狂いのストラトス Everlasting Infinite Stratos 作:柳之助@電撃銀賞5月10日発売予定
「
「いや、私としては幼い頃の日記を除かれている気分だよ……」
目を閉じ、動きを止めたラウラとセシリア、そして上空にて光翼を羽ばたきながら飛翔する本音を眺めながら千冬と束は呟く。
「……反天使、
「言うほど単純なものじゃないけど。アレの本質は人間の
「おまけに術式に耐えられるような
「だよねぇ……」
まぁ、いいけど。
二人は同時に苦笑しながら小さく頷く。
「だがまぁ、今こうして、この世界では器が見つかったんだからよしとすればいいだろう? アイツらなら、ちゃんと使いこなせるはずだ」
「そうだね。そこらへんは心配していないよ。実際、アレの発現は皆の助けになるだろうし。なにせ、神格や天使そのものと相対するために創ったんだから。まだ成り立て、不安定状態だとしても」
一度、区切り、
「安定すれば、機竜武神自動人形混成十万体にだって互角に渡り合える」
●
セシリア・オルコットとラウラ・ボーデヴィッヒが行ったのは己という存在、魂への潜水行為。個我すら曖昧になってしまうほどの超深層に落ちるまでそれを行う。
己はどういう存在なのか。
己の望むものはなんなのか。
己が認めるわけにはいかない現実はなんなのか。
己の持つ罪とはなんなのか。
今この瞬間自らをさらに理解するために自らに埋没していく。最早周囲の戦闘音も歪みの負担による頭痛もなにもかもは消え去っていく。
本来ならば、非常に困難な行為であるが、今この場に限っては例外だ。何故ならば、周囲には罪そのものと言ってもいい、大罪の竜、その端末たる機竜が大量にいる。故にそれを手本として、己の罪と向き合う。
そうして埋没し、至るのは常軌を逸した意識階層。それはすなわち忘我の境地、さらなる高次元への接触。
すなわち■との接続だ。
「アクセス――――我がシン」
ほぼ、無意識で二人は同時に詠う。
■との接続と言っても二人のソレは■そのものではなく、その守護者たる“導きの剣乙女”への接続だ。導き教えるという事に関して、彼女以上の存在はおらず、故に今、セシリアとラウラはその存在の質を跳ね上げる。
「イザヘル・アヴォン・アヴォタヴ・エル・アドナイ・ヴェハタット・イモー・アルティマフ 」
「ディエスミエス・イェスケット・ボエネドエセフ・ドゥヴェマー・エニテマウス
無頼のクウィンテセンス」
紡がれるのは異界の言語。既に存在せず、今この世界へと繋いだ旧世界の概念。
暴食と傲慢の
本来ならば、そのどちらも二人の本質とはいえない罪だろう。だが、■から汲み上げ己の取りこんだ術式がそういう罪だ。そして、二人はそれに抗わない。
「イフユー・ネゲット・アドナイ・タミード・ヴェヤフレット・メエレツ・ズィフラム」
「肉を裂き骨を灼き、霊の一片までも腐り落として蹂躙せしめよ
死を喰らえ―――無価値の炎 」
むしろ、上等と言わんばかりに詠唱を完了させた。
その瞬間に、二人は存在の根底から変質した。
人の形をしていながら、中身は、魂も、精神もまったく別のものに。
人間を超え、魔人となる。
変化は外見にも表れた。
セシリアは右腕から顔にかけて神経や血管が浮かび上がり、ラウラの左目から血の滴が落ち、左頬を伝う。そしてそれは刺青に変質する。
それだけではない。
主の変質に従い相棒であるはずの二機のISも新生する。この二機も、白式や甲龍と同じだ。主の為に創られたにもかかわらず、主の力になっていない。故に今度こそ、と存在を変質させ、形すらも大きく変える。
ピアスだったブルー・ティアーズ、レッグバンドだったシュバルツ・レーゲン。そのどちらもが今の主にふさわしい形態に。それらは一度光に包まれ、二人の身体に展開する。
そして現れたのは、一丁の拳銃と三叉の鎖だ。
所どころに赤のラインが入った蒼い拳銃は一見した通常の自動拳銃と何一つ変わらない。だが、魔弾の射手たるセシリア・オルコットの力量に見合うために、既存の銃の性能を超越している。
ラウラの周囲に浮遊するのは黒い鎖は三つの先端に獣の顎を有していた。それは地獄の番犬であり、冥府よりの使い。それ自体が自律しており、主の命が無くとも敵へと喰らい付く魔の鎖だ。
「――――」
目を開ける。
視界の中は何も変わらず、学園内を縦横無尽に機竜たちが蔓延り蹂躙している。一夏や鈴箒、蘭、本音たちが戦っているのも見えた。だから、こそ、全員に向けて、
「避けろよ」
「当たったら申し訳ないですわ」
聞こえるか不確かだが、しかし聞こえると確信し、
「消え去れ」
「Rest In Peace」
反天使、魔人たるその力を振う。
●
まず発生したのは黒い炎だ。無論それはただの炎ではない。ラウラの魔眼より生み出された大罪の具象。それが彼女の視界内の全ての機竜より発生した。
それこそが
この世界に存在するありとあらゆる存在を無価値と断じる冥府の業火。この世界存在する万象を蹂躙し、消滅させる炎。ラウラが身に宿した
それらが機竜を消滅させていく。
元々持っている機竜の概念防護にすら意味は無い。触れた瞬間に片っぱしから消え去っていく。なにもかも、唯一つの例外は無い。
結果、中型機竜六体、小型機竜二十七体が無価値となり塵の如く消えた。
そして、残った機竜の尽くを貫いたのは赤混じりの蒼光だ。
放ったのは言うまでもなくセシリア。それは彼女が身に宿した
機竜一機に付き一閃。
ただそれだけ。だがそれだけで閃光は無価値の炎を逃れた竜たちを撃ち貫いたのだ。
学園各地に爆煙の華が咲く。
結果、中型機竜四体、小型機竜四十三体を爆砕させた。
●
「ひゅー、やるなぁ」
「つーか、やりすぎよ」
戦っていた機竜の全てを破壊したラウラとセシリアに一夏は素直に感心し、鈴は呆れた様に肩をすくめる。学園内にいた全ての機竜を破壊したのは流石という他ない。一夏と鈴は二人とも戦争よりは決闘の方が好きな性質で、ああいった広範囲殲滅系の攻撃手段は得意ではない。だから素直に賞賛しておく。
「で?」
「は?」
「あれ、どう思う?」
「あ? いやすげぇなぁとは思うけど」
「そんだけ? 斬りたいとか思ってない?」
「んー、まあまあ?」
「ならよし」
謎の会話だった。
「さて、どう来るか」
「大本叩かないと、この感じじゃあどうにもならないでしょうねぇ。もうそろそろ避難とかも終わってるだろうし、私たちも全力でやれる」
「だな」
先ほどのラウラとセシリアは言うに及ばず、一夏や鈴たちとて、周囲を気にして力をセーブしていたのだ。殺意を封じ込めていたのは相手が有象無象ということもあるが、二人の殺気に当てられて、動けなくなったということを無くすためだ。
だが、周囲にはもう人の気配はかなり消えている。ならば、抑える必要は、ないだろう。
「お、どうやら向こうもやる気のようね」
見上げた空、そこにはこれまでの中型や小型の機竜は存在しなかった。
いたのはそれらを遥かに超える大きさを持つ機械の竜だ。全長三百メートルクラス大型機竜。全身各所に大量の砲門があり、頭部も肩に二門の副砲、そして主砲たる顎は以上なまでにデカイ。それが、二機だ。黒と白のが一機ずつIS学園を覆うように浮遊している。無論、ただ浮いているのではなく、すでに顎には流体が溜まっていて、全身の砲身も発射直前だ。
「あーさすがにあれはヤバいんじゃないだろうか」
全てが一度に放たれれば確実に学園島がぶっ飛ぶ。
故に、一夏も鈴も箒もセシリアもラウラもシャルロットも本音も蘭も。
「行くぞォォッッ!!」
全員がその場から同時に動いた。
前哨戦は終わった。これより第二ラウンドだ。
パラロス系は結構改変入ってます。能力そのものは変わらないですが、成り立ち見たいのが
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