狂いのストラトス Everlasting Infinite Stratos 作:柳之助@電撃銀賞5月10日発売予定
かるいジャブです
第壱話
IS学園生徒会長。
それはすなわちIS学園内で最強であるという証明だ。学園そのものが治外法権であるがために他国から生徒を護るのが生徒会長。そのために生身、ISに関わらず生徒会長、すなわち全ての生徒の長たる存在は生徒の中で最強でなければならないのだ。実際に現生徒会長は常時襲撃許可という条件の中で何度も襲撃を受けながらも撃退し、最強の座を己の物としていた。
そして、今。
そのIS学園最強の生徒会長――更識楯無は、
「……私、生徒会長止めるわ」
遠い目をしながら『辞職』という文字が書かれた扇子を机の上に置きながら、どこか遠くを眺めていた。
●
「いやいやいやいや! お待ちくださいお嬢様!」
遠い目をして、意識をどこかに飛ばしていた楯無を彼女の付き人である布仏虚が全力で叫んで、全力で止めていた。肩を掴んで、生気の抜けた瞳をした楯無の肩を揺さぶる。
「いやだってコレ見てよ」
言って、操作したのはタブレット型の携帯端末だ。そしてその液晶に移ったのは、
『ははははは!』
『あはははは!』
『――斬る』
『――Rest In Peace』
『Sieg Heil Viktoria!』
『ニンニン』
それぞれ、思い思いに爆笑したり呟いたり叫んだりしている一夏たちだった。虚と二人で少し見る。
アリーナが半壊していた。
「……」
「……」
「……私、こんなのと戦ったら五秒で死ねる自身あるわ」
「私なら一秒も持ちません」
楯無も虚も完全に画面の中の惨状に引いていた。夏休み中、ずっとどこかのアリーナを借りてこの連中が模擬戦というか死合いとかをしていたはずだが、夏休みも終わって新学期始まってからさらに苛烈さを増している気がする。というか間違いなくグレードアップしているだろう。
何故ならば、
『あ、おい箒! すぐ人の腕切断するな!』
『うるさい黙れ斬られる方が悪い』
『バランス悪いだろ!』
『ならもう一本ももぎ取って上げるわよ!』
『銃弾でめちゃくちゃというのはどうでしょう』
『いや、空間ごと抉ってやろう』
『いやいや、それよりも僕のデュノア忍法で……』
『デュノア関係ないだろ!!』
なんか恐ろしく物騒な会話しながら、シャルロットがボケて全員に突っ込まれていた。ていうか半分くらいの面子が腕やら足やら欠けている。物騒すぎる。
あと確かにデュノア家は関係ないだろう。ないと信じたい。
「……」
「……」
「……私生徒会長止めていい?」
「いいんじゃないでしょうか」
虚が折れた。
いや当然だろう。だれがあの連中を差し置いて主をIS学園最強なんて称号を持たせるのか。下手に生徒会長の意味をしって襲撃されでもしたら敵わない。
「そっかーじゃあ私これからは一生徒として学園生活するわー。具体的には部屋で炬燵にも丸くなってミカン食べる」
「あー、いいですねー。私もお供します、お嬢様。あーでもこの季節だとまだ早いですよー」
「そうねーじゃあとりあえず布団にくるまってポテチでも食べるわー、あはは」
「うふふー」
完全に現実逃避している二人である。
が、当然ながらそんな逃避も続かなかった。出来もしない夢を語る二人だが、人の夢と書いて儚いのだ。
「いやーダメだと思いますよー。かいちょーはお嬢様じゃないとー」
二人を現実に引き戻したのは間延びした声。制服を着ぐるみ状に改造した虚の妹で、楯無の幼馴染。言うまでもなく、布仏本音だ。先ほど現実から逃げる前に虚が入れた紅茶と事前に買ってあったショートケーキに舌鼓を打ちながら、
「おりむーたちに会長職なんて無理ですよー、皆やりたいことしかやらないから雑務とかできないですよー。ほらーかんちゃんと一緒でー」
「かん、ざし、ちゃん……!」
何気なく本音は発した名前に盾無が血相を変えた。お腹を押さえてうずくまる。
「う、うう……!」
「お、お嬢様ー! しっかり! しっかりしてください!」
「胃が……、胃が……」」
「お薬! お薬ですよ、お嬢様!」
虚がすぐさま楯無に胃薬をさしだす。痛みが出た時用の即効性の薬だ。錠剤タイプのそれを飲み込み、
「…………そう、ね。生徒会長の云々を置いておいて、そっちの話もしましょうか」
お腹を押さえながら、フラフラと立ち上がり。
「簪ちゃんは……簪ちゃんの専用機進めてるのかしら……?」
「いえーまったくこれぽっちもー」
「……うう……」
「お嬢様ーーー!」
まったくのためらいのない言葉に再びお腹を押さえてうずくまった。顔色が、さらに悪い。
「なんかずっと同じのというか、新しい発明品作ってるぽですけど……IS関係はまったくですねー」
夏休み中、ろくに風呂に入らずになにかしらの発明していた簪だったが、IS関係はまったく関わっていないだろう。というよりもこれまでの発明品とはまったくかけ離れたナニカを作っているようだった。
少なくとも本音には理解できなかったし、多分分るのは篠ノ之束くらいだろう。
「ああ……もう、簪ちゃん……、お願いだから打鉄弐式完成させてくれないかなぁ……。もういいかげん上の人たちから小言言われるの嫌なのよ……」
更識の家はかなりの名家だ。日本政府を支える陰の一族である。楯無もその更識家で十七代目の党首、十七代目更識楯無なのである。だからこそ、盾無は日本政府に繋がりがあり、ここ最近は、
「何時になったら打鉄弐式が完成するのか苦情が多いのよ……」
簪はあれでも日本代表候補生だ。それなのに彼女の専用機は何時まで経っても完成していない。機体自体は簪が保有しているが、
「作る気まったくないですねー」
そう、簪はアレに手を出す気はまったくないようだった。
「……どうすればいいのかしら……」
「さぁーわたしが言っても聞かないですからねぇー」
それはつまりどうしようもないという事だ。一番仲がいい本音がどうしようもできないなら、他の誰かがどうこうできることではない。例え、姉の楯無でも、だ。
「はぁ……」
ストレスで穴の空きそうなお腹を押さえながらため息を吐き、
「私も胃薬常備してようかしら……」
●
「うむ、あいつらと関わり合うならそれは必須だな」
生徒会室で交わされる会話を盗み聞きしながら千冬はしみじみと頷いた。
『いやー、あの、ちーちゃん?』
「なんだ?」
『そんなしみじみ頷いてるのはいいんだけどさぁ』
「うむ」
『なんで
「……」
そんなところ。そんなところとは、生徒会室の天上裏だ。天井裏のほんのわずかのスペースに千冬は潜んでいた。人一人は存在するのはギリギリの空間で、本来ならば、人が存在する空間でも無い。そこから下の部屋の様子を千冬は盗み聞きしていたのだ。
「更識とて、私の生徒には変わりないからな。生徒の悩みを把握しておくのも教師の務めだ」
『いや、どうしてそんな密閉スペースにいるのかが不思議なんだけど』
「いやなに、悩みを聞きたいが、それでも教師の言う前では言えないこともあるだろう。だからこうやってこんなところに潜んでいるんよ」
『へー』
サウンドオンリーのホロウィンドウだが、なぜか束が半目な気がした。何故だろう。
『そんな面倒な所に潜むの止めようよ、ちーちゃん』
「ふむ……だが、それでは更識の悩みを盗聴できないな」
『モーマンタイだよ! ちーちゃん!』
「ほう?」
『私がIS学園中に盗聴器と監視カメラ勝手にセットしてるからそれを見よう!』
「お前人の学校になにしてるんだ」
どっちもどっち、という言葉を恐らく二人は理解していない。
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