魔法科高校の劣等生~世界最強のアンチェイン~   作:國靜 繋

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大越紛争に参加させると言いながらまだそこまで行けませんでした。
すみませんでした……
そして、多くの意見ありがとうございました!!


ゴミ掃除は忘れずに

大漢が併合され、一年がたった。

終夜は十六歳となり、深夜と真夜は十四歳となった。

大漢を実質攻め滅ぼした終夜たちは、帰って早々謹慎を言い渡された。

そもそも謹慎を言い渡されていながら、抜け出した終夜は一年間本宅の敷居から出してもらえなかった。

深夜と真夜は一週間で済んだらしい。

何だ、この差別!!、と密かに思ったりした、終夜だった。

終夜が謹慎されている間にも世界情勢は動き、抵抗する機能が瓦解している大漢に大亜細亜連合が攻め込み半年もかからず降伏したのは、記憶に新しいことだ。

むしろ抵抗する機能が瓦解している中粘ったことには、純粋に賞賛に値すると思っている。

大亜連合としては戦費に無駄な支出が増え、死にたいとなっている大漢の復興作業などで更に支出が増え、踏んだり蹴ったり状態となった。

第三次世界大戦自体も世界各国で人が死に過ぎ、九十億人近く居た人間が現在では三十億と全盛期の三分の一まで落ち込んでいる。

これによって、各国の軍の人材不足の加速化が進み、戦争の継続力が低下してきている。

この様子では、早くて半年遅くても一年後には終戦するだろうという意見が出始めている。

 

日本国内でもいろいろと情勢が変わった。

切っ掛けは、矢張り終夜たちだ。

たった三人で大漢を滅ぼしたといっても過言ではない戦績を叩きだしたと言うのもあるが、当時の日本と大漢とは軍事同盟を結んでいた間柄だった。

その同盟相手を日本の魔法師社会でも名家と言える家の出身者が滅ぼしたというのは国際社会上好ましいことではない。

しかし既に事が終わった後であり、尚且つUSNAと条約を結んでしまった家を目に見える形であろうと見えない形で在ろうと制裁行為をするということは、USNAを敵に回すことになる。

それは、日本としては好ましくはないが、それで納得しないと言うのが人間と言うものだ。

とりわけ政治家は、己の利権が侵されることには敏感だ。

今回の事件で利権を侵害された者と、反魔法師運動を助長させている政治家などが徒党を組んでしまったのだ。

特に政治家たちの中には、少年少女交流会に行く様にと催促した者達も含まれていた。

終夜たちが大漢に攻め入っている間に四葉の方でも独自に調べていくうちに、その政治家たちが大漢からいろいろと賄賂を貰う代わりに日本の魔法師を渡すということになっていた。

しかしそのことを十師族が許すはずがないのは誰にでも思いつくことであり、そのために少年少女交流会と言う名目で日本の方から十師族を送り込み、その時失踪に見せかけて誘拐する手はずだったらしい。

だがその目論見は終夜によって阻まれ、挙句国が崩壊するに至ったのだ。

この事だけは、政治家たちにとっても予想外だった。

いくら魔法師として強かろうと、それは戦時の戦略規模がせいぜいで一個人で一国家を崩壊させる規模だと誰が想像できようか。

そのことをネタに、自党内で勢力を大きく削がれた大物政治家もいたほどだ。

そんな者達が現在、とある場所に一同に会していた。

 

「よく集まってくれた、同志諸君」

 

スーツでキッチリと決めた壮年の男性が立ち上がって言った。

 

「さて、本来なら長々と集まってもらった理由を言わないといけないのだが、ここに集まってもらった者達は既に察しがついていると信じ、直ぐに本題に入りたいが構わないかね」

 

壮年の男性が、集まった者達を見渡し問題ないと判断するとすぐさま本題に入った。

議題はもちろん魔法師、それもとりわけ十師族の四葉家についてだ。

 

「そもそも魔法師は兵器だ、それは我等とて理解している。しかしそれを持っているのは個人だ。兵器を個人の自由意思で振るわれるべきではない」

 

「その意見には賛成しますが、人道派がいます。その派閥が在る限り、兵器として監禁するなり薬物漬けで洗脳するのは厳しいかと」

 

「確かにそうだな。だが、魔法師の殆どは見目麗しいものばかりではないか。そこを利用すれば人道派に付け入ることができると思うが?」

 

この場に集まっている者達は次々と意見を出した。

大漢の件で失脚した者達だが、その件がなければ未だにヘドロのように悪臭漂い、濁りきった政界を生きていただろう者達だ。

保身や危機管理は、一般人より大きく上回っている。

それで尚、失脚したのはあの事件が、あまりにも荒唐無稽で予想外過ぎただけだ。

 

「しかし四葉はあの事件以来警戒しています。そう、上手くいくでしょうか?」

 

「なに、魔法師と雖も、キャストジャミングの前ではただの人よ」

 

「なるほど」

 

あくどい顔をしながらそこから生まれる利益、利権を男たちは換算し始めた。

上手くやればまた、あの地位に舞戻れる。

誰もがそう思った。

 

「そうなるとアンティナイトですが、あれは軍事物資です。昔の我等ならばともかく今の我等では入手は到底不可能では?」

 

「そのために我らが居るのでしょう?」

 

「そうだとも、そのために君たちを招き入れたのだから」

 

「分かっていますとも」

 

お互いが、信頼し合っているのではなく利用し合う間からであることは、この場にいる全員が分かり切っている。

それだけ、現状の流れがお互いに好ましくない方へと向かっているのだ。

 

「既に我らはとある国と渡りをつなぐことに成功しており、アンティナイトを幾つか融通してくれることになっています」

 

「それは真か!!」

 

「ええ、しかし相手側もいくつか要求がありまして……」

 

利権を侵害されて尚、己の持ち得るコネクションを使い、渡りをつけた男は、言い辛そうにしていた。

 

「……何を要求されたのだ?」

 

「日本の持つ最新の魔法研究、その研究資料です」

 

「なっ!!」

 

最新の魔法研究、それが漏えいすることは国防の低下に直結している。

そのことは、この場にいる者達全員が理解している。

いくら魔法師のことを兵器としか見ていない者達でも、最新兵器の機密情報をばらしても大丈夫だと楽観視するほどの馬鹿共ではない。

むしろ己の保身にたけているからこそ、研究資料を渡したら最後二度と己が利権を手にすることの出来る立場に舞戻れないと理解できているのだ。

 

「それはあまりにも「いや、渡そう」」

 

国防に携わった事のある政治家が反論しようとしたが、場をまとめている壮年の男が割り込み、資料を渡すと言い切った。

そのことに、場は一瞬沈黙した。

 

「しかしそれでは、国防上の問題が」

 

「構わん、現在の資料など微々たるものだ。大局的な見地からすればまだ傷が浅く済む」

 

「……分かりました。貴方がそこまで言うならば従いましょう。ですが、その資料を閲覧するにしては、現在の私達の権限では」

 

「それならば、問題はない。何の為に今まで我々が懸命になってコネクションの意地をしてきたと思っている」

 

「まさか!!」

 

「この場にいるだけあって、察しが良いな。そうとも既に魔法協会内部に内通者を作ってある」

 

壮年の男の言葉に、この場の全員が驚いた。

特に魔法協会内部に内通者を作り上げるのは、生半可なものではない。

魔法協会は、十師族の支配下にあるといっても過言ではない。

そして、その十師族を裏切るということは、自国の魔法師を全て的に回すのと同義だ。

そんな自殺行為、ドが付くマゾヒストでもしないことだ。

それでもなお裏切るということは、裏切るだけの価値があると言うことになる。

 

「さすがですね」

 

「では、私は相手側に連絡を入れておきます」

 

「頼んだぞ」

 

後は計画を密に練り上げ、魔法師という兵器を鹵獲するだけだとこの場にいる誰もが思った。

特に鹵獲した魔法師、それも女の魔法師の体をどのように犯してくれようかと考えていた。

しかし、こう言った事はえてして上手くいかないものだ。

 

「やっぱりまだ諦めていなかったのか。いや、諦めきれていないだけか」

 

「誰だ!!」

 

この場に集まっている者達が声のした方を見るとそこには、この場の誰もが恨み、妬み、恐怖する存在。

四葉終夜が居た――

 

 

 

 

 

 

 

 

ここで少し時間は遡る。

 

「兄さん、やっと謹慎が解けたのですね」

 

「一年はいくらなんでも長すぎだとお父様に進言したのですが……」

 

「まあ、それだけのことをしでかしたからね、仕方ないとしか言いようがないよ」

 

終夜は、深夜と真夜の頭を撫でながら言った。

二人とも十四歳と兄離れしないといけない年頃なのだが、未だ二人とも終夜にベッタリだ。

特に真夜を救出してからは、時間が許す限り、それこそ寝る時も終夜と一緒にいるほどだ。

流石に風呂はもう恥ずかしいらしい。

若干残念だったりする終夜だった。

 

「それにしても今からどこかに出かけられるのですか?」

 

「なんでだい?」

 

「使用人が車を入り口に回していましたから」

 

「そこで、父さんが出かけるとは考えなかったのか?」

 

「今日、お父様は家で誰かと会う約束があると言っておりましたから」

 

「そうなると、母さんはあまり出かけるような人ではないから、そうなると必然的に俺になるな」

 

いやはや、参ったなと頭を掻きながら終夜は思った。

今回のことは、終夜が内密に進めていたことで、深夜や真夜を捲き込むつもりはなかった。

そもそもこれだけは、終夜自身が片付けないといけない問題であり、自身でケリを付けて初めて真夜の誘拐事件が、終夜の中でようやく終わるのだ。

 

「まあ、ちょっとばかし用事がね」

 

「私達も着いて行くことは出来ないですか?」

 

「邪魔は致しません!!」

 

懇願してくる二人を突き放せるほど終夜は非道ではない。

むしろシスコン度数が高すぎる終夜が、断るはずがない……普段なら。

 

「ごめんな、今回だけはどうしても連れて行くことが出来ないな。帰ってから相手をしてあげるから」

 

優しげな表情で二人の頭を撫でた終夜は、そのまま本宅から出ると、使用人が車の前で待っていた。

 

「よろしかったのですか?」

 

「構わん、それより行くぞ」

 

使用人が開けてくれたドアから乗り込んだ。

使用人も終夜が乗り込んだドアを閉めると、すぐさま運転席に乗り込み出発させた。

目的地は、もちろん徒党を組んで自分の権威を復活させよとしている者達の集まっている場所であり、目的はゴミ掃除だ。

 

「それよりも頼んでいた情報はそろっているのか?」

 

「ええ、こちらに。そして今日秘密裏に集会を開くのは確実です」

 

「分かった。しかしこれだけまだ残っていたとは……」

 

使用人から渡されて資料をざっと見た終夜は、ため息を吐いた。

資料に乗っていた人物たちは、国の癌になり得る存在であり、暗殺対象でもあった。

しかし名前が有名すぎるがためだけに、未だに生き残れてきたという事実もある者達だ。

だが、終夜にそんなことは関係ない。

また深夜と真夜が危険にさらされることに比べたら、奴らの命の方が軽いに決まっている。

命は平等だとほざく奴らもいるが、本当に平等であるなら、何故今この瞬間快適な空間で快適な生活を送っている者と、この瞬間にも命を落とそうとしている悪環境で生活を送っている者とが居るのだと、そう言いたいものだ。

 

 

 

 

 

暫く資料に目を通していると、目的地へと着いた。

一見ありふれたビルに見えるが、中はそうではない。

妖精の眼で見ると中には幾重にも警戒網が敷かれており、集会のあっている所まで行くのに誰にも見つからずに、というのは不可能の様だ。

それがただの魔法師だったら、の話だ。

 

「では、三十分で戻る」

 

「分かりました」

 

そう言うと終夜は普通にビルの中へと入って行った。

ビルの中の内装は至って普通の様だ。

まあ、監視カメラが異常に多いくらいか。

しかし監視カメラなど、光を屈折させるだけで自身の姿を隠せる。

ゆっくりとした足取りで、進んでいく終夜。

時折警備をしている者とすれ違うが、奴らは一切終夜のことを妖しい奴だと認識できずスルーしていた。

系統外魔法で、視覚と聴覚を終夜に掌握されていては、それも仕方ないことだと思う。

思ったよりも簡単だったことに内心終夜は呆れていた。

いくら魔法師が嫌いだからといって、警備にさえ魔法師を利用しないとは頭がとうとういかれたのかと思ってしまうほどだ。

あっさりと目的地に来てしまった終夜は、中から漏れる言葉に内心呆れていた。

この国の魔法研究の成果である資料を渡すと言う事の重要性を、腐り切っても元は政治家理解していると思うが、それに何が大局的に見てだ、ミクロの視点からやっと一般人の視点に映った程度の視点で何が分かると言うのだ。

それで、さすがと思っている奴らも奴らだ。

呆れ切った様子で、終夜は扉を静かに分解し中に入った。

 

「やっぱりまだ諦めていなかったのか。いや、諦めきれていないだけか」

 

「誰だ!!」

 

集会に集まっていた者達は、一斉にこちらを見て来て、人の顔を見るなり顔色を真っ青にした。

失礼だと思わないのだろうかと、内心イラッとした。

 

「ああ、その表情でお前らが、俺が誰か察しがついたということが分かったよ。さて、さっさと済ませるか」

 

右手を前に出し魔法を発動した。

それだけで、この場を取り仕切りまとめていた壮年の男が爆散した。

飛び散る血飛沫が付着したことで、改めて現実を認識した者達は一斉に逃げ出した。

といっても、出入り口は終夜が塞いでいる場所ともしもの為に用意されていた隠し扉だけだ。

必然的に隠し扉の方へと一斉に逃げ出した。

 

「くそ、開かない!!」

 

扉をガシャガシャとノブを回し押したり引いたりするが、ビクともせず背後から迫る明確な死に全員が焦っていた。

一人、また一人と背後で爆散あるいは、押しつぶされ、燃やされ、凍てつかされ、分解される、お互いを利用し合うだけの関係だった、建前上は同志であった者たち。

 

「ったく、大人しく殺されてくれたら此方とて楽なのだけどね」

 

最後の一人を終夜はあっさりと潰した終夜は、一切の感情を感じさせない無表情でいた。

人を殺したという罪悪感は、真夜を救出したその日に失った、というよりかは切り捨てたと言うべきだろう。

 

「さて、あとは資料を回収するだけか」

 

この場に集まっていた者達の個人端末から全データを抜き出した終夜は、このビルを後にした。

後は、このビルの中にいる警備にあたっていた者達の抹殺だ。

それは、大漢に攻め入る時にも使った割と建物内にいる者達を抹殺するのに便利な魔法。

加重・収束魔法の大規模魔法により、建物全体の酸素の分圧と酸素濃度を過剰なまでにあげることによる毒殺。

中にいる者達は、激しい痙攣を発症しもがき助けを求めるが、誰もがその状態に陥った状態では助けを求めることなど不可能だ。

一人、また一人と意識を失いそのまま絶命した。

 

「時間ピッタリでございます、終夜様」

 

「当たり前だ。さ、帰るぞ。このまま遅くなったら深夜と真夜に怒られるからな」

 

苦笑い気味に終夜はそう言った。

 




アンケートは、活動報告に載せますので、そちらを見て下さい。
組み合わせが良いかは、メッセージにでも送ってください。



そして、次は、次こそは大越紛争について書きたいと思う。
その前に深夜と司波龍郎氏との結婚があるんだけど、結婚させたくないな。
籍入れだけさせて別居させるべきかな……
そうなると達也達生まれないしな。
次の話間違いなくその辺りも絡んで、更新遅くなりそうです

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