機動戦士フラッグIS   作:農家の山南坊

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#3 試験

 実技試験を受けるためにグラハムはアリーナのピットに移動した。

 目の前には先ほど起動させてしまったIS《打鉄》が鎮座している。

 

「背中を預けろ」

 

 千冬の指示に合わせてグラハムは打鉄に身をゆだねる。

 すると、幾多の機械音が重なり彼は打鉄を纏った。

 

「装着はできたようだな」

 

 ああ、とグラハムは頷く。

 

「ならば、まずは機体の説明だが―」

「その必要はない。今すぐ模擬戦を始めてくれ」

 

 遮って発せられた言葉に千冬は顔をしかめる。

 

「何を言って―」

「どうのような状況でも即時に対応する。そういう資質がパイロットに必要だと私は考えている」

 

 意志の強い目を千冬の目に向けるグラハム。

 ハァ、と千冬はため息をついた。

 

「ならば好きにしろ。ただし、泣き言は聞き入れんからな」

「心遣い、感謝する」

 

 千冬は答えず管制室へと向かった。

 グラハムはMSに乗っているときのように機体のチェックを行う。

 武装は近接ブレードが二振りにバルカンが袖にそれぞれ一門ずつ。

 まるでサキガケだな、とグラハムは呟きながらチェックを終えた。

 カタパルトへ足を固定し、身を屈める。

 

「グラハム・エーカー、出るぞ!」

 

 アリーナへと飛び出したグラハムは中央部へと飛ぶ。

 MSよりも直感的な動きが要求されるな、とグラハムは心中で感想を述べる。

 この独特な操作には慣れが必要だが、この模擬戦でものにできるだろうか。

 いや、

 

「そうする必要があると見た」

 

 と、センサーがISを認識する。

 正面、反対側のピットからISが一機こちらへ向かってくる。

 打鉄と比較すると装甲が明らかに少ない水色のIS。

 センサーが機体名称を提示してくる。

 

「第3世代型IS《ミステリアス・レイディ》か」

 

 右手にランスを持ったその機体がグラハムと中心から同距離で止まる。

 相手が武器を持っていたのでグラハムも抜刀するような動きで左手にブレードを握る。

 水色のショートヘアーに赤い瞳の女性は今のグラハムと同年代に見える。

 

『グラハム、聞こえるか』

 

 オープンチャンネルから千冬の声が聞こえる。

 

「ああ、聞こえている」

『今から目の前にいる更識楯無と模擬戦をしてもらう。シールドエネルギーを0にすることが勝利条件だ』

「了解した」

 

 グラハムは目の前の女子にブレードを突き付け、古武士のように名乗る。

「あえて名乗らせてもらおう、グラハム・エーカーだ」

「更識楯無……この学園の生徒会長よ」

 

 よろしくね、と楯無は微笑む。

 端から見れば人のよさそうな笑み。

 だがグラハムはそこからただならぬ強者のにおいを嗅ぎつけていた。

 わずかに口端が緩みかかっていることに気づいた。

 

「全力を望む!」

 

 これからの戦いにグラハムは自身の高揚を感じ取っていた。

 

『では始める』

 

 千冬の合図とともにブザーが鳴り響く。

 先に動いたのはグラハム。

 彼はブレードを振りかぶり、前方向へと突進した。

 横一文字に振られたブレードを楯無はランスの穂先を当てることで受け止める。

 何かを察知したかのように火花が散る前にグラハムは大きく後方へと飛ぶ。

 直後、ランスに搭載されたガトリング砲4門が展開し無数の弾が放たれるが、後退することで得た空間の中で最小限の動きで回避する。

 突き出された穂の側面に右掌をあてて受け流す。

 わずかにシールドエネルギーが削られるがグラハムに対して楯無が背後を晒すことになる。

 楯無は振り返りざまにランスを振ろうとするも一瞬早く背にグラハムの蹴りが浴びせられる。

 下へつんのめるところへ両手で握ったブレードを叩きつける。

 一撃目は振り向きざまにランスで受け止められるが続く二撃目、左手のみでの下からの斬り上げで弾くと三撃目、右手で再度柄を握り、無理やり振り下ろす。

 ブレードは楯無の右肩から斜めに斬り下され、エネルギーを削る。

 ここで流れを掴んだグラハムがその後も優勢に進め、楯無とのエネルギーの差も大きく開いていった。

 だが状況に反してグラハムの表情は険しい。

 相手は第三世代型。

 第三世代型は相応の特殊兵装を持っているというのが先ほどの千冬の話から知り得たことだ。

 だがこの相手はそれをまだ使っていない。

 全力できていないのだ。

 その状況に怒りすら覚える。

 グラハムは軍人であり武人でもある。

 おそらく彼女は試験官として本気を出しているであろうことは軍人としてのグラハムは理解している。

 だが、久しぶりに目を覚ました武人としてのグラハムがそれを由としなかったのだ。

 こちらは全力を望んだにも関わらず出し惜しみをするとは……!

 

「……手を抜くか。それとも私を侮辱するか!」

 

 得物をぶつけて鬩ぎあいになった状態から楯無を弾き飛ばしブレードを構え直す。

 

「引導を渡す!!」

 

 止めとばかりにブレードを振る。

 だがそれは何かに弾かれた。

 それは水を螺旋状に纏ったランスだった。

 

「――これは」

「これが私のミステリアス・レイディの力。少しお姉さんも全力でいかせてもらうわ」

 

 楯無が水をドレスのように纏う。

 このISは水を操ることができる。

 不思議なことではあるがグラハムはそれを些細なこととして思考から切り捨てる。

 相手は全力になった。

 それで十分だ。

 では、ワルツの時間と洒落込もう。

 グラハムは一気に加速し上段に構えたブレードを振り下ろす。

 楯無は後ろに跳ぶことで斬撃をかわし、ランスを勢いよく突き出す。

 突き出される直前にグラハムはバルカンを撃つがそれらを全て水のヴェールによって防がれる。

 その合間から繰り出されてきた突きを横薙ぎに振るったブレードで防ぐ。

 弾こうとするグラハムより先に楯無はランスを戻し、新たに左手に握られた剣を振るう。

 だがその振るい方に違和感を覚えたグラハムは咄嗟に右手を剣先から自身を守るように構える。

 直後、右手の衝撃とともにエネルギーが削られる。

 ――蛇腹剣か!

 あのヴェールにバルカンは無意味と判断したグラハムは直後にブレードを振るい牽制する。

 楯無はランスを振るい、振るわれたブレードの軌跡をずらしそのまま一気に突き出す。

 

「蒼流旋!」

 

 突きはグラハムを捉え、回転するランスにエネルギーを大きく奪われる。

 

「グッ!?」

 

 不覚を取ったグラハムはしかし内心では喜びがあった。

 そうだ、これとやりたかった!

突き出されたランスを蹴り上げ、右拳を左腰で握る。

すると出現したブレードを引き抜くように後ろへ引く。

 突き出した右のブレードは蛇腹剣によって防がれる。

 それこそが狙い!

 右手を柄から離し、踏み込みと同時に加速を入れる。

 左手に持ったブレードを最大速度で突き出す。

 刃は水のヴェールを貫き、楯無を穿たんとばかりに直撃する。

 シールドバリアーによって穿たれはしないが、故に楯無は突き飛ばされる。

 ブレードを両手に握り直し追撃しようとしたとき、

 

「……ねぇ」 

 

 と、オープンチャンネルから楯無の声が聞こえる。

 

「湿度が高いと思わない?」

 

 グラハムはセンサーに提示された情報に目を疑う。

 異常なまでに湿度が上昇している。

 そのときグラハムは気づいた。

 楯無の狙いに。

 

「IS学園の生徒会長と言うのは、最強の称号なのよ」

 

 楯無の言葉が聞こえた直後、グラハムを包み込むように爆発が起きた。

 

 

 

爆発を見た楯無は左手の蛇腹剣『ラスティー・ネイル』を量子化した。

わずかに上がっている息を整える。

「織斑先生に怒られちゃうわね」

 試合前にこれは入学試験だということで『アクア・クリスタル』の機能を封じて戦うことを要求されたためそうしていた。

 だが彼の異常な操縦センスと情熱を前に全力で戦ってしまった。

 それにしても、と楯無は思う。

 これほどの男の子がいたなんてね。

 聞けば孤児院を飛び出してきた子らしいが正直信じがたい。

 本当に信じられないことばかりやってのけてくる。

ランスを構える。

 

「まさか耐えるなんてね」

 

 水蒸気を切り裂いて、打鉄がその姿を現した。

 そのISに乗る童顔には似つかわしくない大きな傷跡を持った少年。

 彼の顔はまさに笑み一色だ。

 ほんと、なんなのかしら。

 

 

 

 ここまでやるとは!

 グラハムは興奮を抑えることができなかった。

 私に全力できてくれた。

 その全力にさせた私が何者か気になるか!

 ならば礼儀を尽くそう!

 そう、改めて名乗ろう!

 重心を前に倒す。

 

「グラハム・エーカー、IS(キミ)の存在に心奪われた男だ!」

 

 

 

「!?」

 

 動揺する楯無。

 あまりにも意外な言葉に彼女の踏み込みがわずかに遅れた。

 ブレードを振り下ろすグラハムに向ってランスを突き出す。

 二人の得物が交差する。

 直後、模擬戦終了を告げるブザーが鳴った。


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