ハイスクールD×D 銀龍の仮面   作:xix

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0.俺といつも 

 

 銀龍―――。

 

 月光で輝く鎧姿を見ながら、そう呟いた。

 銀色に光る生物的なフォルム―――まるでドラゴン。

 そう、あの時の―――――いつか見た、銀色の星と同じ輝きだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「起っきろぉぉぉぉおおおおおおおおおお!!!」

「うるせぇよ!!」

 バシンッ!

「ぎゃぶっ!?」

 桜が散り始める4月のある日。耳元で叫ぶものを潰して黙らせながら、俺―――長谷川(はせがわ)(かける)は目を覚ました。

 あークソ、イライラする!

 頭をかきながら毛布を剥ぎ、着替えを持って寝室を出る。そのまま広い廊下を早歩きして脱衣所へ入り、部屋着を脱いでシャワーを浴び始めた。

 ………あー。やっぱ朝シャ、サイコー……。イライラが少しずつ収まってきた……。

「その『朝シャ』って言い方やめない? カケル独特の辞典にあっても他の人には通じないんだしさ」

 ……やっぱりイライラは収まらなかった。

 髪を洗いながら話しかけてきたそいつ(・・・)に振り返る。

 そこには湯の張られた桶に入る生物がいた。

「朝風呂って単語の語呂がいいように、俺にとって朝シャって言う方が語呂がいいんだよ。朝シャワーとか言うと何か調子狂う」

「だーかーら~、単語を変にまとめるそのクセ、直した方が良いよ」

「クセってわけじゃねぇよ。私生活だけだったらまだいいだろうが」

「へぇ~。たま~にだけど、人前でもそれやってたって気づいてない?」

 ………マジかよ。

「気づいてなかったって顔だね~」

「黙れ。朝メシ抜きにするぞ」

「お背中流しましょうカケル様~♪」

「黙るだけでいい」

 あー、なんで朝からこんなにイライラしなきゃいけないんだ。

 未だ湯に浸かってる―――――小 竜(こドラゴン)、ピース。

 そんな相棒を尻目に身体の泡を洗い流し、すぐさまバスタオルで水滴を拭き取る。

 頭にタオルを巻きながら制服に着替え、俺は台所に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 家での食事は基本俺が作っている。

 なぜなら料理上手の親父は仕事で家には居ないし、母さんは―――――

「うーん! やっぱりカケルの作るものってホント美味しいわね~♪」

「うんうん、僕と作ったこの手作りたくあんだけでもご飯が進む進む~♪」

「………」

 おかずの一夜干しを口にしながら褒めてくる母さんと、箸を器用に使って白米を食べるピース。

 そう。この人とこの小動物(?)は作るよりも食べる側なのだ。

 まあ、ピースは漬物とか下ごしらえで手伝ってくれる分まだマシだけど。

 このぐうたら母―――長谷川(はせがわ)龍子(りゅうこ)は家で店をやっている。

 それも(うらない)(まじない)といった超オカルトチックな事業。

 収入は依頼内容によって変わるからすっげー安定していない。親父が稼いでくれているから金に困っているわけでもないが、共働きしていると言えるかもわからないような感じだ。

 ………おっと。

 ふと、時間を確認すると、俺はリモコンに手を掛けて一つの番組を映す。

『それでは、今日の星座占いで~す』

 ちょうどいいタイミングだった。

 俺の日課の一つ、朝の占い。特にいま見ている局のはその日のラッキーカラーやグルメ、スポットなどを細かく紹介してくれるため、占い好きの注目を集めている。しかもその的中率が異様に高いのだ。

 この前ラッキースポットが"スーパーのパン売り場"という事で寄ってみたら食パンがいつもより安く買えたし。

 さて、俺のさそり座は、今日どんな―――

『今日の一位はさそり座のあなた! 何か運命的な出会いが起こるかもしれない一日! 身の回りには気を使うと良いかもしれませんよ!』

「……よし」

 なんかいいことが起こる一日。

 そう頭に残しながらラッキーカラーなどを確認する。

 ふむふむ……。

 

 ラッキーカラー:金色

 ラッキーメニュー:おかゆ

 ラッキースポット:人目のつかない廃屋

  ・

  ・

  ・

 

「チッ、なんで金色なのさ。カケルには銀が似合うのに」

 自分の甲殻が銀色だからか、占いの結果に舌打ちするピース。

 にしても金色におかゆ、廃屋って。ハンカチに金なんてないし、おかゆを食べる気もない。それに廃屋なんて普段は通ることもないし……ん?

 

 ラッキーアイテム:体温計

 

 最後に出て来た項目を見て俺は首をかしげる。

 体温計、おかゆ……俺が熱でも出すって前兆か? 気分が悪いのはいつものことだけど………あ。

 時計を確認すると、すでに八時近くになっていた。

「ピース、食うなら早くしろ。もう出るぞ」

「おおぅ!? ちょ、待ってあと茶碗半分だから!」

 カツカツと残ったメシを掻きこんでいくピースを尻目に、自分の食器を片付けて玄関に向かう。

 そしていつも通り持ち物確認開始。教科書よし、ノートよし、筆記用具よし、財布よし、スマフォよし、弁当よし……。

「ピース」

「ハイお待たせぇ!!」

 最後に飛んで来たピースを鞄に入れて、出発準備完了。

「んじゃ、行ってきま――――」

 グルォォッ!!

 雄叫びと共に、一つの巨大な影が俺に飛び掛かってきた。

 だが俺は一歩横に動くことでその巨体を避ける。

「おー。起きたのか、ライト」

 慌てることなく影の正体―――――金のたてがみにトラのような縞、そして2メートルはありそうな巨体を持つライガー……我が家の愛猫(・・)こと、ライトの頭を撫でた。

 普段は昼ぐらいに起きるのだが……珍しいな。

「いってらっしゃいとでも言いに来たのか?」

 肯定するようにコクリと頷いた。

 俺は素直にありがとう、と言って今度こそ家を出る。

「いってきまーす」

「いってくるね~」

「いってらっしゃ~い」

 母と愛猫の見送りを受けながら、俺は―――いや、俺たちは学校へ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私立駒王(くおう)学園。

 家から走って二十分して着ける、俺の所属する学校。

 もともとは女子校だったが、数年前から共学になったという特殊な所。

 そのため生徒の約七割が女子で男子はクラスに十人いるかどうか。ようするに女が多く男が少ない学校。他に特徴的なことといえば、留学生が多くて校則がわりと自由といったところだ。

 午前の授業が終了し、俺が向かったのは新校舎の屋上だった。

 そこにはすでに約束の人物が二人、屋上の床に腰を下ろしていた。

「来たか」

 三白眼に長身、ミステリアスな雰囲気を放つ弓槻(ゆづき)静香(しずか)が呟く。俺がこの学園に入学してから初めて友達になった奴だ。

 名前が女っぽいが、ホントに名前だけ。クラスの中でも高いレベルの身長に、勉強も運動もできて、弓道部のエース。顔はイケメンにまで行かないが十分整っており、女子からの人気はこの学園で上位に入っていると言われている。

「ウィッス、カケルの兄貴」

「おう」

 次に声をかけてきたショートカットの茶髪に、耳にピアスを着けた少年―――1つ年下の舎弟、武田(たけだ)幸村(ゆきむら)

 一見チャラそうな奴だが根はよく、むしろ社交的な性格で、女子の中で若干のファンがいたりするヤツだ。

 幸村のあいさつに俺は答えると、床に座って持っていたバックの中身を取り出す。

「今日の弁当は何だ?」

 静香がいつもどおり、無表情で俺の持つもの―――重箱を見ながら訊く。表情の変化が少ないが、いまは重箱を見ながら、ワクワクと期待しているような雰囲気を出していた。

「おかず入りおにぎりだ。具はネギ塩、昆布、豚の角煮、辛子明太子の四種類」

「さっすが兄貴。具もこだわってやすね」

 メニューを説明した俺に幸村が尊敬のまなざしを向けてくる。

「おら、ピース。メシだぞ」

「んぅ……ふぁ~………よく寝た~」

 バックからあくびをして出てきたピースは、正座している幸村の膝上にポンッと座る。授業中ずっと寝ていたからか、いまだ目をくしくしと擦っていた。

「これとこれとこれがおにぎりので、残りがおかずだ」

 五段の重箱を広げると、皿と箸を配って俺たちはメシを食べ始めた。

「今日もウマいっす、兄貴!」

「でしょ~。とくに今回は角煮がうまく出来たからね~」

「なんでお前が得意げに言うんだ。作ったのは俺だぞ」

「でもでも、手伝いはしたよね~♪」

「……チッ」

 俺が作ったものをうまいうまいと言う幸村、いちいち付け加えていくピース、そしてもくもくと食べる手を進める静香。俺も食事を進めると、校舎の中から悲鳴が聞こえた。

「……ピース」

「大丈夫だよ、たぶん………ほら」

『こぉぉらぁああああ! 待ちなさい変態どもぉぉおおおお!!』

 ピースが首を振って示唆(しさ)した瞬間、複数の女子の怒声が響き渡る。

 それを聞いて俺たちは、首を振ったりため息を吐いたりした。

 女子たちの声からして、たぶん俺の隣のクラスの―――兵藤、松田、元浜というヤツらの仕業だ。

 女子に対しての興味が強すぎて、着替えを覗く、人前で18禁のDVDを出す、卑猥なことばかりしゃべる等々、そんな行為を羞恥することなくやる三人組。

 俺たちの学校で悪い意味で有名な存在。俺には良い意味で有名な方に嫌いなヤツもいるが、それよりも悪い印象があった。

「兵藤たち、また(・・)、なにかやったな」

「ええ、また(・・)ですね」

「こりないよね~」

 ピースたちもヤツらの行動に呆れながら食事を再開した。

 五人前用意されたおにぎりもおかずもほとんどなくなってくると、静香が訊いてくる。

「そういえば、今日はどうするんだ?」

「……なにがだ」

 突然振られた話だが、なんのことか分からなかった。

 静香は俺に分かるかどうか、微妙な答え方をしてくる。

「金髪、王子、おもちゃ」

 ……あー。

 単語を並べられただけだったが、俺はすぐに分かり、だるさがくる。

「男子の天敵、木場ッスか」

 俺の状態を見て分かったのか、幸村がそのその答えを言う。

 ―――木場(きば)祐斗(ゆうと)

 学園一のイケメン優等生で、俺や静香と同学年。一年の頃から学園で彼氏にしたい人ランキング一位という肩書もあり、否リア充(かのじょなし)にとっては目の(かたき)ともいえるヤツだ。

 俺からすればそこは(・・・)どーでもいい。別に俺は彼女が欲しいとは思わないし、今の生活は充実してる。

 だが、俺はヤツが嫌いだ。

 木場―――俺は親しみを込めて『おもちゃ』と呼ぶが、アイツとの関係は一年に行った他クラスと合同体育。その時の短距離走と長距離走で俺はアイツに目をつけられた。なにをしたかというと―――俺が木場(おもちゃ)の記録を上回ったのだ。

 そしてそれ以降、ヤツは俺に短距離、長距離関係なく勝負を仕掛けてきて、最近はほぼ毎日「勝負して欲しい」と言ってくる。

「今日も来るかもな。俺の今朝(けさ)のラッキーカラーって『金』だったし」

「しつこいですね……兄貴、あの騎士(きし)()りますか?」

 俺が来ることを予見していると、幸村が真剣を出してくる。

 怖ッ……。ってか、どっから取り出したそれ!?

 俺とピースが強張(こわば)った幸村の表情に引くなか、静香が冷静に返す。

「物騒なこと言うな幸村。それに真剣(それ)取り出してカケルたちが引いてる。……ごちそうさま」

 いつの間にか食べ終わって、ぱちんっと合掌ていた。

 幸村は俺たちの様子に気づいたのか、出かけた刃を(さや)に収め、(ふところ)にしまう。

「じゃあな……今度はコロッケにしろ」

 それだけ言い残して静香は屋上から去っていった。

「まあ、なんとかなるだろ。幸村もそんな気にすんな」

「………御意ッス」

「さてと、俺たちも宿題なりなんなりやっておこう。もしかしたら頭働かせているうちにいい案が出るかもしれないし」

「お~なるほど。さすがッスね」

 納得したようポンッと相槌を打つ幸村。

「じゃあ僕は邪魔にならないよう、お昼寝でもしてるね~」

 ピースもバックに入って寝息を立て始める。相変わらずのマイペースっぷりだ。考え事が嫌いだから参加したくないのもあるんだろうが。

 こうして俺たちは今週出ていた宿題に取り掛かりつつ木場の対策を考えていたが、特にこれといった案は出ずに昼休み終了の鐘が鳴るのだった。

 

 

 

 

 

 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 世に不思議は多けれど

 

 どれほど奇天烈

 奇々怪々な出来事も

 

 人が居なければ

 人が視なければ

 人が関わらなければ

 

 ただの現象

 ただ過ぎていくだけの事柄

 

 人

 ひと

 ヒト

 

 人こそ

 この世で最も摩訶不思議なイキモノ

 

 

 

「………ふぅ―――………………………」

 煙の充満する部屋。

 その奥で煙管(キセル)を吸う人物―――長谷川 龍子。

 彼女は目の前の盤を見て少し考えると、盤の上にある駒を一つ動かす。

「あなたの番よ」

 龍子の言葉に反応し、対戦相手である人―――ではなくコウモリ(・・・・)が羽ばたきながら自身の駒を一つ動かす。

「む……なら」

 再び駒を動かす龍子。

 その後すぐに返してくるコウモリ。

 コツ、コツ、コツ、と駒は動いていくこと数分。

「……………」

「キィッ」

 コウモリが傍らにあるプレートを一つ持ち上げる。

 『チェックメイト』―――積みと書かれたそれは、コウモリが勝利宣言するというものだった。

「……ふぅ―――……えぇ、あたしの負けね」

「キィィッ♪」

 吸った煙を吐いて、にっこり笑いながら自身の敗北を認めた。

 一方で勝利の美酒を味わえたコウモリはその場をパタパタと飛び回り始める。

「これでナイトとの戦績は63勝62敗……あと1勝されたら追いつかれちゃうわね」

「キィィッ」

「はいはい。確か冷蔵庫に入ってるって聞いたから、とっておいで」

 コウモリ―――ナイトはそれを聞いて一鳴きすると、ふすまの隙間から出て行った。

 龍子は一人になると、自分が負けた盤に目を向ける。

「……今夜だったかしらね」

 龍子の趣味、その一つには予言、占いというものがあった。

 もとは母が占い師をやっていたことから自分も興味を持ったもの。ただし、いまはもう、占うものは一つ―――――息子の未来だけ。

 自分の息子だからというのが理由ではない。―――――未来が視えなかった(・・・・・・)からだ。

 まだ息子―――カケルが幼かった頃、一度だけ頼まれてやった占い。しかし、龍子が見たものは―――――黒く渦巻くナニか(・・・)と―――その中心にある小さな『光』。

 その時視た黒いナニか、そして光。

 今夜はそれら(・・・)がうごめきだす時……。

「……あなたの未来は、どう動くのかしらね」

 家にいない息子のことを考えながら、再び煙管に手をつける龍子だった。

 

 

 


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