ウルトラマンゼロ The Another Lyrical Story 第一章 作:フォレス・ノースウッド
それに何だか、書き直せば直すほど、フェイトのピンチに駆けつける時のゼロちゃんがどんどん無口になっていってる。無言実行がウルトラマンの魅力ではあるんですが。
時刻は午後19時50分近く。
文明の光、すなわち電気のよる灯りに照らされた夜の海鳴の中心市街地の喧噪の中を、高町兄妹、なのはと光は、微かに魔力を発するジュエルシードを求めて歩いていた。
「(ユーノ、この辺りなのですね?)」
「(はい……反応は確かに)」
この地区周辺に、いつ発動するかの瀬戸際の眠れる野獣なジュエルシードの一つが潜んでいる……筈なのだが、やはりどこにあるかは、簡単に尻尾を掴んでくれない。
対象物が〝存在する〟ということ自体は解るものの、具体的にどの位置に落ちているのかまでは、魔力反応が微量過ぎて特定できなかった。
手分けして探したいところだが、この時間帯に子どもが一人で歩いているのはとても目立つ、光も戸籍上は中学生で未成年となっている身なので、そろそろ夜の街を歩くには厳しい状況。
いつ街を巡回している警官に、自分たちがなにゆえ親の同伴も無しに夜道を出歩いているのか、問いただされてもおかしくない時間帯。
よって、一纏まりして動かざるを得なかった。
そんな時だ。
「空が…」
「なんで? こんなに雲が急に」
比較的晴れ渡った夜空に積乱雲が突如大量発生、月光が照らされていた市街上空を覆い尽くすと、地上に向けていくつもの雷が降り注いできた。
突然の天候変化にざわめく市民。
この怪現象が誰の仕業によるもので、どういう意図で行っているかは直ぐ検討が着いた。
あの〝黒衣の魔道師〟は、ジュエルシードの反応がある場所に片っ端から魔力を打ち込み、あえて対象の猛獣を起こさせることで位置を割り出そうとしていたのである。
確かに手っ取り早く見つけられる方法だが、まさかこんな街中で!?
ともかく街をパニックに落とし込む前に、対応せねばならなかった。
「広域結界! 間に合って!」
ユーノも雷を落とす相手方の真意を察したようで、すぐさま広域結界が貼られ、周辺にいた通行人たちが消えていった。
「なのは!あの子よりも先に封印を!」
「うん!いくよレイジングハート!」
『Standby READY, SET UP』
なのはは手に持ったレイジングハートを空に掲げ起動、ルビーの水晶玉から溢れる桜色の閃光が、なのはを包み込んだ。
市街で最も高層に位置するビルの屋上で街を見下ろすフェイトは雷雲、反応がある地域に集め、魔力を雲に打ち込むことで広い範囲で対象に雷を撃ち込む広域攻撃魔法、《Thunder Fall――サンダーフォール》を、ジュエルシードの反応地点に向け、手当たり次第に雷光を落としていた。
やがてその稲妻の一つが対象に命中したのか、青い光の柱が上がり、結界内の市街全体に振動が起きる。
「見つけた…」
フェイトも屋上から、光の柱が上がった方角へと飛翔した。
なのはとフェイトは、ジュエルシードが発する光の柱にある程度接近すると。
『Cannon Mode』
なのはのレイジングハートは、砲撃形態に変形し。
『Glave Form』
対してフェイトのバルディッシュは漆黒の刃を180度展開しつつ、柄から翼にも似た3つの魔力刃がトライアングル状に伸びた、槍としても。グレイヴ――薙刀としても使用可能な、強力な大規模魔法を使用する時にとる形態、グレイブフォームへと形を変えた。
『Divine Buster』
『Thunder Smasher』
それぞれの足元と、デバイスの前方に現れた魔法陣に、膨大な魔力が集まっていく。
狙いは、ビルと隣接して浮遊している呪いの石。
「「ジュエルシード!封印!」」
レイジングハートから桜色の魔力――ディバインバスターが、バルディッシュからは稲妻が迸る雷撃――サンダースマッシャーが迸り、大気の中をひた走る。それぞれの攻撃魔法が発射されたタイミングも、魔力流がジュエルシードに命中するタイミングもほぼ同時であった。
双方から封印処理を施した魔力を受けたジュエルシードは活動を停止し、光の柱は消え、振動も鳴りを潜めていく。
その光景を見つめている光。
あとは、なのはの言葉(おもい)に、彼女はどう応えるのか。
自分としても、母の期待に答えたいからといって、向こうの世界では禁止されているロストロギアの無断採集を続けるフェイトを止めたい気持ちはあるし、穏便に済むならそれが最善だとも思っている一方で、話し合いに持ち込めるほど、上手く行く保障もないことも熟知していた。
勇夜、ゼロからの話では、彼女は知り合い以上の関係を持った人物は極端に少なく、年上か年下の二択で、歳の近い子や異性とはほとんど関わりが無かったらしい。
その異性が勇夜で、同い年の子がなのは。
それまでは家族としか、真っ当に付き合いが無かったという。
その一人の母親とさえ、今では家庭内別居のように疎遠で、今こうして母から指定されたロストロギアを、言われるがままに泣き言一つ言わずに収集する今が、只一つの繋がり。
それを淡い希望にして、頑なになっているのが今の彼女。
でも同年代のなのはの言葉なら、あるいは……あるいは雁字搦めになった彼女に変化を与えることができるかもしれない。
それもまた淡い期待ではあるが、抱かずにはいられない。
こんな犯罪紛いなこと、彼女に続けさせていいわけがないと、内心呟いた時だった。
どこからともなく……嫌な風が身に吹いてきた気がした。
まるで、災害が来る前兆のような。
その風のように穏やかであるのに、気持ち悪いくらいに生温か過ぎる小さな空気の流れ。
思わず空を見た………そこに嫌な風の正体が在るような気がして。
「あれは…」
空が、歪んでる?
上空が……というより、上空の空間が台風のように渦を巻いて歪んでいた。
まさか、こんなところで空間のワームホールが?
この場合、虫食いを意味するワームホールとは違う。
この海鳴と、どこか別の地点の空間が、トンネル状に繋がったのである。
その規模は並のトンネルどころか、都市一個を飲み込めるだけの広さであるのだが。
これから何が起こるのか? 繋がった向こうから何が来るのか? 誰の差し金か? 今はまだ全貌が全く掴めない。
けれど、一つだけ断定できることがある。
身に触れた嫌な風は、これから起こる〝何か〟を知らせる警告であることだった。
一体……何が起きるの?
なのはもフェイトも、市街上空の夜空の異常に気が付き、お話も戦う意思すら忘れて、目が離せなかった。
すると、空に夜の天より黒く、おぞましい先が見えない大穴が開いた。
それだけでも異常事態であるのに、次に起きたのは、黒く巨大な円の中央から、巨大な物体が降りてきた。
何かが着地したと同時に、衝撃でアスファルトに地震と粉塵が走る。
しかも二つ。
仄暗い大穴から降りてきた対象のその姿に、なのはは―――
「か、怪獣?」
―――と呟いていた。
どちらも二足歩行で50メートル以上はありそうな体。
片や、巨大な一本角と、頭部に青い発光体が付き。
片や、羊のような角を一対持った。
そしてどちらも、見る者の感情を恐怖一色に染め上げてしまうほどに、牙、双眸、巨漢、相貌と極低音で心の臓を響かせる雄たけびを空へと響かせる怪獣たちだった。
「何なんだ? あの生き物は…」
なのはよりもこの世界で言う『非常識』に関わりが深いユーノでさえ驚きを隠せない。
二人は一応、光から怪獣と呼称された大型の生命体が実在することを聞いてはいたが、まさかこちらの世界にいきなり現れるとは、思いもしなかった。
地上に降り立った怪獣二体は、地響きを立てた直後、こっちに視線を向けた。
正確には、空中に漂うひし形の宝石に対して、目線を固定させていた。
〝まさか、ジュエルシードを狙ってる!?〟
なのはたちは彼らのその視線だけで、目的を感覚的に悟った。
由々しき事態である。
ここに来て競争相手は一気に増えてしまった。
しかも相手は、テレビとスクリーンにしか存在していなかったはずの、得体のしれない未知の巨大生物。
対処方法なんて、分かるわけもない。
初めて異相体を戦った時以上の恐怖が、なのはを支配していた。
怪獣からの明確な敵意と唸り声で、震えでレイジングハートの柄を握る力が弱まり、滞空状態さえ維持できなくなりそうになる。
今までは、明確に異相体を倒し、ジュエルシードを封印する方法と、光とユーノの存在がいたから慣れない戦いに身を投じることができた。
が、相手は彼女の固めあげた意志を、容易く崩し、不安定にさせるまでに、心と体を怯え震わせる異形であった。
「(なのは!ユーノ!)」
「光兄!?」
「光さん?」
光からの念話で、ようやく我に返るなのは。
「(あの怪獣たちは〝僕たち〟が相手をします、なのははあの子とジュエルシードを!)」
「う…うん」
「分かりました」
今は〝兄たち〟に頼るしかない。
むしろああいう手合いが、彼の兄とその仲間の力を、発揮できる相手なのだから。
そうか……兄って……今まであんな相手とたくさん戦ってきたんだよね。
自分なら怖がってしまうこんな時でも、自分たちが相手をすると即座に言えるまでに、彼が経験を積んでいる事実に対し、頼もしく思う一方、怖がることしかできなかった自分に歯がゆく感じてしまうなのはであった。
「なんで……」
見間違いの無い。
あの二体は、〝ウルトラマン〟たちのいた〝世界〟に生息している巨大生物であった。
ワームホールが出現するタイミングから見て、人為的に送り込まれたのは明白だが、一体何の目的でこんなまどろっこしい真似を?
考えるのは後か……あの二体を結界の外に出すわけにはいかない。
それに怪獣の出現で、フェイトもなのはも、その場に留まったまま動かない。
恐怖で委縮し、余裕が無い証拠だ。
ここで力を披露すれば、正体は知られてしまうが、あいつらの命に比べればその対価なんて軽いもんだ。
「(リヒト!準備はいいか!?)」
「(こちらはいつでも)」
「よし…リンク!ウルトラアイを!」
『はい、マスター』
相棒のリンクからウルトラゼロアイが出現し、手に取る勇夜。
別地点にいる光も、首に掛け、いつもは服の下に隠しているペンダントを取り出した。
鏡の騎士たる彼の変身アイテム―――ミラージュアイズ。
「ミラー!」
そう声に出しながら両腕を重ねた後、横に広げ扇状かつ鏡写しになるよう両手を回しながら、ミラージュアイズの前に翳す。
「デュア!」
「スパーク!」
勇夜はウルトラゼロアイを目に装着し。
光はミラージュアイズの前で両手をクロスさせた。
瞬間、双眸に当てられたゼロアイと首に下げられたミラージュアイズから溢れる光に、二人は包まれていった。
フェイトも、突然出現したその巨体を誇る生物たちに心身ともに圧倒されていた。
あれくらいの大きい生物は、管理世界にも極まれにいる。
だが……あれから発する凶暴な殺気はその比じゃない。
目にしたもの全てを敵と見なし破壊しかねない勢いだ。
お願い…止まって……止まってよ。
今まで実戦を幾度となく経験してきたにも拘わらず、フェイトも恐怖による震えで立ちすくんでいた。
駄目、こんなところで立ち止まってたら……駄目。
まず離れなきゃ、怪物から少しでも距離をとらなきゃ……お願い……私の体……動いてよ…いつものように空を舞いらせてよ。
勇夜と対峙した時の再来とばかりに、精神を蝕んでいく〝恐れ〟によって、金縛りに遭うフェイト。
せめて、実戦でその恐怖を何度も体験していればよかったが、なまじ魔導師としての実力がありすぎたせいで、人間としては正しい反応である〝恐〟の感情の対処法を身に着けてこられなかった。
積み重ねてきた勝利のツケが、ここに来て現れてしまったのだ。
雷光の如きスピードも、角に集まっている怪獣の飛び道具らしきエネルギーを前に力を発揮できずにいる。
フェイトの怪獣の攻撃が襲いかかる。
一体の方は奇しくも、フェイトと同じ―――雷撃。
『Defenser』
防御魔法を唱える愛機だが、『防ぐこと』に難があるフェイトでは……雷光を自身で阻む術は無かった。
巨大生物たちの飛び道具が放たれたと知らせる爆音。
たまらず、フェイトは目を覆った。
あれ? 何時までたっても、雷撃が来ない。
代わりに、地面に轟く衝撃音と、何かに遮られた雷撃の衝撃音。
そして瞼越しにでも感じる、眩くて、暖かな熱を帯びた閃光。
どうしたのかと、目をゆっくり開けるフェイト。
眩しさに視界が歪み、どんな光景となっているのか分からない。
やがて完全に視線の先の輪郭を捉えるまでに回復した時に目に止まったのは。
「あれは…」
怪獣たちと対峙する、二人の巨人。
怪獣も突然の乱入者に驚きを、隠せないようだ。
フェイトは一方の巨人は見知っていた。
鏡から突然現れ、自分とも交戦したあの緑と銀色の人だ。
もう一方の赤と青のボディ、銀色の顔、黄色の厳つい瞳、頭にはナイフのような刃をのせたあの巨人にも、一応心当たりあった。
まさかあれが、風の噂で聞いた………管理世界に度々現れ、人々を助けているという、神出鬼没の〝光の巨人〟なのか?
巨人が、自分に振り向いてきた。
その巨躯が、フェイトの脳裏に、ある人物と見事に重なりあう。
姿と大きさが大幅に変わってしまっても、巨人から発する佇まいで、その正体が誰なのか、簡単に行きついてしまった。
あの人―――勇夜…なの?
フェイトの心境を見透かしたように、ゆっくりと頷いて肯定する巨人。
「あの…勇夜…」
続けて巨人となった〝勇夜〟に尋ねようとするが、彼は怪獣たちに視線を移して、彼女に背を向ける。
〝話しは後だ〟
巨大な背中が、そう言っているような気がした。
フェイトと同じく、一連の出来事に虚をつかれていた怪獣たちは、直ぐに目の前の巨人たちに敵意を表し、威嚇の咆哮を上げる。
「デェア!」
「ハァ!」
光の巨人、ウルトラマンゼロ。
鏡の騎士、ミラーナイト。
言葉を交わさなくとも、二人は共闘する意思を示し、怪獣たちに向き直りつつ、気迫を発しながら戦闘の構えをとった。
ユーノは突然ワームホールから飛び出してきた謎の巨大生物の介入に戸惑ったが、ミラーナイトとウルトラマンゼロが相手をしてくれることに安心した。
あの二人の実力は直に見ている。
幾多の修羅場を潜り抜けてきたことは間違いない、その背中から発する頼もしさで充分に分かる。
二人が片方の脅威の相手をしてくれる間に、自分たちは本命の脅威の対処に臨まなければ。
「なのは!今の内に確保を!」
「させるかよ!」
なのはに指示を出した矢先、突然空から、何者かの声と拳が迫った。
咄嗟に結界を張って応戦するユーノ。
声と拳の主は女性だった。
いや……見かけは、自分より年上みたいだけど、むしろ少女と呼ぶべきだろう。
でも、あの狼に似た耳と尻尾はひょっとして、普通の人間ではなく。
「君は一体?」
「フェイトの邪魔はさせないよ!!」
少女はオレンジ色に光り輝くとその姿を、その髪色と同じ体色をした狼へと変貌した。
「間違いない……使い魔」
まさかあのフェイトって名前らしい魔導師の子に使い魔がいたなんて……いやむしろあの子ほどの実力なら、使い魔がいてもおかしくないと、予想しておくべきだった。
なのははあの子と、光さんとウルトラマンゼロは、あの怪獣との相手たちで精一杯だ。
今は、自分が彼女の相手をするしかない。
まだ適合不良から完全に回復していないこの体で、どこまでできるか分からないけど、なんとかしなければ……時間を稼ぐことぐらいは、自分でもできるはずだ。
ユーノは己を鼓舞しながら、使い魔の少女と相対した。
そしてなのはとフェイトの二人の少女の方はと言えば。
片やなのはは、地面に足を置いて彼女を見上げ。
片やフェイトは、滞空した状態で彼女を見下ろしていた。
予想外の介入者に、横道を逸らしてしまったが、兄とウルトラマンが何とかしてくれる。その間に、ジュエルシード……それと―――
「レイジングハート…モードリリース」
『了解』
―――あれを集めている女の子と、話をしなければならない。
なのははまだ、少女と戦うつもりは無い。
兄の言う通り、それは自分のわがままで、戦いになることは避けようがない現実なのかもしれないけど。
「この間は、自己紹介できなかったけど」
それでも……どうしても知りたかった。
あんな危険なものを集めてまで、あんな寂びそうな顔をしてまで、自分に刃を向けてまで………彼女が戦う理由。
「わたし、なのは、高町なのは」
『Scythe Form』
相手はこれからやり合うっていうのに何を言っているのだ? といった面持ちでデバイスの形態を変え、魔力の刃を形成した。
「前にも言ったよね、ジュエルシードと私たちには関わらないでって」
「それを言うなら、わたしの質問にも答えてくれてないよね? まだ名前も聞いてない!」
なのはの、その一途さを前に、一度構えを解くフェイトだったが、すぐに魔力スフィアも形成し臨戦態勢をとった。
〝今度は手加減はしない〟
以前と同じく、言葉で答える代りの返答、意志表示だった。
なのはも、やり切れない気持ちを抑え、レイジングハートを再起動。
彼女の意志とは裏腹に、第二ラウンドの幕が上がる。
こうして巨人と怪獣、獣(少年)と獣(使い魔)、魔導師と魔導師の共闘と激突が入り混じった戦闘が始まった。
一見するとそれは小動物のフェレットと肉食獣の狼の食うか食われるかの追跡戦だった。
だが都市のど真ん中で行われているそれは少々違う。
「なんでジュエルシードを集める!?あれは危険な物なんだ!」
「ごちゃごちゃうるさい!」
苦虫を噛み心境を抱えて、アルフはユーノの言葉を遮る。
分かってる……そんなことぐらい。
勇夜は…今は『ウルトラマンゼロ』って巨人になってる彼は、あれのことを『碌でもない形でしか叶えてくれない欠陥品』って言った。
今相手をしているイタチみたいな奴は、そいつを発掘した張本人らしいし……その危険性は誰よりも知ってるはずだから、あいつの言い分も分かるんだ。
だけど、今はどうしてもあれが、ジュエルシードが―――必要なんだ!
アルフは飛び上がり、鋭利な爪でユーノに襲いかかるが、ユーノはそれをバリアで防いだ。
二人の巨人は怪獣たちの注意を向けさせ、なのはたちと距離を稼いでいた。
「ゼロ…やはりこいつらは?」
「コッヴとパズスだ」
少し説明が長くなるが、ウルトラマンが存在する世界は複数存在し、その世界の一つに怪獣を自在に操る力を持ち、宇宙を恐怖で君臨していたレイブラッド星人という存在がいた。
やつが使役する次元を操る怪獣プルトンによって、時空が歪められ、一時期ウルトラマンゼロの生まれ故郷が存在する世界に、あらゆる次元に棲息し、レイブラッドに操られた大量の怪獣たちが押し寄せてきた。
最終的にレイブラッドの野望は、各世界から集結したウルトラマンたちによって阻止され、後にこれらの出来事は《ギャラクシークライシス》と呼ばれるようになった。
この事件により、ゼロの故郷には異世界の怪獣の詳細な生体データが記録されていたので、彼は眼前の怪獣たちに関する知識自体があったのだ。
コッヴとパズスは、根源的破滅将来体と呼ばれる、破滅をもたらす存在が地球を襲い、その地球自らが自らと自らの星に住む生命を守るための光を生みだし、その光を得て超人になった地球人を『ウルトラマン』と呼んだ世界の、とある惑星に住む野生動物だった。
本来は大人しい種族であった彼らは度々破滅招来体に無理やり地球に移動され、その意志とは反して尖兵にされ、暴れた。
彼らに操られていたわけでは無い。
操る必要なんて無い。
環境に適応するための本能と、自分だけのテリトリー――縄張りを作ろうとする本能と、無我夢中で生きようとする本能だけで暴れ狂い、街を破壊し出すため、それだけで充分に脅威だったのである。
「俺はパズスをやる、コッヴは頼む」
「了解」
ゼロはパズスに、ミラーはコッヴに立ち向かっていった。
巨体と巨体がぶつかり合い。
地響きと粉塵が舞う。
常識を超えた大きさの巨人と怪獣の組み合い。
見かけではパズスの方に分がありそうだが、パワーは互角、むしろゼロが押していた。
そのまま組み合った手を振り払ったゼロから繰り出す重い正拳突きと肘打ちと蹴りが、連続でパズスに突き刺さる。
何のエネルギーも付加されてない肉体からの攻撃でも、宇宙拳法を会得したゼロに掛かれば、絶大なもの。
最後に両手突きが炸裂、たまらず後退するパズスに追い打ちをかけようとするゼロ。
だが、パズスの角から稲妻が走ると。
「何!?」
スパークを発した角から、高圧電流がゼロに向けて放たれる。
後退し、横転して回避するゼロだが、ここはビル街のど真ん中。
結界で周辺の配慮はある程度無視はできても、やはり魔天楼は移動に支障が出る。
その制約を承知しつつも躱すゼロだが、パズスの口から今度は火炎を発射。
両手を盾代わりしてなんとか防いだが、その隙を突き。本命の電撃がゼロを飲み込んだ。
いくらウルトラ戦士でも、電流をもろに受けるのはきつい。
一瞬体がマヒした感覚に襲われる。
その隙を狙い、今度は雷撃と火炎を同時に発射するパズス。
それを受けたゼロは吹っ飛ばされ、ビルに叩きつけられた。
追い打ちを掛けさせまいとゼロは態勢を立て直し、手を頭部に翳すと、ゼロスラッガーを投擲。
狙いは電撃を生みだすあの角、だがそれは何かに弾かれた。
念力で何度も何度もスラッガーを当てるが、その度に角に纏った電磁波に阻まれる。
『角に集めた電気で発生させた電磁バリアで、マスターの攻撃を防御していると思われます』
リンクが、怪獣が今見せた防御のカラクリを説いた。
どうやら、角に発生させた電磁波は盾にも使えるようだ。
「なら!」
ゼロは二つのゼロスラッガーをキャッチすると、二つの刃は光に包まれ、一つの剣の柄に変形し、刀のような形をとった光の刀身が伸びた。
これは日本刀を模した形態――《ブレイドスラッガー》。
ゼロはそれを投げ、回転して飛ぶ刀に、エメリウムスラッシュを放つ。
光線に含まれるエメリウムエネルギーで破壊力、スピードとともに上昇した刃はブーメランのように回転しパズスの頭部に迫る。
パズスは雷撃で迎撃するが、刃は進行を止めない。
例のごとく、電磁バリアで受け止めた。
しかし、さすがにきついのか、必死にバリアを強めて、防御に専念する。
光の剣と電磁バリアの鍔迫り合いが続く。
パズスはさらにバリアを強め、ゼロスラッガーは再び弾かれた。
その直後、パズスの片方の角がいきなり破壊された。
ブレイドスラッガーによる攻撃はフェイク。パズスが防御に専念しているその間、ゼロは飛び上って背後に周り、空中で高速回転し、 弾かれた瞬間に無防備になった角に、そのまま落下して、彼の師匠たるのウルトラマンから譲り受けた《錐揉みキック》を、彼流にアレンジした技―――《ゼロスピンキック》で破壊したのである。
着地したゼロは間髪受けず再び飛び上がり、上空で『ブレイドスラッガー』のゼロスラッガーをキャッチ、そのまま落下のスピードを相乗させて袈裟がけに振りおろそうとする。
「ハァァァァァァーーーーーー!!!」
パズスも残った角からの電撃で応戦するが、ゼロは光の刀身で防御、そのまま稲妻を纏ったまま振り下ろした。
「デェェアァ!」
電磁バリアも刀身に纏わせた電磁波で中和され、最後の頼みであった残された角も無残に切断された。
変わってこちらはミラーナイトとコッヴ。
コッヴの手は指の代わりに一振りの鎌がある。
振るわれる鎌の手を躱したり、手で打ち払って防ぐミラーナイトだが、コッヴは両手でミラーの頭を挟み込んだ。
力任せに押さえつけるコッヴ。
首を絞めつけらる様な圧迫感を覚えるミラーナイト、そのまま押しつけられ、羽交い絞めされながら後退される。
そのままミラーナイトを投げ飛ばすコッヴ。
高層ビルに叩きつけられ、破片に埋もれるミラーナイト。
ミラーはスピード、即ち『柔』を主体とした戦闘が得意なので、こうした真っ向からのパワー勝負では後手に回りがちだ。
コッヴは、その攻撃が有効だと思ったのか、瓦礫から、粉まみれになったミラーナイトを鎌の手で羽交い絞め、その勢いのまま、彼を押し倒した。
しかし彼も負けてはいられない、それに対する対応策はある。
「ミラー!エナジー!」
ミラーナイトは両腕からエネルギーを直接相手の体に送り込んだ。
ダメージを受けた相手は腕の力を緩める。
チャンスは逃さない。鎌を両手で払いつつ、彼はお返しとばかり、相手の脳天に手刀を見舞い、さらに顎に向かってアッパーの要領で掌底打ちを炸裂。
怪獣と言えど生き物であることは変わりない。
頭に衝撃をまともに受ければ脳震盪だって起こす。
ひるんだコッヴにミラーの回転キックが命中。
さらに連続で、回転の勢いにより威力が増幅された蹴りを当てていく。
最後に横転の勢いを乗せて放ったストレートキックに、コッヴは倒れ込んだ。
「ハァ!」
特徴的な腕をクロスしたかのような構えを取るミラーナイト。
直ぐにでも止めといきたいが、まだどんなカードを隠し持っているかは分からない。
いつでも攻められるよう感覚を研ぎすましつつも、冷静に距離をとり出方を窺うミラー。
来る!
起き上がったコッヴは頭部から光弾を発射した。
ミラーはすかさずパントマイムの要領で、中空を手で横になぞると。
「ディフェンスミラー!」
ガラス状のバリアが形作られ、複数迫る光弾の群れを防御した。
ならばと考えたのか、コッヴは今度は鎌状の腕の重ねると、エネルギーが集まり、光線が放たれた。
間一髪ミラーは空へ飛び、回避するがコッヴは彼に向けて再び鎌からの光線を発射。
ミラーも両手を突き出し。
「ミラーナイフ!」
いくつもの手裏剣の如き光の刃は、コッヴの光線と衝突、爆発が起きる。
ミラーナイトの姿は爆煙で見えなくなったが。
「ミラーキック!」
煙を切り払い、弾丸の如き速さでナイトのキックはコッヴの脳天に命中した。
その勢いのまま仰向けに倒れるコッヴ。
着地をしたミラーナイトに。
「ミラーナイト!」
ゼロが彼を呼びかけた。
目の先を移すと、ゼロはパズスの尻尾を掴んでいる。
その意図を理解したミラーナイトは、コッヴの背後にまわり。
同様に尻尾を鷲掴みにした。
ゼロとミラーは腕力を込めて相手を持ち上げ、振り回す。
何度も何度も、プロレスの投げ技の要領で回し続け。
「行くぞ!」
ゼロとミラーは互いに向けて怪獣を投げ飛ばした。
投げられたコッヴとパズスは空中で激突。
続けて落下し、コンクリートの地面からくる衝撃が追い打ちをかけた。
本当なら、連れ戻してやりたいんだが……ゼロは心の中でそう呟いた。
コッヴとパズスは、本来は大人しい性格をした種族なのだ。
こうして暴れているのは無理やり、地球に連れてこられて操られているだけで彼らに悪意は無い。
だがこの怪獣たちがどこから連れてこられたのか分からず、こうして暴れまわる以上……倒すしか最善の手は無かった。
いや……〝最善〟なんて言い方は、傲慢か。
恨んでも良いさ、せめて………安らかに眠ってくれ。
「行きますよ!ゼロ」
「ああ!」
ミラーは両腕をクロスし右手を上げ、左手を下げ時計回りに回して広げ、ゼロはリンクがある左手をカラータイマーに翳し。
エネルギーをチャージした二人は、コッヴとパズスに向けて。
「シェア!」
ゼロは拳を突きだした左腕から竜巻状の光線、『サイクロンストリーム』を。
「シルバーーーークロス!」
ミラーナイトは×字で組んだ腕から、必殺の光の刃、シルバークロスを放った。
二人の必殺の光が、コッヴとパズスに直撃、細胞が急激に分解作用を起こし、怪獣たちは粉々に爆発四散した。
感傷に浸っている暇は無い、ジュエルシードはどうなった?
そして、ビルとビルの合間を飛びまわる光跡が二つ。
なのはとフェイトだ。
現状では、なのはは追われる者、フェイトは追う者な状態のドックファイト。
前方を飛行するなのはに向けて、フェイトは雷の魔力誘導弾を数発発射。
なのはに光弾の群れが牙を向く。
だがなのはも、前の時のように直ぐにやられるつもりは無い。
小刻みに身の軌道を変えて全弾回避すると、こちらからも魔力スフィアを4発発射。
今は応戦しなければ、自分の言葉さえ伝えられない。
話し合いを所望しながら、戦闘を行う、明らかに矛盾していた。
矛盾を抱えるは、なのはだけでは無い、彼女の桜色のスフィアを回避するフェイトもだ。
内心では、相手を傷つけるという行為には抵抗がある彼女。
そうでありながらいくら母の頼みとは言え、今は戦闘行為を行わなければならない。
非殺傷設定が無ければ文字通りの殺し合いに発展しかねない事態なのに。
そうやって、いつも己の心を無理に押し込み、凍てつかせながら戦いを続けている少女。
フェイトが全弾回避した直後。
『キャノンモード 非殺傷スタン設定』
チャージを完了した砲撃形態のレイジングハートの砲口から。
「シュート!」
桜色の魔力光が放たれた。
回避は困難と判断したフェイトはシールドで一旦防御し、受け流しつつ退避する。
「君なりの目的が…事情があるのなら…ぶつかり合うことになっちゃうのは…しょうがないのかもしれないけど…でも……でも私、何も分からないまま…戦うのだけは嫌なの!」
反撃へと行動を移そうとした矢先、なのはの思いの丈に、動きが止まる。
分からないまま?
その言葉が微かながらも、痛みとして心に突き刺さってきた。
今は言葉なんて、交わしている場合でも、ましてや聞いている場合でもない。
勇夜との一件と一風変わった停戦関係は、そうそう起きる者では無い、ならばこれ以上、自分の素性も目的も知られるわけにはいかない。
聞く耳を持っては駄目なのだと心に言い聞かせているのに……どうしてその一言で、こんなにも心が揺さぶられるの?
どうして……『知らない』という言葉一つで…………原因に行き着いた。
そうだ…私も知らない………分からない。
母が、母さんが………なんであそこまで、ジュエルシードを欲しがっているのか………昔はあんなに優しくて、いつも笑ってくれた母さんが、なんであんなに冷たい態度を取るのか…解らない。
「わたしも言うから…だから教えて、どうしてジュエルシードが必要なのか…」
敵対しているはずの少女の言葉が、フェイトの心に波紋を起こす。
そう言えば、あの人……諸星勇夜に自分の目的を知られてしまった時。
あの時、どうしようって……このまま母さんの願いを叶えられなかったら……どうしようって思ったのに、どこかほっとしてる自分がいた。
結果的にとは言え、自分の抱えているものを勇夜が知った時、どこか安心している自分がいた。
共有してくれる人がいることに、喜んでいる自分がいた。
言葉では何も変わらない、変えられないって今まで考えていたけど……でも……ひょっとしたら、ロストロギアを集めなくても、戦わなくても……自分は。
「フェイト!答えなくていい!」
揺れるフェイトの心に響くは、狼形態のアルフの叫び。
「ジュエルシードを手に入れるんだろ!?」
一度揺らいだ彼女の意識が引きしめられる。
でもやっぱり……今の私にはこれしか……これしか方法が無いんだ。
あれを持ち帰る。たったそれだけで良いんだ。
たったそれだけで、あの頃の母さんが戻ってきてくれるんだ。
なら迷う必要はどこにもない、こんなところで止まってちゃいけないんだ。
同年代のなのはの言葉で、凍りつかせた少女の心を多少溶かす効果はあったものの、光の懸念の通り、それは淡い期待であった。
フェイトは、ジュエルシードにめがけて飛んだ。
なのはも続けて追いかける。
狙いは宙に浮く菱形の宝石―――ジュエルシード。
どちらかより先に手にすること、スピードではフェイトに分があるが。
『Flash Move』
なのはもこのまま渡すまいと、魔法による加速で飛行速度を上昇させ、降下する。
結果的にだが、封印する時と同様に、互いのデバイスが、ほぼ同時にジュエルシードに触れた。
「「今すぐそこから離れろ(離れて下さい)!」」
ウルトラマンゼロとミラーナイトの警告が響く。
二人の警告の意味を測ることもできぬまま、宝石から突如溢れた光に、二人は呑まれた。
ゼロたちの警告も空しく…デバイスが触れた衝撃で菱形の宝石から膨大なエネルギーが放出。
光はドーム状に広がりながら、大爆発を起こし、衝撃と爆音を拡散させていく。。
魔法と同様に殺傷力は無かったがその場にいた全員は、その光に呑みこまれた。
なんて……威力だ。
たった一個で、デバイスが少し触れただけの衝撃で、こんだけの次元振を。
ジュエルシードは例えるなら、大量の魔力を無理やり詰めた代物だ。
そしてそれを覆う外殻は、風船並みに脆い。
さらに魔力を空気だと仮定して、そんなものに衝撃を与えて穴を開けたらどうなるか、それがこの有様だった。
光がようやく収まった。
スパークで一時的に機能不全になった視覚を取り戻した二人の巨人は、目を見開くと、衝撃で吹き飛ばされたなのはは、アスファルトの地面に叩きつけられ、気を失っていた。
「なのは!」
ミラーナイトは変身を維持したまま、人間サイズになりつつ、なのはに駆け寄った。
愛する義妹を抱く兄、バリアジャケットの魔力フィールドと、あの状況下でも使い手であるなのはを守ろうとしたレイジングハートのお陰で、外傷は無い。
気絶したのは、次元振の衝撃波による魔力ダメージが原因だった。
一番震源地に近い位置にいて、なのはを庇ったレイジングハートは、あちこちヒビだらけではあったが。
「ありがとう、レインジングハート……戻ってください」
『了解…モードリリース』
妹に代わって彼女のパートナーに礼を言いながら、ミラーナイトはほっとしてていた。
人間体だったら、安心し切った顔を浮かべていることだろう。
同じく、次元振を間近で受けたフェイトたちの方は言うと。
「ごめん……戻ってバルディッシュ」
うまく意識を保ちつつ退避はできたが、バルディッシュのダメージも甚大であり、彼女は愛機を斧の状態から、待機形態に戻した。
とりあえずは全員無事か……とほっとした時だ。
ジュエルシードの様子がおかしい。
光を断続的に明滅させながら、揺れを発している。
あんだけバカでかいエネルギーを出しておいて、まだ次元振を起こす気なのか!?
フェイトにも目を向けるゼロ。
目線を、異常をきたしているジュエルシードに見据え、今にも飛ぼうとしていた。
デバイスが使えないのに、素手で封印処理をする魂胆かよ!?
あんなものを生身で触れたら、下手をすれば怪我どころではすまない、腕ごと吹っ飛ばされる危険性さえある。
「あの莫迦ぁ! くそぉ!!」
そうはさせまいと、体を人間サイズへ縮小させながらゼロは、暴走寸前のロストロギアに突っ込んだ。
『巨人態のままでの封印処理は非常に危険ですマスター!』
「分かってる!」
冷静さと焦りの合間で忠告してくるリンク。
実はゼロの姿の時は、魔法はほとんど使えなくなる。
体内の太陽エネルギーと魔力は一定以上の量に達すると相殺する性質があるからだ。
本来の力を存分に行使できる引き換えに課せられたハンデ。
当然…封印魔法も使えない。
だが人間体――勇夜での飛行スピードがフェイトに劣る以上、彼が今フェイトを助けるべくとれる行動は一つしか……存在しなかった。
ジュエルシードに向けて地面すれすれを飛ぶフェイト。
バルディッシュが使えない今、自分だけで封印させるしかない。
どうしても、一個でも多く、持ち帰らないといけないんだ。
「フェイト!? ダメだ!」
主の意図を察したアルフは、引き留めようと呼びかけるが、夢中になっているフェイトにはその想いは一欠けらも届かなかった。
たとえ聞こえていたとしても、進みを止めることは無かっただろう。
右手がジュエルシードに触れようとする寸前。
「デェア!」
何かが横から来て、先にロストロギアを取った。
だ、誰が!?
何かが通り過ぎた方向に視線を移すと……巨人の姿のまま人間ほどの大きさになって、必死にジュエルシード素手で押さえつける〝勇夜〟がいた。
「ゼロ!」
「勇夜…」
「来るんじゃね!」
駆け寄ろうとしたフェイトと〝騎士〟を〝勇夜〟は制した。
鉄面の表情は変わらないが、かなりきついことが窺える。
自分と違って、リンク――彼のデバイスは健在なのに、どうして……自分が今やろうとしたことを?
「ピコン…ピコン…ピコン…」
ゼロの胸の中央にある水色の発光体が、けたたましい音と鳴らして赤色に変わり、点滅し始めた。
胸の光沢が変色すると同時に、力が抜けて膝をつくゼロ。
放出するエネルギーを抑える為に、微妙な力加減で掴んだ手から発するウルトラ念力の制御に集中した結果、彼の体内にある太陽エネルギーが急激に消費されていく。
「止まって……くれ……」
ゼロの手から光が溢れだす…それはウルトラ一族の体から流れる血だった。
痛覚が過剰に訴えてくる。
手を放さなければ、超人であるこの身でも危ういと。
それでも辞めない。今この手を離すわけにはいかない。
人間態に戻って、封印処理をする時間も無い。
ここで手放したら、また次元振が起きてしまう。
今度はどれくらいの規模になるか……分かったものじゃない。
ここにいる全員が………それどころか街ごと、お陀仏になることだってあり得る。
だから頼む…止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ
次第に、ジュエルシードから溢れるエネルギーの波動が弱まった。
次元振の第二破はどうにか回避された。
ゼロの呼吸は乱れており、カラータイマーの点滅のサイクルも速まっていた。
ジュエルシードを持つ右手も金色に光り輝く血にまみれている。
十分生々しく痛々しい上に、これが赤い液体で、血を見慣れない者なら、失神するほどの量が腕から流れていた。
「大丈夫か?……フェイト…」
ゼロは疲労困憊で、荒い息でまともに声を出せられない……そんな状態でも尚、フェイトを気にかけていた。
瞬きするのも忘れて、疲労困憊な〝勇夜〟を眺める、
あの巨大な怪物を倒した彼でさえ、こんな状態にさせるジュエルシード。
もし、自分がやってたら……想像することさえ空恐ろしい。
自分が受けるはずだった顛末を代わりに受けて、自身を守ってくれたボロボロの戦士に―――
「……………」
―――返す言葉が、思いつかない、浮かばない、見つからない。
明らかに〝勇夜〟の方が遥かに満身創痍でボロボロなのに……それでも、わたしの身を案じてる。
こんな時どうすればいいの?
ありがとう……っていうべきなの?
「うん…」
今の私には、頷いて……大丈夫だってことを伝えることしかできなかった。
「そりゃ…………」
〝光の巨人〟の姿をした〝勇夜〟は鉄面皮で表情が変えられない代わりに、安心した声色で、自分の無事を確認すると。
「よかっ……たぁ…」
力尽き、その場に倒れ込んだ。
「勇夜?」
嘘?
今目の前に起きた光景が、信じられない。
嘘だよね?
目が大きく開いたまま、彼が倒れた事実を呑みこめない。
一拍置いて、これが紛れもない現実であることに気付いた彼女は、勇夜の下に駆け寄り、彼の体を必死に揺する。
「ねえ…勇夜……」
だがいくら揺すっても呼びかけても、胸に付いた宝石が空しく点滅するばかりで、ピクリとも動かない。
「い…いや…嫌………嫌だよ…………」
悪い夢であってほしかった……現実だって認めたくなかった。
「勇夜……ダメぇ……嫌だよぁ…………勇夜!お願いだから起きて!!起きて!!起きてよ勇夜!!!」
わたしが……無茶をしようとしたばっかりに……………この人に……わたし………わたしがあんなこと………私の……私のせいで……全部私がいけないのに……………私のせいなのに……なのに………なのに。
自分が行おうとした行為が原因で、目の前の人が傷つき…倒れ…命の危機に瀕し、瀬戸際に立たされている。
その事実は、彼女が『今までにその身に受けた外傷』よりも、鋭い刃となって、残酷にフェイトの心に深く突き刺さり、抉らされ、抑えに抑えてきたはずの涙が、心の壁を決壊させながら、フェイトの頬を伝いながら一気に溢れだしてきた。
少女にとって、長くて久しい、激情の発露。
「ゆうーーーーやァァァァァァァァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!」
少女の悲鳴と慟哭が、夜の海鳴の街に残響した。