狂いのストラトス Everlasting Infinite Stratos 作:柳之助@電撃銀賞5月10日発売予定
*より至深魔可魔神変
レッツシリアス
どういうわけかコスプレバンドは異常なまでに上手かった。
どういうわけかヴァイオリン、チェロ、フルートそしてカスタネット、トライアングルが何故か絶妙にマッチしていたとかしていないとか。そこらへんは束にすら理解できなかったとか。いや理解したくなかっただけかもしれないが。
結局千冬は見回りに、束、チェルシー、クラリッサはその場に残り自分の身内の仕事ぶりを見届けることに。弾は学園全体を見学で虚がそれの案内だ。楯無は仕事にもどったらしい。
「でも、よかったんすか? 俺なんかの相手してて」
「ええ、まぁ。あの人はああ見えて結構凄いのよ? 本当はあの人一人で生徒会切り盛りできるくらいには」
「それは、凄いっすね」
肩を並べながら弾と虚が歩きながら会話している。やたらニヤニヤしている束に進められたのだ。初対面の二人であるが、意外にも話は弾んでいた。
「まぁ、普段は妹のことでお腹かかえてるんだけどね……私も人のこと言えないけど」
「ははは……」
その気持ちは弾もよくわかる。弾も胃痛や頭痛は他人事では無い。最近の悩みはストレス性の禿げだ。怖い。
一夏は刀振り回すな。
鈴は拳で地面とか壁と砕くな。
蘭は訳のわからない不思議ブーツで空飛ぶのやめてほしい。
マジでストレスがヤバい。
思考を打ち切る。深く考えだすと色々危ない。
「でも、虚さんの妹さんはそんなにアレな感じじゃなかったすけど」
「そんなことないわよ。……あの子何考えてるかよくわからないしね」
呑気すぎるというか空気がやんわりしすぎていて思考が読めない。それでいていきなり鋭いことを言ったりするから周囲を驚かせる。
「それでも、まぁ……簪お嬢様のお世話してくれるからありがたいんだけど。簪お嬢様、私や楯無お嬢様がお世話しに行くと嫌がるし」
「お姉ちゃんたちに迷惑かけたくないとかじゃないんすかね」
「そうだといいんだけど……」
苦笑。互いに苦笑いを浮かべる。
ちなみにこの文化祭後に生徒会役員の一人に春が来たという噂があったりなかったり。
「なんだかんだで簪お嬢様も楯無お嬢様のこと大好きだと思うけど」
「虚さんの妹もそうだと思いますよ」
「弾君の妹さんもね」
笑う、今度は苦笑ではなかった。
「さ、次行きましょうか。せっかく来たんだから、巡回している分のお嬢様の分も楽しませてもらいましょう」
「なんか、悪いすっけどね。いまなにしてんすかね」
「あの人の考えてる事は二つしかないわよ? 一つは妹のことで」
虚は人さし指を唇に置いて、誇らしげに言う。それは思わず弾が見とれてしまうような仕草で、
「この学園の平和よ」
●
「少し、よろしいですか?」
「ああん?」
更識楯無は人気のない学園の廊下で一人の女性と二人の少女と対峙していた。
スーツ姿に蛇のごとき切れ目の女性だ。黒髪のロングヘアー。美人の部類に入るだろう、が、雰囲気は荒々しい。二コリと笑顔でも浮かべていれば、さぞ男の視線を集めるだろうがその雰囲気で台無しだ。どこかのクラスで買ったのかビニール袋にホットドックやらフライドポテトやらのジャンクフードが大量にある。今も口に一つホットドックを咥えていた。
特徴的な女性に対して二人の少女は顔が分らない。
パーカーのフードを被っていて顔までもわからない。背格好は大体小学生、十歳前後だろうか。スカートと僅かに除く顎で少女と判断できるくらいだ。
「んだよ、人が人ごみ疲れて逃げてきたのになんで来るんだよおい」
「それは失敬。ですが少しお話よろしいかしら?」
「やだよ、ほっといてくれ」
否定しながら手にしていたホットドックを口に放り込む。それでもまたすぐにビニール袋の中から新しくフライドポテトを取り出し、口の中に流し込む。彼女を挟むように立っている少女たちには動きはない。
「そういうわけにはいかないんですよ」
「はぁ? なんでだよ」
「それは」
一度区切り、
「――貴方たちは不法侵入でしょう?」
目が細まり、手にした扇子がパシンと鳴り描かれた文字は“取締”。
しかし女性は大した興味も無さげにポテトをつまんでいるだけだ。楯無はそのことに眉をひそめつつも言葉を繋げる。
「どうやって侵入したのかわからないけど、貴方たち招待券持ってないでしょう? 学園内の監視カメラでずっと監視してて、招待券も招待客全員にチェックしてあるけど、明らかに貴方たちはカメラに写っていないのよねぇ」
「漏れたんじゃねえのかよ」
「ありえないわね。うちの自慢の妹がプログラミングした監視システムよ。見間違えじゃない」
あまり知られていないことだがIS学園内の監視警備プログラムは大部分が簪によるものだ。そのせいで不登校気味でも無理矢理連れ出されたりしないのだが。そのせいでコミュ障になってるのは皮肉だろうか。
今ここにまったく人気がなかったのも不法侵入者らしき三人がいたから、この近辺にいた生徒たちを携帯等で一斉に連絡つけて誘導したのだ。昨今のSNS様様だ。
「というえわけで、貴方も、それにそっちの二人も。動向お願いしようかしら? 拒否すれば」
楯無がISを展開する。水色の装甲。アーマー部分の少ないドレスのようなISだ。手には、水を纏った
「実力行使よ」
突きつける。
だが。
「あー」
女性は変わらずに興味無さげに残りのポテトを口に放り込み、
「嫌だね」
*
「ッ……!」
「知るか、てめぇみたいな塵のいうことなんか聞いてられるかよ」
塵が、と女は言いきる。本当に路傍の石ころを見るように、いや、それ以下のようにしか見ていない。間違いなく女は楯無への興味を欠片ももっていないのだ。彼女を挟む少女と同じように。
「…………そう」
呟き、動いた。
ISの加速器を発動させ前に出ながら、突撃槍を突きこむ。通常ならば諸に当たれば即死級の一撃だが、しかし楯無の技量ならば腕一本程度で押さえることが出来る。
IS生徒会会長はIS学園において最強の存在である。例外である織斑一夏たちや教師である織斑千冬を除けば間違いなくIS学園内では彼女が最強だ。いや一夏たちでもISを使用すればあるいは凌駕できる可能性もある。
IS戦闘において彼女に匹敵するのは各国軍の上位者や各国代表でなければならないだろう。
IS学園生徒会でありロシア代表の実力とはそういうものだ。
だが、しかし。
「え……?」
「なにしてんだお前。攻撃してるつもりか?」
ISのパワーアシストを以って放たれ、音速すら超えていた刺突は女の僅か二指によって止められていた。
あり得ない。
そう、こんな現象があるはずがない。この女はISを展開していないのに。こんなことができるはずがない。ISというモノはそんなに生易しい兵器ではないのだ。たった一機で既存の戦場を塗り替える超常兵器。少なくとも現在この地球上にはIS以上の兵器は存在しない。例えパワータイプではないISである『ミステリアス・レディ』だがだとてしても、だ。一部の例外があるのみだ。
故に、この三人もまた、その例外であると楯無は悟る。
「ッーーーー!」
悟ってしまった事実に楯無が槍を引きもどそうとするが動かない。ピクリとも、しない。ISのパワーアシストを全開にしても変わらない。焦る楯無を下らないものをみるかのように、見て、
「うっとうしいなおい」
蚊を払うかのように女の手が楯無の胸を貫いた。
●
「う、あ、え」
楯無の身体が崩れる。いかな技法を持ってか、あるいは単に力任せの一撃なのか女の放ったソレは絶対防御を貫き、確実に楯無に致命を与えていた。床に倒れ、少し後にISの生命維持機能が働き彼女の命を繋ぎとめようとする。
「うわ汚ねぇ」
だが、やはり女は構う様子はない。血に濡れた自らの腕を振うだけだ。
「ま、いいか。まぁ、ここまでやったんだから、ちと早いが始めるか。……クァルトゥム」
少女のうちの片方の名前を呼ぶ。
名を呼ばれ、右にいた少女がフードを取る。
フードから紫の髪が零れおちる。腰辺りまである長い髪だ。目は鋭く細く、髪と同色のメガネ。顔立ちは鋭利であるが、
「……はぁ」
気だるげな雰囲気が全てを台無しにしている。嫌々、と言ってもいいだろう。心の底から嫌そうに、鬱鬱とため息を吐く。なにもかもに絶望してでもいるのか、目は濁り、覇気はない。
彼女を見たならば、誰もが驚愕するだろう。
その憂鬱とした雰囲気が、ではなく。
クァルトゥムと呼ばれた少女の顔が織斑千冬に酷似しているのだから。
年齢、髪形と色、雰囲気を除けば瓜二つだ。
クァルトゥムはその顔で、気だるげに、しかし、それでも腕を振りあげ、
「――――Jud.」
その手に握られていたのは黒と白の長剣。一夏たちが見れば即座に築いたであろう。その長剣の意匠が、かつて相対した暴風竜の剣砲と酷似していることに。
逆手に持ったそれを振りおろし、
「“嫌気の怠惰”」
床に突き刺し、
「――――超過駆動」
次回からバトルバトルバトルですよ。
中二成分、魔改造成分マシマシで。