狂いのストラトス Everlasting Infinite Stratos   作:柳之助@電撃銀賞5月10日発売予定

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推奨BGM:覇ヲ吐ク益荒男



第漆話

 IS学園は人工島だ。IS学園が創立されたときに海上に建造されたものである。東京湾の沖合数キロほどにあり、主な移動手段はリニアレールと航空機だ。特にリニアレールは学園外だけでなく学園島全体の主要な移動手段として島全体に張り巡らせれている。

 そして今そのリニアレールを支配するのは、二つ。

 

「----!」

 

 一つは破壊の足音だ。 

 それの主は機械の竜。

 それも四肢が発達し二脚にて走る格闘に特化したタイプ。中型の三十メートルのソレが三機だ。リニアレールを中心に右に二機、左に一機。白黒の機械竜は一歩動くごとに全身の加速器から光を放ち、水蒸気の尾を引き、地面を砕きながらも尚疾走する。

 

 そして、もう一つは、

 

「明日 何処に行こう 今日 何処にでも」

 

 歌だ。 

 それの主は舞いの歌姫。

 三機の機竜、それよりも先。背を前に向きながら走る凰鈴音だ。後ろ走りだが、当然転倒するような無様はさ無く、むしろ気軽さすら持ち、歌を口ずさみながら後ろへと走る。

 

「今日 何処に行こう あの 場所に行こう」

 

 テンポは、速い。自分の足音や時たま鳴らす手の音で拍子を取り、リズムを刻む。

 

「明日 何処に行こう 今日 何処にでも 

 今日 何処に行こう あの 場所に行こう」

 

 機竜の足音、咆哮、疾走による大気の爆発。それら単なる戦場の響きが鈴が口ずさむ言葉と合わさり歌となっていく。

 無論、機竜たちもただ音楽の一部となっているだけではない。先ほどまで五十メートル近くあった互いの距離は除々に縮まっていた。

 加速器から洩れる光はさらに強まり、叫びの声も大きくなっていく。距離が残り十メートル程度まで縮まり、機竜たちが手を伸ばし、

 

「!?」

 

「踊りに行くの 町の何処にでも 貴方のいない 町の何処かへ

 唄いに行くの 何時でも行ける 貴方を探す 明日の何処かへ」

 

 竜が転倒する。地面を砕きながら転がる。

 それすらも響きの一部としながら、

 

「手を取って そして踊って そして笑って いつもの我が儘を聞いて

 明日もまた 何処かで出逢い 明日もまた 今日の背中を押して」

 

 歌と共に放たれたのは無拍子の拳。純粋な拳圧にて機竜を打撃し、転倒させている。無論、ただ殴っているだけではない。飛ばした拳圧の先は機竜の関節部分だ。格闘型は二脚にて走っているから、他の機竜たちよりも体幹のバランスが人間に近い。だからこそ、動きを己の舞いと重ね合わせ、機竜が鈴に接触する直前に関節部分を打撃することによってバランスを崩しているのだ。

 勿論、簡単なことではないが、

 

「余裕よねぇ」

 

 口の端に笑みを浮かべながら舞う。

 その程度の困難出来ない凰鈴音ではない。

 

「ララ……」

 

 間奏のハミングを口ずさみ、再び距離を取る。

 だが、

 

「お?」

 

 機竜の内一機が新たな動きを見せる。二機はそのままこちらへと疾走し、再加速していくが、一機ののみは比較的に鈍速になりながらもリニアレールに飛び乗る。四つん這いになりリニアレールを砕きながらも跳びはね、

 

 その顎に光が集う。

 

「それは拙いわね」

 

 その光は加速器から放たれるものと同質であろうが、しかし規模はまったく違う。遥かに圧縮、凝縮された光芒だ。

 それを見て鈴は即座に足を止め、歌を切り替える。

 相手の動きの流れを自らの流れに乗せるにする“今昨舞”から惚れた馬鹿以外己に届かせないとする“高嶺舞”に。

 

「通りませ 通りませ 行かば何処か 細道なれば」

 

 足を止めたから、他の二機が近づいてくる。だがそれでも己の代名詞ともいえる“高嶺舞”を発動させる。

 

「天神元へと 至る細道 御意見御無用 通れぬとても」

 

 周囲の空間が歪み、鈴の存在が高嶺に運ばれる。それは常人には届かず、唯一人の男にしか届かない場所だ。

 だがしかし、

 

「----!」

 

 竜の顎より放たれた咆哮はその高みに牙を剥く。

 竜砲。

 機竜が機竜たる最大の所以。基礎能力においてはあらゆる存在を超越している最大の理由だ。本来ならば全身の加速器から放たれる流体と呼ばれるエネルギーを口という極一か所にのみ限定させて放つ所謂必殺技だ。小型のソレでも容易くビル一つ分は破壊するし、中型ならばもっと大規模な破壊も可能だ。

 

 それが、鈴を飲み込む。

 

「くぅ……っ!」

 

 鈴の視界が青白に染まった。その色は破壊の色だ。肌が焼け、全身の衝撃を受ける。だが、

 

「この子の十のお祝いに 両のお札を納めに参ず

 行きはよいなぎ 帰りはこわき」

 

 歌う。

 

「我が中こわきの 通しかな」

 

 歌いきる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ゼハァッ……ハァ……!」

 

 荒く息を吐き出す。舞いの完了と共に竜砲は防ぎきった。だが、しかしかなり消耗を強いられた。今の鈴の両腕は機械であるから動きそのものに支障はないが、しかし動かすのは鈴自身だ。今の防ぐのはさすがに骨が折れる。

 だが、当然ながら

 

「第二射来るわよねそりゃあ」

 

 他の二機も同様に顎に光を溜めていた。加速器から放たれる流体は減っているが、それを補って余りあるのが竜砲だというのを理解している。

 正直止めてほしい。

 

「止めてくれたりする?」

 

 止めることはなくまたもや竜砲が放たれた。

 

「唵・摩利支曳娑婆訶ァーー!」

 

 即座に意識を切り替える。己の魂による舞いではなく歪みを用いた陽炎。全身を揺らめかせ、存在を分岐させながらも拳を振りかぶる。右の拳に莫大な量の陽炎色の気が集い、

 

「陀羅尼孔雀王ォォ!」

 

 先に放たれた竜砲へとぶち込む。

 青白と陽炎が激突し、二色が飛沫を上げ、

 

「ハァァッッ!」

 

 陽炎が打ち勝つ。拳撃に乗せられた莫大な気が竜砲を押し返し、発生元の頭部が爆砕される。

 だがそれでも。

 

「まっず」

 

 さらに放たれようとするもう一機のソレは回避できない。技後硬直により反応が遅れる。回避は不可能で防御するにも不十分、可能性分岐と高嶺領域も先に一度破られた以上はある程度の負傷は免れない。

 そして、

 

「!」

 

 機竜の頭部が爆発した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おーい大丈夫?」

 

 竜砲が放とうとした機竜の首が頭から吹き飛んだと同時に、耳に聞こえたのは間延びした声だ。突然鈴の横に現れたのは執事服姿のシャルロットだ。手には鎖が付いた一メートル大の手裏剣がある。

 

「……」

 

「あれ、余計なお世話だった?」

 

「……いえ、正直助かったわ」

 

 素直に礼を言う。

 先に突然機竜が爆発したのはシャルロットが大きく開いた顎に手裏剣付きの鎖を巻きつけて、無理矢理閉じたのだ。それのせいで行き場を失った竜砲により自爆した。

 あのタイミングでは危なかった。

 

「いいよいいよ、あとついでに」

 

 シャルロットが視線を動かす。その先は一番最初に竜砲を放った機竜であるが、

 

「あんた何時の間に」

 

「鈴が竜砲殴ってる隙にね」

 

 全身を手裏剣付きに鎖で雁字搦めにされていた。そしてその鎖の各所のは何かの文字が刻まれた符がいくつもあり、

 

「ナウマク・サマンダヴァジュラダン・カーン」

  

 爆発する。数十枚以上あった符が全て爆発し、至近距離からの爆炎と衝撃が機竜の身体を砕く。

 

「デュノア流、縛鎖爆炎陣、てね」

 

「だからデュノア関係ないでしょうに……」

 

 それでも助かったのは確かだった。

 

「それで? どうなの、アンタは」

 

「避難はまだ半分かなぁ。さすがに学園内の全員を誘導したりするのはキツイねぇ」

 

 機竜の襲撃に対し、鈴たちは自然と役割が分れていた。一夏と鈴は地上迎撃で、箒、ラウラ、セシリアは校舎の防衛、そしてシャルロットは学園内の人間の避難勧告だ。最大百人規模までに分身できるシャルロットだからこそ任せられることだろう。避難先は学園地下のシェルターらしい。

 

「このドラゴン、デカブツは結構減ったね。これで三機、一夏がもう二機相手してて、箒たちも二機……でもまた追加されそうだなぁ」

 

「嫌な事言わないでよ。……まぁ大本叩く必要はありそうよね、どこにいるのかわかんないけど」

 

 言いきり、上空へと顔を向ける。

 機竜が未だ多くある空の中、空戦迎撃を任された本音が飛翔し機竜たちと交戦していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 空中戦、それは人の領域ではない。人間は己の足で立っているのが大体の前提だからだ。跳躍ならばともかく自由自在に動き回ると言うことは不可能である。だが、しかし、それは竜には可能だ。その巨体を自由自在に動かしながら空中を飛翔する。特に脅威なのは四肢が退化しているが、全体のフォルムが流線形の竜だ。極限まで空気抵抗を減らしているのか、他の竜に比べてやたら早い。跳躍することしかできない人間では相対不可能だ。

 

「エレメントリライト 

 因子変更――――

 モード“エノク”より、シェムハザ実行――」

 

 だからこそ、本音は人を外れ、より高位の存在へと己を塗り替える。同時に背に光の翼が生じた。それは機竜の持つ流体に酷似した光で色は真白。翼の形の光。それ自体が超振動する天使の翼だ。いや、それは正確に言えば天使では無くまったく逆の存在、反天使よばれる存在の欠片だ。最早残滓でしかない、かつてあり、消え去った世界の欠片を“愛の狂兎”がつなぎ合わせて生み出された偽りの人工超越存在。光翼は超微細な、肉眼では視認できない文字列にて編み込まれているそれらに力が宿り、名付けられたら天使の名がさらなる力を抱く。

それを知らずとも本音はその権能を振う。

 

「いっくよぉーっと」

 

 いつも通り、間延びした声で跳ぶ。跳躍ではなく本物の飛翔だ。エプロンはすでに破れ意味をなさなくなり、すでに棄てた。故に身に纏うのは黄色のビキニタイプの水着だけだ。裸同然であるが、

 

「喰らわなければ問題なぁーし」

 

 機竜の突進も竜砲も肩口にある副砲もなにもかも避ける。

 数十メートル単位の機竜たちに対して、160センチ程度の本音は機動性で遥かに上回る。単純な最高速度では分が悪いが、高速軌道や複雑な軌跡を描くのは本音の方が上手い。だから全て避ける。

 その上で、

 

「てりゃー」

 

 自らの周囲に浮遊させていた拳大の光弾を放つ。数は三十以上だ。一つ一つは巨大な装甲を持つ機竜に対しては心もとない威力だろう。トラック一つ分吹き飛ばせる程度では足りないのた。だからそれは牽制に過ぎない。

 視覚素子や方向転換の際にぶつけて、速度を落とさせ、時間を稼ぐ。

 そして詠う。

 

「ATEH MALKUTH VE-GEBURAH VE-GEDULAH LE-OLAM AMEN

 

 YOD HE YAU HE  ADONAI EHEIEH AGLA

 

 BEFORE ME RAPHAEL       BEHIND ME GABRIEL

 我が前にラファエル―――我が後ろにガブリエル―――

 

 AT MY RIGHT HAND MICHALEL   AT MY LEFT HAND URIEL

 我が右手にミカエル―――我が左手にウリエル――― 」

 

 紡がれた聖歌は人に位階のものではない。

 織斑一夏と凰鈴音が己の歪みを己の魂と融合させ高みに昇っていくように、篠ノ之箒が人間の位階序列そのものから外れていくように、本音もまた己の歪みを以って存在の質を高みに押し上げる。“愛の狂兎”の魔導的因子(歪み)を保有してる本音だからこその在り方だ。

 

「BEFORE ME FLAMES THE PENTAGRAM BEHIND ME SHINES THE SIX-RAYED SATER 

 我が前に五芒星は燃え上がり、我が後ろに六芒星が輝きたり―――

 

 ATEM MALKTH VE-GEBURAH VE-GEDULAH LE-OLAM

 されば神意をもって此処に主の聖印を顕現せしめん―――

 

 アクセス、マスター

 封印因子選択 ―――

 モード”エノク”より、バラキエル実行――― 」

 

 今の本音の位階で接続できるのは■のほんの一端でしかなく、掬いあげられる力も僅かだ。かつて大極にまで至った一夏たちには遠く及ばない。だがそれでも、

 

「十分だよ……!」

 

 詠唱の完了、高次元への接続により出現したのは、爪のような装備。

 それを目前の小型機竜へと振った。

 

「せいっー!」

 

 瞬間、

 

「!」

 

 二機の機竜が縦に五等分に分割された。

 それは爪から放たれた斬撃ではなかった。彼女の爪が切り裂いたのは空間そのもの。爪の軌道上に空間断層が生じ、機竜を断ち切ったのだ。

 

「そーいっ」

 

 振り回す。光翼にて飛翔しながら爪を振い機竜を分割させていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 制空権は本音が確実に確保させていた。その一方、

 

「ハァ……ハァ……ハァ……ッ」

 

「キツイ、ですわね……」

 

 校舎防衛に回ったゴスロリとパンクファッションのラウラとセシリア。すでにラウラは眼帯を外し、セシリアも両手に拳銃を持ち、周囲には呼びの銃火器が散らばっている。

 

 そしてすでにボロボロだった。二人とも額から血を流し、汚れも多い。せっかくの衣装も所どころ破れている。

 

 校庭の箒は別として、屋上にいる二人は、有体に言って――――絶体絶命だった。

 

 

 

 




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