機動戦士フラッグIS   作:農家の山南坊

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ISとフラッグファイター
#1 異世界


 意識を取り戻したグラハムが最初に見たのは、空だ。

「ここは……」

 私は確か宇宙でELSと戦っていたはずだが…

 最期にいたのはELSの軍勢の最深部。

 しかも少年の道を切り開くために超大型ELSに特攻を仕掛けたはずだ。

 何かの間違いで脱出できていたとしても地上にいることなどありえない。

 グラハムは自分の体を見る。

 彼はパイロットスーツを着ており、大部分を浸食していた金属異星体の姿を確認できない。

 不思議なことだとグラハムは思った。

 立ち上がるとそこには海が広がっていた。

 どういうことか、彼は砂浜に倒れていたらしい。

「成程」

 どうやら、私は涅槃にいるようだ。

 海があるとは聞いていないが。

 だが、とグラハムは自分の格好を見て、

「死後の世界というものは存外、現実的なものだな」

 そばにヘルメットが落ちていた。

 拾おうと手を伸ばしたとき、

「動くな」

 鋭い女性の声が聞こえる。

 グラハムが振り返ると黒色の鎧を纏った女性が鋭い視線を向けている。

 まるでMSのような鎧は腕と脚に重点的に装甲を持ち、肩部には袖を思わせる大きな装甲が宙に浮いている。

 そして彼女の右手、握られているのはまるでウンリュウを思わせる刀状のサーベル。

 あのような兵器は地球連邦軍には存在しない。

「理解した」

 ここは私のいた世界ではない。

 そして、おそらく涅槃でもない。

 まったく私の知らない世界だ。

 フッ、久しぶりにセンチメンタリズムな運命を感じる。

 だが、何故死んだはずの私がここにいるのか…

 いや、とかぶりを振る。

 それは後でいいことだ、と。

 グラハムは女性と向き合う。

 向けられる殺気や漂う貫録から、搭乗者は只者ではあるまい。

 こちらはMSがなく、武装は護身用のハンドガンとソニックナイフしかない。

 勝機はまずないといってもいい。

 この場を切り抜けるために武を振るうのはナンセンスだな。

「私は地球連邦軍ソルブレイヴス隊所属グラハム・エーカー少佐だ」

 敬礼をとりつつ名乗る。

「地球連邦軍? なんだそれは」

 訝しげに尋ねる女性。

(ふむ、彼女は地球連邦軍を知らないか)

 グラハムの持つ疑問の一つが解ける。

 思った通り、ここは私の知る世界ではないようだ。

 だが彼の疑問がすべて解けたわけではない。

「すまないがどこか話ができる場所はないだろうか。このようなところではゆっくりと話せまい」

 まるでよく研がれたナイフのような鋭い視線をグラハムはまっすぐ見つめ返す。

「いいだろう」

「感謝する」

 グラハムは頭を下げた。

 すでに女性は彼に背を向け、ついて来いと言わんばかりに宙へと浮いた。

 

 これが、グラハム・エーカーに待ち受ける乙女座の数奇な運命の始まりだった。


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