狂いのストラトス Everlasting Infinite Stratos   作:柳之助@電撃銀賞5月10日発売予定

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推奨BGM:修羅残影・黄金至高天

*.神威曼荼羅


注意、せんとうって読めよ!絶対だから!約束だぞ!

あとふざけてない、マジだ。これが魔改造だ。


第拾玖話《加筆あり》

「……やれやれ、こんなことになっているとはな」

 

「全くだよ。IS使ってればこんな大怪我にはならないのにー」

 

 両腕をなくし倒れ伏した鈴と腹に風穴が開いた一夏の目の前にその二人はいた。

 

 暴風竜が振り下ろした剣砲を五指でガッシリと掴み動きを止めさせた黒スーツ姿の織斑千冬。

 

 千冬が止めた剣砲の目の前に、一夏と鈴を庇うように立ちふさがる篠ノ之箒。剣砲と束との間は数センチもない。

 

「束、お前私が止めてなかったらどうするつもりだったんだ?」

 

「ちーちゃんが止めてくれるって信じてからねー」

 

「まったく……。ああ、束。こいつらの治療を頼む」

 

「あいあいー」

 

 嘆息する千冬に微笑む束。束は暴風竜に背を向け一夏と鈴に向く。

 

「な……たば、ねさんっ!」

 

 その動きに鈴は焦るように声を漏らす。いくらなんでもアレに対して無防備に背中を向けるとは危険すぎる。

 

「Gーーiiー」

 

 事実、剣砲を掴まれていた暴風竜がさらなる挙動を見せようとした。

 だが、

 

「黙れ」

 

 動こうとし、動きを見せる前に暴風竜の腹部に千冬の蹴りがぶち込まれた。

 轟脚一閃。

 先ほどまで無空の刃も忠義の刀も陽炎の拳も竜巻の脚も全てが傷つけることが出来なかった暴風竜の装甲。

 

「iーーーー!!」

 

 それが叩き込まれた千冬の蹴りによって粉砕される。いや、粉砕されるだけではなく海を割りながらぶっ飛んだ。

 

「束、あれの相手は私がする。こいつらの治療は任せる」

 

 それだけを言い残しながら千冬が消える。いや、消えたのではなく鈴ですら認識できない速度で暴風竜を追ったのだろう。だがどうやって移動したのか鈴は理解できなかった。いや、恐らく海面を走ったのは間違いないのだろうが、海面がまったく揺らがなかったのだ。一夏や箒でも結構勢いで水がはねるし、鈴や蘭でもそれは止められないのだが。

 

「でたらめ、な……」

 

 視界の中で水面をバウンドしていた暴風竜の直上に千冬が出現し拳を振り下ろす。果たしてどれだけの速度で放たれたのか放射線上に水蒸気が生まれ叩き込まれた暴風竜が水中へと、なすすべもなく身を落とす。馬鹿デカい水柱が立った。

 

「さて、あっちはちーちゃんに任せて……」

 

 束がパチンと指を鳴らした。音と共に魔法陣が鈴の体を覆うように砂浜に浮かんだ。それは鈴だけでなく一夏や他の仲間たちも同じだ。先の一撃で島そのものが消し飛んだらしくそこそこ大きかった島には砂や土が掻き毟られた後しかない。

 

「ふむふむ……やっぱり特に重傷なのはいっくんに鈴ちゃんか。あ、セッシーも危ないかな? 脳を酷使しすぎだね。蘭ちゃんもちょーと危ない」

 

 眉を顰めながら頷き、

 

「とりあえず応急処置」

 

 指を再び鳴らす。先ほどより少し大きい音が響いた。鈴たちの体が桃色に淡く光る。それは鈴の両腕や一夏の腹といった重傷部分が強く光っていた。重傷の所は強く光るのだろうか。離れた所にいる他の仲間たちは目が霞んでいて光の塊にしか見えなかった。

 

 応急処置と言っていたが確かに痛みが引いていき、血も止まった。

 

「鈴ちゃんの腕、新しく生やすにも義手付けるにもここじゃあやれないから今はガマンしてね。とりあえず旅館に転送するから」

 

「いち、かは……」

 

「大丈夫。治すだけだからむしろ鈴ちゃんより治療は簡単だよ。もう意識ないしね、私たちが来た時に落ちてたよ。安心したのかな? ーーま、それはいいとして……愛されてるね」

 

「……は、はい?」

 

「ふふっ」

 

 束が今度は両手をパチンと合わせる。それに伴い立体的な魔法陣が鈴や一夏の身体を覆った。

 

「二年前はどうなるかと思ったけど、大切な人を庇う。そういうことが出来る男の子になってくれてよかった」

 

 視界が光に包まれていく。それは暖かい光で、鈴の意識を沈めていく。

 

「そう、だから。だからこそ私とちーちゃんはーーーー」

 

 続きを聞く前に光が増し鈴の意識は消え、何処かへと運ばれていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……行ったか」

 

 島ーーというよりもそれらの跡地から一夏たちが消えたのを感じならがら千冬は呟いた。

  

 彼女がいたのは先の島から数キロ離れた海上だった。海上にて無手で直立する二十メートルほど先には、

 

「ーーiーー」

 

 呻きを漏らす暴風竜がいた。装甲が八割方砕かれ、翼型スラスターは左右二つとも折れている。人間ならば満身創痍、ISや機械、兵器的に言うならば大破であろう。だが、

 

「めんどうだな」

 

 それらの損傷が全てが徐々に修復されていく。先の損傷そのものに大した消費はないが、それでも自動修復というのは面倒だ。

 

 いや、自動修復云々の前にーーーー

 

『ちーちゃん』

 

「束か」

 

『いっくんたちは転送した旅館に送っておいたよ。弾くんがしばらくは看てくれると思うけど……そっちはどう?』

 

「いや…………」

 

 ため息を吐いたと同時に粗方修復された暴風竜が千冬へと突進してきた。間の距離を一瞬で詰め剣砲を千冬へと振り下ろす。大気を切り裂き、水面を破砕する一刀だった。

 

 しかし千冬はその一刀を避ける。紙一重、ギリギリの所で回避し暴風竜の後ろを取る。そのまま背中に右腕の裏拳を叩き込む。だが、

 

「Giーーーー!」

 

「……なに?」

 

 空振りした。その刹那、完全に暴風竜は千冬の感知域から逃れていた。どこにいるか、それが分かったのはさらに次の刹那。肌から感じる風が暴風竜の居場所を教えていた。それは彼女の頭部への大斬撃。

 

 即ち真後ろ。

 

 千冬が裏拳を叩き込んだ刹那、暴風竜は確実に彼女の死角へと移動していた。振り下ろされる剣砲は完全に千冬を捉え、そのまま行けば千冬の身体が縦に真っ二つになるだろう。

 

「ちっ」

 

 死角からの大斬撃。それを知覚することは出来なかった。ゆえに知覚させずに千冬は動いた。肘を支点にして腕を曲げて頭の上に持って行く。人差し指と中指は広げて、

 

「Giーーーー!?」

 

 受け止めた。

 二指真剣白羽取り。

 

 見えない死角からの攻撃ならば見ずに対応するまでというふざけた動きを千冬はやりとげた。

 剣砲を受け止めるために曲げていた右腕を伸ばした。それによって開いた暴風竜の右わき腹を蹴り飛ばす。

 

「----千冬(せんとう)裂襲脚!!」

 

 水面を割りながら吹き飛ぶ暴風竜へ、蹴りを叩き込んだ勢いで回転しながら腕を振る。

 

「千冬剣山大瀑布!」

 

 袖から弾き飛ばされたの苦無が二十数本。シャルロットばりの暗器。但し威力が桁違いだった。一本一本が音速の十数倍という破格の速度だ。

 

 だが、

 

「ほう……」

 

 漏れたのは驚愕か感嘆か。

 

 一本目の苦無が突き刺さる瞬間に暴風竜は姿を消していた。そして表れたのはまたもや千冬の背後だ。先ほどの斬撃とは違い突きだ。千冬の真後ろ、正中線への一撃。単純故に避けがたい一閃だった。一夏や鈴たちならば避けれないだろう。

 

 それでも千冬ならば避けられる。突き出された刃に身を合わせるように身体を回転させた。避けるというよりもただターンしただけの動きにも見えた。それだけの動きで死角攻撃を回避する。

 

 ターン回避により千冬と暴風竜が零距離で向き合う。トンッと軽い音と共に千冬が暴風竜に拳を添えた。軽く気を吸い、

 

「ーーーーー千冬爆裂寸剄」

 

 拳を装甲へとめり込ませた。余剰の衝撃波が海面を割砕される。背後の翼型スラスターが完全に破壊した。

 

 中国拳法、それの寸勁と言われる技術。

 

 それを打ち込み、

 

「----からの、千冬大暴投!」

 

 逆の手で暴風竜の肩を掴み投げ飛ばす。今度は掴んでも死角に回られることはなく、海の中に落ちる。

 

「悲嘆……なるほど、悲嘆から逃避。それによる攻撃回避と死角移動か」

 

 悲嘆。

 それに対する人間の負の反応は大別して二つ。

 嘆きのままに掻き毟るかーーーー目を背けて逃げるかだ。

 前者は掻き毟りの砲撃、後者は死角移動。それぞれが暴風竜の能力として顕現している。最も連続ではできないようだし、寸勁のような最初は触れるだけの打撃、投げには対応できないらしいが。

 

「まあ、面倒なのは変わらんなぁ……」

 

「いやちーちゃん、話の途中でバトル始めないでよ」

 

 いつの間にか千冬の横に束はいた。千冬のように海面に立つのではなく空中に浮いていたが。 

 

「それで、どうなの? アレ」

 

「どうもこうもーーーーっ」

 

「ーーーー」*

 

 千冬が言葉を続けようとした瞬間、暴風竜が沈んだはず海面に二人が同時に目を向ける。海面にはなんの異常はない。

 そう、海面には。

 

「あちゃー、これはマズいよマズいよ」

 

「頭痛薬頭痛薬」

 

 海面が暴風と共に爆発した。二人の眼前、大質量の海水が宙を舞う。全身びしょ濡れになりながら二人の耳にはっきりとした声が聞こえた。喚び起こる神威が二人の肌をチリチリと焼く。

 

 

 

 

 

 

 

『ーー太・極ーー   神咒神威 八大竜王・悲嘆の怠惰』

 

 

 

 

 

 

 

 全身の装甲は完全に修復されていたが、それ以上に目を引いたのはその背後。

 

「おっきーねー」

 

 巨大な竜。竜を模した機体である暴風竜ではなく、それの背後に正真正銘の巨大な竜が存在した。大きさは山を超えるほど。暴風を纏う白亜の体表。暴風竜の周囲を蜷局を巻いている。蛇のように長大な身体の所々に剣のような翼が幾つもあった。あや、剣ではないーー爪だ。万象悉くを掻き毟るための悲嘆の暴爪。

 

 それはもはや一つの異界。全てを掻き毟りたいという渇望により構成された暴風竜の本体。

 

「……八分の一のそのさらに何十分の一とはいえアイツ(・・・)の断片には変わりないということか」

 

「あーどうしようね、ちーちゃん。太極開かれると……」

 

「ああ、()の私たちではコレ倒せない」

 

 倒すわけにはいかない、と千冬は言った。

 

「Giーーgyーーaauaーー」

 

 漏れる嘆きは今までよりははっきりしているがそれでもやはり声とは言えない。

 

 ならば。

 ならば、先ほど悲嘆の理を宣言したのは()の声だったのか。 

 それを千冬は知っているのか、誰かへと向けて言葉を紡ぐ。

 

「お前は二年前から変わらないな。やはり誰よりもお前は人間らしい」

 

 目の前の悲嘆の神威ーー剥き出しの感情を前にしても千冬の顔色は変わらない。暴風竜ーーいや、その先にいる誰かを悔やむように、慈しむように、あるいは悲しみさえ感じさせる瞳で見つめる。それは束も同じだ。

 

「そうだね、■■■ちゃん。あなたは変わらない。この子を見ればわかるよ。こんな断片でも見れば分かっちゃうんだよ」

 

 千冬に続き、束もここにはいない誰かへと語りかけ、そして。

 

 

 

「変わらないさ、私は。お前たち全てを喰らい尽くすまでは」

 

 

 

 瞬間、巨竜が顎を大きく開けた。そこから放たれるのは悲嘆の掻き毟りだが、それまでとは規模が全く違う。恐らく放たれれば数十キロ単位で猛威振るうだろう。しかし、それを前にしても二人は揺るがない。いや、動揺こそしていても掻き毟りに対してではなく、先ほど聞こえた声に対して。一瞬だけ感じた■■■■■の残滓。だが、それもすぐに消え去っていた。

 

「で、どーするちーちゃん。コレ」

 

「……まあ、倒しきるのはマズいがしばらく行動不能にさせるくらいはしておいてやろう。どうせあいつらに戦わせるんだ、時間稼ぎくらいはしておいてやろう。どの道この程度倒せなければこの先話にならない」

 

「おーけー。んじゃ、その後転送するから。あとわかってるよね? 三つ……ううん、二つまでだよ」

 

「ああ。本体は私がやろう。後ろのデカブツはお前にまかせる」

 

「えーめちゃくちゃでかいじゃん」

 

「広範囲術式使えばいいだろう」

 

「うわ超正論」

 

 いつの間にか千冬の片手に剣が握られていた。刀身が緋色の片刃の長剣。それそのものには大した神格も神威もない。

 ただ、刀身に巻きつく鎖と九つの緋色の宝玉が異様なまでに不気味だった。

 

 そして束は軽くため息をつきながら、パシンと音を鳴らせて両手を合わせ、

 

契約に従い(ト・シュンボライオン) 我に従え(ディアーコネートー・モイ・ヘー)氷の女王(クリュスタリネー・バシレイア) 来れ(エピゲネーテートー) 永久の(タイオーニオン)(エレボス)永遠の氷河(ハイオーニエ・クリュスタレ)

 

 重ね合わせた両手の隙間に冷気が生じる。それは一瞬にして周囲の大気の温度を下げる氷結の波動。足元の水が音を立てて凍っていく。

 

「■■■■ 第二解放」

 

 束の冷気とともに宝玉が弾け飛び、長剣の一部が解放された。瞬間、長剣から焦熱の神威が溢れ出す。何もかも焼き焦がすという獄炎の概念の焔だ。刀身から生み出される熱で周囲の海水が蒸発していき、凍結の神威とせめぎ合う。

 

全ての(パーサイス)命ある者に(ゾーサイス)等しき死を(トン・イソン・タナトン)其は(ホス) 安らぎ也(アタラクシア)

 

 今束が謳う詠唱にて紡がれる言語は二つだ。一つは今この世において使われている言語であり、誰にでも聞き取れる言葉。そしてそれに重なる今の世の者では理解することのできない言語。まったく別の言語系統によって紡がれる旧世界の言の葉。

 その二つにより、束の掌の中に生まれたのは絶対零度という概念の結晶。それに触れたのならば凍る以外の末路は許されない。

 

 千冬は獄炎纏う長剣を振り上げ、頭上へと剣を持って行く。束もまた詠唱を最後の一節のみを残し込める神威を高めていく。

 それと同時に、

 

「Giyaaaaーーーー!」

 

 掻き毟りが放たれ、

 

「千冬焦熱大斬撃!!」

 

“終わる世界”(コズミケー・カタストロフィー)!!』

 

 

 

 焦熱と共に激痛の剣が振り下ろさ、絶対零度を生じさせる波動が全てを凍らせようとし、それに抗うかのように悲嘆の掻き毟りが激突する。

 

 

 

 


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