狂いのストラトス Everlasting Infinite Stratos   作:柳之助@電撃銀賞5月10日発売予定

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推奨BGM: .Holocaust


第拾伍話

学年別トーナメント、第一試合。各国政府関係者や研究所員、企業エージェント等、そうそうたる顔ぶれの中で、最初に火蓋が切って落とされたのは、織斑一夏&凰鈴音とラウラ・ボーデヴィッヒ&セシリア・オルコットである。一試合目から濃すぎると言わざるを得ないが、濃すぎるからこそである。

 

 不気味なくらいの静けさの中でアリーナ内に立つのは四人。言うまでもなく一夏、鈴、ラウラ、セシリアだ。当然ながらISなどという枷はなく、各々、着流し、チャイナドレス、軍服、サマードレスを纏っている。纏っているのはそれだけではないが。

 

 物理的な質量を得た殺意。

 

 それらが、観客たちを黙らせる。ISを使おうとしないことに対する野次も出ない。出すことなどできない。口の中をカラカラに渇かせながら、眼下で他愛ない雑談を交わす四人を見つめることしかできなかった。

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

「結局さあ、お前何しにIS学園来たんだよ。てっきり、千冬姉をドイツに連れて帰るつもりかと思ってたんだけどな……」

 

「まさか。あの人は誰かを導くために生きていることは貴様とて分かっているだろう。たとえ導く対象が英雄ではない凡夫だとしても、世界最強(ブリュンヒルデ)の邪魔をするなどしないし、できない。……私がここに来たのはな」

 

 一つ区切って、

 

「──私が私であること証明するためだよ」

 

「………?」

 

「わからんか、……いや、覚えていない、と言うべきか……」

 

 小さく、小さく、誰にも聞こえない音量で呟いた。

 

「それにしても、意外でしたわ」

 

「ん? なにがよ」

 

「いえ、てっきり鈴さんは一夏さんと組むことはないと思ってましたから」

 

「ああ、それねー」

 

 セシリアの言葉に鈴は手をヒラヒラと揺らし、

 

「別にタッグ組んでも殺り合えないって訳じゃないでしょ。それに千冬さんに戦うの禁止されてるじゃん、だからとっとトーナメント終わらせる。みーんな倒して、その後に殺り合えばいい話しゃない」

 

「……なんというか、相変わらずですわね」

 

「ほめ言葉として受け取っておくわ」

 

 

 なんて、殺意の中で当たり前のように言葉を交わしながら、開始の時を待つ。

 

 そして、その時が──。

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒ」

 

「』織斑一夏」

 

「凰・鈴音」

 

「セシリア・オルコット」

 

 それぞれが、己の名を名乗り、

 

「来い」

 

「行くぜ」

 

 そして、たった四人で成される戦争が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

「Panzer──、まずは小手調べだ」

 

 開始直後に誰よりも先に動いたのはラウラだ。それは小さな口の動き。それの呟きと共に、彼女の周囲に展開されたのは二十七のドイツ様式パンツァーファウスト。それに一夏たちは驚愕する。なぜならばそれらが、展開されたの空中。二十七丁の対戦車擲弾発射機が浮遊する。

 

「一応、新技だよ。AICを応用して火器を空中に固定する、無論この状態で発射可能だ」

 

 そう言いながら、一夏たちの反応を確かめるまでもなく、

 

「── Feuer 」

 

 言葉通りにパンツァーファウストが火を吹いた。それらに一夏と鈴は驚きながらも身体が勝手に反応する。無空抜刀、無空拳。二人とも同時に刀と拳を繰り出そうとし、

 

「セシリア」

 

「了解ですわ」

 

 二人が切り落とし、撃ち落とす前にセシリアが全て撃ち抜く。

 

「!」

 

 爆散する。

 かつて、鈴を包んだ爆炎よりも遥かに大きな炎が二人を包み込んだ。

 それだけでもビルの一つや二つなら壊せるだろう威力を秘めるだろうが、

 

「まあ、終わらんだろうな」

 

「当然ですわ」

 

 同時に、爆炎の花が散る。爆炎は吹き飛ばされ、晴れたそこから

 

「首飛ばしの颶風───蝿声」

 

 無数の殺意と剣気が溶け合った斬風がラウラとセシリアへと降り注ぐ。さらには、

 

「唵・摩利支曳娑婆訶―――」

 

 陽炎を宿した鈴が突っ込む。そして両手には山吹色の輝き。

   

 そして、斬風と陽炎を前にしたラウラは、

 

「───は」

 

 口許を歪めながら、息を吐く。そして眼帯を外し、

 

「やはり、こうでなくてはなぁ……!」

 

 叫び、その金色の隻眼で見た。瞬間、陽炎と斬風を含んだ空間が歪んだ。

 捻れられて、歪んでいく。

 

「……?」

 

 その歪みは視覚的には全く見えず、しかし一夏と鈴に違和感のみを与えていく。その歪みの中に身を置く鈴は言うに及ばず、圏外の一夏ですらそれを感じている。

 そして、その歪みが限界を迎えるかのように、

 

「!」

 

 鈴を巻き込み、空間ごと破裂した。

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

「んー? 魔眼かなー、アレ」

 

 観客席で本音が首を傾げながらポツリと呟いた。

 

「ふうん、本物?」

 

「多分ねー、久しぶりに見たよー」

 

 ラウラの右目に宿る本物の魔眼。

 それは、

 

「多分、視認した空間を歪めて通常の空間とのズレで空間を砕いていてるんだねー、そのせいで爆発して見えるんだよー」

 

「へぇ…………カッコいいね!」

 

「そうじゃないよねー、かんちゃん?」

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 己の右目に手を当てながら、ラウラは土煙りの中へ目を凝らす。いつでも、再び己の異能を発現出きるように。

 

 空間歪曲の魔眼。

 

 それがラウラ・ボーデヴィッヒが宿したスキルである。元々は『越界の瞳』と呼ばれる疑似ハイパーセンサーと呼ばれるナノマシン措置処理である。危険性はまったくない。不適合すらおきないはずだが、しかし越界の瞳としては発現しなかった。ただ色が金色に変わっただけ。  それに対して、ラウラ自身は、思うこともなくただそういモノだと思っていた。それは、二年前のモンド・グロッソと世界最強(ブリュンヒルデ)の導きにより、全てを歪める魔眼となった。

 

 どうしてそういう風の魔眼になっかは彼女にも不明だ。ただそういモノだと認識しているし、それでいい。

 この目は私の血肉となっているのだから。

 

「ふむ……、範囲を広めたから威力が低かったか」

 

「いや、結構危ないわよ。アンタ」

 

 土煙りが晴れた中から現れたのは無傷の鈴。

 当然だ。

 例え、空間を歪めた爆撃でも僅かでも当たらない確率があるのなら彼女を犯すことは出来はしない。

 

 その姿に苦笑しつつ、

 

「無傷でよく言う……。まぁいい、お前はどうだ? 織斑一夏?」

 

「あ? んー、空間歪めてるだがなんだか知らないけどさあ───その空間ごと斬れば問題ないよなぁ」

 

 当たり前ように一夏は呟く。

 

「というか、ラウラさん。その歪み、私の弾丸まで巻き込まないでくださいね?」

 

「知らん、跳弾でなんとかしろ」 

 

「そういうと、思いましたわ」

 

 首を振りながらセシリアは嘆息し。

 

「さて」

 

 ラウラは他の三人を見回し、

 

「───続けるぞ、英雄の舞いだ。死力を振り絞れ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 織斑一夏・凰鈴音vsラウラ・ボーデヴィッヒ・セシリア・オルコットによるタッグマッチ。その対戦カードにおいて、多くの者は二対二、コンビネーションの極致を見ることができるとると思い、しかし実際はそんなモノは見ることができなかった。変わりに見たのは───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「凶れ」

 

 小さくラウラが呟き、彼女の視界に入ったの空間が曲がっていく。

 曲がり、捻れ、凶っていく。

 それは一夏を中心としているが、技の性質上どうしてもある程度範囲が必要とされる。故に歪みが臨界を超えて空間が破裂し、一夏だけでなく鈴も飲み込み──セシリアですら歪曲の破砕を受けた。

 

「蝿声ェ!!」

 

 叫びと共に破砕の余波を被ったセシリアへと一夏が無数の殺意の斬風を放つ。自身も破砕を受けたがその程度で怯むほどの正気など持ち合わせていない。斬風はセシリアへと降り注ぎ、彼女を刻み込み、また彼女に距離を詰めていた鈴すらも等しく刻んでいく。すでに高嶺の位置に存在し、セシリアの弾丸を受け流していたがその舞いの性質として、自分か惚れた男の斬風を受け流すことはできない。

 刻まれ、その鈴に、

 

「レスト・イン・ピース」

 

 差し出されるようにセシリアの右手からピースメーカーの弾丸が吐き出される。

 さらに左手には機関銃。鈴は世界からズレた弾丸は無理に体を捻ってよけるが物理的な弾丸は避けれない。否、避ける必要がないのだ。惚れた男の斬風でもなく、世界からズレた弾丸でもないただの鉛玉は高嶺の花に届くことはない。変わりに一夏とラウラへと注がれて、二人の体を穿つ。それを大して見届けずに刹那の間も開けずに鈴にさらに理外の弾丸を放とうとするが、

 

「陀羅尼──孔雀王!」

 

 大地へと拳を叩き落とした。莫大な生命力である山吹色の陽炎を纏ったそれにより、局地的な地震どころか地割れが起きる。 衝撃波がセシリアだけでなく、他の二人にも襲う。単純な一撃故に防ぐことはできない。 

 

 一瞬、四人が四人とも動き止まる。

 止まり。

 

「凶れ」

 

「首飛ばしの颶風──蝿声」

 

安らかにお眠りください(レスト・イン・ピース)

 

「陀羅尼孔雀王……!」

 

 歪曲が、斬風が、魔弾が、陽炎が。

 アリーナを蹂躙する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「く」

 

 ラウラは血にまみれながらも、笑っていた。迫りくるのは殺意の刃。光速を宿すそれをしかし、ラウラは回避する。

 

 これは、ラウラが織斑千冬のように全身を光速で駆動させているわけではない。タネは勿論歪曲の魔眼だ。自分の周囲、或いは一夏の周囲に極小の歪曲を展開する。小さすぎるゆえにそれ自体では破砕を生み出すことは出来ないが、

 

「振りにくいだろう?」

 

「全くだな!」

 

 一夏の刃に触れ、それだけでは意味のない極小の歪みもほんの僅かだけ速度を落とし、或いは軌道を変える。それである程度は軌道が読めるのだ。無論変えられたら軌道はランダムだからもし少しでも読みを誤れば文字通り光の速さでラウラを断ち切るだろう。

 

 だか、それがどうした。そんなことに構っている余裕はないし、構うつもりもない。笑みを抑えることができない。極小の歪みはラウラ自身も犯すのにだ。

 

「ク、ク、ハハハハハハハハハハ!」

 

「楽しそうだな、オイ!」

 

「楽しいさ! 楽しくて愉しくてたまらない! 最高に愉快だよ! 貴様はどうだ、織斑一夏!?」

 

「聞くなよ、そんなこと!」

 

 瞬間、一夏から殺意が消える。

 

 『無空抜刀・零刹那 参式』。

 

 全く同時に全く同じ箇所に放たれる無殺意、無拍子、無意識の九閃。

 

 それがラウラの体を斬り裂きくが、それにラウラは怯むまずに、

 

「──凶り狂え」

 

 空間が狂う。軋みを上げ、世界がイカレていく。 

 それに一夏は咄嗟に斬撃の結界を展開するも、

 

「ガア……!」

 

 左肩が抉れた。

 だが、

 

「くっ……!」

 

 ラウラも九閃をモロに受けて、肩から脇腹にかけて痛々しい傷を受ける。

 さらには、

 

「!」

 

 二人を覆うように弾丸が降り注ぐ。セシリアによる跳弾瀑布。

 それを急所のみを守り対処するが、

 

「陀羅尼孔雀王!」

 

 二人の中央に鈴が落ちてきて、陽炎を灯した拳を振り下ろした。それにより、一夏とラウラがぶっ飛んぶ。

 

「二人だけで盛り上がってんじゃないわよ」

 

「全くですわ。一応タッグマッチということになってますのよ?」

 

 二人の文句に飛ばされた二人は即座に姿勢を立て直しながらも、

 

「いやいや、今更タッグマッチとか……」

 

「そうだな。バトルロワイアルだろう、コレは。最後に立っていた者のペアの勝ちでいいではないか」

 

「そうそう」

 

「なに便乗してんのよ」

 

「情けないですわよ、一夏さん」

 

「ぐぬぅ……」

 

 言葉を詰まらせた一夏とそれを責める鈴とセシリアにラウラが苦笑し、

 

「──────────────────────────────────────────────え?」

 

 彼女の瞳から、光が消えた。

 

 

 

 

 

 


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