狂いのストラトス Everlasting Infinite Stratos   作:柳之助@電撃銀賞5月10日発売予定

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第参話

「ちょっと、よろしくて?」

 

二時間目の放課中。 授業の内容に頭を痛めていた一夏は突然声をかけられてた。 振り返れば、そこには見知らぬ少女。 金髪ロールだった。

 

「ん、おう。えっと……」

 

「セシリア・オルコットですわ」

 

「織斑一夏だ、よろしくな。オルコットさん」

 

「セシリア、で構いませんことよ? これから一年間クラスを共にするのですから。私も一夏さん と呼ばせてもらいます」

 

「わかった、よろしくな。セシリア」

 

「ええ」

 

(……いいヤツだなぁ)

 

これが、アレか。 英国淑女。 箒みたいな大和撫子(外見のみだけど)とはまた違う。 それに、話しかけてくれたことが正直嬉しい。 ホームルームの一件のせいでクラスの皆が遠巻きに眺めるだけで、話しかけてくれなかったの だ。 さすがに入学初日から友達無しというのは寂しい。 箒は別として。

 

「それで、一夏さん。もしよかったら頼まれて欲しいことがあるんですが」

 

「ん? なんだよ、言っておくけどIS関連に関しては何にも分かんないからな?」

 

「構いませんわ。私も一応イギリスの代表候補生ですがIS理論は全く知りませんもの、あんなモ ノ感覚ですわ」

 

「そ、そうか………」

 

いいのだろうか、それで。 代表候補生とやらが何かか詳しくはしらないけれど、文字的に意味はわかる。 ふと視線をズラして見れば、制服を着ぐるみっぽく改造した少女と目が合い、

 

(そんなモノなのか?)

 

(そんなわけないよー)

 

奇跡のアイコンタクトが成立した。 後で声をかけようと心に決めておく。

 

「それでですね、一夏さん。頼みというのは────」

 

「なんだよ? なんでも言ってくれ」

 

「────その刀を見せて欲しいんですが」

 

「─────」

 

驚いた。 かなり、驚いた。 無論それは一夏だけではなくクラスの皆もだし、箒でさえ視線がこちら向いている。 よもや、お嬢様然としたセシリアがそんな事を言うとは。 何を考えているのか。 分からないが、一夏の答えは決まっている。

 

「悪いが無理だ」

 

「……理由を聞いても?」

 

「理由は二つある。──まず一つ目はコイツが本物だってことだ」

 

クラスの皆がやっぱり、と肩を落としているがこれはハッキリさせなければならない。

 

「本物の刀──刃物だ。つまりはコイツで人を殺せるんだ。俺は許可を取ってるから持ってるけ ど、だからといって簡単に他人に人殺しの道具を渡す訳にはいかないんだ」

 

日本刀──つまりは人殺しの道具。 一夏自身は自分の刀で誰かを傷つけようとは思わないが。 それでも刀というのは誰かを傷つける武器だ。 振っても、振らなくても。 抜いても、抜かなくても。 刃は肉を断つし、鞘でさえ骨を砕く。 許可をとってるとはいえ──否、取っているからこそそう簡単に渡すことは出来ないのだ。

 

「そう、ですか(ていうか許可取ってたんですね)……」

 

「二つ目は俺が抜刀術士だってことだ」

 

「どういうこと──」

 

キーンコーンカーンコーン。

 

三時間目の授業の合図だ。 どうやら話はここまでだ。

 

「……時間切れのようですね。無理言ってすいませんでした」

 

そう言ってセシリアはあっさりと戻ってしまった。 もうちょっとくらいはよかったんじゃないだろうか。

 

・・・・・・・・・・・・

 

「では授業の前に再来週に行われるクラス対抗戦に出る代表者を決めておこう」

 

開口一番に千冬はそう言った。

 

「クラス代表者とは……まあ、そのままの意味だ。対抗戦だけでなく、生徒会やら委員会にも出なけ ればならないからそういうことも考えて立候補してくれ。自薦他薦も問わん。……いいか? 戦闘ス キルだけじゃなくて、事務仕事もあるんだからな?」

 

後半の方は一夏、箒、セシリアを順番に見据えながら言っていた。 三人とも気づかなかったが興味もなさそうだ。 そのことに千冬がホッと一息つこうとして、

 

「はーい、織斑くんを推薦しまーす」

 

ゴトン!

 

額を教卓に打ちつけた。

 

「お、織斑先生!?」

 

「だ、大丈夫だ。山田先生」

 

大丈夫じゃない。 一夏がクラス代表者になんかなったらさらに頭痛の種が増える。 なんとかならないかと思うも、最初の一人を皮切りに他の生徒も一夏に票を入れ出した。 あんなに引かれてきたのに。 一夏意外に立候補しようとする生徒もいない。 このままでは一夏に決定してしまう。

 

(ず、頭痛薬……!)

 

「……それで他にはいないのか? このままでは織斑が無投票当選だぞ……?」

 

誰か立候補しないだろうか。 いや、それ以前に一夏が拒否してくれれば、

 

「うーん、まあ推薦された以上はちゃんとやらないとダメだよな」

 

意外に乗り気だった。 教育が正しすぎたか。いや、正しかったらこんなにも頭痛はないはずだ。

 

「──お待ちください」

 

と、立ち上がったのはセシリアだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「その人選には異議ありですわ」

 

顔を後ろに向けれない。 織斑一夏はセシリア・オルコットの発言にそこそこショックを受けていた。 さっきまで仲良く話せていたと思ったのに。 まさかだった。

 

「一夏さんは確かに人格的にも……恐らくは力量的にもこのクラスの代表としては問題ないとは思い ます。ですが──」

 

なんだ、なにがいけないんだ。 一夏は脳みそを高速回転させなにが悪いのかを考える。 そして、セシリアは言った。

 

「────今時、刀なんて前時代的な武器で戦うのはどうかと思います」

 

「─────────────あ?」

 

瞬間、二つの種類の二つの気がクラスを押し潰すように広がろうとした。 出所は織斑一夏と篠ノ之箒。 一つは怒気。 そして、もう一つは剣気と言えるものだ。

 

剣気。

 

斬る、と。 ふざけたことを言っているな斬るぞと。 言葉にせずとも二人から放たれる強烈な剣気がそう言っている。 抜刀術士と侍。 振るう刀に違いがあれど、刀を振るう二人。 その二人が刀を侮辱されて怒らないわけがない。 二つの気に真っ先に晒されたセシリアは、しかし不適に微笑む。 常人ならばそれらに触れただけで気絶してしまう密度だ。 まるで動じてない。 一夏が刀に指をかけ、箒が左手首に手を添えて怒気と剣気が他のクラスメイト達に伝わろうとし た──直前。

 

パシン。

 

乾いた音が全てを霧散させた。 余りにも絶妙なタイミングだった。 視線が音の出所──出席簿で教卓を叩いた織斑千冬に集まった。 彼女はやはり頭を痛そうにしながら、

 

「それで、何がいいたいんだ? オルコット」

 

「……ええ、ただ刀なんかを振り回している人にクラスを任せてもいいのかと思いまして」

 

さすがにカチンときた。 一夏は立ち上がりセシリアと対峙する。

 

「なんだよセシリア。馬鹿にしてんのか?」

 

「いいえ? ただ今時の武装といえば銃がいいのではないかと思いまして」

 

「銃? ああ、あの鉛玉がでる筒ね、なんだよあんなのどこがいいんだよ。刀のほうがいいだろ」

 

「なに言ってますの? 銃のほうがいいに決まってます。刀なんて刃こぼれするし折れるし錆びる し」

 

「ちゃんと手入れすればいいんだよ、然るべき達人の手で使われてるのなら滅多なことじゃ劣化し ない。銃の方が弾詰まりとか暴発とかするんだろ?」

 

「それこそ滅多にありませんわ。それに銃ならば離れても相手を制圧できます。わざわざ近づかな ければならない刀と違って。知ってます? 銃は剣より強しって言葉」

 

「避ければ問題ないだろ、そしていいか? 銃は剣より強くても刀は銃より強いんだ。知らないん だろ?」

 

「あら、それなら教えてほしいですわね。刀の怖さというものを」

 

「いいぜ? ついでに俺も教えてほしいな銃の怖さってやつ。 生憎手袋なんて持ってないから明日果たし状書いて持ってくるからな、首洗って待ってろ」

 

「首と言わず全身洗ってお待ちしますわ」

 

「は、はははははは」

 

「ふ、ふふふふふふ」

 

こうして。 IS学園最初の対戦カードが抜刀術士vs狙撃手と相成った。

 

「……お前らクラス代表はどうなった」

 

(……なんか怖いこの二人)

 

頭痛持ちの教師とドン引きのクラスメイトを置き去りにして。

 

 


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