狂いのストラトス Everlasting Infinite Stratos 作:柳之助@電撃銀賞5月10日発売予定
転校生が来る。
しかも二人。
ある日、朝のホームルームで山田教諭がそう言った時の反応は人それぞれ……というわけではなかった。
反応は三種類。
即ち、時期の半端さに訝しむか、純粋に新しい仲間を歓迎するか、である。
もっともその訝しむ者も不思議がるというだけで、転校生自体に疎んでいたわけでない所は皆人間できていると言えるだろう。
………一部の変態のせいで順応性が極まっているからかもしれないが。
因みにあと一種類に関しては、某侍はまた覚える名前が増えるのかと顔をしかめていた(覚えようとするあたり、某抜刀術士少年の更正プログラムの効果が伺える)。
少なくとも、よっぽどの存在が来なければ受け入れることが出きるだろう。
残念ながら、その転校生二人はそのよっぽどの人種だったのだが。
・・・・・・・・・・・・
真耶に促され入ってきた転校生のに対し皆が一様に抱いた印象は、銀色である。腰近くまで無造作に延ばされた銀色の長髪。アンティークドールめいた整った顔立ち。 それの左目に付けられたら物々しい眼帯。医療用などではなく、明らかにガチ。かなり小柄だが、纏う雰囲気は氷の如く。どう見ても軍人にしか見えなかった。改造自由な制服をわざわざズボンにし、ロングブーツを履いているあたり徹底していた。
彼女は教卓から一人分開けて、
「………………」
彼女は腕組みをし、開いている真紅の左眼でクラスを見渡す。一通り見渡し、ある一点で止まる。
それは、
「あら、ラウラさん?」
「セシリア……か?」
セシリア・オルコットだった。紅眼と紫眼が交わる。クラスの視線が二人集中する。
「知り合いか?」
「はっ! 半年前の英独合同軍事演習以来であります!」
「ええ、まぁ。私英国軍から銃火器の類を試供品やら廃棄品なんかを貰っている関係で軍に出入りしてるんですが、その関係で」
なにしてるんだ、
全員が思った。
千冬は頭痛が始まりそうだなぁ、と思いつつ、
「そうか……あとボーデヴィッヒ、その敬礼は止めろ。それから挨拶だ」
「は! 教官!」
姿勢良く返事しつつ、
「ラウラ・ボーデヴィッヒだ」
「…………………終わりか?」
「はい、教官」
「……あー、ボーデヴィッヒ。ここは学園だ、私は教官ではないし、お前は生徒だ。織斑先生と呼ぶように。敬礼も、その軍隊ぽい返事も無しだ」
「
「ドイツ語で言ってもダメだ」
(仲良さそうだなぁ)
全員が思った。
一夏はなんとなく、一年前に千冬がドイツに軍隊教官に行っていたからその時に知りあったのかなぁ、二人を見ていたら。
「…………………」
視線が合った。視線が合って──────一瞬、ほんの刹那。
一秒にも満たないその瞬間に、
「………っ」
叩きつけられたのは殺気。殺意はなく、純粋な殺気。 一夏だけに叩きつけられたそれを気づいたのは者はいなかったし、セシリアや箒ですら違和感程度しか感じなかった。千冬だけは敏感に感じとって、頭痛を増していたが。それは本当に一瞬で、一夏が反応して刀に手をかける前にソレは消えた。
「……………」
口元に浮かんだ笑みの意味は。一夏が睨み付けるも意に介さず、勝手に開いている席に付く。
「……………はぁ」
千冬が額を抑えながらため息を付いた。
(ああ………)
と、殆どの生徒が同情めいたというか、自分たちには分からない何かおきたんだなぁという、半ば諦めに似た悟りをクラスの皆が感じ(当然ながら変態共は除く)、
「………そういえば、もう一人は?」
誰かが言った。
・・・・・・・・・・
「は?」
「はい?」
「……………?」
「んー?」
その誰かの言葉に、一夏とセシリアと箒、本音は首を傾げた。
何を言っているのか、と。
「………ふむ」
ラウラはその4人に感心したように目を細め、
そして千冬は、
「…………………………」
わかっていたことだけれど、後回しにしていた事に頭痛が酷くなることに気が滅入りつつ、
「気配紛らすの止めろ」
「あイタ」
教卓の隣にずっといた金髪の男子に出席簿を軽く振り下ろした。
・・・・・・・・・
「………………!?」
彼女たちは突然現れた少年に驚愕した。
否、現れたというのは正確ではない。
彼はずっとそこにいたのだ。
そこにいたのにどういうわけか、気づかなかったのだ。
本当にそこにいたかどうかは正直自分たちにはわからないけれど、織斑一夏や篠ノ之箒にセシリア・オルコット、布仏本音が気づいていたらしいから、そこにいたのだろう。
入学して2ヶ月。
この連中の異常さには最早突っ込むのもバカらしい。
だから、認識不能だったの存在にほんの一瞬驚くことはあっても意外と復帰は早かった。
「男の、子…………?」
そう、彼は男だった。人懐っこそうな笑みを浮かべた中性的な顔立ち。黄金色に束ねられた長髪。華奢だが、スマートな体型。ともすれば女性に見えないこともないが、骨格等は男のソレである。
「シャルル・デュノアです。フランスから来ました。日本のことは好きで勉強してきましたが、偏っているかもしれないので皆さんよろしくお願いします」
あっけにとられるクラスへと浮かべられるのは爽やか笑み。
貴公子然とした微笑。
「お、男……?」
「はい、こちらに僕と同じ境遇の方がいると聞いて本国より転入を───」
「──────っ」
その瞬間、それまでの事、認識できなかったとか忘れて。
「……………………!」
十代女子としての欲望が爆発した。
・・・・・・・・・・・・
一時間目、第二グラウンドにて。一年一組と二組の合同授業が行われようとしていた。
「イーチーカー!」
「おわっ!」
授業が始まる前、全員がISスーツに着替えて集合し切るまでには少し時間がある。その間を惜しむように鈴は一夏に飛びついた。首に手を回し、身長差故にぶら下がる形になる。
「ちょっ、お前離れろよ!」
「いーじゃないの、照れない照れない」
「そういうわけじゃあ──」
「あ、離れて欲しかったらサインね」
「しねーよ!」
「なら離れないからー」
首に腕を絡めて離れない鈴をどうにかして落とそうとする一夏。しかし、鈴がガッチリホールドしているから、突き放そうとするその動きはただその場で回っているだけだ。
その漫才とも見れる二人の遣り取りはもう周囲から生暖かい目で見守られていた。入学より2ヶ月。最早、お約束ともいえる二人の姿。今更、誰も動じない。
………………たとえ、鈴が飛びついたのが前からで、端から見れば抱きしめあってるようにしか見えなくても。
「ほらほら、このままか、サイン選びなさいー」
「ええい、転校生いるだから少しは自重しろ!」
周囲の生暖かい視線には気づかずに、シャルルとラウラに目を向ける。
ラウラは、
「…………」
セシリアと会話しながらも、時折真紅の隻眼でこちらを見つめているもその眼から感情は読み取れない。セシリア以外に周りに人がいないのは彼女の持つ雰囲気が鋭すぎるせいか。
そして、
「………………」
もう一人の転校生、シャルルはといえば。一人きりで興味深かそうに自分たちを眺めていた。
一人、である。
周囲に人がいない訳ではない。彼の周りにもかかわらず何人かいるし、別にシャルルも遠ざかろうとしているわけではない。ただ、シャルルに気づいていないだけなのだ。
「………何よ、アレ」
一夏の視線を辿って、シャルルに気づいた鈴が呟いた。
周りに人がいるのに誰にも気づかれていないシャルルを見て、
「………根暗?」
「コラコラ」
酷いこと言う。
「恥ずかしがりやなだけだろ、あんま触れてやるなよ」
「そんなレベルじゃないでしょうが……」
確かに、完全に周囲と気配を同化させるその隠密スキルは見事の一言だ。ソレのおかげで、教室からの移動で一夏以外のIS男性操縦者に食いついた女子たちをスルーできたのだし。
と、そうやって。
いい加減一夏が鈴から伝わる体の柔らかさに無視できなくなりだしたあたりで、
「いつまで、いちゃついているそこのバカップル。さっさと並べ」
千冬が現れた。
・・・・・・・・・・・
「さて、今日は実戦訓練をしてもらう………………すぐはじめられる専用機持ちにやってもらうつもりだが」
千冬は眉をひそめて、一夏を含めた専用機持ちを見定めていた。一夏にはわかるがあれは困ってる様子だ。
「……………………そう、だな。うむ」
「はいはーい! 悩んでいるなら私と一夏で!」
鈴が手を上げて叫んだ。
元気いいなぁ。
「って、何言ってんだよ! 勝手に決めるな!」
「えー? いいじゃない」
鈴は頬を膨らませた。
が、その後に人差し指を唇に添えて、上目使いで、
「───────しよ?」
「───────────────────────ちっふゆ姉ぇー!」
「織斑先生と言わんか」
「ぐぇっ!」
ズバーンという、周りが引くくらい大きな音が鳴った。首自体も変な音をならし、余りの威力に一夏の身体が錐揉みしてぶっ飛ぶ。空中を少し飛んで、地面に激突。薄いISスーツ故に地面とモロに接触し、大根おろしの気分を味わう。
だが、しかしそれでも一夏は文句はなかった。もし仮に、あそこで何もなかったらイロイロ大変だった。
……………男の子として。
どうも、あの黄昏の約束以来、なんというか……………困る。
いや、今までも困っていたがなんか違うのだ。
とりあえず、なんとか心を落ち着かせて顔を上げれば、
「……………………」
「……………………」
なんか、ラウラに虫を見るような目で見られた。
そんな一夏は無視されて話しは進む。
「というか鳳、何を勘違いしている。お前たち同士が戦うのではない」
「へ?」
「戦うのは─────」
「ああああーっ! ど、どいてくださいー!」
と、会話をしていた千冬と鈴の間に落ちるよう突っ込んできた───というよりも本当に落ちてきたのは、
「う、う、うううう……………」
地面に激突した痛みに呻く真耶で、つまり。
「戦うのは………まぁ、山田先生だ」
「……………大丈夫か?」
ぼそっと、箒が呟いた。
・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・
なんとかリカバリした真耶と結局自己申告で鈴が模擬戦する事となり、二人が空に上がる。そして、二人の戦闘が開始して、
「…………スゴい」
誰かが呟いた。それは一夏や箒、セシリアだって同じ思いだったし、ラウラでさえ驚くように目を細めた。
正直、誰もが真耶が簡単に負けると思っていた。生身での戦闘力なら圧倒的に鈴が上なのはわかりきっている。だから、誰もが真耶の敗北を予想し、しかし、すぐにその予想は覆された。
『やるわねぇ、先生!』
『これでも、代表候補生だったので!』
驚くことに二人は互角だったのだ。真耶の戦闘力が鈴の予想を大幅に上まっていることもあるが、なによりも、特筆すべきはその巧さだ。
強いではなく巧い。
真耶は鈴に近接させないことに専念していた。近づいて、白兵戦になれば自分の方が大きく劣るのはわかっている。だから、近づかないし近づけさせない。アサルトライフルやバズーカ、ハンドガン、グレネード。遠距離武装を駆使して、鈴と距離を取る。
それらは殆どが鈴の『双天牙月』にたたき落とされるが幾つかは通って、『甲龍』のシールドエネルギーを削っていく。
生身の強さイコールISでの強さではない。
それらの動きを地上から眺め千冬は、
「……デュノア」
「あ、はい」
「……!?」
その場の殆どの生徒がそこで初めてシャルルに気づいた。二人目の男性IS操縦者に群がりたい気持ちを少女たちは覚えるが、千冬がいるので我慢。
とりあえず、ガン見に抑える。
「折角だ、山田先生が使っているISについてできる限り解説してみろ」
「……できる限り、ですか?」
「ああ、それで構わんよ」
「えっとなら、アレはデュノア社製『ラファール・リヴァイヴ』です」
「うむ、続けろ」
「……………え?」
「……………ん?」
「………………………ああ、それでですね」
「………うむ」
「緑色で渋いですよね」
「……………………………………………」
「……………………………………………」
それでいいのか、デュノア社。
結局、セシリアと本音、それをラウラが補足するように解説した。
因みに模擬戦自体はそれから五分ほど続けて引き分けに終わった。