAXを操るライダーに向かって、先程フェイトを助けた刃たちが飛んで来る。

 途中、刃は空中で合わさり変形、6インチはある黒光して角ばった銃身と木製グリップが印象的な銃となり、フルフェイスのヘルメットを被ったライダーの左手に収まった。

 銃を手にしたライダーは、上空の異相体たちに向け連続で魔力の弾丸を発砲。

 エネルギー製の弾丸たちは、全て命中、対象は衝撃で後方に吹き飛ばされ、中には他の個体とぶつかる者までいた。

 ライダーはバイクを加速、前輪を上げてその重厚な車体を20mの高さにまで飛び上がらせると、アーチを描いて跳ぶ鉄馬に跨ったまま地上に向けて、機関銃の如く魔力弾を乱れ撃った。

 一気に20体近くを撃破し、地面に降り立ったライダーはブレーキを掛けると同時に転回させてバイクを急停止させ、素早くヘルメットを脱いで降り立つ。

 直後、VMAXが発光して粒子状に分解され、ライダーの左腕のブレスレットに取り込まれていった。

 黒こげ茶色のジャケット。

 濃い青色のジーンズ。

 黒い髪を伸ばして後ろでしばり、それがこの上無く似合ってしまうほど中性さと、精悍さが両立され、無愛想ながら、凛とした顔つきと切れ長の吊り目の少年。

 諸星勇夜――ウルトラマンゼロ。

 

 

 

 

 勇夜………あの人もここに来ることは、予測がついていた。

 その時は、彼とも戦うとも決めていた。

 だって……もう約束を守る必要も無い。もう心おきなく、自分たちのジュエルシード収集の前に立ちはだかって、最悪お縄を頂戴するだろうから。

 それなのに……空中に佇んだまま、彼の勇姿から目を離せなかった。

 どうして……どうして今もこうして助けてくれるの?

 どうして? 彼はこっちを向いたが何も言わない。

 無骨な無表情で、何を考えているか全然読めない彼は、魔法陣を足下に敷き、黒い拳銃形態な自身のデバイスを構える。

 銃口に魔力が集まり、勇夜の魔力弾が、閃光と轟音を煌めかせながら発射された。

 青緑色の魔力の弾丸は、襲いかかってきた異相体を仕留めた。

 その一連の行動だけで、彼がどうするつもりなのか理解できてしまった。

 明らかに、自分を助ける目的も込みで、勇夜はこの場に現れたのだ。

 どうして、まだ助けてくれるの?

 もう敵同士なのに……〝守る〟約束を守り抜く必要なんて、もう……どこにもないのに。

 彼女を揺らがすのは、彼の行為だけでは無い。

 自分でも、戸惑いを隠せない。

 嬉しい……のだ。駆け付けて、助けてくれたことに、喜びを感じていたのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 そして勇夜――ゼロが来るなら、彼も然り。

 突然、レイジングハートが光り出し、あの半透明の紋章が現れる。

 彼も来たのだ。

 なのはたちがこの現象を見るのは、これで二度目な彼の固有能力、鏡面を伝っての瞬間移動。

 紋章から、高町光――ミラーナイトが姿を現す。上着を脱いだ以外は制服のままの格好な光は、両手に持っていた、普通の刀にしては短いが、短刀にしては長すぎる刀を振るい、早速異相体を何体か切り刻んだ。

 

「大丈夫ですか?二人とも」

「「うん (はい)」」

「すみません、これを取りに行くのに時間が掛かりました」

 

 光の持っている得物は、一般的な長さの日本刀よりも短い剣二振り。

 小太刀と呼ばれる武器だ。

 本物の真剣ではあるが、それ以外は特に特殊な機能も効果も持たないただの刀。

 しかし御神の剣を会得した彼が持てば、絶大な力を発揮する代物だった。

 

 

 

 

 

 異相体たちは、ただ今推参した者たちの方が脅威だと感じたのか、ある者は地上に降り立ち、ある者は空から急降下して一斉に勇夜へと標的を変え向かってきた。

 対して勇夜は、特に焦りも見せずガンモードの零牙を構え、鋭利なその瞳で狙いを定め。

 

「フォトンバレット、リードショット」

 

 トリガーを引く。銃口から放たれ、最初は一つだった魔力スフィアは、途中無数に分裂して相手に突き刺さり、消滅した。

 悠々と歩を進め、空から降る飛び道具を軽やかに避ける勇夜は、リードショット……つまりショットガンの如く散弾を放つ射撃魔法――フォトンバレット・リードショットによる魔力弾をあらゆる方角へ銃口の向きを変えて何度も撃ち、自らを取り囲む異相体の分身たちを撃破していく。

 ガンモードの零牙は、撃鉄の衝撃で魔力を火薬よろしく炸裂、その圧力で魔力スフィアを通常の射撃魔法よりも速い弾速で飛ばし、勇夜の任意で、フルオート、散弾とった様々な撃ち方を可能にする形態なのだ。

 

「ダガ―モード」

 

 押し寄せる散弾の群れに攻めあぐねる群体へ、二振りのナイフとなった零牙をゼロスラッガーよろしく投擲。

 横殴りな弾丸の雨に続く、ウルトラ念力でコントロールされた刃の超高速かつ正確無比な軌道による猛攻に防戦一方な異相体たちだったが、どうにかそれらをすり抜けた数体が勇夜に迫る………が、彼によりによって肉弾戦を挑むのは、愚行としか言い様が無い。

 四方からの攻撃を避けながら、相手よりも遥かに速いカウンターによる重い拳打、肘当て、蹴りを当てていく。

 その身のこなしは、型がしっかりと整われ、残心も取れて洗練されていながら、若人らしいエネルギッシュさと荒々しさも持ち合わせている。

 宇宙拳法で鍛えられた彼の体は、それこそ全身が武器となっており、威力はたった一打で幻影とはいえ異相体を打ち倒す破壊力を秘めていた。

 

「ハッ!」

 

 徒手空拳で異形どもを圧倒する勇夜は一旦跳んで後退すると。

 

「ブレイドモード」

 

 飛び廻るダガーモードの零牙を手元に戻し、鞘の付いた一振りの刀『ブレイドモード』へと変え、異相体の群れに向けて刀を腰に据え、いわゆる居合腰の姿勢で疾走、刃の有効範囲内まで一気に踏み込むと同時に抜刀した。

 

「デェア!」

 

 神がかった速さの域な居合の一振りで、異相体数体が血祭りを上げた。

 彼はそれだけに留めず、反撃を許さぬまま、刀を振るう。

 腕、腰、足、体全体の運動を巧みに使い、前進と並行して振るわれる斬撃の数々は、異相体の肉をバターで切るような軽さで仕留めて行く。

 無駄が無い。流麗であると表現できるのに、力強くも猛々しい太刀捌き。

 人間でも剣術を究めれば、真剣でも常人には軌道が読めないほどの速さで振るうことができる。

 ましてや師であるウルトラマンレオから体術とともに剣術を叩きこまれたことで達人級の腕前を持ち、かつ常人以上の身体能力を持つ彼が刀を持てば、いちいち魔法などで威力を強化せずとも、ただ一閃するだけでデバイスも両断する必殺の一撃となった。

 だが相手も接近戦は無謀だと判断したのか、空に飛び上がり遠距離攻撃を果断無く仕掛けてくる。

 それならこっちもと、即座に勇夜は零牙を再びダガ―モードにし、空中で静止させると、魔法陣が敷き、右足に風が集まってくる。

 

「行けぇ!」

 

 そして、かつて河川敷でシュートを披露した時のように、回転の勢いで宙を漂うダガ―モードの零牙たちを蹴り上げた。

 これは彼の父、ウルトラセブンが使用したアイスラッガーに光線を当て、破壊力を高めて飛ばす技、『ウルトラノック戦法』を自分流にアレンジした技――《ノックスピンスラッガー》――を魔法にしたものだ。

 自分の魔力と魔法でかき集めた空気を足に秘め、宙に浮遊させたダガーモードの零牙にエネルギーを乗せつつ蹴って飛ばすことで、刃の直撃を受けなくても、刃の周りに漂う魔力と風の刃で、掠めただけで広範囲の敵を仕留めることさえできる技。

 魔力と風による衝撃波を纏った刃は先程とは比べ物にならないスピードと、霞めるだけで致命傷となる広さな攻撃範囲で、異相体の分身たちの数を減らして行った。

 

 

 

 

 そして光も、勇夜に負けず劣らずの剣速で二刀の小太刀を振るい、圧倒していた。

 勇夜の太刀捌きが柔と剛を併せ持った剣なら、彼の剣は柔の二刀流。

 流れるような、もしくは舞うような軽やかさで二刀の小太刀を振るっていた。

 切れ味は、勇夜の剣閃と勝るとも劣らぬ鋭さ。他の者らと違い、デバイスが無い身ゆえ燃費が悪く、下手に魔法は使えない。それでも、異相体を次々と切り裂くその姿は凄まじい。この結界内の戦場では一番ハンデが付いている光だが、そんな枷などものともしない奮戦振りだった。

 また光は、何体か斬り伏せると、その場から移動して距離を一旦稼ぎ、再び剣を振るうを繰り返している。

 適度に動き回ることで、相手側が数に物をいわせた攻めを取りずらくして敵を討ち果たしていた。

 勇夜がとったのが密集する多数を逆手にとり一度に多く撃破する大胆な戦法なら、光がとるのは多数の利点を活用させない堅実な戦法であった。

 そんな彼が取得している御神流の剣技は、その名の通り獅子奮迅の力を引き出す。

 分身の一体が、光の一閃をバリアで受け止めたが、その腕はいきなり、粉々に砕け散った。

 今の現象は、御神流の剣技《徹(とおし)》、斬撃の衝撃を、相手の体内に直接通す技。

 今のように、たとえ防御されても通用する。

 以前ゼロと戦闘した時にゼロスラッガーを弾かせたのも、この技。

 あの時は相手がウルトラマンだったから得物を弾かせた程度で済んだが、その気になれば人体破壊も容易な危険極まる技だ。

 付け加えると、御神流が実戦を想定した殺人剣な以上、剣技が危険なのは当たり前では話である。

 

「ハァァァ!」

 

 小太刀を虚空に振るうと、切っ先から半透明で三日月状な刃が飛ばされ、複数の対象を両断。

 その場の即興による、大気と自らのエネルギーを合わせた混合技だった。

 御神流の剣技に、さらに二次元人としての力を加えれば相手にとっては脅威の内の脅威。としか言いようがない。

 

 

 

 

 

 戦いは数。

 数の多さが勝利の条件だ。

 間違ってはいない。

 戦場ではその方が勝率は高い。

 それが常識だ。

 だが今この瞬間は、そんな常識は働いてくれない。

 たった二人の戦士によって数が多い方が劣勢になるという非常識が主導権を握っていた。

 しかしこれ以上戦闘が長引けば、主導権は『常識』に握られることになる。

 本体以外は分身とは言え、大量の魔力が蓄えられた、異相体をバックアップしてくれるロストロギアがいるので、相手には物量による消耗戦、という手段(カード)があるからだ。

 

「(まだ見つからないか?)」

「(はい、もう少し数が減らされれば……)」

「(光! 俺の攻撃で気を取られた奴らの懐に飛びこめるか?)」

「(造作もありません、了解しました)」

 

 ここで一気に勝負をつける!

 二人は必勝へと誘う行動を起こした。

 まず勇夜は、零牙を鞘に納めると。

 

「アローモード!」

 

 彼の声と共に零牙は光り、勇夜の愛機は刀からカラーリングはそのままに、弓へと変形した。

 アークスラッガーに相当する遠距離攻撃用形態――アローモード。

 連射力と取り回しの良さはガンモードに劣るが、威力と射程距離は遥かに凌いでいる。

 魔力で編み固定した弦を、空に向けて引くと、矢状に魔力が集まっていく。

 実はこの魔力の矢は、彼だけの魔力でできているわけでは無い。

 

「レイジングハート……あれって」

『集束魔法、この場に散らばった魔力を再利用しているのです』

 

 この場での魔法の行使で大気中に分散した魔導師たちの魔力だった。

 勇夜はそれを再利用したのである。

 数ある魔法の中で、難易度が高い高等技術の一つ――集束魔法、〝魔導殺し〟などと呼ばれながら、魔導師としても優秀と称されるのはこのためであった。

 

「バニシングスピア――レインシュート! ファイア!」

 

 彼の大声と共に、引き絞った手が離されて放たれる必殺の魔力の矢。上空へと駆けあがった矢は宙で静止すると、夥しい数の矢となり、その魔法名称の通り雨の如く降り注いだ。

 矢の驟雨は、命中した一体たりとも逃さず異相体たちの肉体に突き刺さった。

 

「エクスプロード」

 

 直後、勇夜はコマンドを唱えると同時に指を鳴らす。今の動作がスイッチとなって、突き刺す矢は魔力拡散による暴発を起こし、分身たちは跡かたも無く閃光を発して消し飛び、爆発の余波は驟雨から免れた者たちをも呑み込んで、一気に数が減った。

 

 

 

 

 

 続いて光が攻める番。

 彼は小太刀を構えると、目を伏せ集中力を高める。

 深く……深く……深く、意識を極限にまで研ぎ澄まし、目をカッと開かせた。

 今の光の視界は、モノクロな色合いと、動きがスローモーションとなった物体で埋め尽くされていた。

 それは、御神の剣を極めた者が使える―――奥義。

 

 

 

 

 

 まさしく一瞬の出来事だった。

 突如、異相体の分身たちの体から切り傷が刻まれ、血祭りを上げた。

 それも、ほぼ同時に。

 なのはら魔導師にしろ、異相体にしろ、誰にしろ、こう思っただろう。

 何が起きた?―――のだと。

 光の巨人の人間態である勇夜を除けば、誰もがその事態の全容が理解できなかった。

 御神の剣士はここまで動けるのか……特異な現象を辛うじて目に刻んだ勇夜でさえも、思わず驚嘆させられる場景。

 そう……光はその動きがまったく人の目に入らない速さで突き進み、ほぼ一斉に叩き斬ったのだ。

 御神真刀流奥儀―――《神速(しんそく)》

 人間にはその意識関係無く、その体にリミッターがかけられている。

 脳が、体を壊さぬよう、無意識レベルで常に制御化に置いているからだ。

 神速は御神の剣士たちがそれを意識的に集中して外すことで、驚異的な速さでの移動を可能にさせるという、流派では奥義中の奥儀に分類される高等技。

 使用中は視界が白黒になり、アクション映画のようにスローモーションになる。その間は銃弾だろうと、新幹線だろうと、荒波だろうと、自身の動きさえ当人から見れば遅く緩やか見える。

 無論、これは無理をして体を速く動かす行為なので負担は大きい。

 二次元人の力を受け継ぎ、常人より肉体が丈夫な光も例外じゃない。

 速度ならフェイトをも上回るが、消耗もそれ以上の両刃の剣だ。

 現に光は、敵を斬り伏せたあとは直ぐに神速を解除しても尚、奥義使用の代償で息は絶え絶えで、膝を地面に付けざるを得なかった。

 

『本体の反応をキャッチ』

「あれです!」

 

 だが勇夜たちの猛攻で敵の数が激減されたお陰で、探索に専念していたユーノとリンクは、同タイミングで本体を見つけることができた。

 絶対に逃がさない!

 

「フォトンスピア、ファイア!」

 

 威力は先のより落ちるが、速射できる魔力矢――《フォトンスピア》を勇夜は飛ばし。

 

「シュゥゥゥゥーーート!」

 

 なのはもレイジングハートからディバインショットを発射。

 魔力弾と魔力矢は、それぞれ異相体の翼を正確に射抜き、本体は血と悲鳴を上げて、本体は地面へと落ち始めた。

 神速の負担から回復した光は飛び上がり、まずかなり離れた距離から一気に詰めて時間差をつけて二刀による斬撃を斬り付けた。

《御神流奥儀ノ一、虎切(こせつ)》。

 長距離からでも、瞬間的に肉薄し相手を両断できる抜刀術。

 それにプラスして、《奥儀ノ二、虎乱(こらん)》の居合を見舞う。

 ×字に斬られて激痛に嘆く異相体の胸部を蹴って光は宙返りし後退。

 異相体は敢え無く地面に叩きつけられた。

 傷だらけな本体の下へ、勇夜は悠然と進んでいく。

 最後まで抵抗する気なのか、舐めるなとばかり、無理やり立ち上がらせた異相体は彼に向かい、雄叫びを上げ突進。

 しかし、その爪が勇夜の顔を切り裂く直前――

 

「タァァ!」

 

 ――勇夜の長くすらりとした脚から繰り出された〝対の先〟、つまりカウンターによる上段回し蹴りが、見事異相体の顔面にヒット。

 襲い来る衝撃と、慣性の荒波にを前に相手は為す術も無く呑み込まれ、飛ばされていく。

 そして勇夜は、カウンターキックによる勢いを一回転で流した後、打撃の濁流に翻弄される異相体に右手に携えたガンモードの零牙の銃口を向け。

 

「バーン」

 

 口から銃声の擬音を囁き鳴らして、引き金を引いた。

 けたたましい爆音を轟かせて、封印の術式が込められた魔力の弾丸――フォトンバレットを頭部に撃ち込まれた異相体は、そこに埋め込まれていたジュエルシードが強制的に活動停止されたことで肉体維持ができなくなり、大地にのたうつと共に爆発。

 噴き上がる火を眺めながら、火薬の代わりに魔力の炸裂による発砲で銃口から上がる煙を、勇夜は洋画でのガンマンよろしくふっと吹き上げた。

 

 

 

 

 

 

 炎の中から、宿主にされ取り込まれていたカラスが飛び去り、その元凶たる宝石は何事もなかったかのように傲然と浮遊。

 なのはたちは本来の目的を果たすべく、空に上がってジュエルシードに急接近。

 デバイスとデバイスがぶつかりそうになったが、その直前に二人は先日起きた次元振を思い出し、下がって距離をとった。

 慎重にならなければならない。うかつに触れれば、先日の二の舞となる。

 今地面に佇むあの宝石は、ちょっとした衝撃で次元振を起こしてしまうのだから。

 なのはは光を、フェイトは勇夜をそれぞれ見た。

 勇夜はガンモードの零牙をリンクに収め、光は小太刀を腰に掛けていた鞘に入れた。

 どうやらここから先は介入ぜず、一騎打ちを見守る立場に徹してくれるようだ。

 フェイトは複雑な内心を押し込めつつも、今は助けてくれたことと、真意はともかくチャンスを作ってくれたことに内心感謝して、バルディッシュを構えた。

 

「悪いけど……これだけは譲れない」

 

 

 

 

 

 なのはもまた愛機を構える。

 

「うん……それはわたしも同じ」

 

 なんでそう寂しい目をしながら、自分にはごめんと謝れるくらい、心を痛めながらジュエルシードを集めているのか、それが知りたい。

 でも……今はそれが叶わないなら、どんな理由があろうとこっちも譲れない。

 なのはの脳裏に、大木で覆われた街の惨状と、光に支配された市街がフラッシュバックする。

 

「どんな願いを持ってるのか分からないけど、フェイトちゃんには、それを使って願いを叶えて欲しくないから」

 

 だから今は、何が何でも彼女を………寂しげな目をした女の子を止める。

 

 

 

 

 

 光の〝二人は似た者同士〟って表現は的確だ。

 

 二人とも、『超』の単語を付け加えるまでに頑固で強情。

 

 譲れないものがあるのなら、ぶつかり合うのは必然。

 

 だから勇夜も光も、二人の一騎打ちを許したのだ。

 

 二人は魔法で、飛行スピードを加速させながら踏み込み。

 

『Scythe Slash』

『Flash impact』

 

 魔法で強化した互いのデバイスをその勢いを相乗させて、振り下ろした。

 そしてデバイス同士がぶつかり合い。火花を散らす……とろこだったのだが。

 

「ストップだ!」

 

 それを阻む者が一人、魔法陣と光と共に二人の間に突然しゃしゃり出て来た乱入者。

 黒く分厚いバリアジャケットを羽織り、右手に無骨な色合いと形をした杖を持った少し小柄な少年。

 彼は杖でバルディッシュを、左手でレイジングハートを掴みあげて止めた。

 

「ここでの戦闘は危険すぎる!」

 

 余りの間が悪過ぎる介入行為。

 こら!せっかくいいところだったのに、何でまたこんなタイミングで出てきて止めてんだこのKY野郎 ! とか言われかねない。

 でも落ちついて冷静に思考すれば、彼の言うことも正論だと気づく。

 いつ起爆してもおかしくない爆弾がある目の前で戦おうとしたのだから。

 勇夜たちは、そうならないようフォローするつもりではあったが、〝少年〟は黙って見過ごせなかった。

 この場合、この場に赴くことができるなら、誰だって彼のように行動したであろう。

 

 

 

「時空管理局執務官、クロノ・ハラオウンだ、詳しい事情を聞かせて貰おう」

 

 

 

 こうして、かなり出遅れた形で〝時空管理局〟が………この一件に介入した。

 




やっぱ間が悪いクロノ君の登場でした。
展開的にはKYでも、実際の状況判断しては間違ってはいないんですけど。

ではご感想待ってます。

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